『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
分消湯(ぶんしょうとう)の項
白朮・茯苓・猪苓・沢瀉は四苓湯で利水を図り、
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
四苓湯(しれいとう)〔五苓散(ごれいさん)から桂枝を除いたものであり、瘀水が体内にあるが、気 の上衝がないため、頭痛、めまい、嘔吐などが弱いものである〕
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
四苓湯(しれいとう) <出典>温疫論(清時代)
<方剤構成>
沢瀉 茯苓 猪苓 白朮
<方剤構成の意味>
五苓散から桂枝を除いただけの方剤である。
五苓散中の桂枝は,表虚すなわち頭痛やめまいを治す作用を期待して入れられているものと考えられるから,五苓散の証で表証がないものは四苓湯でよいということになる。
<適応>
①腎炎・ネフローゼ,②嘔吐(悪阻(つわり)などで,水を飲むとすぐ吐く場合)。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
四苓湯(しれいとう)
健 タ
温疫論(うんえきろん)
どんな人につかうか
五苓散(ごれいさん)(87頁)から桂枝(けいし)をぬいたもので、口渇(こうかつ)があって水を飲むけれどもうまくおさまらず,尿の出も悪く,嘔気(おうき),嘔吐(おうと)、腹痛、むくみなどを伴う場合に用い、暑気あたり、急性胃炎、むくみなどに応用します。
目標となる症状
症 ①口渇(こうかつ)。②嘔気(おうき)、嘔吐(おうと)。③浮腫。④腹痛。⑤下痢(水様性)。
腹 脈 舌 五苓散(ごれいさん)に準ずる。
どんな病気に効くか(適応症)
のどが渇いて水を飲んでも尿量が少なく、吐き気、嘔吐、腹痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症。暑気あたり、急性胃腸炎、むくみ。つわり。
この薬の処方
沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、猪苓(ちょれい)各4.0g。
この薬の使い方
①前記処方の一日分として煎じてのむ。
②前記四種の生薬の粉末を等分にまぜ、散剤として1回1.0~4.5gを服用します。
③オースギ四苓湯細粒(しれいとうさいりゅう)、成人一日3.0gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①五苓散(ごれいさん)の症状で、のぼせ、頭痛、発熱などの表証のない場合に用います。
②浅田宗伯の勿誤薬室方凾(くごやくしつほうかん)には、四苓散(しれいさん)(四苓湯(しれいとう))が「能(よ)く雀目(じゃくもく)(夜盲症)を治す」とあります。
処方の解説
五苓散(87頁)の項参照(頭痛、発熱、のぼせはない)。
※勿誤薬室方凾(くごやくしつほうかん)? → 勿誤薬室方凾(ふつごやくしつほうかん)
『勿誤薬室方函口訣(51)』 日本東洋医学会理事 内炭 精一
-四物湯(局方)・四物竜胆湯・四苓散・紫根牡蠣湯・紫蘇子湯-
四苓散(しれいさん)
次は四苓散(しれいさん)です。本方は呉有性の著書である『温疫論』所載の薬方であります。最初に本文の訂正をします。本文の上から十一字目の下に「飲」が脱落しています。さらに一行置いて、次の薬方は「即五苓散(ゴレイサン)方中去桂枝」とありますが、これは『寿世保元』の四苓散(シレイサン)(茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、猪苓(チョレイ)、白朮(ビャクジュツ)であって、『温疫論』の四苓散は茯苓、沢瀉、猪苓、陳皮(チンピ)の四味であります。 主治の文の「治煩渇」以下「名停飲」までは「温疫論」に出ている主治の文の引用で、しかも、のちに続く文を省略してあります。「説約云」以下、薬方、浅田先生の『口訣』をも含めて全文は『寿世保元』の四苓散として記述したものと考えられます。
そこで『温疫論』 の四苓散の主治を原典の通りに解説します。温疫という流行性の激しい熱病で、熱の邪が胃腸に伝わって、口渇が激しくて水分が飲みたければ、ほどほどに与えるのがよろしい。もし口渇が強くて飲むことが多過ぎると、水が心下部に停滞します。これを停飲といいます。四苓散を用いると大変効果があります。もし口渇が至って強く、冷たい水を飲みたく思えば夏冬に関係なく、これまたほどほどに与えたらよろしい。流行性熱病の熱の甚だしいものが冷たい水を飲む時は大変治療の助けとなるので、熱を冷ますためにもよいのであります。しかし飲もうと思う半分で止めなさい。一時に多く飲むのは悪いのです。暫くして再び口渇があれば、また飲ませなさい。梨の汁、蓮根の汁、サトウキビの汁、西瓜の類をあらかじめ貯蔵して、不意の求めに応ずるのがよい。もし冷えたものを嫌うものには温い湯を用いる。口渇の止まった時は胃腸が正常に回復したのであります。
次に五苓散から桂枝を去った四苓散、すなわち『寿世保元』の四苓散(茯苓、沢瀉、猪苓、白朮)について解説します。香川修庵の著書『医事説約』によると、四苓散に唐蒼朮(トウソウジュツ)を加えて、夜盲症に大変効果があると述べているが、浅田先生は「この方(寿光保元の四苓散)はよく夜盲症を治すことができる。また胃腸に水分が多くて、膀胱に熱があり、すなわち小便の出が悪く、下痢するものには、本方に車前子を加えて与えると効果がある」といっております。
夜盲症の治療については浅田先生はその治験録である『橘窓書影』で「四苓散から猪苓(チョレイ)を去って、大量の唐蒼朮を加得て用いるという香川修庵の伝や、逍遙散(ショウヨウサン)に大量の夏枯草(カゴソウ)を加えて用いるという老医葦田氏の伝などがあるが、鶏肝丸の速効があるには及ばない。鶏肝丸はニワトリの肝臓一味を細末にしてヤマイモの細末と等分に合して米糊(べいこ)で固めて丸薬にしたものである。自分はこの薬方を遠江(静岡県)の川カトの眼科医和田玄晁に習った」といっております。
同じく『橘窓書影』で浅田先生は「婦人で下痢の止まらないものを治療するのに四苓散加車前子(シレイサンカシャゼンシ)を用いて、往々特異な効果をあげている。あるいは時によって車前子一味を兼ね用いることもある」といっております。『橘窓書影』に出ている治験では、婦人産後の下痢で浮腫を伴ったものに奇効を得ています。
『勿誤薬室方函口訣』浅田宗伯
四苓散
此の方は能く雀目を治す。また腸胃の間、水気ありて脬熱下利する者に車前子を加へて効あり。
オースギ四苓湯細粒(調剤用)
【組 成・性 状】
(1)本剤は1日量3.0g中、下記の生薬末を含有する。
日局 タクシャ末 0.75g
日局 ソウジュツ末 0.75g
日局 ブクリョウ末 0.75g
日局 チョレイ末 0.75g
(2)本剤は暗褐色~灰褐色の細粒で、特異なにおいがあり、味 はやや苦い。
【効能又は効果】
のどが渇いて水を飲んでも尿量が少なく、はき気、嘔吐、 腹痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症 : 暑気あたり、 急性胃腸炎、むくみ
【用法及び用量】
成人1回1.0g、15歳未満7歳以上1回成人の2/3量、
7歳 未満4歳以上1回成人の1/2量、
4歳未満2歳以上1回成人の 1/3量、
2歳未満1回成人の1/4量、
いずれも1日3回食前また は食間に水または白湯にて経口投与する。
【使用上の注意】
(1)重要な基本的注意
1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考 慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状 ・ 所見の改善が認められない場合には、継続投与を避ける こと。
2)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注 意すること。
(2)高齢者への投与
一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量する など注意すること。
(3)妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦 又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性 が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
(4)小児等への投与
小児等に対する安全性は確立していない。[使用経験が 少ない]
副作用
漢方薬にも少しは副作用があります。人によっては、服用時にむかついたり、食欲がなくなるかもしれません。しだいに慣れることが多いのですが、つらいときは医師と相談してください。
・胃の不快感、食欲不振、軽い吐き気
2014年6月14日土曜日
2014年6月10日火曜日
胃苓湯(いれいとう) の 効能・効果 と 副作用
『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
平胃散と五苓散の合方を胃苓湯と名づけ、水瀉性下痢または浮腫に用いる。
胃苓湯(いれいとう)
蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・ 大棗 乾姜各一・五 甘草一・
平胃散と五苓湯の合方で、急性腸カタルによく用いられる。下痢・口渇・微熱界を目標とする。またネフローゼに用いて効がある。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
五苓散の加味方
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.133
胃苓湯(万病回春)
蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・〇 大棗 乾姜各一・五 甘草一・○(二三・五)
平胃酸と五苓散を合せて煎剤にした処方で、平胃散を主に考えたときは、食べ過ぎ、食当りで,下痢して口渇や浮腫のある場合に用い、五苓散を主に考えたときは、慢性ヌフローゼで食慾不振になった場合に用いるものでいかにも万病回春の処方らしい投網式である。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
胃苓湯(いれいとう) [万病回春]
【方意】 平胃散証の脾胃の気滞・脾胃の水毒による心下痞・悪心・嘔吐・腹痛・腹満と、五苓散証の水証による口渇・尿不利・下痢等のあるもの。
【自他覚症状の病態分類】
【脈候】 緩・やや浮。
【方解】 平胃散の構成生薬は蒼朮・厚朴・陳皮・生姜・甘草であり、これにより脾胃の気滞・脾胃の水毒を治す。五苓散は沢瀉・猪苓・茯苓・白朮・桂枝であり水証を主る。本方はこの二方に芍薬が加味されたもので、腹痛・腹満に対して一段と有効になっている。
【方意の幅および応用】
A 脾胃の気胞・脾胃の水毒:心下痞・悪心・嘔吐・腹痛・口渇・尿不利・下痢を目標にする。
夏負け、急慢性胃腸炎、熱射病、過敏性腸症候群、胃腸神経症
【参考】 *脾胃和せず、腹痛泄瀉(単なる下痢症)し、水穀化せず、陰陽不分なるを治す。
『万病回春』
*此の方は平胃散と五苓散の合方なれば、傷食に水飲を滞ぶる者に用いて宜し。其他水穀化せずして下痢、或いは脾胃和せずして水気を発する者に用ゆべし。『回春』に所謂陰陽分たずとは、太陰の位して陰陽の間に在る症を言うなり。
『勿誤薬室方函口訣』
数年来の血尿
39歳の婦人。主訴は5年前から尿が赤くなり,毎日のように血尿が出ていた。検査を受けたが、腎臓が両方とも傷がついていて、片方なら手術をするが、両方とも同じようであるから、手術をするわけにはいかないといわれたという。栄養は良い方で血尿が続いているにもかかわらず、顔色もそれほど悪くはない。脈も正常で血測は136/84、舌は白苔、大便1回、小便は少なく赤く濁っている。背が痛むことがあり、月経は不順で子供は3人ある。
初診のとき長男がみたのだが、この患者に胃苓湯の生姜を去って与えた。すると1週間服用すると数年来の血尿が普通の色となった。検尿したが蛋白はなく、血尿でもない。3ヵ月飲んだところ、ほとんど正常尿となり、服薬後1回も赤くならないで元気である。私が初めにみたなら猪苓湯合四物湯などを与えたかもしれない。
矢数道明『漢方治療百話』第四集175
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.541
129 平胃散(へいいさん)〔和剤局方〕
p.542
〔加減方〕
胃苓湯。本方に五苓湯を合方したもので、急性胃腸炎による下痢に用いる。
p641
3 胃苓湯(いれいとう) 〔古今医鑑・泄瀉門〕
蒼朮・白朮・茯苓・猪苓・沢瀉・陳皮・厚朴・芍薬各三・〇 桂枝二・五 大棗・
乾生姜・甘草各一・〇
「中暑、傷湿、停飲、夾食(きょうしょく)(食を夾(さしはさ)む、食の停滞)脾胃和せず、腹痛洩瀉(えいしゃ)(水様下痢)渇(かつ)を作(な)し、小便利せず、水穀化せず、陰陽分たざるを治す。」
急性胃腸炎で、小便不利し、腹痛下痢するもの、急性腎炎・ネフローゼ・夏期の食あたり・夏の神経痛などに用いられる。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
胃苓湯(いれいとう) <出典>万病回春(明時代)
<方剤構成>
生姜 大棗 甘草 厚朴 蒼朮 陳皮 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<方剤構成の意味>
平胃散と五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
平胃散が既に強い胃内停水除去剤であるのに,さらに湿を除く代表的方剤ともいうべき五苓散が加わっているのであるから,胃内停水や腸内の水分の停滞を除く作用が強い方剤と見ることができよう。
<適応>
急・慢性胃炎,消化不良,食あたりなどで下痢する場合に用いる。
胃内停水・腸鳴・尿量減少・口渇を目標に広く用いることができるが,著しい寒虚証者には適さない。
<註>
芍薬・縮砂・黄連を加えることもある。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
胃苓湯(いれいとう)
健 ツ、建
万病回春(まんびょうかいしゅん)
どんな人につかうか
食べすぎ、食あたりなどで下痢(水様性)をしたり吐いたりし、口が渇いて尿量が減っているような場合に用います。又浮腫(ふしゅ)(むくみ)のある疾患で、食欲不振になった時にもよいようです。(体力中等度の人)。
(平胃散(へいいさん))+(五苓散(ごれいさん))の組み合わせ処方です。
目標となる症状
症 ①水様性下痢。②口渇(こうかつ)。③嘔吐(おうと)。④腹痛。⑤みぞおちの不快感。⑥腹部膨満感(ぼうまんかん)。⑦食後の腹鳴(ふくめい)・腹痛。⑧食欲不振。⑨尿量減少。⑩浮腫(むくみ)。
腹 腹にある程度の緊張があり、みぞおちをたたくとピチャピチャ音がする(胃内停水(いないていすい))。
脈 ひどく弱くはない。
舌 不定
どんな病気に効くか(適応症)
水瀉(すいしゃ)性の下痢、嘔吐(おうと)があり、口渇(こうかつ)、尿量減少を伴うものの、食あたり、暑気あたり、冷え腹、急性胃腸炎、腹痛、急性腎炎。
ネフローゼ、夏の食あたり、夏の神経痛。
この薬の処方
蒼朮(そうじゅつ)、厚朴(こうぼく)、陳皮(ちんぴ)、猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、白朮(びゃくじゅつ)、芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)各2.5g。桂枝(けいし)2.0g。大棗(たいそう)、乾姜、甘草各1.0g。(平胃散と五苓散を合わせたもの)。
この薬の使い方
①前記処方を一日分としてを煎(せん)じてのむ。
②ツムラ胃苓湯(いれいとう)エキス顆粒(かりゅう)、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。(ツムラは芍薬ぬき)
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。
使い方のポイント
①平胃散(へいいさん)(193頁)と五苓散(ごれいさん)(87頁)を合わせた処方で、水ぶとりなど水はけの悪い体質で、体力中程度の人が水様性の下痢をしたり、吐いたり、口が渇いて、腹がはったり、尿の出が悪く、胃に水がたまったような時に用います。
『重要処方解説(98)』
胃苓湯(サイレイトウ)・茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ) 北里研究所付属東洋医学総合研究所医長 花輪壽彦
胃苓湯(イレイトウ),茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)の2方は,どちらかといえば実証タイプの消化器疾患に使われる処方です。
■胃苓湯・出典
胃苓湯は平胃散(ヘイイサン)と五苓散(ゴレイサン)の合方で,一般には出典は『万病回春(まんびょうかいしゅん)』とされております。しかし矢数道明先生の『漢方処方解説』には『古今医鑑(ここんいかん)』とありますし,他の本には『丹渓心法(たんけいしんぽう)』とするものがあります。結論からいいますと、平胃散と五苓散の合方としての胃苓湯は,明代の方廣(ほうこう)の編著『丹渓心法付餘』が出典であるとするのがよいと思います。『古今医鑑』も『万病回春』もともに龔廷賢(きょうていけん)の著書で,両書ともに平胃散合五苓散に加芍薬(カシャクヤク)として芍薬(シャクヤク)が入っております。その理由についてはのちほど申し上げます。
江戸時代のわが国では,龔廷賢の著書が大変よく読まれまして,後世派の人々は,胃苓湯という芍薬の入った処方を用いたようです。その意味では構成生薬の差を知った上で,胃苓湯の出典を龔廷賢の書としてもよいのですが,その場合『万病回春』は1587年に,『古今医鑑』は1576年に著わされましたので,成立年代からいうと出典は『古今医鑑』とするのがよいと思います。ちなみにツムラ115番の胃苓湯は平胃散合五苓散で,芍薬は入っておりませんので,パンフレットなどにある出典の『万病回春』は誤りで,『丹渓心法付餘』に直して下さい。
また浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』も『万病回春』になっておりますが,これも誤りです。ただ厳密にいうと出典はなかなかむずかしく,五苓散が『傷寒論』で,平胃散が『和剤局方(わざいきょくほう)』ですから,その2つを合わせた合方は,それ以降ならばいつでもあり得るとはいえます。ここでは一応,出典は『丹渓心法付餘』といたします。
『丹渓心法付餘』巻七,泄瀉門の附諸方には,「暑に感じ,食を夾み,泄瀉し,煩渇するものを治す」と,簡単に胃苓湯の主治する目標があります。
■構成生脈:薬能薬理
胃苓湯の構成生薬は当然,平胃散の構成生薬である蒼朮(ソウジュツ),厚朴(コウボク),陳皮(チンピ),大棗(タイソウ),甘草(カンゾウ),生姜(ショウキョウ)と,五苓散の猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),沢瀉(タクシャ),白朮(ビャクジュツ),桂枝(ケイシ)の11味になります。『古今医鑑』巻三,泄瀉門には,以上の11生薬に芍薬が入ります。そしてその条文は「中暑,傷湿,停飲,夾食(食が停滞すること),脾胃和せず,腹痛洩瀉(水様性下痢),渇をなし,小便利せず,水穀化せず,陰陽分たざるを治す」とあります。「陰陽分たざるを治す」ということについては二通りの解釈がありますが,それについてはのちほど申しあげます。
構成生薬の簡単な解説をいたします。一番重要と思われるものは,白朮と蒼朮と両方入っておりますので,この両者の違いについて簡単に述べてみます。『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』の上品に朮と記載され,『傷寒論』『金匱要略』では朮は区別されておりませんが,江戸時代には蒼朮を用いることが多かったようです。今日では臨床的にも,また現代薬理学的にも,白朮と蒼朮は使い分けた方がよいというのが一般的であります。『本草綱目(ほんぞうこうもく)』に,水毒を去り,脾胃を健やかにする点は白朮も蒼朮も同じであるが,蒼朮は発汗作用があり,白朮は止汗作用があると区別しております。
現代中医学では白朮と蒼朮の違いを簡単に,白朮は補脾,蒼朮は運脾(脾をめぐらす)ということで両者の差を述べております。白朮はやや甘く,虚を補う作用があり,蒼朮はやや苦く,実邪を去る作用が強いというわけです。ですから私どもが実際に臨床に使う場合には,健脾,整腸,止瀉というか,胃腸を丈夫にするという意味では白朮の方が働きが強く,解熱,鎮痛,湿を乾かす,発散作用というものは蒼朮の方がよくて,胃腸を丈夫にするという意味では白朮の方がよいというのが臨床的な使い方です。ただし白朮と蒼朮は,本方のごとく一緒に用いることも少なくありません。
現代薬理学の立場からも,白朮と蒼朮については多くの知見が報告されるようになりました。2,3述べてみますと,例えば両者とも利尿作用がありますが,利尿効果につ感ての知見は一定しません。どちらも利尿作用があるという報告と,あまり利尿効果はみられなかったという報告と,水を過剰に負荷した時にはみられるという報告などで,一定しません。中枢作用については,蒼朮にはあるが,白朮にはないと報告があります。すなわち蒼朮中のβ-eudesmol,hinesolなどには鎮静作用,抗痙攣作用などの中枢抑制作用があるという報告があります。
抗炎症作用についての報告もありますが,一般に私どもは,例えば葛根湯加朮附湯(かっこんとうかじゅつぶとう)の朮は蒼朮をよく用いますので,抗炎症作用は蒼朮の方が強いのではないかという臨床的な印象を持っておりましたが,現代薬理の報告では,むしろ抗炎症作用は白朮に強く,蒼朮にはほとんど認められないという報告が多いようです。例えばadjuvantによる関節炎の抑制効果などついては、蒼朮はむしろ増悪させるという報告もあります。
消化器作用についてもいろいろな報告がありまして,朮の種類によって,例えば白朮類,フルダテ蒼朮,西北蒼朮などの違いによって,ストレス潰瘍における効果などをみても大変違うようです。白朮類はストレス潰瘍に有効であるが,ヒスタミン潰瘍には無効であるとか,フルダテ蒼朮はH1,H2-receptor拮抗作用があって,ヒスタミン潰瘍に有効であるとか,西北蒼朮はセロトニン潰瘍に有効である等々いろいろな報告があります。
また肝害護作用なども認められるようになりまして,白朮のatractyloneは四塩化炭素肝障害を抑制するとか,蒼朮にも肝障害抑制作用があるなど,いろいろな報告があります。これらの知見は今後の臨床応用に際して,いろいろ有用な知見となる可能性が高いと思感ます。
白朮,蒼朮以外には厚朴が大事な生薬ですから簡単に申し上げます。厚朴は『神農本草経』の中品にあり,古来より鎮痛,鎮静作用があるとして,消化器疾患や神経疾患によく用いられました。中国産の厚朴と和厚朴(ワコウボク)は基源植物が異なります。日本産はモクレン科ホオノキの樹皮を用います。私どもが臨床的に用いる時は胸腹部の膨満,疼痛,あるいは鎮咳,不安,また精神的緊張による骨格筋の異常緊張状態の緩和などに用います。パーキンソン病などにもよく用います。
薬理学的にはクラーレ様作用,ジフェニール化合物のmagnololおよびhonokiolに中枢抑制作用があるとか,種々の細菌に対する殺菌作用があるとか,いろいろな知見が報告されております。特に最近は厚朴の抗アレルギー作用が注目されており移す。
構成生薬中の五苓散は,全体として利水作用を持つとされております。 利尿と利水の相違はよく問題になるところですが,簡単に申しますと,利尿は腎に働いて一方向的に尿量をふやすのに対して,利水は水分の偏在を正すというようによくいわれます。現在の薬理学的実験では,利尿作用それ自体はそれほど強くはないとする意見が多いのですが,たとえば猪苓,茯苓は水を家量に負荷する時には非常に多くの利尿効果を認めるとする報告が多いようです。利水と利尿の違いの1つとして大事なことは,例えば五苓散は現代医学の利尿剤の持つ経腎的な尿排泄作用以外にも,数多くの薬理学的作用点を持っているということだと思います。その1つとして例えば,水分の吸収作用,抗炎症作用,免疫調節作用などの腸管に対する作用が,利水ということの科学的根拠として,いろいろ知見が出てくるのではないかと考えます。
一般には利尿作用はいわゆるループ利尿剤などに比べて落ちるといわれておりますが,必ずしもそうではなく,例えば肝硬変,ネフローゼ,心不全など重症な病態に対して,現代医学的に利尿剤がうまく効かないようなところに,五苓散などが非常によく効くことを臨床的に経験しておりますので,利尿効果という効果についても,必ずしも現代医学の利尿剤に劣るとは一概にいえないと思います。
五苓散を構成する生薬の薬理の中で,最近注目されていることを一言申し添えますと,たとえば猪苓(サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核)は,その中の多糖類,水溶性グルカンに抗腫瘍活性のあることが注目されております。また茯苓(サルノコシカケ科マツホドの地中にできた菌体成分)の多糖にも,種々の免疫学的活性があり,根癌作用の報告などもあります。しかし茯苓についての研究報告は意外に少ないようです。沢瀉(サジオモダカの根茎)は利尿作用以外に,抗脂肪肝作用,コレステロール低下作用,循環器作用などいろいろな報告があります。
■古典における用い方
それらの入った胃苓湯について説明してみたいと思います。古典による用い方は,18世紀から19世紀の初めにかけて活躍した浅井貞庵(あさいじょうあん)の書いた『方彙口訣(ほういくけつ)』が参考になるかと思い移す。この中で「胃苓湯は分利剤である」と述べております。その意味は胃苓湯は脾胃に水湿が滞って,小便に出るべき水分が大便の方に行ってしまうため下痢をするので,水分は陽道である尿路に,カスは陰道である大便の側に分ける処方である,平胃散で脾胃の湿を乾かし,余分な水は五苓散で小便へという方意であると述べております。
浅井貞庵の『方彙口訣』にある胃苓湯は,出典を『万病回春』としておりまして,したがって構成生薬の中に芍薬が入っております。芍薬の意義につ感て,「芍薬は津液の関閉(しまり)をつける」と述べております。この意義は大事なことでして,単に利尿として,どんどん水を出すのではなく,一方で津液を保持するという作用を持ちながら余分な水をさばくということです。真武湯(シンブトウ)にも芍薬が入っております。真武湯を利尿剤と考えるならば,芍薬は入らない方が利尿作用は強いといえますが,そのあたりが漢方処方の面白いところで,芍薬を入れて体液の保持をしながら,余分な水をさばくというところが面白いと思います。
先ほど『古今医鑑』の出典のところで「陰陽分かだるを治す」といったのは,1つにはこういう意味であるということです。「陰陽不分」について、浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』の中では「『回春』に所謂陰陽不分とは,太陰に位して陰陽の間に在る証をいうなり」といっております。つまり陽証と陰証の中間にある証であるといった別の解釈をしております。これも1つの見解だと思います。なお蛇足ながら,浅田宗伯は「平胃散は後世派は称美すれども顕功はなし」と評しております。
■現代における用い方
現代における胃苓湯の中では用い方は,矢数道明先生の『漢方処方解説』に簡潔に述べてあります。すなわち,急性胃腸炎で小便不利し,腹痛,下痢するもの,急性腎炎,ネフローゼ,夏期の食あたり,夏の神経痛などに用いるとあります。
平胃散は四君子湯(シクンシトウ),人参湯(ニンジントウ)のように胃腸の働きが衰えて湿邪が停滞するのではなく,食べすぎ,飲みすぎなどによって胃内に実邪としての食毒,水毒が停滞して,それが盛り上がっているような形になっているものを平らにするということが,平胃の方意であります。一般の,そのような胃腸疾患に用いる以外に,矢数先生はこの処方を鼻アレルギーに用いたことがありました。それを見ておりまして,私も鼻アレルギーに胃苓湯を使ってよい結果果得た症例があります。
■症例提示
36歳の女性で,本来胃腸が丈夫ではなく,5年前に横浜に引越してから,季節の変わり目にクシャミ,鼻水が出て困った。漢方薬局へ行ったところが小青竜湯(ショウセイリュウトウ)を出されたが、それを飲んで胃腸をこわしてしまった,何とかしてほしいと来院しました。腹力はやや虚で,胃内停水が多少みられ,臍傍の動悸があり,臍傍の圧痛はありませんでした。舌は湿っており,白苔があります。というわけで麻黄(マオウ)はあまり使わない方がよいと考え,胃苓湯で心下の水をさばこうとしました。そうしたところ胃腸症状も鼻アレルギーも改善したという症例です。このように鼻アレルギーという病名にとらわれずに,水毒の偏在を正しながら水をさばくという用い方が,本来の漢方薬の使い方で,非常に面白いと思います。
※葛根湯加朮附湯(かっこんとうかじゅつぶとう)?
→葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
※adjuvantによる関節炎の抑制効果などついては、
→adjuvantによる関節炎の抑制効果などについては、
※フルダテ蒼朮? → 古立蒼朮(コダチソウジュツ)
※平胃の方胃? → 平胃散の方意?
『勿誤薬室方函口訣(5)』
北里研究所附属東洋医学総合研究所部長 大塚 恭男
-葦茎湯・已椒黄丸料・痿証方・・胃風湯・胃苓湯・郁李仁湯(聖恵)・郁李仁湯(本朝経験)-
胃苓湯
次は胃苓湯(イレイトウ)です。これは『万病回春』に載った処方です。「脾胃和せず、腹痛泄瀉、水穀化せず、陰陽分かたれざるものを治す」とあります。厚朴(コウボク)、橘皮(キッピ)、甘草(カンゾウ)、蒼朮(ソウジュツ)、猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、桂枝(ケイシ)の八味より成ります。
「この方は平胃散(ヘイイサン)、五苓散(ゴレイサン)の合方であるから、平胃散の目標する食あたりと、五苓散の目標とする水毒が加わったものに用いてよい。その他食物が消化しないで水のように下ってしまうもの、あるいは消化機能一般の不調で下痢を起こす場合に用いなさい。『万病回春』にいっている陰陽分かたれずとは、この目標は太陰が病位で、陰陽の間にある症である」ということであります。胃苓湯は、ここに巧みに記されてありますように、平胃散と五苓散の証が合わさったような感じのものによく使われます。
『Kampo Square 38号』 2006.12.25発行
緊急特集:ノロウイルス感染症と漢方
大野クリニック院長(埼玉県比企郡) 大野 修嗣 先生に聞く
悪心・嘔吐・下痢で
・熱なし、弱脈でない、心下痞硬がある場合→半夏瀉心湯
・熱なし、弱脈でも良い、腹部の冷え→人参湯
・熱あり、弱脈でない、胃内停水→五苓散
・熱あり、弱脈でない(弦脈が良い)、胸脇苦満→柴苓湯
・熱少、弱脈でない、上腹部膨満感→胃苓湯
『Kampo Square 47号』 2007. 5.10発行
連載 --- 私の漢方診療日誌(35)---
なにやら厚生労働省は、医療費削減に向けて2012年度までにメタボリック症候群の該当者を10%以上減少するという数値目標を設けたそうである。昔から「腹八分に医者いらず」という諺がある。健康診断を推奨するよりも、ちょっとだけ少食を心がけるように呼びかける方が効果的ではないかと思ったりする。 しかし食べ過ぎないのに胃腸をこわす人は、これこそ明らかな病気であり、漢方薬は素晴らしい効果をもたらしてくれる。今回は、これからの暑い季節にはなくてはならない胃苓湯のお話しである。
食傷と下痢を2処方の合方で解決
食べ過ぎ、飲み過ぎには胃苓湯
ももち東洋クリニック院長 木村豪雄
A氏は55歳の男性でツアーコンダクターとして活躍している。6ヶ月前から毎朝といってよいほど食後2時間経つと下痢をするということで来院された。下痢の性状は水様性で臭いは少ないが、左下腹がシクシクと痛むことがある。「卵が合わないのかな?」とも云われる。既往歴に胆石症があるが、これまでに疝痛発作のような激しい痛みは経験したことはない。
身長167cm、体重70kg。体格は中等度で栄養状態は良好である。血液検査では肝胆系酵素に異常はなかったが、高脂血症(総コレステロール224mg/dl、中性脂肪366mg/dl)と高尿酸血症(尿酸8.9 mg/dl)がみられた。漢方医学的所見では、脈は弦脈(浮沈間)で、舌には乾いた白黄苔がついている。腹診では腹壁の緊張は良好である。心下部がパンと堅く張っており、軽く揺さぶるとチャポチャポと音がする(振水音)。
ツムラ胃苓湯(イレイトウ)(J-115)7.5g/日を処方する。
◇8日後再診 下痢は毎日しなくなった。腹痛もない。
◇1ヶ月後 尿の回数が増えた。腹痛はなく、ときに油物を食べると腹が緩む。
◇2ヶ月後 下痢はまったくない。「漢方っていいものですね。妻も診てください」と云われる。血液検査を再検すると、総コレステロール207mg/dl、中性脂肪216mg/dl、尿酸7.8 mg/dlと改善傾向にあった。
さて、紹介されたA氏の奥さんは48歳。4~5年前から月経痛がひどくなり、経血量も多くなったのが悩みであった。婦人科では子宮腺筋症と診断された。
こちらは手足の冷えと浮腫を目標に、ツムラ当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)(TJ-23)7.5g/日で月経痛は楽になった。今では二人で仲良く漢方薬を飲んでいる。一度、間違って妻の漢方薬を飲んだ夫が、「うちの奥さんはあんな不味い薬をよく平気で飲めますね」とこぼしたことがあった。なるほど薬の味も大切である。
考案
胃苓湯は平胃散(ヘイイサン)と五苓散(ゴレイサン)の合方である。平胃散は“食傷”の基本方剤と云われている。食傷とは飲食物によって身体が傷つけられたという意味で、平たくいえば食べ過ぎ、飲み過ぎ、冷たいものや刺激物などによって消化器が侵されるものを指す。(山本厳:東医雑録2)
この患者さんの場合、食後に調子を崩すということから広い意味の食傷と考えて平胃散をイメージした。さらに下痢を伴うことから五苓散を合わせた胃苓湯を選択した。
胃苓湯は平素体質的に水はけの悪い体質(水毒)の人が腹をこわしたため、水分の吸収が悪くなって食物が不消化のまま水様便として下るもので、口渇、胃内振水音、腹がはり、尿量減少の症状があるものに用いる。腹痛はあまり激しくなく、また痛まないこともある。(一般用漢方処方の手引き:薬業時報社)
下痢に対する漢方治療も病態の陰陽を基本として考える。陰証とは冷えが主体の病態である。陰証の下痢の特徴は臭いが少ない水様性下痢が多く、腹痛や裏急後重(しぶり腹)を伴わない。代表方剤には真武湯(シンブトウ)や人参湯(ニンジントウ)がある。一方、熱が主体となる陽証の下痢は、腹痛があり下痢の臭いも強いことが多い。さらに排便するときに肛門に灼熱感があり、排便後もスッキリ感がない。黄芩湯(オウゴントウ)が代表である。
『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
p.126
10 胃苓湯(イリヨウトウ) (古今医鑑 泄瀉門)
〔処方〕 蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓 芍薬各二・五 桂枝二・〇 大棗 生姜 各一・五 甘草一・〇 (多く茯苓、沢瀉を増量して用う)
本方は、平胃散と五苓散との合方にさらに芍薬を加えたものである。
〔主治〕 胃苓湯の主治として古今医鑑に、「中暑、傷湿、停飲、脾胃和セズ、腹痛洩(セツ)瀉渇ヲ作シ、小便利セズ、水穀化セズ、陰陽分タザルヲ治ス」とある。
また医療手引草には、「飲食停積、浮腫、泄瀉、脈証倶ニ実ナル者ヲ治ス」とあり、
また牛山方考には、「飲食過多ニシテ、腹脹リ口渇泄瀉、小便赤渋ノ症ニ奇効アリ」と述べている。
これらの諸説は本方の主治をよく約言していると思われる。
〔運用〕 勿誤方函口訣に、「此ノ方ハ平胃散ト五苓散ノ合方ナレバ、傷食ニ水飲ヲ帯ブル者ニ用ヒテ宜シ。其他水穀化セズシテ下利、或ヒハ脾胃和セズシテ水気ヲ発スル者ニ用ユベシ。回春ニ所謂陰陽分タズトハ、太陰ニ位シテ陰陽ノ間ニ在ル症ヲ云フなり」とある。
また校正方輿輗、泄瀉門には、「時節ニ拘ハル所アラザレドモ、胃苓湯ノ症ハ夏秋ノ際ニ多キモノナリ」とあり、
また、医療衆方規矩には、
「脾胃調ラズ、暑湿飲ムモノナヅミ腹痛ンデ瀉(クダ)り、飲ムモノ食フモノ化(コナ)サズ、陰陽ヲ分タズ、水ノカハリテ中ルヲ治ス。一切ノ泄瀉ヲ治スルノ総司ナリ。夏月ニ初メハザツト下シテ、後ニ渋リコヽロヨカラズト云フモノ此ノ湯ヲ用ユベシ。又夏月痛風ヲ患フ、按ズルニ暑湿ニヨツテ身骨節イタム故ナリ、此湯ヲ用ヒテ瘉ユ。或人語ツテ云ク、此方ハ四五月ヨリ八九月ニ至テモパラ用ユ、何トナレハ暑湿ヲ治スルノ故ナリ」と述べている。
また、医方小乗、泄瀉門には、「飲食過多ニシテ腹脹口渇シ、小便渋ツテ裏急後重、赤白下利スルニ、胃苓湯ニ黄連、芍薬ヲ加エテ用ユベシ、裏急甚シキモノニハ木香、檳榔ヲ加ヘ用フベシ。
夏ノ痢病ノ始メニハ胃苓湯ニテ暑湿ヲ去ルベシ。腹熱アルニハ解毒湯ヲ合シテ、渋ルコト甚シキニハ枳実大黄湯ヲ加フベシ」とあり、
また、牛山方考には、
「元禄四年五六月ノ間、長雨ニテ士民尽ク暑湿ノ気ニ感ジテ頭痛裂クガ如シ、余為メニ一方ヲ製ス。胃苓湯に柴胡、黄芩を加ヘテ本トシ、熱甚シク大便秘セバ黄連、石膏を加フ。大便泄するには白扁豆、升麻ヲ加フ、腹痛ニハ木香、砂仁ヲ加フ、咽渇ニハ葛根ヲ加フ、頭痛ニハ羗活、川芎ヲ加フ、眼中黄ムニハ茵蔯ヲ加エテ之ヲ用フルニ手ニ応ジテ效あり。津城三千戸及便ビ国中ノ人、其霊方ノ応験ヲ聞キ伝ヘテ薬ヲ乞フ者門ニ満ツ、毎日此方ヲ修合シテ人ニ与フルコト百ヲ以テ数フ。奇々妙々」とある。
また、当荘庵家方口解には、
「四時トモニ大便瀉スル主方ナリ。無熱ニハ木香ヲ加フ、食モ少シ滞リ大便瀉スルニ吉(ヨ)シ。平胃散ニテ脾胃ヲスカシ、食ヲ圧エテ分利スル故ニ水道ノセキキレ水流ルヽ意也。水腫脈進而力アルニ加車前子、木通、燈心ヨキコトアリ。脈進マズ弱キハ脾腎ノ元陽虚冷ナリ、用フベカラズ。胸フクレ不食スルニ加檳榔子ヨキコトアリ。是ハ脾胃モ少シ塞リ大小腸和セズ、故ニ胸フクレ不食シ湿ニモアタルユヘナリ。夏秋ノ間此ノ如キコトアリ」とある。
また和漢纂言要方には、
「亀渓先生ノ曰ク、総ジテ痢ニ初メヨリ驟(アワテ)テ芍薬湯(芍薬二・〇 当帰一・〇 黄芩一・〇 大黄〇・七 ケイシ〇・七 木香〇・七 檳榔〇・七 甘草〇・五)ヲ用ユレバ、却ツテ腸胃ヲ害シ難治ノ症トナルコト多シ、殊更小児ナドノ痢病ニハ此方ニ木香、黄連ナドノ加味ニテ療スベシ。丹渓先生ノ曰ク小児ノ血痢ハ食積ナリト豈妄リニ河間ノ芍薬湯ヲ用ユルコトヲセンヤ」と述べている。
〔薬能〕 名医方考には、「湿盛ニシテ泄瀉スル者コレヲ主ル。蒼朮 厚朴 陳皮 甘草は平胃散ノ味ニシテ湿ヲ乾カス所以ナリ。白朮 茯苓 猪苓 沢瀉 桂枝ハ五苓散ノ味ニシテ湿ヲ利スル所以ナリ」とある。
また、和漢纂言要方には、「通仙先生ノ曰ク、古方胃苓湯ニ芍薬ナシ後哲此ノ味ヲ加フルモノハ此薬味酸クシテ能ク肝ノ陰気ヲ収歛シ、中焦脾胃ヲ補ヒ、瀉ヲ治スル故ナリ」とある。
〔応用〕
(一) 急性胃腸炎-殊に大腸炎で腎臓機能障碍を伴い、小便利せず腹痛泄瀉を発し、俗に云う夏期の食あたりというものに多くこの症がある。時に軽度の血便粘液便等を混じ、少し裏急後重を訴えるものには、黄連、木香、檳榔を加えて用いる。脈証は多くは沈で力があり、腹証も相当抵抗があるものである。舌は多くは白苔である。
(二) 浮腫-食傷から来る急性腎炎や、下利し易いもの。
(三) 夏期の神経痛 リウマチの類。
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]〔1)2)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う
[理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。
[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
【医療用漢方製剤 】
平胃散と五苓散の合方を胃苓湯と名づけ、水瀉性下痢または浮腫に用いる。
胃苓湯(いれいとう)
蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・ 大棗 乾姜各一・五 甘草一・
平胃散と五苓湯の合方で、急性腸カタルによく用いられる。下痢・口渇・微熱界を目標とする。またネフローゼに用いて効がある。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
五苓散の加味方
(1) 胃苓湯(いれいとう) (古今医鑑)
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、胃苓湯證を呈するものが多い。
一 大腸炎、胃腸カタル、食あたりその他の胃腸系疾患。
一 ネフローゼ、腎炎その他の泌尿器系疾患。
一 そのほか、神経痛、暑気あたりなど。
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.133
胃苓湯(万病回春)
蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・〇 大棗 乾姜各一・五 甘草一・○(二三・五)
平胃酸と五苓散を合せて煎剤にした処方で、平胃散を主に考えたときは、食べ過ぎ、食当りで,下痢して口渇や浮腫のある場合に用い、五苓散を主に考えたときは、慢性ヌフローゼで食慾不振になった場合に用いるものでいかにも万病回春の処方らしい投網式である。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
胃苓湯(いれいとう) [万病回春]
【方意】 平胃散証の脾胃の気滞・脾胃の水毒による心下痞・悪心・嘔吐・腹痛・腹満と、五苓散証の水証による口渇・尿不利・下痢等のあるもの。
【自他覚症状の病態分類】
| 脾胃の気滞 脾胃の水毒 | 水証 | |||
| 主証 | ◎心下痞 ◎悪心 ◎嘔吐 ◎腹痛 | ◎口渇 ◎尿不利 ◎下痢 | ||
| 客証 | ○腹満 | ○上腹部振水音 微熱 | |
【脈候】 緩・やや浮。
【舌候】 乾湿中間で白苔がある。
【腹候】 腹力中等度。多くは腹満して心下痞硬がある。しばしば上腹部振水音を伴う。
【病位・虚実】 平胃散証も五苓散証も共に少陽病の虚実中間に位する。
【構成生薬】 蒼朮3.0 厚朴3.0 陳皮3.0 猪苓3.0 沢瀉3.0 白朮3.0 芍薬3.0 茯苓3.0
桂枝2.0 大棗2.0 生姜1.0 甘草1.0
【腹候】 腹力中等度。多くは腹満して心下痞硬がある。しばしば上腹部振水音を伴う。
【病位・虚実】 平胃散証も五苓散証も共に少陽病の虚実中間に位する。
【構成生薬】 蒼朮3.0 厚朴3.0 陳皮3.0 猪苓3.0 沢瀉3.0 白朮3.0 芍薬3.0 茯苓3.0
桂枝2.0 大棗2.0 生姜1.0 甘草1.0
【方解】 平胃散の構成生薬は蒼朮・厚朴・陳皮・生姜・甘草であり、これにより脾胃の気滞・脾胃の水毒を治す。五苓散は沢瀉・猪苓・茯苓・白朮・桂枝であり水証を主る。本方はこの二方に芍薬が加味されたもので、腹痛・腹満に対して一段と有効になっている。
【方意の幅および応用】
A 脾胃の気胞・脾胃の水毒:心下痞・悪心・嘔吐・腹痛・口渇・尿不利・下痢を目標にする。
夏負け、急慢性胃腸炎、熱射病、過敏性腸症候群、胃腸神経症
【参考】 *脾胃和せず、腹痛泄瀉(単なる下痢症)し、水穀化せず、陰陽不分なるを治す。
『万病回春』
*此の方は平胃散と五苓散の合方なれば、傷食に水飲を滞ぶる者に用いて宜し。其他水穀化せずして下痢、或いは脾胃和せずして水気を発する者に用ゆべし。『回春』に所謂陰陽分たずとは、太陰の位して陰陽の間に在る症を言うなり。
『勿誤薬室方函口訣』
*細菌性の下痢ではなく、食あたりの下痢に用いる薬方で、特に尿不利・顔面浮腫を伴う場合に適応がある。(細迫陽三)。
【症例】 高血圧と下痢
57歳の婦人。1年前から血圧が高くなり、一時は210/130にもなった。
【症例】 高血圧と下痢
57歳の婦人。1年前から血圧が高くなり、一時は210/130にもなった。
体格栄養ともに普通で、一見いかにも健康そうにみえる。患者の主訴は、上昇したり下降したり常ない血圧の動揺で、フラフラとめまいがし、肩や首すじが凝って、腰がだるく、全身倦怠感があって、よく眠れない。それと毎日2-3回の下痢便が続き、ガスが多く出て困るという。降圧剤を飲んでも血圧はどうも下がらない。
腹は全体としては軟弱で、臍の周りに抵抗と圧痛がある。初診時の血圧は170/120であった。腹証によれば、虚証で攻撃の剤は与えられないし、柴胡剤の胸脇苦満もない。しかし陰証ではないので、『万病回春』の泄瀉門にある胃苓湯を与えた。胃苓湯は平胃散と五苓散の合方である。胃苓湯の指示は、「脾胃和せず、腹痛泄瀉、水穀化せず、陰陽分たざるを治す」というものである。
胃苓湯を2週間分服用すると、下痢が止まり、不百議と思われるほどすべての訴え、全身症状が良くなり、血圧が140/80に安定した。
矢数道明『漢方治療百話』第五集87
数年来の血尿
39歳の婦人。主訴は5年前から尿が赤くなり,毎日のように血尿が出ていた。検査を受けたが、腎臓が両方とも傷がついていて、片方なら手術をするが、両方とも同じようであるから、手術をするわけにはいかないといわれたという。栄養は良い方で血尿が続いているにもかかわらず、顔色もそれほど悪くはない。脈も正常で血測は136/84、舌は白苔、大便1回、小便は少なく赤く濁っている。背が痛むことがあり、月経は不順で子供は3人ある。
初診のとき長男がみたのだが、この患者に胃苓湯の生姜を去って与えた。すると1週間服用すると数年来の血尿が普通の色となった。検尿したが蛋白はなく、血尿でもない。3ヵ月飲んだところ、ほとんど正常尿となり、服薬後1回も赤くならないで元気である。私が初めにみたなら猪苓湯合四物湯などを与えたかもしれない。
矢数道明『漢方治療百話』第四集175
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.541
129 平胃散(へいいさん)〔和剤局方〕
p.542
〔加減方〕
胃苓湯。本方に五苓湯を合方したもので、急性胃腸炎による下痢に用いる。
p641
3 胃苓湯(いれいとう) 〔古今医鑑・泄瀉門〕
蒼朮・白朮・茯苓・猪苓・沢瀉・陳皮・厚朴・芍薬各三・〇 桂枝二・五 大棗・
乾生姜・甘草各一・〇
「中暑、傷湿、停飲、夾食(きょうしょく)(食を夾(さしはさ)む、食の停滞)脾胃和せず、腹痛洩瀉(えいしゃ)(水様下痢)渇(かつ)を作(な)し、小便利せず、水穀化せず、陰陽分たざるを治す。」
急性胃腸炎で、小便不利し、腹痛下痢するもの、急性腎炎・ネフローゼ・夏期の食あたり・夏の神経痛などに用いられる。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
胃苓湯(いれいとう) <出典>万病回春(明時代)
<方剤構成>
生姜 大棗 甘草 厚朴 蒼朮 陳皮 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<方剤構成の意味>
平胃散と五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
平胃散が既に強い胃内停水除去剤であるのに,さらに湿を除く代表的方剤ともいうべき五苓散が加わっているのであるから,胃内停水や腸内の水分の停滞を除く作用が強い方剤と見ることができよう。
<適応>
急・慢性胃炎,消化不良,食あたりなどで下痢する場合に用いる。
胃内停水・腸鳴・尿量減少・口渇を目標に広く用いることができるが,著しい寒虚証者には適さない。
<註>
芍薬・縮砂・黄連を加えることもある。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
胃苓湯(いれいとう)
健 ツ、建
万病回春(まんびょうかいしゅん)
どんな人につかうか
食べすぎ、食あたりなどで下痢(水様性)をしたり吐いたりし、口が渇いて尿量が減っているような場合に用います。又浮腫(ふしゅ)(むくみ)のある疾患で、食欲不振になった時にもよいようです。(体力中等度の人)。
(平胃散(へいいさん))+(五苓散(ごれいさん))の組み合わせ処方です。
目標となる症状
症 ①水様性下痢。②口渇(こうかつ)。③嘔吐(おうと)。④腹痛。⑤みぞおちの不快感。⑥腹部膨満感(ぼうまんかん)。⑦食後の腹鳴(ふくめい)・腹痛。⑧食欲不振。⑨尿量減少。⑩浮腫(むくみ)。
腹 腹にある程度の緊張があり、みぞおちをたたくとピチャピチャ音がする(胃内停水(いないていすい))。
脈 ひどく弱くはない。
舌 不定
どんな病気に効くか(適応症)
水瀉(すいしゃ)性の下痢、嘔吐(おうと)があり、口渇(こうかつ)、尿量減少を伴うものの、食あたり、暑気あたり、冷え腹、急性胃腸炎、腹痛、急性腎炎。
ネフローゼ、夏の食あたり、夏の神経痛。
この薬の処方
蒼朮(そうじゅつ)、厚朴(こうぼく)、陳皮(ちんぴ)、猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、白朮(びゃくじゅつ)、芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)各2.5g。桂枝(けいし)2.0g。大棗(たいそう)、乾姜、甘草各1.0g。(平胃散と五苓散を合わせたもの)。
この薬の使い方
①前記処方を一日分としてを煎(せん)じてのむ。
②ツムラ胃苓湯(いれいとう)エキス顆粒(かりゅう)、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。(ツムラは芍薬ぬき)
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。
使い方のポイント
①平胃散(へいいさん)(193頁)と五苓散(ごれいさん)(87頁)を合わせた処方で、水ぶとりなど水はけの悪い体質で、体力中程度の人が水様性の下痢をしたり、吐いたり、口が渇いて、腹がはったり、尿の出が悪く、胃に水がたまったような時に用います。
『重要処方解説(98)』
胃苓湯(サイレイトウ)・茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ) 北里研究所付属東洋医学総合研究所医長 花輪壽彦
胃苓湯(イレイトウ),茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)の2方は,どちらかといえば実証タイプの消化器疾患に使われる処方です。
■胃苓湯・出典
胃苓湯は平胃散(ヘイイサン)と五苓散(ゴレイサン)の合方で,一般には出典は『万病回春(まんびょうかいしゅん)』とされております。しかし矢数道明先生の『漢方処方解説』には『古今医鑑(ここんいかん)』とありますし,他の本には『丹渓心法(たんけいしんぽう)』とするものがあります。結論からいいますと、平胃散と五苓散の合方としての胃苓湯は,明代の方廣(ほうこう)の編著『丹渓心法付餘』が出典であるとするのがよいと思います。『古今医鑑』も『万病回春』もともに龔廷賢(きょうていけん)の著書で,両書ともに平胃散合五苓散に加芍薬(カシャクヤク)として芍薬(シャクヤク)が入っております。その理由についてはのちほど申し上げます。
江戸時代のわが国では,龔廷賢の著書が大変よく読まれまして,後世派の人々は,胃苓湯という芍薬の入った処方を用いたようです。その意味では構成生薬の差を知った上で,胃苓湯の出典を龔廷賢の書としてもよいのですが,その場合『万病回春』は1587年に,『古今医鑑』は1576年に著わされましたので,成立年代からいうと出典は『古今医鑑』とするのがよいと思います。ちなみにツムラ115番の胃苓湯は平胃散合五苓散で,芍薬は入っておりませんので,パンフレットなどにある出典の『万病回春』は誤りで,『丹渓心法付餘』に直して下さい。
また浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』も『万病回春』になっておりますが,これも誤りです。ただ厳密にいうと出典はなかなかむずかしく,五苓散が『傷寒論』で,平胃散が『和剤局方(わざいきょくほう)』ですから,その2つを合わせた合方は,それ以降ならばいつでもあり得るとはいえます。ここでは一応,出典は『丹渓心法付餘』といたします。
『丹渓心法付餘』巻七,泄瀉門の附諸方には,「暑に感じ,食を夾み,泄瀉し,煩渇するものを治す」と,簡単に胃苓湯の主治する目標があります。
■構成生脈:薬能薬理
胃苓湯の構成生薬は当然,平胃散の構成生薬である蒼朮(ソウジュツ),厚朴(コウボク),陳皮(チンピ),大棗(タイソウ),甘草(カンゾウ),生姜(ショウキョウ)と,五苓散の猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),沢瀉(タクシャ),白朮(ビャクジュツ),桂枝(ケイシ)の11味になります。『古今医鑑』巻三,泄瀉門には,以上の11生薬に芍薬が入ります。そしてその条文は「中暑,傷湿,停飲,夾食(食が停滞すること),脾胃和せず,腹痛洩瀉(水様性下痢),渇をなし,小便利せず,水穀化せず,陰陽分たざるを治す」とあります。「陰陽分たざるを治す」ということについては二通りの解釈がありますが,それについてはのちほど申しあげます。
構成生薬の簡単な解説をいたします。一番重要と思われるものは,白朮と蒼朮と両方入っておりますので,この両者の違いについて簡単に述べてみます。『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』の上品に朮と記載され,『傷寒論』『金匱要略』では朮は区別されておりませんが,江戸時代には蒼朮を用いることが多かったようです。今日では臨床的にも,また現代薬理学的にも,白朮と蒼朮は使い分けた方がよいというのが一般的であります。『本草綱目(ほんぞうこうもく)』に,水毒を去り,脾胃を健やかにする点は白朮も蒼朮も同じであるが,蒼朮は発汗作用があり,白朮は止汗作用があると区別しております。
現代中医学では白朮と蒼朮の違いを簡単に,白朮は補脾,蒼朮は運脾(脾をめぐらす)ということで両者の差を述べております。白朮はやや甘く,虚を補う作用があり,蒼朮はやや苦く,実邪を去る作用が強いというわけです。ですから私どもが実際に臨床に使う場合には,健脾,整腸,止瀉というか,胃腸を丈夫にするという意味では白朮の方が働きが強く,解熱,鎮痛,湿を乾かす,発散作用というものは蒼朮の方がよくて,胃腸を丈夫にするという意味では白朮の方がよいというのが臨床的な使い方です。ただし白朮と蒼朮は,本方のごとく一緒に用いることも少なくありません。
現代薬理学の立場からも,白朮と蒼朮については多くの知見が報告されるようになりました。2,3述べてみますと,例えば両者とも利尿作用がありますが,利尿効果につ感ての知見は一定しません。どちらも利尿作用があるという報告と,あまり利尿効果はみられなかったという報告と,水を過剰に負荷した時にはみられるという報告などで,一定しません。中枢作用については,蒼朮にはあるが,白朮にはないと報告があります。すなわち蒼朮中のβ-eudesmol,hinesolなどには鎮静作用,抗痙攣作用などの中枢抑制作用があるという報告があります。
抗炎症作用についての報告もありますが,一般に私どもは,例えば葛根湯加朮附湯(かっこんとうかじゅつぶとう)の朮は蒼朮をよく用いますので,抗炎症作用は蒼朮の方が強いのではないかという臨床的な印象を持っておりましたが,現代薬理の報告では,むしろ抗炎症作用は白朮に強く,蒼朮にはほとんど認められないという報告が多いようです。例えばadjuvantによる関節炎の抑制効果などついては、蒼朮はむしろ増悪させるという報告もあります。
消化器作用についてもいろいろな報告がありまして,朮の種類によって,例えば白朮類,フルダテ蒼朮,西北蒼朮などの違いによって,ストレス潰瘍における効果などをみても大変違うようです。白朮類はストレス潰瘍に有効であるが,ヒスタミン潰瘍には無効であるとか,フルダテ蒼朮はH1,H2-receptor拮抗作用があって,ヒスタミン潰瘍に有効であるとか,西北蒼朮はセロトニン潰瘍に有効である等々いろいろな報告があります。
また肝害護作用なども認められるようになりまして,白朮のatractyloneは四塩化炭素肝障害を抑制するとか,蒼朮にも肝障害抑制作用があるなど,いろいろな報告があります。これらの知見は今後の臨床応用に際して,いろいろ有用な知見となる可能性が高いと思感ます。
白朮,蒼朮以外には厚朴が大事な生薬ですから簡単に申し上げます。厚朴は『神農本草経』の中品にあり,古来より鎮痛,鎮静作用があるとして,消化器疾患や神経疾患によく用いられました。中国産の厚朴と和厚朴(ワコウボク)は基源植物が異なります。日本産はモクレン科ホオノキの樹皮を用います。私どもが臨床的に用いる時は胸腹部の膨満,疼痛,あるいは鎮咳,不安,また精神的緊張による骨格筋の異常緊張状態の緩和などに用います。パーキンソン病などにもよく用います。
薬理学的にはクラーレ様作用,ジフェニール化合物のmagnololおよびhonokiolに中枢抑制作用があるとか,種々の細菌に対する殺菌作用があるとか,いろいろな知見が報告されております。特に最近は厚朴の抗アレルギー作用が注目されており移す。
構成生薬中の五苓散は,全体として利水作用を持つとされております。 利尿と利水の相違はよく問題になるところですが,簡単に申しますと,利尿は腎に働いて一方向的に尿量をふやすのに対して,利水は水分の偏在を正すというようによくいわれます。現在の薬理学的実験では,利尿作用それ自体はそれほど強くはないとする意見が多いのですが,たとえば猪苓,茯苓は水を家量に負荷する時には非常に多くの利尿効果を認めるとする報告が多いようです。利水と利尿の違いの1つとして大事なことは,例えば五苓散は現代医学の利尿剤の持つ経腎的な尿排泄作用以外にも,数多くの薬理学的作用点を持っているということだと思います。その1つとして例えば,水分の吸収作用,抗炎症作用,免疫調節作用などの腸管に対する作用が,利水ということの科学的根拠として,いろいろ知見が出てくるのではないかと考えます。
一般には利尿作用はいわゆるループ利尿剤などに比べて落ちるといわれておりますが,必ずしもそうではなく,例えば肝硬変,ネフローゼ,心不全など重症な病態に対して,現代医学的に利尿剤がうまく効かないようなところに,五苓散などが非常によく効くことを臨床的に経験しておりますので,利尿効果という効果についても,必ずしも現代医学の利尿剤に劣るとは一概にいえないと思います。
五苓散を構成する生薬の薬理の中で,最近注目されていることを一言申し添えますと,たとえば猪苓(サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核)は,その中の多糖類,水溶性グルカンに抗腫瘍活性のあることが注目されております。また茯苓(サルノコシカケ科マツホドの地中にできた菌体成分)の多糖にも,種々の免疫学的活性があり,根癌作用の報告などもあります。しかし茯苓についての研究報告は意外に少ないようです。沢瀉(サジオモダカの根茎)は利尿作用以外に,抗脂肪肝作用,コレステロール低下作用,循環器作用などいろいろな報告があります。
■古典における用い方
それらの入った胃苓湯について説明してみたいと思います。古典による用い方は,18世紀から19世紀の初めにかけて活躍した浅井貞庵(あさいじょうあん)の書いた『方彙口訣(ほういくけつ)』が参考になるかと思い移す。この中で「胃苓湯は分利剤である」と述べております。その意味は胃苓湯は脾胃に水湿が滞って,小便に出るべき水分が大便の方に行ってしまうため下痢をするので,水分は陽道である尿路に,カスは陰道である大便の側に分ける処方である,平胃散で脾胃の湿を乾かし,余分な水は五苓散で小便へという方意であると述べております。
浅井貞庵の『方彙口訣』にある胃苓湯は,出典を『万病回春』としておりまして,したがって構成生薬の中に芍薬が入っております。芍薬の意義につ感て,「芍薬は津液の関閉(しまり)をつける」と述べております。この意義は大事なことでして,単に利尿として,どんどん水を出すのではなく,一方で津液を保持するという作用を持ちながら余分な水をさばくということです。真武湯(シンブトウ)にも芍薬が入っております。真武湯を利尿剤と考えるならば,芍薬は入らない方が利尿作用は強いといえますが,そのあたりが漢方処方の面白いところで,芍薬を入れて体液の保持をしながら,余分な水をさばくというところが面白いと思います。
先ほど『古今医鑑』の出典のところで「陰陽分かだるを治す」といったのは,1つにはこういう意味であるということです。「陰陽不分」について、浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』の中では「『回春』に所謂陰陽不分とは,太陰に位して陰陽の間に在る証をいうなり」といっております。つまり陽証と陰証の中間にある証であるといった別の解釈をしております。これも1つの見解だと思います。なお蛇足ながら,浅田宗伯は「平胃散は後世派は称美すれども顕功はなし」と評しております。
■現代における用い方
現代における胃苓湯の中では用い方は,矢数道明先生の『漢方処方解説』に簡潔に述べてあります。すなわち,急性胃腸炎で小便不利し,腹痛,下痢するもの,急性腎炎,ネフローゼ,夏期の食あたり,夏の神経痛などに用いるとあります。
平胃散は四君子湯(シクンシトウ),人参湯(ニンジントウ)のように胃腸の働きが衰えて湿邪が停滞するのではなく,食べすぎ,飲みすぎなどによって胃内に実邪としての食毒,水毒が停滞して,それが盛り上がっているような形になっているものを平らにするということが,平胃の方意であります。一般の,そのような胃腸疾患に用いる以外に,矢数先生はこの処方を鼻アレルギーに用いたことがありました。それを見ておりまして,私も鼻アレルギーに胃苓湯を使ってよい結果果得た症例があります。
■症例提示
36歳の女性で,本来胃腸が丈夫ではなく,5年前に横浜に引越してから,季節の変わり目にクシャミ,鼻水が出て困った。漢方薬局へ行ったところが小青竜湯(ショウセイリュウトウ)を出されたが、それを飲んで胃腸をこわしてしまった,何とかしてほしいと来院しました。腹力はやや虚で,胃内停水が多少みられ,臍傍の動悸があり,臍傍の圧痛はありませんでした。舌は湿っており,白苔があります。というわけで麻黄(マオウ)はあまり使わない方がよいと考え,胃苓湯で心下の水をさばこうとしました。そうしたところ胃腸症状も鼻アレルギーも改善したという症例です。このように鼻アレルギーという病名にとらわれずに,水毒の偏在を正しながら水をさばくという用い方が,本来の漢方薬の使い方で,非常に面白いと思います。
※葛根湯加朮附湯(かっこんとうかじゅつぶとう)?
→葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
※adjuvantによる関節炎の抑制効果などついては、
→adjuvantによる関節炎の抑制効果などについては、
※フルダテ蒼朮? → 古立蒼朮(コダチソウジュツ)
※平胃の方胃? → 平胃散の方意?
『勿誤薬室方函口訣(5)』
北里研究所附属東洋医学総合研究所部長 大塚 恭男
-葦茎湯・已椒黄丸料・痿証方・・胃風湯・胃苓湯・郁李仁湯(聖恵)・郁李仁湯(本朝経験)-
胃苓湯
次は胃苓湯(イレイトウ)です。これは『万病回春』に載った処方です。「脾胃和せず、腹痛泄瀉、水穀化せず、陰陽分かたれざるものを治す」とあります。厚朴(コウボク)、橘皮(キッピ)、甘草(カンゾウ)、蒼朮(ソウジュツ)、猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、桂枝(ケイシ)の八味より成ります。
「この方は平胃散(ヘイイサン)、五苓散(ゴレイサン)の合方であるから、平胃散の目標する食あたりと、五苓散の目標とする水毒が加わったものに用いてよい。その他食物が消化しないで水のように下ってしまうもの、あるいは消化機能一般の不調で下痢を起こす場合に用いなさい。『万病回春』にいっている陰陽分かたれずとは、この目標は太陰が病位で、陰陽の間にある症である」ということであります。胃苓湯は、ここに巧みに記されてありますように、平胃散と五苓散の証が合わさったような感じのものによく使われます。
『Kampo Square 38号』 2006.12.25発行
緊急特集:ノロウイルス感染症と漢方
大野クリニック院長(埼玉県比企郡) 大野 修嗣 先生に聞く
悪心・嘔吐・下痢で
・熱なし、弱脈でない、心下痞硬がある場合→半夏瀉心湯
・熱なし、弱脈でも良い、腹部の冷え→人参湯
・熱あり、弱脈でない、胃内停水→五苓散
・熱あり、弱脈でない(弦脈が良い)、胸脇苦満→柴苓湯
・熱少、弱脈でない、上腹部膨満感→胃苓湯
『Kampo Square 47号』 2007. 5.10発行
連載 --- 私の漢方診療日誌(35)---
なにやら厚生労働省は、医療費削減に向けて2012年度までにメタボリック症候群の該当者を10%以上減少するという数値目標を設けたそうである。昔から「腹八分に医者いらず」という諺がある。健康診断を推奨するよりも、ちょっとだけ少食を心がけるように呼びかける方が効果的ではないかと思ったりする。 しかし食べ過ぎないのに胃腸をこわす人は、これこそ明らかな病気であり、漢方薬は素晴らしい効果をもたらしてくれる。今回は、これからの暑い季節にはなくてはならない胃苓湯のお話しである。
食傷と下痢を2処方の合方で解決
食べ過ぎ、飲み過ぎには胃苓湯
ももち東洋クリニック院長 木村豪雄
A氏は55歳の男性でツアーコンダクターとして活躍している。6ヶ月前から毎朝といってよいほど食後2時間経つと下痢をするということで来院された。下痢の性状は水様性で臭いは少ないが、左下腹がシクシクと痛むことがある。「卵が合わないのかな?」とも云われる。既往歴に胆石症があるが、これまでに疝痛発作のような激しい痛みは経験したことはない。
身長167cm、体重70kg。体格は中等度で栄養状態は良好である。血液検査では肝胆系酵素に異常はなかったが、高脂血症(総コレステロール224mg/dl、中性脂肪366mg/dl)と高尿酸血症(尿酸8.9 mg/dl)がみられた。漢方医学的所見では、脈は弦脈(浮沈間)で、舌には乾いた白黄苔がついている。腹診では腹壁の緊張は良好である。心下部がパンと堅く張っており、軽く揺さぶるとチャポチャポと音がする(振水音)。
ツムラ胃苓湯(イレイトウ)(J-115)7.5g/日を処方する。
◇8日後再診 下痢は毎日しなくなった。腹痛もない。
◇1ヶ月後 尿の回数が増えた。腹痛はなく、ときに油物を食べると腹が緩む。
◇2ヶ月後 下痢はまったくない。「漢方っていいものですね。妻も診てください」と云われる。血液検査を再検すると、総コレステロール207mg/dl、中性脂肪216mg/dl、尿酸7.8 mg/dlと改善傾向にあった。
さて、紹介されたA氏の奥さんは48歳。4~5年前から月経痛がひどくなり、経血量も多くなったのが悩みであった。婦人科では子宮腺筋症と診断された。
こちらは手足の冷えと浮腫を目標に、ツムラ当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)(TJ-23)7.5g/日で月経痛は楽になった。今では二人で仲良く漢方薬を飲んでいる。一度、間違って妻の漢方薬を飲んだ夫が、「うちの奥さんはあんな不味い薬をよく平気で飲めますね」とこぼしたことがあった。なるほど薬の味も大切である。
考案
胃苓湯は平胃散(ヘイイサン)と五苓散(ゴレイサン)の合方である。平胃散は“食傷”の基本方剤と云われている。食傷とは飲食物によって身体が傷つけられたという意味で、平たくいえば食べ過ぎ、飲み過ぎ、冷たいものや刺激物などによって消化器が侵されるものを指す。(山本厳:東医雑録2)
この患者さんの場合、食後に調子を崩すということから広い意味の食傷と考えて平胃散をイメージした。さらに下痢を伴うことから五苓散を合わせた胃苓湯を選択した。
胃苓湯は平素体質的に水はけの悪い体質(水毒)の人が腹をこわしたため、水分の吸収が悪くなって食物が不消化のまま水様便として下るもので、口渇、胃内振水音、腹がはり、尿量減少の症状があるものに用いる。腹痛はあまり激しくなく、また痛まないこともある。(一般用漢方処方の手引き:薬業時報社)
下痢に対する漢方治療も病態の陰陽を基本として考える。陰証とは冷えが主体の病態である。陰証の下痢の特徴は臭いが少ない水様性下痢が多く、腹痛や裏急後重(しぶり腹)を伴わない。代表方剤には真武湯(シンブトウ)や人参湯(ニンジントウ)がある。一方、熱が主体となる陽証の下痢は、腹痛があり下痢の臭いも強いことが多い。さらに排便するときに肛門に灼熱感があり、排便後もスッキリ感がない。黄芩湯(オウゴントウ)が代表である。
『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
p.126
10 胃苓湯(イリヨウトウ) (古今医鑑 泄瀉門)
〔処方〕 蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓 芍薬各二・五 桂枝二・〇 大棗 生姜 各一・五 甘草一・〇 (多く茯苓、沢瀉を増量して用う)
本方は、平胃散と五苓散との合方にさらに芍薬を加えたものである。
〔主治〕 胃苓湯の主治として古今医鑑に、「中暑、傷湿、停飲、脾胃和セズ、腹痛洩(セツ)瀉渇ヲ作シ、小便利セズ、水穀化セズ、陰陽分タザルヲ治ス」とある。
また医療手引草には、「飲食停積、浮腫、泄瀉、脈証倶ニ実ナル者ヲ治ス」とあり、
また牛山方考には、「飲食過多ニシテ、腹脹リ口渇泄瀉、小便赤渋ノ症ニ奇効アリ」と述べている。
これらの諸説は本方の主治をよく約言していると思われる。
〔運用〕 勿誤方函口訣に、「此ノ方ハ平胃散ト五苓散ノ合方ナレバ、傷食ニ水飲ヲ帯ブル者ニ用ヒテ宜シ。其他水穀化セズシテ下利、或ヒハ脾胃和セズシテ水気ヲ発スル者ニ用ユベシ。回春ニ所謂陰陽分タズトハ、太陰ニ位シテ陰陽ノ間ニ在ル症ヲ云フなり」とある。
また校正方輿輗、泄瀉門には、「時節ニ拘ハル所アラザレドモ、胃苓湯ノ症ハ夏秋ノ際ニ多キモノナリ」とあり、
また、医療衆方規矩には、
「脾胃調ラズ、暑湿飲ムモノナヅミ腹痛ンデ瀉(クダ)り、飲ムモノ食フモノ化(コナ)サズ、陰陽ヲ分タズ、水ノカハリテ中ルヲ治ス。一切ノ泄瀉ヲ治スルノ総司ナリ。夏月ニ初メハザツト下シテ、後ニ渋リコヽロヨカラズト云フモノ此ノ湯ヲ用ユベシ。又夏月痛風ヲ患フ、按ズルニ暑湿ニヨツテ身骨節イタム故ナリ、此湯ヲ用ヒテ瘉ユ。或人語ツテ云ク、此方ハ四五月ヨリ八九月ニ至テモパラ用ユ、何トナレハ暑湿ヲ治スルノ故ナリ」と述べている。
また、医方小乗、泄瀉門には、「飲食過多ニシテ腹脹口渇シ、小便渋ツテ裏急後重、赤白下利スルニ、胃苓湯ニ黄連、芍薬ヲ加エテ用ユベシ、裏急甚シキモノニハ木香、檳榔ヲ加ヘ用フベシ。
夏ノ痢病ノ始メニハ胃苓湯ニテ暑湿ヲ去ルベシ。腹熱アルニハ解毒湯ヲ合シテ、渋ルコト甚シキニハ枳実大黄湯ヲ加フベシ」とあり、
また、牛山方考には、
「元禄四年五六月ノ間、長雨ニテ士民尽ク暑湿ノ気ニ感ジテ頭痛裂クガ如シ、余為メニ一方ヲ製ス。胃苓湯に柴胡、黄芩を加ヘテ本トシ、熱甚シク大便秘セバ黄連、石膏を加フ。大便泄するには白扁豆、升麻ヲ加フ、腹痛ニハ木香、砂仁ヲ加フ、咽渇ニハ葛根ヲ加フ、頭痛ニハ羗活、川芎ヲ加フ、眼中黄ムニハ茵蔯ヲ加エテ之ヲ用フルニ手ニ応ジテ效あり。津城三千戸及便ビ国中ノ人、其霊方ノ応験ヲ聞キ伝ヘテ薬ヲ乞フ者門ニ満ツ、毎日此方ヲ修合シテ人ニ与フルコト百ヲ以テ数フ。奇々妙々」とある。
また、当荘庵家方口解には、
「四時トモニ大便瀉スル主方ナリ。無熱ニハ木香ヲ加フ、食モ少シ滞リ大便瀉スルニ吉(ヨ)シ。平胃散ニテ脾胃ヲスカシ、食ヲ圧エテ分利スル故ニ水道ノセキキレ水流ルヽ意也。水腫脈進而力アルニ加車前子、木通、燈心ヨキコトアリ。脈進マズ弱キハ脾腎ノ元陽虚冷ナリ、用フベカラズ。胸フクレ不食スルニ加檳榔子ヨキコトアリ。是ハ脾胃モ少シ塞リ大小腸和セズ、故ニ胸フクレ不食シ湿ニモアタルユヘナリ。夏秋ノ間此ノ如キコトアリ」とある。
また和漢纂言要方には、
「亀渓先生ノ曰ク、総ジテ痢ニ初メヨリ驟(アワテ)テ芍薬湯(芍薬二・〇 当帰一・〇 黄芩一・〇 大黄〇・七 ケイシ〇・七 木香〇・七 檳榔〇・七 甘草〇・五)ヲ用ユレバ、却ツテ腸胃ヲ害シ難治ノ症トナルコト多シ、殊更小児ナドノ痢病ニハ此方ニ木香、黄連ナドノ加味ニテ療スベシ。丹渓先生ノ曰ク小児ノ血痢ハ食積ナリト豈妄リニ河間ノ芍薬湯ヲ用ユルコトヲセンヤ」と述べている。
〔薬能〕 名医方考には、「湿盛ニシテ泄瀉スル者コレヲ主ル。蒼朮 厚朴 陳皮 甘草は平胃散ノ味ニシテ湿ヲ乾カス所以ナリ。白朮 茯苓 猪苓 沢瀉 桂枝ハ五苓散ノ味ニシテ湿ヲ利スル所以ナリ」とある。
また、和漢纂言要方には、「通仙先生ノ曰ク、古方胃苓湯ニ芍薬ナシ後哲此ノ味ヲ加フルモノハ此薬味酸クシテ能ク肝ノ陰気ヲ収歛シ、中焦脾胃ヲ補ヒ、瀉ヲ治スル故ナリ」とある。
〔応用〕
(一) 急性胃腸炎-殊に大腸炎で腎臓機能障碍を伴い、小便利せず腹痛泄瀉を発し、俗に云う夏期の食あたりというものに多くこの症がある。時に軽度の血便粘液便等を混じ、少し裏急後重を訴えるものには、黄連、木香、檳榔を加えて用いる。脈証は多くは沈で力があり、腹証も相当抵抗があるものである。舌は多くは白苔である。
(二) 浮腫-食傷から来る急性腎炎や、下利し易いもの。
(三) 夏期の神経痛 リウマチの類。
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]〔1)2)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う
[理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。
[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
【医療用漢方製剤 】
| 商品名 製造販売元 発売元又は販売元 |
一日 製剤量 (g) |
添加物 | 剤形 | 効能又は 効果 | 用法及び用量 | 蒼朮(ソウジュツ) | 白朮(ビャクジュツ) | 厚朴(コウボク) | 陳皮(チンピ) | 猪苓(チョレイ) | 沢瀉(タクシャ) | 茯苓(ブクリョウ) | 桂皮(ケイヒ) | 大棗(タイソウ) | 生姜(ショウキョウ) | 甘草(カンゾウ) | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ツムラ胃苓湯エキス顆粒(医療用) ツムラ | 7.5 | 日局ステアリン酸マグ ネシウム、日局乳糖水 和物 | 顆粒 | 水瀉性の下痢、嘔吐があり、口渇、尿量減少を伴う次の諸症: 食あたり、暑気あたり、冷え腹、急性胃腸炎、腹痛 |
食前又は食間 2~3回 |
2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.0 | 1.5 | 1.5 | 1.0 |
2014年6月5日木曜日
柴苓湯(さいれいとう) の 効能・効果 と 副作用
『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小柴胡湯と五苓散との合方を、柴苓湯と名づけ、小柴胡湯の證で口渇・尿利減少の者に用いる。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
(2) 柴苓湯(さいれいとう)
本方は、五苓散證に小柴胡湯(前出、柴胡剤の項参照)をかねたものに用いられる。本方と同様な目的で、他の柴胡剤も五苓散と合方される。
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.85
小柴胡湯(傷寒論,金匱)
(中略)
p.86
類方 柴苓湯
本方と五苓散の合方で、小柴胡湯証で下痢を伴うとき、即ち発熱、嘔気、口渇、下痢のあるときで、夏季の食中毒に多い症である。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
柴苓湯(さいれいとう) [得効方]
【方意】 小柴胡湯証の胸脇の熱証による胸脇苦満・口苦・口粘等と、五苓散の水証による煩渇・尿不利・下痢傾向等のあるもの。
《少陽病.虚実中間からやや実証》
【自他覚症状の病態分類】
【脈候】 弦やや浮・浮にして力あり。
【方解】 本方は小柴胡湯と五苓散の構成生薬をそのまま合わせたもので、それぞれの作用が共存して感る。
【方意の幅および応用】
A 胸脇の熱証+水証:胸脇苦満・煩渇・尿不利を目標にする。
急慢性胃腸炎、熱射病、水瀉性下痢等の急性胃腸炎、慢性肝炎、肝硬変
急慢性腎炎、ネフローゼ症候群、妊娠中毒症、浮腫、クインケ浮腫
滲出性中耳炎、関節リウマチ加療中の蛋白尿
【参考】 *傷風、傷暑、瘧を治す。『得効方』
*此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇下利する者を治す。暑疫(夏の流行病、カゼや下痢)には別して効あり。
【症例】 出題と解答 脳腫瘍
患者は9歳の婦人。5歳のとき猛烈な頭痛を訴え、吐いたので名古屋の大学でみてもらったら脳腫瘍ということで手術を受けた。しかし、その後半年の間は同様の頭痛と吐き気を催していた。学校へはかろうじて通学していた。
昨年の11月より、眼瞼が下垂し、眼球が動かなくなり、耳も遠くなり、両手が細かに震え始めた。そこでまた名古屋の大学へつれて行くと、再発といわれ、4ヵ月間入院してコバルト療法を受けたが震えは増悪。東京で治療しようと上京した。都内の2ヵ所の大病院では、いずれも脳腫瘍と診断され、ダメであっても手術を要するといわれたという。
体は小さく、皮膚は全身蒼白で水ぶくれの状態。脈をみて驚いたことには、弓弦のように力があり、頻数で、こわいような脈。書物に出ている死脈の中の弾石の脈と思われるような脈状を呈している。腹は全体が膨満し、心下の反応過敏で右の季肋下部が特に敏感。わずかな圧を加えただけでも、顔をしかめて痛いという。舌は白苔あり、口渇を訴える。頻尿で20分に1回、量は多くない。診察を終えると、「ありがとう」といたいけにも礼をいう英で、気持ちはしっかりしている。
そこである古方の合方を用いました。また、兼用としてある粉薬を用いました。1ヵ月分を飲み終わって再び患者が来ました。今度は親に抱かれずに診察室へ一人で入って来ました。腹をみると前と違って圧しても痛くなく、食欲も出て来て、一般状態がかなり良くなって来ているのです。
聞くと20日分を飲み終わったころから、自ら進んで床をはなれて本を読むようになり、小便は2時間に1回ぐらい、眼球も動くようになって来たというのです。次の1ヵ月分の薬を与えました。すると患者がどうしても行きたいと学校へ行き始めたというのです。3回目の来院のときは、第2回目のときにまだ残っていた手の震えも治っており、以上合計2ヵ月間の服薬でかなり好転して来たことが認められました。これは今後どうなるか目下大いに期待を持ち、祈る気持ちでいます。以上に対して用いる処方はどのようにお考えでしょうか。
〔解答〕小柴胡湯合五苓湯(2名)、小柴胡湯合桂苓丸(2名)、苓桂朮甘湯(2名)、呉茱萸湯合柴胡桂枝湯(1名)、柴胡加竜骨牡蠣湯合五苓散(1名)、小柴胡湯合芍薬甘草湯(1名)。
〔出血者解答〕私の用いた処方は小柴胡湯と五苓散の合方でした。それは、腹証の上から、まず小柴胡湯を考え、頭痛を目標に五苓散を用いました。それと尿量は少ないが頻繁にあるというこ選か現、水毒体質と考えて小柴胡湯と五苓散の合方を用いたわけであります。兼用の粉薬ですが、私は脳腫瘍には山豆根を以前に何回か用いたことがありますので、今回も三豆根を1日1gを2回に分けて午前と午後に飲むようにしました。
矢数道明『漢方の臨床』11・11・22
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.294
(2) 小柴胡湯 合 五苓湯(柴苓湯)
小柴胡湯の証と五苓散の証と合併したもので、煩渇・下痢・暑中の疫病に多く用いられる。腎盂炎・腎炎・ネフローゼ・マラリアおよびその類似症などにも柴苓湯として用いることがある。
p.561
実腫のときには柴苓湯・分消湯・五苓湯・木防已湯等を用いるが、
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
柴苓湯(さいれいとう) <出典>得効方
<方剤構成>
柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 甘草
沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<方剤構成の意味>
小柴胡湯と五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
小柴胡湯の証(胸脇苦満があって,軽度の虚証と見られる場合)で五苓散の証(この場合は主として尿量減少と水分停滞傾向を目標とする。口渇もあるのを原則とするが,必須条件ではない。頭痛・嘔吐・下痢を伴うこともある)を兼ねる場合に用うべき方剤と言えよう。
<適応>
①腎炎・ネフローゼ,②肝炎で腹水を伴うもの,③急性腸炎(下痢)または胃炎(嘔吐)。潰瘍性大腸炎にもしばしば効を奏する。
ただし,小柴胡湯の証であることを前提とする。
その他,小柴胡湯を用いたい場合で,尿量減少やむくみがあれば,広く用いてよい。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
柴苓湯(さいれいとう)
健 ツ、カ
得効方(とくほうこう)
どんな人につかうか
吐き気や食欲不振があって、のどが渇き、浮腫(ふしゅ)などがあって、尿量の少ないものに用い、腎炎、肝硬変、下痢などに応用します。
目標となる症状
症 ①嘔気(おうき)。②食欲不振。③微熱。④口渇(こうかつ)。⑤口が苦(にが)い。⑥尿量の減少。⑦浮腫(ふしゅ)。⑧悪心(おしん)、嘔吐(おうと)。⑨下痢、腹痛。⑩頭痛。⑪めまい。⑫蛋白尿。
腹 季肋部(きろくぶ)に抵抗圧痛があり(胸脇苦満(きょうきょうくまん))、胃部をたたくとピチャピチャと水の音がし(胃内停水(いないていすい))、上腹部に軽い皮膚の盛り上がり(心下満(しんげまん))がある。
脈 弦(げん)を張ったような、なめらかな脈。
舌 白い薄い湿(しめ)った舌苔(ぜったい)。
どんな病気に効くか(適応症) 吐き気、食欲不振、のどの渇き、排尿が少ない人の、水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ。 急性腎炎、ネフローゼ、血管運動神経性浮腫、クインケ浮腫(ふしゅ)、感冒、肝硬変、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎、起立性調節障害、アレルギー性鼻炎、IgA腎症、ジュリング氏疱疹(ほうしん)状皮膚炎。
この薬の処方
柴胡7.0g 沢瀉(たくしゃ)、半夏(はんげ)各5.0g。黄芩(おうごん)、朮(じゅつ)、大棗(たいそう)、猪苓(ちょれい)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)各3.0g。甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)各2.0g。生姜(しょうきょう)1.0g。(小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)の合方)
この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。
②ツムラ柴苓湯(さいれいとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。
使い方のポイント
①小柴胡湯(しょうさいことう)(125頁)と五苓散(ごれいさん)(87頁)を合方したもので、小柴胡湯(しょうさいことう)が適応する症状があって、口渇と尿量の減少、浮腫(ふしゅ)、嘔吐(おうと)(水様の吐物、水逆(すいぎゃく))。下痢(水様性)。頭痛などの症状が加わった場合に広く応用されます。
②ネフローゼ症候群やリウマチなどの膠原病(こうげんびょう)に、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を使わなければならない場合に、柴苓湯(さいれいとう)を併用すると、ステロイド剤の効力を増強して、減量することが出来ます。又ステロイド剤の副作用防止にも役立っています。
③柴苓湯(さいれいとう)には利尿作用がありますが、現代医学の利尿剤(チアジト、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニソロン、デスラノシド、ジギタリス葉末)と比較しても、これらの利尿剤に劣らぬ利尿作用があり、尿量の増加が認められます。
現代医学の利尿剤では、血液中のカリウムの喪失がありますが、柴苓湯(さいれいとう)ではカリウムの喪失が少なく、腎臓に対する作用の仕方は、腎血流量を増加させることが考えられます。
④漢方のエキス剤が普及してから、色色な病気に柴苓湯(さいれいとう)が応用されるようになりましたが、現代医学で治りにくい、アレルギー性鼻炎、滲出性中耳炎、IgA腎症(腎臓の系球体にIgA抗体が沈着しておこる病気で、蛋白尿や血尿で発見されることが多い、そんなに悪性の病気ではない)、起立性調節障害、ジューリング氏疱疹状皮膚炎などが良くなったという症例が報告されています。
処方の解説
柴苓湯(さいれいとう)は小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を合方したもので、それぞれの作用の複合と考えてよいものです。
小柴胡湯を形成しているDL分のうち柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)は、情緒的に抑鬱(よくうつ)状態におちいり、自律神経の緊張が加わった状態(肝気鬱血)を治す疎肝解鬱(そかんげうつ)の効果があって、嘔気や咳(せき)をとめる効果があります。
五苓散(ごれいさん)も構成する生薬のうちの、朮、茯苓、猪苓、沢瀉はいずれも、水分代謝をよくする効果があり、同時に、胃腸を丈夫にし、気を補い(補気健脾ほきけんぴ))、気持と安定させる(安神)効果があります。小柴胡湯(しょうさいことう)の一部である人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)にも同様の補気健脾胃、安神(あんしん)の効果があり、分泌を促進する効果もあります。
小柴胡湯の黄芩(おうごん)は、充血を緩解(かんかい)し、興奮を鎮静させる瀉火(しゃか)作用があり、五苓散(ごれいさん)の桂枝(けいし)は、気をめぐらし、身体を温める効果があります。
※プレドニソロン? → プレドニゾロン
※IgA腎症(腎臓の系球体? → IgA腎症(腎臓の糸球体
『重要処方解説(98)』
柴苓湯(サイレイトウ) 日本東洋医学会評議員 藤井 美樹
■出典・構成生薬・薬能薬理
柴苓湯(サイレイトウ)の出典は,中国,元時代の人,危亦林(きえきりん)の撰した『世医得效方(せいとくこうほう』巻2(1337年)です。
これは2つの処方の合方です。つまり小柴胡湯(ショウサイコトウ)と五苓散(ゴレイサン),あるいは五苓散料(ゴレイサンリョウ)(湯(トウ))の合方です。処方の内容は,柴胡(サイコ),半夏(ハンゲ),生姜(ショウキョウ),黄芩(オウゴン),大棗(タイソウ),人参(ニンジン),甘草(カンゾウ)(以上が小柴胡湯),沢瀉(タクシャ),猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),白朮(ビャクジュツ),桂皮(ケイヒ)(以上が五苓散)の12味になります。
柴胡はサイコの根で,薬能は胸脇苦満(季肋下部の重苦しい感じ,および同部の抵抗,圧痛)を主治し,往来寒熱(発熱したり悪寒がしたり交互にくる),腹中痛,脇下痞硬をも治すとされています。薬理学的には,サイコサポニンなどを含み,中枢抑制,抗炎症,解熱,利尿,抗潰瘍作用などが知られています。
半夏はサトイモ科のカラスビシャクの周皮を除いた塊茎で,薬能として痰飲,嘔吐を主治し,心痛,逆満,咽中痛,咳,悸,腹中雷鳴をも治すとされています。成分としてはhomogenistic acidなどが含まれ、鎮吐,鎮静,去痰などを目標に悪心,嘔吐などに用います。
生姜はショウガの根茎で,嘔を主治するとされます。辛味成分はジンゲロール,ショウガオールを含み,鎮嘔,鎮咳,食欲増始に用います。
黄芩はコガネバナの周皮を除いた根で,薬能は心下痞(みぞちのつかえ)を主治し,胸脇満、嘔吐,下利をも治すとされています。成分としてオウゴニン,バイカリン,オロキシリンなどを含み,消炎性解熱薬として嘔吐,腹痛,下痢などに用います。
大棗はナツメの果実で,緩和,強壮,利尿薬で,筋肉の急迫症状,牽引痛,知覚過敏を緩解し,咳嗽,煩躁,身体疼痛,腹痛などをも治すとされます。成分としては糖質,粘液質,リンゴ酸塩,酒石酸塩などが含まれています。そして水エキスには中枢抑制作用があり,エタノールエキスには抗アレルギー作用があることがわかりました。
人参はオタネニンジンの根で,薬能は心下痞堅,痞硬,支結を主治するとされ,また不食(食欲不振),嘔吐,喜唾(しばしばつばをはく),心痛(胸のあたりの痛み),腹痛,煩悸などで,薬理作用として水エキスには血糖下降,RNA合成促進作用があり,含水エタノールエキスにはコリン性増強,血圧下降,血糖下降,副腎皮質機能増強作用があり,ジンセノサイドRb群には中枢抑制作用があり,Rg群には中枢興奮作用があることがわかりました。
甘草はマメ科の多年草カンゾウの根であり,薬能は急迫を主治し,故に裏急,急痛,攣急を治すとされています。成分としては,甘味成分のサポニンであるグリチルリチンを含み,その他,糖分,苦味質などを含んでいます。水エキスには鎮咳,抗消化性潰瘍,抗高脂血症,平滑筋弛緩作用などがあり,グリチルリチンには電解質ホルモン様作用,糖質ホルモン様作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用などがあることが知られています。急迫症状の緩和,解毒,痙攣性筋肉痛,腹痛,咳嗽などに用います。
沢瀉はサジオモダカの塊茎で,薬能は小便不利(尿が快通しない)して冒眩(めまい)するのを主治し,渇をも治すとされています。成分はトリテルペノイド,その他澱粉,蛋白質などであり,利尿作用,抗脂肪肝,抗高脂血症,肝障害予防作用などが知られています。
猪苓はチョレイマイタケの菌核で,薬能は渇して小便不利するのを主治するとされています。成分は多糖類,ステロイドなどがあり,水エキスに利尿作用があり,利尿,消炎,水腫に用いられています。
茯苓はマツホドの菌核で,薬能は悸および肉瞤筋惕(にくじゅんきんてき)(筋肉の間代性痙攣でピクピク動くこと)を主治し,かたわら小便不利,頭眩,煩躁を治すとされています。成分はトリテルペノイド,エルゴステロールなど,その水エキスには胃潰瘍予防,血糖降下作用が知られています。利尿,健胃,整腸の作用を応用します。
白朮はオケラの根茎で,『薬徴』には朮として,「水を利するを主るなり。故に能く小便の自利,不利を治す。身煩疼,痰飲,失精,眩冒,下利,喜唾を旁治す」とあります。白朮は成分としてアトラクチロンなどを含んでいて,水エキスには利尿,抗炎症,血糖下降,抗疲労作用などが知られています。健胃,整腸,利尿に応用します。
桂皮は桂樹などの樹皮で,薬能は衝逆を主治し,奔豚(ほんとん),頭痛,発熱,悪風,汗出でて身痛するをも治すとされています。桂皮の成分はケイアルデヒドには解熱,末梢血管拡張,胆汁分泌促進作用などが知られています。健胃,解熱を目標にして,発熱,頭痛,心悸亢進,四肢痛,胃腸障害に用います。
以上,柴苓湯を構成する12の生薬の薬能および薬理(成分)をのべました。
■古典における用い方
次に柴苓湯の原典における指示をみますと,「小柴胡湯と五苓散を合和し,柴苓湯と名づく。傷風,傷暑,瘧を治するに大効あり。毎服,薑(キョウ)三片,麦門冬(バクモンドウ)二十粒心を去り,地骨皮(ジコッピ)少許を煎じ温服す」とあります。傷風は,風の邪に傷られて発症する感冒様疾患で,傷暑は夏期に暑さに傷られておこる疾患であり,瘧はマラリア様疾患であると考えられます。あとで述べる『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』にみられるように,一般には,薑,麦門冬,地骨皮を去って用いられてきています。柴苓湯に関する先哲の論議の二,三をみてみましょう。
『方彙口訣(ほういくけつ)』瘧疾門の柴苓湯の条に,「此の方は小柴五苓の合方にして今時善く用ゆ効(ききめ)も大分に在るぞ。瘧の熱多く,口の渇き強く,頭痛して,小便の通じ悪きに妙なり」とあります。
『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』瘧疾門に「瘧疾初額の程は熱甚だしく,傷寒などのようなる者なり。夏の時,初秋の頃に是の如く煩う時は,多くは瘧に変ずると知るべし。(略)柴苓湯の類を大料にして用いて大いに汗を解すべし」。
『梧竹楼方函口訣(ごちくろうほうかんくけつ)』瘧類・柴苓湯の条に,「雑病,下痢,熱強く,赤子の糞の如きを下すに用ゆ。(略)痢にはあらず,泄瀉(せっしゃ)の類なり,夏月に此れ等の症多し」。
『医療衆方規矩大成(いりょうしゅうほうきくたいせい)』中湿門・五苓散の条に「傷寒三四日熱さしひきありて自利する者は,本方(五苓散)に小柴胡湯を合して姜棗を入れ柴苓湯と名く,一切の発熱して寒を憎むものには邪気,半は表,半は裡にあり,此の湯に宜し」。「瘧,寒熱ありて病の表裡陰陽にあること分ちがたきにもまた宜し」。「五苓散は湿瀉を治し,下部の湿(しつ)を退く。柴苓湯は瘧の寒熱を治す」。
『勿誤薬室方函口訣』柴苓湯の項此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇、下利する者を治す。暑疫には別して効あり」。煩渇はたえがたい渇で,暑疫は夏の流行病です。
次に薬方としての柴苓湯をみますと柴胡は黄芩の助けを得て胸脇部に働き,消炎,解熱の作用があり,胸脇部のうっ滞をよく通ずる効があり,半夏と生姜は悪心,嘔吐を止め,食欲を増進させ,柴胡,黄芩に協力します。人参,甘草,大棗は共同して胃の機能をたかめ,胸脇部の充塞感を緩解します。沢瀉,茯苓,白朮はひとしく胃腸内の停水を去り,尿量を増加させて,浮腫を去り,桂枝は表熱を去り,気の上衝を治し,他薬の利尿作用を助けると,解説されています。
■現代における用い方
さて,現代における柴苓湯を使用目標は,体力が中等度か,やや実している者で,小柴胡湯証と五苓散証が同時にあるものに用います。小柴胡湯の目標は,胸脇苦満,往来寒熱,口が苦い,食欲不振などであり,五苓散の目標は,口渇,尿量減少,浮腫,瀉痢などであります。
柴苓湯は,小柴胡湯の証があって,さらにのどが渇いて小水の出が悪く,水瀉性の下痢をする人に向くという処方であります。そして原典にありましたように,風にやぶられたり,暑さにやぶられたり,おこり(瘧)のように熱と寒さが交互に来るという状態,つまり熱が出ているわけですが,そういうものを治すというわけです。
もともとは夏の発熱,下痢に用いられた処方でしたが,肝臓疾患,腎臓疾患に用いられ,近年は耳鼻科領域,整形外科領域にも広く使用されてきています。応用としてネフローゼ症候群,慢性腎炎, 慢性肝炎,肝硬変,急性・慢性胃炎,暑気あたり,滲出性中耳炎,常習性頭痛などのほか,ステロイド剤と併用して,その減量や副作用の軽減などに役立つことが注目されております。
夏に消化器の働きが弱っていて,熱もあり,胃腸炎を起こし,水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります。 柴苓湯を使いますと,熱が下がって下痢もおさまってきます。水瀉性の下痢ですから,体から水分が出て行って,劇しく渇するのですが,この薬を飲みますと渇が次第に癒されます。
子供の場合に扁桃炎,のどの炎症から慢性腎炎になってなかなか治らないという場合があります。もちろん体の弱い子供は別ですが,中等度の体力があって今述べた症状当向現s慢性腎炎の場合に柴苓湯を使いますと,のどの炎症を起こすようなかぜをひくことが次 第に少なくなりますし,むくみも取れてきます。蛋白尿が減りにくいので,プレドニゾロンを併用している場合は,その量を減らすことができるようになります。このようによくかぜをひく慢性腎炎,ネフローゼに使います。
肝硬変で顔面の赤茶けたり,皮膚の特有の赤い斑点が出たり,また腹水が溜まってきて静脈が浮いてくるものに,柴苓湯を長期間使っておりますと,それらがだんだん取れてきます。肝硬変は非常にむずかしい病気ですが,試みる価値があると思います。
そのほか腎盂炎に使う場合があります。現代医学的に抗生物質を使ったり点滴を行って一応はおさまりますが,また体調によってたとえば体が疲れたり,睡眠不足をしたりすると,時に高熱を出し,腰背部が痛むといった症状が出てくることがあります。その場合,小柴胡湯が向いている体の場合には,柴苓湯を使うと腎盂炎が軽くすむようになりますし,そのうち腎盂炎を起こしにくくなってきます。普段蛋白が出ていたような人が出なくなるということもあります。
現在はマラリアは少なくなりましたが,戦後復員された方の中に外地でかかったマラリマの発作を起こす例に,小柴胡湯だけでよい場合もありましたが,症例によっては柴苓湯を使いました。もちろん現代医学の抗マラリア薬と併用すると,非常によい場合がありました。
鑑別としては,小柴胡湯(本方証に五苓散証のあるもの),五苓散(本方証に小柴胡湯証のあるもの),半夏瀉心湯〔心下痞(硬),腹鳴,下痢(しぶりばら)を目標とする〕,八味地黄丸(小便不利,軽い口渇,小腹不仁,身体下部の浮腫のあるもの),真武湯〔やせて生気が乏しい,手足冷え,下痢(水瀉性),めまい感,尿利減少〕などがあげられます。
柴苓湯との鑑別を考えた場合に,これは小柴胡湯と五苓散の合方ですから,基本的にはまず小柴胡湯の証があって,五苓散を使う証があるということを考えれば,柴苓湯は使えるのではないかと思います。繰り返し申しあげますが,小柴胡湯は,体力,体格中等の人で,胸脇苦満があり,往来寒熱(熱が出たり悪寒があったりすること)があって,かぜをひきやすい,場合によっては扁桃炎を起こすという患者に用います。
五苓散の古典的な証は,のどが渇いて小水の出が悪い場合です。口渇はあまり劇しくない場合でも使えますが,むくみのあることが利水剤が多く入っている五苓散の目標になります。浮腫は現代医学的にいろいろ調べても原因がわからない場合が多くありますが,五苓散を使ってみると,むくみがとれることがあります。扁桃炎をよく起こす,かぜをひくと熱を出しやすいというものには,五苓散単独よりも小柴胡湯と合方して柴苓湯として使うという方法をとります。
■症例提示
症例を申しあげます。昭和5年生まれ,某会社役員,以前から肝臓が悪く,治療を受けていましたが,仕事が忙しくゆっくり療養ができないし,なかなかよくなりません。そのうち腹が張るという自覚症状が出てきました。診察によって腹部膨満,静脈怒張し,臨床的には明らかに肝硬変の状態で,検査所見もそれを裏づける結果でした。定年までの数年間を何とか元気でいたいとの希望で,漢方治療を求めて2年前に来院しました。顔は赤ら顔,体格中等度,脈は特記すべきものはなく,腹部は膨満し,肝臓が腫れ,腹水が溜まっております。腹壁には静脈が浮いております。足の脛の部分を圧しますと,少しむくみがあります。
胸脇苦満が右に認められるので,迷うことなく柴苓湯を使いました。そうしますと,むくみが徐々にひくとともに全身的に元気になってきて,仕事が前よりできるようになったということで本人は希望を持って,治りきらなくてもこれより悪くならないようにと,現在なお服薬中ですが,顔の色艶もよくなり,自覚的に腹部が張らなくなり,他覚的にも腹部が少しずつ小さくなってきております。小康を得て,この状態から悪くならないように初診の時に本人が希望したごとく,定年まで何とか元気に過ごせるようになるのではないかと思っております。
もう1例は昭和3年生まれの男性,会社員です。この人も慢性肝炎の歴史が古く,勤務しながら現代医学の治療を受けておりましたが,元気が出ないし,時におなかの調子が悪くなるので,漢方治療を求めて来院しました。赤ら顔で元気そうにみえますが,肝臓は腫れており,各処に紅斑がみられます。持続した臨床データをみますと,肝硬変の疑いのある検査結果が出ております。この人にも柴苓湯を出しました。
現在ひき続き服薬中ですが,顔のいやな赤味は大分取れてきましたし,全身的に元気になってきまして,以前は会社から帰るとすぐに横になって安静にしていたそうですが,最近では体力がうちえきて,帰宅してからも自分の好きなことができるようになったとのことです。
第3例は,大正10年生まれの女性,茶道の先生です。第子もたくさんおられて忙しく,無理をするとかぜのような症状が出て,熱が出てのどが痛くなります。腎盂炎の持病があり,おなか,特に腰背部が痛くなり,茶会などのあとは寝込んでしまうのですが,持病で仕方がないと思っていたそうです。ある人の紹介で漢方治療を求めて来院しました。
この人も小柴胡湯証がありまして,時々,同時に腎盂腎炎起こすということがわかりましたので,小柴胡湯のほかに五苓湯(五苓散料)を合方して,柴苓湯として使いました。服薬しているうちに,無理をすると時々は熱が出て寝込むことはありましたが,約3年間服薬したころには腎盂炎という病気を忘れるくらい元気になり,以前より張り切ってお弟子さんの指導ができるようになって感謝されております。今は続けて服薬はしておりませんが,体を無理したような時に来院して,柴苓湯を服用す識という状態です。このような持病と思われていた病気が治るばかりでなく,元気になり,以前よりもいろいろなことができるようになるということは,漢方治療の特色ではないかと思います。
次の例は小学1年生の男児,発熱のあと慢性腎炎になったということで,一時は入院もしました。ネフローゼ型の腎炎で,蛋白がかなり出ており,どうしてもプレドニンを使わなければならない例ですが,長く服用することに対して,心配をして漢方治療を求めて来院しました。
時々熱を出し,のどを腫らすということで,まず小柴胡湯が考えられます。さらに蛋白がたくさん出ており,かぜをひくとむくみっぽくなるということで柴苓湯 にしました。柴苓湯を使い出しましてからは,かぜをひくことが少なくなり,プレドニンの量がわずかずつ減量できるようになりました。以前はプレドニンを少し減らすと蛋白が陽性に出ましたが,柴苓湯を併用するようになってからは,少しずつ減らしても蛋白が陽性にはならずにすむということです。来院当初は顔色がすぐれず,いかにもステロイド服用患者らしい独得な顔貌でしたが,柴苓湯を服用しているうちに少しずつひきしまってきて,何となくたくましくなってきたことが感じとられます。まだプレドニンから離脱できませんが,柴苓湯だけで治療が続けられることを望みながら現在服薬中です。
柴苓湯は応用範囲が広いので,最近の治験例も各科から報告されています。東北大学の池田勝久先生らは,難治性の滲出性中耳炎患者18例にツムラ柴苓湯を投与し,有効率72.4%で副作用もなく,ツムラ柴苓湯は滲出性中耳炎の薬物療法として臨床的に有用であると認めています。
藤田学園保健衛生大学の矢崎雄彦先生らは,小児ネフローゼ症候群患者の副腎皮質ステロイド剤からの離脱,減量あるいは同剤の副作用の軽減に柴苓湯が有効であることを報告しており,日赤医療センターの石井策史先生らの報告では,成人の慢性病炎患者の蛋白尿減少,ステロイド副作用の軽減に有効であると思われるということです。
また中勢総合病院の大萱稔先生,京都市身障者リハビリテーションセンター附属病院の田中大也先生らは,柴苓湯が慢性関節リウマチに有効であることを認めて報告しています。
また東京医科歯科大学の渡辺建介先生らは,副鼻腔炎術後の頬部腫脹に柴苓湯が有効であることを報告しています。
※心下痞(みぞちのつかえ)? → 心下痞(みぞおちのつかえ)の誤りか
※水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります?
→ 水瀉性のサッと下る下痢があるという場合が柴苓湯の適応になります
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。
[理由]
厚生省医薬安全局安全対策課長より通知された平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品の使用上の注意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。
2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと
[理由]〔2)3)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う
[理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはニンジン(人参)、ケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある 。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている 。
[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹部膨満感、腹痛、下痢、便秘等
[理由]
本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。
泌尿器:頻尿、排尿痛、血尿、残尿感、膀胱炎等
このような症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局安全課長より通知された平成5年9月27日付薬安第87号「医薬品の使用上の注 意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。
その他:全身倦怠感
[理由]
本剤によると思われる全身倦怠感が文献・学会で報告されているため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。
小柴胡湯と五苓散との合方を、柴苓湯と名づけ、小柴胡湯の證で口渇・尿利減少の者に用いる。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
(2) 柴苓湯(さいれいとう)
本方は、五苓散證に小柴胡湯(前出、柴胡剤の項参照)をかねたものに用いられる。本方と同様な目的で、他の柴胡剤も五苓散と合方される。
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.85
小柴胡湯(傷寒論,金匱)
(中略)
p.86
類方 柴苓湯
本方と五苓散の合方で、小柴胡湯証で下痢を伴うとき、即ち発熱、嘔気、口渇、下痢のあるときで、夏季の食中毒に多い症である。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
柴苓湯(さいれいとう) [得効方]
【方意】 小柴胡湯証の胸脇の熱証による胸脇苦満・口苦・口粘等と、五苓散の水証による煩渇・尿不利・下痢傾向等のあるもの。
《少陽病.虚実中間からやや実証》
【自他覚症状の病態分類】
| 胸脇の熱証 | 水証 | |||
| 主証 | ◎胸脇苦満 | ◎煩渇 ◎尿不利 ◎下痢傾向 | ||
| 客証 | ○口苦 ○口粘 ○心下痞硬(水) ○食欲不振(水) ○悪心 嘔吐(水) 発熱 往来寒熱 | 浮腫 | |
【脈候】 弦やや浮・浮にして力あり。
【舌候】 乾燥して白苔。
【腹候】 腹力中等度。胸脇苦満がある。多くは心下痞硬し、時に上腹部に振水音および腹直筋の緊張を伴う。
【病位・虚実】 小柴胡湯証も五苓散証も共に少陽病位である。脈力、腹力より虚実中間からやや実証で用いることが分かる。
【構成生薬】 柴胡8.0 沢瀉7.5 半夏6.0 猪苓4.5 白朮4.5 茯苓4.5 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 桂枝3.0 甘草3.0 生姜1.0
【腹候】 腹力中等度。胸脇苦満がある。多くは心下痞硬し、時に上腹部に振水音および腹直筋の緊張を伴う。
【病位・虚実】 小柴胡湯証も五苓散証も共に少陽病位である。脈力、腹力より虚実中間からやや実証で用いることが分かる。
【構成生薬】 柴胡8.0 沢瀉7.5 半夏6.0 猪苓4.5 白朮4.5 茯苓4.5 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 桂枝3.0 甘草3.0 生姜1.0
【方解】 本方は小柴胡湯と五苓散の構成生薬をそのまま合わせたもので、それぞれの作用が共存して感る。
【方意の幅および応用】
A 胸脇の熱証+水証:胸脇苦満・煩渇・尿不利を目標にする。
急慢性胃腸炎、熱射病、水瀉性下痢等の急性胃腸炎、慢性肝炎、肝硬変
急慢性腎炎、ネフローゼ症候群、妊娠中毒症、浮腫、クインケ浮腫
滲出性中耳炎、関節リウマチ加療中の蛋白尿
【参考】 *傷風、傷暑、瘧を治す。『得効方』
*此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇下利する者を治す。暑疫(夏の流行病、カゼや下痢)には別して効あり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方・四逆散・解労散などを慢性肝炎に用いる場合、硬い肝腫では別甲・檳榔子を加えるのが良い。 【症例】 出題と解答 脳腫瘍
患者は9歳の婦人。5歳のとき猛烈な頭痛を訴え、吐いたので名古屋の大学でみてもらったら脳腫瘍ということで手術を受けた。しかし、その後半年の間は同様の頭痛と吐き気を催していた。学校へはかろうじて通学していた。
昨年の11月より、眼瞼が下垂し、眼球が動かなくなり、耳も遠くなり、両手が細かに震え始めた。そこでまた名古屋の大学へつれて行くと、再発といわれ、4ヵ月間入院してコバルト療法を受けたが震えは増悪。東京で治療しようと上京した。都内の2ヵ所の大病院では、いずれも脳腫瘍と診断され、ダメであっても手術を要するといわれたという。
体は小さく、皮膚は全身蒼白で水ぶくれの状態。脈をみて驚いたことには、弓弦のように力があり、頻数で、こわいような脈。書物に出ている死脈の中の弾石の脈と思われるような脈状を呈している。腹は全体が膨満し、心下の反応過敏で右の季肋下部が特に敏感。わずかな圧を加えただけでも、顔をしかめて痛いという。舌は白苔あり、口渇を訴える。頻尿で20分に1回、量は多くない。診察を終えると、「ありがとう」といたいけにも礼をいう英で、気持ちはしっかりしている。
そこである古方の合方を用いました。また、兼用としてある粉薬を用いました。1ヵ月分を飲み終わって再び患者が来ました。今度は親に抱かれずに診察室へ一人で入って来ました。腹をみると前と違って圧しても痛くなく、食欲も出て来て、一般状態がかなり良くなって来ているのです。
聞くと20日分を飲み終わったころから、自ら進んで床をはなれて本を読むようになり、小便は2時間に1回ぐらい、眼球も動くようになって来たというのです。次の1ヵ月分の薬を与えました。すると患者がどうしても行きたいと学校へ行き始めたというのです。3回目の来院のときは、第2回目のときにまだ残っていた手の震えも治っており、以上合計2ヵ月間の服薬でかなり好転して来たことが認められました。これは今後どうなるか目下大いに期待を持ち、祈る気持ちでいます。以上に対して用いる処方はどのようにお考えでしょうか。
〔解答〕小柴胡湯合五苓湯(2名)、小柴胡湯合桂苓丸(2名)、苓桂朮甘湯(2名)、呉茱萸湯合柴胡桂枝湯(1名)、柴胡加竜骨牡蠣湯合五苓散(1名)、小柴胡湯合芍薬甘草湯(1名)。
〔出血者解答〕私の用いた処方は小柴胡湯と五苓散の合方でした。それは、腹証の上から、まず小柴胡湯を考え、頭痛を目標に五苓散を用いました。それと尿量は少ないが頻繁にあるというこ選か現、水毒体質と考えて小柴胡湯と五苓散の合方を用いたわけであります。兼用の粉薬ですが、私は脳腫瘍には山豆根を以前に何回か用いたことがありますので、今回も三豆根を1日1gを2回に分けて午前と午後に飲むようにしました。
矢数道明『漢方の臨床』11・11・22
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.294
(2) 小柴胡湯 合 五苓湯(柴苓湯)
小柴胡湯の証と五苓散の証と合併したもので、煩渇・下痢・暑中の疫病に多く用いられる。腎盂炎・腎炎・ネフローゼ・マラリアおよびその類似症などにも柴苓湯として用いることがある。
p.561
実腫のときには柴苓湯・分消湯・五苓湯・木防已湯等を用いるが、
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
柴苓湯(さいれいとう) <出典>得効方
<方剤構成>
柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 甘草
沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<方剤構成の意味>
小柴胡湯と五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
小柴胡湯の証(胸脇苦満があって,軽度の虚証と見られる場合)で五苓散の証(この場合は主として尿量減少と水分停滞傾向を目標とする。口渇もあるのを原則とするが,必須条件ではない。頭痛・嘔吐・下痢を伴うこともある)を兼ねる場合に用うべき方剤と言えよう。
<適応>
①腎炎・ネフローゼ,②肝炎で腹水を伴うもの,③急性腸炎(下痢)または胃炎(嘔吐)。潰瘍性大腸炎にもしばしば効を奏する。
ただし,小柴胡湯の証であることを前提とする。
その他,小柴胡湯を用いたい場合で,尿量減少やむくみがあれば,広く用いてよい。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
柴苓湯(さいれいとう)
健 ツ、カ
得効方(とくほうこう)
どんな人につかうか
吐き気や食欲不振があって、のどが渇き、浮腫(ふしゅ)などがあって、尿量の少ないものに用い、腎炎、肝硬変、下痢などに応用します。
目標となる症状
症 ①嘔気(おうき)。②食欲不振。③微熱。④口渇(こうかつ)。⑤口が苦(にが)い。⑥尿量の減少。⑦浮腫(ふしゅ)。⑧悪心(おしん)、嘔吐(おうと)。⑨下痢、腹痛。⑩頭痛。⑪めまい。⑫蛋白尿。
腹 季肋部(きろくぶ)に抵抗圧痛があり(胸脇苦満(きょうきょうくまん))、胃部をたたくとピチャピチャと水の音がし(胃内停水(いないていすい))、上腹部に軽い皮膚の盛り上がり(心下満(しんげまん))がある。
脈 弦(げん)を張ったような、なめらかな脈。
舌 白い薄い湿(しめ)った舌苔(ぜったい)。
どんな病気に効くか(適応症) 吐き気、食欲不振、のどの渇き、排尿が少ない人の、水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ。 急性腎炎、ネフローゼ、血管運動神経性浮腫、クインケ浮腫(ふしゅ)、感冒、肝硬変、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎、起立性調節障害、アレルギー性鼻炎、IgA腎症、ジュリング氏疱疹(ほうしん)状皮膚炎。
この薬の処方
柴胡7.0g 沢瀉(たくしゃ)、半夏(はんげ)各5.0g。黄芩(おうごん)、朮(じゅつ)、大棗(たいそう)、猪苓(ちょれい)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)各3.0g。甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)各2.0g。生姜(しょうきょう)1.0g。(小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)の合方)
この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。
②ツムラ柴苓湯(さいれいとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。
使い方のポイント
①小柴胡湯(しょうさいことう)(125頁)と五苓散(ごれいさん)(87頁)を合方したもので、小柴胡湯(しょうさいことう)が適応する症状があって、口渇と尿量の減少、浮腫(ふしゅ)、嘔吐(おうと)(水様の吐物、水逆(すいぎゃく))。下痢(水様性)。頭痛などの症状が加わった場合に広く応用されます。
②ネフローゼ症候群やリウマチなどの膠原病(こうげんびょう)に、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を使わなければならない場合に、柴苓湯(さいれいとう)を併用すると、ステロイド剤の効力を増強して、減量することが出来ます。又ステロイド剤の副作用防止にも役立っています。
③柴苓湯(さいれいとう)には利尿作用がありますが、現代医学の利尿剤(チアジト、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニソロン、デスラノシド、ジギタリス葉末)と比較しても、これらの利尿剤に劣らぬ利尿作用があり、尿量の増加が認められます。
現代医学の利尿剤では、血液中のカリウムの喪失がありますが、柴苓湯(さいれいとう)ではカリウムの喪失が少なく、腎臓に対する作用の仕方は、腎血流量を増加させることが考えられます。
④漢方のエキス剤が普及してから、色色な病気に柴苓湯(さいれいとう)が応用されるようになりましたが、現代医学で治りにくい、アレルギー性鼻炎、滲出性中耳炎、IgA腎症(腎臓の系球体にIgA抗体が沈着しておこる病気で、蛋白尿や血尿で発見されることが多い、そんなに悪性の病気ではない)、起立性調節障害、ジューリング氏疱疹状皮膚炎などが良くなったという症例が報告されています。
処方の解説
柴苓湯(さいれいとう)は小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を合方したもので、それぞれの作用の複合と考えてよいものです。
小柴胡湯を形成しているDL分のうち柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)は、情緒的に抑鬱(よくうつ)状態におちいり、自律神経の緊張が加わった状態(肝気鬱血)を治す疎肝解鬱(そかんげうつ)の効果があって、嘔気や咳(せき)をとめる効果があります。
五苓散(ごれいさん)も構成する生薬のうちの、朮、茯苓、猪苓、沢瀉はいずれも、水分代謝をよくする効果があり、同時に、胃腸を丈夫にし、気を補い(補気健脾ほきけんぴ))、気持と安定させる(安神)効果があります。小柴胡湯(しょうさいことう)の一部である人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)にも同様の補気健脾胃、安神(あんしん)の効果があり、分泌を促進する効果もあります。
小柴胡湯の黄芩(おうごん)は、充血を緩解(かんかい)し、興奮を鎮静させる瀉火(しゃか)作用があり、五苓散(ごれいさん)の桂枝(けいし)は、気をめぐらし、身体を温める効果があります。
※プレドニソロン? → プレドニゾロン
※IgA腎症(腎臓の系球体? → IgA腎症(腎臓の糸球体
『重要処方解説(98)』
柴苓湯(サイレイトウ) 日本東洋医学会評議員 藤井 美樹
■出典・構成生薬・薬能薬理
柴苓湯(サイレイトウ)の出典は,中国,元時代の人,危亦林(きえきりん)の撰した『世医得效方(せいとくこうほう』巻2(1337年)です。
これは2つの処方の合方です。つまり小柴胡湯(ショウサイコトウ)と五苓散(ゴレイサン),あるいは五苓散料(ゴレイサンリョウ)(湯(トウ))の合方です。処方の内容は,柴胡(サイコ),半夏(ハンゲ),生姜(ショウキョウ),黄芩(オウゴン),大棗(タイソウ),人参(ニンジン),甘草(カンゾウ)(以上が小柴胡湯),沢瀉(タクシャ),猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),白朮(ビャクジュツ),桂皮(ケイヒ)(以上が五苓散)の12味になります。
柴胡はサイコの根で,薬能は胸脇苦満(季肋下部の重苦しい感じ,および同部の抵抗,圧痛)を主治し,往来寒熱(発熱したり悪寒がしたり交互にくる),腹中痛,脇下痞硬をも治すとされています。薬理学的には,サイコサポニンなどを含み,中枢抑制,抗炎症,解熱,利尿,抗潰瘍作用などが知られています。
半夏はサトイモ科のカラスビシャクの周皮を除いた塊茎で,薬能として痰飲,嘔吐を主治し,心痛,逆満,咽中痛,咳,悸,腹中雷鳴をも治すとされています。成分としてはhomogenistic acidなどが含まれ、鎮吐,鎮静,去痰などを目標に悪心,嘔吐などに用います。
生姜はショウガの根茎で,嘔を主治するとされます。辛味成分はジンゲロール,ショウガオールを含み,鎮嘔,鎮咳,食欲増始に用います。
黄芩はコガネバナの周皮を除いた根で,薬能は心下痞(みぞちのつかえ)を主治し,胸脇満、嘔吐,下利をも治すとされています。成分としてオウゴニン,バイカリン,オロキシリンなどを含み,消炎性解熱薬として嘔吐,腹痛,下痢などに用います。
大棗はナツメの果実で,緩和,強壮,利尿薬で,筋肉の急迫症状,牽引痛,知覚過敏を緩解し,咳嗽,煩躁,身体疼痛,腹痛などをも治すとされます。成分としては糖質,粘液質,リンゴ酸塩,酒石酸塩などが含まれています。そして水エキスには中枢抑制作用があり,エタノールエキスには抗アレルギー作用があることがわかりました。
人参はオタネニンジンの根で,薬能は心下痞堅,痞硬,支結を主治するとされ,また不食(食欲不振),嘔吐,喜唾(しばしばつばをはく),心痛(胸のあたりの痛み),腹痛,煩悸などで,薬理作用として水エキスには血糖下降,RNA合成促進作用があり,含水エタノールエキスにはコリン性増強,血圧下降,血糖下降,副腎皮質機能増強作用があり,ジンセノサイドRb群には中枢抑制作用があり,Rg群には中枢興奮作用があることがわかりました。
甘草はマメ科の多年草カンゾウの根であり,薬能は急迫を主治し,故に裏急,急痛,攣急を治すとされています。成分としては,甘味成分のサポニンであるグリチルリチンを含み,その他,糖分,苦味質などを含んでいます。水エキスには鎮咳,抗消化性潰瘍,抗高脂血症,平滑筋弛緩作用などがあり,グリチルリチンには電解質ホルモン様作用,糖質ホルモン様作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用などがあることが知られています。急迫症状の緩和,解毒,痙攣性筋肉痛,腹痛,咳嗽などに用います。
沢瀉はサジオモダカの塊茎で,薬能は小便不利(尿が快通しない)して冒眩(めまい)するのを主治し,渇をも治すとされています。成分はトリテルペノイド,その他澱粉,蛋白質などであり,利尿作用,抗脂肪肝,抗高脂血症,肝障害予防作用などが知られています。
猪苓はチョレイマイタケの菌核で,薬能は渇して小便不利するのを主治するとされています。成分は多糖類,ステロイドなどがあり,水エキスに利尿作用があり,利尿,消炎,水腫に用いられています。
茯苓はマツホドの菌核で,薬能は悸および肉瞤筋惕(にくじゅんきんてき)(筋肉の間代性痙攣でピクピク動くこと)を主治し,かたわら小便不利,頭眩,煩躁を治すとされています。成分はトリテルペノイド,エルゴステロールなど,その水エキスには胃潰瘍予防,血糖降下作用が知られています。利尿,健胃,整腸の作用を応用します。
白朮はオケラの根茎で,『薬徴』には朮として,「水を利するを主るなり。故に能く小便の自利,不利を治す。身煩疼,痰飲,失精,眩冒,下利,喜唾を旁治す」とあります。白朮は成分としてアトラクチロンなどを含んでいて,水エキスには利尿,抗炎症,血糖下降,抗疲労作用などが知られています。健胃,整腸,利尿に応用します。
桂皮は桂樹などの樹皮で,薬能は衝逆を主治し,奔豚(ほんとん),頭痛,発熱,悪風,汗出でて身痛するをも治すとされています。桂皮の成分はケイアルデヒドには解熱,末梢血管拡張,胆汁分泌促進作用などが知られています。健胃,解熱を目標にして,発熱,頭痛,心悸亢進,四肢痛,胃腸障害に用います。
以上,柴苓湯を構成する12の生薬の薬能および薬理(成分)をのべました。
■古典における用い方
次に柴苓湯の原典における指示をみますと,「小柴胡湯と五苓散を合和し,柴苓湯と名づく。傷風,傷暑,瘧を治するに大効あり。毎服,薑(キョウ)三片,麦門冬(バクモンドウ)二十粒心を去り,地骨皮(ジコッピ)少許を煎じ温服す」とあります。傷風は,風の邪に傷られて発症する感冒様疾患で,傷暑は夏期に暑さに傷られておこる疾患であり,瘧はマラリア様疾患であると考えられます。あとで述べる『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』にみられるように,一般には,薑,麦門冬,地骨皮を去って用いられてきています。柴苓湯に関する先哲の論議の二,三をみてみましょう。
『方彙口訣(ほういくけつ)』瘧疾門の柴苓湯の条に,「此の方は小柴五苓の合方にして今時善く用ゆ効(ききめ)も大分に在るぞ。瘧の熱多く,口の渇き強く,頭痛して,小便の通じ悪きに妙なり」とあります。
『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』瘧疾門に「瘧疾初額の程は熱甚だしく,傷寒などのようなる者なり。夏の時,初秋の頃に是の如く煩う時は,多くは瘧に変ずると知るべし。(略)柴苓湯の類を大料にして用いて大いに汗を解すべし」。
『梧竹楼方函口訣(ごちくろうほうかんくけつ)』瘧類・柴苓湯の条に,「雑病,下痢,熱強く,赤子の糞の如きを下すに用ゆ。(略)痢にはあらず,泄瀉(せっしゃ)の類なり,夏月に此れ等の症多し」。
『医療衆方規矩大成(いりょうしゅうほうきくたいせい)』中湿門・五苓散の条に「傷寒三四日熱さしひきありて自利する者は,本方(五苓散)に小柴胡湯を合して姜棗を入れ柴苓湯と名く,一切の発熱して寒を憎むものには邪気,半は表,半は裡にあり,此の湯に宜し」。「瘧,寒熱ありて病の表裡陰陽にあること分ちがたきにもまた宜し」。「五苓散は湿瀉を治し,下部の湿(しつ)を退く。柴苓湯は瘧の寒熱を治す」。
『勿誤薬室方函口訣』柴苓湯の項此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇、下利する者を治す。暑疫には別して効あり」。煩渇はたえがたい渇で,暑疫は夏の流行病です。
次に薬方としての柴苓湯をみますと柴胡は黄芩の助けを得て胸脇部に働き,消炎,解熱の作用があり,胸脇部のうっ滞をよく通ずる効があり,半夏と生姜は悪心,嘔吐を止め,食欲を増進させ,柴胡,黄芩に協力します。人参,甘草,大棗は共同して胃の機能をたかめ,胸脇部の充塞感を緩解します。沢瀉,茯苓,白朮はひとしく胃腸内の停水を去り,尿量を増加させて,浮腫を去り,桂枝は表熱を去り,気の上衝を治し,他薬の利尿作用を助けると,解説されています。
■現代における用い方
さて,現代における柴苓湯を使用目標は,体力が中等度か,やや実している者で,小柴胡湯証と五苓散証が同時にあるものに用います。小柴胡湯の目標は,胸脇苦満,往来寒熱,口が苦い,食欲不振などであり,五苓散の目標は,口渇,尿量減少,浮腫,瀉痢などであります。
柴苓湯は,小柴胡湯の証があって,さらにのどが渇いて小水の出が悪く,水瀉性の下痢をする人に向くという処方であります。そして原典にありましたように,風にやぶられたり,暑さにやぶられたり,おこり(瘧)のように熱と寒さが交互に来るという状態,つまり熱が出ているわけですが,そういうものを治すというわけです。
もともとは夏の発熱,下痢に用いられた処方でしたが,肝臓疾患,腎臓疾患に用いられ,近年は耳鼻科領域,整形外科領域にも広く使用されてきています。応用としてネフローゼ症候群,慢性腎炎, 慢性肝炎,肝硬変,急性・慢性胃炎,暑気あたり,滲出性中耳炎,常習性頭痛などのほか,ステロイド剤と併用して,その減量や副作用の軽減などに役立つことが注目されております。
夏に消化器の働きが弱っていて,熱もあり,胃腸炎を起こし,水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります。 柴苓湯を使いますと,熱が下がって下痢もおさまってきます。水瀉性の下痢ですから,体から水分が出て行って,劇しく渇するのですが,この薬を飲みますと渇が次第に癒されます。
子供の場合に扁桃炎,のどの炎症から慢性腎炎になってなかなか治らないという場合があります。もちろん体の弱い子供は別ですが,中等度の体力があって今述べた症状当向現s慢性腎炎の場合に柴苓湯を使いますと,のどの炎症を起こすようなかぜをひくことが次 第に少なくなりますし,むくみも取れてきます。蛋白尿が減りにくいので,プレドニゾロンを併用している場合は,その量を減らすことができるようになります。このようによくかぜをひく慢性腎炎,ネフローゼに使います。
肝硬変で顔面の赤茶けたり,皮膚の特有の赤い斑点が出たり,また腹水が溜まってきて静脈が浮いてくるものに,柴苓湯を長期間使っておりますと,それらがだんだん取れてきます。肝硬変は非常にむずかしい病気ですが,試みる価値があると思います。
そのほか腎盂炎に使う場合があります。現代医学的に抗生物質を使ったり点滴を行って一応はおさまりますが,また体調によってたとえば体が疲れたり,睡眠不足をしたりすると,時に高熱を出し,腰背部が痛むといった症状が出てくることがあります。その場合,小柴胡湯が向いている体の場合には,柴苓湯を使うと腎盂炎が軽くすむようになりますし,そのうち腎盂炎を起こしにくくなってきます。普段蛋白が出ていたような人が出なくなるということもあります。
現在はマラリアは少なくなりましたが,戦後復員された方の中に外地でかかったマラリマの発作を起こす例に,小柴胡湯だけでよい場合もありましたが,症例によっては柴苓湯を使いました。もちろん現代医学の抗マラリア薬と併用すると,非常によい場合がありました。
鑑別としては,小柴胡湯(本方証に五苓散証のあるもの),五苓散(本方証に小柴胡湯証のあるもの),半夏瀉心湯〔心下痞(硬),腹鳴,下痢(しぶりばら)を目標とする〕,八味地黄丸(小便不利,軽い口渇,小腹不仁,身体下部の浮腫のあるもの),真武湯〔やせて生気が乏しい,手足冷え,下痢(水瀉性),めまい感,尿利減少〕などがあげられます。
柴苓湯との鑑別を考えた場合に,これは小柴胡湯と五苓散の合方ですから,基本的にはまず小柴胡湯の証があって,五苓散を使う証があるということを考えれば,柴苓湯は使えるのではないかと思います。繰り返し申しあげますが,小柴胡湯は,体力,体格中等の人で,胸脇苦満があり,往来寒熱(熱が出たり悪寒があったりすること)があって,かぜをひきやすい,場合によっては扁桃炎を起こすという患者に用います。
五苓散の古典的な証は,のどが渇いて小水の出が悪い場合です。口渇はあまり劇しくない場合でも使えますが,むくみのあることが利水剤が多く入っている五苓散の目標になります。浮腫は現代医学的にいろいろ調べても原因がわからない場合が多くありますが,五苓散を使ってみると,むくみがとれることがあります。扁桃炎をよく起こす,かぜをひくと熱を出しやすいというものには,五苓散単独よりも小柴胡湯と合方して柴苓湯として使うという方法をとります。
■症例提示
症例を申しあげます。昭和5年生まれ,某会社役員,以前から肝臓が悪く,治療を受けていましたが,仕事が忙しくゆっくり療養ができないし,なかなかよくなりません。そのうち腹が張るという自覚症状が出てきました。診察によって腹部膨満,静脈怒張し,臨床的には明らかに肝硬変の状態で,検査所見もそれを裏づける結果でした。定年までの数年間を何とか元気でいたいとの希望で,漢方治療を求めて2年前に来院しました。顔は赤ら顔,体格中等度,脈は特記すべきものはなく,腹部は膨満し,肝臓が腫れ,腹水が溜まっております。腹壁には静脈が浮いております。足の脛の部分を圧しますと,少しむくみがあります。
胸脇苦満が右に認められるので,迷うことなく柴苓湯を使いました。そうしますと,むくみが徐々にひくとともに全身的に元気になってきて,仕事が前よりできるようになったということで本人は希望を持って,治りきらなくてもこれより悪くならないようにと,現在なお服薬中ですが,顔の色艶もよくなり,自覚的に腹部が張らなくなり,他覚的にも腹部が少しずつ小さくなってきております。小康を得て,この状態から悪くならないように初診の時に本人が希望したごとく,定年まで何とか元気に過ごせるようになるのではないかと思っております。
もう1例は昭和3年生まれの男性,会社員です。この人も慢性肝炎の歴史が古く,勤務しながら現代医学の治療を受けておりましたが,元気が出ないし,時におなかの調子が悪くなるので,漢方治療を求めて来院しました。赤ら顔で元気そうにみえますが,肝臓は腫れており,各処に紅斑がみられます。持続した臨床データをみますと,肝硬変の疑いのある検査結果が出ております。この人にも柴苓湯を出しました。
現在ひき続き服薬中ですが,顔のいやな赤味は大分取れてきましたし,全身的に元気になってきまして,以前は会社から帰るとすぐに横になって安静にしていたそうですが,最近では体力がうちえきて,帰宅してからも自分の好きなことができるようになったとのことです。
第3例は,大正10年生まれの女性,茶道の先生です。第子もたくさんおられて忙しく,無理をするとかぜのような症状が出て,熱が出てのどが痛くなります。腎盂炎の持病があり,おなか,特に腰背部が痛くなり,茶会などのあとは寝込んでしまうのですが,持病で仕方がないと思っていたそうです。ある人の紹介で漢方治療を求めて来院しました。
この人も小柴胡湯証がありまして,時々,同時に腎盂腎炎起こすということがわかりましたので,小柴胡湯のほかに五苓湯(五苓散料)を合方して,柴苓湯として使いました。服薬しているうちに,無理をすると時々は熱が出て寝込むことはありましたが,約3年間服薬したころには腎盂炎という病気を忘れるくらい元気になり,以前より張り切ってお弟子さんの指導ができるようになって感謝されております。今は続けて服薬はしておりませんが,体を無理したような時に来院して,柴苓湯を服用す識という状態です。このような持病と思われていた病気が治るばかりでなく,元気になり,以前よりもいろいろなことができるようになるということは,漢方治療の特色ではないかと思います。
次の例は小学1年生の男児,発熱のあと慢性腎炎になったということで,一時は入院もしました。ネフローゼ型の腎炎で,蛋白がかなり出ており,どうしてもプレドニンを使わなければならない例ですが,長く服用することに対して,心配をして漢方治療を求めて来院しました。
時々熱を出し,のどを腫らすということで,まず小柴胡湯が考えられます。さらに蛋白がたくさん出ており,かぜをひくとむくみっぽくなるということで柴苓湯 にしました。柴苓湯を使い出しましてからは,かぜをひくことが少なくなり,プレドニンの量がわずかずつ減量できるようになりました。以前はプレドニンを少し減らすと蛋白が陽性に出ましたが,柴苓湯を併用するようになってからは,少しずつ減らしても蛋白が陽性にはならずにすむということです。来院当初は顔色がすぐれず,いかにもステロイド服用患者らしい独得な顔貌でしたが,柴苓湯を服用しているうちに少しずつひきしまってきて,何となくたくましくなってきたことが感じとられます。まだプレドニンから離脱できませんが,柴苓湯だけで治療が続けられることを望みながら現在服薬中です。
柴苓湯は応用範囲が広いので,最近の治験例も各科から報告されています。東北大学の池田勝久先生らは,難治性の滲出性中耳炎患者18例にツムラ柴苓湯を投与し,有効率72.4%で副作用もなく,ツムラ柴苓湯は滲出性中耳炎の薬物療法として臨床的に有用であると認めています。
藤田学園保健衛生大学の矢崎雄彦先生らは,小児ネフローゼ症候群患者の副腎皮質ステロイド剤からの離脱,減量あるいは同剤の副作用の軽減に柴苓湯が有効であることを報告しており,日赤医療センターの石井策史先生らの報告では,成人の慢性病炎患者の蛋白尿減少,ステロイド副作用の軽減に有効であると思われるということです。
また中勢総合病院の大萱稔先生,京都市身障者リハビリテーションセンター附属病院の田中大也先生らは,柴苓湯が慢性関節リウマチに有効であることを認めて報告しています。
また東京医科歯科大学の渡辺建介先生らは,副鼻腔炎術後の頬部腫脹に柴苓湯が有効であることを報告しています。
※心下痞(みぞちのつかえ)? → 心下痞(みぞおちのつかえ)の誤りか
※水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります?
→ 水瀉性のサッと下る下痢があるという場合が柴苓湯の適応になります
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。
[理由]
厚生省医薬安全局安全対策課長より通知された平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品の使用上の注意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。
2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと
[理由]〔2)3)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う
[理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはニンジン(人参)、ケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある 。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている 。
[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹部膨満感、腹痛、下痢、便秘等
[理由]
本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。
泌尿器:頻尿、排尿痛、血尿、残尿感、膀胱炎等
このような症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局安全課長より通知された平成5年9月27日付薬安第87号「医薬品の使用上の注 意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。
その他:全身倦怠感
[理由]
本剤によると思われる全身倦怠感が文献・学会で報告されているため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。
2014年6月2日月曜日
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう) の 効能・効果 と 副作用
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
健 ツ
本朝経験方
どんな人につかうか
猪苓湯(ちょれいとう)(160頁)に四物湯(しもつとう)(113頁)を合方したもので、猪苓湯(ちょれいとう)が効く病気で、ややこじれて長びいたものに用います。
目標となる症状
症 ①体力中等度。②頻尿、残尿感、排尿痛。③混濁尿、血尿、膿尿。④口渇。⑤胸苦しい(心煩)、不安感。⑥顔色が悪い。⑦冷え症。⑧胃腸虚弱の傾向がない。⑨慢性化した泌尿器疾患、あるいは反復しておこる泌尿器疾患。
腹 脈 舌 猪苓湯(ちょれいとう)にほぼ同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の、排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿(その他猪苓湯(ちょれいとう)の項を参照を参照)。
この薬の処方
猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、滑石(かっせき)、阿膠(あきょう)(以上猪苓湯(ちょれいとう))、地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)(以上四物湯(しもつとう))、各3.0g
この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。但し阿膠(あきょう)は後から滓(かす)をとって加える。
②ツムラ猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①昔は腎結核、膀胱結核によく用いたものですが、最近は治りにくい尿道炎や膀胱炎に用います。
②水分を負荷(ふか)したラットで、猪苓湯(ちょれいとう)は通常量では明らかに利尿作用を示すが、大量(二~四倍量)では利尿作用が現われない。有効量域が存在する。
③成長期のラットでチアジド、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニゾロン、デスラノシド、ジギタリス葉末などの現代利尿剤の効果と、猪苓湯(ちょれいとう)の利尿効果を比較すると、殆(ほとん)ど差がなかった。又猪苓湯(ちょれいとう)が、腎におけるナトリウムの能動輸送を抑制し、カリウム喪失に対する生体防御作用を示した。又、腎血流量増加が推定されている。猪苓湯(ちょれいとう)には蓚酸カルシウム結石形成を抑制し、又、腎機能の改善、慢性腎不全での電解質(Mg,K,Ca)の代謝を改善する効果がある。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
猪苓湯を使うべき状態で慢性化し,顔色も悪く,皮膚もカサカサしているような場合に,四物湯を合方して用いてよい場合がある。
芍薬が入るので排尿痛にもよく,排尿困難,残尿感,排尿痛,頻尿,血尿などを目標として用いられる。ただし,地黄が入っているので,胃腸弱者には不向きである。
『漢方医学』Vol.34 No.3 (2010年7月発行)
東京女子医科大学東洋医学研究所 稲木一元
漢方重要処方マニュアル
基礎と実践の手引き
猪苓湯合四物湯 ちょれいとうごうしもつとう
構成生薬/沢瀉,猪苓,茯苓,滑石,阿膠,当帰,芍薬,川芎,地黄
処方の特徴
1.猪苓湯合四物湯とは
猪苓湯合四物湯は,元来は血尿に用いる漢方薬であるが,現在は慢性再発性尿路感染症などに応用されることが多い.比較的長期にわたり尿路の愁訴が続く例に有用である。
2.臨床上の使用目標と応用
尿路感染症で症状が遷延する例,感染を反復する例に用いる.尿路結石で肉眼的血尿が続く例によい場合がある.顕微鏡的血尿以外に特別の所見のない例にも試みてよい.効果発現までに数週以上を要する例が多い.足先の冷えがポイントとなる.虚弱者では胃腸障害に注意が必要である.
論説
1.原典は本朝経験方
猪苓湯は『傷寒論』『金匱要略』を出典とする.『金匱要略』消渇小便利淋病篇に「脈浮,発熱し,渇して水を飲まんと欲し,小便利せざれば,猪苓湯之を主る」とあり,“淋病”すなわち現在の尿路感染症に用いている.四物湯は『和剤局方』婦人諸病門を出典とし,月経障害,妊娠中の不正出血,産後不調などに用いるとされる.この2処方の合方は中国医者に前例がなく,わが国で経験的に始まったものと思われるが,誰が最初に用いたのかは明らかでなく,本朝経験方とされる.しかし最初の用例と断定できないにしても,早い記載例は見出されている.
2.江戸期から明治初期の記載について
本間棗軒(1804-1872)は『瘍科秘録』(1837年自序)で,「血淋(血尿で排尿痛を伴うもの)は,黄連阿膠湯,竜胆瀉肝湯,猪苓湯などから撰用する.血尿の出ることが多いときには,犀角地黄湯,八味地黄丸,四物湯猪苓湯合方を用いる」という.棗軒は『内科秘録』(1864年初版)では,白濁(尿が白く濁ること)の治療法として,「原因は異なるけれども尿血(血尿),遺精,久淋(慢性尿路感染症),消渇(糖尿病)などの治療法から選用する.長年の自分の経験では八味地黄丸で治った者が多い。しばしざ血尿となる者には猪苓湯と四物湯の合方を与える.頻尿で腹力のない者は補中益気湯である.諸治療が無効なときは清心蓮子飲などを試用するとよい」(抜粋)という.また「尿血(血尿)は猪苓湯と四物の合方でいったん治っても完治する者は少ない.鮮血が多く出て止まらないときは芎帰膠艾湯がよい.下腹部が軟らかくて冷え(小腹虚冷),頻尿で“血の偏虚する者”は八味地黄湯,“気の偏虚”する者は補中益気湯がよい.血尿は排尿痛がないのを常とするけれども,稀に陰茎の中が渋り痛み,頻尿で淋のようになる者がある.これには竜胆瀉肝湯などを撰用する」という.
幕末の浅田宗伯は『方読便覧』で「猪苓湯四物湯合方は血淋を治す」とのみ述べている.
3.近年の諸説
真柳によれば,大塚敬節・矢数道明・木村長久・清水藤太郎共著『漢方診療の実際』1941年版の腎臓結核に対する処方の筆頭に猪苓湯があり,「もし血尿著しいものには四物湯を合方する」と記されているという.筆者が直接確認しえた同書1954年改訂版では,腎結核の筆頭に四物湯合猪苓湯を挙げ,「膀胱障害を起こして尿意頻数,排尿時疼痛を主訴とするものに用いる.腎臓摘出後になお膀胱障害の残存しているものにも良く効く」と適応を拡げた記載がある.
大塚敬節自身は,「私がこの処方を腎,膀胱結核に用いるようになったのは,亡友,小出寿氏の経験にヒントを得てからである」と述べている.真柳は「現代に本方の応用を蘇らせたのは,やはり大塚敬節先生の貢献が大きかったと言うべきだろう」という.
鑑別
①猪苓湯(チョレイトウ)
膀胱炎で要鑑別.急性列に用いる.猪苓湯合四物湯は慢性再発例.
②芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)
血尿で要鑑別.血尿初期で出血の多い例に用いる.猪苓湯合四物湯は遷延している例に.いずれの場合でも原疾患検索が必須なのは言うまでもない.
③清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
慢性再発性膀胱炎で要鑑別.清心蓮子飲は胃腸虚弱者.猪苓湯合四物湯は胃腸虚弱ではない者に用いる.
④八味地黄丸(ハチミジオウガン)
慢性再発性膀胱炎で要鑑別.八味地黄丸は,中高年で腰痛や下肢痛をともなう例によい.猪苓湯合四物湯は方向炎症状のみで年齢を問わない.
⑤竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
膀胱炎で要鑑別.排尿痛,残尿感の強い例に用いる.猪苓湯合四物湯では症状は軽度.
『重要処方解説(96)』 北里研究所付属東洋医学総合研究所所長 大塚恭男
清心蓮子飲・猪苓湯合四物湯
■猪苓湯合四物湯・出典・構成生薬
本日のもう1つの主題である四物湯と猪苓湯の話をいたします。四物湯はいろいろは疾患に使いますが,またいろいろな名処方の中の一部分を構成している因子であるということでも特徴のある処方であります。四物湯は非常に簡単で,当帰(トウキ),芍薬(シャクヤク),川芎(センキュウ),地黄(ジオウ)という4味の処方であります。
『和剤局方』の婦人諸病門に出てきまして,条文は「営衛(気血と訳してもよいと思うが,体を中から守る機転と,環境から受ける障害に対して抵抗する機転)を調益し,気血を滋養し,衝任虚損(婦人の性器に関係するといわれる衝脈とか任脈が衰えた場合)、月水不調(月経不順)、臍腹䉘痛(おなかと臍のあたりが痛む),崩中漏下(月経異常),血瘕塊硬(婦人の性周期に関連する症状),疼痛を発歇し,妊娠宿冷,将理宜を失し,胎動して安からず,血下りて止まず,及び産後虚に乗じ,風寒内に博ち,悪露下らず,結して瘕聚を生じ,少腹(下腹部)堅痛,時に寒熱をなすを治す」とあります。ここに書いてあるのは,いずれも産婦人科領域のいろいろな症状,ないし疾患に関して述べているものでありまして,産婦人科領域の基本方であるといえると思います。
ところが,最初にちょっと申しましたように,これは例えば十全大補湯とか,あるいは温清飲(ウンセイイン)といった,よく使われるいろいろな処方の中の構成因子になっているわけで,最近では私は婦人病で使う用途のほか,何か免硝がらみの,現代非常に問題になっているような疾患に使う処方の中の,1因子として大事なものてはないかと考えております。
一方の猪苓湯は非常に古い処方で,『傷寒論』,『金匱要略』に出てきますが,猪苓(チョレイ),茯苓,滑石(カッセキ),沢瀉(タクシャ),阿膠(アキョウ)から構成されております。
『傷寒論』には「陽明病,脈浮にして緊,咽乾き,口苦く,腹満して喘し,発熱汗出で,悪寒せず。反って悪熱し,身重く,もし汗を発すればすなわち躁し,心憒憒として反って讝語す。もし脈浮発熱,渇して水を飲まんと欲し,小便不利する者は,猪苓湯これを主る」とあります。咽が乾いて水が飲みたい,しかも小便が出ないという者は猪苓湯が行くということであります。
さらに少陰病篇には「少陰病,下痢六,七日,咳して咽渇し,心煩眠るを得ざる者(何か胸苦しくなって眠ることができない者)は,猪苓湯これを主る」とあります。
■古典・現代における用い方
四物湯について,浅田宗伯先生の『勿誤薬室方函口訣』にはちょっと面白いことが書いてあります。「この方は『局方』の主治にて薬品を勘考するに,血道を滑らかにするの手段なり。それ故,血虚はもちろん、瘀血血塊の類,臍腹に滞積して種々の害を為す者に用ゆれば,たとえば戸障子の開闔(開閉)にきしむもの(うまく開かないもの)に,上下の溝へ油をぬるごとく,活血して通利を付くるなり」とあります。これは非常にうまい表現で,物事がうまく運ばない場合にうまく運ばせてやるということで,必ずしも産婦人科領域ばかりでなく,一般の疾患に対応する四物湯の役割として,非常によく言い得ていると思います。そのものに大変効くわけではないのですが,ほかのものを使ってそれを滑らかに進行させる,戸障子がきしむのを素直に動くようにさせてやるというのは,,非常に名言だと思います。
そして「一概に血虚を補うとなすは非なり。東郭(和田東郭(わだとうかく))の説に,任脈動悸を発し、水分の穴にあたりて動築最も激しき者は,肝虚の症に疑なし。肝虚すれば腎もともに虚し,男女に限らず必ずこの処の動悸劇しくなる者なり。これすなわち地黄を用うる標的となす」とあります。
四物湯はですから婦人病,あるいは必ずしも産婦人科に限らず,泌尿器領域にも非常によく使われるが,さらにいえば免疫からみの,いろいろなむずかしい現代的な病気に対応すると思われる十全大補湯,あるいは猪苓湯などの構成因子として非常に大きな役割を果たしているということがいえるのではないかと思います。
猪苓湯については『勿誤薬室方函口訣』に,「この方は下焦の畜熱,利尿の専剤とす。もし上焦に邪あり、或は表熱すれば、五苓散(ゴレイサン)の証とす。およそ利尿の品は津液の泌別を主とす。故に二方ともによく下利を治す(五苓散との比較)。ただ,その位異なるのみ。この方下焦を主とする故に,淋疾或は尿血を治す」とあります。下焦の方が主なる作用点である,ですから淋疾とか,尿血(血尿)を治すということです。「その他,水腫実に属する者(実証に属する水腫),および下部水気有って,呼吸常のごとくなる者に用いてよく功を奏す」とあります。
四物湯は婦人科領域,泌尿器科領域によいのでありますが,猪苓湯も下焦ということで,これは産婦人科領域というよりは泌尿器科領域で,どちらかといえば炎症的な因子を含むような疾患,いわゆる前立腺肥大のようなものではなくて,膀胱炎とか尿道炎といった炎症的なニュアンスのある尿路の障害で,尿が出にくいものに使います。昔は何でも小便が出渋るものを全部淋といったわけでありまして,その中には尿路結石とか様々なものが含まれていたと思いますが,昔にいう淋に非常によく使われたのであります。猪苓湯は尿路の疾患に用いることが多々ありますが,四物湯単独で尿路の疾患に用いることは少ないのであります。
猪苓湯合四物湯は,どちらかといえば急性の症状に使うことが多いと思います。急性の症状でも同じく尿路に効くものでは,たとえば大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)のようなものとの鑑別が必要になります。大黄牡丹皮湯の行くような場合は,症状が非常に激しく,排尿時の痛みが猛烈に強く,激しい血膿尿が降りるようなものに,実によく奏効することがあります。このような場合には猪苓湯はちょっと向きません。私もたとえば抗生物質などを使ったあとで,なおかつそのような症状が強い場合に,大黄牡丹皮湯で実際に著効を示した例を持っております。
猪苓湯合四物湯はそのような場合ではなくて,それほど強くないがしぶといといった症状,ちょっとよくなってはまた悪くなる,しかも抗生物質などを用いるとたちまちよくなるが,止めるとまた悪くなる,ただ抗生物質をずっと続けているわけにはいかないという場合で,比較的長期に連用するのには向いております。長期に連用して慢性症状を根治するという意味では,この猪苓湯合四物湯は非常に優れた処方だと思います。
■症例提示
たくさんの症例が報告されておりますが,私の最近の1例ですが,冷え症の中年の女性で始終膀胱炎が起きまして,そのつど抗生物質を使い,使うとすぐによくなるが,止めるとすぐ悪くなるということでした。その方に猪苓湯合四物湯を比較的長く使ってもらうことにしました。抗生物質ですと長期に使うわけにもいきませんが,猪苓湯合四物湯なら一ヵ月や2ヵ月使っても何ともないので,症状がとれてもなお使っていただくことで,膀胱炎なり尿道炎が出にくいような体質に持っていくのに役立つような気持がいたします。現在はそのようなケースが大変多くて,婦人の慢性の膀胱炎とか,尿道炎には非常に便利な,使いやすい処方の1つであると思っております。
最近の研究として,尿路不定愁訴に対する治験成績をご紹介します。大阪鉄道病院の堀井明範先生らの報告では,30例(男4例,女26例)に猪苓湯,猪苓湯合四物湯を投与し,総合有効率が猪苓湯76.0%,猪苓湯合四物湯80%であったということです。
和歌山県立医科大学の大川順正先生は,前立腺肥大症,尿路結石症,下部尿路不定愁訴などの尿路系疾患に,五淋散,八味地黄丸,当帰芍薬散,猪苓湯,猪苓湯合四物湯などをそれぞれ使い分けて,77.7%に下部尿路不定愁訴の改善を認めています。猪苓湯合四物湯の有用性は,プラセボ群と比較検討し,極めて有用8.5%,有用14.3%,やや有用27.7%であり,すぐれた有効率が示されたと報告しています。
※䉘:(病-丙)+(巧-エ)
※あるいは猪苓湯などの構成因子として? 猪苓湯は温清飲の間違い?
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
特になし
2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等
[理由] 本剤には地黄(ジオウ) ・川芎(センキュウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
[処置方法] 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
木下繁太朗 新星出版社刊
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
健 ツ
本朝経験方
どんな人につかうか
猪苓湯(ちょれいとう)(160頁)に四物湯(しもつとう)(113頁)を合方したもので、猪苓湯(ちょれいとう)が効く病気で、ややこじれて長びいたものに用います。
目標となる症状
症 ①体力中等度。②頻尿、残尿感、排尿痛。③混濁尿、血尿、膿尿。④口渇。⑤胸苦しい(心煩)、不安感。⑥顔色が悪い。⑦冷え症。⑧胃腸虚弱の傾向がない。⑨慢性化した泌尿器疾患、あるいは反復しておこる泌尿器疾患。
腹 脈 舌 猪苓湯(ちょれいとう)にほぼ同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の、排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿(その他猪苓湯(ちょれいとう)の項を参照を参照)。
この薬の処方
猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、滑石(かっせき)、阿膠(あきょう)(以上猪苓湯(ちょれいとう))、地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)(以上四物湯(しもつとう))、各3.0g
この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。但し阿膠(あきょう)は後から滓(かす)をとって加える。
②ツムラ猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①昔は腎結核、膀胱結核によく用いたものですが、最近は治りにくい尿道炎や膀胱炎に用います。
②水分を負荷(ふか)したラットで、猪苓湯(ちょれいとう)は通常量では明らかに利尿作用を示すが、大量(二~四倍量)では利尿作用が現われない。有効量域が存在する。
③成長期のラットでチアジド、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニゾロン、デスラノシド、ジギタリス葉末などの現代利尿剤の効果と、猪苓湯(ちょれいとう)の利尿効果を比較すると、殆(ほとん)ど差がなかった。又猪苓湯(ちょれいとう)が、腎におけるナトリウムの能動輸送を抑制し、カリウム喪失に対する生体防御作用を示した。又、腎血流量増加が推定されている。猪苓湯(ちょれいとう)には蓚酸カルシウム結石形成を抑制し、又、腎機能の改善、慢性腎不全での電解質(Mg,K,Ca)の代謝を改善する効果がある。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
猪苓湯を使うべき状態で慢性化し,顔色も悪く,皮膚もカサカサしているような場合に,四物湯を合方して用いてよい場合がある。
芍薬が入るので排尿痛にもよく,排尿困難,残尿感,排尿痛,頻尿,血尿などを目標として用いられる。ただし,地黄が入っているので,胃腸弱者には不向きである。
『漢方医学』Vol.34 No.3 (2010年7月発行)
東京女子医科大学東洋医学研究所 稲木一元
漢方重要処方マニュアル
基礎と実践の手引き
猪苓湯合四物湯 ちょれいとうごうしもつとう
構成生薬/沢瀉,猪苓,茯苓,滑石,阿膠,当帰,芍薬,川芎,地黄
処方の特徴
1.猪苓湯合四物湯とは
猪苓湯合四物湯は,元来は血尿に用いる漢方薬であるが,現在は慢性再発性尿路感染症などに応用されることが多い.比較的長期にわたり尿路の愁訴が続く例に有用である。
2.臨床上の使用目標と応用
尿路感染症で症状が遷延する例,感染を反復する例に用いる.尿路結石で肉眼的血尿が続く例によい場合がある.顕微鏡的血尿以外に特別の所見のない例にも試みてよい.効果発現までに数週以上を要する例が多い.足先の冷えがポイントとなる.虚弱者では胃腸障害に注意が必要である.
論説
1.原典は本朝経験方
猪苓湯は『傷寒論』『金匱要略』を出典とする.『金匱要略』消渇小便利淋病篇に「脈浮,発熱し,渇して水を飲まんと欲し,小便利せざれば,猪苓湯之を主る」とあり,“淋病”すなわち現在の尿路感染症に用いている.四物湯は『和剤局方』婦人諸病門を出典とし,月経障害,妊娠中の不正出血,産後不調などに用いるとされる.この2処方の合方は中国医者に前例がなく,わが国で経験的に始まったものと思われるが,誰が最初に用いたのかは明らかでなく,本朝経験方とされる.しかし最初の用例と断定できないにしても,早い記載例は見出されている.
2.江戸期から明治初期の記載について
本間棗軒(1804-1872)は『瘍科秘録』(1837年自序)で,「血淋(血尿で排尿痛を伴うもの)は,黄連阿膠湯,竜胆瀉肝湯,猪苓湯などから撰用する.血尿の出ることが多いときには,犀角地黄湯,八味地黄丸,四物湯猪苓湯合方を用いる」という.棗軒は『内科秘録』(1864年初版)では,白濁(尿が白く濁ること)の治療法として,「原因は異なるけれども尿血(血尿),遺精,久淋(慢性尿路感染症),消渇(糖尿病)などの治療法から選用する.長年の自分の経験では八味地黄丸で治った者が多い。しばしざ血尿となる者には猪苓湯と四物湯の合方を与える.頻尿で腹力のない者は補中益気湯である.諸治療が無効なときは清心蓮子飲などを試用するとよい」(抜粋)という.また「尿血(血尿)は猪苓湯と四物の合方でいったん治っても完治する者は少ない.鮮血が多く出て止まらないときは芎帰膠艾湯がよい.下腹部が軟らかくて冷え(小腹虚冷),頻尿で“血の偏虚する者”は八味地黄湯,“気の偏虚”する者は補中益気湯がよい.血尿は排尿痛がないのを常とするけれども,稀に陰茎の中が渋り痛み,頻尿で淋のようになる者がある.これには竜胆瀉肝湯などを撰用する」という.
幕末の浅田宗伯は『方読便覧』で「猪苓湯四物湯合方は血淋を治す」とのみ述べている.
3.近年の諸説
真柳によれば,大塚敬節・矢数道明・木村長久・清水藤太郎共著『漢方診療の実際』1941年版の腎臓結核に対する処方の筆頭に猪苓湯があり,「もし血尿著しいものには四物湯を合方する」と記されているという.筆者が直接確認しえた同書1954年改訂版では,腎結核の筆頭に四物湯合猪苓湯を挙げ,「膀胱障害を起こして尿意頻数,排尿時疼痛を主訴とするものに用いる.腎臓摘出後になお膀胱障害の残存しているものにも良く効く」と適応を拡げた記載がある.
大塚敬節自身は,「私がこの処方を腎,膀胱結核に用いるようになったのは,亡友,小出寿氏の経験にヒントを得てからである」と述べている.真柳は「現代に本方の応用を蘇らせたのは,やはり大塚敬節先生の貢献が大きかったと言うべきだろう」という.
鑑別
①猪苓湯(チョレイトウ)
膀胱炎で要鑑別.急性列に用いる.猪苓湯合四物湯は慢性再発例.
②芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)
血尿で要鑑別.血尿初期で出血の多い例に用いる.猪苓湯合四物湯は遷延している例に.いずれの場合でも原疾患検索が必須なのは言うまでもない.
③清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
慢性再発性膀胱炎で要鑑別.清心蓮子飲は胃腸虚弱者.猪苓湯合四物湯は胃腸虚弱ではない者に用いる.
④八味地黄丸(ハチミジオウガン)
慢性再発性膀胱炎で要鑑別.八味地黄丸は,中高年で腰痛や下肢痛をともなう例によい.猪苓湯合四物湯は方向炎症状のみで年齢を問わない.
⑤竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
膀胱炎で要鑑別.排尿痛,残尿感の強い例に用いる.猪苓湯合四物湯では症状は軽度.
『重要処方解説(96)』 北里研究所付属東洋医学総合研究所所長 大塚恭男
清心蓮子飲・猪苓湯合四物湯
■猪苓湯合四物湯・出典・構成生薬
本日のもう1つの主題である四物湯と猪苓湯の話をいたします。四物湯はいろいろは疾患に使いますが,またいろいろな名処方の中の一部分を構成している因子であるということでも特徴のある処方であります。四物湯は非常に簡単で,当帰(トウキ),芍薬(シャクヤク),川芎(センキュウ),地黄(ジオウ)という4味の処方であります。
『和剤局方』の婦人諸病門に出てきまして,条文は「営衛(気血と訳してもよいと思うが,体を中から守る機転と,環境から受ける障害に対して抵抗する機転)を調益し,気血を滋養し,衝任虚損(婦人の性器に関係するといわれる衝脈とか任脈が衰えた場合)、月水不調(月経不順)、臍腹䉘痛(おなかと臍のあたりが痛む),崩中漏下(月経異常),血瘕塊硬(婦人の性周期に関連する症状),疼痛を発歇し,妊娠宿冷,将理宜を失し,胎動して安からず,血下りて止まず,及び産後虚に乗じ,風寒内に博ち,悪露下らず,結して瘕聚を生じ,少腹(下腹部)堅痛,時に寒熱をなすを治す」とあります。ここに書いてあるのは,いずれも産婦人科領域のいろいろな症状,ないし疾患に関して述べているものでありまして,産婦人科領域の基本方であるといえると思います。
ところが,最初にちょっと申しましたように,これは例えば十全大補湯とか,あるいは温清飲(ウンセイイン)といった,よく使われるいろいろな処方の中の構成因子になっているわけで,最近では私は婦人病で使う用途のほか,何か免硝がらみの,現代非常に問題になっているような疾患に使う処方の中の,1因子として大事なものてはないかと考えております。
一方の猪苓湯は非常に古い処方で,『傷寒論』,『金匱要略』に出てきますが,猪苓(チョレイ),茯苓,滑石(カッセキ),沢瀉(タクシャ),阿膠(アキョウ)から構成されております。
『傷寒論』には「陽明病,脈浮にして緊,咽乾き,口苦く,腹満して喘し,発熱汗出で,悪寒せず。反って悪熱し,身重く,もし汗を発すればすなわち躁し,心憒憒として反って讝語す。もし脈浮発熱,渇して水を飲まんと欲し,小便不利する者は,猪苓湯これを主る」とあります。咽が乾いて水が飲みたい,しかも小便が出ないという者は猪苓湯が行くということであります。
さらに少陰病篇には「少陰病,下痢六,七日,咳して咽渇し,心煩眠るを得ざる者(何か胸苦しくなって眠ることができない者)は,猪苓湯これを主る」とあります。
■古典・現代における用い方
四物湯について,浅田宗伯先生の『勿誤薬室方函口訣』にはちょっと面白いことが書いてあります。「この方は『局方』の主治にて薬品を勘考するに,血道を滑らかにするの手段なり。それ故,血虚はもちろん、瘀血血塊の類,臍腹に滞積して種々の害を為す者に用ゆれば,たとえば戸障子の開闔(開閉)にきしむもの(うまく開かないもの)に,上下の溝へ油をぬるごとく,活血して通利を付くるなり」とあります。これは非常にうまい表現で,物事がうまく運ばない場合にうまく運ばせてやるということで,必ずしも産婦人科領域ばかりでなく,一般の疾患に対応する四物湯の役割として,非常によく言い得ていると思います。そのものに大変効くわけではないのですが,ほかのものを使ってそれを滑らかに進行させる,戸障子がきしむのを素直に動くようにさせてやるというのは,,非常に名言だと思います。
そして「一概に血虚を補うとなすは非なり。東郭(和田東郭(わだとうかく))の説に,任脈動悸を発し、水分の穴にあたりて動築最も激しき者は,肝虚の症に疑なし。肝虚すれば腎もともに虚し,男女に限らず必ずこの処の動悸劇しくなる者なり。これすなわち地黄を用うる標的となす」とあります。
四物湯はですから婦人病,あるいは必ずしも産婦人科に限らず,泌尿器領域にも非常によく使われるが,さらにいえば免疫からみの,いろいろなむずかしい現代的な病気に対応すると思われる十全大補湯,あるいは猪苓湯などの構成因子として非常に大きな役割を果たしているということがいえるのではないかと思います。
猪苓湯については『勿誤薬室方函口訣』に,「この方は下焦の畜熱,利尿の専剤とす。もし上焦に邪あり、或は表熱すれば、五苓散(ゴレイサン)の証とす。およそ利尿の品は津液の泌別を主とす。故に二方ともによく下利を治す(五苓散との比較)。ただ,その位異なるのみ。この方下焦を主とする故に,淋疾或は尿血を治す」とあります。下焦の方が主なる作用点である,ですから淋疾とか,尿血(血尿)を治すということです。「その他,水腫実に属する者(実証に属する水腫),および下部水気有って,呼吸常のごとくなる者に用いてよく功を奏す」とあります。
四物湯は婦人科領域,泌尿器科領域によいのでありますが,猪苓湯も下焦ということで,これは産婦人科領域というよりは泌尿器科領域で,どちらかといえば炎症的な因子を含むような疾患,いわゆる前立腺肥大のようなものではなくて,膀胱炎とか尿道炎といった炎症的なニュアンスのある尿路の障害で,尿が出にくいものに使います。昔は何でも小便が出渋るものを全部淋といったわけでありまして,その中には尿路結石とか様々なものが含まれていたと思いますが,昔にいう淋に非常によく使われたのであります。猪苓湯は尿路の疾患に用いることが多々ありますが,四物湯単独で尿路の疾患に用いることは少ないのであります。
猪苓湯合四物湯は,どちらかといえば急性の症状に使うことが多いと思います。急性の症状でも同じく尿路に効くものでは,たとえば大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)のようなものとの鑑別が必要になります。大黄牡丹皮湯の行くような場合は,症状が非常に激しく,排尿時の痛みが猛烈に強く,激しい血膿尿が降りるようなものに,実によく奏効することがあります。このような場合には猪苓湯はちょっと向きません。私もたとえば抗生物質などを使ったあとで,なおかつそのような症状が強い場合に,大黄牡丹皮湯で実際に著効を示した例を持っております。
猪苓湯合四物湯はそのような場合ではなくて,それほど強くないがしぶといといった症状,ちょっとよくなってはまた悪くなる,しかも抗生物質などを用いるとたちまちよくなるが,止めるとまた悪くなる,ただ抗生物質をずっと続けているわけにはいかないという場合で,比較的長期に連用するのには向いております。長期に連用して慢性症状を根治するという意味では,この猪苓湯合四物湯は非常に優れた処方だと思います。
■症例提示
たくさんの症例が報告されておりますが,私の最近の1例ですが,冷え症の中年の女性で始終膀胱炎が起きまして,そのつど抗生物質を使い,使うとすぐによくなるが,止めるとすぐ悪くなるということでした。その方に猪苓湯合四物湯を比較的長く使ってもらうことにしました。抗生物質ですと長期に使うわけにもいきませんが,猪苓湯合四物湯なら一ヵ月や2ヵ月使っても何ともないので,症状がとれてもなお使っていただくことで,膀胱炎なり尿道炎が出にくいような体質に持っていくのに役立つような気持がいたします。現在はそのようなケースが大変多くて,婦人の慢性の膀胱炎とか,尿道炎には非常に便利な,使いやすい処方の1つであると思っております。
最近の研究として,尿路不定愁訴に対する治験成績をご紹介します。大阪鉄道病院の堀井明範先生らの報告では,30例(男4例,女26例)に猪苓湯,猪苓湯合四物湯を投与し,総合有効率が猪苓湯76.0%,猪苓湯合四物湯80%であったということです。
和歌山県立医科大学の大川順正先生は,前立腺肥大症,尿路結石症,下部尿路不定愁訴などの尿路系疾患に,五淋散,八味地黄丸,当帰芍薬散,猪苓湯,猪苓湯合四物湯などをそれぞれ使い分けて,77.7%に下部尿路不定愁訴の改善を認めています。猪苓湯合四物湯の有用性は,プラセボ群と比較検討し,極めて有用8.5%,有用14.3%,やや有用27.7%であり,すぐれた有効率が示されたと報告しています。
※䉘:(病-丙)+(巧-エ)
※あるいは猪苓湯などの構成因子として? 猪苓湯は温清飲の間違い?
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
特になし
2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等
[理由] 本剤には地黄(ジオウ) ・川芎(センキュウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
[処置方法] 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2014年6月1日日曜日
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん) の 効能・効果 と 副作用
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
健 建、ツ
金匱要略
どんな人につかうか
体力中程度以上の人で冷(ひ)えのぼせ、赤ら顔のことが多く,下腹部に抵抗圧痛を訴えるなどの瘀血(おけつ)(ふる血)の症状があり、肌あれ、しみ、そばかす、にきび、いぼなどの皮膚症状を伴ったり、頭痛、肩こり、めまい、のぼせ、足の冷え、月経の異常を伴う場合に用います。
(桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に薏苡仁(よくいにん)=はとむぎを加えたもの207頁参照)
目標となる症状
症 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)に同じ。その他に①肌あれ。②にきび。③しみ。④そばかす。⑤手足のあれ。⑥いぼ(疣贅(ゆうぜい))。
腹 脈 舌 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
比袋的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷(ひ)えなどを訴えるものの、月経不順、血の道症、にきび、しみ、足手のあれ(その他桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)参照)。
この薬の処方
薏苡仁(よくいにん)10.0g 桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)各4.0g。
この薬の使い方
①前記処方を一日分として煎じてのむ。
②ツムラ桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)エキス顆粒(かりゅう)、成人1日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①桂枝茯苓丸に薏苡仁(よくいにん)(はとむぎ)を加えたもの。前述の皮膚症状のある時によく用い、美肌剤としても受用されています。
②薏苡仁(よくいにん)には消炎、排膿の効果があり、それを目標に使うこともあります。
③妊娠がはっきりしたときは、使ってはいけません。妊娠には使用禁忌です。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
桂枝茯苓丸料加薏苡仁(ケイシブクリョウガンリョウカヨクイニン)
桂枝茯苓丸を使うべき状態で,皮膚の荒れやニキビ・シミ・ソバカスのある場合に用いられる。最も普通には,月経不順のある比較的虚証の人の同様の症状に対して用いる。
『皮膚科漢方10処方Part2解説①』
大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学教授 石井 正光
桂枝茯苓丸加薏苡仁
国際名 keishibukuryogankayokuinin
◉コンプライアンスに優れる
この方剤は先はどの桂枝茯苓丸に薏苡仁を合わせたものであり,効能・効果に記載のある通り,桂枝茯苓丸の投与目標に加えて,にきび・しみ・手足のあれなどが記載されています。
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
◆構成生薬
ヨクイニン(薏苡仁),ケイヒ(桂皮),シャクヤク(芍薬),桃仁(トウニン),ブクリョウ(茯苓),ボタンピ(牡丹皮)
◆投与方法
7.5g/日を経口投与(通常食前または食間分3)
◆効能または効果(保険適応病名)
比較的体力があり,ときに下腹部痛,肩こり,頭痛,めまい,のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症:月経不順,血の道症,にきび,しみ,手足のあれ
◆皮膚科実地臨床における応用例
・桂枝茯苓丸が適応とたる諸疾患
・皮膚のかさつきや乾燥が目立つ場合
・脂漏性角化症
・疣贅
・肝斑や老人性色素斑なとのしみ
桂枝茯苓丸と薏苡仁製剤をそれぞれエキス剤として1日量投与するのは,保険診療上やや困難なうえ,内服量が多くなるので患者さんが全部飲んでくれない可能性もあります。その点で1日量7.5g中に10.0gというかならの量の薏苡仁から抽出されたエキスが配合されたこの方剤はとても使いやすく,コンプライアンスに優れた薬剤と思われます。
◉桂枝茯苓丸と薏苡仁の相乗効果
桂枝茯苓丸の証に加えて薏苡仁の証を考えればよいのですが,古来薏苡仁は上薬に分類されており,証にこだわらずに処方できるものとされています。桂枝茯苓丸に薏苡仁の作用が加わり相乗効果があると考えられますが,適応は桂枝茯苓丸の使用目標と同じでよいと考えられます。
薏苡仁には,水を巡らせ,抗炎症・抗ウイルス・抗角化効果があります。
また一方,瘀血状態からは皮膚の角化亢進が起こると考えられています(前出,山本談)。皮膚がかさつく・乾燥するなどの角化を伴う疾患群には使ってみる価値があると考えます。
◉大量内服には注意
これも,桂枝茯苓丸とほぼ同じですが,薏苡仁が腸管水分の吸収を促し,やや便秘傾向を訴える場合があります。また,薏苡仁の油脂成分があるため大量に内服すると尋常性痤瘡の一過性の悪化がみられることもあります。
『重要処方解説(94)』 日本東洋医学会評議員 青山廉平 先生
温経湯・桂枝茯苓丸加薏苡仁
次に桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)について簡単に申し上げます。
現在,一般用医薬品として210の漢方処方が承認されております。桂枝茯苓丸加薏苡仁もその中の1つであります。一般用医薬品は,広く一般消費者に使用されるものであり,これらの210の漢方処方はわが国で広く用いられている漢方の成書による基本処方,加減方,合方剤であります。
本方は,桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)に薏苡仁(ヨクイニン)を加えたものであります。桂枝茯苓丸についてはいうまでもありますが,駆瘀血剤としてもっとも汎用される処方の1つであります。虚実中等の人に,瘀血の腹証である下腹部の抵抗,圧痛,その他の瘀血の症状を目標として,月経不順,月経困難症,不妊症,子宮筋腫,骨盤内臓器の炎症,尿管結石,蕁麻疹などに広く用いられております。桂枝茯苓丸加薏苡仁の応用は,桂枝茯苓丸を用いる場合と同様でありますが,筋の緊張の強いもの,腫瘍などを目標として薏苡仁を加えるのであります。
薏苡仁はハトムギの種であり,『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』には上品として解蟸(カイレイ)という名で収載されております。『薬徴(やくちょう)』には「主治は浮腫なり」とあり,『重校薬徴(じゅうこうやくちょう)』にはこれを補足して「癰膿を主治し,浮腫,身疼を兼治す」となっております。また『古方薬議(こほうやくぎ)』には「痺閉を開き,瘀血を排す」とあります。『新古方薬嚢』では「薏苡仁,味甘,微寒,急を緩め,熱を消し、和をいたすの効あり。故に胸痛,肺癰,風湿,腸癰などに用いらる。また疣をとるの効あり」と述べられております。利水,利尿,鎮痛,鎮痙,排膿作用があり,浮腫,リウマチ,神経痛などの疼痛,下痢,化膿症などに用いられているのであります。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は,瘀血が原因で起こる皮膚の荒れ,にきび,肝斑,進行性手掌角皮症,うおのめ鞏皮症,子宮筋腫,乳腺症などに応用されております。
大塚敬節先生の症例を申し上げます。昭和18年生まれの女子学生。顔に粉瘤がたくさんあって,それが時々化膿する。大便は1日1行,月経順調,腹診するに左下腹部に瘀血の腹証としての抵抗,圧痛のある部位を証明する。桂枝茯苓丸加薏苡仁を投与,2週長の服用で瘀血の腹証が消失,4週間で粉瘤の大半が消え,2ヵ月後にはほぼ全治したと報告されております。
※粉瘤(アテローム、アテローマ)
皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)と皮膚の脂(皮脂)が、剥げ落ちずに袋の中にたまってしまってできた腫瘍の総称。
【一般用漢方製剤承認基準】
75 桂枝茯苓丸料加薏苡仁
〔成分・分量〕 桂皮3-4、茯苓4、牡丹皮3-4、桃仁4、芍薬4、薏苡仁10-20
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなど を訴えるものの次の諸症: にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症 注)
《備考》 注)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】
副作用
特になし
2) その他の副作
過敏症:発赤、発疹、掻痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、発赤、掻痒等の過敏症状があらわれるおそれがある。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:食欲不振、胃部不快感、下痢等
[理由]
本剤には薏苡仁(ヨクイニン)が含まれているため、胃部不快感、下痢等の消化器症状があらわれる おそれがある。
また、昭和58年4月22日付第21次再評価結果「ヨ クイニンエキス」を参考とした。
[処置方法] 原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
木下繁太朗 新星出版社刊
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
健 建、ツ
金匱要略
どんな人につかうか
体力中程度以上の人で冷(ひ)えのぼせ、赤ら顔のことが多く,下腹部に抵抗圧痛を訴えるなどの瘀血(おけつ)(ふる血)の症状があり、肌あれ、しみ、そばかす、にきび、いぼなどの皮膚症状を伴ったり、頭痛、肩こり、めまい、のぼせ、足の冷え、月経の異常を伴う場合に用います。
(桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に薏苡仁(よくいにん)=はとむぎを加えたもの207頁参照)
目標となる症状
症 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)に同じ。その他に①肌あれ。②にきび。③しみ。④そばかす。⑤手足のあれ。⑥いぼ(疣贅(ゆうぜい))。
腹 脈 舌 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
比袋的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷(ひ)えなどを訴えるものの、月経不順、血の道症、にきび、しみ、足手のあれ(その他桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)参照)。
この薬の処方
薏苡仁(よくいにん)10.0g 桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)各4.0g。
この薬の使い方
①前記処方を一日分として煎じてのむ。
②ツムラ桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)エキス顆粒(かりゅう)、成人1日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①桂枝茯苓丸に薏苡仁(よくいにん)(はとむぎ)を加えたもの。前述の皮膚症状のある時によく用い、美肌剤としても受用されています。
②薏苡仁(よくいにん)には消炎、排膿の効果があり、それを目標に使うこともあります。
③妊娠がはっきりしたときは、使ってはいけません。妊娠には使用禁忌です。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
桂枝茯苓丸料加薏苡仁(ケイシブクリョウガンリョウカヨクイニン)
桂枝茯苓丸を使うべき状態で,皮膚の荒れやニキビ・シミ・ソバカスのある場合に用いられる。最も普通には,月経不順のある比較的虚証の人の同様の症状に対して用いる。
『皮膚科漢方10処方Part2解説①』
大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学教授 石井 正光
桂枝茯苓丸加薏苡仁
国際名 keishibukuryogankayokuinin
◉コンプライアンスに優れる
この方剤は先はどの桂枝茯苓丸に薏苡仁を合わせたものであり,効能・効果に記載のある通り,桂枝茯苓丸の投与目標に加えて,にきび・しみ・手足のあれなどが記載されています。
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
◆構成生薬
ヨクイニン(薏苡仁),ケイヒ(桂皮),シャクヤク(芍薬),桃仁(トウニン),ブクリョウ(茯苓),ボタンピ(牡丹皮)
◆投与方法
7.5g/日を経口投与(通常食前または食間分3)
◆効能または効果(保険適応病名)
比較的体力があり,ときに下腹部痛,肩こり,頭痛,めまい,のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症:月経不順,血の道症,にきび,しみ,手足のあれ
◆皮膚科実地臨床における応用例
・桂枝茯苓丸が適応とたる諸疾患
・皮膚のかさつきや乾燥が目立つ場合
・脂漏性角化症
・疣贅
・肝斑や老人性色素斑なとのしみ
桂枝茯苓丸と薏苡仁製剤をそれぞれエキス剤として1日量投与するのは,保険診療上やや困難なうえ,内服量が多くなるので患者さんが全部飲んでくれない可能性もあります。その点で1日量7.5g中に10.0gというかならの量の薏苡仁から抽出されたエキスが配合されたこの方剤はとても使いやすく,コンプライアンスに優れた薬剤と思われます。
◉桂枝茯苓丸と薏苡仁の相乗効果
桂枝茯苓丸の証に加えて薏苡仁の証を考えればよいのですが,古来薏苡仁は上薬に分類されており,証にこだわらずに処方できるものとされています。桂枝茯苓丸に薏苡仁の作用が加わり相乗効果があると考えられますが,適応は桂枝茯苓丸の使用目標と同じでよいと考えられます。
薏苡仁には,水を巡らせ,抗炎症・抗ウイルス・抗角化効果があります。
また一方,瘀血状態からは皮膚の角化亢進が起こると考えられています(前出,山本談)。皮膚がかさつく・乾燥するなどの角化を伴う疾患群には使ってみる価値があると考えます。
◉大量内服には注意
これも,桂枝茯苓丸とほぼ同じですが,薏苡仁が腸管水分の吸収を促し,やや便秘傾向を訴える場合があります。また,薏苡仁の油脂成分があるため大量に内服すると尋常性痤瘡の一過性の悪化がみられることもあります。
『重要処方解説(94)』 日本東洋医学会評議員 青山廉平 先生
温経湯・桂枝茯苓丸加薏苡仁
次に桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)について簡単に申し上げます。
現在,一般用医薬品として210の漢方処方が承認されております。桂枝茯苓丸加薏苡仁もその中の1つであります。一般用医薬品は,広く一般消費者に使用されるものであり,これらの210の漢方処方はわが国で広く用いられている漢方の成書による基本処方,加減方,合方剤であります。
本方は,桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)に薏苡仁(ヨクイニン)を加えたものであります。桂枝茯苓丸についてはいうまでもありますが,駆瘀血剤としてもっとも汎用される処方の1つであります。虚実中等の人に,瘀血の腹証である下腹部の抵抗,圧痛,その他の瘀血の症状を目標として,月経不順,月経困難症,不妊症,子宮筋腫,骨盤内臓器の炎症,尿管結石,蕁麻疹などに広く用いられております。桂枝茯苓丸加薏苡仁の応用は,桂枝茯苓丸を用いる場合と同様でありますが,筋の緊張の強いもの,腫瘍などを目標として薏苡仁を加えるのであります。
薏苡仁はハトムギの種であり,『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』には上品として解蟸(カイレイ)という名で収載されております。『薬徴(やくちょう)』には「主治は浮腫なり」とあり,『重校薬徴(じゅうこうやくちょう)』にはこれを補足して「癰膿を主治し,浮腫,身疼を兼治す」となっております。また『古方薬議(こほうやくぎ)』には「痺閉を開き,瘀血を排す」とあります。『新古方薬嚢』では「薏苡仁,味甘,微寒,急を緩め,熱を消し、和をいたすの効あり。故に胸痛,肺癰,風湿,腸癰などに用いらる。また疣をとるの効あり」と述べられております。利水,利尿,鎮痛,鎮痙,排膿作用があり,浮腫,リウマチ,神経痛などの疼痛,下痢,化膿症などに用いられているのであります。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は,瘀血が原因で起こる皮膚の荒れ,にきび,肝斑,進行性手掌角皮症,うおのめ鞏皮症,子宮筋腫,乳腺症などに応用されております。
大塚敬節先生の症例を申し上げます。昭和18年生まれの女子学生。顔に粉瘤がたくさんあって,それが時々化膿する。大便は1日1行,月経順調,腹診するに左下腹部に瘀血の腹証としての抵抗,圧痛のある部位を証明する。桂枝茯苓丸加薏苡仁を投与,2週長の服用で瘀血の腹証が消失,4週間で粉瘤の大半が消え,2ヵ月後にはほぼ全治したと報告されております。
※粉瘤(アテローム、アテローマ)
皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)と皮膚の脂(皮脂)が、剥げ落ちずに袋の中にたまってしまってできた腫瘍の総称。
【一般用漢方製剤承認基準】
75 桂枝茯苓丸料加薏苡仁
〔成分・分量〕 桂皮3-4、茯苓4、牡丹皮3-4、桃仁4、芍薬4、薏苡仁10-20
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなど を訴えるものの次の諸症: にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症 注)
《備考》 注)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】
副作用
1)
重大な副作用と初期症特になし
2) その他の副作
過敏症:発赤、発疹、掻痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、発赤、掻痒等の過敏症状があらわれるおそれがある。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:食欲不振、胃部不快感、下痢等
[理由]
本剤には薏苡仁(ヨクイニン)が含まれているため、胃部不快感、下痢等の消化器症状があらわれる おそれがある。
また、昭和58年4月22日付第21次再評価結果「ヨ クイニンエキス」を参考とした。
[処置方法] 原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2014年5月30日金曜日
当帰芍薬散加附子(とうきしゃくやくさんかぶし) の 効能・効果 と 副作用
『健康保険が使える漢方薬の選び方・使い方』 木下繁太朗 土屋書店刊
p.141
当帰芍薬加附子湯(とうきしゃくやくかぶしとう)
症状
当帰芍薬散(142頁)に附子を加えたもので、当帰芍薬散を使いたいような状態で冷えが強いものに用います。具体的には、血色が悪く貧血症で、足腰が冷えやすくて小便が近く、頭重や頭痛があり、ときにめまい、肩こり、耳鳴り、動悸などのあるもの。
適応
婦人の冷え性、月経痛、神経痛、慢性腎炎、更年期障害、妊娠中の障害(浮腫、習慣性流産の予防、痔疾、腹痛) 産後の肥立ち不良。
【処方】 当帰芍薬散エキス5.0gに、加工ブシ2.0gをまぜたもの。
健 三
『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章
文苑刊
p.315
66 当帰芍薬散加附子(とうきしゃくやくさんかぶし) 《類聚方広義》
[成分]:当帰3~3.9、芍薬4~16g、川芎3g、茯苓4~5g、沢瀉1,:12g、加工附子0.4g
[用法]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。
[効能]:養血益気、健脾利湿、温陽袪寒
[主治]:血虚気虚、脾虚湿帯、陽虚畏寒
[症状]:疲れ、体がだるい、立ち眩み、心悸、浮腫、食欲不振、腹痛、腹脹、軟便、下痢、体の冷え、畏寒など。舌が歯痕あり、舌苔は白厚、脈が沈細と緊。
[説明]:
本方は養血補気と健脾利湿と温陽袪寒の効能を持っており、血虚気虚と脾虚湿滞と陽虚畏寒の軽気を治療することができる。
本方は《金匱要略》の当帰芍薬散に温裏薬の附子を加えた変方である。
本方に含まれている当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)は養血止蚕し健脾利湿し、附子は温陽袪寒する。
本方は当帰芍薬散より温陽袪寒の効能(附子)が強い。そこで、本方は当帰芍薬散で治療できる病の上に、陽虚の重い場合に適用する。当帰芍薬散は一般用と医療用の漢方方剤である。
本方は白朮を蒼朮に替えても厚生労働省に許可されている。本方は日本の漢方薬である。
血虚陽虚と脾虚湿滞の型に属する妊娠貧血、妊娠浮腫、流産、不妊症、月経不順、骨盤内炎症性疾患、卵巣嚢腫、不正性器出血、消化不良、胃腸機能低下、貧血、慢性肝炎、慢性腎炎、狭心症、老人性痴呆症、冷え症などの治療には本方を参考とすることができる。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
p.168
当帰芍薬加附子湯
どんな人に使うか
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に加工附子(かこうぶし)を加えたもので、虚弱体質で貧血傾向があり、冷えがきつく、性周期に伴って浮腫、腹痛を訴え、頭重、耳鳴り、めまい、肩こり、下腹部痛、全身倦怠感、手足の強い冷えなどのある人(主に成人女子)に用います。
目標となる症状
症 腹 脈 舌 共に当帰芍薬散(169頁)に同じ、症状では冷え、寒気が強い。
どんな病気に効くか(適応症)
血色悪く貧血症で足腰が冷えやすく、頭痛、頭重体r小便頻数を訴え、時に目眩(めまい)、肩こり、耳鳴り、動悸あるものの、婦人の冷え症、月経痛、慢性腎炎、更年期障害、妊娠中の障害(浮腫、習慣性流産の予防、痔疾、腹痛)、産後の肥立不良。
その他当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に同じ。
この薬の処方
当帰(とうき)、川芎(せんきゅう) 各3.0g。 芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)各6.0g。 沢瀉(たくしゃ)8.0g。 加工ブシ末2.0g。
この薬の使い方
三和当帰芍薬加附子(とうきしゃくやくかぶし)エキス細粒(さいりゅう)(サンワロンF末)、成人一日4.0gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を使いたい症状で、冷え、寒さの強い時に用います。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に加工附子剤(加工ブシ末、アコニンサン錠、ストロバール錠、炮附子末(ほうぶしまつ)、烏頭(うず)を加えても良い。
②当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)の血剤と茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、沢瀉(たくしゃ)の利水剤に附子(ぶし)を組み合わせたもの。
当帰(とうき)は温性増血剤で貧血で気がいらいらしているものに効き、川芎(せんきゅう)は補血剤で特に鎮静作用が強く、芍薬(シャクヤク)はこれらの増血作用を助け、腹部の痛みを緩和します。茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、沢瀉(たくしゃ)は代表的な利水剤の組み合わせで、浮腫などの体内水分の偏在を補正。附子は冷え、痛みを取り、身体を温めて、強い冷えをとります。
【一般用漢方製剤承認基準】
204 当帰芍薬散加附子
〔成分・分量〕 当帰3、沢瀉4 、川芎3、加工ブシ0.4、芍薬4、茯苓4、白朮4(蒼朮も可)
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力虚弱で、冷えが強く、貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭 重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などがあるものの次の諸症: 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害 (貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰 の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り
『類聚方広義解説(85)』 日本東洋医学会監事 岡野 正憲
次は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。「当帰三両(二分五厘)、芍薬一斤(一銭四分)、茯苓、朮各四両(各三分五厘)、沢瀉半斤(七分)、芎藭(キュウキュウ)半斤一に三両(二分五厘)に作る。右六味、杵きて散となし、方寸匕を取り、酒にて和し日に三服す。婦人懐妊、腹中きゅう痛。婦人腹中諸疾痛」とあります。
当帰芍薬散というのは、非常に使われる処方です。この元の処方は、粉の処方になっております。芎藭は今の川芎(センキュウ)のことです。川芎というのは元来四川省の芎藭のことで略していったものです。これらを粉にしたものをお酒で飲めと書いてあります。当帰芍薬散を粉にしたものは非常に胸につかえて気持が悪いので、お酒と一緒に飲んでその気味を発散させるといいというわけです。
その次にある本文は『金匱要略』の婦人妊娠病篇に出ているもので、「婦人懐妊、腹中きゅう痛する者は当帰芍薬散之を主る」「婦人腹中諸疾痛するは当帰芍薬散之を主る」ということです。婦人が妊娠中におなかがひきつれて痛いのは当帰芍薬散の主治である。婦人がおなかの中がいろいろと痛む病気があるのは当帰芍薬散が主治するところであるというわけです。
頭註に尾台榕堂がいっていることがあります。「妊娠、産後にして、下利腹痛し、小便不利、 腰脚麻痺し力無く、あるいは眼目赤痛(せきつう)の者、もしくは下利止まず、悪寒する者は附子を加う。もし下利せず、大便秘する者は大黄を加う」というものです。妊娠中や産後に下痢とか、おなかが痛い、尿の出が悪い、腰から足が麻痺している状態、あるいは眼球が赤くなっていて痛むもの、あるいは下痢がやまなくて寒気がするような場合には附子を加えた方がよい。もし下痢もしないで便秘している場合には当帰芍薬散に大黄を加えよというわけです。
三和当帰芍薬散加附子エキス細粒
副作用
その他の副作用
『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』
222. 当帰芍薬散加附子
p.141
当帰芍薬加附子湯(とうきしゃくやくかぶしとう)
症状
当帰芍薬散(142頁)に附子を加えたもので、当帰芍薬散を使いたいような状態で冷えが強いものに用います。具体的には、血色が悪く貧血症で、足腰が冷えやすくて小便が近く、頭重や頭痛があり、ときにめまい、肩こり、耳鳴り、動悸などのあるもの。
適応
婦人の冷え性、月経痛、神経痛、慢性腎炎、更年期障害、妊娠中の障害(浮腫、習慣性流産の予防、痔疾、腹痛) 産後の肥立ち不良。
【処方】 当帰芍薬散エキス5.0gに、加工ブシ2.0gをまぜたもの。
健 三
『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章
文苑刊
p.315
66 当帰芍薬散加附子(とうきしゃくやくさんかぶし) 《類聚方広義》
[成分]:当帰3~3.9、芍薬4~16g、川芎3g、茯苓4~5g、沢瀉1,:12g、加工附子0.4g
[用法]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。
[効能]:養血益気、健脾利湿、温陽袪寒
[主治]:血虚気虚、脾虚湿帯、陽虚畏寒
[症状]:疲れ、体がだるい、立ち眩み、心悸、浮腫、食欲不振、腹痛、腹脹、軟便、下痢、体の冷え、畏寒など。舌が歯痕あり、舌苔は白厚、脈が沈細と緊。
[説明]:
本方は養血補気と健脾利湿と温陽袪寒の効能を持っており、血虚気虚と脾虚湿滞と陽虚畏寒の軽気を治療することができる。
本方は《金匱要略》の当帰芍薬散に温裏薬の附子を加えた変方である。
本方に含まれている当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)は養血止蚕し健脾利湿し、附子は温陽袪寒する。
本方は当帰芍薬散より温陽袪寒の効能(附子)が強い。そこで、本方は当帰芍薬散で治療できる病の上に、陽虚の重い場合に適用する。当帰芍薬散は一般用と医療用の漢方方剤である。
本方は白朮を蒼朮に替えても厚生労働省に許可されている。本方は日本の漢方薬である。
血虚陽虚と脾虚湿滞の型に属する妊娠貧血、妊娠浮腫、流産、不妊症、月経不順、骨盤内炎症性疾患、卵巣嚢腫、不正性器出血、消化不良、胃腸機能低下、貧血、慢性肝炎、慢性腎炎、狭心症、老人性痴呆症、冷え症などの治療には本方を参考とすることができる。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
p.168
当帰芍薬加附子湯
どんな人に使うか
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に加工附子(かこうぶし)を加えたもので、虚弱体質で貧血傾向があり、冷えがきつく、性周期に伴って浮腫、腹痛を訴え、頭重、耳鳴り、めまい、肩こり、下腹部痛、全身倦怠感、手足の強い冷えなどのある人(主に成人女子)に用います。
目標となる症状
症 腹 脈 舌 共に当帰芍薬散(169頁)に同じ、症状では冷え、寒気が強い。
どんな病気に効くか(適応症)
血色悪く貧血症で足腰が冷えやすく、頭痛、頭重体r小便頻数を訴え、時に目眩(めまい)、肩こり、耳鳴り、動悸あるものの、婦人の冷え症、月経痛、慢性腎炎、更年期障害、妊娠中の障害(浮腫、習慣性流産の予防、痔疾、腹痛)、産後の肥立不良。
その他当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に同じ。
この薬の処方
当帰(とうき)、川芎(せんきゅう) 各3.0g。 芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)各6.0g。 沢瀉(たくしゃ)8.0g。 加工ブシ末2.0g。
この薬の使い方
三和当帰芍薬加附子(とうきしゃくやくかぶし)エキス細粒(さいりゅう)(サンワロンF末)、成人一日4.0gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を使いたい症状で、冷え、寒さの強い時に用います。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に加工附子剤(加工ブシ末、アコニンサン錠、ストロバール錠、炮附子末(ほうぶしまつ)、烏頭(うず)を加えても良い。
②当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)の血剤と茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、沢瀉(たくしゃ)の利水剤に附子(ぶし)を組み合わせたもの。
当帰(とうき)は温性増血剤で貧血で気がいらいらしているものに効き、川芎(せんきゅう)は補血剤で特に鎮静作用が強く、芍薬(シャクヤク)はこれらの増血作用を助け、腹部の痛みを緩和します。茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、沢瀉(たくしゃ)は代表的な利水剤の組み合わせで、浮腫などの体内水分の偏在を補正。附子は冷え、痛みを取り、身体を温めて、強い冷えをとります。
【一般用漢方製剤承認基準】
204 当帰芍薬散加附子
〔成分・分量〕 当帰3、沢瀉4 、川芎3、加工ブシ0.4、芍薬4、茯苓4、白朮4(蒼朮も可)
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力虚弱で、冷えが強く、貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭 重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などがあるものの次の諸症: 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害 (貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰 の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り
『類聚方広義解説(85)』 日本東洋医学会監事 岡野 正憲
次は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。「当帰三両(二分五厘)、芍薬一斤(一銭四分)、茯苓、朮各四両(各三分五厘)、沢瀉半斤(七分)、芎藭(キュウキュウ)半斤一に三両(二分五厘)に作る。右六味、杵きて散となし、方寸匕を取り、酒にて和し日に三服す。婦人懐妊、腹中きゅう痛。婦人腹中諸疾痛」とあります。
当帰芍薬散というのは、非常に使われる処方です。この元の処方は、粉の処方になっております。芎藭は今の川芎(センキュウ)のことです。川芎というのは元来四川省の芎藭のことで略していったものです。これらを粉にしたものをお酒で飲めと書いてあります。当帰芍薬散を粉にしたものは非常に胸につかえて気持が悪いので、お酒と一緒に飲んでその気味を発散させるといいというわけです。
その次にある本文は『金匱要略』の婦人妊娠病篇に出ているもので、「婦人懐妊、腹中きゅう痛する者は当帰芍薬散之を主る」「婦人腹中諸疾痛するは当帰芍薬散之を主る」ということです。婦人が妊娠中におなかがひきつれて痛いのは当帰芍薬散の主治である。婦人がおなかの中がいろいろと痛む病気があるのは当帰芍薬散が主治するところであるというわけです。
頭註に尾台榕堂がいっていることがあります。「妊娠、産後にして、下利腹痛し、小便不利、 腰脚麻痺し力無く、あるいは眼目赤痛(せきつう)の者、もしくは下利止まず、悪寒する者は附子を加う。もし下利せず、大便秘する者は大黄を加う」というものです。妊娠中や産後に下痢とか、おなかが痛い、尿の出が悪い、腰から足が麻痺している状態、あるいは眼球が赤くなっていて痛むもの、あるいは下痢がやまなくて寒気がするような場合には附子を加えた方がよい。もし下痢もしないで便秘している場合には当帰芍薬散に大黄を加えよというわけです。
三和当帰芍薬散加附子エキス細粒
組成
本品1日量(9g)中、下記の当帰芍薬散加附子水製エキス5.9gを含有する。
日局 トウキ 3.0g
日局 センキュウ 3.0g
日局 シャクヤク 6.0g
日局 ブクリョウ 4.5g
日局 ビャクジュツ 4.5g
日局 タクシャ 3.5g
日局 加工ブシ 1.0g
添加物として乳糖水和物、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、部分アルファー化デンプン、軽質無水ケイ酸を含有する。
効能又は効果 血色悪く貧血性で足腰が冷え易く、頭痛、頭重で小便頻数を訴え時に目眩、肩こり、耳鳴り、動悸あるものの次の諸症 婦人の冷え症、月経痛、神経痛、慢性腎炎、更年期障害、妊娠中の障害(浮腫、習慣性流産の予防、痔疾、腹痛)、産後の肥立不良 用法及び用量 通常、成人1日9gを3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
日局 トウキ 3.0g
日局 センキュウ 3.0g
日局 シャクヤク 6.0g
日局 ブクリョウ 4.5g
日局 ビャクジュツ 4.5g
日局 タクシャ 3.5g
日局 加工ブシ 1.0g
添加物として乳糖水和物、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、部分アルファー化デンプン、軽質無水ケイ酸を含有する。
効能又は効果 血色悪く貧血性で足腰が冷え易く、頭痛、頭重で小便頻数を訴え時に目眩、肩こり、耳鳴り、動悸あるものの次の諸症 婦人の冷え症、月経痛、神経痛、慢性腎炎、更年期障害、妊娠中の障害(浮腫、習慣性流産の予防、痔疾、腹痛)、産後の肥立不良 用法及び用量 通常、成人1日9gを3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
副作用
その他の副作用
| 頻度不明 | |
| 消化器 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等 |
| その他 | 心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ等 |
『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』
222. 当帰芍薬散加附子
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、 副作用が起こ りやすくなる)
次の人は服用しないこ と
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1. 次の人は服用前に医師、 薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1) 医師の治療を受けている人。
(2) 胃腸の弱い人。
(3) のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人。
(4) 今までに薬などにより発疹・発赤、 かゆみ等を起こしたことがある人。
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、
この文書を持って医師、 薬剤師又は登録販売者に相談すること
|
3. 服用後、 次の症状があらわれることがあるので、 このよ うな症状の持続又は増強が見られ
た場合には、服用を中止し、 この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
下痢
4. 1 ヵ月位服用しても症状がよく ならない場合は服用を中止し、 この文書を持って医師、 薬
剤師又は登録販売者に相談すること
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1) 3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、 よく
注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3) 1歳未満の乳児には、 医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。 なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記
載し、 用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1) 直射日光の当たらない (湿気の?ない) 涼しい所に (密栓して)保管すること。
〔( ) 内は必要とする場合に記載すること。〕
(2) 小児の手の届かない所に保管すること。
(3) 他の容器に入れ替えないこと。 (誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、 誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2. 次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1) 医師の治療を受けている人。
(2) 胃腸の弱い人。
(3) のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人。
(4) 今までに薬などにより発疹・発赤、 かゆみ等を起こしたことがある人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3. 服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の?ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( ) 内は必要とする場合に記載すること。〕
登録:
投稿 (Atom)