『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.681
90 独活葛根湯(どっかつかっこんとう) 〔外台秘要方〕
葛根 五・〇 地黄 四・〇 桂枝・芍薬 各三・〇 麻黄・独活 各二:〇 大棗・甘草・乾生姜 各一・〇
「柔(じゅう)中風(卒中の軽症という意)、身体疼痛、四肢緩弱、不随せんと欲するを癒す。産後の柔中風また此方を用う。」
血虚に外感を兼ねて、肩背強急し、身体疼痛、四肢不随するものに用いる。
四十腕・五十肩・脳溢血後の肩背拘急・四肢疼痛・外感を兼ねたものに応用される。
『勿誤薬室方函口訣(95)』 日本東洋医学会評議員 山崎 正寿
-騰竜湯・土骨皮湯・独活葛根湯・内疎黄連湯・内補湯-
独活葛根湯
次は独活葛根湯(ドッカツカッコントウ)です。本方は「『外台』。柔中風、身体疼痛、四肢緩弱不随せんと欲するを療す。産後柔中風またこの方を用う。即ち葛根湯(カッコントウ)方中加地黄(ヂオウ)、独活(ドツカツ)。此の方は肩背強急して柔中風の証をなし、あるいは臂痛攣急悪風寒あるものに宜し。蓋し其の症、十味剉散(ジュウミザサン)を彷彿して血虚の候血熱を挟む者に宜し」とあります。
この処方は『外台秘要』中風門の柔風方二首で石膏散(セッコウサン)(構成は石膏、甘草の二味)の次に出てくる薬方であります。主治に柔中風と出ておりますが、これは『金匱要略』の痙病の強痙と柔痙のうちの、柔痙とほぼ同じ状態と考えられます。症状の強くはげしいものを強痙とし、症状のおだやかなものを柔痙としております。したがって同じ中風でも症状が軽度で、体が痛み、手足の力持;弱くなり、まさに麻痺に近い状態を柔中風といっていると考えられ移す。しかし今日のいわゆる典型的な脳卒中の病態というものとは違って、もう少し末梢性の神経障害などによって起こってくる病状ではないかと考えられます。
この薬方は葛根湯に地黄、独活が加わったものであります。した社然工て肩背強急が大切な目標ですが、時には肘の痛みや筋の攣急があって寒気がする場合にも使うということになっております。
処方の内容は、先にも述べましたように葛根湯に地黄と独活が加わっております。『外台』の原本では独活が羗活(キョウカツ)になっております。地黄は結胸して津液不足した病態に用いる薬ですが、熱を冷ます作用もあります。「血虚の候血熱を挟むものに宜し」という条文は、地黄の加わった意味を指していると思われます。
独活と羗活については今日いろいろと議論のあるところで、植物学的にもセリ科、ウコギ科と異種のものが混同されているといわれておりますが、浅田宗伯は、独活、羗活を一物二種なりという説をとりあげております。いずれにせよ、風湿を除き痛みを去る作用があります。
臨床の場では独活葛根湯は、葛根湯のいわゆる肩背強急よりもさらに頑固な肩こりを目標にして用いることが多いのですが、『口訣』にも「十味剉散を彷彿して」とあ識ように、血虚の肩背痛に臂痛、すなわち肩関節周囲炎などのようないわゆる五十肩で、しかも虚証の状態に十味剉散をしばしば使います。で功から、血虚して津液涸燥の症が、もう一つ重要な目標になってくると考えられます。
現在七十歳近くの老人で、変形性頸椎症を持った頑固な肩こりの症状、それに手足のしびれを訴える人に、私は独活葛根湯を使っております。割合に経過が安定し、それほど病状が進まないという状態になっております。独活葛根湯は、単に葛根湯の変方ということではなく、地黄、独活が組み入れられているという意味というものをよく考えて用いる必要があろうかと思います。
『漢方治療の方証吟味』 細野史郎著 創元社刊
p.512
ところで、この人の月経との関係があまり書いてありませんが、とうなのですか。腰の痛みを訴えていますが、月経とな関係ないのですか。何かありましませんか。なぜかと言うと、本年六月に中絶をしていますわね。それから後三ヵ月して九月に顔がむくんでおりますね。だから何かこの人には瘀血による災(わざわ)いがありそうですね。よくむくんだりする故障のある人、そのうえ肩がひどく凝りやすい、首を動かすと少々はばったいようなときに痛むことがあり、こんなときに、とにかく首が動かしにくいから、もつとスムーズに動くようにしてほしいと言われるのだったら、まず考えられるのは独活葛根湯です。これは葛根湯に地黄と独活を加えたもので、俗に寝違いなどと言って、朝起きたら首が廻らないし、鍼も灸も効かないというもの(長い時は一ヵ月ぐらい、早くて一〇日ぐらいはかかる)にもっていくと割合に早く治ります。
『臨床傷寒論』 細野史郎講話 現代出版プランニング刊
第六条
太陽病、項背強几几、反汗出、悪風者,桂枝加葛根湯主之。
〔訳〕 太陽病(たいようびょう)、項背強ばること、几几(きき)、反(かえ)って汗(あせ)出(い)で、悪風(おふう)する者、桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)これを主(つかさど)る。
〔講話〕これも面白い処方です。太陽病ですから脈浮、頭項強痛があって悪寒がある、そういう症状があって、項背強ばり、うなじや背中が強ばり几几。几といえば羽の短い鳥が羽をひろげ頭を伸して飛ぶ時の格好で成無已の、『傷寒明理論』で、殊(シュ)と読ませています。また几(キ)と読めば椅子のことです。また几几(キキ)は辞書に「さかんなさま」と書いてあります。ですから、どちらでもよいでしょう。とにかく項とか背中が凝るのです。ものすごく凝るわけですね。よく朝起きたら首が廻らないこともありますが、あれもこんな凝り方ですね。これに後世方では独活葛根湯を持っていくと早く治ります。他所では持っていかないらしいですけれど、私らでは、新妻先生に教えてもらって独活葛根湯をやって非常に良く効きますけれど、これに桂枝加葛根湯を持っていったらどうだろうかなと、これを読んでいて思いました。今度もしも脈浮で緩の人がきたら桂枝加葛根湯をやってみたら面白いかもしれません。ただ脈が浮緩であればね。まあ一度そういう事を皆さむをやって応用してみて下さい。それから、「汗出で悪風する者」ですから、汗が出て、ゾウゾウする、また鼻水が鼻咽腔から降りて来るやつは汗ととれるから、汗出悪風の悪風という症状はないのですが、肩が凝って仕方がない、脈が浮緩であれば、桂枝加葛根湯がゆきますと割合に効くのです。それから、私は中風の人の後遺症で、やはり肩が凝って凝ってカチカチになっている表虚の人に桂枝加葛根湯を持っていったのですが、これまで何ヵ月も治らなかった肩凝りが半身不随と一緒に治ってしま改aた。そういうように、持っていきかたがうまいこといくとスイスイと治ります。案外効くものですよ。ただし、それには甘草の分量があったり、何かが相当にあると思います。甘草や葛根の分量を増やすとか、いろいろなことを考えてほしい。
『漢法の臨床と処方』 安西安周著 南江堂刊
p.156
五、肩胛部神経痛
これも学問的の名称ではありませんが、病理的に正しくは肩関節周囲炎のことでありまして、俗に「五十肩」とか、「ケンベキ」とかいうものです。とにかく四、五十歳以上の男女に多く、上肢を一定の方向に動かすことのできない、誰でもよく知っている病気で、髪を結ったり、帯をしめたりすることが苦痛になる、ところがこの苦痛はなかなか治りにくいものですが、漢法は著効のある薬方があります。ある医博の臨床大家で、いろいろの注射をしたが治らないので『君、なんか漢法によい薬があるかね」ときかれたので、この薬方を十日分ずつ二回あげて、治った例がありますし、その他、ある大学の教授にも、同じ治験があります。
独活葛根湯(どっかつかっこんとう)の処方(115)
葛根(かっこん) 四、〇 麻黄(まおう) 三、〇
桂枝(けいし) 四、〇 芍薬(しゃくやく) 四、〇
甘草(かんぞう) 二、〇 大棗(たいそう) 二、〇
生姜(しょうきょう) 二、〇 地黄(ぢおう) 四、〇
独活(どっかつ) 四、〇
以上九味
、
一般用漢方製剤承認基準
独活葛根湯
〔成分・分量〕
葛根5、桂皮3、芍薬3、麻黄2、独活2、生姜0.5-1(ヒネショウガを使用する場合1-2)、地黄4、大棗1-2、甘草1-2
〔用法・用量〕
湯
〔効能・効果〕
体力中等度又はやや虚弱なものの次の諸症:
四十肩、五十肩、寝ちがえ、肩こり