健康情報

2014年3月16日日曜日

附子理中湯(ぶしりちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
人参湯(にんじんとう)
人参 甘草 朮 乾姜各三・ 

別名を理中湯と云い、胃腸の機能を整調するの作用がある。
一 般に本方證の患者は、胃腸虚弱にして、血色があく、顔に生気がなく、舌は湿潤して苔なく、尿は稀薄にして、尿量多く、手足は冷え易い。また往々希薄な唾液 が口に溜まり、大便は軟便もしくは下痢の傾向である。また屡々嘔吐・目眩・頭重・胃痛等を訴える。脈は遅弱或は弦細のものが多い。腹診するに、腹部は一体 に膨満して軟弱で、胃内停水を證明する者と、腹壁が菲薄で堅く、腹直筋を板の如くに触れるものとがある。
本方は人参・白朮・乾姜・甘草の四 味からなり、四味共同して胃の機能を亢め、胃内停水を去り、血行を良くする効がある。従って急性慢性の胃腸カタル、胃アトニー症・胃拡張・悪阻等に用い、 時に畏縮腎で、顔面蒼白・浮腫・小便稀薄で尿量が多く、大便下痢の傾向のものに用い、また小児の自家中毒の予防及び治療に用いて屡々著効を得る。時として 貧血の傾向ある弛緩性出血に、前記の目標を参考にして用いる。
本方に桂枝を加えて、甘草の量を増して、桂枝人参湯と名付け、人参湯の證の如くにして表證があって発熱するものに用いる。
また人参湯に附子を加えて、附子理中湯と名付け、人参湯證にして、手足冷・悪寒・脈微弱のものに用いる。


 『漢方精撰百八方』
103.〔人参湯〕(にんじんとう)

〔出典〕傷寒論

104.(附方)〔附子理中湯〕(ぶしりちゅうとう)(直指方)

〔処方〕人参、甘草、朮、乾姜 各3.0

〔目標〕からだが虚弱で、血色の悪い、生気にとぼしい人。多くは痩せた人である。腹痛、胃痛、時に胸痛、めまい、頭重感などを訴え、下痢や嘔吐することがある。
  手足が冷え、舌が湿って苔はなく、尿は水のように薄く量も回数も多い。また、往々うすいツバが口の中にたまる。
  脈は緊張が弱く、あるいは沈遅、あるいは弦である。腹部は軟弱無力で、心下部に振水音をみとめるか、あるいは反対に、痩せているので腹部の肉付きが少なく、しかも、腹壁が板のように固く張っている。
  からだや手足の冷えが甚だしく、四肢が痛んだり、尿がことに近くて、脈が沈遅のものは、附子理中湯がよい。

〔かんどころ〕全体から受ける印象に生気がない。尿が水様透明で量が多い。口の中にうすいツバがたまる。腹証。これらは、本方を用いる目標として、重要な順にあげたものである。

〔応用〕胃下垂症、胃アトニー症、胃カタル、小児自家中毒症、妊娠悪阻、肋間神経痛、急性吐瀉病、神経症等

〔治験〕77才 男子
 2年ばかり前、脈が結代したので、ある病院にかかった。そのとき、血圧が170程あり、脳軟化症のけがあるといわれたという。それ以来、味覚がなくなり、足に力がなくて歩きにくくなった。
  最近よだれが出て困る。大便が秘結するので漢方薬店でハブ草に大黄を加えたものをすすめられたが、それをのむと、便通の前にひどく腹が痛むという。
  患者はやせて顔色が悪い。手が冷たく、夜寝てから3回ぐらい小便にゆくという。脈は沈小で弱、舌は白く湿っているが、苔はない。血圧は126/70  腹部は、腹壁薄く、ぺしゃんこで、しかも板のように固く、両側の腹直筋が上の方で変急していて、心下部には振水音がある。
  たずねると、よだれは薄いものだと答えたので、附子理中湯を与えた。すると、1週間後には、よだれが殆ど止まり、心下部の振水音が聞こえなくなった。しかし、その他の症状があるので、まだ治療をつづけている。  
 附子理中湯 人参、肝臓、朮、乾姜 各3.0 附子1.0                                山田光胤



『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
8 裏証(りしょう)Ⅱ 
 虚弱体質者で、裏に寒があり、新陳代謝機能の衰退して起こる各種の疾患に用いられるもので、附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、人参によって、陰証体質者を温補し、活力を与えるものである。
 
 各薬方の説明
 
 1 人参湯(にんじんとう)  (傷寒論、金匱要略)
 〔人参(にんじん)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)各三〕
  本方は、理中湯(りちゅうとう)とも呼ばれ、太陰病で胃部の虚寒と胃内停水のあるものを治す。貧血性で疲れやすく、冷え症、頭痛、めまい、嘔 吐、喀血、心下痞、胃痛、腹痛、身体疼痛、浮腫、下痢(水様便または水様性泥状便)、食欲不振(または食べるとながく胃にもたれる)、尿は希薄で量が多い などを目標とする。本方の服用によって、浮腫が現われてくることがあるが、つづけて服用すれば消失する。五苓散(ごれいさん)を服用すれば、はやく治る。 本方を慢性病に使用するときは丸薬を用いる。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、人参湯證を呈するものが多い。
 一 胃酸過多症、胃アトニー症、胃下垂症、胃カタル、胃拡張症、胃潰瘍、大腸炎その他の胃腸系疾患。
 一 萎縮腎その他の泌尿器系疾患。
 一 心臓弁膜症、狭心症その他の循環器系疾患。
 一 肋間神経痛その他の神経系疾患。
 一 肺結核、気管支喘息、感冒その他の呼吸器系疾患。
 一 吐血、喀血、腸出血、痔出血、子宮出血などの各種出血。
 一 そのほか、悪阻、肋膜炎、糖尿病など。
 
 2 桂枝人参湯(けいしにんじんとう)  (傷寒論)
 〔人参湯に桂枝四を加えたもの〕
 人参湯證で、表証があり、裏が虚し(特に胃部)表熱裏寒を呈するもの、特に動悸、気の上衝、急迫の状などが激しいものに用いられる。発熱、発汗、頭痛、心下痞、心下痛、心下悸、四肢倦怠、足の冷え、水様性下痢などを目標とする。
 〔応用〕
 人参湯のところで示したような疾患に、桂枝人参湯證を呈するものが多い。
 その他
 一 偏頭痛、常習性頭痛など。
 
 3 附子理中湯(ぶしりちゅうとう)
 〔人参湯に附子○・五を加えたもの〕
 本方は、人参湯の加味方で、人参湯證で悪寒や四肢の厥冷を訴えるものである。四肢の疼痛、排尿頻数、精神不安(不眠、神経過敏)などがはなはだしくなることを目標とする。
 〔応用〕
 人参湯のところで示したような疾患に、附子理中湯證を呈するものが多い。
 その他
 一 ノイローゼ、神経衰弱その他の精神、神経系疾患。

『勿誤薬室方函口訣』  浅田宗伯著
附子理中湯
  此の方は理中丸の方後による者なり。理中は専ら中焦を主とする故、霍乱吐瀉の症にて、四肢厥冷する者は四逆湯より反て此の方が速やかに応ずるなり。後世にては中寒に用ゆれども、中寒は桂枝加附子湯、四逆湯を優とす。 

『勿誤薬室方函口訣解説(110)』 日本東洋医学会評議員 山崎正寿
附子理中湯
 次は附子理中湯(ブシリチュウトウ)です。出典は、中国宋代の揚士瀛の著した『直指方』となっておりますが、『傷寒論』の理中湯(リチュウトウ)、すなわち人参湯(にんじんとう)に附子(ブシ)を加えた処方であります。人参湯は著名な胃腸の薬方で、裏寒を温めるといわれ、『金匱要略』では胸痺(胸の痛みを訴える疾患)の薬方としても著名であります。食欲がない、食べるとすぐに腹がいっぱいになり、口中に唾液が溜まりやすく、腹痛、嘔吐、下痢などを伴う場合に用い、急性あるいは慢性胃腸炎、胃潰瘍、吐血、下血などの病気に用います。
 附子理中湯は、人参湯の証で、さらに手足の冷えが強い場合に使い、四逆湯(シギャクトウ)よりは即効性があると述べられております。
 私の症例では、ある若い学校の教師でしたが、見るからに痩せた、顔色の悪い、無力体質的な人で、通常から食欲がなく、食べるとすぐに腹がいっぱいとなり、少し多いと下痢をしてしまう、いつも水気ばかり飲み、体は疲れやすく、何とか弱い体を治してほしいといってきました。初めは六君子湯(リックンシトウ)類や、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)などを投与しておりましたが、もう一つすっきりしません。そこでよく尋ねてみると、口の中にいつも唾液がたまり、夜、寝床で枕を唾液でよごしてしまったりするといいます。それで初めて人参湯を投与し、食生活の注意などを与えました。人参湯に転方してより、前よりよほど調子がよいようですが、手足の冷えが強く、厚着が少なくなりません。そこで附子理中湯を投与しました。この処方にして以来、調子がよいようで、楽しみに診察に来るようになりました。その後、灸などを併用して治療を続けておりましたが、私の都合もあり、この患者さんを診ることができなくなり、以後の経過は不明ですが、治療中はよい経過であったと判断しております。
 先輩の治験として『温知医談』に、五十歳余りの男性がいろいろな治療の末、頑固な便秘におちいり、大黄(ダイオウ)や芒硝(ボウショウ)の入った処方でも一向に便通のない人に附子理中湯にて温め、胃腸を鼓舞したら五、六行の下痢ののち、それまでの病気も一気に治療することができたという症例を報告しております。
 附子人参湯(ブシニンジントウ)中の人参は、胃気を補い、消化機能を高めるもっとも有名な薬であります。白朮(ビャクジュツ)、甘草(カンゾウ)も脾胃に働き、人参を助けて消化機能を鼓舞すると考えられます。乾姜(カンキョウ)は血行をめぐらし、裏の寒を温める働きがあり、附子とともに一層、寒冷を除く力が増強されていると考えられます。先の症例などからもわかると思いますが、単に下痢、便秘、嘔吐などを目標とせずに、もう少し基本的な附子理中湯の作用に注目して使用すると、有用性の非常に高い薬方であると考えられます。


『衆方規矩解説(10)』 日本東洋医学会評議員 坂口 弘
中寒門
 本日は、中寒門について解説致します。「中寒」というのは「寒に中たる」ということでありまして、中風、中暑、中湿などと並んでいる言葉で、一つの病名でありますが、今日ではこの中の中風だけが俗語として通用しております。
 寒邪と申しますが、寒さによる人体への侵襲は、人体の中の陽気を損傷しやすい、陽気の不足したものは寒邪の侵襲を受けやすいといわれておりまして、したがって寒邪による病気は陽気の不足が存在しているということが一般的であります。
 寒邪によって起こる疾病にはいろいろありますが、外感の寒邪、これは風寒というような名前で呼ばれてい識ことが多いわけであります。そのほかには寒痺、すなわち関節の痛みとか、しびれなどを起こす四肢の方に寒邪を受けるというわけであります。そのほか胃寒、寒瀉、寒疝などはいずれも腹部に寒気を受けた時の病気であります。つまり、腰とか腹部は寒を受けやすい場所ともいえるわけであります。
 このような寒邪による病気を治すには、温めて寒を除く、温裏去寒の目的には乾姜(カンキョウ)あるいは高良姜(コウリョウキョウ)、蜀椒(ショクショウ)、丁香(チョウコウ)、細辛(サイシン)、呉茱萸(ゴシュユ)などが用いられます。さらに寒が強いものは陽気が不足しているので寒を受けるわけでありますから、補陽去寒のために附子(ブシ)、肉桂(ニッケイ)などを用いることになっております。

■理中湯
 それでは『衆方規矩』の本文に戻ることにいたしましょう。治療法として、まず出てくるものが理中湯(リチュウトウ)であります。理中湯は人参湯(ニンジントウ)ともいわれ、また理中丸(リチュウガン)という呼び名もあります。いずれも内容は同じものでありまして、『傷寒論』では太陰病裏寒の薬として知られ、『金匱要略』では霍乱とか、胸痺門に出ておりまして、大変有名な処方であります。一般的には今日人参湯といわれております。
 本文は「理中湯、寒気五臓に中(あ)たりて、口食いつめ、音(こえ)出でず、手足こわばり、すくもを治す。兼ねて胃脘に痰をとどめ、冷気刺すがごとく痛み、および臓毒下冷え、泄痢腹張り、大便或いは黄、或いは白く、或いは黒く、或いは清穀あるを治す。参(人参(ニンジン))、伽(白朮(ビャクジュツ))炒る。永(乾姜(カンキョウ))炒る。甘(甘草(カンゾウ))炒る。右、姜(生姜(ショウキョウ))、棗(大棗(タイソウ))を入れて水にて煎じて服す」。この薬味を粉末にして丸薬にすれば、理中丸(リチュウガン)になるわけであります。
 「もし寒気、湿気に侵されること甚だしき者には、附(附子(ブシ))を加えて附子理中湯(ブシリチュウトウ)と名づく。もし附(附子)の毒にあたる者は甘(甘草)、姜(乾姜)等分にして、或いは黒豆(コクズ)の煎湯にてこの毒を解く。知らずんばあるべからず」。「霍乱にて吐瀉するには童(青皮(セイヒ))、陳(陳皮(チンピ))を加えて治中湯(ジチュウトウ)と名づく。嘔吐する者は治中湯に喬(丁字(チョウジ))、守(半夏(ハンゲ))、姜(生姜)を加う」。「泄瀉には陳(陳皮)、苓(茯苓(ブクリョウ))を加えて補中湯(ホチュウトウ)と名づく」。「溏泄止まざる者は補中湯に附(附子)を加う」。「飲食を好まず、米穀こなさず下るには砂(砂仁(シャニン))、附(附子)、陳(陳皮)、苓(茯苓)を加う」。「霍乱あげ下して心腹痛み、手足厥冷せば伽(白朮)を去り、附(附子)を加えて四順湯(シジュントウ)と名づく。一名四逆湯(シギャクトウ)」。
 以上を解説しますと、「寒さにあたって口が動かなく、こわばって声を出すこともできず、手足がこわばりすくむ」とありますが、昔は寒気に当たった場合にこのような現象もあったのでしょうが、今日では、そのようなことは少なく、主として裏が冷えたために起きた場合、寒さが腹に入った時に用いられております。「胃脘に痰をとどめ」とか「冷気刺すがごとく痛む」とか「下冷え」とか下痢をしたり腹が張る、あるいは大便の変調で、清穀というのは陰、寒の状態の下痢でありまして、食べた穀物がそのまま消化せずに出る場合で、完穀下痢あるいは清穀下痢といいますが、四逆湯の証に出ている下痢の状態であります。つまり、おなかが冷えて、下痢を初めとする腹痛とか腹が張るという状態に主として使われております。
 この四味のうちの人参は、ご承知のように脾胃を補う、あるいは陽気を補うもので、白朮は脾胃の補剤でありまして、その中で下痢など水の代謝が悪い状態に用います。乾姜は温める方の代表的な薬で、甘草も脾胃の補薬でありまして、これに生姜と大棗を加えて煎じるわけであります。その中で、とくに寒が強い時には附子を入れて附子理中湯といたします。そのほか下痢がひどい時、嘔吐がひどい時といった状態に応じて多少の去加方が記されております。
 一般には、今日人参湯を用いる場合、虚寒の人で、顔色が青白く、貧血状態で、みぞおちが痛み、またはつかえる、そして下痢、嘔吐などが加わり、腹力は多くの場合弱く、あるいは復内振水音がある場合であります。脈は沈弱とか、沈遅ということになります。そのほかに、人参湯証としてよくいわれることは、尿量が多く、薄い尿が出る、あるいは口に薄い唾が湧いてくる(生水(きみず)が上がってくる)というようなことがいわれております。このような場合に用いると大変よく効く処方と言われております。
 附子理中湯といいますのは、大変すぐれた効果を示すものでありまして、最近はあまりそういう機会はありませんが、子供の疫痢などで虚脱状態になったものなどにも大変よく効いたものであります。l私は、貧血性の大変寒がりの胃潰瘍の患者によく用いますが、痛みがなくなると同時に顔色がよ決なり、時として浮腫が少し生じることがありますが、そのまま用いておりますと、その浮腫が変じて、いつの間にか痩せ衰えているのが肉がついてきて、大変元気に回復してきます。このような使い方をすることがよくあります。
 一般に、乾姜と甘草などを合わせたり、あるいは人参などが一緒になりますと浮腫を生じることがあります。甘草による浮腫がよくいわれておりますが、乾姜、人参が一緒にらるとそれが出やすくなります。そこで一時中止して、五苓散(ゴレイサン)などを服用させるとその浮腫はすぐに解消して、またもとに戻って続けることができるといわれております。しかしこれはそれほど障害になるような浮腫でなくて、むしろそのまま続けて服用してもよい結果になるということがしばしばあります。
 四順湯以後、つまり「心膈急に痛みて手も近づけがたきには実(枳実(キジツ))、苓(茯苓)を加う]から以下、たくさんの加味方が出ておりますが、加味方のところを勉強いたしますと、たとえば「渇いて水を飲むのは瑞(天花粉(テンカフン))を加う」とありますが、天花粉というのは口渇がある時の一つの証であるようなことがわかってきます。臍の上にチクチク動悸がするのは腎気であるから、白朮を去って肉桂(ニッケイ)を加えるというような用い方が書かれてあります。これが漢方の一味一味をうまく去加して用いてゆく時の使い方の参考になると思います。したがって、勉強なさることは大変必要ではないかと思います。しかし、時間の関係もありますので、人参湯に関してはこのへんにして、次に五積散(ゴシャクサン)に進みたいと思います。




副作用


重大な副作用

1. 偽アルドステロン症:
低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2. ミオパシー:
  低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
その他の副作用

 
頻度不明
過敏症注1) 発疹、蕁麻疹等
その他 心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等
  注1) このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

2014年3月12日水曜日

四逆湯(しぎゃくとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
四逆湯(しぎゃくとう)
本方は新陳代謝機能の極度に沈衰している場合に用いその機能を振興させる効がある。故に本方證の患者の脈は微脈であるか、もしくは遅脈であって、四肢厥冷し、屡々下痢・嘔吐等の症状を訴える。しかし、裏寒外熱の状がある時は脈浮遅弱となる。
本 方は甘草・乾姜・附子の三味からなり、甘草乾姜湯に附子を加えたものとみなすことが出来る。附子は、新陳代謝機能の沈衰を振興させる効が顕著であるから、 本方は甘草乾姜湯の證に似て、新陳代謝機能の沈衰が甚しい場合に用いる。従って、本方は新陳代謝機能が亢進し病證が発揚性の場合には、一切禁忌である。本 方は前掲のような徴候があれば、疾病の如何を問わず、これを用いるのであるが、殊に誤治の結果として現われる変證に本方を応用すべき場合が多い。
通脈四逆湯は四逆湯中の乾姜の量を倍加したもので、四逆湯證に似て、嘔吐・下痢及び手足の厥冷が甚しく、脈の殆ど絶えんとするものに用いる。
四逆加人参湯は四逆湯に人参を加えた方剤で、四逆湯證に似て、疲労が甚しく、体液欠乏の状あるものに用いる。
茯苓四逆湯は四逆加人参湯に茯苓を加えた方剤で四逆加人参湯の證に、煩躁・心悸亢進・浮腫等の状が加われば此方を用いる。


 『漢方精撰百八方』
56.〔方名〕四逆湯(しぎゃくとう)
〔出典〕傷寒論。金匱要略。

〔処方〕甘草3.0g 乾姜2.0g 附子1.0g

〔目標〕1.この方は四肢の厥逆を回復せしめる薬方であるから、もとは囘逆湯と名づけたのであるが、伝写の誤りで四逆湯となった。
2.誤治を重ねて、発汗を禁忌とするものを更に発汗せしめて手足が厥冷したもの。
3.嘔吐、下痢がはげしく、足が厥冷し、脈微弱となったもの。
4.体表に熱があって、裏に寒があり、完穀下痢する者、脈が浮いて遅である点に注目。
5.ひどく汗が出て、しまも熱が下がらず、腹がひきつれ、四肢もひきつれ痛むもの。
6.下痢しているのに、腹が張り、手足が冷え、脈が弱いもの。

〔かんどころ〕四肢の厥冷と脈(沈微、沈遅弱、浮遅弱)に注意。

〔応用〕感冒。流感。肺炎。急性吐瀉病。疫痢。自家中毒。虫垂炎。

〔附記方名〕
1.通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)
  この方は四逆湯中の乾姜を倍とし、前方よりも、更に重篤のものに用いる。

2.四逆加人参湯(しぎゃくかにんじんとう)
 四逆湯に人参を加えたもので、急激のはげしい出血に用いて著効を得た。

3.茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)
 四逆加人参湯に茯苓6.0gを加えたもので、四逆湯証にして、煩躁の甚だしいものに用いる。

〔治験〕高熱
  一男子、病名不明の高熱が二日前からあり、はじめ感冒だろうと、市販のかぜぐすりをのんだ。これで発汗して、やや下熱の傾向を示したが、また前よりも体温は上昇して、三十九度四分となった。そこで漢方の先生が麻黄湯を用いた。すると体温は四十度となり、煩躁状態となり、僅かに口渇を訴えるようになった。そこで大青竜湯を与えたところ、煩躁はますます甚だしく、手足は厥冷し、脈は洪大となった。そこで四逆湯を用いたところ、煩躁やみ、夜半より少しずつ下熱し、翌日、下痢があり、夕方平熱となった。
大塚敬節



『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
8 裏証(りしょう)Ⅱ
虚弱体質者で、裏に寒があり、新陳代謝機能の衰退して起こる各種の疾患に用いられるもので、附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、人参によって、陰証体質者を温補し、活力を与えるものである。

9 四逆湯(しぎゃくとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔甘草(かんぞう)三、乾姜(かんきょう)二、附子(ぶし)〇・五〕
本 方は、甘草乾姜湯に附子を加えたものとして、また、甘草附子湯から白朮、桂枝を去り、乾姜を加えたものとして考えることができる。したがっ て、新陳代謝機能が極度に衰退しているものに用いられる。表裏ともに虚寒証で、胃部の寒と四肢厥冷による身疼痛、嘔吐、腹痛、下痢(完穀下痢、泥状便、水 様便)などを目標とする。本方證では、発熱することはあっても手足の冷えが強い。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、四逆湯證を呈するものが多い。
一 感冒、肺炎その他の呼吸器系疾患。
一 胃カタル、腸カタル、消化不良症その他の胃腸系疾患。
一 腸チフス、疫痢その他の急性伝染病。
一 そのほか、食中毒、黄疸、虫垂炎など。

10 通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔四逆湯の乾姜を四に増量する〕
四逆湯證で、虚寒証の状の強いものに用いられる。したがって、嘔吐、下痢、四肢の厥冷などは強く、脈がほとんど絶えんとするものを目標とする。
〔四逆湯に人参二を加えたもの〕
四逆湯證で、疲労がはなはだしく、出血や体液の欠乏の状のあるものに用いられる。貧血で水分欠乏の状態となるため、下痢も膿血性下痢となる。本方と附子理中湯とをくらべると、本方には白朮が欠けているため附子理中湯證のような瘀水はなく、ただ寒が強いものである。
〔四逆加人参湯に茯苓四を加えたもの〕
四逆加人参湯證に、瘀水の状が加わったものに用いられる。したがって、煩操、心悸亢進、浮腫などを目標とする。



『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.229 感冒・下痢症・吐瀉病・急性食餌中毒・吃逆、心臓衰弱

56 四逆湯(しぎゃくとう) 〔傷寒・金匱〕
 甘草三・〇 乾姜二・〇 附子〇・五~一・〇
 水三〇〇ccをもって煮て一五〇ccとし、一日二回に分けて温服する。

〔応用〕 新陳代謝が極度に沈衰しているものを振興鼓舞させるときに用いる。
 裏(胃腸)の寒を温散し、四肢の厥逆(末端より血行が絶えて冷えてくる)を主治するので、これを四逆湯と名づけた。適当な治法を誤った場合に起こる病態に用いるものである。
 すなわち本方は発汗過度により、あるいは誤って発汗したり、誤って下したりして、手足が厥冷し、脈微虚となったもの。また感冒・下痢症・吐瀉病・コレラ・急性食餌中毒・急性、慢性胃腸炎・消化不良症・吃逆(しゃっくり)・外傷や手術または分娩等で失血甚だしく、心臓衰弱し、手足厥冷した場合・黄疸・中寒・陰症の浮腫等に応用される。

〔目標〕  裏の寒冷と虚、表の寒冷、表が仮りの熱であることがある。これを真寒仮熱といっている。脈は微、あるいは遅脈であり、四肢は厥冷し、しばしば下痢清穀(不消化便を下し)、嘔吐を起こす。手足の厥冷は必ずあり、l表にあるときは、仮熱の症状を呈し、裏にあるときは下痢する。
 四肢厥逆と身体疼痛と下痢清穀、あるいは小便清利というのが目標である。

〔方解〕  構成薬物の中、附子は表と裏といずれにも作用して寒冷を温め、寒によって起こる症状、すなわち冷え、疼痛等を去る。また寒に随伴する水の停滞をめぐらし、虚を補い、賦活振興させる。乾姜は裏の寒を温め、局所性貧血を調整するものであり、甘草は表と裏の虚を補い、消化器の機能を旺んにするものである。
 本方は裏の寒を温め、虚を補い、また表の寒を温めてこれを補い、下痢清穀を止め、四肢の厥冷を治し、新陳代謝の機能を促進させ、かつ強心の作用があるものである。

〔主治〕
 傷寒論(太陽病上篇)に、「傷寒、脈浮、自汗出デ、小便数(シゲ)ク、心煩、微悪寒、脚攣急スルニ反テ桂枝湯ヲ与エテ、其ノ表ヲ攻メント欲スルハ、此レ誤ナリ。之ヲ得テ便(スナワ)チ厥シ、咽中乾キ、煩躁吐逆スル者ニハ、甘草乾姜湯ヲ作リテ之ヲ与ヘ、以テ其ノ陽ヲ復セ。若シ厥愈エ、足温ナル者ニハ、更ニ芍薬甘草湯ヲ作ツテ与フレバ、其ノ脚即チ伸ブ。若シ胃気和セズ、讝語スル者ニハ、少シク調胃承気湯ヲ与ヘ、若シ重ネテ汗ヲ発シ、復タ焼鍼ヲ加エシ者ハ、四逆湯之ヲ主ル」
 これは治療の誤りによって表裏ともに虚し、寒証となったものである。四逆湯に関する条文は多端であるが『皇漢医学要方解説』では次の一〇項を略記している。
 (1)之を下して下痢を得、清穀(完穀下痢、食べたものがそのまま下痢となる)止まず、身疼痛する証(太陽病中篇)、
 (2)脈浮にして遅、表熱裏寒、下痢清穀の証(陽明病篇)、
 (3)自利して渇せざる証(太陽病篇)、
 (4)少陰病、脈沈なる証(少陰病篇)、
 (5)少陰病、始めて之を得、手足寒え、若し膈上に寒飲ありて乾嘔する証(少陰病)、
 (6)大汗出で、熱(虚熱)去らず内(腹中)拘急し、四肢疼み、又下痢、厥逆して悪寒する証(厥陰病篇)、
 (7)大いに汗し、若しくは大下利し、厥冷する証(厥陰病篇)、
 (8)下痢し、腹張満し、身体疼痛し、先づ其裏を温むべき証(厥陰病・金匱)
 (9)吐利して汗出で発熱(虚熱)悪寒し、四肢拘急し、手足厥冷する証(霍乱病門)、
 (10)嘔して脈弱、小便復(かえ)って利し、身に微熱有り、厥を見(あら)わす証(嘔吐下痢病門)。
 方極附言には、「四肢厥逆シ、身体疼痛シ、下痢清穀、或ハ小便清利スル者ヲ治ス」とある。
 また古方薬嚢には、「下痢の回数劇しく、出づる量多くして、手足冷反る者、手足伸びない者、むかむかと吐き気ありて、手足寒え、発熱あって寒けし、身体だるく、口中乾いても水を欲しがらない者、熱あって汗多く出で、腹中痛み、或は腹下り、さむけして手足が強く冷反る者。腹大いに張りて大便出ざれども、下剤を掛ければ下痢容易に止まざる者。幾度も汗をとったため、手足が冷えて元気のなくなった者。脈は沈の多し、本方は平常貧血性の者の風邪、下痢等に甚だ効あり」といっている。


〔加減方〕
 通脈四逆湯。四逆湯の中の乾姜の量を倍加し四・〇としたもので、四逆湯に似て、嘔吐・下痢、および手足の厥冷が甚だしく、脈がほとんど絶えんとするものに用いる。
 四逆加人参湯。四逆湯に人参二・〇を加えたもので、四逆湯証に似て、一層疲労と貧血が甚だしく、体液の欠乏を状のあるものに用いる。
 茯苓四逆湯。四逆加人参湯に茯苓四・〇を加えたもので、四逆加人参湯の証に、煩躁・心悸亢進・浮腫等の状が加わったものに用いる。

〔鑑別〕
 ○人参湯 111 (下痢、冷え・心下痞硬、心下部拍水音、小便自利)
 ○甘草乾姜湯 24 (手足厥冷・嘔吐がない、脈沈弱) 
 ○呉茱萸湯 39 (手足厥冷・嘔吐が主で、下痢は客)
 ○桃花湯 103 (下痢・便膿血を混ず)
 ○当帰四逆加呉生 106 (厥冷・四肢末端のみ厥寒、下痢せず)
 ○真武湯 75 (下痢・心下部拍水音・小便不利・眩暈・身動揺等の動揺性症状)
 ○桂枝人参湯 35 (下痢・脈浮弱数)

〔参考〕
 四逆湯およびその加減方の症状をみると、正常な血液循環が甚だしく障害された状態で、これらはショック症状・虚脱症状・急性心臓衰弱の場合に起こる一連の症候複合である。これらの症状に対して附子がきわめて有効に作用し、起死回生の妙効を発揮するものである。
 本方の主薬をなす附子は、キンポウゲ下に属する宿根草で、北半球の各地に産し、とくに北方山岳地帯に多い。その種類はわが国では六八種、中国では七六種、東亜地域を含めて一一九種の分類がなされている。一八三三年ドイツの Geiger 及び Hesse によって初めて毒成分が分離され、アコニチンの名が生まれた。
 以来洋の東西にわたり、アコニチンの研究は数多く数められ、わが国では明治一五年(一八八二)下山教授によって研究が開始され、真島・杉野目・落合教授およびその協同研究者によって成分の研究が続けられた。その毒性分は基原植物によって異なるが、アコニチン・メサコニンなどを初め、四〇種に及ぶアルカロイドが純粋に分離されるに至った。
 これらのアルカロイドは、その毒性の激しさ、アルカロイド中の王座を占め、呼吸・心臓を停止させ、神経系統の麻痺等、生物の重要器官を一時に侵害するものである。
 しかるに東洋医学にあっては、その母根を烏鳥、子根を附子と称して根の全部を用い、特有の操作を施して虚脱症状・心臓衰弱状態のとき、また鎮痛・利尿・興奮・保温等の目的をもって利用している。その使用方法を見とる、炮炙・煮煎等の理化学的操作を施し、その毒性を著しく減弱させ、アコニチン類以外の有効成分を巧みに利用していることが知られる。
 著者は、東京医大薬理学教室において、古くからアコニチンの薬理学的研究を続けておられた原三郎教授の指導の下に、化研田村国三郎理学博士(真島門下)の協力を得て、生薬烏鳥・附子の薬理学的研究に従事、その東洋医学的治療応用の本態を追究した。その結果、烏頭・附子の中には従来主成分とされていたアコニチン類のほかに、その心臓毒作用と全く反対の、心促進物質が併存していることが明らかとなった。これこそ東洋医学において、心臓衰弱の虚脱挽回に応用していたもので、その治療にあたって行なわれていた理化学的操作は、きわめて合理的であることを立証した。
 矢数道明、烏頭・附子の薬理学的研究及び治療応用の検討(日本薬理学雑誌 五四巻五号)

〔治例〕
 (一) 肺炎
 一三歳の女児。肺炎にて数日間高熱が続き、強い注射を行ない、高熱は下って三七度台となったが、元気さらになく、食欲衰え、口中が燥いて水を求めても、与えると飲むことができず、面色青く、ウトウトと睡り、ときどき煩(もだ)えて呻き声を発し、むせぶがごとく、泣くがごとくである。
 脈は浮細で数、小便はときどきある。裏寒陽虚の甚だしきものとして、四逆湯を与え、一服にして呻(うめ)き声やみ、一時間ばかり後には菓子を求め、談笑するようになり、一~二剤で全く治った。これは強き洋薬にて陽気を抑え過ぎたものであろう。
(荒木性次氏、古方薬囊)

 (二) 嘔吐・下痢
 六二歳の男子。突然はぎせい嘔吐と下痢が始まり、下痢は水様で腥(なまぐさ)いにおいがする。その量も多く、数回の下痢の後、たちまち声が枯れて出なくなり、腓腸筋は痙攣を起こして、ときどき強く拘攣し、額から冷汗が流れ、脈は微かに触れるほどになった。大量の通脈四逆湯を与え、下腹と下肢を温めた。これをのんで一時間もたたのに、腓腸筋の痙攣はやみ、下痢もやんで、その夜は重湯をのんでも吐かず、翌朝は発病以来初めて尿利があり、死地を脱することができた。
 通脈四逆湯は四逆湯よりも一般状態が重篤で、茯苓四逆湯は煩躁状態のひどいものに用いる。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)

 (三) 感冒
 三二歳の男子。数日むりをして徹夜に近い仕事をしていた。三日前より感冒にて床につく。体温は三八度で悪寒がした。翌日は四〇度に上昇した。患者の訴えは、なんとなくからだが重いというほか訴えがない。舌苔なく、しめっている。脈は浮大で九〇至。便通は昨日はなかった。尿は清澄である。足を握ってみると冷えている。これに四逆湯を与えると、二時間後軽い発汗があって体温下降し、夜は三七度五分、翌日は平熱となった。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)

 (四) 脱汗の症
 土州侯の臣、尾池治平の娘が疫病(流行病)に罹り、八~九日を経て汗が凄く出て、煩躁して眠ることができない。脈は虚して頻数で、四肢が冷たくなっている。多くの医は施すすべがなく、手をあげてしまった。私は茯苓四逆湯を作って与えたが、一~二日で汗が全ま、煩悶は去り、足が温かになって治った。
(浅田宗伯翁、橘窓書影)

 (五) 子宮出血
 湯島明神下の谷口佐兵衛の妻、四十歳ばかり。月経が多く下って止まない。ある日血塊を下すこと数個に及び、意識混濁して、手足は厥冷し、脈は沈微となり、冷汗が流れるようである。衆医は手を束ねてしまった。私はこれに茯苓四逆湯を与えたが、四肢の厥冷社f治って、精神状態が平常になって治った。
(浅田宗伯翁、橘窓書影)


『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
四逆湯(しぎゃくとう) [傷寒論・金匱要略]

【方意】 裏の寒証による手足厥冷・顔面蒼白・完穀下痢等と虚証による疲労倦怠・無気力等のあるもの。時に虚熱を伴う。
《少陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

裏の寒証 裏の寒証 虚証 虚熱
主証
◎手足厥冷
◎顔面蒼白
◎悪寒 ◎寒がり



◎完穀下痢

◎疲労倦怠



客証  頭痛 身体痛
 寒冷で悪化する疼痛
 四肢のこわばり
 四肢麻痺

 乾嘔 嘔吐
 吐利 吃逆
 流涎
 食欲不振
 水様便 泥状便
 先痛 腹脹満
 小便清利
 尿量過多
 身重
 無気力
 無欲状態
 元気衰憊
 寡黙
 嗜臥
 嗜眠

 発熱 微熱
 顔面紅潮
 自汗
 


【脈候】 沈・沈細・沈遅・弱・遅・微・微細・微絶。虚熱の場合には浮遅弱もある。

【舌候】 淡白舌。湿潤して無苔。

【腹候】 軟・軟弱・時に無力。皮膚に潤いがない。時に軽度の腹満や腹直筋の緊張がある。

【病位・虚実】 本方意は少陰病の定義の「少陰之為病、脈微細、但欲寐也」よく一致する。脈候および腹候は虚証を示し、舌候は陰証を示す。

【構成生薬】 甘草4.0 乾姜3.0 附子a.q.(0.5)

【方解】 甘草乾姜湯に附子が加わったものである。このまて本方意は甘草乾姜湯証よりも実証・水毒が一段と強く、裏の寒証が顕著になる。故に新陳代謝は低下し、疲労倦怠の深刻な虚証に有効である。乾姜・附子の組合せは強力な熱薬で、陰証で虚証の虚熱に用いることができる。本方意にも虚熱があるが、顕著な場合には通脈四逆湯を選用すべきである。

【方意の幅および応用】
 A1裏の寒証:手足厥冷・顔面蒼白・寒がり・完穀下痢等を目標にする場合。
   感冒、インフルエンザ、各種の疾患の潜証(小倉重成)
  2裏の寒証:完穀下痢・吐利・小便清利等を目標にする場合。   急慢性胃腸炎、急性消化不良、食中毒、疫痢、コレラ等
   各種急性伝染病で虚寒証のもの、吃逆、誤下後の壊病
 B1虚証:疲労倦怠・無気力等を目標にする場合。
   誤治による手足冷えて元気の衰憊したもの、虚弱者の感冒、下痢で虚脱状態のもの、
   外傷・手術・分娩出血によるショック
   急性慢性胃炎、幽門狭窄、胃十二指腸潰瘍、急性肝炎、妊娠悪阻 C 虚熱:発熱等を目標にする場合。
   各種疾患にて発熱しても脈弱く悪寒・疲労倦怠の強いもの、
   発熱し汗も多いが脈弱く悪寒・手足冷の強いもの、
   のどが乾いても水を欲しがらないもの

【参考】 *四肢厥逆し、身体疼痛し、下利清穀、或は小便清利の者を治す。『方極附言』

* 此の方は陰症正面の治方にて、四肢厥逆、下利清穀等が目的なり。其の他、仮熱の証に此の方を冷服せしむる手段あり。矢張り加猪胆汗の意に近し。又、附子剤に人尿を伍するも、陰物の品を仮りて其の真寒の陰邪と一和せしむるなり。又、此の方に烏梅・蜀椒を加え、温中湯と名づけて蛔厥を治す。『勿誤薬室方函口訣』
※猪胆汗? 猪胆肝の誤り

【症例】 赤痢
 5歳の児童。和昭8年7月23日初診。
 倦怠、食欲不振があったが、翌19日早朝突如高熱40℃。洋医は疫痢ならんとヒマシ油を以て峻下し、食塩水の皮下注射を行い、夕刻は37.2℃、やや良好となった。爾後洋医の治療を受くる事2日、再び発熱38℃から39℃、腹痛と共に下痢1日25回、便中膿血を混じ、甚だ重篤症状を呈するに至り、漢方治療を施す事となった。
 23日初診時、発熱39.5℃、意識昏迷、赤白痢1日25回、裏急後重あり、時に腹痛を訴え涕泣する。尿利全くなく、四肢厥冷する。肝臓を3横指触知。赤痢特有の左腸骨窩の索状物が証明され、圧痛あり。脈沈細数。舌苔は白色、その中央部は淡黒色である。湿潤せる煤の如きものであった。病は陰症に陥入したる事歴然であり、肝臓腫大、四肢厥冷は更に厥陰の症たる事を証明している。試に芍薬湯を投じて暫く病症の変化を静観する事にしたが諸症愈々悪化した。
 25日四肢厥冷、意識不明、目は白眼、脈ほとんど絶えなんばかり。わずかに強心剤、リンゲル注射の時のみ触知できるほどで、しばらくすると脈が絶えてしまう。過日わずかに発見できた舌上の黒苔は舌全面に拡がり、更に口中、唇にまで及んだ。あたかも口中漆を含んだ如くである。勇を鼓して四逆湯を投ずる事1日2貼、附子1日量8gであった。
 翌26日診するに、舌苔やや黒色を減じ、赤白痢は11回に減じた。しかし脈は依然沈細糸の如く、太谿の脈(腎脈)消失、一滴の小便も出ない。その服用量を尋ねるに指定量の半量に満たない。よって余自ら薬瓶を執り、1回に半貼量(即附子約2g)これを服用せしめ、なお終日時あらば絶えず続服せしめるように厳命した。翌27日薬効顕著に現れ、黒苔全く消失、四肢温暖となった。腹痛なく、下痢は5回に激減し、その中1回は黄色便となった。沈脈変じて浮脈となり、やや力あり、強心剤リンゲル氏液の必要がなくなった。肝臓腫大ほとんど消失、太谿の脈出でて少量の排尿あり、元気出で、わずかに食欲進む。ここにおいて陰症変じて陽症となり、危く瀕死の危地を脱した。
 28日更に四逆湯を続服しせめ、排尿回数を増し、元気出でたるも、赤白痢に変化なく日に5,6回あり。30日、発熱37.5℃が最高。下痢10回に増加し、小便4回、食思却て消失した。患者は最早四逆湯嫌忌する。上眼瞼に軽い浮腫を認め、よってすでに四逆湯症なきものと考え銭氏白朮散に転方、調理すること約1ヵ月、ついに全治す。
矢数有道『漢方と漢薬』1・4・24


副作用
1.附子
・心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等に留意。
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい。
・小児には慎重に投与。

2.甘草
・偽アルドステロン症[低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等]に留意。
・ミオパシー[脱力感、四肢痙攣・麻痺等]に留意常

併用する場合には、含有生薬の重復に注意
附子
甘草(甘草含有製剤とグリチルリチン類を含む製剤)

2014年3月7日金曜日

呉茱萸湯(ごしゅゆとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
呉茱萸湯は、呉茱萸・人参・大棗・生姜の四味からなり主薬たる呉茱萸は、生姜と組んで、血行を旺盛にし、更に人参・大棗と伍する時は、気の上逆を下し、胃 内の停水を散ずる効がある。故に胃に停水が貯溜して、心下膨満し、或は此部に寒冷を覚えて、嘔吐・頭痛等の患をなし、脈沈遅にして、手足厥冷し、或は煩躁 するものは、呉茱萸湯の主治する処である。片頭痛・吃逆・嘔吐・脚気衝心・子癇等の際に本方を用いてよい場合があり、また急性吐瀉病で、嘔気の止まない場 合にも用いる。
呉茱萸湯は飲みにくい方剤であるから、嘔吐のある際には少量ずつ頻回に服用してもよい。




『漢方精撰百八方』
67.〔方名〕呉茱萸湯(ごしゅゆとう) 

〔出典〕傷寒論、金匱要略 

〔処方〕呉茱萸3.0 人参2.0 大棗、生姜各4.0 

〔目標〕自覚的 嘔吐し、胸中から心窩部にかけて、つまったようで苦しく、手足が冷え、頭痛しやすく、或いは下痢する。
他覚的
脈 沈、沈弱、又は軟。
舌 湿潤した微白苔。
腹 腹力は中等度又はそれ以下で、上腹部に振水音を認めることが多く、心窩部に軽度の抵抗並びに圧痛がある。

〔かんどころ〕嘔吐し、頭痛し、手足が冷えて、むなもとつかえて、気分がわるい。

〔応用〕 1.心窩部が膨満して、食欲がなく、手足が冷えて、疲れやすいもの。
2.慢性胃炎又は胃アトニー等で、常に胃部停滞の感があり、嘔吐、頭痛を来しやすいもの。
3.常習頭痛の発作で、頭痛激甚、嘔吐し、手足が冷え、心窩部の膨満するもの。
4.吃逆が止まず、手足寒冷のもの。
5.小児の嘔気症で、手足の冷たいもの。
6.子癇。 

〔治験〕本方は太陰位で、虚実の間に位置する薬方であって、水毒が上下に激動する証を呈するものである。したがって激しい嘔吐、頭痛、手足厥冷、下痢等の症状のうちいくつかが、相伴って発来する場合が多い。
  五十九才の婦人。やせていて、顔色が悪く、年来の胃弱に悩まされている。手足がひどく冷え、デパート等の人混みの中に出て帰ってくると、必ずといってよい位に激しい頭痛がする。あまり激しいときには嘔吐を伴う。
  脈は沈細。ぜつは乾燥したやや厚い白苔。腹力は軟で、心窩部に中等度の抵抗と圧痛とがある。上腹部に軽度に振水音を認める。
  本方を続服すること五ヶ月で、顔色もよくなり、皮膚のつやも出て、胃部の不快感も、頭痛も、忘れたように消退した。
藤平 健



『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
7 裏証(りしょう)Ⅰ
虚弱な体質者で、消化機能が衰え、心下部の痞えを 訴えるもの、また消化機能の衰退によって起こる各種の疾患に用いられる。建中湯類、裏証Ⅰ、 裏証Ⅱは、いずれも裏虚の場合に用いられるが、建中湯類は、特に中焦が虚したもの、裏証Ⅰは、特に消化機能が衰えたもの、裏証Ⅱは、新陳代謝機能が衰えた ものに用いられる。
裏証Ⅰの中で、柴胡桂枝湯加牡蠣茴香(さいこけいしとうかぼれいういきょう)・安中散(あんちゅうさん)は気の動揺があり、神経質の傾向を呈する。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)・呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、水の上逆による頭痛、嘔吐に用いる。

6 呉茱萸湯(ごしゅゆとう)  (傷寒論)
〔呉茱萸(ごしゅゆ)三、人参(にんじん)二、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)各四〕
本 方は、半夏白朮天麻湯證に似て嘔吐の激しいもの、すなわち、虚寒証で胃部に瘀水がそれにつれて上下に動くために起こる各種の疾患に用いられ る。したがって、冷え症(手足厥冷)、頭痛(頭部の冷痛)、煩操、悪心、嘔吐、心下痞、胃内停水、下痢などを目標とする。また、発作性にくる頭痛、日射病 による頭痛で嘔吐を伴うものなどでもある。
半夏白朮天麻湯證では、水の上衝がつねにあるため、めまいのほうが嘔吐よりも強いが、本方證では、水の上衝が発作的に起こるため、嘔吐が強く、めまいは弱く感じられる。
〔応用〕
一 胃酸過多症、胃下垂症、胃アトニー症、腸カタルその他の胃腸系疾患。
一 食中毒、薬物中毒など。
一 そのほか、尿毒症、脚気、悪阻など。



『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.161 頭痛・常習性頭痛・偏頭痛・胃下垂症・子癇
39 呉茱萸湯(ごしゅゆとう) 〔傷寒・金匱〕
 呉茱萸三・〇 人参 二・〇 大棗 四・〇 乾生姜一・五

〔応用〕 寒飲が上下に動いて,吐いたり下したりし,煩躁し,手足厥冷し,重症の状を呈するものに用いる。虚証で冷え症のものに起こる。
  本方は主として,(1)急に頭痛と嘔吐と煩躁するもの、(2)偏頭痛で,発作時は目くらみ,手足厥冷し、冷汗が出、脈沈遅の者、(3)嘔吐の癖のあるも の、(4)涎沫を吐く癖のあるもの、(5)食餌中毒ののち嘔気乾嘔のやまぬものなどに用いられ,また、(6)蛔虫症で嘔吐し、涎沫を吐くもの、(7)胃酸 過多症で、呑酸・頭痛・嘔吐のあるもの、(8)尿毒症で嘔吐・煩躁するもの、(9)子癇で嘔吐・煩躁するもの、(10)吃逆(しゃっくり)、(11)脚気 衝心、(12)慢性頭痛、発作的に頭痛・嘔吐・眩暈を起こすもの、その他虚脱・昏倒・脳腫瘍・薬物中毒などに応用される。

〔目標〕  裏に寒があり、胃に寒水があって、気の動揺はげしく、興奮状態を呈するものである。虚証で・冷え症で・嘔吐・頭痛・煩躁等を主症とし、いまにも死にそう だと訴える。心下部の圧重感・涎沫を吐し・下痢などがあり・脈は沈細遅・心下部やや膨満し・あるいは陥没し・胃内停水・拍水音のあることがある。

〔方解〕  構成は簡単である。呉茱萸が主薬で、生姜・人参・大棗が補助薬となる。呉茱萸の味は苦くて辛く温める力があり、寒(こご)えた水を逐い、気の上衝するの を降下させる作用がある。生姜は人参を助けて裏の寒水を温め順らし、上衝の気を鎮静する。人参は心下痞を治し裏の虚を補い体力をつける。大棗は胸膈部の虚 を補い、気の満を治す。

〔主治〕
 傷寒論(陽明病篇)に、「穀ヲ食シテ嘔セント欲スルモノハ陽明ニ属スルナリ、呉茱萸湯之ヲ主ル。湯を得テ反テ劇ナル者ハ上焦ニ属スルナリ」とあり、また、
 「少陰病、吐利・手足厥冷・煩躁死セント欲スル者ハ呉茱萸湯之ヲ主ル」(少陰病篇)
 「乾嘔涎沫吐シテ、頭痛スル者ハ、呉茱萸湯之ヲ主ル」(厥陰病篇)とあり、
 金匱要略(嘔吐門)に、「嘔シテ胸満スル者ハ、呉茱萸湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ濁飲ヲ下降スルヲ主トス。故ニ涎沫ヲ吐スルヲ治シ、頭痛ヲ治シ、穀ヲ食シテ嘔セント欲スルヲ治シ煩躁吐逆ヲ治ス。肘後ニテハ吐酸嘈雑ヲ治シ、後世ニテハ噦逆(エツギャク)(しゃっくり)ヲ治ス。凡テ危篤ノ症、濁飲ノ上溢ヲ審カニシテ此方ヲ処スル時ハ、其効挙テ数エガタシ。呉崑ハ烏頭ヲ加エテ疝ニ用ユ。此症ハ陰嚢ヨリ上ヲ攻メ、刺痛シテサシコミ、嘔ナドモアリ、何レ上ニ迫ルガ目的ナリ。又久腹痛、水穀ヲ吐スル者、此方ニ沈香ヲ加エテ大ニ効アリ」とあり、
  餐英館療治雑話には、「此方腹ノ左ヨリサシコミ、嘔シ、或ハ涎沫ヲ吐ク者必ズ効アリ。右ヨリ差込ム証ニハ決シテ効ナシ、是レ和田家ノ秘訣ナリ、又凡ソ嘔吐ノ証、苦味ヲ吐スル者ハ肝胆ノ気上逆スルナリ、此方効アリ。
 (中略) 傷寒論ニ吐利、手足厥冷、煩躁死セント欲スル者呉茱萸湯之ヲ主ルトアリ。証ノ上ニテ見レレバ全ク四逆湯ノ主治ト一様ナレドモ、四逆湯ノ証ハ吐利シテ元気飛騰(ヒトウ)(とびあがること)シ、手足厥冷、煩躁も元陽(元気の大本)離脱セント欲スル故、手足ノ厥冷もi何トナク低ヨリ冷ユル気味アリ。腹モ耎(ヤワラカ)ニシテ心下ニ格別塞ルモノナシ。呉茱萸湯ノ目的ハ手足厥冷スルトイエドモ悪ル冷エセズ、並ニ手指ノ表ヨリ冷エ、四逆ノ証ハ陰証ユエ指ノ裏ヨリ冷ユ。此レ陽証ト陰証、厥冷ノ差別ナリ。呉茱萸湯ノ証ハ心下ニ必ズ痞塞スルモノアリテ煩燥ヲナス。且ツ痞塞スル故気血ノ往来ヲ窒礙スルヲ以テ厥冷ヲナス。此ノ証傷寒論ニ脈ノコトハナケレドモ、両証共ニ絶スルカ、マタハ至テ沈微沈細ノ類ナリ。(中略)呉茱萸湯ノ苦味ニテ心下ノ痞塞ヲ圧スト陰陽通泰シテ煩躁已ミ、厥冷回ル。只心下ノ痞塞ヲ標準トス。手足ノ指ノ表ヨリ冷ユルヲ目的トスベシ。此証ニ粘汗出デテハ脱陽ニテ附子に非ザレバ治セズ。薄キ汗ナラバ呉茱萸湯ナリ」とある。
 漢方治療の実際には、「発作性にくる激しい頭痛に用いる。多くは偏頭痛の型でくる。発作の激しいときは嘔吐がくる。発作は疲れたとき、食べすぎたとき、婦人では月経の前によく起こる。この発作は一ヵ月に一~二回のこともあれば、五~六回も起こる。発作の起こるときは、項部の筋肉が収縮するから、肩からくびにかけてひどく凝る。左より右にくる場合が多く、耳の後ろからこめかみにまで連なる。このくびの凝り工合が、この処方を用いる一つの目標になる。発作のときに診察すると、心下部が膨満し、患者も胃がつまったようだと訴えることが多い。漢方で心下逆満とよぶかたちになる。これも大切な目標である。また発作時には、足がひどく冷える。脈も沈んで遅くなる傾向にある。また一種の煩躁状態を伴うことがあり、じっと安静にしておれないで、起きたり寝たりして苦悶する傾向がある。嘔吐は強い発作のときには起こるが、いつもくるとは限らない。この嘔吐は悪心が強く、胆汁を吐く。このような頭痛のある患者は、発作のないとき、二~三ヵ月つづけると発作がおきなくなる。発作のときにのむと、たちまち頭痛が消散する」とある。


〔鑑別〕
 ○半夏瀉心湯 119 (嘔吐・心下痞硬、噯気、腹鳴、陽実証)
 ○五苓散 41 (嘔吐・陽証水逆、小便不利) 
 ○小柴胡湯 69 (嘔吐・胸脇苦満、往来寒熱、陽実証)
 ○四逆湯 56 (嘔吐・頭痛なし、四肢厥逆甚だし)
 ○半夏白朮天麻湯 120  (嘔吐・頭痛・軽症で緩証、眩暈)

〔参考〕
 矢数道明、呉茱萸湯証に就て(漢方と漢薬 二巻五号)
 矢数道明、呉茱萸湯の治験と失敗例(漢方 一巻一号・漢方百話)
 大塚敬節氏、呉茱萸湯につ感て(漢方の臨床 八巻二号)

〔治例〕
 (一) 頭痛
 一男子が急に狂人の如く、頭をかかえて躍り出した。何をきいても答えない。察するに頭痛のためらしい。嘔気があって手足が冷たく、目を閉じて顔色蒼白、室の中をぐるぐるまわって一刻もジットしていない。これに対して呉茱萸湯を与えること五~六貼で全く癒えた。
(吉益南涯翁、成蹟録)
 (二) 乾嘔
 ある男子が突然乾嘔(ゲーゲー声のみあって物が出ない)を発した。ある医師が小半夏湯を与えること七日に及んでも治らない。その乾嘔(からえずき)の声は大きく近所を揺り動かすばかりであった。先生を迎えて治を乞うた。心下が痞えて硬く、手足が厥冷している。そこで先生は呉茱萸湯を作って飲ませた処、三貼で全く治ってしまった。
(吉益南涯翁、続建珠録)

(三) 頭痛・嘔吐の発作
 六〇歳の婦人。猛烈な頭痛と繰り返す嘔吐、乾嘔で夜を明かした。脳天の百会の部と、こめかみの所とに梅干を貼り、手拭で針巻きをし、床の中で呻吟し、悶え苦しんでいる。激しい煩躁状態である。眼を開くとグラグラと眩暈がする。こんな苦しい思いをするなら一思いに死んだほうがよいと訴えている。脈は沈んで微かに遅く打っている。顔面は少しく紅潮し、不眠のためか眼球結膜は充血気味で、腹を診ると心下部は暗然と膨満して何か停滞している感じである。これを圧すると不快でたちまち嘔気を催す。舌は湿潤していて、手足が冷たい。身体全体が自分のもののような気がしないで、苦しくて身の置き所がないと感うのである。
 これは「少陰病、吐利、手足厥冷、煩躁死せんと欲する」もので、呉茱萸湯の証である。すなわち呉茱萸湯一貼を服すると、一〇数分で霧が晴れたように頭痛は去り、嘔気はやみ、二時間後に往ってみると、患者は鉢巻きを取り去って、伏臥位となり、見舞客と談笑しながら煙草をすっていた。
 この方二日分ですっかりよくなった。
(著者治験、漢方百話)

(四) 常習性頭痛
 三〇歳の婦人。小柄で中肉。数年前から、初めは一ヵ月に一回ぐらいの間隔をおいて激しい頭痛を訴えていた。このごろは一ヵ月に三回も激しい発作が起こるようになった。頭痛は睡眠の足りないとき、眼の疲れたときに起こるが、むりをしないときでも起こることがある。発作のときは左右の肩から頸が凝り、頭痛も左右のこめかみを中心に痛む。耳が鳴ることもある。頭痛の激しいときは吐く。
 診ると胸脇苦満があり、右側が顕著である。小柴胡湯の証のようにも見えるが、呉茱萸湯を与えた。薬をのみ始めて二ヵ月に一回だけ、月経前に軽い頭痛を訴えただけで、服薬を中止しても、それきり頭痛を忘れるようになった。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)


『臨床三十年 漢方治療百話 第一集』  矢数道明著 医道の日本社刊
p.284
呉茱萸湯の治験と失敗例
はしがき
 急性病で猛烈な苦しみを起こしているものに、漢方薬を煎じて呑ませるなど、およそ迂遠極まる話だと一般によく言われているが、病気の種類によってはそのようなことも絶無ではない。しかしここに述べようとする呉茱萸湯(ごしゅゆとう)の適応症に遭遇したときなど、実に見事に速かに猛烈な苦痛が氷解するので、思わず快哉を叫ぶことがある。ことに本方証は患者の苦痛がいまにも死ぬのではないかと思われるほどはげしく、しかも西洋医学的診断病名がつけられないことが多く、医師も家人も困惑の極に達するものであるだけに、漢方の偉力を発揮する絶好のチャンスである、かつて「漢方と漢薬」時代に、昭和十年五月号で私は「呉茱萸湯の運用に就て」と題して、その頃の治験を述べたことがあった。最近また本方の偉効を久しぶりに経験したのでここに追加しておきたいと思うのである。

一
 昭和廿六年十月十七日の朝、田舎にいる頃、近所の妻君が「おばあちゃんが、昨晩から頭が破れるように痛んで、吐いて吐いて狂っているという報せが来たから、すぐ往診してもらいたい」とあわただしく駈け込んで来た。素人の容態報告は時に単刀直入、中々名言を吐くことがある。私はこの言葉で呉茱萸湯証だとほと喜ど直感で断定した。それというのはこのおばあちゃんなる人の平常の体質傾向や日常生活をよく知っていたからである。急ぎ自転車で馳せつけて見ると、近所の人々が数人枕元を取り囲み、憂い顔で見守っている。患者は眼を閉じ、顳顬部から前額部にかけて、および、脳天、百会の所まで梅干の肉をベタベタに貼り、その上にシッカと手拭で鉢巻をして床の中でうんうん唸りながら転輾反側している。すなわちはげしい煩躁状態である。呉茱萸湯の頭痛は多く脳天から前額部にくるもので、これがすなわち厥陰の頭痛である。声をかけても眼を開かない。眼を開けるとグラグラと眩暈がして身体がどこかへ飛んでいってしまうようだという。頭痛は昨日の夕方から始まり、夜半にはげしく、ただ独りで苦しみ通し、人を呼ぶこともできずこのまま死んでしまうのではないかと思ったとのことだ。夜が明けるのを待って、やっとの思いで床を這い出し、戸袋につかまってようやく一枚の戸を繰り開け、通行人を呼びとめ救いを求めた。こんな苦しみをするぐらいなら一思いに死んだ方がましだと息も絶えだえに呻りながら訴えた。煩躁死せんと欲すの状である。本方証は話をしても気分が悪くなり中々問診に骨が折れるのが特徴である。
 顔面はむしろ紅潮を呈し、眼瞼を開いて見ると結膜もやや充血気味である。口唇はべつだんチアノーゼを呈していない。脈をみると深く沈んで触れ難いようであるが力はあるし、遅く五十六しかない。いわゆる脈沈遅である。仰臥させて腹をみると心下部に停滞するものがあって暗然と膨満し、ここを圧すと不快で嘔気を催す。腹力もあるが直腹筋緊張や胸脇苦満は認められない。頂部強直とまではゆかないが、首すじ天柱の辺は圧痛があるし肩も凝っている。吐くものを聞くと、最初は昼に食べたものでその後は水様のもの、吐くものがなくなると乾嘔が多く、声のみで物は出ない。長い嘔気を繰り返した後で少量の粘液か唾様のものが出つだけであるという。すなわち、乾嘔、吐涎沫である。舌は少し白苔があるが湿潤している。患者は口渇を訴えるが水は飲みたくないし、飲めばすぐ吐いてしまう。
 手足は冷えないかと問うと、足の方からゾーッと冷えてくると、身体中冷水を浴びせられるようで、その気持の悪いことはお話にならないという。これが四肢厥冷に当たるのであろうか、触れてみるとそれほど冷たくは感じない。自覚的に冷えを感じるようである。身体が自分のもののように覚えないし、苦しくて身の置き所がないという。これが煩躁の証である。
 診察が終ると乾嘔が始まったが軽くて済んだ。患者も集まった近所の人達もなんとか早く注射でもして楽にして欲しいという。私は呉茱萸湯の正証と確信したので、けっして死ぬようなことはないし、この病気には注射よりも漢薬の方が早く効くからすぐに取りにくるように、二時間すぎたら再びくるからと急ぎ帰って呉茱萸湯一剤を渡した。
 二時間後に結果はどうかと内心恐れを抱きながら行ってみると、患者は鉢巻を取去って伏臥位となり、見舞の人と談笑しながら煙草を吸っているのである。いまさらその偉効に自ら驚き古人の功績に感謝成た。きくと服薬して十分位で拭うように頭痛も嘔気も気分も治ってしまったとのことである。患者は制止するのもきかず、その日の夕方入浴し、その夜は熟睡、翌日は起床外出可能となった。
 本方証を発する人はどうも不遇な寡婦か、日常苦労が多く家庭的に不幸なものに多いよう思われる。この患者も六十歳を越えた実に不遇な寡婦で夫と生別し、娘に背かれ独りで日傭をしていて、発病前農繁期のため非常に冷えて無理をしていたということである。この時体温は平熱以下で血圧は一三〇であった。十数年来毎年二-三回気候の変わり目にはげしい胃痙攣を起こす癖があった。
 呉茱萸湯証でこの例のような症状を現わしたものは、現代医学の病名はなんとつけるべきであろうか。たいていの医師は高血圧か、尿毒症の前兆かもしれないとい乗であろう。尿毒症に本方を用うることもありうるが、一般的に言って血圧はどうも高くないように思われる。病名はともかくなぜこうした苦悶状になるのかというと、漢方ではこれを「胃中虚寒、濁飲上逆」の致すところであるという。現代医学の言葉を借りて言えば、本方証の頭痛は胃腸疾患に因する、内因性中毒(水毒即濁飲がこれに当たる)によって脳内圧が亢進し、反射的に起こる頭痛であり、嘔吐は胃粘膜の知覚神経刺激が、体内性毒物によって起こるものであると説明してよいかと思う。

 呉茱萸湯の処方
 呉茱萸三・〇 人参 大棗各二・〇 生姜四・〇(乾生姜ならば二・〇)
 君薬としての呉茱萸は味は辛苦、性温熱で、胃を温め気を下し、水毒を去り欝滞を解くといわれ、胸中の逆気を開豁する作用がある、臣薬としての生姜は味辛く性温で、胃中の水飲を利し、胃口を開いて嘔を治す。佐薬である人参は胃気をたすけ、元気をまし、大棗は胃を調和する。この四つの薬が君臣佐使、よく協力して、閉ざされた胃の関門の扉を押し開き、上半身に逆流した濁飲水毒を下焦に導き、全身上下を調和平衡させる能力を発揮するという、全く恐れ入った薬方である。古人の病証観察の精密を極めたことも感嘆に堪えないところである。
 竜野一雄氏の要方解説、指示中に、「本方は要するに裏に寒(中部に寒水)があって、気動劇しきものが目標である」と述べている。寡婦苦労の者、常に心気欝々として心下に痞え、一時に発して気動劇烈となることがうなずかれると思う。

二
 さて第一例は呉茱萸湯の見事な治験であるが、これは呉茱萸湯証が異っていたためそれとは確定出来ず、患者を数時間苦しませた、冷汗背斗の失敗談である。
 昭和廿六年十月五日、当時急用のため上京し、日帰りで夕方帰宅してみると、町内の旅館の主婦が、午後から胃痙攣で猛烈な苦しみを起こし、鎮痛の注射を二回もしてもらったが効かず困っているからとて、もう三回も迎えが来たという。その後どうなったか電話で聞いてみると主治医である友人が出て、どうしても止まらないので、いま三回目の注射をしたところ、やっと痛みがとれて眠った様子だから、もし再び悪いようなら頼みたいとのことで、ホッとして夕食を摂っていると、またまた使者があわただしく走って来て早く来てもらいたいとのことである。鎮痛の注射でも治らない胃痛ならばまず甘草湯をと一剤を鞄の中に入れて出かけた。ちょうど夜の九時で発病後五時間を経過している。病家に近づくと屋内からうなり声がしきりに聞えてくる。
 三回目の注射で痛みは止んだが、先程から猛烈な嘔吐で苦しみだしたという、友人もなんとも困ったが他に重大な病気も発見できないとのこと、盲腸炎でも、腸捻転でもなし、穿孔性腹膜炎も考えられないと発病以来の病状と経過を語ってくれた。病室に入ると、患者は大兵肥満十九貫もある四十五歳の婦人であるが、床の上で転輾反側、苦しい苦しいと叫びながら身をもだえている、著明な煩躁である。苦しそうで眼を開かない。脈を診ようとするが一刻もジットしていない。辛うじてその脈は沈遅であることが判った。熱はない。腹は大変脂肪に富んでいるが、心下痞硬も緊張も硬結も圧痛もどこにも見当たらない。胸部所見もない。心下を押えると苦しいと叫んで嘔気が始まった、全くの乾嘔「カラエッキ」である。声あって物が出ない。連続する十数回におよぶはげしい嘔気の末、出るものは極く少量の一沫の粘痰である。そのたびに患者は苦悶を訴え、衣を蹴り、看護の人の手を払い、近づく者を突き飛ばし、だめだためだと起き上がって暴れだす。顔色はそんなに悪くはない、四肢の厥冷もない。現在はこの頑固な乾嘔と躁煩と胸の中が苦しいと訴えることと、動くと眼まいがするというだけのことである。嘔気と呻吟の声は室を揺がすばかり、急を聞いて親戚知人は馳せつけて部屋に満ち、ただ立騒ぐばかりである。友人はもはや打つべき注射もないという。この友人は私のこの町で最も親交があり、お互に信頼し合っていたが、漢方医学については、しばしば「急場に煎じ薬ではね」と卒直に漢想を洩らしたことがあり、患者は私の小学校当時の同級生で、遠隔地の難病者が遥々私たちの所へ診察にくると、この旅館を指定旅館としていたので、患者を通じて漢方のことはよくきいているが、「急性病の時は困ることもあるでしょう」と言ったことがあり、私としては、漢方の急性症に対する偉力を眼のあたりに実証してみたい最適の場所なのである。
 症状を観察して呉茱萸湯を思い浮かべたが、私の治験はみな猛烈な頭痛と嘔吐でこの患者にいくら聞いても頭痛はしないという。手足は冷えないというし、少しも厥冷していない。かくするうち、友人はほかの患者の迎えがきて席を立ってしまう。躁煩狂乱はますますひどい。見舞の人々は一体どうしたのだというのだと騒ぎ立てる。急迫の状であるから試みに甘草湯を与えてみることにした。騒ぎを聞きながら十五分ほどで自ら煎じ、自ら徐々に与えてみた。患者は苦悶の中にも無意識に吸呑み一杯を飲み乾した。二分三分、その反応如何を見守った。呻吟は一向にやまない。甘草湯が応ずればこれも即座に奏効すべきはずである。どうも適方でない。
 家人の提案で灌腸してみた。患者は大苦悶とともに二十分ほど前にのんだ甘草湯を全部吐いてしまった。そこへ友人が「内科診療の実際」を持ってやってきた。鎮吐剤の頁を開き、劇烈でいかなる薬剤も受けつけない場合、アネスチジンを少量ずつ与えること、またはインシュリン、葡萄糖を注射することなどが書いてある。いずれがよいか相談を受けたので、私は先生悪阻のはげしいのにインシュリン注射で奏効するものがあるということを産婦人科医より聞き、患者自身からもその効果あることを確かめたことがあるので、そのむねを語り、後者に賛成した。すでに往診してこの苦悶を目前に拱手傍観すること四時間におよんだのである。
 さの間、馳せ帰って試みに呉茱萸湯をもう一度与えてみようと幾度か思ったが騒ぎが大きくてなんとも決断しかねた。さて上から甘草湯を吐くと、患者は灌腸のため便意を催し、家人三名に抱かれ呻吟しながら上圊した。友人と協議の結果注射の用意をして便所から帰るのを待つ、インシュリン十単位と葡萄糖四〇ccを友人は用意した。便所から帰った患者の呻吟は大分軽くなったようである。友人は直ちにその注射を済ませて居間へ引き上げ、経過を観察することにした。それからというものは急に患者の呻吟も嘔気もピタリと止まってしまった。家人も私たちも心配で病室へ赴く脈を診たり、鼻孔へ手を当てたりしてみたが、大丈夫である。スヤスヤと眠り始めたのである。友人と二人でホットした。お互に顔を見合わせていったい何が効いたかと私語した。
 (一)時の経過、自然療能のためか。 (二)甘草湯で大量に吐き、灌腸で下口が通じ、上下疎通したためか。 (三)インシュリン、葡萄糖が速効を現わしたものか。
 そのいずれかは判らないが、家人や見舞人の感謝の中でほろ苦いビールに夜食を馳走になって帰った。暁の三時半である。数日にしてこの患者は全快した。
 傷寒論、金匱要略の条文を反省してみると、
 (一)穀を食して嘔せんと欲するものは呉茱萸湯之を主る(陽明篇)。 (二)吐利、手足厥冷、煩躁死せんと欲するものは呉茱萸湯之を主る(少陰篇)。 (三)乾嘔、涎沫を吐し、頭痛するものは呉茱萸湯之を主る(厥陰篇)。(四)嘔吐して胸満するものは呉茱萸湯之を主る。(金匱嘔吐門)
 私は今迄第三の乾嘔、涎沫を吐し、頭痛するものの経験多く、応用が効かず、頭痛や四肢厥冷の文字にあまりとらわれて決断がつかなかったものである。
 本患者には、「煩躁死せんと欲する」症、「乾嘔涎沫を吐す」の症、「嘔吐して胸満する」症が発現し、頭痛四肢厥冷は欠乏したが、脈沈遅、正しく呉茱萸湯証であったのである。往診直ちに本証と断定しうれば、急性症には漢薬はだめだといった友人にも患者にも眼のあたりその偉力を認めてもらえたのにと残念でたまらなかった。
 大塚敬節氏の要方解説、呉茱萸湯の所をその後開いてみたら、応用の中の一つに「霍乱にて悪物を悉く吐き尽して後、但嘔気止まざる者に用ゆ」おあっていまさらながら、患者を五時間近くもあの苦悶に悩ませ、親戚知人に心配をさせたことは慚愧に堪えなかったし、漢方の偉力を示す絶好の機会を失ったことは返えすがえすも残念である。記して後日の戒めとするゆえんである。
 ちなみに本患者も寡婦で、過般の大火に一切を灰燼に帰し、再興のため身心ともに疲労困ぱいし、しかも発病の前日まで、一週間も知入が入院したのでこれを看護し、不眠不休で奉仕して帰って来たばかりのところで本証を発成ている。

三
 この例も、呉茱萸湯と判断したが、患者がどんな薬でもくすりというものは一切飲めないという、特異体質者であるので投薬せずに病状を観察した例であり、いささか興味あることか感じられた英で附記する。
 五十歳の肥満症の婦人で、血圧が二〇〇以上もあり、頭重肩凝を訴え、他の町の病院から院長を招いて脳圧を下げる目的で脊髄液を採り、ビタミンB1液を注入したという。院長はそのまま帰ってしまって四時間ほどすぎると患者は猛烈な頭痛と嘔気を発し、苦しい苦しいと呻吟して一刻もジッとしていられなくなったとのことである。脊髄液を取った後でよくはげしい頭痛を訴えることはよく注意されていることである。私も南方で熱帯マラリヤの脳症を起こしたものには必ず脊髄液をとることが規定となっていたのでよく経験した。この患者をみてその症状が、煩躁、嘔気、頭痛、脈沈と正しく呉茱萸湯証の具わることに気がついた。
 家人は内服はとても飲めないから葡萄糖を注射してもらいたいとの願いである。以前も漢方と漢薬誌で述べたことがあるが、本方証に葡萄糖の注射は適応していると思われ、ちょうどその時他の胃潰瘍患者に葡萄糖の注射をしての帰途だったので注射だけ済ませ、もしこれで治らなければよい薬があるから無理にも飲むようにとすすめ、一方漢方医学的に呉茱萸湯と思われる本証がいかなる経過をとるものかを知ろうと期待して帰った。翌日きいてみるとその夜半から頭痛も薄らぎ諸症軽快したとの報告である。証に自然的推移解消のあることを知り得たのである。この時患者の血圧は一三〇で、本症患者はむしろ低血圧を呈するものが多いように思われることも興味ある問題と思われる。急激に脊髄液を取ったため血圧は下降し、反面に脳内圧が平衡を失して起こる一時的現象であろうか。
 慢性頭痛の発作癖を持つ者も相当にある。これは主として、痩型、色白の、弛緩性体質者でアトニー、胃内停水のある者に多く、身心の過労などで毎年一-二回、あるいは毎月一-二回、きまって猛烈な頭痛とともに嘔気や眩暈を発作的に起こし、二三日頭も挙らず絶食すると一応症状は静まる。そしてこの発作を繰り返すのである。私は眩暈がひどい場合はよく後世方の半白天麻湯を使うことにしているが、半白天麻湯の奏効しないものや、頭痛を主とする発作の時には呉茱萸湯を投与して効果果収めている。

呉茱萸湯の応用について
 第二例の失敗は本方証の本態に対する認識が皮相の観察に止まり、理解が足らず応用がきかなかったことに因るものだった。本文を終るに当たって、大塚氏、竜野氏らの要方解説から、本方がいかなる場合に広く応用されるかを備忘のため次に列記することとする。
 竜野氏は指示として、
 「虚性質、冷え症で嘔又は吐を主症とする。之に心下部圧重感、頭痛、涎沫、胸満、煩躁、下利等の動揺性症状を伴う。本方は要するに裏寒があって気動劇しきものが目標である。脈は沈又は細、腹症は心下部陥凹又は膨満いずれにせよ軟かである。拍水音を認めることもある」
 と述べておられるが、これは簡にして要を尽したものと思われる。以上の指示によって種々の応用範囲が拡げられる。
 (一)頭痛、嘔吐、第一例のようなもの。
 (二)偏頭痛、発作の起こる時は目くらみ、手足厥冷し、冷汗出で、脈沈遅の者。
 (三)嘔吐癖、大塚氏例、一処女数年前より、朝食毎に一椀の食を喫し終れば、一瞬時意識不明となり、食せし物を悉く吐出す。医治効なし、此方三週間にて根治す。
 (四)吐涎沫癖、小児平生頻りに涎沫を吐する者。
 (五)嘔気、霍乱にて悪物を悉く吐き尽して後、ただ嘔気のみ止まざる者→第二例。
 (六)蛔虫症、嘔または涎沫を吐する者。
 (七)胃酸過多症、呑酸、頭痛または吐する者。
 (八)尿毒症、嘔または吐、煩躁し虚寒性の者。
 (九)子癇、嘔吐または下利、脈腹無力、手足冷え、頭痛煩躁体倦の者。
 (一〇)吃逆、気上衝によるしゃっくりで、本方にてよい者がある。
 (一一)脚気衝心、本方にてよい者がある。
 (一二)慢性頭痛、年に数回、月に一-二回、発すれば頭痛、嘔吐、眩暈甚だしく頭も挙らず、食を絶ち二-三日にして静まるが永年この発作を繰り返すものにこの方の証がある。



※顳顬(しょうじゅ):こめかみ
※拱手傍観(きょうしゅぼうかん):手を出さないで、ただ、ながめていること。


『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
23.呉茱萸湯(ごしゅゆとう) 傷寒論
  呉茱萸3.0 人参2.0 大棗4.0 生姜4.0(乾1.0)

(傷寒論)
○食穀欲嘔,属陽明也,本方主之,得湯反劇者,属上焦也(陽明)
○少陰病,吐利,手足逆冷,煩躁欲死者,本方主之(少陰)


(金匱要略)
○嘔而胸満者,本方主之(嘔吐)
○乾嘔,吐涎沫,頭痛者,本方主之(嘔吐)

〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 頭痛がして冷えを伴い、胃部圧重感があり、嘔吐または悪心があるもの。
 本方は主として平素胃腸置弱いもので,発作性頭痛や偏頭痛を訴えるものに用いられ、発作時に嘔吐や悪心があって,腹部や手足が冷えることを目安に応用すればよいが,この場合の頭痛は激しいのが特徴となる。頭痛,嘔吐(悪心)を主症状とす識ものに次の処方がある。処方鑑別の目標は,次の各項を参考にすればよい。
<乳児の吐乳> 健康児の溢乳や急性腸カタル,消化不良症などで,授乳のたびに吐乳するもの,あるいは吐乳がひどく水分欠乏を来たすもの,これらのものには,五苓散適応証が多い。
<自家中毒症> 3~4歳から10歳前後の者の嘔吐や胃腸症状には,人参湯や六君子湯の適することが多い。
<吐瀉病> 本方が適する吐瀉病は,消化不良性の汚物をはき,はどい頭痛を訴える。五苓散の場合は吐瀉汚物のほとんどが水分で,著しい口渇を訴える。漢方には痰飲(たんいん)の頭痛といわれる頭痛がある。それは消化管内に長年停滞した過剰水分が,病的変化をきたし頭痛を併発すると考えられ,本方のほかに半夏白朮天麻湯などがあり,要するに胃腸が虚弱なものに多い水分代謝障害,あるいは水分の胃腸循環障害などの傾向あるもので,頭痛を訴えるものには,ぜひ試みるべき処方である。

〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○激しい発作頭痛で嘔吐を伴うもの。
○心下部に振水音をみとめ,あるいは膨満して硬く,嘔吐したり,唾液を吐いたり,下痢したりするもの。
○手足が厥冷して煩躁するもの。
○これらの場合,脈は沈遅,沈弱のものが多決,舌に湿潤した細かい白苔があり,腹部は腹力が中等度以下のものが多い。
○本方を用いるような人は,裏に寒飲がある場合である。裏は体内のことで消化管に相当する。飲は痰飲のこと。すなわち,水分が停滞し,かつ冷えているもの持;寒飲である。これはたとえば夏冷たい氷水を急いでごくごく飲むと,こめかみあたりがキューッと痛くなることを経験されていると思うが,これが一時的な寒飲の状態である。呉茱萸湯が適当するような人の体質的にこのような状態が長くつづいているのである。
○大塚敬節氏は漢方の臨床8巻2号で次の様に述べている。
 (1) 呉茱萸湯の頭痛は,偏頭痛の形が多く,そのとき必ずといってよいほど肩こりを伴う。この肩こりは耳のうしろからこめかみのところにあらわれ,下からさしこんでくるようだと患者はいう。
 (2) 向うとは多くは激しい頭痛を伴い、1回に大量の水を吐くことはなく,吐きそうにしても,何も出なかったり,胆汁だけを吐いたりする。
 (3) 手足が冷える。
 (4) 頭が痛むときも煩躁を伴う。
 (5) 脈は発作時には沈遅になることがあるが,かえって数になることもある。発作のない時には脈はあまりあてにならない。
 (6) 腹証は平素から胸脇苦満や心下痞硬のあるものもある。発作時には胸ぐるしく,みぞおちがつまったようになる。
 (7) 梧竹楼方函口訣には「本方の頭痛は,頭心より,項につらなって痛み,左肋の痃癖が甚しい。これは太陽病の頭痛と区別しなければならない。本方証のような厥陰や少陰の頭痛は何れも耳のうしろからくるものである。」
○凡そ嘔吐の証で苦味を吐くものは肝胆の気が上逆するものでこの方が効く。


〈漢方診療の実際〉 大塚 矢数,清水 三先生
 呉茱萸湯は呉茱萸,人参,大棗,生姜の四味からなり,主薬たる呉茱萸は,生姜と組んで,血行を旺盛にし,更に人参,大棗と伍する時は,気の上逆を下し,胃 内の停水を散ずる効がある。故に胃に停水が貯溜して,心下膨満し,或は此部に寒冷を覚えて,嘔吐,頭痛等の患をなし,脈沈遅にして手足厥冷し或は煩躁 するものは呉茱萸湯の主治する処である。片頭痛,吃逆,嘔吐,脚気衝心,子癇等の際に本方を用いてよい場合があり,また急性吐瀉病で嘔気の止まない場合にも用いる。呉茱萸湯は飲みにくい方剤であるから,嘔吐のある際には少量ずつ頻回に服用してもよい。


〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 寒飲が上下に動いて,吐いたり下したりし,煩躁し,手足厥冷し,重症の状を呈するものに用いる。虚証で冷え症のものに起こる。本方は主として
 (1) 急に頭痛と嘔吐と煩躁するもの
 (2) 偏頭痛で発作時は目くらみ,手足厥冷し,冷汗が出,脈沈遅の者
 (3) 嘔吐の癖のあるも の。
 (4) 涎沫を吐く癖のあるもの。
 (5) 食餌中毒ののち嘔気乾嘔のやまぬものなどに用いられ,また
 (6) 蛔虫症で嘔吐し,涎沫を吐くもの。
 (7) 胃酸過多症で呑酸,頭痛,嘔吐のあるもの。
 (8) 尿毒症で嘔吐,煩躁するもの。
 (9) 子癇で嘔吐,煩躁するもの。
 (10) 吃逆。
 (11) 脚気衝心
 (12) 慢性頭痛
 (13) 発作的に頭痛,嘔吐,眩暈
を起こすもの。その他虚脱,昏倒,脳腫瘍,薬物中毒などに応用される。裏に寒があり,胃に寒水があって,気の動揺はげしく,興奮状態を呈するものである。虚証で,冷え症で嘔吐,頭痛,煩躁等を主症とし,いまにも死にそう だと訴える。心下部の圧重感,涎沫を吐し,下痢などがあり,脈は沈細遅,心下部やや膨満し,あるいは陥没し,胃内停水,拍水音のあることがある。


〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 運用 1. 嘔吐
 胃に寒と停飲があって上衝し嘔吐や頭痛を起し,手足冷え,或は煩躁するものを治す。脉は沈である。これ丈の条件が揃っていなければどんなに吐いても本方の証ではない。頭痛や煩躁は不定で,頭痛を伴うこともあり,甚しければ,煩躁することもあると読んでほしい。本方の原典は左記の4条を掲げている。
1. 穀を食し嘔せんと欲するは陽明に属するなり,呉茱萸湯之を主る。渇を得て反って劇しきものは上焦に属す(傷寒論陽明病)
2. 少陰病,吐利,手足逆冷,煩躁し死せんと欲するものは呉茱萸湯之を主る(同書少陰病)
3. 乾嘔,涎沫を吐し,頭痛するものは呉茱萸湯之を主る(同書厥陰病)
4. 嘔して胸満するは呉茱萸湯之を主る。(金匱要略嘔吐)
 大体同じような意味のものだが逐一審議しよう。
 1. 食事をして嘔き,此を催すのは陽明病に分類される。呉茱萸湯の主治である。之を飲んで反って嘔きけが劇しくなるのは上焦の病のために起ったものだ。胃が丈夫なら食物を摂っても何ともない筈だが,若し胃が弱くなっていたり胃に冷えがあると食物を受けず嘔きそうになるから,胃を補い,温めれば嘔きけは止まるとの意である。 (中略)陽明病は胃熱が本型だが,中寒や胃中冷のタイプもある。本方は中焦を治すから本方で効かぬのは上焦性のものである。
 第二は少陰病で吐いたり下したりして手足が冷え上り,煩躁して死ぬ程苦しむものを主治するという。要するに中焦は身の真中だからそこが虚寒すると吐いたり,下したりし,中央は四辺を支配するから手足に冷えが起こり,反動的に煩躁して熱を起そうとするのだ。(中略)
 浅田宗伯先生曰く「此方は濁飲を下降するを主とす。故に涎沫を吐するを治し,頭痛を治し,食穀欲嘔を治し,煩躁吐逆を治功。肘後にては吐醋嘈雑を治し,後世にては噦逆を治す。凡危篤の症濁飲の上溢を審にして此方を処するときは其効挙て数えがたし,呉崑は烏頭を加えて疝に用ゆ。此症は陰嚢より上を攻め,刺通してさしこみ嘔などあり。何れ上に迫るが目的なり。又久腹痛水穀を吐する者此方に沈香を加えて効あり。又霍乱後転筋に加木瓜大に効あり。」(勿誤薬室方函口訣) (中略)
嘔吐を主として使う場合は下利や腹痛や頭痛を伴っていても差支えない。脉沈弱,手足冷,腹壁軟弱,或は反対に上腹部緊張,時には胃部に拍水音を認めることがある。
(後略)

 運用 2. 下利
 下利だけでは使わず,嘔吐を伴うもの,急性のものに使うことが多い。

 運用 3. 頭痛
 頭痛だけということは無く,嘔吐を伴うのが普通である。頭痛が本で反射的に嘔吐を伴うものもあれば,嘔吐して頭痛を起こして来るものもある。熱の有無は問わないが多くは無熱であり熱があっても脉は遅や沈を呈する。偏頭痛,水を飲み過ぎて起る頭痛,薬物中毒,尿毒症,脳腫瘍その他の中枢神経系疾患に於ける頭痛,胃疾患に伴う頭痛,婦人科的疾患に伴う頭痛など応用は広い。運用1.の諸条件を参照して使う。類証鑑別を要するのは麻黄細辛附子湯,四逆湯,人参湯,苓甘姜味辛夏湯,五苓散などである。なお頭痛を項背強に転用しることが出来る。

 運用 4. 煩躁
 吐利煩躁するものもあれば,嘔して煩躁するもあり,嘔吐頭痛して煩躁するものもあれば,ただ頭痛,煩躁もある。煩躁が劇しいのが特徴で,他に運用1.の如き所見が認められる。誤治の結果,中毒,尿毒症などで時折見受ける。てんかん,小児のひきつけなども是に属するものと見てよい。

 運用 5.嘈雑
 運用 6.吃逆
 運用 7.涎沫
 胃から上って来る水,唾,よだれ,泡のような痰などを含めている。従ってそれが出る病気は本方を応用する機会が悪る。例えば胃酸過多症,蛔虫,よだれ多きもの,老人の痰持ち等々,運用1.を参照して使う。




『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
呉茱萸湯(ごしゅゆとう) [傷寒論・金匱要略]

【方意】 脾胃の水毒の動揺による頭冷痛・嘔吐等と,脾胃の虚証・脾胃の水毒による食欲不振・心下痞・胃腸虚弱等と、寒証による顔色不良・手足冷等のあるもの。
《太陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

脾胃の水毒の動揺 脾胃の虚証
脾胃の水毒
寒証 虚証
主証
◎頭冷痛
◎嘔吐 ◎乾嘔



◎食欲不振
◎心下痞
◎胃腸虚弱

◎顔色不良
◎手足冷



客証 ○項背痛
 目眩
 胸満 胸痛
○煩躁 興奮
 呆然 意識消失
 頭冒感
 吃逆
  
 腹満 腹鳴
 上腹部振水音
 呑酸 嘈囃
 流涎
 下痢
 尿不利
 腹痛
 寒がり

 疲労倦怠
 無気力 


【脈候】 沈・沈弱・沈遅・微沈・微緩・微細・浮弱・浮細。

【舌候】 湿潤して微白苔。

【腹候】 腹力やや軟から軟、時に軟弱。心下部は膨満または陥凹し痞硬がみられる。しばしば上腹部に振水音があり、同部の触診で冷たく感じる。

【病位・虚実】 本方意は脾胃の水毒が根本であり、寒証はかなり深いとされるが、全身の新陳代謝の低下をきたすに至らず、太陰病に相当する。脈力、腹力の低下があり虚証である。

【構成生薬】 呉茱萸5.0 大棗3.0 人参3.0 生姜1.5

【方解】 呉茱萸は温性の健胃・利尿・鎮痛薬で、水毒の動揺を鎮静し頭痛・嘔吐を治す。生姜も温性の健胃薬で悪心・嘔吐に対応する。大棗も温性で滋養・強壮・鎮痛作用がある。生姜・大棗の組合せは脾胃の虚証を滋養する。更に人参は脾胃の虚証より派生する食欲不振・心下痞硬・胃腸虚弱・疲労倦怠を治す。

【方意の幅および応用】 A1脾胃の水毒の動揺:嘔吐を目標にする場合。
   急慢性胃炎、胃下垂、二日酔、胃潰瘍、幽門狭窄、吃逆、急性肝炎、妊娠悪阻、尿毒症
  2脾胃の水毒の動揺:頭冷痛を目標にする場合。
   偏頭痛、冷たいものを食べて起こる頭痛、薬物中毒、尿毒症、脳腫瘍、
   胃疾患に伴う頭痛
  3脾胃の水毒の動揺:煩躁・興奮を目標にする場合。
   誤治、中毒、尿毒症、ひきつけ
 B1脾胃の虚証・脾胃の水毒:食欲不振・心下痞・胃腸虚弱等を目標にする場合。
   急性慢性胃炎、幽門狭窄、胃十二指腸潰瘍、急性肝炎、妊娠悪阻
  2脾胃の虚証・脾胃の水毒:呑酸・流涎等を目標にする場合。
   胃液分泌過多症、老人の慢性喀痰、流涎の多い者
 C 寒証:顔色不良・手足冷・腹痛等を目標にする場合。
   月経困難症、不妊症

【参考】 *胸満し、心下痞硬して、嘔吐する者を治す。『方極附言』

*此の方は濁飲を下降するを主とす。故に涎沫を吐するを治し、頭痛を治し、食穀欲嘔を治し、煩宋吐逆を治す。『肘後』にては吐醋嘈囃を治し、後世にては噦逆を治す。凡そ危篤の症、濁飲の上溢を審らかにして此の方を処するときは、其の効挙げて数えがたし。呉崑は烏頭を加えて疝に用ゆ。此の症は陰嚢より上を攻め、刺痛してさしこみ、嘔などもあり、何れ上に迫るが目的なり。又、久腹痛、水穀を吐する者、此の方に沈香を加えて効あり。『勿誤薬室方函口訣』
*半夏白朮天麻湯も本方と同様に、脾胃の水毒の動揺と脾胃の虚証を構成病態としているが、本方は頭痛を主とし、半夏白朮天麻湯は目眩を主とする。
*本方証には心下痞満があり嘔吐するので、大柴胡湯・半夏瀉心湯・五苓散・茵蔯蒿湯等と鑑別を要することがある(大塚敬節)。

【症例】 激烈なる頭痛
 32歳の主婦。激烈なる右側片頭痛と悪心を訴え来院、外来にて倒れ意識不明となる。初めヒステリー発作を疑った。頭痛激しきため、初診日はピラビタール注、セデスの投与を行ない、一応鎮静したかに見えた。しかし3日後に再び同様の発作を訴えて来院。血圧85/0、肩甲部より項部にかけて疼痛と筋肉の硬直著明。患者は痩せ型の婦人で、脈は沈、平常四肢の厥冷を訴え、便秘がちであり、悪心が著明である。眼底所見に鬱血乳頭は認められない。不眠が続いており、右側片頭痛は依然甚だしい。生理は不順で瘀血を考えたが、腹証が著明でないのでヒラビタール注を行ない、呉茱萸湯エキス剤3.0g4日分を投与し経過を観察することとした。次回の来院時は、頭痛は訴えるも以前のような発作的な頭痛ではなくなり、約3ヵ月内服を続け自覚症状は消失し、睡眠剤を使用ぜずとも眠れるようになった。
関根邦之助『漢方の臨床』11・4・45



【副作用】
重大な副作用:特になし

その他の副作用

頻度不明
過敏症 発疹、蕁麻疹等
肝臓 肝機能異常(AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等
 過敏症(発疹、蕁麻疹等)があらわれた場合には投与を中止すること。

【過敏症】
 [理由]
  本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれが ある 。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている。

 [処置方法]
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。


肝臓
[理由]  本剤によると思われるAST (GOT) 、ALT (GPT) の上昇等の肝機能異常が報告されている ため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2014年3月3日月曜日

七物降下湯(しちもつこうかとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
3 駆瘀血剤
駆瘀血剤は、種々の瘀血症状を呈する人に使われる。瘀血症状 は、実証では便秘とともに現われる場合が多く、瘀血の確認はかんたんで、小腹急結 によっても知ることができるが、虚証ではかなり困難な場合がある。駆瘀血剤は体質改善薬としても用いられるが、服用期間はかなり長くなる傾向がある。
駆瘀血剤の適応疾患は、月経異常、血の道、産前産後の諸病その他の婦人科系疾患、皮下出血、血栓症、動脈硬化症などがある。駆瘀血剤の中で、 抵当湯(ていとうとう)・抵当丸は陳旧性の瘀血に用いられる。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は瘀血の証と水毒の証をかねそなえたものであり、加味逍遙散はさらに柴胡剤、順気剤の証をかねそなえたものである。

7 四物湯(しもつとう)  (和剤局方)
〔当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、地黄(じおう)各四〕
駆 瘀血剤の中で虚証に属するものである。本方は婦人の聖薬といわれ、自律神経失調などの神経症状を呈し、出血によって、また、血液の偏在に よって貧血し、皮膚枯燥、腹部の動悸、発熱、不眠、煩操、冷え症などを目標とする。しかし、口唇が蒼白となるほどの貧血、胃腸の虚弱なものには用いられな い。本方は単独で用いることはまれで、種々の加減や合方が行なわれる。
〔応用〕
駆瘀血であるために、大黄牡丹皮湯や桃核承気湯のところで示したような疾患に、四物湯證を呈するものが多い。
(3)七物降下湯(しちもつこうかとう)  (大塚敬節)
〔当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、地黄(じおう)各四、黄耆(おうぎ)、釣藤(ちょうとう)各三、黄柏(おうばく)二〕
本方は、四物湯に黄柏、黄耆、釣藤を加えたもので、虚証で瘀血によって精神の異常興奮や沈滞を起こすものに用いられ、血圧更新、息切れ、動悸、頭痛などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、七物降下湯證を呈するものが多い。
一 高血圧症、腎性高血圧症、動脈硬化症、慢性腎炎、腎硬化症その他の疾患。



『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.661 虚証の高血圧症
49 七物降下湯(しちもつこうかとう) 〔大塚敬節経験方〕
 当帰・川芎・芍薬・地黄 各三・〇 釣藤四・〇 黄耆三・〇 黄柏二・〇
 (杜仲四・〇を加えて八物降火湯と名づける)

 大塚敬節氏の「症候による漢方治療の実際」高血圧の項、四五八頁にその目標の記載がある。
 「疲れ易く、最低血圧の高いもの、尿中に蛋白を証明し、腎硬化症の疑いのあるもの、また腎炎のための高血圧によい」と。
 大塚氏が生来虚証の体質でありながら、最低血圧が高くなり、眼底出血を起こし、黄連解毒湯を用いたところ、かえって出血が増し、四物湯で止血を思い立ち、これに脳血管の痙攣を予防する効があるという釣藤、毛細血管を拡大する作用があるという黄耆を加え、地黄が胃にもたれないように黄柏を加え、これを試用したところ、すべてが好転したという。更に降圧作用があるという杜仲を加えて八物降下湯と称し、虚証の高血圧に用いて有効である。

p.241
 高血圧の虚証で、柴胡剤や大黄剤を用いることのできないもの、腎障害などのあるものにはとくによい。これは大塚敬節氏の経験方である。さらにこれに杜仲三・〇を加えて「八物降下湯」と名づける。


『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
七物降下湯(しちもつこうかとう) [修琴堂]

【方意】 気による精神症状としての目眩・耳鳴・頭痛・のぼせ・肩背強急等と、血虚による疲労倦怠・顔色不良・皮膚枯燥等のあるもの。しばしば腎の虚証による頻尿・多尿等を伴う。
《太陰病.虚証から虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

気による精神症状 血虚 腎の虚証
主証
◎のぼせ
◎目眩 ◎耳鳴
◎頭痛 ◎頭重
◎肩背強急


◎疲労倦怠(腎虚)
◎顔色不良






客証  四肢のしびれ
 四肢攣急
  
○皮膚枯燥
 貧血
 衂血
 眼底出血

○頻尿
○多尿
 蛋白尿
 


【脈候】 弦やや緊・弦細。

【舌候】 淡白舌。乾湿中間の白苔。

【腹候】 腹力やや軟から軟。

【病位・虚実】 本方は四物湯加釣藤黄耆黄柏である。このため四物湯の主たる構成病態の血虚が共通し、太陰病位を中心に少陰病にわたって用いられる。血虚および腎の虚証があり全身的に虚証で広く用い現れる。

【構成生薬】 釣藤鈎4.0 黄耆3.0 当帰3.0 芍薬 川芎3.0 地黄3.0 黄柏2.0

【方解】 釣藤鈎は鎮静・鎮痙作用を有し、気の異常による精神神経症状に対応する。黄耆は滋養・強壮作用、特に表の水毒に対する利水作用、更に補気作用を有し気のめぐりを改善する。黄耆・釣藤鈎の組合せは血管拡張作用があり、鎮静・鎮痙作用も一段と強力になる。当帰・芍薬・川芎・地黄の四物湯は血虚に対応し、疲労倦怠・顔色不良・皮膚枯燥等を治す。補腎作用のある地黄は頻尿・多尿を治し、黄柏は健胃作用により、当帰・地黄を穏やかにする。

【方意の幅および応用】
 A 気による精神症状:のぼせ・目眩・耳鳴・頭痛・肩背強急等を目標にする場合。
    B 腎の虚証:頻尿・多尿を目標にする場合。
   高齢者の頻尿・多尿、慢性腎炎、ネフローゼ症候群

【参考】 *高血圧症で、最低血圧が高く、眼底出血が反復し、下肢のしびれ、疲労倦怠、頭痛、衂血、盗汗のあるものに有効である。高血圧が慢性化して、最低血圧の高いもの、腎炎または腎硬化症のある高血圧患者に良い。
『漢方診療医典』
*本方は最低血圧が高く、眼底出血を繰り返すものに有効とされている。
*本方意の血虚は燥証を伴う傾向があり血燥といわれる。 

【症例】 難治な高血圧症
 私は51歳の夏頃から、時々めまいがしたり、午後になると吐息が出たり、のぼせて頭痛がするようになった。秋になると腰が痛くなって、朝起きて靴下をはくにも苦しむほどになった。その頃、よほど血圧が高かったであろうが、疲れだからそのうちに治るだろうと相変らず診察を続けていた。翌年の3月22日の雨の日だった。どうもよく眼が見えない。近所の眼科で診てもらったところ、ひどい眼底出血とのことであった。しかも出血は相当前々から続いていたらしく、一部は結締織化しているということがあった。すべては手おくれで、視力は回復するべくもなく加速度的に悪化し、2ヵ月のちには明暗すら弁ずることができない状態となった。その頃の血圧の記録をみると、4月5日147/90、4月10日175/105、4月15日158/90という調子で、5月25日は170/104となり、4月10日とこの日がもっとも高かった。最低値の高いのが気になった。その間、私の飲んだ処方は、八味丸、黄連解毒湯、抑肝散、炙甘草湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、解労散などであったが、病勢を少しも緩めることはできなかった。そこで色々と考えた末に、私の作った処方が四物湯に釣藤、黄耆、黄柏を加えたのであった。これを用い始めたのが、5月30日であった。この日の血圧は140/90であった。すると6月3日には126/86、6月4日には136/86、同5日には114/80、同6日には120/80という有様で、最高は120内外最低は80内外となった。そのことを馬場辰二先生に話したところ、この処方に七物降下湯という名をつけてくださった。
 釣藤には脳血管の罫線を予防する効があるらしいし、黄耆には毛細血管を拡大する効があるらしいので、これを用いることによって血圧が下がるのではないかというのが私の考えであった。四物湯を用いたのは止血の意味であり、黄柏を入れたのは、地黄が胃にもたれるのを予防するつもりで、まことにお粗末な恥しいような浅見で組合せて作ったものでう:
 7月の暑い日であった。どっと衂血が出はじめ、それが、口から鼻からもほとばしる。黄連解毒湯を飲んだが無効。とうとう耳鼻科の先生にタンポンをしてもらって、やっと止血した。2、3日たつと、右の足がしびれてきた。いよいよ脳出血の前兆かと思うと感慨無量である。しかしその頃の血圧は最高120内外で最低で最低は80内外であった。私は自分で一番良いと信ずる養生をしてみよう、そう決心すると心が軽くなった。
 それからやがて10年になる。私の右眼は失明をまぬがれ、脳出血にもならなかった。その間に、共著のものなど合して、7種類の漢方の単行本を診療の余暇に書いた。これは私の極康が良かったためである。
 私は自分の経験から、七物降下湯を用いるコツを覚えた。そして疲れやすくて最低血圧の高いもの、尿中に蛋白を証明し腎硬化症の疑のあるもの、腎炎のための高血圧症などに用いてみた。
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 456


『漢方医学』 大塚敬節著 創元社刊
p.23
〔3〕七物降下湯(しちもつこうかとう)
 この薬方も釣藤が主薬であり、釣藤の外に黄耆(おうぎ)、黄柏(おうばく)、地黄(ぢおう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)の六味が入っていて、合計七味である。この薬方を創製したのは私であって、今から二十年前、高血圧症で眼底出血を起こして両眼が失明する寸前に、この方を考案して用いることによって、どうにか盲人にならないですんだ。そこで昭和三十年二月発行の『東洋医学会誌』(第五巻・第三号)に、「釣藤(ちょうとう)、黄耆(おうぎ)の加味による高血圧症の治療」と題して発表したが、ここには『症候による漢方治療の実際』の高血圧症の中から一部追加訂正して引用しながら述べておこう。

 私は幼少の頃から蒲柳の体質であったが、死ぬような大病はあまりしなかった。十八歳の時、肥厚性追炎の手術をしたさい、中耳炎になったことがあり、そのとき死ぬかもしれないと父母は気づかったという。四十一歳の時、腎石の疝痛で十日ほど床について、赤小豆大の石が二個出た。
 血圧は測ったことがなく、高いとは思っていなかった。しかし三十歳ぐらいの時から、朝、眼がさめると、ひどい頭痛がして起き上がれないことがたびたびあった。それが何の原因か自分でもわからなかった。ところが、それは夕食を食べすぎたり、夕食のあとで果物や菓子を食べると、その翌朝、頭痛が起こるということがわかったので、それをつつしむようになって、その頭痛はなくなった。それから朝食に重点を置き、夕食を軽くすますようにしている。
 私は酒もタバコものまない。砂糖の入ったものは嫌いである。塩せんべいや塩辛いものが好きである。ところで、戦災を受けて、いろいろの無理がたたったのか、五十一歳の夏頃から、ときどき眼まいがしたり、午後になると吐息が出たり、のぼせて頭痛がするようになった。秋になると腰が痛くなって、寝返りが困難となり、朝起きて靴下をはくのにも苦しむほどになった。その頃は、よほど血圧が高かったのであろうが、疲れだから、そのうちに治るだろうと、相変らず診察をつづけていた。翌年の三月二十二日の雨の日だった。どうもよく眼が見えない。おかしいなあと思ったが、曇っているからだろうと、まだ呑気(のんき)にかまえていた。三月三十一日の朝であった。寝床で額(がく)の字を見ようとしたところ、どうも変だ、右眼をつむって見ると、ほとんど見えない。これはおかしいぞと思ったが、まだ眼底出血だとは気付かない。しかし気になるので、近所の眼科で診てもらったところ、ひどい眼底出血だとのことであった。しかも出血は相当前々からつづいていたらしく、一部は結締織化しているとのことであった。すべては手遅れで、視力は回復すべくもなく、加速度で悪化し、二ヵ月の後には明暗すら弁ずることができない状態となった。
 その頃の血測の記録を見ると、四月五日までは書いていない。四月五日一四七-九〇、四月十日一七四-一〇六、四月十五日一五八-九〇。五月二十五日は一七〇-一〇四となり、四月十日とこの日が最も高かった。最低血圧の高いのが気になった。その間に私の飲んだ薬方は八味丸(はちみがん)、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、抑肝散(よくかんさん)、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、解労散(かいろうさん)などであったが、病勢を少しもゆるめることはできなかった。そこで、いろいろ考えた末に、私の作った薬方が四物湯に釣藤(ちょうとう)、黄耆(おうぎ)、黄柏(おうばく)を加えたものであった。これを用い始めたのが五月三十日であった。この日の血圧は一四〇-九〇であった。すると六月三日には一二六-八六、六月四日には一三六-八六、六月五日には一一四-八〇、六月六日には一二〇-八〇という風で、最高一二〇内外、最低八〇内外の理想的の血圧になった。そのことを馬場辰二先生に話したところ、その薬方に七物降下湯(しちもつこうかとう)という名をつけて下さった。
 その後も、これを引きつづき続けて飲んだが、これ以下に血圧が下がりすぎるということはなかった。現代医学の血圧降下剤は、分量が多いと下がりすぎて気力がなくなり、仕事のできなくなるということがあるが、この薬方は長く用いれば用いるほど、からだが快調になってきた。
 釣藤には脳血管の痙攣を予防する効があるらしいし、黄耆には、毛細血在を拡張して血行をよくする効があるらしいので、これを用いることによって血圧が下がるのではないかというのが私の考えであった。四物湯を用いたのは、止血の意味であり、黄柏を入れたのは、地黄(ぢおう)が胃にもたれるのを予防するつもりで、まことにお粗末な恥ずかしいような浅見で組み合わせて作ったのである。
 ところが六月の末に、税務所員が見舞にきた。私は驚いた。「先生が御病気だということを聞いて、お見舞にまいりました。今年は所得税を免税にしますから、どうぞ落ちついて充分に御養生ください」という。私は妙な復雑な心理状態になった。私は、いよいよ駄目だなあと溜め息が出た。税務所には、私の右眼もやがて失明して、盲目になるだろうということが伝えられていたらしいが、私には本当のことが語られていなかったのである。七月の暑い日であった。どっと衂血(じくけつ)(はな血)が出はじめ、それが口かろも、ほとばしる。物を言うこともできないほどである。黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を飲んだが、ますます出血はひどくなる。十八歳のとき肥厚性鼻炎の手術をしたときも出血がひどく、そのために中耳炎を起こしたのであった。私は出血しやすい体質であるらしい。こんな風で、とうとう耳鼻科の先生に鼻腔にタンポンをしてもらって、やっと止血した。私は動脈硬化のための出血であるから、いつ脳出血におそわれるかも知れないと思って悩んだ。二~三日たつと右の足がしびれてきた。いよいよ前兆かなあと感慨無量である。しかし、その頃の血圧は最高一二〇-八〇内外であった。
 慢性病は生活の反応であり、その人の精神状態や飲食物は慢性病の成立に特に重大な影響があると、私は、おそまきながら、この時になって、実感として気がついた。そこで私は、自分で一番よいと信ずる養生をしてみよう、それで悪くなるのであれば運命とあきらめるよりほかはない。そう決心すると心が軽くなった。そこで毎日の食べもの、飲みものを注意深くしらべ、自分がよいと信ずることを次々に実行に移し、悪いと考えるものは一切禁止した。そして今もこれを実行しているが、この食養が私の健康保持に非常に役立っていると考えるので、患者さん達にも、自分の経験をもとにして、飲食物の摂り方の指導をしている。この食養については次に項を改めて書くことにする。
 それからやがて二十年になろうとしている。私の右眼は失明をまぬがれ、脳出血にもならなかった。その間に、共著のものなど合して十数種の漢方の単行本を診療の余暇に書くことができた。これは私の健康状態がよかったためである。
 私は自分の経験から七物降下湯を用いるコツを覚えた。そして疲れやすくて最低血圧の高いもの、尿中に蛋白を証し、腎硬化症の疑いのある高血圧患者、いろいろの薬方を用いて奏効しない者に用いることにしている。このようにして、この薬方で血圧の安定した患者はどれほどあるか、たいへんな数に上ると思う。そのうち暇を見つけて統計をとってみたいと考えている。
 最後に締め括(くく)りとして、最近の一例を挙げておく。

 患者は大正五年生まれの婦人で、数年前から高血圧症で医治を受けているが、服薬中は血圧は下がっているが、血圧が下がると気分が悪くて無気力になるので、中止する。するとまた血圧が上がってくる。こんなことを繰り返している。血圧は最高が一八〇-二〇〇、最低が一〇〇-一一〇くらおを上下しているという。
 患者はやや背が高く中肉である。脈を診ると一分間に一二〇。このような脈は初診時に患者が緊張するためにみられることがあり、この患者の脈も多分神経性のものであろうと考えた。
血圧は一八八-一〇六。大便一日一食。月経順調。腹部は中等度に弾力があるかが、胸脇苦満(きょうきょうくまん)や腹直筋の緊張はみられない。下肢に浮腫があるが、尿の蛋白は陰性である。
 七物降下湯を投与。だいたい二週間ごとに来院して測った血圧は次の通りである。
 一六六-一〇六。一五四-九八。一五四-九六。一四八-九四。一四〇-九二。一四八-九六。一五六-九〇。一三八-九二。一四六-九二。

 『重要処方解説』
七物降下湯(シチモツコウカトウ)
大塚敬節  北里研究所附属東洋医学総合研究所/所長

 本日は七物降下湯(しちもつこうかとう)という処方についてお話しいたします。今までこの講座に出てまいりました処方は,古いものでは2000年ほど前の『傷寒雑病論』という古典から出てきたもの,新しいところでは徳川時代のものでありますが,この七物降下湯というのは,私が20年ほど前に作ったもので,非常に新しい処方であります。私がなぜこんな処方を作ったか,漢方には何万もの処方があるのに,なぜわざわざこういうものを作らねばならなかったか,そのことからまずお話しをいたします。

■七物降下湯の由来
 昭和28年(1953年),私が53才の時ですが,3月23日の朝,目が覚めて額を見たところがよく見えないのです。左の眼がほとんどまっ暗なのです。驚きまして近くの眼科医にみてもらいましたところ,「これはひどい眼底出血です。古くから出血しているらしくて,古いところは結締織化しているから,こちらの眼はだめです。右の眼も相当動脈硬化がひどいから,これも出血の恐れがあります」といわれたのであります。驚いて家に帰って血圧を測ったところが,最高が176mmHg,最低が114mmHgでした。ことに最低血圧が高いから,動脈硬化もかなりあったわけです。私は自分の血圧を測ったのはこの時が始めてで,自分で非常に驚いたわけです。その時に,眼底出血を吸収させて,血圧を落着いて動脈硬化に効くというような薬をいろいろ探し出して使ってみました。たとえば柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ),黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)などというものを使ったことはまだ覚えておりますが,そのほかのものはもう忘れてしまいました。しかし,何を使っても血圧は下がらないし,眼底の方の出血は日増しにひどくなって,ほとんど見えなくなってしまったのであります。5月になりまして,こんなことではだめだから,自分で新しい処方を考案しようという気になって考えついたのが,七物降火湯であります。
  この処方は,四物湯(シモツトウ)という昔からある処方に,釣藤(ちょうとう)と黄耆(オウギ)と黄柏(オウバク)を加えて七つの薬からできているので、七物降下湯という名前をつけたわけであります。四物湯は地黄(ジオウ),当帰(トウキ),川芎(センキュウ),芍薬(シャクヤク)という,いわゆる婦人病の薬が主になっておりまして,増血,止血,鎮静,強壮というような効があるので,これを元にして,これに血圧を下げる薬を加えてみようと考えたわけであります。
 四物湯というのは,昔からある婦人病の薬のもとであります。これに釣藤を入れようと考えました。
 釣藤とはカギカヅラと日本では呼ばれておりまして,トゲになっているところが釣針のようになっております。これは昔から子供のひきつけ,つまり熱が出た時ひきつける,びっくりする時ひきつけるという神経質な子供に用いて治す薬であったわけですが,のちになりますと大人の病気にも使われ,脳の血管の痙攣,脳動脈硬化があるのではないかと思われるような病気に使っております。浅田宗伯という先生はてんかんにこれの入った処方を使っております。和田東郭という先生は,中気のあとで怒りっぽくなって,怒ると手がふるえるというような患者にこのものの入った処方を使っております。l
 私は,これはわれわれにも適当な薬だと思って,このごろの生薬の本をひもといて,釣藤はどういう働きがあるのか,成分や薬理を調べてみようと考えて『最新和漢薬用植物』という本を見たところ,釣藤には毛細血管を拡張する作用があるということが書いてありました。それで,毛細血管が拡張すれば血圧は当然下がってくるし,血行はよくなるだろう,出血の予防にもよくなるだろうと考えました。そしてもう少し調べてよようと思って,加藤謙斉という徳川時代の医者の『六八本草』という本を見ますと,本草綱目を引用して次のように書いてあります。「釣藤は,そのトゲが曲がって釣針のようになっているのでそう名づけるのであるが,色が黄色で,蔓が細く,トゲの多いものがよい。古く今から1000年も前の唐の時代には蔓の皮を使ったが,のちの世になってトゲを使うようになった」とあります。そして「なるべく若いトゲの方が普通の10倍も効き,長く煎じると効かない」ともありますので、これは面白いと思って,さらに調べてみますと,トゲの部分の効力はすぐれているけれども,蔓の皮とは成分が違い,皮には葉とトゲにある成分がまったくなく,トゲや葉にはリンコフィリンというアルカロイドがあり,これを動物実験で研究してみると,少量で呼吸中枢が興奮して血圧が下がってきます。ちょうどジギタリスの葉のような作用があると書いてありました。
 これは面白い薬だと思いまして,そのころまであまり釣藤を使ったことはありませんでしたが,これを使ってみようと思って薬屋さんに注文したわけです。ところが薬屋さんが持ってきた釣藤はカギのところがいくらもなくて,ほとんど蔓のところばかりでしたが,とにかくそれを使うことにしました。ところが昔の人の書いた釣藤の働きを考えてみると,リンコフィリンというアルカロイドだけでは説明のできないことがあるので,釣藤の作用というのはリンコフィリンだけではなく,ほかにまだわかっていない成分があるに違いない,したがって皮の部分にはリンコフィリンがないのに,唐の時代にはこれを使って病気を治しているから,トゲの部分でないところでもいいだろうと思いまして,それを使うことにしました。
 次に黄耆は,満州では健康長寿の効があるといってお茶の代わりによくのまれていた漢薬でありまして,かつて満州医科大学で黄耆を調べたところ,これも毛細血管を拡張する働きがあることが証明されたのであります。黄耆は傷をして肉の上がりが悪い場合にこれをのませると,非常に血色のいい肉がどんどん上がってきます。寝汗が出る時にのませると盗汗がとまるというので,これは毛細血管が拡張したところに血液をどんどん送ってくることで説明がつくわけですから,これも血圧を下げる働きがあるに違いないと思いました。
 それから四物湯には地黄が入っておりますが,これは胃の弱い人には胃にさわることがありますので,健胃整腸の意味で黄柏を加えることにしました。黄柏は血圧に直接関係はないけれども,胃腸を保護するために入れたわけであります。
 さて,これをのみ始めてから2~3日で,血測が上は150mmHgを越さなくなり,下は100を越さなくなったのであります。そこでこれに力を得ましてのんでいるうちに,5月下旬には120/80mmHg台というふうに下がってきました。2~3日薬を休んでみても,血圧は安定して上がってこないわけです。そのころ馬場辰二という,赤坂で開業しておりました大家が私を見舞にこられましたので,この処方の話をしましたところが,その処方の名前を聞かれましたが,まだ名前はついていないと申しますと,先生は即座に七物降下湯ではどうかとおっしゃって下さいましたので,ありがたくいただいてこの名前にしたわけであります。
 こういう体験から,最低血圧が100mmHgを越す患者で,血圧の下がりにくい患者を選んでこの処方を使うことにしました。ある時会社の重役で,最低血圧が高くて頭が重く,気分がすぐれないという患者がきました。この人は57~58才でしたが,この処方をのませたところ,2~3日で頭が軽くなり,気分が明るくなったといい,10日ほどのむと,最高血圧が150mmHg台まで下がり,最低は90mmHg内外を上がらなくなってきました。それからも最低血圧の高い患者に使っているうちに,腎臓に故障があって尿に蛋白の出る患者は当然最低血圧が高いわけですから,こういう患者に使ってみたところが,驚いたことには,ある時血圧が下がっただけではなく,蛋白まで消えてしまったというので,これはいける処方だと思い雑誌などに内容を発表しました。

■使用目標
 それからいろいろ考えて,この処方を用いる目標をまとめたわけであります。四物湯というのは,血の働きが正常に働かず間違った働きをするのを調整する薬で,出血をとめるし,血を増やす働きがあるので,四物湯の働きを基盤にしなければならないと思いました。
 和田東郭という徳川時代の名医の本を見ますと,四物湯は腎の機能が衰えたために,肝の機能が乱れて血が盲動するのを治すものだと書いております。この腎とか肝というのは現行医学の腎臓,肝臓には当たらなくて,むしろ漢方でいう腎経とか肝経とかいうことになりますので,そのまま肝と腎に当てるわけにはいきませんが,東郭は,腎の働きの衰えた場合は水分の動悸がたかまるといいます。水分の動悸とは臍のところの動悸,すなわち腹部大動脈を臍のところでみると強く打っているので,これが腎の気の衰えた証拠であり,これが四物湯を使う一つの目標であるというのです。これは面白いと思って気をつけていると,全部ではありませんが,臍のところに自分の掌をあててみると,強く動悸を打う患者があります。これを四物湯を用いる目標の一つにしたわけです。
 私もあとで気がつきましたが,自分でも臍のところに動悸が強く打っておりました。大体臍のところの動悸が強い人は神経質です。絶えず気を病んで,気分が落ち着かない人が多いわけです。今日でいうノイローゼの患者です。これが四物湯を用いる一つの目標であります。次は血色もあまりよくないということです。初対面の時の印象が何となく暗い感じの患者が,七物降下湯を使う一つの目標になります。四物湯の患者も血色のすぐれないものが多いわけです。そういう時に血液の検査をしてみても,必ずしもひどい貧血がないのに,何となく明るさがない印象です。
 この四物湯に,毛細血管の拡張作用のある釣藤と黄耆を加え,さらに消炎作用,健胃調整のある黄柏を加えたものが七物降火湯でありますから,七物降下湯を用いるには,下半身(臍から下,足)が非常に冷える,夜1~2回,ひどい人は3~4回も小便が出る,疲れやすい,眼が疲れたり,眼が痛くなったりしやすいというところを目標に使った方がよいようです。私自身,下身半が冷える方で,夏でも靴下を2枚はき,冬では3枚はくという傾向で,夜は小便に1~2回行き,以前に腎臓を患ったことがあり,今でも風邪を引いたりすると蛋白が出たりします。ですから当然七物降下湯の目標になるわけであります。
 それから,患者を足を伸ばしてまっすぐに寝かして腹をみると,腹部はあまり膨満しません。ただ腹壁がやや緊張して,左右の腹直筋が硬く触れることが多く,体重が70kgを越すような肥満した人はありません。たいていは40~50kg台の人が多いようです。そして臍の動悸を触せることが多いけれども,その動悸が必ずしも著明でないこともあります。舌には白い苔がついている人は少ないです。あっても薄い苔で,あまり舌は乾燥していないのが特徴です。大便は毎日気持よく出る人が多いが,中には気持よく出ないという人もあります。
 この際には,私は乾燥した魚生草(どくだみ)5gを加えて煎じます。魚生草とわれわれがいっているどくだみは,血管を丈夫にする効がありまして,私の先輩らは狭心症の薬としてこれをお茶代わりにのませております。そして強心的働きもあり,お通じを多少ゆるめる働きもありますので,どくだみを入れました。しかし,どくだみといいますと患者が馬鹿にしますから,私たちは魚生草と呼んでおります。「何だ,どくだみか」と考えると効き目が劣ります。以上申し上げたような患者で,血圧の最低が高いものが目標になるようであります。
 この処方には地黄が入っておりまして,副作用として食欲が減じたり,嘔気を起こす人がありますので,黄柏を入れたのですが,今まで使った患者さんで,一人としてこの処方をのんだために副作用がどうこうと苦情をいった人はありません。私も胃腸が弱いのですが,七物降下湯で食欲が減ることはありません。現在の高血圧の薬は案外副作用があって患者さんから文句が出ますが,七物降下湯では苦情が出ないところを見ると,副作用がないのではないかと思います。

■鑑別処方
 七物降下湯と鑑別をしなければいけない処方は,柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ),八味地黄丸(八味腎気丸)くらいのものです。これらの処方については,この処方の解説を読んでいただいた方がここで少し話すよりはよくわかるのではないかと思います。
 それから私自身の経験ですが,動脈硬化で血圧が高い人は,食事に気をつけることが必要でして,何でも好きなように食べていたのでは,薬をのんでも治りがわるいので,薬をのまなくても大丈夫なような体になるには,日常の食事が非常に大切であります。私も長い間かかって食物の研究をしまして,現在,北里研究所にも手弁当を持ってゆき,食堂のものは食べないようにしております。そのため失明して24年目になりますが,私の眼は失明したあとで白内障になり,それから緑内障になりました。幸いに右の眼は失明せずに済んだのですが,日光の明かりもわからないほどひどい視力の喪失でありました。ところが今年の春から,不思議なことに右の眼をつぶって左の眼の前で指を動かしてみると,それが見えるようになりました。私は驚きまして,眼科の時人に話しましたところ,眼底出血をし白内障になり,緑内障になり,失明の原因が三つも重なって眼が見えるようになるわけがないといわれました。しかし急速にはいきませんが,少しずつだんだん視力が出てくるようになってきました。私は白物降下湯は半年くらいのんでやめて,あとはのみませんから,薬のためではなく,日常の食物がよいに違いないと思って,それを続けているわけであります。
 最後に七物降下湯の変方を一,二お話しいたします。七物降下湯に杜仲という薬を入れる方が一つです。戦争直後に中国から杜仲酒という酒が日本へ輸入され,高血圧の治る酒といわれました。それで,これは面白いと思って杜仲を買って七物降下湯に入れたので,八物降下湯になります。特にうんと効いたとは思いませんが,杜仲というのも面白いと思います。それから,のぼせて,あつくて血色がいい,赤い顔をしているのは,黄連解毒湯という処方に黄耆と釣藤を入れれば六物解毒湯(ロクモツデドクトウ)になりますが,このような処方を使ってもいいわけです。
 このように,患者さんによって使いわけてゆくことが何より大事でして,私は40kg以上になったことのないやせで,冷え症で,胃腸が弱いのですが,このような人に七物降下湯が効くのではないかと思いますので,お話し申し上げました。

※魚生草は魚腥草の誤り?


『■重要処方解説(44)』
七物降下湯(シチモツコウカトウ) 日本東洋医学会評議員 藤井 美樹

■出典
 七物降下湯(シチモツコウカトウ)という処方は,大塚敬節先生が創作した処方,つまり創方されたものであります。先生は昭和55年10に80歳でお亡くなりになりました。先生の医院は修琴堂大塚医院と申します。したがって,先生のお作りになった処方は修琴堂方というふうに『経験処方分量集』に出ております。
 この処方は先生自らが重い病気をなさって,いろいろ苦心されて創方なさった処方であります。先生が52歳の頃,高血圧症で眼底出血を繰り返して,ほとんど失明するのではないかという非常に危ない状態でありましたが,いろいろ処方を用いてみられたけれどもなかなかすっきりとよくならず,苦心惨憺の末に作り上げられたのがこの処方です。これによって反復していた眼底出血もだんだん収まり,血圧も下がってまいりまして,再び元気にご活躍なされるようになったということを聞いております。当時の漢方の名医であった馬場辰二先生が,この処方に7味の薬味が入っているものですから,七物降下湯という名前をつけられたということであります。
 大塚先生はこの貴重な自己体験を通じて,この七物降下湯を使うコツを覚えられて,その後たくさんの高血圧症の患者さんにこの処方を応用されて,その結果を昭和32年2月発行の『日本東洋医学会誌』第5巻3号に『釣藤(チョウトウ),黄耆(オウギ)の加味による高血圧症の治療」と題して発表しておられます。日本の漢方に使われている薬方には,古いものでは2,000年くらい前の『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』に出ている処方から,その後の時代の名医によって作られた処方,それから漢方が日本へ入ってきてから日本の優れた医師たちが,伝わった処方にいろいろと工夫を加えて作り上げた処方があります。これは徳川時代に特に多いのですが,そういうものを本朝経験方といいます。したがって大塚先生がお作りになった七物降下湯は,その本朝経験方の最も新しい名処方であるといえます。

■構成生薬・薬能薬理
 この処方の内容は,当帰(トウキ),川芎(センキュウ),芍薬(シャクヤク),地黄(ジオウ),つまり四物湯(シモツトウ)を基本に,釣藤,黄耆,黄柏(オウバク)の3つの薬味を加え,都合7味にした薬方であります。
 四物湯という漢方処方つまり薬方は,宋の時代の『和剤局方(わざいきょくほう)』に出ている処方であり,先ほど申しましたように,当帰,川芎,芍薬,地黄という7つの生薬から成り立っております。そしてこの薬方は,特に婦人の病いに非常に良い薬であるというので,聖薬というふうにいわれております。働きとしては造血作用,あるいは止血作用,鎮静作用,強壮作用などがあります。漢方の言葉でこれを,血虚の聖剤であるといっております。
 いま1つ四君子湯という薬方がありまし斉,人参(オタネニンジン)と甘草(カンゾウ)と,茯苓(ブクリョウ),白朮(ビャクジュツ)の入ったものですが,主に気力のない人に与えると非常にしっかりしてくるというので,これは気虚の薬であるといわれ,四物湯は血虚の薬であるといわれてきております。ついでに申しますと,この四君子湯と四物湯を合わせて八珍湯(ハッチントウ)と申しまして,さらにこれに桂枝(ケイシ)と黄耆(オウギ)が加わりますと,十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)といって非常に有名な処方になります。特にこれは,いろいろな難病,あるいは悪性腫瘍のあとの放射線療法とか,あるいは化学療法の後とか,あるいは大手術をした後などに使われております。この十全大補湯の中にやはり四物湯が入っております。
 そのようなわけで四物湯は各種の血行不順,出血などの場合に多く使われているわけであります。それに釣藤,黄耆,黄柏という薬味を加えたものがこの七物降下湯であります。大塚先生は,ご自分が病気をなさって苦しい闘病生活を送られ,いろいろな薬を使ってみてこの七物降下湯をお作りになって,それで病気がよくなられたということを詳細に書いておられます。それは『症候による漢方悩薬の実際』や,あるいは改訂版の創元社刊の『漢方医学』にも書かれています。
 それによりますと,先生は四物湯の止血効果を狙ったものであるということ,それから釣藤は,釣藤鉤(チョウトウコウ)ともいい,中国では鉤藤(コウトウ)とも申しますが,これはカギカズラでありまして,その名のようにちょうど魚を釣る針のようなとげがあるわけです。それが釣藤鉤の一番大事な部分であるとされております。一方,その蔓の皮の部分はあまり有効成分がないのではないかといわれております。近代の薬理学では,成分としては rhynchophyline,isorhynchophyline などが報告されております。
 この rynchophylline というアルカロイドは,動物実験によりますと少量では呼吸中枢が興奮して血圧が下がる,要するに血圧を下げてくれる,あるいはまた抗痙攣作用があると報告されております。漢方でいう古方ではこの釣藤鉤はあまり使われていず,成書によれば陶弘景(とうこうけい)の書いた『名医別録(めいいべつろく)』の中に出ております。昔は釣藤鉤の蔓の皮を使ったところが,後の世になってとげを使うようになり,とげの方がよく効くが,長く煎じているとあまり効かなくなるといったことが古書に書いてあります。この頃は薬屋さんから買いましてもとげのところが少ないようで,それでも使ってやはり効くとなりますと, rynchophylline あるいは isorynchophylline の成分だけではなく,何かほかの成分があるのではないかというふうに推定されるわけです。唐の時代には蔓の皮の部分も使って病気を治していたわけですから,こういうことが考えられると思います。
 次に黄耆ですが,これは中国産マメ科多年生植物カラオウギの根であります。これは昔の満州,今の中国の東北部では,健康長寿に効き目があるといってお茶の代わりによく飲んだといわれております。昔,満州医大で黄耆を調査しましたところ,毛細血管を拡張する働きがあるということで,血行がよくなるから血圧を下げるのだろうということであります。黄耆の働きとしては汗をとめたり,あるいは皮膚を丈夫にしたり,場合によっては手術のあとの肉芽を早く上げさせてくれたりするような作用があります。
 そのほか四物湯には,先ほど申しましたように地黄が入っております。地黄はちょっと胃腸の弱い人には胃に障る場合があって,食欲がなくなったり,あるいはおなかが痛んだり,あるいは下痢するというようなことがあるものですから,大塚先生は健胃,整腸の意味で,黄柏(キハダ)を加えたのであります。キハダは血圧には直接関係ないのですが,胃腸を保護する意味で入れたと大塚先生はいっておられます。

■現代における用い方
 以上のようにして七物降下湯が作られたわけですが,この薬方が向くような人はどのような人かと申しますと,基本的には四物湯が考えられます。四物湯が行くような人は大体皮膚の艶がよくないし,疲れやすいというようなことが基本にあります。血圧はどちらかといえば最低血圧が高く,このような人は検尿をしてみると往々にして蛋白の出ていることがあります。ですから腎臓障害を伴った最低血圧の高いような人,そして胃腸のひどく弱い人はちょっと困りますが,割合に胃腸はよいが体はあまり丈夫でない,疲れやすい,顔色が冴えない,色艶がよくないという人に向きます。またおなかを診るとおへそのところに動悸がしていることがあります。おなかに動悸がしているのは,やはり虚証であって,割合に神経質で疲れやすい(そうでない場合もありますが)ということがいえます。そのようなことが七物降下湯を用いる目標になっております。
 そして七物降下湯を用いる人の腹力は,それほど強くない,時によっては腹直筋がちょっと突っ張っている,舌はあまり苔が生えていず,生えていても薄い白い苔くらいである,脈は弦細のことが多いというふうなことがいえます。つまり,腎臓の動脈硬化,腎硬化症の疑いがあるというような患者さんに使うとよいといえます。
 それで七物降下湯とほかの薬方との鑑別診断ですが,おなかに動悸がするということで柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)があります。柴胡桂枝乾姜湯の場合もやはり疲れやすく,おなかに動悸がしていて,微熱が出たり,頸から上,頭に汗が出たり,ごく軽い胸脇苦満があります。
 もう1つの薬方は八味地黄丸(ハチミジオウガン),八味丸(ハチミガン)です。八味丸は附子の入った処方で,腎虚と申しますか臍下不仁があって,下半身が疲れ,腰が痛かったり,年齢が40歳以上であって,夜間多尿があります。そのほか糖尿があったり,白内障があると八味丸を用います。
 それから七物降下湯が向くような人でちょっと便秘気味の人には,大塚先生はよく魚腥草(ギョセイソウ)を加えられました。魚腥草というのはドクダミのことですが,血管を丈夫にする働きがあり,これを加えますと便を少し軟らげてよくなるということがあります。私も加えます。そのほかにちょっと大黄(ダイオウ)が使えるような人には七物降下湯に別大黄,あるいは加大黄として加えるととても具合がよいことがあります。
 また変方として,七物降下湯に杜仲を加えてもう少し血管を丈夫にする,全体的に力をつけるというので,八物降下湯(ハチモツコウカトウ)という名前をつけて使うことがあります。
 血圧が高くてのぼせて暑がりで血色のよい,赤い顔をしている,いわゆる赤い高血圧といわれるような人には黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)に釣藤と黄耆を加えて,六物解毒湯(ロクモツゲドクトウ)として使うとよいようであります。七物降下湯の方はどちらかといえば顔の色がよくありませんから,青い高血圧と申します持,弱いタイプで,血圧を診るとかなり高い,しかも最低血圧が大体100mmHg以上ある,そして疲れやすく何となく生気がないという人にこの七物降下湯がよいといえます。私も大塚先生に倣い,そのよう治人に使ってきております。
 もちろん高血圧の治療ですから,薬物療法とともに食事が非常に大事であり,食事を中心とした養生をしないと薬の効き目もよくないし,薬も要らないような健康状態に持ってゆくためにも,日々の食べ物は大事であります。

■症例提示
 次に七物降下湯の症例を申し上げたいと思います。まず大塚先生の症例を引用させていただきますと,患者さんは57歳の男子で頭が重く,血圧は160/100mmHgで,尿中に蛋白がありました。この処方を1ヵ月服用後血圧は150/90mmHgになり,2ヵ月後には蛋白尿が陰性になり,血圧が140/80mmHgになった。その後血圧はすっかり安定しているという症例です。
 それから私の最近の症例を申し上げますと,大正5年生まれの婦人で,血圧が高くて体が非常に疲れやすいということで,2ヵ所ばかりの病院で治療を受けて薬を貰っているが,体の調子がなかなか調わないし,血圧も下がらない,薬を飲んでいるとおなかの調子も何となくよくない,体が疲れる,頭が時々ジーンとなってくる,あるいは手がしびれるといった症状を訴えております。一見して七物降下湯が行くような,つまり四物湯が行くような顔色で,顔に色艶がな決て,何となく生気がない。おなかを診ると力がなく,舌は薄い白苔があるくらいです。それで七物降下湯を出しました。そうしますと血圧がだんだん落着いてきまして,現代医学の降圧剤をだんだん少なくして,最近では血圧が118/64mmHgくらいに下がっており,それとともに顔の色艶が良くなり,生気が出ております。lこの方は少し便秘気味なので大黄を少し別添して,家で自分で入れていただくようにしております。
 自覚症状のない高血圧もありますが,高血圧に一般的によく伴う症状,つまり頭が重いとか顔がのぼせる,肩が凝る,あるいは耳鳴りがするとかの症状が,この薬方によってだんだんとれてきて,血圧もすぐには下がってくれない人もありますが,だんだん血圧も落着いてくる。あるいはまた蛋白の出ていた人は少しずつ蛋白が少なくなってくる。 そして,それらの随伴症状という自覚症状がとれて自分の健境に対して少しずつ自信を取り戻すといいますか,顔に生気が出てきて,動作も何となく活気を帯びてくるということが見られます。これは漢方治療は全身療法ですから,元気が出てきてその人なりの健康を保っていけるようになるということであると思います。
 もう1つの症例は,巨大な子宮筋腫がもう20年近くあって非常に危ぶまれたのですが,漢方治療をしておりましたがとうとう貧血が来まして手術に踏み切り,そのあとに肝臓を痛めて輸血もしたわけですが,それは補中益気湯(ホチュウエッキトウ)でよくなりました。今度は少し高血圧になりまして,なかなか下がらないので七物降下湯を使いました。昭和8年生まれの方ですが,血圧がだんだん下がってきまして,今では大体落着いてまた元気に仕事をしておられます。大変大きい筋腫で,本当にどうなるのかと心配しましたが,ご本人があまり手術したくないものですから延ばし延ばししていたのですが,とうとう貧血が来て手術をして大きな筋腫をとった方です。その後,手術のあとに来た高血圧症が七物降下湯によって非常に落着いてきているという症例です。
 症例を申し上げればいろいろあるわけですが,この薬方を煎じ薬で使う場合の注意として,できればやはり生薬を吟味して,釣藤鉤は釣藤の鉤の多いものを使うようにした方がよいと思います。黄耆もやはり吟味して,晋黄耆(シンオウギ),つまりよい黄耆を使った方がよいと思います。
 そのようなわけで,七物降下湯は大変使いやすい薬方で,胃腸が弱くてどうかなと思うような方でも,黄柏が入っていたり,その他のことで結構うまく飲めて,私の場合は七物降下湯を出したためにおなかの具合が悪くなったということはほとんどないといってよいくらいです。胃腸が弱くてすぐ吐き気を催したり,下痢しやすい人はやはり四物湯の中の地黄が障りますから,その点は気をつけてお使いになって,うまくゆかなければほかの処方に変えてみるということが大切であると思います。
 本日は大塚先生が身をもって体験されたご病気から創方された,七物降下湯についてお話しいたしました。
 最近の治験例では,滝野川クリニックの佐藤金兵衛先生が,本態性高血圧症の随伴症状に対するツムラ七物降下湯エキスの使用経験を報告しています。何らかの随伴症状を有する本態性高血圧症の患者31名(男12名,女子19名)にツムラ七物降下湯エキスを1日5g,14日間連続投与し,自覚症状については,脳出血の後遺症による手足のしびれ4例を除いては全症例に有効であり,血圧降下作用は,最高血圧および最低血圧の高いものほど著明で,副作用はまったく認められなかったということです。

■参考文献
1) 大塚敬節,矢数道明;『経験処方分量集』.医道の日本社,1966
2) 大塚敬節;釣藤,黄耆の加味による高血圧症の治療.日本東洋医学会誌,5(3):39~40,1955
3) 官刻増広『太平恵民和剤局方』.復刻,燎原書店,1976
4) 大塚敬節;『症候による漢方治療の実際』.南山堂,1963
5) 大塚敬節;『漢方医学』.創元社,1973
6) 陶 弘景;『名医別録』〔2)より引用〕
7) 佐藤金兵衛;本態性高血圧症の随伴症状に対するツムラ七物降下湯エキスの使用経験,薬物療法,13:485~489,1980



『日本東洋医学会誌』 5(3):39~40,1955
釣藤・黄耆の加味による高血圧症の治療
 東京 大塚敬節
On the therapy of the hypertension by by seasoning with the rhizoma of. Astragalus Henryi and the thorn of Ouroupania rhynophlla

Keisetsu OTUKA

 高血圧症で,種々の治療を施しても効のないもの,血圧は降つても,頭重,不眠,眩暈,耳鳴,不安感,肩こり等の自覚症状の去らないもの,最小血圧の高いもの,腎障碍を伴うもの等に,一昨年から四物湯加釣藤黄耆黄柏或は黄連解毒湯加釣藤黄耆大黄,或は大柴胡湯加釣藤黄耆,或は柴胡加竜骨牡蠣湯加釣藤黄耆等を用いて,自覚症状が速に消失しているが,これによつて血圧が長期間にあたつて安定している者が多い。これらの治験例については,別の機会に一括して発表の予定であるが,何故にこんな加味を用いるようになつたか。これらの薬の薬効はどうか。この点について先づ考えてみたい。
 釣藤は元来小児の癇の薬として用いられたもので,名医別録には,「小児の寒熱,十二の驚癇を治す」といい,千金方,外台秘要にも,その小児門に於て,癇にぞくする病気にこれを用いている。けれども後世になると,この薬は小児に限らず,広く大人の癇にも用いられるようになり,近代医学の立場からみると,脳血管の痙攣若しくは脳動脈硬化症に用いてみてはどうだろうと考え,これに更に黄耆を加えた。黄耆は中国で不老長寿の薬として愛用されているが,このものに毛細管血を拡大する作用があるという報告があるので,これにヒントを得たのである。そして先づ自分に試用した。その時の処方は四物湯加黄耆釣藤黄柏であつたが,これの服用によつて,その当時最大一七〇最小一〇〇あつた血圧が数日で下降し,その後二ヶ年を経た現在最高一二〇内外最小八〇内外である。これに勢を得て,この加味を用い然患者は数十人に及んでいる。これらの経過の詳細は他日発表するからこれを省略し,釣藤については,一般の認識が浅いので,その撰品,薬効についてのべる。
 釣藤,また釣鉤藤ともいい,日本ではこれにカギカヅラをあてている。前戦には中国産の釣藤が輸入せられて,釣鉤のように曲つた刺の部分は探さねば見つからない程少なく,大部分が蔓である。効力の点で,中国産のものと,和産のものと,どの程度の差があるか,まだ比較検討したことはないが,わたしの経験によれば,日本産のものでも,結構効果がある。また刺の部分と,蔓の部分とでは,どちらが効力があるだろう。加藤謙斎の六八本草では,次のようにのべているが,これにもなお検討の余地がある。

  釣鉤藤「釈名」時珍曰く,其の刺,曲りて釣鉤の如し故に名くと。〔修治〕色黄色の藤細く,鉤多き者よし。古方は多く皮を用い,後世は多く鉤を用ゆ,其力の鋭きをとるのみ。梗を去りて嫩鉤を用ゆれば,其功十倍す。但し久しく煎ずれば即ち力なし。他薬の煎就するをまちて後,鉤藤を投じ,一二沸して即ち起せば,頗る力を得るなり。

とあって,刺の部分の効力のすぐれていることをのべている。しかし李時珍は,古方では主として皮を用いるとあるから,刺以外のものは,効力がないかどうか,もつと研究してみる必要がある。ここで時珍が古方といつたのは傷寒論,金匱要略には,釣藤を用いた方剤がないから,これらの古典を指したものでないきとは明らかである。唐代の孫思邈の備急千金要方をみると,釣藤皮を用いている。この釣藤皮は松岡定庵がその著千金方薬註で釣藤の木の皮であるとしているように,釣藤の蔓の皮である。この皮に対して刺を用いる場合には,釣藤鉤といつて,釣藤皮と区別するようになつたのである。しかし釣藤皮も釣藤鉤も同じ目的に用いている。近代の研究によれば,鉤の部分と葉とには,リンコフイリンというアルカロイドがあつて,このものは動物実験によれば,少量では呼吸中枢を興奮せしめて,血圧を下降せしめる一方,ヂギタリス葉作用を呈し,或は運動麻痺を来すという。ところで釣藤には,リンコフイリンによつて説明できない薬効があるので,釣藤の薬効をリンコフイリンの作用であるとするには,なお疑問が残される。従つて皮にリンコフイリンがないから,釣藤としての効果がないと断定することもできないのである。王燾の外台秘要をみると,釣藤皮を用いているところと,単に釣藤とあるところとある。この釣藤は釣藤皮の略なのか,釣藤鉤なのか不明であるが,そのどちらをも指していると解してよいのではないか。増広大平和剤局方の附録である図経は,いつ頃の時代の著述であるかはつきりとしないが,その中でも釣藤皮を用いることを指示している。李時珍が古方と称したのは,これらの著述をさしたもので,唐宋の間には,釣藤皮が主として用いられたものであろう。わたしが現在用いているものは,この鉤と蔓とのまじつたものである。
 次に六八本草には,釣藤は長時間煎じると効がなくなると云い,この説は本草備要の説を引用したものと思われるが,果してさうであるか,この点についても,今後の検討が必要で,わたしは他薬と一緒に始めから入れて煎じている。外台秘要には炙つた釣藤を用いる例があり,若し熱によつて効力の減ずる成分がありとすれば,これは問題である。
 さて釣藤の薬効については,本草備要に,「甘微寒,心熱を除き,肝風を平げ,大人の頭旋,目眩,小児の驚啼,瘈瘲,熱擁,客忤,胎風,発斑疹を治す。肝風相火の病を主る」といい,葉橘泉の臨床実用薬物学では,「解熱,鎮静,鎮痙薬で,各種病熱で神経系を侵す者,小児の驚癇,痙攣,脳膜炎,脊髄膜炎,婦人産褥熱,破傷風,神経性流行感冒,諸般の熱病で頭痛,拘急,痙攣,抽搐等の神経症状を呈する者に卓効がある」と説明している。
 釣藤のこれらの薬効を参酌して,わたしは一定の薬方に,釣藤黄耆各3.0を加味して用いているが,これを加えたための副作用は全くみられないし,頭痛,めまい,シビレ感等が速に消退する。従つて高血圧の患者で,このような自覚症状を訴える場合には,これを加味しているが,これによつて以上の愁訴が去るとともに,血圧も安定してするものが多い。


※釣鉤藤は釣藤鉤の誤り?
【参考語句】
・驚癇(きょうかん):僅かな刺激でも興奮して,ひきつける病気。
・驚啼(きょうてい): 神経質に泣くのを云い、夜啼などもこれに入る。
・瘈瘲(けいじゅう):けいれんを起こしたり、ひきつれること。
・熱擁(ねつよう):熱のために意識がふさがって、はっきりしない。
・客忤(きゃくご):物におどろいて、ひきつけたり、意識が一時消失すること。
・胎風(たいふう):初生児のけいれん。



【副作用】
重大な副作用:特になし

その他の副作用

頻度不明
消化器 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢
[理由]本剤には当帰(トウキ)・地黄(ジオウ)・川芎(センキュウ) が含まれているため、
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。
[処置方]原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行うこと。

2014年2月28日金曜日

炙甘草湯(しゃかんぞうとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
炙甘草湯(しゃかんぞうとう)
本方は心悸亢進(或は脈の結代するものもある)、息切れを訴え、栄養が衰え、皮膚は枯燥し、疲労し易く、手足煩熱・口乾、大便の秘結等を目標として用いる。胃腸虚弱で食欲衰え、下痢の傾向のあるものには用いられない。
地黄・麦門冬・阿膠は滋潤・清涼の効があって、枯燥を潤し、栄養を亢め、煩熱を解し、間接的に強心の作用がある。麻子仁は腸壁を潤し、緩下の効がある。人参・桂枝・甘草は強心健胃の効能を有し、大棗・生姜は諸薬を調和して吸収を促進する。
以上の目標に従って本方は、心臓病・バセドウ病・産褥熱・肺結核・喉頭結核等に応用される。


『漢方精撰百八方』
57.〔方名〕炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

〔出典〕傷寒論、金匱要略

〔処方〕甘草4.0g 生姜、桂枝、麻子仁、大棗、人参各3.0g 地黄、麦門冬各6.0g 阿膠4.0g

〔目標〕1,永く続いた熱が下がってから、脈がうち切れし、動悸を訴えるもの。 2,疲れやすく、汗がよく出て、脈がうち切れし、動悸するもの。 〔かんどころ〕息切れ動悸を主訴とし、疲れやすい。

〔応用〕バセドー病。心不全。高血圧。

〔治験〕1.バセドー病
  バセドー病には炙甘草湯で、軽快または全治するものが多い。
  一婦人、年二十五、あと六ヶ月で結婚式をあげることになっているが、この頃、やせてきたし微熱もあるので、肺結核を心配して、某病院で診をうけたところ、バセドー病だから、手術をした方がよいと云われた。
  患者は手術をせずに治る方法はないかと、漢方治療に期待をもって来院した。
  一見して右の甲状腺肥大が眼につくが、あまり著しい腫脹ではない。上肢を伸展せしめると、指がふるえる。眼瞼は大きくはなっていないが、まばたきは少ないようである。脈は一分間百十五指、時々結代する。皮膚は汗ばんで油をぬったようである。臍上で動悸が亢進している。口渇があり、食はすすむ。大便は一日一行、月経正調。  炙甘草湯を与える。十日ののち来院。効験たちまち現れ、動悸、息切れが軽快し、四谷駅から当院まで、休まずに歩くことができたと喜ぶ。三ヶ月後は、甲状腺の肥大も、目だたなくなり、脈拍も八十内外となり、体重も四kgを増し、平生と変わらなくなり、近く結婚式をあげる運びとなった。
2.高血圧症。
  一男子、四十九才。動悸、息切れを主訴として来院。患者は、顔色黒く、やせ型で、脈拍一分間九十二至、血圧186/100、臍上の動悸が著しい。夜間多尿あり、口渇もある。尿中蛋白陽性。柴胡加竜骨牡蛎湯を用いる。気持ち悪くて、のめないという。炙甘草湯に転方。動悸、息切れ軽快。服薬一ヶ月後、夜間の多尿やみ、安眠するようになり、血圧も安定した。              
大塚敬節


『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
炙甘草湯(しゃかんぞうとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔炙甘草(しゃかんぞう)、生姜(しょうきょう)、桂枝(けいし)、麻子仁(ましにん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)各三、生地黄(せいじおう)、麦門冬(ばくもんどう)各六、阿膠(あきょう)二〕
本方は、虚証で気・血とも衰え、邪気が心下に急迫的に逆動し、呼吸促迫(息切れ)、心悸亢進(動悸)または脈の結代を起こしたものに用いられ る。したがって、栄養衰え、皮膚枯燥、疲労倦怠、四肢煩熱、口乾、不眠 自汗、心中苦悶感、心悸亢進、息切れ(呼吸促拍)、不整脈、便秘などを目標とす る。本方は、胃腸の弱い人には使われない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、炙甘草湯證を呈するものが多い。
一 心臓弁膜症、心悸亢進、不整脈、心内膜炎、高血圧症その他の循環器系疾患。
一 肺炎、肺結核、バセドウ氏病、喉頭結核その他の頸部および呼吸器系疾患。
一 そのほか、産褥熱など。


『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.230 心臓弁膜症・不整脈・バセドー病・産褥熱
58 炙甘草湯(しゃかんぞうとう)(復脈湯(ふくみゃくとう)) 〔傷寒・金匱〕
炙甘草・生姜(乾生姜のときは一・〇)・桂枝・麻子仁・大棗・人参 各三・〇 生地黄(乾地黄でよい)・麦門冬 各六・〇 阿膠二・〇
  水三五〇ccに日本酒一五〇ccを加え、これをもって阿膠以外のものを煮て二五〇ccとし、滓を去って、阿膠を加え溶解させて一日三回に分服する。酒をきらう場合は、水五〇〇ccで普通のとおり煎じてもよい。一般にはこの煎じ方をしている。炙甘草とするには、刻んだ甘草をフライパン様のもので芳香を発し狐色程度になるまで撹拌しながら加熱する。(麻子仁は殻を去るか、砕いて用いるがよい)


〔応用〕 気血ともに衰えて、邪気が心下に急迫的に逆動し、心動悸あるいは脈結滞を起こしたものである。上部の心肺が虚し、これに熱が加わり、胸間は潤いを失い、そのため虚性の心機能亢進を起こしたものに用いる。結脈は代償性期外収縮によって起こり、代脈は房室不完全ブロックのときに起こるという。
 本方はチフス・肺炎等熱性病で熱高く、動悸虚煩不眠があり、脈の結滞などあるとき、心臓弁膜症・心悸亢進症・不整脈・心内膜炎・交感神経緊張症・高血圧症・バセドー病・産褥熱・胃潰瘍・肺結核・喉頭結核等に用いられることが多い。

〔目標〕 虚証で、栄養衰え、燥きが強く、皮膚枯燥し、疲労しやすく、手足の煩熱、口乾き、大便秘結がちで、息つきが熱く、心悸亢進、あるいは脈の結滞、不整脈と息切れを訴えるのを目標とする。
 胃腸が虚弱で食欲が衰え、下痢の傾向があり、あるいはこの方をのんで下痢するものには禁忌である。
 本方は地黄が主薬で、臍下不仁、煩熱の症があり、心尖および腹部大動脈の動悸が亢進するものである。

〔方解〕 炙甘草は心肺の急迫症状を緩和し、大棗は心胸を潤し、強心の作用があり、かつ呼吸促進を緩和する。麦門冬湯は肺を潤して気を鎮め、麻子仁は熱によって燥(かわ)いているのを潤(うるお)す。地黄は心熱をさまし、強心的に作用し、かたわら血熱をさます。阿膠は地黄を助けて血熱のために煩躁するのを治し、また出血を治す。人参は麦門冬に協力する。麦門・地黄・麻子仁・阿膠等みな滋潤清涼の剤で枯燥を潤し、栄養を高め、煩熱を解す。酒は心下の痞えをめぐらし、血行をよくし、薬効を助長させる。

〔主治〕
  傷寒論(太陽病下篇)に、「傷寒、脈結代、心動悸スルハ、炙甘草湯之ヲ主ル」とあり、
 金匱(虚労病門)千金翼炙甘草湯条に、「虚労不足、汗出デテ悶シ、脈結、心悸スルヲ治ス。行動常ノ如キハ、百日ヲ出デズシテ危ク、急ナルモノハ十一日ニシテ死ス」とあり、
 同(肺痿門)外台炙甘草湯条には、「肺痿(肺結核の一症または肺気腫様疾患)涎唾多ク、心中温温液液(ウンウンエキエキ)(悪心の甚だしきもの)ナルモノヲ治ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ心動悸ヲ目的トス。凡ソ心臓ノ血不足スルトキハ、気管動揺シテ悸ヲナシ、而シテ心臓ノ血動、血脈ニ達スルコト能ハズ、時トシテ間歇ス。故ニ脈結代スルナリ。此方ハ能ク心臓ノ血ヲ滋養シテ脈路ヲ潤流ス。是ヲ以テ動悸ヲ治スルノミナラズ、人迎(甲状軟骨の外方で頸動脈の搏動を触れるところ)槽ノ血脈凝滞シテ気急促迫スル者ニ効アリ。是レ余数年ノ経験ナリ。又肺痿ノ少気シテ胸動甚シキ者ニ用イテ一時効アリ。竜野ノ秋山玄瑞ハ此方ニ桔梗ヲ加エテ肺痿ノ主方トス。蓋シ金匱ニ拠ルナリ。(中略)蓋シ後世ノ人参養栄湯ヤ滋陰降火湯ハ、此方より出デタル故、二方ノ場合ハ大抵此方ニテ宜シ」とある。
 古方薬嚢には、 「脈の結代と、心の動悸にあり、脈の結代とは、脈が早くなくて、つまり脈の打ち方がゆっくりとしていて、時々休むものをいう。(中略)心動悸とは、胸のどきどきする事なり。平常弱き人にて、汗が出て胸苦しくなる者、または過労などした後、汗が出て胸苦しく動悸する者。熱が少しあり、咳が多く痰や唾が多く出て、胸の中が何とも言えず気持悪しき者、本方は虚弱人又は無理をし過ぎて生じたる諸の病によし」といっている。


〔鑑別〕
 ○竹葉石膏湯 93 (呼吸促迫・煩渇)
 ○黄連阿膠湯 13 (心煩・熱、煩躁、腹痛、便血)
 ○小建中湯 65 (虚労・腹中および腹皮急痛)
 ○桂枝加竜牡湯 32 (虚労・胸腹、臍下動悸)
 ○八味丸 112 (虚労・臍下不仁、小便不利)
 ○柴胡桂枝乾姜湯 44 (動悸・脇下微結、頭汗)
 ○三物黄芩湯 48  (心胸苦煩・四肢煩熱、腹部軟弱)
 ○麦門冬湯 111 (呼吸促迫・大逆上気)


〔治例〕
 (一) バセドー病?
 四十歳の婦人。傷寒の後、心中動悸甚しく時々咽喉に迫りて少気し、咽喉の外肉壅腫はして肉瘤の如く(甲状腺腫大)、脈虚数、身体羸痩、枯柴の如く、腹内虚軟、背に付き、飲食始まず。余曰く。炙甘草湯加桔梗を捨(おい)て適方なし。其の方を連服せしむ。数旬にして動悸漸く安く、肌肉大に生じ、咽喉壅腫は自然に減じ、気息寛快して閑歩を得たり。後ち無恙と云ふ。

(浅田宗伯翁、橘窓書影)

 (二) 発語障害
 日本橋、本屋惣吉が妻、心中悸し、胸下痞硬、臍上動悸あって失音し、声を開くこと能はず。大便せぜること五~六日、時にまた頭眩す。脈沈細にして飲食進まず。 (中略)諸症稍快しと雖も唯音声発せず、悸動止まざること十九日。炙甘草湯を用ふること七~八日にして動悸止み、音声聞きて常に復することを得たり。
(片倉鶴陵、静験堂治験巻三)

 (三) バセドー病
 三七歳の婦人。二~三年前より動悸を訴え、脚気といわれていたが、最近甲状腺の肥大に気づき、病院でバセドー病と診断され、手術をすすめられた。主訴は動悸で、その他頭痛、発汗過多があり、便秘している。
 患者は痩せて眼球が突出して光り、脈は一分間に一〇六で、ときどき結滞する。皮膚は油を塗ったように湿って光り、臍部の動悸が亢進している。口渇がある。炙甘草湯一〇日ほどで、動悸が少なくなり、便通が毎日あるようになり、一般状態が好転し、甲状腺もやや縮小した。

(大塚敬節氏、漢方診療の実際)

 (四) 産褥熱
 三七歳の婦人。一二日前にお産をして入院中である。産後全身に高度の浮腫が現われ、息苦しく眠れない。体温は三九度を越し、口渇があり、脈が結滞し、臍上の動悸が激しく、便秘している。患者は言葉を出すのも苦しく、浮腫のため眼を開かない。舌乳頭がとれて真赤になり乾燥している。
 脈の結滞と舌の状態を考えて、炙甘草湯を与えた。この舌は地黄を用いる証によくある。これをのむと、その日の夕方から気分がよくなり、その夜ひどい発汗とともに熱が下がってよく眠れた。胸の苦しみも楽になり、三日後には浮腫も大部分去った。
(大塚敬節氏 漢方診療三十年)

 (五) 不整脈
 七四歳の男子。毎朝運動のため自転車に乗り、二時間ほど疾走する習慣であったが、そのため風邪をひき、そのときから脈の結滞が起こった。もう一ヵ月近くなるがひどくなるばかりで、不整脈が始まると動悸がして、胸が苦しくなる。食事や便通に変わりはない。
 痩せてやや貧血気味である。脈に力はあるが、ひどい不整脈である。血圧は一七〇~八〇であった。腹部心下に動悸が触れる。
 よって炙甘草湯を与えたところ、一〇日間の服薬でほとんど結滞は治って正常となり、一ヵ月服用して全身状態でますます好調で、血圧も一三〇~八〇となって廃薬した。
(著者治験)

『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.74
炙甘草湯(しゃかんぞうとう) (傷寒論)

 処方内容 炙甘草四・〇 桂枝三・〇 大棗五・〇 人参、阿膠各二・〇 乾地黄四・〇 麻子仁三・〇 麦門冬六・〇 生姜一・〇(三〇・〇)

 必須目標 ①心悸亢進 ②不整脈 ③呼吸困難 ④手足煩熱

 確認目標 ①便秘 ②口渇 ③皮膚枯燥 ④浮腫 ⑤腹部動悸 ⑥疲労し易い ⑦目眩 ⑧低血圧 ⑨自汗出。

 初級メモ ①本方は地黄の証(腹部動悸、手足煩熱、皮膚枯燥)、つまり瘀血による血行障害で原因で桂枝去芍薬湯の証(心悸亢進、不整脉、呼吸困難など)を起こしている者を目標にする。

 ②漢方で不整脉を表わす用語に促脉(そくみゃく)(数脉で一止するもの、桂枝去芍薬湯)、結脉(遅脉で一止するもの、抵当湯)、代脉(だいみゃく)(浮になり沈になり、数になり遅になり、変化常なく、しかも一止する脉、炙甘草湯)の三種がある。

 中級メモ ①この方は普唐以降の方で、純古方でない。南涯は方意不明なりとして古方より除いている。大体地黄を含む処方は張仲景の古方ではないと思われる。

 ②浅田宗伯「この方は心動悸を目標とす。すべて心臓の血不足するときは、気管動揺して悸をなし、而して心臓の血動、血脉へ達すること能わず、ときとして間歇す。故に脉結代するなり。この方、よく心臓の血を滋養して脉路を潤流す。これをもって動悸を治する」

 適応証 心臓弁膜症。バセドウ病。喉頭結核。


『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
33.炙甘草湯(しゃかんぞうとう) 傷寒論
 炙甘草3.0 生姜3.0(乾1.0) 桂枝3.0 麻子仁3.0 麻子仁3.0 大棗3.0 人参3.0 地黄6.0 麦門冬6.0 阿膠2.0

(傷寒論)
○傷寒,脉結代,心動悸,本方主之,(太陽下)

(金匱要略)
○虚労不足,汗出而悶,脉結,悸,行動如常,不出百日危,急者十一日死,本方治之(虚労)
○肺痿涎唾多,心中温々液々者,本方治之(虚労)


〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 心悸亢進、動悸、息切れがはげしく脈が結代,または不整脈のもの。あるいは便疑したり熱感を伴うもの。栄養が衰えて顔色が悪く,皮ふはかさかさとして潤いがなく,疲れやすくて心臓障害があるものを目安にする。体質によって程度差はあるが,手足のほてり,口のかわきや,便秘などを伴うことが多い。
 さて本方を最も繁用する疾患は,不整脈,結代でいわゆる期外収縮と呼ばれている心臓の規則正しいリズムの間に,速度の早過ぎるものやおそい搏動がまじるもので,心筋炎や冠状動脈硬化などの器質的変化や過労,不眠,不神的ショック,酒やタバコの過度などの機能的原因などによるもの,あるいは甲状腺機能亢進症,なかでもバセドウ氏病の心搏亢進や呼吸困難,これに伴う不眠または貧血症で,微熱や熱感を伴う動悸,息切れ,不整脈に著効がある。本方の特徴は不整脈,動悸,息切れなどの心臓症状だけでなく,貧血,疲労,栄養不良なども好転せしめる。青年や中年の男女に多い心心臓神経症で,脈の期外収縮による結代や,発作性心搏急始症による速脈を対象に貧血,易疲労性。ヒフ枯燥などを考慮して用いられる。なお本方は柴胡桂枝干姜湯,桂枝加竜骨牡蛎湯などの症状と似ているが,これらは精神不安と胸腹部の動悸が主体暴本方は脈の結代,不整脈が応用の目安になる。


〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○心悸亢進(動悸)呼吸促迫(息切れ)である。この場合の脈は頻数,不正,結代などが多いが,もっぱら自覚的な症状が目標になる。また栄養が衰えて,皮膚が枯燥し,疲れやすく,手足が煩熱し,口が乾き,あるいは自汗があり,便秘するなどの症状がある。
○崇蘭館試験方口訣には本方は元来,仲景の大補薬で,貧血を回復し,喀血を治し,疲れて息切れし,少し,咳が出て,体液を失い,脈結代し,あるいは心下に動悸があって胸苦しく,巨里の動が激しくて,痩せるものに用いるとあって,腹証として心下の動悸がひどくなることを示している。


〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
 この方を用いる目標は,脈の結滞と心悸亢進であるか台結滞がなくても心悸亢進があれば用いてよい。私はこれをバセドー氏病や心臓病などで,心悸亢進と脈の結滞のあるものに用いる。



〈漢方診療の実際〉 大塚 矢数,清水 三先生
 本方は心悸亢進(或は脈の結代するものもある。)息切れを訴え,栄養が衰え,皮膚は枯燥し,疲労し易く,手足煩熱・口乾,大便の秘結等を目標として用いる。胃腸虚弱で食欲衰え,下痢の傾向のあるものには用いられない。地黄・麦門冬・阿膠は滋潤・清涼の効があって,枯燥を潤し,栄養を亢め,煩熱を解し,間接的に強心の作用がある。麻子仁は腸壁を潤し,緩下の効がある。人参・桂枝・甘草は強心健胃の効能を有し,大棗・生姜は諸薬を調和して吸収を促進する。以上の目標に従って本方は心臓病・バセドウ病・産褥熱・肺結核・喉頭結核等に応用される。


〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 虚証で,栄養衰え,燥きが強く,皮膚枯燥し,疲労しやすく,手足の煩熱,口乾き,大便秘結がちで息つきが熱く,心悸亢進,あるいは脈の結滞,不整脈と息切れを訴えるのを目標とする。胃腸が虚弱で食欲が衰え,下痢の傾向があり,あるいはこの方をのんで下痢するものには禁忌である。本方は地黄が主薬で,臍下不仁,煩熱の症があり,心尖および腹部大動脈の動悸が亢進するものである。
気血共に衰えて,邪気が心下に急迫的に逆動し,心動悸あるいは脈結滞を起こしたものである。上部の心肺が虚し,これに熱が加わり,胸間は潤いを失い,そのため虚性の心機能亢進を起こしたものに用いる。


〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 運用 1. 動悸
 傷寒論太陽病下の「傷寒, 脈結代,心動悸するものは炙甘草湯之を主る。」というものが用例である。脉結は遅脉で,不整脈,代脉は数脉と遅脉が不規則に交って起る不整脉,心動悸は自他覚的に心悸亢進が認められるもの。之により有熱性の伝染病で熱のために心臓衰弱を起し不整脉を呈するもの,無熱性の心内膜炎,心臓弁膜症,各種の不整脈(バセドウ氏病で動悸,汗多く,肺動のもの)等にも使うことがしばしばある。但し不整脉なら凡て炙甘草かというと必ずしもそうではなく,虚していること,熱候として例えば口がはしゃぐ,手足のしんがほてる,息が熱く感じる,燥いた症状として息が切れる。便秘するなどの症状のどれかがあるのを参照して使う。脉は結代ばかりでなく、結のことも代のことも動のこともある。動脉で類証鑑別を要するのは柴胡加竜骨牡蛎湯は神経症状を伴うことが多く,苓桂朮甘湯は水の変化があってめまい,胃部拍水音,小便不利などあり,熱の症状はない。
 運用 2. 心中温々たるもの
 「肺痿,涎唾多く,心中温々液々たるものは炙甘草湯之を主る」(金匱要略肺痿)肺痿は肺の虚の状態で,之に甘草乾姜湯や桂枝去芍薬加皂莢湯などの行く虚寒と炙甘草湯,生姜甘草湯などの行く虚熱とがある。炙甘草湯は心の熱と,その熱によって肺が燥いている状態である。臨床的には場合によって心と肺のどちらを主としても構わない。肺痿は肺を主とすることは言うまでもなく,肺が燥くので麦門冬,麻子仁,大棗などを多く用い,地黄,阿膠,亦間接に潤すことを手伝っている。涎唾は津液乾燥を自ら救おうとするために起るもので,かの涎唾を吐すの寒や水家きものとは異る。心中温々液々は心臓部の深い所が何となくむかむかと悪心を催すような感じである。軽症だとこのままの症状に使う。重症でもこの状態から離れているわけではない。最も多く使うのは次の場合である。急性肺炎で高熱,呼吸困難,胸中苦悶,皮膚は汗ばみ,顔赤く,舌は概ね乾燥して赤く水を欲しがるが多くは飲みたがらず,或は頻りに唾まじりの痰を吐く重症のもの。竹葉石膏湯は息切れを主とし,本方は熱症状を主とする。黄連阿膠湯も熱,煩躁が強いが呼吸器症状は少い。肺結核の重症で羸痩し,皮膚は乾燥しているにも拘らず汗ばみ,或は盗汗があり,顔は殊に頬部が紅潮して熱っぽい。熱にうかされたような顔貌を呈し,苦しくて夜眠られぬこともあり,薄い唾の様な痰多く,或は血痰を交え,動悸甚しく体を動かすと暫くの間は息が切れてやりきれぬと云うが如きもの。柴胡桂枝干姜湯よりも燥きや虚の熱の症状が遙かに高度である。特に熱動悸などの症状が一層著明のときに炙甘草湯を使う。
 運用 3. 虚労
 炙甘草湯を虚労に使うのは金匱要略虚労の「虚労不足,汗出でて悶し,脉結,悸,行動常に如し。百日出ですして切し。急のものは11日死す。」によるのだが,危しとか死すとか書いてあるのでどんなにか重症で,その様なものはものは日常あまり遭遇しないから炙甘草湯も使う機会はあまり有るまいとの先入観が禍いして使う人が少いが実際には案外使う機会が多い。それは虚証の人で行動常の如しと云うように一見しては何の変哲もないが,疲れやすく,動悸し勝ち,その動悸は心臓部でも手足その他の部でもドキンドキンと脉をうつのが判るという人,或は手足が特に手掌,足蹠がほてり,それが春夏には余計劇しく,汗をかき易いもの,或は顔がほって口燥感を覚えるもの,その他自律神経不安定症とか肺結核の疑いとかの診断でぶらぶらして一向にはっきりせぬものなど,要するに虚の血熱(虚の心熱)虚労を目標にして使う。脉は結のことも動のこともある。類証鑑別すべきは虚労の小建中湯,桂枝加竜骨牡蛎湯,八味丸等で,本方が血熱と動悸を主とするのに対して他方はそれが主証でないこと,脉,小便の変化,下虚の症状の有無等に着眼すればよい。柴胡桂枝干姜湯にも燥いて仮熱が上衝する容態が起るし,動悸もするが他に脇下微結,頭汗等の症状があるから区別が出来る。黄連阿膠湯も顔面紅潮,煩躁,動悸,不眠等があるが熱だけで燥く症状は少く,炙甘草湯よりも何となく力が強い炙甘草湯の方は何となく枯れて喘いでいるという様な風がある。時には桃核承気湯,猪苓湯,救逆湯,三物黄芩湯,柴胡加竜骨牡蠣湯,茯苓甘草湯などとも鑑別すべき必要がある。

〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此の方は,心動機を目的とす。凡そ心臓の血不足するときは,血管動揺して悸をなし,而して心臓の血動,血脈に達すること能はず,時として間歇す。故に脈結代するなり。此方は能く心臓の血を滋養して脈路を潤流す。是を以て動悸を治するのみならず,人迎(甲状軟骨の家方で頸動脈の搏動を触れるところ)辺の血脈凝滞して気急促迫する者に効あり。是れ余数年の経験なり。また肺痿の少気して胸動甚だしき者に用ひて一時効あり。竜野の秋山玄瑞は此方に桔梗を加えて肺痿の主方とす。蓋れ金匱に拠るなり。(中略)蓋し後世の人参養栄湯や滋陰降下湯は此の方より出でたる故、二方の場合は大抵此の方にて宜し。


〈古方薬嚢〉 荒木 性次先生
 脈の結代と心の動悸にあり。脈の結代とは,脈が早くなくて,つまり脈のうち方がゆっくりしていて,時々休むものをいう(中略)心動悸とは胸のどきどきする事なり。平常弱き人にで汗が出て胸苦しくな識者,また過労などした後,汗が出て胸苦しく動悸する者。熱が少しあり,咳が多く痰や唾が多く出て,胸の中が何とも言えず気持悪しき者。本方は虚弱人又は無理しすぎたる諸の病によし。



『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
炙甘草湯(しゃかんぞうとう) [傷寒論・金匱要略]

【方意】 心の虚証・気の上衝による心悸亢進・結説・頻脈・胸内苦悶感・呼吸困難・のぼせ・不整脈等と、虚証による強度の疲労倦怠等のあるもの。しばしば燥証による口燥・便秘・手足煩熱・紅頬・発熱等を伴う。
《少陽病.虚証》
【自他覚症状の病態分類】

心の虚証・気の上衝 虚証 燥証
主証
◎心悸亢進
◎結説 頻脈
◎胸内苦悶感
◎呼吸困難
◎のぼせ


◎疲労倦怠






客証 ○不整脈
  息切れ
  煩悶感
  不安 不眠
  目眩 耳鳴
  吃逆
  浮腫
  自汗 盗汗
  貧血
  るいそう
○口燥 ○口渇
○乾咳
○便秘
○手足煩熱
  紅頬 血痰
  熱い呼気
  発熱 微熱
 


【脈候】 結代(不整脈)・浮虚数・浮虚・濇虚。

【舌候】 紅舌。乾燥し鏡面舌、時に湿渇して無苔。

【腹候】 腹力軟。陥凹して心下痞があり、腹部大動脈の動悸を触れる。多くは腹直筋の緊張がある。

【病位・虚実】 気の上衝があり発揚性である。裏の実証はなく、上焦の症状が中心で少陽病に位する。疲労倦怠が強く、脈候および腹候からも虚証である。

【構成生薬】 炙甘草(蜜炙)4.0 桂枝3.0 麦門冬6.0 麻子仁4.0 人参2.0 阿膠2.0 大棗7.5 乾地黄4.0 生姜1.0

【方解】 麦門冬は滋潤作用があり鎮咳に有効であるが、一方滋養・強壮・強心作用もある。人参も滋養・強壮・滋潤作用があり虚証に対応する。麦門冬・人参の組合せは虚証に有効であり、更に心の虚証に対し強心作用を発揮し、心悸亢進・不整脈・胸内苦悶感・息切れ等を治す。阿膠は鎮静・止血薬で、人参・麦門冬に協力し、心虚より派生する不安感・不眠等を治す。桂枝は気の上衝を主り、特に桂枝・甘草の組合せは強い発作性の心悸亢進・のぼせを鎮静させる。乾地黄は増血作用の強い熟地黄と異なり、燥証に対する作用が強く、口燥・手足煩熱・皮膚枯燥を治す。麻子仁も燥証に対して滋潤作用があり、腸を潤し便秘を治す。大棗・生姜は本方全体の作用を緩和し応用の幅を広げる。


【方意の幅および応用】
 A 心の虚証・気の上衝:心悸亢進・結代・頻脈・胸内苦悶感・のぼせ等を目標にする場合。
   期外収縮、狭心症、心内膜炎、心臓弁膜症、心臓神経症、高血圧症、貧血

 B 虚証:強度の疲労倦怠等を目標にする場合。
   口内炎・舌炎・歯齦炎・扁桃炎等で飲食不能のため虚証の強いもの
 C 燥証:口燥・手足煩熱・紅頬・発熱等を目標にする場合。
   糖尿病、百日咳、肺炎、肺結核症の末期


【参考】 * 此の方は心動悸を目的とす。凡そ心臓の血不足するときは、気管動揺して悸をなし、而して心臓の血動、血脈へ達すること能わず、時として間歇す。故に脈結代するなり。此の方能く心臓の血を滋養して脈路を潤流す。是を以って動悸を治するのみならず、人迎辺の血脈凝滞して気急促迫する者に効あり。是、余数年の経験なり。又、肺痿(肺結核)の少気(呼吸浅少)して胸動甚だしき者に用いて一時効あり。竜野の秋山玄瑞は此の方に桔梗を加えて肺痿の主方とす。蓋し『金匱』に拠るなり。又『局方』の人参養栄湯と治を同じくして、此の方は外邪に因って津液枯槁し、腹部動気ある者を主とし、人参養栄湯は外邪の有無に拘わらず、気血衰弱、動気肉下に在る者を主とす。蓋し後世の人参養栄湯や滋陰降火湯は此の方より出でたる故、二方の場合は大抵此の方にて宜し。但し結悸(心拍動に結滞がある)の症は二方にては治せぬなり。
『勿誤薬室方函口訣』
      *本方は桂枝甘草湯の加味方であり、気の上衝による心悸亢進・息切れ・胸内苦悶感等は共通する。また「脈促、胸満者」の桂枝去芍薬湯の加味方と考えることもできる。
      *本方証の患者は浮腫・流涎を伴うことがある。
*本方は脈結代・心悸亢進・疲労倦怠が特徴であるが、心悸亢進があれば脈結代がなくても用いて良い。胸内苦悶感・呼青口促迫・咳嗽を伴う傾向がある。脈は微細で不整、血圧低下し、心臓衰弱の状態に良い。
      *本方は燥証があり人参養栄湯・滋陰降火湯の原方とされる。

【症例】 バセドー病
 患者は23歳の未婚の婦人。カゼを引いてから健康状態が良くないので某大学病院で診察を受けバセドー病と診断された。脈をみると浮数で、一見して甲状腺が大きい。口渇がある。大便はやや便秘気味で、月経は順調。食欲は普通。腹診するに、臍部の動悸が亢進し、皮膚はバセドー病の患者特有の油をぬったような感触である。眼球はまだあまり突出はしていないが、手指の振戦がある。
 この患者はだんだん痩せて、体力が衰えているし、脈浮数で臍上の動脈の拍動が亢進し、息切れを訴えているので炙甘草湯を用いた。半月ほどで動悸が穏やかになり、疲れなくなった。1ヵ月ほどで甲状腺も目立たなくなり、口渇も減り、快便となった。
 ところが2,3ヵ月たつと浮腫が現れ顔が腫れてきた。私はかまわず前方を飲ませた。すると浮腫が取れて肥えてきた。脈は1分間80位。臍部の動悸もおさまった。先日、某大学病院を受診したところ、全治はしていないのでアイソトープを勧められた。私は漢方薬だけで経過をみることを勧めた。
 大塚敬節 『漢方の臨床』 11・5・20


進行性指掌角皮症
  33歳の主婦。結婚6年になるが妊娠しない。初診は指の皮膚が荒れて、皮がむけ、それが次第に増悪するという。脈をみると浮数で、甲状腺の肥大があるので、注意して診察してみると、震戦があり、眼球もやや突出し、その他の眼症状もみられるので、バセドー病の診断した。腹診してみると、心下が膨隆して硬く、臍上で動悸が亢進している。臍下は軟弱である。そこで炙甘草湯を用いたところ、2ヵ月ほどの服薬でバセドー病の症状が軽快するとともに指掌角皮症も良くなった。

大塚敬節 『漢方の臨床』 11・2・20


『臨床傷寒論』  細野史郎講話 現代出版プランニング刊
p.283
傷寒解而後、脈結代、心動悸、炙甘草湯主之。
〔訳〕解寒解(げ)して後(のち)、脈結代(けつたい)、心動悸(しんどうき)するのは炙甘草湯(しゃかんぞうとう)之を主る。
〔講話〕炙甘草湯の薬味をみると、桂枝、甘草、生姜、大棗(以上で桂枝去芍薬湯)、人参、阿膠、地黄、麦門冬、麻子仁です。これはつまり、桂枝去芍薬湯に人参と阿膠、地黄、麦門冬、麻子仁を加たものです。
 桂枝去芍薬湯というと、腹が軟らかい、腹筋が硬くない。要するに腹に力のない、脈が結滞する人に用います。
 傷寒で熱がなくなってからも、体が弱って、脈が結滞し、胸で動悸し、胸で動悸する。そういう場合には炙甘草湯がよく効く。これは考えてみると桂枝湯で体を強くしておいて、その上に人参とか阿膠、地黄のような体を強くするものを加えて、更に体を強くする、そういう薬です。
 昔の人は肺病に持っていきました。
 私の『方証吟味』にも書いてありますが、私の師匠の新妻先生は、浅田宗伯先生がよく使ったように、バセドウ氏病の心動悸に使っていました。この時、炙甘草湯にイタドリの根の虎杖根とハトムギの種子の薏苡仁を加えると、甲状腺腫がだんだん小さくなってきます。宗伯先生の高第の新妻荘五郎先生は、更に別甲を加えられたそうです。いずれもバセドウ氏病で、胸動悸の特に強い時に用いていました。


『漢方治療の方証吟味』  細野史郎著 創元社刊
p.221
 また、この夏枯草も一つの方法だと思います。これは瘰癧(るいれき)加味という薬方の一種で、他に貝母、瓜呂根、青皮、牡蛎と共に五味として用います。これは、陳修園の創意の方で、瘰癧といって、頸のリンパ腺が次々と腫れてどうしても治らないとき、小柴胡湯やそれに桔梗を加えただけでは効かないときでも、この瘰癧加味を小柴胡湯とか『局方』の逍遙散と合方にして用いますと、ものの見事に効くことを、私は数々経験しています。こんな話を覚えていてくれて、A君は、この夏枯草の薬方の一味をとって用いたものでしょう。この夏枯草には、またバセドー氏病の甲状腺の腫大に、炙甘草湯に夏枯草、薏苡仁、虎杖根の三味を加えて用いられた先師の治験の思い出もあります。


副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

2) その他の副作用


頻度不明
過敏症 発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等
消化器 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等

過敏症
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること

[理由]  本剤には桂皮(ケイヒ)・人参(ニンジン)が含まれているため、発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等 の過敏症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている。これらのため。
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

消化器
[理由]  本剤には地黄(ジオウ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。