健康情報: 黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう) の 効能・効果 と 副作用

2015年6月16日火曜日

黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.58 諸熱性病・諸神経症・諸出血・皮膚瘙痒症(虚熱証)
14.黄連阿膠湯(おうれんあぎょうとう) 〔傷寒論〕
     黄連三・〇 黄芩二・〇 芍薬二・五 阿膠三・〇 卵黄一個


 阿膠・卵黄以径e三味を水六〇〇ccに入れ、三〇〇ccに煎じ、滓を去り、阿膠を入れて再び火にのせて溶かし、少し冷えてから卵黄一個を入れてかきまぜ、三回に分服する。

応用〕 少陰病の位にあるもので虚証に属し、内熱があって、体液枯燥し、熱は心胸に迫り、心胸中煩えて(胸苦しい)眠れず、臥することを得ずというものに用いる。
 主として虚候を帯びた熱性疾患、すなわち肺炎・チフス・麻疹・猩紅熱・丹毒・脳出血・脳膜炎などで、煩躁・不眠・譫妄せんもうなどあるもの、神経性疾患として、ヒステリー・ノイローゼ・高血圧症・精神分裂症・狂躁等のあるものに用いる。
 また鼻血・吐血・咯血・眼出血・痔出血・血尿等で心煩(胸苦しい)をともなっているもの、大腸炎・赤痢・直腸潰瘍等で下痢心煩・便に膿血を下すもの等に応用され、さらに小便淋瀝して、小便が熱く感じるもの、皮膚瘙痒症・乾癬・皮膚炎等で夜も眠れぬほど猛烈に痒く、患部は赤く、乾燥気味のもの等に転用される。

目標〕 血煩により心中煩して眠ることを得ず、不眠・煩躁・顔面紅潮・興奮・心悸亢進・頭重・のぼせ・胸苦しく熱感等を訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。
 傷寒論釈は少陰病篇にあるが、少陰病に似たもので、実際には瀉心湯の虚したものである。

方解〕 少陰病の瀉心湯と呼ばれているが、大黄黄連瀉心湯の虚したものである。黄連・黄芩は瀉心湯の基礎になるもので、そのうち大黄はなく、その反対の芍薬と卵黄を加え、血燥を潤す阿膠がある。血熱で、体力は虚証を呈している。
 後世方の中で寿世保元の麻疹門に、二仙湯という処方がある。これは黄芩と芍薬の二味から成り、虚証の児が麻疹で、発疹後、急に発疹が消失し、いわゆる麻疹内攻を起こし、肺炎様症状または脳症状を発して今にも死にそうな重篤症状を呈したとき、これを救うものである。
芍薬は悪血を散じ、臓腑の気をめぐらし、また邪気による血液の渋帯をめぐらすものである。内攻によって邪気胸内に鬱滞し、肺炎様症状を起こしたものを治すものであろう。
 黄芩はよく裏熱を清解し、滞気を破るという。黄連はよく熱を去る。渋帯した邪熱が心胸間、中焦下焦に結滞して煩をなし、痞をなし、下痢するものなどを治するものである。
 卵黄は気血を和して煩熱を除くというものである。阿膠もほとんどこれと同じで、ともに血燥を潤し肌膚をなめらかにする。
 これらの諸薬の協力によって、体液を滋潤し、心胸中の熱をさまし、心中の煩を除くものである。


主治
  傷寒論(少陰病篇)に、「少陰病、之ヲ得テ二三日以上、心中煩シテ臥スコトヲ得ザルハ、黄連阿膠湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ柯韻伯ノ所謂少陰ノ瀉心湯ニテ、病陰分ニ陥ツテ上熱猶ホ去ラズ、心煩或ハ虚躁スルモノヲ治ス。故ニ吐血、咳血、心煩シテ眠ラズ、五心熱シテ漸漸肉脱スル者、凡ソ諸病日久シテ熱気血分ニ浸潤シテ諸症ヲナス者、毒痢腹痛膿血止マズ、口舌乾ク者等ヲ治シテ験アリ。又少陰ノ下利、膿血ニ用ルコトモアリ、併シ桃花湯トハ上下ノ弁別アリ、マタ疳瀉止マザル者ト痘瘡煩渇シテ寝ザル者ニ活用シテ特効アリ」とあり、
 古方薬囊には、「心に熱こもりて眠れざる者、この眠れざる様子は、ウツウツとして眠っているような醒めているようなという案梅で眠られぬものなり。熱性の下利があって夜中煩して時々めざめてうるさき者もある」といっている。
 漢方治療の実際には、「この方は黄連解毒湯や三黄瀉心湯を用いたいような患者で、やや疲労しているものに用いる。阿膠・芍薬・卵黄の入っている点が、三黄瀉心湯や黄連解毒湯と違う。
 この方を用いる目標は、発疹が主として顔面に見られ、隆起があまり目立たないほど低く、指頭でなでるとざらざらしていて、少し赤味を帯びて乾燥し、かゆみは少なく、糠のような落屑があり、風にあたったり、日光にあたるとわるくなるものである」と述べている。

鑑別〕 ○桃核承気湯 102 (血煩○○・実証、脈緊、鬱血)
○柴胡加竜骨牡蛎湯 44 (心煩○○・胸脇苦満、腹動)
○瀉心湯 48 (心煩○○・実証)
○苓桂味甘湯 149 (心煩○○・興奮は少ない)


治例
 (一) 婦人の顔にできる皮膚病で、これのよく効くものがある。三〇年ほど前、私の妻が頑固な皮膚病に悩まされた。その発疹は円味を帯びて、両方の頬を中心に広がり、痒みがあり、やや赤味を帯びて乾燥し、小さい落屑が見られた。強い風にあたったり、日光にあたると、赤味がましてかゆみがひどくなる。私はこれに大柴胡湯加石膏・大黄牡丹皮湯加薏苡仁・桂枝茯苓丸・黄連解毒丸などを与え、一〇〇日あまり治療したが少しもよくならず、むしろ増悪の傾向があった。そこで熟慮の後、皮膚の乾燥を阿膠と芍薬で潤し、熱と赤味を黄連と黄芩でとったらと考え、黄連阿膠湯を与えた。一服で赤みがうすらぎ、一週間後にはかゆみもなくなり、一ヵ月ほどで全治した。
 発疹が主として顔に見られ、隆起があまり目立たないほど低く、指頭でなでると、ざらざらしている。少し赤味を帯びて乾燥し、かゆみは少ない。小さい糠のような落屑があり、風にあたったり、日光にあたるとわるくなるという目標で、その後何人かの婦人の皮膚病を治した。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(二) 肺結核兼感冒
 二二歳の婦人。肺結核で加療中、微熱があり、自覚症は何もない。虚労の血熱として炙甘草湯を用いていた。太陽にあたると顔がのぼせて仕方がないので、雨戸を閉ざしている。下口唇が赤く、不眠で声が少しかれている。甘草瀉心湯に変えてみたが同じである。かぜをひいて三七度六分となった。甘草瀉心湯より虚しているので、虚証の血熱として黄連阿膠湯にしたところ、今度が最もよく効いて体温が下降した。
(龍野一雄氏、漢方の臨床 二巻二号)

(三) 脳症
 小栗豊後守、年三十余、外感を得て邪気激しく、脈数急で、舌上黒胎を被り、讝語煩乱して飲食は口に入らず、夜に至ると煩躁して狂のごとくであった。多紀永春は升陽散火湯を与えたが、熱はますます加わり、柴田文庵は三黄湯加芒硝を与え、下利二回あったが、後疲れて狂躁がひどくなった。
 そこで余はこれを少陰膈熱の証として、黄連阿膠湯を与えた。法のごとくにして与えること一昼夜にして始めて安眠でき、翌日は精神爽然として、よく人を弁じ、食欲が出た。升陽散火湯去人参加生地黄で調理し、全く旧に復した。
(浅田宗伯翁、橘窓書影巻二)


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
黄連阿膠湯おうれんあきょうとう  [傷寒論]

【方意】 上焦の熱燥証による心煩・心下痞・心下痞硬・皮膚枯燥・口臭等と、上焦の熱証燥証による精神症状としての不眠等のあるもの時に血証を伴う。
《少陽病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の熱証・燥証

上焦の熱証・燥証による精神症状 血証 虚証
主証 ◎心煩



◎不眠





客証 ○心下痞
○心下痞硬
○皮膚枯燥
○瘙痒感
○口臭 口内炎
○顔面紅潮
 口唇乾燥
 発熱 熱感
 口渇 煩熱
 膿血便 腹痛
 発赤
 心悸亢進 頭重
 煩躁 狂躁
 興奮逆上
 讝語

 出血(吐血・咯血・下血・血尿) 疲労倦怠
 四肢脱力感
 るいそう


【脈候】 やや軟・やや弱・微浮・沈微・沈小・細数。発熱性疾患では数急。

【舌候】 熱のある場合には紅舌。乾燥、時に湿潤。微白苔より微黄苔。

【腹候】 やや軟、多くは心下痞・心下痞硬がある。

【病位・虚実】 上焦の熱証・燥証が主であり陽証である。表証も裏の実証もなく少陽病に相当する。自覚的にも、また脈力も腹力も共に低下しており虚証である。

【構成生薬】 黄連4.0 阿膠3.0 芍薬2.0 黄芩2.0 卵黄1個
 黄連・芍薬・黄芩の三味の型のごとく煎じ、滓を去った後に阿膠を入れ、再び火にかけ、阿膠が溶解し尽くしてから火より降ろし、少し冷えたところに卵黄を入れ、よくかきまぜて服用する。

【方解】 本方は黄連解毒湯から黄柏・梔子を去り、芍薬・阿膠・卵黄を加えたものである。黄柏・梔子が抜けたために、上焦の熱証に対する効力は低下しそうだが、黄連が倍増となりこれを補っている。黄連・黄芩の組合せは上焦の熱証を治し、更にこれにより引き起こされる精神症状および血証に有効である。阿膠の滋潤・滋養・止血作用は、皮膚枯燥・口唇乾燥等の燥証、および虚証、更に血証に有効である。また芍薬は滋潤作用があり阿膠を助けると共に、裏の攣急に対応し腹痛・下痢を治す。卵黄の滋養・強壮作用は虚証に対応する。

【方意の幅および応用】 A1上焦の熱証燥証:発熱・心煩・心下痞・心下痞硬・口臭等を目標にする場合。
   急性上気道炎、気管支炎、麻疹、肺炎、髄膜炎、出血を伴う腸炎、膀胱炎、尿道炎
  2上焦の熱証燥証:皮膚枯燥・瘙痒・発赤・心煩・心下痞等を目標にする場合。
   皮膚瘙痒症、乾癬、化膿性皮膚疾患
 B 上焦の熱証燥証による精神症状:不眠・心悸亢進等を目標にする場合。
   ヒステリー、ノイローゼ、躁病、統合失調症、高血圧症、脳血管障害
 C 血証:出血傾向を目標にする場合。
   鼻出血、眼底出血、吐血、咯血、痔出血、子宮出血、血尿

【参考】 *心中煩して、臥するを得ざる者、黄連阿膠湯之を主る。 『傷寒論』
*陽病、発熱し、心中煩して、安臥することを得ず。或いは腹痛し、或いは便結する者は黄連阿膠湯之を主る。  『医聖方格』
*此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて、病陰分に陥って、上熱猶去らず、心煩或いは虚躁するものを治す。故に吐血、咳血、心煩して眠らず、五心熱して漸々肉脱する者、凡そ諸病日久しく、熱気血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢、腹痛、膿血止まず、口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用ゆることもあり。併し桃花湯とは上下の弁別あり。また疳瀉(疳症の下痢)止まざる者と、痘瘡煩渇寝ざる者に活用して特効あり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方は三黄瀉心湯ならびに黄連解毒湯の虚証に用いる。
*中年女性の顔面の発疹。隆起は少なく、やや赤みを帯び、乾燥して落屑があり、軽度の瘙痒感を伴う。日光や風に当たると悪化するものに良い(大塚敬節)
*温清飲の虚証である(松田邦夫)

【症例】 サバズシ後の発疹
 36歳、主婦。この患者には喘息の持病がある。
 1ヵ月前サバズシを食べてから、顔がウリシに負けたときのように真赤になり、皮膚が硬くなり浮腫が出現した。漢方薬店で漢方薬(薬名は不明)を調剤してもらったが、この漢方薬で胃の調子が悪くなり、むかつくようになったという。そこで皮膚科でカルシウム剤の注射を受け、内服薬をもらった。しかし顔面ばかりでなく前膊も赤くなった。そこで私のところに来院した。
 足に冷たい感じがして来たと思うと、やがて顔面や前膊が痒くなってくるという。血行の異常が起こるらしい。分泌物は患部をかくと少し出る程度で自然にはない。腹部は脂肪が多くて腹直筋は分からない。脈は沈で弱い。そこで私は温清飲(10日分)を与えたが、再来時に発赤も痒みも減らないばかりか、首の周りも痒くなったという。酒を飲んだような顔をしている。発赤は皮膚表面からは隆起していない。分泌物はないが乾燥とはいえない。
 黄連阿膠湯の使用例では皮膚が乾燥しているとなっているが、私はあえて使ってみることにした。またこの2、3日来、右頚部リンパ腺が腫れて来たというので十味敗毒湯を併用することにした。こうして十味敗毒湯と黄連阿膠湯各20日分の併用で全治させることができた。
岸本亮一 『漢方の臨床』14・10・27


『漢方処方・方意集』 仁池米敦著 たにぐち書店刊
p.32
黄連阿膠湯おうれんあきょうとう
 [薬局製剤] 黄連4 阿膠3 黄芩3 芍薬2 阿膠を除く以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製し、これに阿膠3gを添付する。1包に水約240ccを加えて、80cc位まで煎じつめ、煎じカスを除き、阿膠を加えて溶かし、少し冷えてから卵黄1個を入れてかき混ぜて服用する。

 «傷寒論»黄連4 阿膠3 黄芩2 芍薬2 鶏子黄1個 黄連・芍薬・黄芩を煎じて濾して後に、阿膠を入れて溶かし、少し冷えてから鶏子黄けいしおうを加えてよくかき混ぜて服用する。
  【方意】血と津液を補って虚熱を除き、肝胆と心小腸を調えて、血と水の行りを良くし血を止め精神を安定し、不眠や出血などに用いる方。
  【適応】少陰病になり二三日以上し心中がはん(煩わしく不安感がある症状)する者・或いは虚躁きょそう(虚して不安感などがある症状)する者・吐血し咳血がいけつ(咯血や血痰が出る症状)し心煩しんぱんして眠らない者・五心が熱して肉脱にくだつ(肌肉が痩せ衰えて脱する様な症状)がまず口舌が乾く者・少陰の下痢・膿血のうけつ疳瀉かんしゃ(疳疾による下痢)が止まない者・痘瘡とうそう(天然痘のこと)し煩渇はんかつ(煩わしく口渇する症状)し不眠する者など。
  [原文訳]«傷寒論・弁少陰病脈証併治»   ○少陰病、これを得て二三日以上し、心中がはんして、眠ることを得ざれば、黄連阿膠湯がこれを主る。
  «勿誤薬室方函口訣»   ○此の方は柯韻伯の所謂いわゆる少陰の瀉心湯にて、病が陰分におちいって上熱がなお去らず、心煩しんぱん或いは虚躁きょそうするものを治す。故に吐血・咳血し、心煩はんぱんして眠らず、五心が熱して漸漸ぜんぜん 肉脱にくだつする者、すべて諸病の日久しく、熱氣血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢・腹痛・膿血のうけつまず、口舌乾く者等を治して験あり。また、少陰の下利や膿血に用いることもあり。しかし桃花湯とは、上下の辨別あり。また疳瀉かんしゃまざる者と、痘瘡とうそう煩渇はんかつ・寐ざる者に活用して特効あり。


『薬局製剤 漢方212方の使い方』 第4版
埴岡 博・滝野 行亮 共著
薬業時報社 刊


K12. 黄連阿膠湯おうれんあきょうとう

出典
 傷寒論のou陰病篇には『少陰病になって2,3日以上経ったとき、興奮,のぼせ,逆上,狂躁,不眠,煩躁,心悸亢進などの心中煩の症状を起して,じっと横になっていることができなくなったときは黄連阿膠湯を服用すべきである』とある。
 原方では黄連,黄芩,芍薬,阿膠の他に卵黄半個が入っている。

構成
 心中煩を血熱とみて黄芩,黄連,血熱に伴う血燥に阿膠を配剤している。卵黄は阿膠と同じく血燥を去るためのものであるが,通常は使われていない。

目標
 大黄・黄連・黄芩で構成されている三黄瀉心湯と似ているところから,少陰病の瀉心湯といわれている。
 少陰病は「たたいねんと欲す』というのが本筋なのに,本方は少陰病でありながら心中煩して臥すことができない状態である。それほど心煩は根が深く,のぼせ感だけではなく顔面紅潮,興奮性や狂燥性,心悸亢進を表わす。甚だしい例では脳症の場合もある。しかも虚候を帯びていてすべての症状が実証ではないのが瀉心湯と区別されるところである。
 また,咯血,吐血,衂血,痔出血,眼出血などに瀉心湯が使われるごとく,心中煩と虚状を目標に本方は使われる。
 ことに,慢性疾患への応用と成て,瀉心湯や黄連解毒湯が皮膚疾患に使用されるが,黄連阿膠湯も同様に使用する。陰陽の違いがあるので,痒みを心煩と考えて黄連解毒湯を使って効かぬ場合に陰陽のとり違えとして本方を使うか,あるいはイライラとカユイのを陽性,ウズウズとカユイのを陰性と区別して使うとよい。

応用
(1) 肺炎,チフス,麻疹,溶連菌症,丹毒,脳出血,脳炎等で高熱,煩躁,不眠,譫妄,胸中熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下し難いもの。
(2) ヒステリー,ノイローゼ,高血圧症,精神分裂症等で不眠,煩躁,興奮,動悸,頭重,のぼせ,耳鳴,肩こり,胸苦熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下し難いもの。
(3) 衂血,吐血,咯血,眼出血,血尿等で心煩を伴い下し難いもの。
(4) 大腸炎,赤痢,直腸潰瘍等で下痢し心煩または便に膿血が混じるもの。
(5) 小便淋瀝し小便熱湯のごとくあつく感じるもの。
(6) 皮膚瘙痒症,乾癬,皮膚炎,ヴィダール苔癬等で猛烈にかゆく患部が赤く乾燥気味のもの。

留意点
◎皮膚病への応用では,発疹が小さいこと,隆起があまりないこと,赤味を帯びていること,乾燥していることが必要である。
◎泌尿科疾患への応用では,猪苓湯を合方すると一段と効果を増す。
◎風土病にフィラリア虫症があるが,猪苓湯合方が特効あることを恩師長倉音蔵先生がよく語っていられた。珍しい病気だが覚えて置いて損はない。

文献
1.龍野一雄・漢方入門講座 (昭31) P.1069
2.龍野一雄・新撰類聚方浅 (昭33) p.173
3.大塚敬節・漢方診療30年 (昭34) P.369


『臨床応用 傷寒論解説』 大塚敬節著 創元社刊
 p.419
第百三十九章

少陰病、得之二三日以上、心中煩不得臥、黄連阿膠湯主之。

校勘
  康平本には「臥」の下に「者」の字がある。


少陰i病、之(これ)を得(え)て、二三日以上、4心中煩(はん)して臥(ふ)すを得(え)ず、黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)之(これ)を主(つかさど)る。


 この章は、前々章と章前のあとをうけて、少陰病にかかって、二三日以上たって、裏証を現わしたものの証治を論じている。
 さて、少陰病にかかって、まだ裏証のない時期には、麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯で少し発汗せしめるべきであるが、その治を誤ると、二三日以上たって、邪気が裏に入って、熱を生じ、そのため血液が枯燥して、胸苦しくて、安臥できなくなる。これは「吐せんと欲して吐せず、心煩」の変証であり、梔子豉湯証の虚煩眠るを得ずの証に似ている。
 太陽病の場合は、邪が裏に入るのは、多くは、五六日以上たってからであるが、少陰病は、二三日で、すでに裏に邪が入って、血液枯燥の状を呈するのである。これは黄連阿膠湯の主治である。
 〔臨床の眼〕 (142) 黄連阿膠湯を用いるには、これを構成している薬物の薬効を考えてて、いろいろと応用できる。
 これを不眠症に用いたり、下痢に用いたり、皮膚病に用いたりするのも、瀉心湯の代りに、芍薬、卵黄、阿膠が入っている点から、瀉心湯または黄連解毒湯の虚証として考える。この二つの薬物には滋潤の効があり、卵黄、阿膠には強壮の効もあるから、これらの点を考慮して用いるとよい。柯琴は、この方を少陰の瀉心湯たといった。

 黄連阿膠湯方
 黄連四両 黄芩二両 芍薬二両 鷄子黄二枚、阿膠三両一云三挺
 右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓、内膠烊盡、小冷、内鷄子黄、撹令相得、温服七合。日三服。


校勘
  成本、玉函は黄芩「二両」を「一両」に作り、「水六升」を「五升」に作る。



黄連阿膠湯の方
黄連(四両) 黄芩(二両) 芍薬(二枚) 鷄子畜(二枚) 阿膠(三両、一に云う三挺)
 右五味、水六升を以って、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去り、膠を内れて、烊盡し、少しく冷えて、鷄子黄の内れ、撹ぜて相得せしめ、七合を温服す。日に三服す。
(300) 三挺-「一に云う三挺」とあるのは、阿膠は牛またはロバの皮から取ったニカワであるから、一挺、二挺とかぞえたものであろう。だから「或る本には三挺となっている」の意。
(301) 烊盡-とかしつくすこと
(302) ニワトリの卵黄のことで、これはあまり熱いうちに入れると凝固するから、少し冷えてから入れる。



『臨床傷寒論』 細野史郎・講話 現代出版プランニング刊
p.380
第百四十六条

少陰病、得之二三日以上、心中煩不得臥、黄連阿膠湯主之。

〕少陰病、之を得て、二三日以上、心中はんしてすを得えず、黄連阿膠湯おうれんあきょうとう之を主る。

講話〕少陰病は「但欲寝」というだけで、ゆるゆるしたものだったら、甘草麻黄湯に附子を加えた麻黄附子甘草湯でよいわけですけれど、それに少陰病になって二、三日にもなると、胸苦しくて、寝るはずなのに、鬱々として寝ることもできない。そういう状態の時には、黄連阿膠湯を持っていくとよいということです。
 ここには、少陰病の眠り薬のことが書いてあるのです。
 黄連阿膠湯は、常の病気としては、首のあたりに湿疹ができて、痒くて痒くて、うずうずしてどうにもならない。よくあるでしょう、更年期のものかと思いますが、大塚先生の奥さんもできましたし、私の家内もできました。二人とも、首のところに沢山出ました。出方は発赤はしないで、少しそのあたりが腫れたようになってうずうずカユイのです。それに黄連阿膠湯を与えると割合によく効きます。
 眠れない時にも飲ませますけれど、煎薬でなくても、今では洋薬が沢山ありますからね、それを飲むと眠れますから、煎じたりする漢方薬の出番はないのです。

『康平傷寒論読解』 山田光胤著 たにぐち書店刊
p.292
(306)三〇六条、第百三十九章、十五字
少陰病之を得て二三日以上、心中煩し、すこと得ざる者は、黄連阿膠湯之を主る。
【解】少陰病にかかったとき、裏証が出ないうちに麻黄細辛附子湯や麻黄甘草附子湯で少し発汗させればよかったのを、治療を誤って二三日以上たったので邪気が裏に入って熱を生じ、そのため血液が枯燥して胸苦しくなり、安臥できない裏証を現すに至った。これは黄連阿膠湯の主治である。
大塚先生注・太陽病は邪が裏に入るのは大抵五、六日以上たった時であるが、少陰病は二三日で邪が裏に入り、血液枯燥の状を呈するものである。
黄連阿膠湯方
黄連四両、黄芩二両、芍薬二両、鷄子黄二枚、阿膠一に云う三両三挺
右五味、水六升を以て、先に三物を煮て二升を取り滓を去り、膠を入れて烊盡し、少しく冷えて鷄子黄を内れ、ぜて相得せしめ、七合を温服す、日に三服す。



『傷寒論演習』 講師 藤平健 編者 中村謙介 緑書房刊
p.587

三一三 少陰病。得之二三日以上。心中煩。不得臥。黄連阿膠湯主之。      少陰病、之を得て二三日以上、心中煩して臥すことを得ざるは、黄連阿膠湯之を主る。

藤平 少陰病でこれを得て二三日以上というのですから少し日がたち、やや緩和なのですね。「心中煩」は心煩よりも胸の中の奥深くまで煩悶し、そのため安静臥床をとることができないほどの不快感がある場合には黄連阿膠湯がつかさどるというので。
 これも併病であろうと思います。奥田先生も「少陰病の気血虚する者にして内熱を挟み」といわれています。麻黄附子細辛湯、麻黄附子甘草湯では「表熱を挟む」とありました。
 挟むとあるときには併病でしょうね。陰証には元来内熱はないはずですから、これが存在しているということは併病でしょう。そのために陽証に使われる黄連が組合わされているのでしょうね。少陰の瀉心湯といわれるのはこのためです。
 先生のご解釈を、


少陰病 此の章は、前章を承けて、少陰病の気血虚する者にして内熱を挟み、液分之が為に枯燥し、邪熱心胸に逆して心煩し、臥寝するを得ざるの一証を挙げ、以て黄連阿膠湯の主治を論ずるなり。

藤平 「液分」とは体液です。ここにも「邪熱心胸に逆して心煩し」と熱があるとされています。


得之二三日以上 此れ前章の「之を得て二三日」の句を承く。「以上」とは、猶ほ以後の如し、即ち二三日の後、始めて此の証を現はすの謂なり。
 此の句、既に微しく汗を発すの時期に非ざるを示す。
三一三 少陰病。得之二三日以上。心中煩。不得臥。黄連阿膠湯主之。

藤平 前掲の麻黄附子細辛湯、麻黄附子甘草湯の「微発汗」の時期を過ぎているということです。


心中煩 不得臥 「但だ寝んと欲す」は、少陰病の正証也。然るに今臥すことを得ず。又更に自利等の証を現はさざるるるは、是、内に欝熱を挟み、津液及び血分之が為に枯燥し、邪熱逆して心胸に窒がり、心中煩悶懊憹するの致す所也。故に、「心中煩して、臥すことを得ず」と言ふなり。

黄連阿膠湯主之 之を黄連阿膠湯の主治と為す。故に黄連阿膠湯之を主ると言ふ也。
 此の章に拠れば、黄連阿膠湯は、津液を滋潤し、血行を調和し、心中の煩熱を解するの能有りと謂ふ可き也。

 此の方、主として上焦に邪熱を挟みて、陽勢に似たる者を清め潤ほすなり。柯琴曰く、此れ少陰の瀉心湯なりと。

○右の一章は一節也。少陰の位に於て発病し、内熱を挟める一証を挙げて、其の治を明かにしたる也。

黄連阿膠湯方 黄連四両 黄芩一両 芍薬二両 鶏子黄二枚 阿膠三両
 五味。以水五升。先煮三物。取二升。去滓。内膠。烊盡ようじん。小冷。内鷄子黄。攪令かきみだして相得。温服七合。日三服。

藤平 黄連と黄芩が入っているのでいかにも瀉心湯に近いですね。鶏子黄二枚とは卵の黄味二個ということです。これは冷やしてから入れないと固まってしまっていけません。この薬方は陰証に傾いている人の高血圧症等で心煩が強いものに用いますと、胸の中もスッキリして血圧も下ってくることが時にあります。何例か経験していますが、あまり頻用しません。著効を得た記憶はありません。まずまずの成績でした。
 これは併病とすると黄連と黄芩の二黄の瀉心湯と陰証の何かの薬方との合方になっていると思います。
それではご質問はありませんか。

会員A この黄連阿膠湯の条文が「少陰病」ではじまっている点は、以前からたいへん不可解に感じていたところなのです。
 この薬方証を調べてみますと、冷えるとか、疲れるとか、寝んと欲す等という少陰病を疑わせる症状は記載されていません。構成生薬も黄連と黄芩は寒、芍薬は微寒、鶏子黄と阿膠は平でして、温める作用は全くありません。
 それでいながらどうして少陰病と書き出しているのでしょうか。

藤平 そうですね。「少陰病」は前条を承けているとありますから、「得之二三日」の間に麻黄附子細辛湯なり麻黄附子甘草湯なりの証があったと思われます。その時これらの薬方を正しく服用せしまれば治癒してしまうのですが、そうしなかったか、何か不十分なところがあって、さらに病気が進行し、体液が欠亡し、陽証の邪熱が胸の中に生じ心煩が起きたのですね。
 発病時とは証が変化し、病位も変わったのでしょう。

会員A 時間の経過の中で少陰病ではなくなったのだと読むことに私も賛成なのです。そうしますと、柯琴先生の少陰の瀉心湯というのは誤りだと思うのです。やはり少陽の瀉心湯の虚証と考えるべきだと思いますが、どうでしょうか。

藤平 しかし、ここまで進行するまでの間に、少陰を通っているのですから、柯琴さんのいうこともわからなくはありません。
 この構成生薬でどうして少陰なのかと、私も考えてみたことがあるのですが、まアそんなふいに考えないと解釈ができませんね。
 臨床では瀉心湯証に似ているが、附子瀉心湯のような、ああいう陰証ではないいと思って、本方を使うとよい場合がありますので、やはり必要な薬方なのですね。

会員A この心中煩の熱は虚熱ではなく、実熱なのですね。

藤平 そのようです。


『ステップアップ傷寒論-康治本の読解と応用-』 村木 毅著 源草社刊
第五十二条
少陰病、心中煩して、眠ることを得ざる者は、黄連阿膠湯、主之。
「少陰病、心中煩、不得眠者、黄連阿膠湯主之」
 STEP-A
 少陰病に患り裏証が出現しないうちに、少し発汗させれば良いのを(麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を用いて)、誤治することにやって(注:陽病との取り違い)、邪気が裏証に入り熱を生じて血が枯燥して心胸が苦しくなり、安臥できない場合には黄連阿膠湯が主治する。

 STEP-B
 宋本や康平本には、少陰病の文言に続いて、「得之二三日以上」とあるのは少陰病になってから二三日以上を経過して、これらの症状が出現するのを意味している。
「心中煩・不得眠」とは、但だ寐んと欲す、が少陰病の正証であるとすれば、ここでは、それらが寝られなくって自利もないのは内部に鬱熱があって、津液や血分が枯燥し、邪熱が逆上して心胸に閉塞するからで、心中煩悶して苦しくなるので心中煩して臥して寝ることができなくなる。「脈微細」とは、脈が微・弱で細・小で、脈の勢いが無いのを言い、これは内外ともに虚・寒を現している。
 STEP-C 心中煩とは、胸中煩と同じで胸中が熱っぽくて苦しい状態を言い、これは外熱に因るのである。
 不得眠とは、外熱のために寝ることができないで、少陰病は気力が衰えていて、急性の心臓衰弱に似た症状を呈する。煩して眠れないよりも、臥すことができない状態のほうが重症で、これは一種の急性循環障害とも考えられる。(«研究»)。また、黄連阿膠湯は少陰温病に用いる。黄連+黄芩は瀉心(胸の熱を治す)、黄連、黄芩、芍薬は鎮静と不眠、阿膠は補血と止血、特に出血性の陰虚証に効果がある(«要略»)。

 STP-D
 «弁正»
 少陰病に患って二三日の始めには、脈は微・細で、反って発熱して、未だ、この条文の様な症状には到らないであうが、熱が表にあって徹し切れなければ、次第に裏位に逼るのは当然である。
 こうなると心中煩して臥すことが出来なくなるのは裏熱に因るので、また、下利や膿血も裏熱に因るから黄連阿膠湯が宜しい。『千金要方』にも下利・膿血を治する方剤を載せているが、ここに記述されている方剤と大差はない。唯、梔子・黄柏を黄芩・芍薬に代えて鶏子黄がないのか相違するのを参考にして欲しい。(現在用いている黄連阿膠湯は、黄連・黄芩・芍薬・阿膠)

 «集成»
 「少陰i病、得之二三日以上」の十字は『肘後方』に従って「大病差後」の四字に改作し、「臥」の字の下に当に「蓋梔子豉湯証之軽者」を補うと良い。
 大病が癒えても、その後に余熱があって煩するのは、病後の血液の回復が充分ではないので、徒に下熱だけをすべきではない。そこで芍薬・鶏子黄、阿膠の三薬で血液を回復させて、黄連・黄芩で胸中の熱煩を治するのである(下略)。
 «輯義»
  成無已の説を挙げて曰く、風は陽を傷め、寒は陰を傷める。少陰病を患って寒を得て二三日してから、寒さが極まって熱と変じる場合には、熱は内に波及して煩し、心中煩して臥すことが出来なくなるから黄連阿膠湯を与えて陰を援けて熱を放散する(下略)。

 «識»
 但寐んと欲すのが少陰病の正証であるから、それが反って「五六日に至り自利して復、煩して臥寝を得ず」と言うのは少陰病の正証を承けて、その軽症を論じた英である。即ち、心中煩成て未だ煩躁には到らず自利もない状態なので、これは虚煩して眠ることが出来ないのと同じ状態であるから、梔子豉湯証に似ているように思えるが、ここでは邪熱の壅塞(滞る)ではなくて「少陰病で吐こうとしても吐けずに心煩する者」の変証であるから、その邪熱を清潤すれば(黄連阿膠湯で)治癒する(下略)。

 «脈証式»
 少陰病に罹患して二三日。既に麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を与えて、陰邪は挽回した後でも、邪気が心胸に翻って、精虚が俄かに回復に向かうのだが(原因不明)、邪勢が心裏を通徹して心中煩を出現することもある。心中煩は精虚に因って起こり、徐々に身を傾けて之を堪えて、中々に臥すことが出来なくなる場合には、この証を参考にして方剤もこれれに随うのが良い。陰陽が互いに偏らず虚実の間にあって、心煩や胸中煩して実に偏る者は小柴胡湯であり、心中悸や煩の状態が虚に偏る者には小建中湯である。これらは混同しやすいから参考すべきである。

 ●黄連阿膠湯の構成
 黄連四六両、黄芩二両、芍薬二両、鶏子黄(卵黄)二枚、阿膠三両。右の五味、水六升を以て、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去り、膠を内れ、とか尽して、小しく冷れば、鶏子黄を内れ、攪して相得令め、七合を温服し、日に三服す。
「黄連四両、黄芩二両、芍薬二両、鶏子黄二枚、阿膠三両。右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓、内膠、烊尽、小冷、内鶏子黄、攪令相得、温服七合、日三々服」
 令相得とは、均一にする意味、三物とは三味の薬剤を言う。また、少陽病(陽)の煩には、梔子豉湯であり、少陰病(陰)の煩には黄連阿膠湯であり(何れも温病と関係ありと言う)、また少陰の瀉心湯(黄連、黄芩、大黄の大黄に代えて芍薬+阿膠)と言われることもある。
 阿膠
 «薬徴»
 記載なし。
 «古方»
 (前略){釈性}味甘平。内崩下血、腰腹痛、四肢酸疼、虚労、羸叟、咳嗽を去り、血を和し、陰を滋し、風を除き、燥を潤し、痰を化し、小便を利し、大腸を謂ふ。{議に曰く}阿膠は味甘平。能く血液を滋潤し、地黄と同じく血分の要薬と為す。故に仲師阿膠を用ふる。地黄に伍せざれば則ち麦門に配す。皆滋潤を以て宗と為すなり(下略)。

 «新古方»
 ボクは則ち、牛肉のすじを買い来り自製したる物を用ふ。所謂、不快のにかわ臭なきの理。尤も当今精製せられた品は工業用品と雖も不快のにかわ臭無き品多し。ゼラチンに至りては此点理想的に近し。但其の効陸上の物と等しきや否や、支那には以上の外鹿膠、虎骨膠あり価極めて貴し。用途は則ち阿膠と異り主として養生用に供せらる。

 «実践»
 止血潤肺作用を有する優れた補血薬、熟地黄に比べより膩性であり、潤肺・止血作用を有する。1) 補血作用:優れた補血作用とともに、良好な収斂止血作用を有する。①心肝などの血虚証に使用される。めまい、動悸、顔色不良、不眠、羸叟、月経後期、過少月経、閉経、さらに煩躁などに使用される。②血、咯血、崩漏、過多月経、血尿、などの一切の出血症に使用される。陰虚火旺や虚寒証など各種の病態に使用可能だが、特に陰血虚の出血に適する。③養血止血安胎作用もあり、妊娠の下血、胎動不安などに使用される。2) 滋陰潤燥:肝・腎・肺の陰を補い乾燥を潤す(潤燥)。①熱病の陰液消耗や肝腎陰虚の煩躁不眠、動悸、四肢のほてり、倦怠感などに使用される。②陰虚内風による痙攣に使用される。③肺陰虚や肺燥による乾咳、粘性少量痰、鼻腔乾燥などに使用される。3) 他:潤腸通便作用があり、腸燥便秘に使用される。

 «知識»
 阿膠は動物性製剤で、その成分朝fゼラチンとコラーゲンで、共に膠質タンパクである。これらタンパク質の組成の特徴はグリシン、プロリン、オキシプロリンが多いのが他のタンパク質とは異なる。阿膠の薬理作用はゼラチンの作用と同じであり止血作用として認められている。コラーゲンは一般の結合織を構成する生体産生産物で、炎症過程で著しく増加し生物防御反応に寄与しているその反応の一つに止血作用がある。止血機構は内因性の血液凝固系血漿タンパク質の機能が主軸で、血小板の凝集や、外因性の組織因子系からの刺激が加わって進行する。ともかく炎症などで生体コラーゲンが増量したり血管壁が損傷されてコラーゲンが侵食すると血小板が結合して凝集反応を起こす仕組みとなっている。

 «生薬»
 血液凝固抑制作用、抗腫瘍作用。血液凝固抑制作用、抗痙攣作用。

 鶏子卵
 «薬徴»
 記載なし。

 «古方»
 (前略){釈性}味甘微寒。目熱赤痛を発し、心下の伏熱を除き、煩満咳逆を止め、大煩熱を破る
{議に曰く}鶏子に黄白の分あり。黄は則ち其味甘厚、能く気血を和し、煩熱を除く。白は則ち其味淡薄。肌膚を生じ声音を亮にす。是を以て黄連阿膠湯、百合鶏子湯、排膿散並びに黄を用ふ。その和血除熱を取るなり。古人曰く、阿膠と効を同じうすと(下略)。

 «新古方»
 鶏子黄は本経には鶏子よく火瘡、癇痙の趣を除くことを主るとあり、則ち熱を鎮め煩を去るの効あるやうなり。古方にては本品は黄連阿膠湯、排膿散、百合鶏子湯方等の中に配伍せらる。
 鶏子白は卵白気味甘微寒無毒、主治は目熱赤痛、心下の伏熱を除き煩満、欬逆、小児の下泄をとどめ婦人産難に胞衣の出でざるは並びに生にて之を呑む。
 ボク曰く、タンパクは皮膚や膜の刺激を緩和し外より保護するの効あるものとす。古方にて殻と共に(但し殻中に附着残留せるものをさす)半夏苦酒湯に用ひられ口中のただれを治するに供す。
 昔時は初の磁などの場合によく用ひられたり、その療法は則ち焼酎を以て傷を洗滌し蛋白を塗り白木綿にて包帯せしめたりと謂う。又接合剤として工業的にも使用せらる。

 «実践»
 鶏子黄としては記載はないが、鶏黄皮(鶏内金)としての記載がある。その大略を述べる。
 優れた消食作用を有して各種の食積証に使用される。また渋精止遺・化石通淋歴試作用も有す。1) 消食健脾:優れた消化作用があり、かつ脾胃機能改善作用を有する。肉、脂肪、澱粉、母乳など広範囲な食積、消化不良に使用される。2) 精止遺:精液や尿を保持して漏らさない。尿失禁、頻尿、遺精などに使用される。3) 化石通淋:結石溶解作用と利尿作用があり、尿路結石、胆石などに使用される。4) 他:活血散結作用もあるとされ、癥瘕、閉経などに使用される。

 «知識»
 記載なし。

 «生薬»
 記載なし。

 ●黄連阿膠湯の方意
 «類聚»※( )は原典の「 」内の文言。
 ・心下悸動して煩し、眠るを得ざる者を治す。「少陰病、之を得て二三日以上」、心中煩して臥するを得ざるは(本方にて治す)。
 {頭注}
 *肘后方(葛洪『肘后備急方』)の時気病起労復篇に、大病の差後、虚煩して眠るを得ず、眼中疼痛し、懊憹するものに用いる。(中略)久痢の腹中略、下略熱痛症に類するも症まま同じからず。久痢腹中熱痛みし、心中煩して眠ることを得ず。或は便に膿血の者を治す。
 *痘瘡内陥して、熱気熾盛にして、咽燥ぎ口燥き、心悸煩燥し、清血の者を治す。
 *諸失血症にして、胸悸し、身熱あり、腹痛して微利し、舌乾き唇燥ぎ、煩悶して寝ること能わず、身体困惑し、面に血色なく、或は面、熱し紅潮する者を治す。

 «勿誤»
 此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて病陰分に陥て上熱猶去らず心煩或は虚燥するものを治す。故に吐血咳血心煩して眠らず五心熱して漸漸肉脱する者凡て諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者毒痢腹痛膿血止まず口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用うることもあり。併し桃花湯とは上熱弁別あり。又疳瀉不止茂者と痘瘡煩渇味寝者に活用して特効あり。

 «方意»
 上焦の熱証、燥証による心煩、心下略痞、心下略痞硬、皮膚枯燥、口臭等、上焦の熱証、燥証による精神状態。としての不眠を伴う。時に血証。少陽病。虚証。
 上焦の熱証、燥証が主であり陽証である。表証も裏も実証もなく少陽病に相当する。自覚的にも、腹・脈力は低下している。脈診ではやや軟・やや弱・微浮、沈微、沈小、細数。
 腹診はやや軟、多くは心下痞、心下略痞硬がある。

 «指針»
 {目標}血煩により心煩して眠ることを得ず、不眠、煩燥、顔面紅潮、興奮、心悸亢進、頭重、のぼせ、胸苦しくと熱感等を訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。
傷寒論には少陰病篇にあるが、少陰病に似たもので、実際には瀉心湯の虚したものである。
 {応用}肺炎、チフス、麻疹、猩紅熱、丹毒、脳出血、狂燥症などで高熱、煩燥、不眠、讝妄、胸中熱、ヒステリー、ノイローゼ、高血圧、統合失調症、狂燥症などで不眠、煩燥、興奮、動悸、頭重のぼせ、耳鳴り、肩凝り、胸苦、熱感などを訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいもの。
 鼻血、吐血、咯血、眼出血、血尿、子宮出血、膀胱炎、尿道炎などで、心煩を伴い下し難感もの。
 大腸炎、赤痢、直張潰瘍などで下痢し心煩または便に膿血がまじるもの。小便淋瀝し、小便熱湯の如く熱く感じるもの。皮膚掻痒症、乾癬、皮膚炎などで夜も眠れぬほど猛烈に痒く、患部が赤く乾燥気味のものなど。
 {鑑別}柴胡加牡蠣湯:心煩、胸脇苦満、腹動。瀉心湯:心煩、実証。苓桂朮甘湯:心煩、興奮は少ない。

 ■私見

 少陰病に罹り麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を用いた後でも、脈が微・細で発熱しているのは、病勢が更に裏位に迫りつつある。従って心中煩して臥すことができないようになる。そこで黄連阿膠湯を用いて熱邪を清潤するのである。少陰病の提綱は、但欲寝、であるが、ここでは、臥すことができない、とあり、これは少陰病の正証による本当の少陰病よりは軽症と見て良い。また、少陰病の出血には一応、黄連阿膠湯は試してみる価値がある。

 ■診療の実際

 この生薬構成を考えると、瀉心湯の大黄に代えた芍薬、鶏子黄、阿膠の三剤には何れも滋潤作用があり、更に鶏子黄、阿膠には強壮作用もあるから、そのため、柯琴は少陰病の瀉心湯(黄連、黄芩)と言っている。血液の枯燥に用いると言うが、実際には不眠症、皮膚疾患(特に湿疹で痒みの著しい時など)、下剤として用いることが多い。高血圧での心煩にも効果がある。
 更には、各種の出血に用いている。自験例でも高齢者(89歳、女性)の下血。老衰の割には道気のある患者さんで消化管出血があり、一時はDICも疑った。年齢から見て精密検査をしないで、漢方診察のみとした。虚証であり、脈は、軽く沈で微・弱。腹診では軽度の心下痞があり、エキス黄連阿膠湯部7.5g(食後)と小建中湯5.0g(食前)を一週間与薬することで下血は止った。本来は熱証・燥証の発熱・心煩などに用いられるが血証にも効果がある。
 老婦で頑固な皮膚病に罹り赤味と小落屑があり、大柴胡湯加石膏、大黄牡丹皮湯薏苡仁湯、桂枝茯苓丸、黄連解毒湯で治癒せず、皮膚の乾燥によるものとして、皮膚の乾燥は阿膠、赤味と熱は黄連、黄芩と考えて黄連阿膠湯を用いて完治した。(大塚«三十年»
 黄連阿膠湯は一般には少陰病気の不眠や首の周りの湿疹で痒みの強い者に効果がある。(細野史郎«臨床»
※『ステップアップ傷寒論-康治本の読解と応用-』には誤字が多いが、そのままとした。


『改訂 一般用漢方処方の手引き』 
監修 財団法人 日本公定書協会
編集 日本漢方生薬製剤協会

黄連阿膠湯
(おうれんあきょうとう))

成分・分量
 黄連3~4,芍薬2~2.5,黄芩1~2,阿膠3,卵黄1個

用法・用量
 湯

効能・効果
 体力中等度以下で,冷各やすくのぼせ気味で胸苦しく不眠の傾向のあるものの次の諸症:鼻血,不眠症,かさかさした湿疹・皮膚炎,皮膚のかゆみ

原典 傷寒論
出典 
解説
 瀉心湯の加方である。熱性症候があり,虚して,胸ぐるしく,のぼせ,いらいらして眠ることができなく,各種出血,皮膚の瘙痒,下痢の症状があり,瀉心湯で下しがたいものに用いる。
 方函類聚 に「吐血咳血心煩ニシテ眠ラス五心熱シテ漸々肉脱スル者ヲ治ス又少陰ノ下利膿血,疳瀉下止,痘瘡煩瀉不寝ニ活用シテ特効アリ」とある。

        生薬名
参考文献名
黄連 芍薬 黄芩 阿膠 卵黄 用法・用量
処方分量集 3 2.5 2 3 1個
診療の実際 3 2.5 2 3 1個
診療医典  注1 3 2.5 2 3 1個
症候別治療 4 2 1 3 1個
処方解説  注2 3 2.5 2 3 1個 *1
応用の実際 注3 4 2 2 3 1個
明解処方 3 2.5 2 3 1個
改訂処方集 4 2 2 3 1個 *2
漢方入門講座 4 2 2 3 1/3個
傷寒論入門 4 2 2 3 2個

*1 阿膠,卵黄以外の三味を水600mLに入れ,300mLに煎じ,滓を去り,阿膠を入れて再び火にのせて溶かし,少し冷えてから卵黄1個を入れてききまぜ,3回に分服する。
*2 水240を以って黄連,黄芩,芍薬を似て80に煮つめ滓を去り,阿膠を加えて溶かし,少し冷まして卵黄を加えてかきまぜる。3回に分服。


 注1  老人または病後の患者の不眠,諸種の出血,下痢(粘血便を下すもの),皮膚疾患に用いられる。皮膚病に用いる目標は,発疹が主として顔面にみられ,隆起があまり目立たないほど低く,指頭でなでるとざらざらしていて,少し赤味を帯びて乾燥し,痒みは少なく,糠のような落屑があり,風にあたったり,日光にあたるとわるくなる傾向がある。
 注2  血煩により心中煩して眠ることを得ず,不眠,煩燥,顔面紅潮,興奮,心悸亢進,頭重,のぼせ,胸苦しく熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。
 勿誤薬室方函口訣には,「此方ハ柯韻伯ノ所謂少陰ノ瀉心湯ニテ、病陰分ニ陥ツテ上熱猶ホ去ラズ,心煩或ハ虚躁スルモノヲ治ス。故ニ吐血,咳血,心煩シテ眠ラズ,五心熱シテ漸々肉脱スル者,凡ソ諸病日久シテ,熱気血分ニ浸潤シテ諸症ヲナス者,毒痢腹痛膿血止マズ、口舌渇ク者等ヲ治シテ験アリ。又少陰ノ下利、膿血ニ用ルコトモアリ,併シ桃花湯トハ上下ノ弁別アリ,又疳瀉止マザル者ト,痘瘡煩渇シテ寝ザル者ニ活用シテ特効アリ」とある。
 注3  心悸亢進があり,胸ぐるしく,眠れないものが目標である。こういう場合には,つぎのようないろいろな症状が起こるときに用いられる。①吐血や咯血がある。②膿血便を下痢す。③頭部,顔面の疔(化膿性腫物)がひどく痛む。④尿が赤くにごり,あるいは淋瀝して尿利減少する。

 

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

1.次の人は服用しないこと
   (1)生後3ヵ月未満の乳児。
      〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
      (2)本剤又は鶏卵によるアレルギー症状を起こしたことがある人。
         〔卵黄を含有する製剤に記載すること。〕



 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  (1)医師の治療を受けている人。
  (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
  
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
消化器 食欲不振、胃部不快感


3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  下痢

4.1ヵ月位(鼻血に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用 を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1) 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
    〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
   1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
     〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
   2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
     〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
   3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
     〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
  (1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
    〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
  (2)小児の手の届かない所に保管すること。
  (3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
    〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
   (1)生後3ヵ月未満の乳児。
     〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
   (2)本剤又は鶏卵によるアレルギー症状を起こしたことがある人。
      〔卵黄を含有する製剤に記載すること。
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること   〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
   〔( )内は必要とする場合に記載すること。