健康情報

2015年3月12日木曜日

続命湯(ぞくめいとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

続命湯(ぞくめいとう)
本方は大青竜湯に似て血虚のあるものに用いる。即ち表證があって、裏に熱があり、しかも血液が滋潤を失って枯燥の状あるものに用いる。従って脈は浮大にして、頭痛・喘鳴・身体痛・麻痺・身体拘急・口渇等のあるものを目標とする。
本 方は大青竜湯の生姜の代りに乾姜を用い、大棗の代りに当帰・人参・川芎のような強壮・補血・滋潤の効ある薬物を加えたものであるから、その応用は大青竜湯 に準ずるが、特に脳溢血からきた半身不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ、年月を経たものには用いる機会が少い。また神経痛・関節炎・ 喘息・気管支炎及び腎炎・ネフローゼ等で浮腫のあるものにも用いる。

漢方精撰百八方
71.〔続命湯〕(ぞくめいとう)

〔出典〕金匱要略

〔処方〕杏仁4.0 麻黄、桂枝、人参、当帰各3.0 川芎、乾姜、甘草各2.0 石膏6.0

〔目標〕自覚的 運動障害、言語障害、知覚障害等があって、ときに喘咳、浮腫等がある。
他覚的
脈 浮大、弦大、弦緊等
舌 燥した中等度以上の白苔又は黄苔
腹 腹力は充分で、心窩又は肋骨弓下にかなりの抵抗並びに圧痛があり、あたかも大柴胡湯の腹状を思わせる場合が多い。

〔かんどころ〕半身不随し、からだはがっちり。

〔応用〕 1.脳出血後の運動又は言語障害 2.高血圧症で口渇、頭痛を伴うもの 3.喘息 4.関節炎又は神経痛 5.腎炎、ネフローゼで浮腫のあるもの

〔治験〕本方は、ひとくちに言って、大柴胡湯証で運動又は言語障害をかねたようなものによく効く。半身不随では、発作後、日の浅いもの程よく応ずるが、ときにはかなりの年月を経たものでも、本方を長服して次第に好転してきているものがある。
  がっちりしたからだつきで、腹力もつよく、心窩は抵抗があって圧痛を訴え、しかも胸脇苦満が著明にあれば、このような患者の半身不随の場合には、誰しも大柴胡湯又は大柴胡湯加黄連、黄ゴン等を用いたいところであるが、それらを用いて効なく、続命湯を与えて俄に好転したといういくつかの治験を私はもっている。このような場合に、一度は試みる価値のある薬方であると思う。
  五十七才の男子。中肉中背で、顔面は何となく僅かにむくんだ感じ。約八ヶ月前に軽い脳出血の発作で倒れ、二ヶ月ほどの安静加療で外出も出来るようになったが、ロレツがよく廻らないのと、右上肢のシビレ感がとれず、歩行がぎこちないのが苦しい。診ると、外見の割に腹状はがっちりしていて、心窩部も、肋骨弓下も抵抗と圧痛があり、脈は弦やや浮大で、舌には乾燥した厚い白黄苔がある。本方を続服して、諸症状はほぼ正常に近いまでに好転した。
藤平 健



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
46.続命湯(ぞくめいとう) 金匱要略

杏仁4.0 麻黄3.0 桂枝3.0 人参3.0 当帰3.0 川芎3.0 乾姜2.0 甘草2.0 石膏6.0

(金匱要略)
○治中風痱,身体不能自収,口不能言,冒昧,不知痛処,或拘急不得転側,伹伏不得臥,欬逆上気,面目浮腫(中風)

漢方研究〉 1969年11月号 薬学の友社
出典〕 金匱要略・附方。古今録験続命湯とも言う。
続命湯と称せられる処方は,上記のほか千金方,外台秘要方にも掲載されており、全部数えれば10数種ある。一般に使用されているのは,この処方で,「大続命湯」ともいう。もう1つ小続命湯(千金方)があってこれとは薬育の構成が違い、附子が配合されている。

処方の構成〕 杏仁,麻黄,桂枝,人参,当帰,川芎,干姜,甘草,石膏の9味から成る。大青竜湯の大棗を当帰,川芎,人参の三味に生姜を干姜に代えたもの。

目標〕 脳出血または脳軟化症による運動障害(半身不杯,四肢の不自由) や言語障害,知覚障害があるもの。頭痛,喘鳴,咳嗽,首や肩のこり,顔面神経麻痺,浮腫などの症状を伴う。

〔応用〕
①脳出血の後遺症,脳軟化症のはるべく初期に用いる。
②神経痛,関節炎,浮腫,顔面神経麻痺に応用する。
③高血圧,それに伴う首や肩の凝りにも応用する。
④気管支炎,気管支喘息,腎炎,ネフローゼに応用。

〔応適症〕 脳出血,脳軟化症,高血圧症,神経痛,関節炎,顔面神経麻痺,気管支喘息,気管支炎,腎炎,ネフローゼ,浮腫など。

〔参考メモ〕
◇本方は古来“中風(脳卒中)”のオーソドックスな処方とされてきた。
◇現代医家では大塚敬節,藤平健両先生が治験例をまとめて,詳細に発表されている。(大塚敬節先生著「漢方診療30年」「漢方治療の実際」「日本東洋医学会誌」第13巻第2号藤平先生論文)
大青竜湯と薬味の構成が類似していることから,大青竜湯のような表証(頭痛,首や肩のこり,発熱悪寒,咳嗽,喘鳴,身体痛など)を1つの目標とし,また人参,当帰,川芎が配されていることから,貧血虚弱をもう1つの目標にするという風に昔の人はこれを“発表補虚”の薬と考えていたようである。
◇しかし,藤平先生は大青竜湯の表証の存続は疑わしいといわれ,従来いわれた「脳卒中の比較的初期に伴われるべきだ」という説についても,矢数道明先生は必ずしも初期に限定せずに用いてもよいことがあるといわれている。
◇藤平先生はまた,半身不随がなくても奏効するので,脳出血に関係ある各種の場合に応用できるのではないかと示唆している。
◇尾台榕堂は,産後結核の前駆期に使うと述べ,浅田宗伯は婦人の産後中風やリウマチ様疾患で疼痛あるものに応用すると記し,五積散を用いるべき証で熱勢のあはげしいものに使うとも書いている。
◇藤平先生によると,続命湯の証は「卒中後の運動・知覚または言語障害があって,自覚的には項背が凝り,他覚的には,大柴胡湯類似の脈,舌,腹候を呈する場合がある」といわれている。そこで高血圧で上記の症状を呈するもの,脳軟化症,脳出血の前駆期で類似の症状があれば使用できるのではないかとも考える。

〔類方鑑別〕
◎小続命湯…脳卒中後の運動,言語,知覚障害に同じく用いるが,小続命湯は体質がより虚弱で陰証のもの。(これと大青竜湯はエキス剤はないが,鑑別上必要なので列記した)
大青竜湯…喘鳴が強く,発熱もより強く,煩躁が強い。脈は浮緊である。(続命湯は脈浮大)
五積散…身体の疼痛を感じ,発熱がなくて足が冷える。脈は沈である。
大柴胡湯…肩こり,心下痞,胸脇苦満などの先,舌の状態,脈弦数など似ているが,言語,運動知覚障害を伴わないし,その徴候もほとんどない。
〔注意〕 本方は麻黄・石膏が配されているので,体質の点で不適の者もあり得る。できるだけ陽実証の体質に使うことが望ましい。これよりも陰証は小続命湯,虚証は桂枝加朮附湯を与える。

漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は大青竜湯證に似て血虚の證あるものに用いる。即ち表證があって,裏に熱があり,しかも血液が滋潤を失って枯燥の状あるものに用いる。従って脈は浮大にして頭痛,喘鳴,身体拘急,口渇等のあるものを目標とする。本方は大青竜湯の生姜の代りに乾姜を用い,大棗の予りに 当帰,人参,川芎 のような,強壮,補血,滋潤の効ある薬物を加えたものであるから,その応用は大青竜湯に準ずるが,特に脳溢血からきた半身不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ,年月を経たものには用いる機会が少い。また神経浮腫のあるものにも用いる。

日本東洋医学会誌〉 第13号 第2号
藤平 健 先生

……ところで金匱には,本方の指示として,「中風痱,身体を自ら収むること能わず,口言うこと能わず,冒昧にして,痛む所を知らず,或は拘急転側すること能わざるを治す」と示されている。この指示からだけでは,本方が卒中後の運動麻痺,言語障害,知覚麻痺,痙攣性麻痺等に応用され得る事が判断せられるだけで,その応用の時期につ感ては知ることができない。けれども麻黄,桂枝,当帰,人参,石膏,乾姜,甘草,杏仁,川芎の9味からなるその薬方構成からみて,本方が一応大青竜湯の変方と考えられる所から,本方には表証乃至はそれに類似の症状があると考えられ,したがって古来,卒中発作直後の発熱して,半身が不随しているという時期に,主として用いられて来たわけである。
 即ち方輿輗には「この病(中風)は風に非ずといえども,熱盛んにして,脈浮なる者は,先ず之を表に取るも亦可と為すなり。かくの如きときは,続命湯を全く廃れたる方にも非ず。今脈浮ならず,熱盛ならざるに,なお此湯を用うるものあり,果して何の意に出づるぞや」内科秘録には「初発は三黄湯,参連湯,及び蘇合香円,熊胆の類を与え,小続命湯若くは,大続命湯を撰用すべし」
 金匱要略述義には「蓋し続命湯は,表を発し,虚を補う対待の方と為す,実に中風正治の剤たり」
 勿誤薬室方函口訣にな「此方は偏枯の初期に用いて効あり」
 皇漢医学には「本方は脳出血の貧血虚弱にして,表証を帯べるを治するに過ぎざれば,以て中風正治の剤と為すを得ず,丹羽氏の言悉く信ずべからず」
 漢方診療の実際には「その応用は大青竜湯に準ずるが,特に脳溢血からきた半身不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ,年月を経たるものに用いる機会が少ない
 漢方入門講座には「初期の表証又は上衝がある時期には昔から使われているが,麻痺そのものが器質的変化によって起るために,早急には恢復し難い憾みがあり,長期連用する患者が少ないためもあって,著効を奏した経験は私には殆んどない」等の記載があって,大体に於て,本方を用いる時期を表証もしくはそれ類似の症状の出ている時期に限定している。即ち卒中発作後なるべく早い時期に応用すべき薬方であるとする考えが,本方運用上の通念となっているように考えられる。(中略)
 勿論,往時から現代に至る多くの医家によって本方が卒中発作の初発時に用いられて,屢々顕著な効果を挙げ得た事があるのは疑いもない事実なのであるから,初発時という条件が本方の証の構成に一つの役割を演じているらしい事は推測出来る。しかし,だからといって,初発時という条件が絶対的に必要なそれであるか否かという事は既述したような理由からいっても疑いがある。たとえ一歩譲って,卒中の初発時で,表証類似の症候があることが,本方の証構成上の重要な条件の一つであるとしても,ちょうど葛根湯の場合に,表証という条件が,その証の構成に必要不可欠な重要条件であるにも拘らず,雑病の場合にはこれが無くても応用することができる,というのと同じような理由で,初発時という条件を除いても,本方を脳溢血に関係のある各種の場合に応用し得るのではなかろうか。(中略)
 6症例の自他覚症状を検討してみると,「項背が凝る」という症状が6例中6例に共通していて,圧倒的に多い。他覚症状では,脈は弦緊が4例,弦遅及び弦が各1例で,弦脈を呈することは共通している。舌候は,全例に乾燥した厚い又は中等度の白乃至は白黄苔をみている。腹力は,中等度が3例,それよりも充実しているのが3例で,いずれも実証の腹状を呈している。心窩部の抵抗並びに圧痛は,全例に中等度に認められている。
 以上からわかるように本方が奏効したこの6症例は,いずれも大柴胡湯証近似の症状を呈しているのである。(中略)
 以上から本方の証を補足してみると次のようになる。即ち,続命湯の証は,卒中後の運動,知覚,又は言語障害があって,自覚的には項背が凝り,他覚的には大柴胡湯証類似の脈,舌,腹候を呈する場合があると。(後略)

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は偏枯の初起に用て効あり。其他産後中風身体疼痛する者或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざる者又は後世五積散を用いる症にて熱勢劇者に用ゆべし。

類聚方広義〉 尾台 榕堂三先生
 婦人草蓐ニアリ風ヲ得テ頭痛発熱悪寒,身体痺痛。腹拘急,心下痞鞕,乾嘔微利,咽乾口燥シ,咳嗽訣シキ者ハ,速ニ治セザレバ必ズ蓐労ト為ル此方ニ宜シ。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p381 脳溢血・脳軟化症・神経痛・関節炎・喘息
88.続命湯(ぞくめいとう) 〔金匱要略〕
 杏仁 四・〇 麻黄・桂枝・人参・当帰 各三・〇 川芎・乾姜・甘草 各二・〇 石膏 六・〇

応用〕 大青竜湯証に似て、血虚のあるものに用いる。すなわち表証があって、しかも裏に熱があり、血液枯燥の状あ節ものであある。最もしばしば脳溢血による半身不随や言語障害の比較的初期に使われるが、相当列間経過したものに用いてもよい。
  本方は主として脳溢血・脳軟化症・高血圧症に用いられ、神経痛・顔面神経麻痺・関節炎・偏頭痛でよだれの出るもの・喘息・気管支炎・腎炎・ネフローゼ・頸項の凝り・浮腫・眼筋麻痺等にも応用される。


目標〕 本方は金匱の条文と、処方の構成から見ると、大青竜湯証に類似し、しかも血虚の証があり、裏に熱があって、血燥の状を認める。脈は浮大で、頭痛・喘鳴・身体痛・麻痺・身体拘急・口渇等があり、脳溢血または脳軟化症による半身不随や言語障害のある比較的初期に用いるのがねらいである。しかし必ずしも初期のみと限定せずに用いてよいかとがある。
 藤平健氏は、卒中後、運動・知覚また言語障害があって、自覚的には項背が凝り、他覚的には大柴胡湯証類似の脈・舌・腹候を呈する場合を主眼とし、ときに半身不随の有無にかかわらず奏効した諸例をあげている。

方解〕 本方は大青竜湯の生姜のかわりに乾姜を用い、大棗のかわりに当帰、人参、川芎のような強壮・諸血・滋潤の効のある薬物を加えている。

主治
 金匱要略(中風歴節病門)に、「古今録験、続命湯、 中風痱(ヒ)(中風の古名で麻痺)、身体自ラ収ムルコト能ハズ(ひとりで体を動かすことができない)、口言フコト能ワズ、冒昧(ボウマイ)(意識混濁していること)ニシテ、痛ム処ヲ知ラズ、或ハ拘急転側スルコト能ハザルヲ治ス」とあり、
 方後に、「並ビニ但伏シテ臥スルコトヲ得ズ、欬逆上気、面目浮腫スルヲ治ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ偏枯(半身不随)ノ初期ニ用テ効アリ。其他、産後中風、身体疼痛スルモノ、或ハ風湿ノ血分ニ渉リテ疼痛止マザルモノ、又後世五積散ヲ用ル症ニシテ熱勢劇シキ者ニ用ユベシ」とある。


鑑別
小青竜湯 70 (咳喘・心下水気、稀薄喀痰)
大青竜湯 94 (喘鳴・表実熱、煩躁、脈浮緊)
五積散 38 (身疼痛・熱なく足冷え、脈沈)
大柴胡湯 92 (心下痞硬・胸脇苦満、実熱、脈弦数)

参考
 本方は従来あまり使われなかった処方であるが、大塚敬節氏(漢方診療三十年)、藤平健氏(日本東洋医学会誌一三巻二号)等が臨床成績を詳報され、新しい応用面を開拓された。

治例
(一) 関節炎
 広尾の幕臣の妻が外邪に感じ、解熱の後に右脚がひきつり、腫れて痛み、歩行することが不可能となった。脈は浮んで頻数である。熱がなくなったのに脈が浮で頻数なのは、邪気が下の方に留注して筋脈の流通ができないためである。即ち金匱続命湯を与えたところ四~五日で治ってしまった。
 余は関節炎や脚の痛み、多発性関節リウマチ等で、越婢湯の証でしかも血虚のあるのは続命湯を用いて治している。
(浅田宗伯翁、橘窓書影)
(二) 半身不随
 群山候の家臣、年七十余。平素肩や背がひどく凝り、ときどき上【月専】に痛みを訴えている。
 ある日、右の肩がひどく凝るので、按摩をさせていたら、急に言語障害を起こして右半身不随となって終った。四~五日医治を受けたが変化がない。飲食も普通である。右の脈は洪大である。ここで金匱続命湯を与えると、四~五日で言語障害は治り、半身不随も快方に向い、杖を以て歩行することができるようになった。
(浅田宗伯翁、橘窓書影)

(三) 高血圧と気管支喘息
 六二歳の婦人。かねて気管支喘息があり、のどがつまったようで息苦しく、眠れず、心下部がつまったようで苦しいという。血圧は一八〇~九六である。続命湯で呼吸が楽になり、血圧も下降して一五六~九〇となった。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(四) 顔面神経麻痺
 三五歳の男子。平素は頑健であったが、数日前突然左顔面半分がひきつれ、言葉がうまく出なくなった。脈浮大で、他に異状はない。続命湯を服用させたら一二日で平常に復した。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(五) 高血圧と項背の凝り
 五二歳の男子。数ヵ月来、頸のうしろや側頭部が凝り、血圧高く、治療をうけたが効かなかった。自覚症はほかに多少のぼせと頭痛があり、他覚症状としては中肉中背で血色がよく、脈は弦で緊、舌は乾いて白黄苔があり、腹力は充実して、心窩部右肋骨弓下に、中等度の抵抗と圧痛を認め、臍の左斜下にも中等度の抵抗と圧痛がある。以上の所見によって、葛根湯大柴胡湯桃核承気湯桂枝茯苓丸三黄瀉心湯等を単方または合方、あるいは兼用で約一ヵ年与えたが、一進一退で手を焼いていた。そこで続命湯に転方してみたところ、わずか一週間で、自由に首がまわって、頸項の凝りがとても軽くなった。触れてみると、首の後ろも横も凝りが全くなくなっていた。続命湯を四ヵ月服用し、血圧も一四五~八五となり廃薬した。
(藤平健氏、日東洋医会誌 一三巻二号)

(六)脳溢血
 六四歳の男子。数年前から血圧が高く、半年前に脳卒中発作を起こし、二ヵ月間入院治療をうけ、よくなり通荷していたところ、四日前から急に左上下肢に運動麻痺をきたした。自覚症は、頭が重く、首の後ろがひどく凝り、首があがらない。のどがかわき、口中がねばり、腹が張り、腰が痛む。体格は強大で、首が太く、赤ら顔である。腹は膨満し、腹力充実、心窩部には中等度の抵抗があり、血圧二一〇~九五。
 続命湯を与えると、三日目からわずかながら自動運動ができるようになり、一〇日目には普通に動動、首もあがるようになり、一ヵ月後にはバスで外出するまでになり知人を驚かせた。
(藤平健氏、日東洋医会誌 一三巻二号)




『漢方臨床ノート 治験篇』 藤平健著 創元社刊
p.18
 脳卒中
  高血圧と続命湯

まえがき
 続命湯は『金匱要略』所載の薬方で、脳卒中発作後の半身不随、言語障害、知覚障害等に用いるように指示されている。私はこの指示をやや広く解釈して、卒中前後の諸状態、すなわち血圧に関係する諸状態にこれを応用してみたところ、ときには見るべき効果を挙げ得る場合もあることを知った。また、この薬方の腹候等についても多少の知見を得たので、ここにこれを報告して、御参考に供するとともに、御批判を仰ぎたいと思う。

症例
 〔第1例〕 62歳男性。初診・昭和35年6月24日。
 昨年10月に卒中発作を起こして倒れた。安静と加療によって、四ヵ月ばかりで症状の大部分はとれたが、左側の手指と同側の下肢から足先にかけてのビリビリするしびれ感が残っており、かつその部分の知覚もやや鈍麻している。それにろれつがわずかにもつれ気味で、早口にしゃべることができない。現在も高血圧専門と称する某医の内服と注射による治療を受けているが、血圧は常態に復しても、上記の後遺症がとれなくて苦しんでいる。
 〔自覚症状〕 既述の症状以外には、多少汗をかきやすいという症状がある程度で、他にはこれという症状を見ない。大便は一日一回、小便は昼五~六回、夜はない。
 〔他覚症状〕 患者は小柄であるが、やや太り気味、短頸、赤ら顔という定型的な卒中体型を呈している。
 脈は弦にして、やや緊。舌は乾燥した厚い黄台で覆われている。
 腹はわずかに膨満の気味で、腹力は充実し、心窩部、右肋骨弓下に中等度の抵抗ならびに圧痛、左肋骨弓下には軽度の抵抗と圧に対する不快感とが認められる。腹直筋は左右ともに緊張を呈しており、臍の下二横指付近には中等度の抵抗と圧痛を証明する。
 血圧は一三四-八五。眼底所見K・W第Ⅱ群。
 〔経過〕 以上の自他覚症状によって、まず防風通聖散去大黄をAとし、桂枝加苓朮附湯(附子0.7)をBとして、これを隔日交互に服用させて様子を見ることにした。
 7月1日。服用後一週間。全く変化がない。そこで瘀血症状を目標に、Aを桂枝茯苓丸料、Bを前方として隔日交互に服用させることにした。
 7月8日。これまた、ほとんど変りがない。今度は心下痞硬、胸脇苦満、弦脈、乾燥した黄色舌苔、腹力実を目標として、Aを大柴胡福z去大黄、Bを前方として、様子を見る。
 9月2日。いくらか良いような気もするというので前方を持続したが、暑さ負けのせいか、最近根気がなくなり、咽も渇くという。腹診により、わずかながら臍下不仁が認められるので、Aを前方とし、Bを八味丸料(附子0.7g)として与えてみた。
 以上のような具合で、症状は良くなるかに見えて、良くならず、一進一退して、途中あるいはさらに黄解丸料を試み、あるいは四逆散料の転方し、さらに再び桂枝茯苓丸料に戻るなどして、四苦八苦したのであるが、一向に改善しない。そればかりか、翌年の3月には血圧が一九〇-一一〇と逆戻りして、再発作の危険すら起きてくるという始末。
 そこで続命湯に知覚障害の指示のあったことを思い出して、これを試みてみることにした。実は、続命湯は発作行pまだ日の浅い者にのみ有効と考えていたので、このように日数を経てしまった患者にはおそらく応ずることはあるまいが、窮余の一策、ものは試し、といった程度の気持で投じてみたのであった。ところが、これが意外に奏効した。
 36年5月12日。二週間分を持続して、服し終えた続命湯が、よく効を奏して、今度はじめて薬がよく効いたのがわかったという。しびれ感が急激に少なくなった。体も軽くなってきた。前方を投与。
 5月26日。手のしびれは完全に消失した。まだ足に少し残っている。
 6月16日。ますます具合がよい。今まで何を投じてもとれなかった舌の厚い黄苔が、ようやくとれて、薄い白苔となった。舌のもつれも感じなくなった。
 37年1月12日。用心のため天方を続服していたが、引き続いて好調なので、これで廃薬することとした。

 〔第2例〕 75歳の婦人。初診・昭和36年11月10日。
 昨年9月9日から、急に物が二重に見えるようになり、近くの眼科医に受診、眼筋麻痺といわれて治療を受けたが、好転しない。以来、諸所の病院や医院を歴訪したが、原因も判らず、良くもならずに、今日に至った。
 〔自覚症状〕 常に頭が重く、立ちくらみしやすい。のぼせは余りないが、動悸はしやすい。首の後ろや肩がよく凝る。朝、口中が苦いことがある。睡眠はあまりよくない。耳鳴、腰脚の冷えなどはない。大便は一日一回。小便は昼七~八回、夜二~三回。血圧一八〇-一〇五。眼底所見K・W第Ⅱ群。
 〔他覚症状〕 患者は顔面やや蒼白で、中肉中背の白髪の老女。
 右眼の外直筋の麻痺を認め、右眼の外方へ運動が妨げられている。脈は弦。舌は乾燥した厚痿白苔で覆われている。
 腹力は中等度よりはやや実しており、心窩部ならびに右肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛を認める。臍上にわずかに腹大動脈の動悸を触れる。臍の左右の斜下二横指付近に軽度の抵抗と圧痛を認める。
 〔経過〕 以上の自他覚症状にしたがって、Aを苓桂朮甘湯、Bを小柴胡湯として、隔日交互に服用することとして、一週間分を投与。
 11月24日。眼筋麻痺は変化しないが、頭重、頭眩は軽減してきた。そこで苓桂朮甘湯のみ一週間分を投与。
 12月1日。めまいはますますとれてきているが、眼筋の麻痺は依然として変化がない。高血圧があることではあるし、もしかすると、この外直筋麻痺は、脳内の小出血または軟化によるものであるかもしれない。とすれば、麻痺が発来してから、すでに一年余の日数を経てはいるが、前例のような事例もあることから、あるいはまた続命湯が応じないとも限らない。この例も、前症例と同様、一度は大柴胡湯を与えてみたいような諸症状を呈している点も甚だ前症例に似ている。そこで続命湯一週間分を投じて、様子やいかにと結果を待った。
 12月8日。驚いたことに、わずか一週間分の服用で、一年以上治療に抵抗した眼筋麻痺が全く消失している。慎重に検査をくりかえしてみても麻痺は全くない。もちろん自覚症状として複眼も完全にとれている。
 患者は今までは患眼を覆っていないと危なくて歩けないので、発病以来ずっと眼帯をしつづけていたのであったが、昨日からは、それをはずして歩いているが、全く何ともないという。
 12月29日。引き続き具合がよいので、三週間分の同方を与えて、これで廃薬することとした。
 ところが、翌年3月下旬、この患者と昨年はいつも連れ立って来ていた患者の話で、2月下旬に本患者が脳出血で倒れ、床に就く身となったことを知った。

 〔第3例〕 52歳の男性。初診・昭和35年5月26日。
 最近数ヵ月来、頸の後ろや側頸部が凝るので、受診したところ、血圧の高いためといわれ、治療を受けているが、症状がとれない。
 〔自覚症状〕 前記の症状のほかに、多少のぼせやすく、ときに頭痛がある。便通は一日一回。小便は昼四~五回。夜一回。
 〔他覚症状〕 患者は中肉中背で血色がよい。
 脈は弦、やや緊。舌には乾燥した中等度の白黄苔がある。
 腹力は中等度よりやや実しており、心窩部、HK肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛とを認める。臍の左斜下二横指の付近に中等度の抵抗と放散する圧痛がある。血圧は一八〇-一〇〇、K・W第Ⅱ群。
 〔経過〕 以上の自他覚症状にしたがって、葛根湯大柴胡湯桃核承気湯桂枝茯苓丸三黄瀉心湯などを、あるいは単方で、ときには合方または兼用で、投与すること約一年。この間、主訴がようやくとれたとみると、また逆戻りする、という状態をくりかえし、やや手を焼き気味であったが、前述の第Ⅰ症例の奏効ぶりのめざましかったのに刺激されて、この症例にもまた試みに続命湯を応用してみることにした。
 36年5月26日。一週間分の続命湯をのみ終って来院した患者が、初めて晴ればれとした顔で、「先生、効きましたよ。この通り頸(くび)が軽くなりました」と首を廻して見せる。首の後ろも横も全く凝っている感じがなくなったという。
 前方をさらに続服すること四ヵ月、血圧も一四五-八五と落ち着き、症状も引き続きおさまっているので、一応廃薬することにした。

 〔第4例〕 73歳の男性。初診・昭和36年11月30日。
 十数年前から血圧が高く、断続的にではあるが治療を受けていた。二十日前に卒中発作を起こして以来、左半身の不随を来たし、加療を続けているが、変化がない。
 〔自覚症状〕 首の後ろが凝る。口中がねばつき、腹が張る。頭痛、肩こり、のぼせ等はない。二便にも著変はない。
 〔他覚症状〕 患者は体格の大きい、がっちりした、やや赤ら顔の男子。
 脈は弦。舌には乾燥した厚い黄苔がある。
 腹はわずかに膨満気味で、腹力は中等度よりやや実。心窩部、HK肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛とがある。左上肢は完全な運動麻痺を呈している。血圧は一八五-九五。
 〔経過〕 一見、大柴胡湯の証であるが、続命湯による数例の治験を得て、いささか続命湯づいているので、また同方を投与。五日目から自動的にも、少しずつ動き始め、十日分を服し終るころには、上下肢とも、かなり動くようになった。二十日分を服し終って、物につかまりながら歩行練習ができるようになった。

 〔第5例〕 65歳の男性。初診・昭和36年11月16日。
 数年前から高血圧症に罹患していたが、36年5月に卒中発作を起こし、某国立病院に入院した。かなり良転したので、7月に退院し、通院していた。ところが、四日前の11月12日に、急に左上下肢に運動麻痺を来たして全く動かなくなってしまった。
 〔自覚症状〕 頭が重く、首の後ろがひどく凝り、首が上がらない。咽が渇き、口中がねばり、渇き、苦しい。腹が張り、腰が痛む。足がほてり、耳鳴りがし、嘔気がある。食欲はあまりなく、睡眠もあまりよ決ない。大便は一日一回あるが少ない。小便は昼一〇~一二回、夜三回。
 〔他覚症状〕 患者は体格が大きく、がっちりしていて、頸(くび)が太い。やや赤ら顔。
 脈は弦遅。舌には乾燥した白黄苔が厚い。
 腹はやや膨満しており、腹力は中等度よりはやや実。心窩部は中等度の抵抗と圧痛を示している。胸脇苦満は認められない。臍の左下二横指付近に中等度の抵抗と圧痛とが認められる。
 左下肢は全く麻痺していて、自動運動ができない。血圧は二一〇-一一〇。眼底所見はK・W第Ⅱ群。尿には蛋白・糖ともに陰性。
 〔経過〕 続命湯を投与。一週間分を服し終って来院。体が軽くなり、疲れなくなって、甚だ気持がよいという。血圧は一七〇-九五と下がっている。遠方の人なので、次には五週間分を服し終ってから来院した。ますます具合がよく、旅行をしても、孫のお守りをして、かなり無理をしても、疲れもせず、耳鳴もしなくなった。血圧は一七〇-九五に落ち着いている。

 総括ならびに考案

 続命湯と名づけられる薬方は、『千金方』『外台秘要方』 にも収録されているものを合わせると、約十数種類の多きに達する。かつ、その薬方構成の薬味の種類も延べ二十数味をかぞえ、そのうち九味ないし十四味をもって薬方が構成されている。『金匱』所載の続命湯と『千金』所載の二つの大続命湯のうちの一つとが、同一薬味で構成されているのを除けば、他はすべて若干の相違がある。
 また各薬方の指示も、『金匱』の続命湯と『千金』の西州続命湯と名づけるものが、ほぼ同じであるのを除けば、これまた他はすべて若干の相違がある。
 私が使用した続命湯はすべて『金匱』所載のそれであって、指示もまた『金匱』のそれにしたがった。
 とこで『金匱』には、本方の指示として「中風痱、身体を自ら収むること能わず、口言うこと能わず、冒昧にして、痛む所を知らず、或は拘急転倒すること能わざるを治す」と示されている。
 この指示からだけでは、本方が卒中後の運動麻痺、言語障害、痙攣性麻痺などに応用され得ることが判断さられるだけで、その応用の時期については知ることができない。けれども、麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾姜、甘草、杏仁、川芎の九味から成る薬方構成持ら見て、本方が一応、大青竜湯の変方と考えられるところから、本方には表証ないしは、それに類似の症状があることが考えられ、したがって古来、卒中発作直後の、発熱して、半身が不随しているという時期に、主として用いられてきたわけである。しなわち、
 『方輿輗』(有持桂里)には「この病(中風)は風に非ずといえども、熱盛んにして、脈浮なる者は、先ず之を表に取るも亦可と為すなり。かくの如きは、続命湯も全く廃(すた)れたる方にも非ず。今脈浮ならず、熱盛んならざるに、なお此の湯を用うるものあり、果して何の意に出ずるぞや。」
 『内科秘録』(本間棗軒)には「初発は三黄湯、参連湯、および蘇合、熊胆の類を与え、小続命湯もしくは大続命湯を撰用すべし。」
 『金匱要略述義』(多紀元堅)には「蓋し続命湯は、表を発し虚を補う対待の方と為す、実に中風正治の剤たり。」
 『勿誤薬室方函口訣』(浅田宗伯)には「此の方は偏枯の初期に用いて効あり。」
 『皇漢医学』(湯本求真)には「本方は脳出血の貧血虚弱にして、表証を帯べるを治するに過ぎざれば、以て中風正治の剤と為すを得ず、丹羽氏の言悉く信ずべからず。」
 『漢方診療の実際』(大塚・矢数・清水)には「その応用は大青竜湯に準ずるが、特に脳溢血から来た身半不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ、年月を経たものに用いる機会が少ない。」
 『漢方入門講座』(竜野一雄)には「初期の表証ある時期には昔から使わらているが、麻痺そのものが器質的変化よって起るために早急には恢復し難い憾みがあり、長期連服する患者が少ないためもあって、著効を奏した経験は私には殆んどない。」
などの記載があって、大体において、本方を用いる時期を表証もしくはそれ類似の症状の出ている時期に限定している。すなわち、卒中発作後なるべく早い時期応用すべき薬方であるとする考えが、本方運用上の通念となっているように考えられる。
 それでは、この通念はどこから来たかといえば、その一つは、前述したような大青竜湯の変方と見る薬方構成上からの判断であり、他の一つは、そのような判断ならびに本方の指示にもとづい仲、これを実地に応用し、実際に効験を見てきた古来からの臨床経験であろう。しかし、これからのみで、この通念が絶対的なものと考えるわけにはいかない。
 考えてみると、本方が大青竜湯の変方であるにしても、同湯の生姜の代りに乾姜が入り、大棗に代って当帰、川芎、人参が入ってきていることになるのであるが、このような大変革が行なわれても、なおかつ大青竜湯の表証という症候群が存続し得るものであろうか。桂枝湯にさらに桂枝の増強された桂枝加桂湯では、表証のある場合もあるが、表証はほとんどなくて、ただ上衝、頭痛の強い場合のみに用いられることのほうが多いし、桂枝湯に芍薬の増強されただけの桂枝加芍薬湯では、表証の残る余地はほとんどない。さらにこれに膠飴の加わった小建中湯に至っては、表証の存続する余地はなくなってしまっている。古方の薬方では、このような小さな変革ですらも、その方意は大きく方向を換えてしまうのである。ましてや続命湯のように、大青竜湯の面影(おもかげ)をわずかにとどめるに過ぎないような大きな変革が行なわれた場合にも、表証がなお存続しているものかどうかには、疑いをさしはさむ余地が多分にある。
 もちろん、往時から現在に至る多くの医家によって、本方が卒中発作の初発時に用いられて、しばしば顕著な効果を挙げ得たことがあるのは、疑いもない事実なのであるから、初発時という条件が、本方の証の構成に一つの役割を演じているらしいことは推測できる。しかし、だからといって、初発時という条件が絶対的に必要なそれであるか否かということは、既述したような理由からいっても疑いがある。たとい一歩ゆずって、卒中の初発時で表証類似の症候があることが、本方構成上の重要な条件の一つでもあるとしても、ちょうど葛根湯の場合に、表証という条件がその証の構成に不可欠な重要条件であるにもかかわらず、雑病の場合には、これがなくても応用することができる、というのと同じような理由で、初発時という条件を除いても、本方を脳溢血に関係のある各種の場合に応用し得るのではなかろうか。
 症例の少な過ぎる憾みはあるが、既述した第1~6例の治験は、このような推測を裏書きするのに多少は役立つものと考えられると思うのであるが、いかがなものであろうか。
 さて既述の六症例について、その自他覚症状を検討してみると、本方証として原典の条件に挙げられている症状以外にも、いくつかの共通している症状が見出される。
 すなわち自覚症状のうちでは「項背が凝る」というのが六例全部に共通していて圧倒的に多い。
 他覚症状では、脈の弦緊が四例、弦遅および弦が各一例で、弦脈を呈することが共通している。
 舌候は、全例に乾燥した厚い、または中等度の白ないし白黄苔を見ている。
 腹力は、中等度が三例、それよりも充実しているのが三例で、いずれも実証の腹状を呈している。
 心窩部の抵抗ならびに圧痛は、全例に中等度に認められている。
 胸脇苦満が認められないのは、六例中一例のみである。
 以上からもわかるように、本方が奏効した六症例は、いずれも大柴胡湯近似の症状を呈しているのである。しかも第1例ならびに第3例では、実際に大柴胡湯を長く応用してみて、はかばかしくいかず、本方に転方するに及んで急に好転している。他の四症例も、もし本方を応用しはじめる以前であったならば、いずれも一応は大柴胡湯を第一または第二候補として用いたに違いないのである。
 本方中に石膏が配剤されていて、渇のあることが考えられるが、実際には渇のはっきり出ているのは第5例の一個のみで、第6例にも、ときには咽が渇く程度の状態はあるが、大体において渇症状の存在は顕著ではないようである。
 また本方中には乾姜、当帰、川芎、人参というような温剤、治血虚剤、滋潤の剤が含まれているのではあるが、ほぼ全例に瘀血の存在が認められる以外には、少なくとも表面的には、これらの薬味から推測されるような症状は、あまりはっきりは出ていない。
 六症例中、第1,第2、第4、第5の四例には、運動麻痺、知覚異常等の条文明示の症候が存在するのではあるが、第3と第6の二例にはそれらを認めていない。この二例は、高血圧があって、大柴胡湯証類似の症候を呈し、かつ項背が凝る、ということのみを目標として本方を応用したのである。それも従来ならば、当然まず大柴胡湯を投じたであろうところを、本方による数例の治験があったあとであるために、第5例では、いきなり本方を投与することになったわけである。
 なお、本方を卒中発作後五日目の、脈・腹ともに力のない虚証の患者に投じて、二十日間様子を観察した第1例では、全く全化を見ることはできなかった。
 以上から、本方の証を補足してみると、次のようになる。すなわち続命湯の証は、卒中後の運動、知覚、または言語障害があって、自覚的に項背が凝り、他覚的には大柴胡湯証類似の脈・舌・腹候を呈する場合があると。

むすび

 少数例の治験をもとに、このような証の補足というような大それたことを言い出すことの危なさは、私もよく知っている。ただ本方が頻用される薬方でないために、条文記載以外の証についての記録があまりない。したがって、これを応用するに際して、拠り所が少なくて頼りない。たまたま私が遭遇し、本方を投じて奏効した例が以上のようであったために、一応拠り所と思われるものを補足してみたまでである。多数の人によって、より多数の経験が重ねられ、報告されるならば、あるいはもっと違ったものになってくるかもしれない。大方の御経験と御教示を待つ次第である。
(「日本東洋医学会誌」13巻2号、昭和37年9月)

※黄台? → 黄苔

p.30
脳卒中の治験例

 〔第1例〕 83歳の老婦人。初診・昭和58年4月21日。
 この患者は、老人性白内障で、以前から八味丸を投与していた人であるが、58年の4月21日、お嫁さんに連れられてフラリフラリと診察室に入ってきた。軽い脳卒中の発作を起こしたらしく、昨日の昼から、ろれつがおかしいという。なんとか話すことはできるが、ラリルレロ、パピプペポはほとんど言えない。右の手足に軽い運動麻痺があり、歩き方も、よったりよったりしている。
 そのほかこれという自覚症状はなく、他覚的には、脈は沈、緊。舌には乾燥した白苔が中等度に見られ、腹力は中等度よりわずかに実している。心下痞硬が中等度にある以外、腹部所見は特になし。
 そこで、三黄瀉心湯を朝一回振り出しで飲み(一回分は、大黄1g、黄連、黄芩、各2g)、続命湯エキス8gを二回に分けて昼と夜に服用するよう指示した。
 経過は非常に順調で、患者は日を追って回復に向かい、約二十日後の5月9日に来院したときには、ろれつも歩行もほとんど正常に近くなっていた。引き続き前方を投与。6月初旬には一人で外出できるまでに回復した。このころ偶然、道を歩いている患者に出会ったが、歩行は完全に正常化していた。
 その後 この患者は、非常に元気で、健常者と変らない生活をしていたが、患者の希望によって、念のため薬の服用を続け、61年4月に全治廃薬した。
 この症例に見るように脳半中の発作が軽い場合には、早い時期に漢方治療を行なうと予後が非常に良いことが多い。しかし、言語障害や運動麻痺が重い場合には、いうまでもなく、現代医学的な処置と平行して、漢方治療を行なうべきであろう。


※脳半中? → 脳卒中

 〔第2例〕 75歳の女子。
 昭和54年2月8日より、高血圧症、白内障、腰痛および外痔核の治療で通院していた患者である。腹がビール樽状に膨満した肥満女性。血圧は最小血圧が少し高い程度で、他に目立った自覚症状が見られないため、七物降下湯乙字湯のエキス剤の合方(各3g)を一日二回、そして八味丸(3g)を夕方に一回、という処方を、ここ四年来継続中であった。
 昭和58年8月22日、たまたま来院中、待合室で突然右半身にしびれと運動麻痺を起こして倒れてしまった。意識はハッキリとしていて、言語障害はないのだが、右の手足が完全に麻痺し、体を動かすことができない。居合わせた患者さんの報(し)らせで、急ぎ診察室に運じ込み、診察する。
 血圧は一八〇-一二二。脈は弦、緊。腹力は中等度。腹部は膨満しているほか、心窩部がかなり強く張り、右側の胸脇苦満も強く認められる。
 脳出血か脳梗塞か、いずれにしても脳血管障害の軽い発作と判断し、とりあえず六神丸を五粒服用させ、救急車で専門病院に送ることにする。一方、かけつけた患者の息子に、続命湯エキス8gと三黄瀉心湯の振り出し(黄連、黄芩、各2g、大黄1g)を一週間分渡して、病院で服用させるよう指示。
 8月30日、薬を取りにきた息子の話では、経過良好で、今日退院できた、という。前方を続けることとする。
 10月25日。患者本人が一人で来院。麻痺は完全になくなり、立居振舞は旧に復する。血圧一五四-九〇で安定している打:同方継続投与。
 12月16日、来院したときの様子では、以前より元気になり、体が軽くなったようだ、という。高血圧はむろんのこと、痔や腰痛などの症状にも好ましい好果があらわれているように判断されたため、同方をいましばらく継続することとする。
(未発表のカルテより、昭和58年12月)


漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
154.続命湯(ぞくめいとう)大続命湯(だいぞくめいとう)(金匱)
 杏仁4.0 麻黄,桂枝,人参,当帰各3.0 川芎,乾姜,甘草各2.0,石膏6.0

目標〕 身体が麻痺して思うような体位がとれず,言語障害があって言葉がうまくしゃべれないもの,身体が痛んだりひきつれたりするが,知覚障害があるので痛む場所がよくわからないもの,あるいは 咳嗽や喘咳があって,のぼせて,頭が痛んだり,顔面に浮腫を生ずるもの などである.
 脈は浮大で,口渇のあることが多い.


説明〕 本方は金匱要略の 中風歴節病編 の処方で,大青竜湯の生姜を乾姜に代え,大棗の代りに人参,当帰,川芎を入れたものである.したがって 主剤は麻黄であって,本来 喘咳,咳嗽,浮腫 などが正面の目標になる。梧竹楼方函口訣では,「中風(脳卒中)初起熱強きに用ゆ」といい,小続命湯を「元気虚弱の人の中風初期に用ゆ」といって区別している.
 
応用〕 脳溢血,脳軟化症,気管支喘息,気管支炎 など. 
  〔鑑別〕 小続命湯,虚証の場合. 
 
症例〕 55歳の男子,建築業,初診 40・11・17. 1ヵ月前脳溢血で倒れ,右半身が麻痺した。麻痺はやや回復したが,右手先がしびれ,右下肢の動きがわるくて歩行に難渋する.両膝の力が脱け,右足の関節は曲らない.
 手が冷え,夜睡眠中2~4回排尿におきるという.
 中肉中背で,労働できたえた筋肉の硬い人である.顔色はわるく,歩行が困難で,奥さんに支えられれてようやく歩いて来た.
 脈はやや弦で遅.血圧144~94(降圧剤服用中と),上下肢の反射が亢進し,足搐搦が著明,腹部は全体に軟らかく,両腹直筋が拘攣し,左腹直筋の上部はことに緊張している.また 臍の左傍に腹動が中等度にみられる.なお 腰背部の志室の部分に圧痛がある.
 そこで腹部の動悸と夜間尿を目標に八味丸料を用いた.2週間ばかり後に,夜間尿が2回ぐらいに減り,階段を上がるとき足が軽くなったという.しかし 手先のしびれは変わらず,足が,左の良い方も冷えるという.これが,3週間後には,手のしびれが殆んど治ったといい,歩行も非常に楽になった.
 ところが,6週間後,自転車へ乗ったところ転倒して右腕を打撲し,そのまま晩から舌がもつれて言葉が一層不明瞭になったという.このとき,それまで 130~50 ないし 140~70 程度だった血圧が,150~80 になっていた.そこで,左腹直筋上部の抵抗を胸脇苦満かと考えて,大柴胡湯去大黄に変えてみた.ところが,1週間後に気分がわるく来れないといって,奥さんが薬をとりに来た.驚いてまた続命湯に転方し,安静とマッサージをすすめた.これで再び病気は快方に集かい,3週間後に患者が1人で来院するようになった.


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
続命湯(ぞくめいとう) [金匱要略]

【方意】 虚証による精神神経症状としての運動知覚麻痺・項背強等のあるもの。しばしば気の上衝によるのぼせ等と、水毒による喘咳等と、血虚を伴う。
《少陽病から太陰病.虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

虚証による
精神神経症状
気の上衝 水毒

血虚
主証 ◎運動知覚麻痺







客証 ○項背強
 筋緊張亢進
 筋肉痛 身体痛
 知覚過敏
 言語障害
 練識混濁


○のぼせ
 頭痛

○喘咳
 浮腫
 口渇
 無汗
○血貧


【脈候】 浮大・浮数・洪大・弦やや緊・時に浮弱。

【舌候】 乾燥した白苔・黄苔。時に薄い墨色を呈することもある。 

【腹候】 腹力中等度。時に軟弱の場合もある。しばしば心下痞硬・胸脇苦満を伴い、大柴胡湯の腹候に類似することがある。

【病位・虚実】 精神神経症状は陰陽共に存在する。気の上衝の強い場合には発揚性で陽証、水毒の強い場合には沈滞下行性で陰証に傾き、これより少陽病より太陰病にわたって用いられる。虚実中間に幅広く応用できる。

【構成生薬】 石膏6.0 杏仁4.0 麻黄3.0 桂枝3.0 当帰3.0 人参3.0 乾姜2.0 甘草2.0 川芎2.0 
【方解】 当帰・川芎は温性の駆瘀血薬で血行を改善促進する。桂枝は気の上衝を主り、他方その温性により当帰・川芎の作用を助ける。人参は滋養・強壮作用がある。乾姜は大熱薬で機能亢進作用があり、乾姜・人参の組合せは全身の新陳代謝をたかめる。以上五味の働きにより虚証による全身の気の循環不全を改善し、麻痺・疼痛に対応する。麻黄の興奮作用もこれに協力する。石膏は本来強い清熱作用があるが、少量の場合には鎮静作用が主となり、知覚過敏・筋緊張亢進等に有効である。杏仁には鎮咳・去痰作用があり、麻黄と共に水毒による喘咳・浮腫を去る。

【方意の幅および応用】
 A1虚証による精神神経症状:運動知覚麻痺等を目標にする場合。
   脳出血による片麻痺、言語障害、顔面神経麻痺、眼筋麻痺、末梢神経麻痺
  2 虚証による精神神経症状:疼痛を目標にする場合。
   肩凝り、神経痛、関節炎

 B 気の上衝:のぼせ・頭痛を目標にする場合。
   高血圧、慢性頭痛
 C 水毒:喘咳・浮腫等を目標にする場合。
   気管支喘息、気管支炎、腎炎、ネフローゼ症候群


【参考】 *中風(脳卒中)、痱(手足の麻痺)、身体自ら收む能わず、口言う能わず、冒昧、痛処を知らず、或は拘急して転側するを得ざるを治す。并せて、但だ伏し臥するを得ず、欬逆上気、面目浮腫するを治す。
『金匱要略』
*此の方は偏枯(片麻痺)の初起に用いて効あり。其の他、産後中風、身体疼痛する者、或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざる者、又は後世、五積散を用うる症にて熱勢劇しき者に用うべし。
*本方は大青竜湯の去加方とみなすことができるが、方意は全く別である。本方意の病態は水毒を伴う血流低下であって、その根元は気滞による体力の駆動不全によると考えられる。脳卒中の言語障害にも用いるが、本方は虚実中間に良く、より虚証には解語(げご)湯が良いとされる。
*『千金方』の小続命湯は本方より当帰・石膏・乾姜を去り、附子・防風・芍薬・防已・黄芩を加えたものである。『金匱』の続命湯である本方は陽証に用い、小続命湯は陰証に用いる。また本方より人参を去り黄芩を加えたものを西州続命湯といい、上気強く顔面浮腫するものに良いとされる。

【症例】 脳卒中後の左半身麻痺
 73歳の男性。10数年前から血圧が高く、断続的にではあるが治療を受けていた。20日前に卒中発作を起こして以来、左半身の不随を来たし、加療を続けているが、変化がない。
 首の後ろが凝る。口中が粘つき、腹が張る。頭痛、肩凝り、のぼせ等はない。大便にも小便にも著変はない。患者は体格の大きい、がっちりした、やや赤ら顔の男子。
 脈は弦。舌には乾燥した厚い黄苔がある。腹はわずかに膨満の気味で、腹力は中等度よりやや実。心窩部、HK肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛とがある。左上肢は完全な運動麻痺を呈している。血圧は185/95。
 一見して大柴胡湯の証であるが、続命湯による数例の治験を得ているので、また同方を投与。5日目から自動的に少しずつ動き始め、10日分を服し終わるころには上下肢ともかなり動くようになった。20日分を服し終わって、物につかまりながら歩行訓練ができるようになった。
藤平健『漢方臨床ノート・治験篇』23

脳出血
 55歳の婦人。
 かねて高血圧があったが、約4ヵ月前に脳出血におそわれた。初診時に口がゆがみ、よだれが垂れる。言語もはっきりしない。左半身に軽い不随があり、左腕が痛み、力がない。左脚も力が弱い。血圧162/100。大便1日1行、夜2行の尿がある。腹に力はあるが、どこにも圧痛はない。
 続命湯を与える。服薬4週間、よだれが流れなくなり、言葉がもつれない。8週間後には手足に力がつき、元気が出た。ただ左腕の痛みが残る。10ヵ月でやっと腕の痛みが去る。1年して麻痺がほとんどなくなった。
『大塚敬節著作集』 第四巻 196

 

『金匱要略解説(19)』 同仁堂診療所所長 稲木 一元

中風歴節病③-礬石湯・続命湯・三黄湯・朮附湯・八味丸越婢加朮湯

p.47
■続命湯(古今録験)
 次の続命湯(ゾクメイトウ)から先は、別の版本には、附方としてあります。すなわち宋の時代に林億(りんおく)らが『金匱要略』を編集した時に、たぶん張仲景(ちょうちゅうけい)の方に違いないと考えた処方を、他の本から持ってきてつけ足した部分です。最初の『古今録験(ここんろくけん)』続命湯は『外台秘要方(げだいひようほう)』からとったものです。
 「『古今録験』の続命湯は、中風、痱(ひ)にて身体自ら収むることあたわず、口言うあたわず、冒昧(ぼうまい)にして痛む処を知らず、あるいは拘急して転側することを得ざるを治す」。
 この後の細字割注の部分に、「姚(よう)云う、大続命と同じ、兼ねて婦人産後去血のもの、及び老人小児を治す」とあります。
 「麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、当帰(トウキ)、人参(ニンジン)、石膏(セッコウ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)(各三両)、芎窮(キュウキュウ)、杏仁(キョウニン)(四十枚)。
 右九味、水一斗をもって、煮て四升を取り、一升を温服す。まさに小(すこ)しく汗すべし。薄く背を覆い、几に憑(よ)りて坐す。汗出ずればすなわち愈ゆ。汗せざれば更に服す。禁ずる所無し。風に当たることなかれ、并びにただ伏して臥すことを得ず、咳逆上気、面目浮腫するを治す」。
 『古今録験』というのは医学書の名前と思われます。『外台秘要方』の中に続命湯という処方が、『古今録験』という本からの引用と感う形で記載されているということです。「中風」は『傷寒論(しょうかんろん)」の中の中風とは違って、ここでは脳卒中という意味です。「痱」というのは中風の古い名前とされています。「拘急」は、筋肉がひきつれて突っ張った状態です。強直性の麻痺のことをいうのかと思いますが、あるいは痙攣性の収縮、間代性の痙攣のようなものをいうとも受けとれます。私としては、強直性の麻痺と解釈する方が妥当のように考えられます。
 全体の意味としては、続命湯は半身不随や麻痺で、自分で自分の体を思い通りに動かすことができない、言おうと思っても思い通りに話せない、意識がはっきりとせず、痛みの場所もよくわからない、あるいは手足がひきつれて突っ張ったような状態で、寝返りもできないものに用いるということと思います。要するに脳卒中の症状である運動麻痺とか知覚麻痺、あるいは言語障害といったものに続命湯を用いるといっているわけです。
 次の細注には姚という人が、この処方は大続命湯(ダイゾクメイトウ)と同じもので、婦人の産後で出血の多かったものや、老人や小児に使う場合があるといっています。この姚について、江戸時代の宇津木昆台(うつきこんだい)は『古訓医伝(こくんいでん)』で、「梁」の姚僧垣(ようそうえん)なり。字(あざな)は衛法(えいほう)、呉興武庸の人なり。『古今医統(ここんいとう)』に出でたり」(漢方医学書集成26巻410頁)といって、『古今医統』という本にこの人のことが書いてあると述べています。
 産後の出血過多に続命湯を用いる場合があるというのですが、これはともかくとして、若干似た記載が、幕末の浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』にあります。それには「産後中風、身体疼痛するものに用いる」という説を述べており、ご参考までにご紹介いたします。
 構成生薬の中で、芎藭というのがありますが、これは現在の川芎(センキュウ)のことです。
 その後の服用法の部分の意味は、九種類の生薬を煎じて、温かいものを服用したあとで、何か薄い着物を背中に掛けて、机のようなものに寄りかかって座っていなさい。汗が出れば治るし、汗が出なければさらに服用する。食べ物は何を食べてもよいが、風に当たってはいけない。また、ただ腹ばいになることはできても、仰向けになって寝ることはできないで、咳込んで苦しく、顔がむくんだような状態のものに使ってもよいということのようです。
 ここで大事なのは最後の部分だと思います。これによりまして、続命湯を気管支端息や気管支炎に応用できる場合があるとされています。続命湯の内容には麻黄湯(マオウトウ)や麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)が含まれ、また大青竜湯(ダイセイリュウトウ)にも近い内容と思われますので、こうした使用法も納得できるわけです。昔は脳卒中で気管支肺炎などを起こして状態に使用されたようです。
 続命湯の実際の使用法につきましては、残念ながらエキス製剤がありませんが、大塚敬節先生の『漢方治療の実際』によりますと、いわゆる比較的実証で、脳卒中後遺症によるいろいろな運動麻痺、知覚障害などのある人に使われたようです。そのほか顔面神経麻痺やある種の気管支炎、気管支喘息、また神経痛とか関節炎、浮腫などに用いてよいとも書かれています。現代でも一定の利用価値がある処方と思います。


『勿誤薬室方函口訣解説(78)』
日本東洋医学会評議員 藤平 健
p92
続命湯

次は続命湯(ゾクメイトウ)です。『金匱要略』に収載されています。
 「麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、当帰(トウキ)、人参(ニンジン)、石膏(セッコウ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、川芎(センキュウ)、杏仁(キョウニン)、右九味。人参を去り黄芩(オウゴン)を加え西州続命湯(セイシュウゾクメイトウ)と名づく。風湿腰脚攣急、痺疼を治す。
 此の方は偏古(へんこ)の初起に用いて効あり。その他産後中風身体疼痛する者、或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざるもの、又は後世五積散(ゴシャクサン)を用うる症にて熱勢劇しきものに用うべし」とあります。
 「続命湯より人参を去り黄芩を加えて西州続命湯と名づけ、熱が出て、あちこち痛む、熱と水邪とが絡み合って関節その他腰、足がひきつって痛む、あるいはしびれて痛むというものを治す」というわけです。
 『金匱要略』の続命湯の条文としては「中風痱、身体自ら収むること能わず、口言うこと能わず、冒昧して、痛処を知らず。或は拘急して転側することを得ざるを治す」とあります。痱は、しびれて知覚がなくなることで、中風痱というと、それに運動麻痺も加わります。「体を自分で動かすことができず、言葉もいえず、頭がボケたようになって痛むところもわからず、あるいはひきつれがあって、寝返りをうつこともできない、というものを治する」ということです。
 また「並びに但だ伏して臥することを得ず。欬逆上気し、面目浮腫するを治す」ともあります。喘息様の状態も治するということです。
 「此の方は偏枯の初起に用いて効あり」とありますが、偏枯とは半身不随のことです。「その他産後の中風で体が痛むもの、あるいは熱邪と水邪が体の中でからみあって疼痛が止まないものを治す」ということです。そして、「五積散を用うる症で熱勢の劇しいものに用いてもよい」とあります。五積散は、上半身(臍から上)がほてって、下身半は冷え、そし関節が痛んだり、胃腸の具合が悪いというのが適応の目安です。
 実際にどんな時に続命湯の効果があるのかというと、脳血栓、脳出血など、中枢の異常で半身が不随になった場合に、「初起に用いて効あり」とありますように、早い時期に用いますと確かに効があります。しかき半年以上も経っていても、時に大変に効果があることもあります。昭和四十九年に脳出血を発病し、七年後の五十六年に私のところに診察に来院した人では、奥さんに支えられて足を引きずりながら来ましたが、今は、ほとんどよくなり、普通より少しまずいかな、と思うくらいに歩いております。ですから七年たっていてもこの例のようによくなる場合もあります。しかしできれば半年係内にこれを用いるとよいと思います。
 用い方は、薬方から見ますと、割合に虚した人に用いられると考えられますが、いろいろ用いてみて、この薬方の証は決してそんなには虚していないと思います。
 今から二十年くらい前に、この薬方で非常に効を得た経験がありました。それは、脳出血を起こしてから二年ほど経っていた五十五、六歳の体のがっちりした人でした。診察をすると脈もしっかりしており、腹力もあり、まさに陽実証の状態です。胸脇苦満は強く、心下痞硬も強いので、大柴胡湯(ダイサイコトウ)を出しました。二ヵ月ほど様子を見ましたが少しもよくなりません。それでもしやと思って続命湯に変方しましたところが、今度は大変に効きました。一ヵ月半か二ヵ月飲んだところでかなり働きがよくなってきて、当人も張り時りまして、十二畳の部屋の囲りに竹の棒をはりめぐらして、それを伝わって歩くというリハビリテーションを自分で始めました。ずっと以前の症例で、はっきり覚えておりませんが、約七、八ヵ月でほぼ正常の状態に戻ったと思います。
 これにヒントを得て、続命湯というのは相当使える薬方であるし、また相当実証の場合にこそよく効くのではないかと思うようになったのです。以後一見大柴胡湯証に見えるような人の半身不随を目標として使っておりますが、むろん効かない例もありますが、かなりよい例があります。これを日本東洋医学会の総会で、例をまとめて報告したことがありますが、相当実証度の強い人にも使える薬方であると考えてよいと思います。
 「伏して臥するを得ず、欬逆上気し、面目浮腫するを治す」というのは、まさに喘息などのひどい時の状態で、とくに実証度の強い人は顔を真赤にして顔にむくみのくることがあります。ですから喘息に使ってよいという人もおりますが、私は喘息に使ったことはありません。しかし相当に効果があるのではないかと思います。


『類聚方広義解説(87)』
日本東洋医学会副会長 寺師 睦宗

 第八の続命湯(ゾクメイトウ)について述べます。まず処方の内容です。「麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾姜、甘草各三両、杏仁(キョウニン)四十枚、芎藭(キュウキュウ)(川芎)一両五銭。右九味、水一斗を以て煮て四升を取り、一升を温服す。当(まさ)に小しく汗すべし。薄く背を覆い、几(き)(机)によりて坐し、汗出づれば則ち愈ゆ。汗出でざればさらに服す。禁ずるところ無し。風に当たるなかれ。並びにただ伏して臥するを得ず。欬逆上気(がいぎゃくじょうき)、面目浮腫するものを治す」とあります。
 次に本文です。「古今録験の続命湯は中風、痱にて、身体自ら収めること能わず、口言うこと能わず。冒昧(ぼうまい)にして痛むところを知らず。あるいは拘急して転側するを得ざるを治す」とあります。
 この条文は『金匱要略』の中風・歴節病篇の付方として出ております。『古今録験』の続命湯は半身不随で、運動麻痺し、自分で自分の身体が思うようにならず、言語障害があり、意識障害のために痛むところがどこであるか指摘することができない。あるいは筋肉がひきつれて回転したり寝返りすることができないものを主治するということです。
 尾台榕堂先生の頭註は「婦人草蓐(そうじょく)に在りて風を得、頭痛、発熱悪寒し、身体痺痛し腹拡急し、心下痞鞕し、乾嘔微利し、咽乾口燥しし、咳嗽の甚だしき者は速に治せざれば必ず蓐労(じょくろう)となる。この方に宜し」とあります。婦人が産蓐にある時に飲ませたらよいということでしょう。
 この方は脳出血、脳軟化等による半身不随、言語障害などに用いられ、また顔面神経麻痺にも効があります。また本方は気管支炎、気管支喘息、神経痛、関節炎、むくみなどにも用いられます。
 

『類聚方広義解説(106)』
日本東洋医学会理事 石川 友章

続命湯・烏梅丸・大黄蟅虫丸

 本日は、テキスト173頁の続命湯(ゾクメイトウ)から最後の大黄蟅虫丸(ダイオウシャチウガン)までの三処方を解説します。

■続命湯
  續命湯 麻黃桂枝當歸人參石膏乾薑甘草各三兩杏仁四十枚各三分五釐芎藭一兩五錢二分五釐
  右九味以水一斗。煮取四升。溫服一升。以水一合五勺。煮取六勺。
  當小汗。薄覆脊。憑几坐。汗出則愈。不汗。更服。無所禁。勿當風。幷治但伏不得臥。欬逆上氣。面目浮腫。
  中風痱 身體不能自收。口不能言。冒昧不知痛處。或拘急不得轉側。

 「続命湯。麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、当帰(トウキ)、人参(ニンジン)、石膏(セッコウ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)各三両、杏仁(キョウニン)四十枚(各三分五厘)、芎藭(キュウキュウ)(川芎(センキュウ))一両五銭(二分五厘)。
 右九味、水一斗をもって、煮て四升を取り、一升を温服す(水一合五勺をもって、煮て六勺を取る)。まさに少(すこ)しく汗すべし。薄き背を覆い、几(机)に憑(よ)りて坐し、汗出づればすなわち愈ゆ。汗出でざれば、さらに服す。禁ずる所なし。風に当たるなかれ。并びにただ伏して臥することを得ず。欬逆上気、面目浮腫するを治す」。
 小文字は尾台榕堂(おだいようどう)先生の分量を示しています。
 本文では、「中風痱にて、身体おのずから収めること能わず、口言うこと能わず、冒昧にして痛むところを知らず。あるいは拘急して転側しず」とあり、主治を示しています。
この条文は『金匱要略(きんきようりゃく)』中風歴節病脈証並治第五の附方にあります。
 概要としては、『古今録験(ここんろくけん)』の続命湯は、半身不随で運動麻痺にて、身体を自分自身で思うように動かせず、言語障害で喋ることもできず、意識が朦朧として、痛むところがどこかわからない(外台(げだい)には、「冒昧」の下に不識人の三文字があります)。あるいは筋肉がひきつれて寝返りも打てないものを治すとあります。姚(よう)という人がいうには、これは大続命湯(ダイゾクメイトウ)と同じで、婦人の産後で出血の多かったものや、老人、小児を治すとあります。このことから大塚敬節先生は、小児麻痺にもこの方が有効かもしれないと、『金匱要略講話』に書かれています。
 尾台榕堂先生の頭註では「婦人が、草褥(産褥)に在って風を得、頭痛、発熱、悪寒し、身体痺痛し、腹拘急し、心下痞鞕し、乾嘔、微利し、咽乾、口燥し、咳嗽の甚だしきものは、速やかに治せざれば、必ず蓐労(産後の肺結核)となる、この方が宜し」とあります。

■続命湯の加減方
 山場椿庭(やまだちんてい)の『傷寒類方弁書集(しょうかんるいほうべんしょ)』に、「青竜(セイリュウ)、白虎(ビャッコ)、竹葉(チクヨウ)の石膏を弁ず」という表題の中に『金匱』の小青竜湯加石膏(ショウセイリュウトウカセッコウ)と、厚朴麻黄湯(コウボクマオウトウ)および続命湯は、ともにわずかの異同あれども、皆青竜の流派となすなり」とあります。
 続命湯は、大青竜湯(ダイセイリュウトウ)に当帰、人参、川芎を加えて、生姜を乾姜に代えたものです。続命湯には、『金匱』の附方『古今録験』の続命湯、『千金(せんきん)』の小続命湯(ショウゾクメイトウ)、これには附子(ブシ:があり、大続命湯には石膏があります。また西州(せいしゅう)続命湯、排風(はいふう)続命湯などがあり、さらに加減方を加えると相当な数にのぼります。
 『医療手引草(いりょうてびきぐさ)』では百二十方加減と題して、この方の使い方を示しています。「精神恍惚には茯神(ブクシン)、遠志(オンジ)を加え、骨節痛には附子を去り、芍薬を倍量する。心煩して驚き動悸するものには犀角(サイカク)、羚羊角(レイヨウカク)を加える。また腰痛には、桃仁(トウニン)、杜仲(トチュウ)を加える」などとあり、続いて「加減続命湯をもって宜し。証に随ってこれを治せ」とあります。「中風汗なく、悪寒するものは麻黄続命湯(マオウゾクメイトウ)これを主る。中風汗あり、悪寒するものは桂枝続命湯(ケイシゾクメイトウ)これを主る」のごとく続き、附子続命湯(ブシゾクメイトウ)、羗活連翹続命湯(キョウカツレンギョウゾクメイトウ)などがあげられています。『千金方(せんきんほう)』の続命湯は三方ありますが、本方を指すものは「金匱要略』の『古今録験』続命湯であろうと述べられています。数ある続命湯には、すべて麻黄が含まれているのが特徴です。

■続命湯の治験例

 そこで、大塚敬節先生の治験からご紹介します。
 瞼の痙攣に続命湯を使用した例。明治四二年生まれの婦人。この患者は数年前に左上瞼が垂れ下がった目を開くことができず、指で開けようとすると痙攣を起こすので、抑肝散加芍薬厚朴(ヨクカンサンカシャクヤクコウボク)を与えて治したことがある。ところが四ヵ月前に風邪をひき、それを繰り返して、汗が止まらない、喉がゼイゼイいう、痰が絡まる、それに治っていた瞼がまた、軽症ではあるが痙攣を起こすようになった。続命湯を与えるのは、咳と痙攣を一緒に治すのが狙いであるが、果たして予想したとおり咳も止まり、瞼の痙攣もよくなった。
 次の症例は、脳出血に続命湯を使用したものです。患者は明治四三年九月三日に生まれた婦人。初診時には、口がゆるみ、涎が垂れ、言語もはっきりしない。左半身に病い不随があり、左腕が痛み、力がない。左脚も力が弱い。血圧は最高162/100。大便一日一行、夜二行の尿がある。腹に力はあるが、どこにも圧痛はない。続命湯を与える。
 服薬四週間で涎が流れなくなり、言葉がもつれない。八週間後には手足に力がつき、元気が出た。たた左腕の痛みが残る。今年の三月になって、やっと腕の痛みが去る。五月になって麻痺はほとんどなくなった。その間の血圧は次のとおりである。150/94、148/98、146/96、144/92、132/84、156/90、138/90、152/92、150/92と安定しています。
 次に半身不随、失語症に続命湯を用いた例です。大正元年生まれの僧侶。初診は昭和四五年一〇月三〇日。三年前に右下肢の麻痺が起こり、少し軽快したところ仲;、今年三月に右手に麻痺が起こり、七月下旬より言語障害が起こり、失語症に近い状態となった。医師は脳塞栓と診断して治療しているが、よくならないという。
 脈は浮大で、舌に苔はない。大便一日一行、夜間一行排尿がある。血圧130/80。腹診するに左右に胸脇苦満があり、臍下に正中芯がある。続命湯を与える。四週間の服用で言語がはっきりしてきたばかりでなく、麻痺も軽快してきたが、続服中である。
 次に蓄膿症に続命湯を用いた例です。患者は昭和三三年生まれの女子。初診は昭和四六年五月三〇日、今年三月一二日に眼底出血を起こした。その時血圧は180あり、医師から慢性腎炎で腎機能は60%と診断された。それに蓄膿症があるから手術をするように勧められたという。尿中蛋白(+)、血圧128/82、大便一日一行、月経順調、鼻が詰まり喉に鼻汁が流れる、頭が重い、食欲はある、悪心はない。続命湯を与える。
 六月二七日の診療では、鼻の方はとても気持がよいという。蛋白(±)、血圧は139/86。その直後、耳鼻科の医師の診察を受けたところ、蓄膿症は全治しているといわれた。血圧は128/88、116/80、132/84、120/86、蛋白(-)。このごろ自分でどこも何ともないといい、近く腎機能の検査を受けることになっているといっている。
 次に自験例をお話しします。大正八年生まれの婦人。高血圧症で当院に通院中でしたが今年一月二日の朝から、それまで痛んでいた足もよくなり、膝の方もよくなったと思ったのですが、左の関節が利かなくなり、足首と膝が返らない、左手が重いという訴えが、一月六日の来院時にありました。言葉もややろれつが回らない感じがしました。そこで金匱の続命湯を投与しました。二週間後いくらか歩けるようになり、それから六週間後には、何となくひき摺る程度になりました。この頃には言葉もはっきりして、三月頃には習っていた能の舞台は、六月にはできないのではないかと悩んでいましたが、今年の舞台は休みにして、来年からまた元気よく再開したというほど回復しました。現在はお稽古もやっているようです。


『金匱要略講話』 大塚敬節主講 財団法人 日本漢方医学研究所 編
p.121
 ここから先は附方となっていますが、附方というのは、宋の時代に林億等が校訂したときに、これは多分張仲景の方に違いないという薬方を、『千金方』とか『外台』とかのいろいろな本からもってきて附けたので附方と云うんで、原本にはなかったわけです。次の古今録験続命湯は『外台秘要』から取ったのです。

附方

古今錄驗續命湯 治中風痱身體不能自收。口不能言。冒昧不知痛處。○外臺。冒昧下。有不識人三字。或拘急不得轉側。姚云。與大續命同。兼治婦人產後去血者。及老人小兒。


  麻黃 桂枝 當歸 人參 石膏 乾薑 甘草各三兩 芎藭○原缺銖兩。外臺用一兩。千金用三兩。杏仁四十枚

 右九味,以水一斗,煮取四升,溫服一升。當小汗。薄覆脊。憑几坐。汗出則愈。不汗更服。無所禁。勿當風。幷治但伏不得臥。欬逆上氣,面目浮腫。

 〔訓〕
 附方(ふほう)
 古今録験(ここんろくけん)の続命湯(ぞくめいとう)は、中風(ちゅうふう)、痱(ひ)にて身体自(みずか)ら収(おさ)むること能(あた)わず、口(くち)言(い)う能(あた)わず、冒昧(ぼうまい)にして痛むところを知らず(外台には、「冒昧の下に「不識人」の三字あり)。或は拘急(こうきゅう)して転側(てんそく)するを得(え)ざるを治(ち)す。(姚云う。大続命と同じ。兼ねて婦人産後去血の者及び老人小児を治す)。
   麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾薑(かんきょう)(各三両)、芎藭(きゅうきゅう)(原、銖兩を欠く。外台は一両を用い、千金は三両を用う)、杏仁(四十枚)
  右九味(み)、水一斗(と)を以(も)って煮(に)て四升(しょう)を取り、一升を温服す。当(まさ)に小(すこ)しく汗(あせ)すべし。薄(うす)く脊(せ)を覆(おお)い、几(き)に憑(と)りて坐(ざ)す。汗(あせ)出(い)づれば則(すなわ)ち愈(い)ゆ。汗せざれば更(さら)に服(ふく)す。禁ずるところなし。風(かぜ)に当(あた)る勿(なか)れ。并(なら)びに但(ただ)伏して臥するを得ず、欬逆(がいぎゃく)上気、面目浮腫(めんもくふしゅ)するを治(ち)す。

 〔解〕
 大塚 非常に応用範囲が広い薬方です。『古今録験』という本の中の続命湯、命を続ける、死にそうな人の命を続けさせるという有難い薬です。中風ですから半身不随、「痱(ひ)」ということは半身不随でなくても麻痺だけでもいいでしょう。「身体不能自収」ですから、自分で自分の身体を動かすことができない。便所に行こうと思っても歩けないとか、御飯を食べようと思っても箸が持てないとかいうことです。「口不能言」は、言おうと思っても言葉が出ないこと。「冒昧」というのは、はっきりしないことで、痛いところもよくわからないということですね。「拘急」は手足がひきつれることで、手足がひきつれて「不得転側」、つまり寝返りもできないわけです。姚という人が云うのに、これは大続命湯と同じで、婦人の産後で出血の多かったものや、老人小児を治す、というのですから、小児麻痺も治すのかもしれませんね。
 水一斗というと今の一升くらいですから、九味の薬を水一升に入れて四合に煮て、温かいのを一合飲んで、何かうすい着ものを背中にかけて、机のようなものによりかかって坐っていると、汗が出て治る、というのですが、これはね、まさか中風で寝ているのにこんなことをさせるとは考えられないので、喘息のように苦しくて寝ていられなくて、机によりかかって起きているような状態のときではないかと思います。実際にこの薬方は喘息なんかにもよく効きます。汗が出なければまた飲むんです。食物は何を食べてもよろしい、風にあたってはいけない。ただ腹這いなることはできても仰向けになって寝ることはできなかったり、咳込んで苦しく、顔が咳のためにむくんでくるというところですね。
 『千金方』を見ると、大続命湯のほかに小続命湯、西州続命湯とあります。西州続命湯と古今録験続命湯との違いは、西州続命湯は人参がなくて黄芩が入っています。他は同じです。大続命湯は古今録験続命湯と同じです。このいろいろの続命湯は、主薬が全部麻黄になっています。ちょっと考えますと、麻黄にはエフェドリンがあるから高血圧なんかには悪いんじゃないかという風に考えていたのですが、続命湯、つまり命をながらえる薬方の主薬が麻黄であることを思いますと、なぜ麻黄が命をながらえる薬になるのかということを考える必要があるように思うのです。麻黄醇酒湯という薬方もありまして、麻黄は肝臓の薬にもなるので、黄疸に使っていますしね。
 木村 麻黄の主成分はたしかにエフェドリンですが、麻黄は利尿剤ですからね。必ずしもエフェドリンを云々するよりも利尿剤という見地から考えてみたらどうですかね。
  大塚 麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうしゃくしょうづとう)という薬方がありますが、これは黄疸に使っています。そうしますと麻黄というのは、そんなに簡単なものではないようですね。浅田宗伯は古今録験続命湯は中風にかかったばかりでないと効かないようなことを書いていますが、そんなことはなくて、五年も六年も経ったものにでも効果があるし、藤平先生がこれを用いる口訣のようなものを雑誌にお書きになられたので、私も真似して使ってみたのですが、かなりの実証、たとえば大柴胡でも使えるような人に使ってみて、言葉が出るようになったり、足が使えるようになった人がいます。だから何年もたった病気にも効くようです。特に面白いのは、脳出血じゃなくて、脳軟化の半身不随には、この薬方が効くということです。
 木村 麻黄には発汗作用もありますけど止汗作用もありますね。これなんかも考えねばなりませんね。
 大塚 一つの薬でまるきり違った作用があるということは面白いものですね。
 木村 ええ、そこに漢方薬の複雑性があるようです。
 大塚 そうそう、だから八味丸が小便の出ないのにも効くし、小便の出過ぎるのにも効くということになるのです。麻黄もだから血圧を下げる作用もあるのかもしれませんね。
 今から十年以上も前でしたが、八十くらいのおばあちゃんがね、孫がアメリカに行っているので帰ってくるまで生かしてほしいと云うのです。非常にいいおばあちゃんでしてね、高血圧とリウマチと喘息とをもっているのです。それで続命湯に大黄を入れてやったのです。そうしますと、喘息は治るし、血圧は下がるし、便通はつくしで、ずっと調子がよくて、もう九十になりますけど元気で、もうすぐ孫が帰ってくると大よろこびしています。こんな風に長く続けて服(の)んでも平気なんです。
 この続命湯は大青竜湯の加減方で、違うところは、人参、当帰、芎藭なんかが入っているところです。脳軟化症、喘息で夜眠れない人なんかにいいわけです。


【一般用漢方製剤承認基準】

続命湯
〔成分・分量〕 麻黄3、桂皮3、当帰3、人参3、石膏3-6、乾姜2-3、甘草2-3、川芎1.5-3、杏仁2.5- 4

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以上のものの次の諸症 : しびれ、筋力低下、高血圧に伴う症状(めまい、耳鳴り、肩こり、 頭痛、頭重、頭部 圧迫感)、気管支炎、気管支ぜんそく、神経痛、関節のはれや痛み、頭痛、むくみ



『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
  (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

 次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
  〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換
   算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
   むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)  含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
  高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
消化器 吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感、腹痛


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.1ヵ月位(頭痛に服用する場合には5~6回))服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕



〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
 (4)胃腸の弱い人。
 (5)発汗傾向の著しい人。
 (6)高齢者。
   〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
 (7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
 (8)次の症状のある人。
  むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
 (9)次の診断を受けた人。
   高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
   〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕























2015年2月26日木曜日

温胆湯(うんたんとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 増補改訂版 矢数道明著 創元社刊
7 温胆湯(うんたんとう)-不眠症・心悸亢進症・気鬱・ノイローゼ・・・・・・・・・・・・三四
  竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)(略説75)・清心温胆湯(せんしんうんたんとう)・千金温胆湯(せんきんうんたんとう)-全て不眠症に用いる

p.34
7 温胆湯(うんたんとう)〔三因方〕
  半夏・茯苓・ 各六・〇 陳皮三・〇 竹筎l二・〇 枳実・甘草・乾生姜各一・〇
  (一般に黄連一・〇 酸棗仁(炒)三・〇~五・〇を加える)

応用〕  弛緩性の体質で、胃下垂や胃アトニー症のある虚証の不眠症に用いる。胃症状の好転とともに、不眠症もよくなるものである。
 本方は主として不眠症に用いるが、またそれに随伴して起こる驚悸症・心悸亢進症・気鬱症・胃障害等に応用される。

目標〕 主治に病後虚煩とあるが、やや虚証体質のものか、または病後の疲れがまだとれないというもの、あるいは胃下垂症などに併発している不眠症などを目標とする。
 脈もやや虚状で、腹部緊張が少なく、心下痞を訴え、胃内停水を認めることが多い。

方解〕  原方は二陳湯で、胃内停水を去り、竹筎は胃の熱を解し、かつ鎮静的に作用する。枳実は心下の痞えを去り、不安を鎮める能がある。本方に黄連と酸棗仁を加えると、神経の亢奮をさらに鎮静させることになる。
 酸棗仁が品不足のため一・〇としたこともあるが、それでも相当の効果を認めることができた。

変方〕  類似方の必表的なものとして、次の三つの処方がある。
 (1) 竹筎温胆湯(万病回春)
 傷寒日数過多、其の熱退かず、夢寐寧(やす)からず、心驚恍惚、煩燥痰多く、不眠の者此方之を主(つかさど)る。
    柴胡 五・〇 桔梗・陳皮・半夏・竹筎・茯苓 各三・〇 香附子・人参・黄連・ 各二・〇 枳実・甘草・生姜(乾) 各一・〇
 (2) 千金温胆湯(千金方)
 大病後、虚煩眠るを得ざるを治す。此れ胆寒(ヒ)ゆるが故なり。
    半夏 五・〇 陳皮 三・〇 甘草・竹筎・ 各二・〇 枳実・生姜(乾) 各一・〇
 浅田方函に、「本と茯苓なし、今三因方に従う。或は麦門冬、人参を加う。或は黄連、酸棗仁を加う」とあるによって、黄連と酸棗仁を加える。
 (3) 清心温胆湯(古今医鑑)
 肝を平かにし、鬱を解き、火を清まし、痰を化し、眩暈を除き、諸癇の疾を治す。
    半夏・茯苓・陳皮・白朮 各三・〇 当帰・芍薬・川芎・麦門・遠志・人参・竹筎 各二・〇 黄連・枳実・香附・菖蒲・甘草 各一・〇


主治
 三因方(さんいんぽう)には、「心胆虚怯(キョキョウ)(心と胆が虚弱となって)事ニ触レテ驚キ易ク、或ハ夢寐不祥(不吉の夢をみる) 或ハ異象ニ惑ヒ、遂ニ心驚胆懾(ショウ)(心は驚き、胆は恐れる)シ、気鬱シテ涎ヲ生ジ、涎ト気ト博(ウ)チ、変ジテ諸証ヲ生ジ、或ハ短気悸乏、或ハ復(マ)タ自汗、四肢浮腫、飲食味ナク、心虚煩悶、坐臥安カラザルヲ治ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ駆痰ノ剤ナリ。古人淡飲ノコトヲ胆寒ト云フ、温胆ハ淡飲ヲ温散スルナリ。此方ハ露枢流水湯ニ根柢シテ、其ノ力一層優トス。後世の竹筎温胆、清心温胆等ノ祖方ナリ」とある。
 また竹筎温胆湯について、方函口訣に「此方ハ竹葉石膏湯ヨリハ稍実シテ、胸隔ニ鬱熱アリ、咳嗽不眠ノ者ニ用ユ。雑病ニテモ婦人体中鬱熱アリテ、ガイソウ甚シキ者ニ効アリ。不眠ノミニ拘ハルベカラズ。又千金温胆、三因温胆ノ二方ニ比スレバ、其ノ力緊ニシテ、温胆柴胡二方ノ合方トモ称スベキモノナリ。且ツ黄芩ヲ伍セズシテ、黄連ヲ伍スルモノ、龔氏(「万病回春」の著者龔廷賢)格別ノ趣意ナルコトヲ深ク味フベシ」とあって、類方三方の別を示している。

鑑別
酸棗仁湯 49 (不眠・疲れて眠れない、虚労性)
竹筎温胆湯 常75 (不眠・咳嗽、胸内鬱熱)
黄連解毒湯 15 (不眠・充血、上衝、不安)
○甘草瀉心湯 119 (不眠・心下痞硬、悪心、下痢)
帰脾湯 28 (不眠・心労、貧血)

治例〕 (一) 不眠症と悪夢
  三〇歳の婦人。一〇年前より頑固な不眠症に苦し日%現在もなお生きた屍のようであると嘆いている。顔色は蒼白で、痩せ衰え、弛緩性体質で胃下垂症といわれていた。二年前より頑固な耳鳴りが加わり、不眠と耳鳴りに攻められて生きた心地がないという。
 この患者の不眠の状態をよくきいてみると、眠りかけたと思うと、たちまち恐ろしい悪夢におそわれる。あらゆる恐ろしい場面が次々と展開し、それこそ地獄図絵のような夢が連続し、驚きと恐れで目がさめると、その恐ろしさで眠れなくなるという。あらゆる種類の睡眠薬、持続睡眠療法、電撃療法も効なく、信仰団体にも入ったが、この六年間、一日といえども安眠できる日がなかった。
 脈腹ともに軟弱で、胃内停水を認め、温胆湯加黄連・酸棗仁を与えたところ、数日後に効果があらわれ、一ヵ月後には耳鳴りも軽くなり、全く別人のようになった。服薬数ヵ月、その間に不眠のこともあ改aたが、大体において一〇年来の悩みから解放され、夫とともに渡米し、大学に通っているという便りが来た。
(著者治験、漢方の臨床 二巻一一号)
 (二) 不眠症と鬱病
 四三歳の男子。二~三年前から胃のぐあいがわるくて気分がすぐれず、不眠に悩むことが多かった。一年前転居してから、よくよく神経質になり、気分が引き立たず、憂鬱となり、不安と不眠に苦しむようになった。あらゆる治療をしたが好転せず、神経科で鬱病といわれた。
 一見するとそれほど痩せてはいないし、顔色も悪くはない。心下部痞え、臍傍の動悸が亢ぶっている。これに温胆湯加黄連・酸棗仁(各一・〇)を与えると、一週間目ごろから心に落ちつきが出て、よく眠れるようになった。前後三ヵ月間服用したが、胃症状もすっかりよくなり、体重も増加して常堂たる恰幅となり、不眠と憂鬱の苦しみから解放された。
(著者治験、和漢薬 一三二号)


 (三) 不眠と健忘症
 五一歳の新派の俳優であるが、二年ほど前から胃のぐあいが悪く、全く空腹感というものがなくなってしまった。それは不眠症をまぎらすため、毎朝睡眠薬を酒で飲むくせがついてからのように思うといっている。最近では頭がぼんやりして、舞台でせりふを忘れるようになった。また妙に気おくれがして、名優と相対して舞台に立つと、上気して口が乾いて、おどおどして動悸がする。いままでこんなことは絶対になかったのに、なんとしても押えることができないという。この調子では舞台も勤まらないといって、すっかり悲観していた。
 痩せ型で顔色は普通、心下部に少し抵抗がある。温胆湯加減を与えると、睡眠薬をのまなくてもよく眠れるようになり、胃の症状も大変よくなり、一ヵ月後には不眠症と健忘症と不安感がすっかりとれたといってよろこばれた。
(著者治験、和漢薬 一三二号)



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊 
p.133
 ③温胆湯(うんたんとう) (千金)
 半夏 茯苓各四・〇 陳皮 竹筎各二・〇 枳実 生姜各一・五 甘草一・〇 (一六・〇)

  この方は千金方に”大病の後、虚起眠るを得ざるは、これ胆寒きが故なり”とあるように水飲停滞して胆が寒え(古人は停飲により胆が寒えて精神不安を起すと 考えていた)、それが原因で精神不安を起し、物に驚き易くなり不眠の症を訴える場合に用いられる。つまり本方は、その名の通り寒えた胆を温め水飲を排泄さ せる作用があり、同じ虚煩による不眠症でも古方の酸棗仁湯のような貧血性のものでなく停水を目標とする点に特徴がある。浅田流では両者を合方する意味で、 本方に黄連一・〇 酸棗仁四・〇を加えている。不眠症。精神不安。



『図説 東洋医学 <湯液編Ⅰ 薬方解説> 』 
山田光胤/橋本竹二郎著 
株式会社 学習研究社刊

温胆湯(うんたんとう)

  やや虚  
   中間  
  やや実  
   実   

● 出典 千金方

目標 平素,胃腸が弱く,胃アトニーや胃下垂のある人。また,大病後の衰弱のため胃腸の機能が衰えた人。元気が回復せず,心下部に振水音を,臍傍(さいぼう)に動悸亢進を認める。不安や恐怖を生じ,気分は憂鬱(ゆううつ)で不眠,盗汗があり,食欲はなく,吐きけを伴うこともある。

応用 神経症,不眠症,大病後の衰弱による虚煩。

(その他:胃下垂症,胃アトニー)

説明 茯苓飲(ぶくりょういん)から朮(じゅつ)、人参(にんじん)を去り,半夏,甘草,竹筎を加えたもの。半夏,茯苓,枳実,橘皮には,胃内の停水を去る効がある。また竹筎には鎮静作用があって,睡眠を促す効果がある。
 

温胆湯
半夏(はんげ)5.0g 枳実(きじつ)2.0g 甘草(かんぞう)2.0g 体操2.0g 乾生姜1.0g 橘皮3.0g 竹筎3.0g 茯苓4.0g 


漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
14.温胆湯(うんたんとう)(千金方)
   付.加味温胆湯

 半夏5.0,茯苓4.0,竹筎,陳皮各3.0 枳実,甘草,大棗,乾生姜 各2.0

目標〕 平素,胃腸が弱く,胃アトニーや胃下垂のあ識ような人,あるいは 大熱,大病のあとで,胃腸機能が衰えたような人が,元気が回復せず,気が弱くなって些細なことに驚いたり,なんでもないことに胸さわぎして,息がはずんだり 動悸がしたりし,気分は憂うつで,夜はよく眠れない.また たまたま眠れば,つまらない夢ばかりみていて,起きてから熟睡感,睡眠による満足感が少しもなく,自然に汗がでたり,盗汗,ね汗があったり,頭から汗が出やすかったりする.食欲はなく,嘔きけや乾嘔(からえずき)がおこることもあり,腹証としては,心下部の振水音や,臍傍の動悸亢進 などをみとめる.

説明〕 本方中の 半夏,茯苓,枳実,陳皮は,そ公単れ痰飲 すなわち 胃内その他に停滞した水分を去る効がある.この点からみても和田東郭の説は たしかに1つの見識である(後述).
 本方は 茯苓飲の朮、人参を去って,代りに半夏,甘草,竹筎を加えたものとみることができる.朮がなくて甘草があ識のは,茯苓飲より胃内停水の程度が軽く,半夏があるのは,胸隔中に水飲のあることを暗示している.
 また 竹筎には,鎮静作用があって,睡眠を促す効果がある.

付.加味温胆湯(かみうんたんとう)

 温胆湯に遠志,玄参,人参,地黄,酸棗仁各 2.0 を加える。
 本方は,不眠を治す効果がとくにすぐれている.またこれに,更に黄連 2.0 を加えてよいことがある.
 衆方規矩につぎのような例がのっている.ある人が,主君と口論したため閉門になって,1年以上も家に閉じこもっていたところ,熱感があって苦しく,腹が張って嘔吐し,夜は眠れないというようになった.他の医者は,みな陰虚火動だといって治療したが治らなかった.自分は,気うつにより痰飲を生じた(気がうっ滞したので水分も停滞した)からであると思って,加味温胆湯に黄連を加えて用いたら,病状がよくなった。

参考〕 三因方の主治には,“心胆虚怯(きよきよう)し,事に触れて驚き易し”となっている.和田東郭は,これを「事に触れて驚きやすきは即ち短気(呼吸促迫)の同類にて,心胸畜飲(水飲-水毒)のせいなり.その畜飲を除き去るときは,右の症また必ず癒ゆ.これを以て心胆虚怯と心得るは大なる僻ごととしるべし」と蕉窓方意解で述べている.
 しかし 実際には,平素胃腸が虚弱で胃内停水のある人でも,大病のため衰弱をきたしたような人でも,同じように神経過敏となりやすいものである.したがって 三因方の条文も,東郭の説も,何れも是であり且つ非であるといってよかろう.

応用〕 神経症,不眠症,胃下垂症,胃アトニー症,大病後の衰弱による虚煩 など.
  
鑑別〕 別項にあり.
 
症例〕 昭和37年頃,1人の青年がたずねて来ました.その人は,5,6年前から夜眠れず,各所の大病院にかかって薬をもらいましたが,どんな薬も初め2,3日は効くのですが,その後は絶対に効果がなくなるのだそうであります。それで,いろいろな薬を自分で買い求めてのみました.しかし それらの薬も,同じ量ではだんだん効かなくなり,量を次第に増して,しまいには手足がしびれるほどなのに,睡眠の方はすこしもとれなかったそうです.そのため 夜になるのがつらく,夜中の町を1人でうろうろ歩きまわったり,寝床の上に坐ったりして,ひと晩中すごすことがたびたびであったそうであります.
 この患者に この処方を投与しましたところ,はじめは夜眠れなくても,薬をのんでいると気分が落ちつき,寝床に横になっていられるので,翌日それほどつらくないといっていましたが,次第によく眠れるようになりました(漢方で治る病気の話 第2集 より).
 この症例は,帰脾湯の例としてあげたものである.ところが この患者には,はじめ 加味温胆湯 を投与したのである.すると,この処方をのんだ晩から,全身の苦しさが軽くなって,気分が楽になったと患者は報告した.わたしは,そのまま 加味温胆湯 を続けようかと思ったが,1週間目に診察したさい,発病時の様子をよくたずねてみたところ,精神的な問題があって,いろいろと思いなやんでから眠れなくなったということであった.そこで帰脾湯に変えてみたら,これでもやはり効果があって,前記のような結果を得たのである.
 患者は,痩せて顔色の悪い,腹部で心下部に振水音をみとめるような人であった.

p.350
3.温胆湯(うんたんとう)
 1) 帰脾湯(きひとう) 内容,目標,効果の上で温胆湯とよく似ている.ただ,この方は “思慮多くして脾をやぶる” もので,精神過多が原因で不眠となり,神経衰弱症状を呈して不安やとりこし苦労が多いものである.
 温胆湯は “虚煩して眠るをえず” とあって,身心の衰弱により,身体が苦しくて眠れないもの,あるいは 神経過敏のため眠れない場合である.
 和田東郭は,蕉窓方意解で,気うつだけのものには帰脾湯でよいが,水飲を兼ねるものは温胆湯であるといっている.また 纂方規範には,気うつがあれば気滞がおこり,また 気が うっ滞すればその結果水飲が生ずる故,帰脾湯だけの場合はむしろ少ない といっている.

 2) 酸棗仁湯(さんそうにんとう) 体力が衰えて,心身が疲れやすく,疲れると反って眠れず眠ろうとすればするほど眠れないようなものである.また 反対に,嗜眠の傾向があって眠りすぎるものにもよい.
 ただ,わたしはこの処方で余り効いたことがない.纂方規範にも,金匱の酸棗仁湯の証は少ないと書いてある.

 3) 朱砂安神丸(しゅしゃあんしんがん) 不眠によく用いられ,手軽に兼用出来るものである.
 考えごとが多く,不安,恐怖,強迫観念 などがあり,驚きやすく,すぐ動悸して眠れないもので,温胆湯証ともよく似ているが,必ずしも衰弱者や虚弱者でなくてもよい.


『伝統医学 Vol.3 No.2(2000.6)』
方剤と生薬の入門購座 8
去痰法と二陳湯・温胆湯・半夏白朮天麻湯 
平馬 直樹 平馬医院

 熱痰証には,清気化痰湯(せいきけたんとう)などが基本方剤ですが,ここではよりなじみ深い温胆湯を取り上げましょう。温胆湯は,『三因極一病症方論』を出典とする方剤で, 理気化痰・清胆和胃の効能があり,その組成は,半 夏・陳皮・茯苓・竹筎・枳実・炙甘草・大棗(たいそう)・生姜か らなります。すなわち二陳湯の発展方剤といえます。 温胆湯の主治証は,胆胃不和・痰熱内擾 (ないじょう)証で,熱痰 が少陽三焦経に阻滞して,清陽の上昇を阻み,熱痰が 上擾して虚煩・不眠・動悸・眩暈などを生じます。少陽胆経に熱がこもり,口苦く,涎を吐し,驚きやすく心神不安となります。胆熱が胃を犯し,食欲不振・悪心が生じます。
 ふつう熱痰証には,貝母・栝楼・胆南星などの薬性が寒涼な清化熱痰薬を用いますが,温胆湯は化痰の基本方剤である二陳湯に竹筎・枳実を加えたものです。二陳湯の強力な化痰の力を借りて,清熱化痰・止嘔除煩の竹筎と行気消痰の枳実を加えて鬱熱を清解しようとする方意です。清熱を強力に行うよりも,少陽経を疏通させて,鬱熱を取り除こうとするものです。熱状が盛んであれば黄連(おうれん)などの清熱薬を加えれば清熱の力が強まります(黄連温胆湯(おうれんうんたんとう) )。
 また胆を温めるという方剤名も,熱痰証に用いるようには思いにくいですね。胆は六腑の1つで「中正之官」と呼ばれ,決断力を司るとされます。決断力と勇気が衰えビクビクしたり,ちょっとしたことにおびえたり驚きやすい状態を胆怯(たんきょう)証といいます。胆怯は,俗にいう「胆(きも)が冷えた」状態なので,不安感や驚きやすいのを治す温胆湯は,きもを温めるという意味で,このように命名されたのでしょう。胆熱を除去することによって胆怯を改善するもので,温熱の作用があるわけではありません。熱に偏った精神不穏に用 いるものです。
  

※酸素仁湯? → 酸棗仁


『衆方規矩解説(49)』
日本漢方医学研究所常務理事 杵渕 彰

不寝門・怔忡門


  本日は、不寝門、怔忡門についてお話しいたします。
 まず不寝門ですが、これは不眠についての処方の解説です。このテキストでは三つの薬方が出されており、その加減方が加えられております。不眠という症状は、漢方医学的にどのように説明されていたのかといいますと、中国隋時代の巣元方という人の『病源候論』に「衛気が夜になっても陽の部分ばかりまわって陰の部分に入らないためである」と書かれております。このような言い方ではわかりにくいのですが、気持が落着かず、頭が冴えているような状態という程度のことでしょうか。現代生理学で、覚醒時と睡眠時の血行動態の違いがわかっておりますが、このような点と共通するところもあり、興味深いものと思われます。
 また、漢方的な不眠の原因としては、五行でいう心熱と胆冷があげられております。五行でいう心とは木・火・土・金・水の火な配当配当究標、笑いとか高揚性を意味し、胆は肝、木に配当され、怒りとか攻撃性、決断力を意味します。胆の冷えとか、胆の虚は、不安感や脅えのような意味になります。ここで出ている温胆湯(ウンタントウ)は、名前の通り冷えている胆を温める薬ということです。心熱は気分の高揚した興奮状態です。胆冷は胆虚と表現されることもありますが、不安、焦燥感の状態と考えられます。
 加藤謙斎という江戸時代の医師に『衆方規矩方解』という、このテキストの『衆方規矩』についての解説や、先人の口訣などを集めた本がありますが、それによると不眠は「これが驚悸、怔忡のもとぞ。これらの類いの惣まくりは帰脾湯(キヒトウ)に安神丸(アンシンガン)を兼用すべし」とあります。このまま受け取るわけにはゆきませんが、不眠という症状が重視されていたことがうかがわれます。
 このテキストに記載されている薬方は、胆虚の時、病気のあとなどで、虚証になっていて不安、焦燥感が強く、不眠の時に使われるものです。ここには述べられておりませんが、心熱の不眠に使われる薬方は三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)とか、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)のような黄連(オウレン)剤が主であります。

■温胆湯
 最初は温胆湯(うんたんとう)です。テキストを読みますと「心虚胆怯れ、事に触れて驚き易く、夜不祥の異像を夢みて心驚くことを致し、気鬱して痰涎を生じ、或いは短気、悸乏、自汗、飲食味なく、或いは傷寒一切の病後虚煩して眠臥することを得ざるを治す」とあります。
 薬味は「守(半夏(ハンゲ))、陳(陳皮(チンピ))、苓(茯苓(ブクリョウ)、実(枳実(キジツ))各二匁、茹(竹筎(チクジョ))一匁、甘(甘草(カンゾウ)五分。右、姜(生姜(ショウキョウ))、棗(大棗(タイソウ))を入れて煎じ服す」と八味からなっております。後世方の場合、生姜と大棗は数えずに、これを六味温胆湯(ロクミウンタントウ)ということもあります。
 この薬方は中国の南宋、十二世紀後半に陳言が著わした『三因極一病証方論』という本で、通称『三因方』の虚煩門に収載されている薬方です。同名異方が『肝胆経』虚実寒熱の証治のところに、虚労で起きるめまいや、歩行困難に使う薬方として出ております。このテキストにあるものと同じ温胆湯の方は、原典では「大病ののち虚煩眠るを得ざるを治す。胆寒ゆるが故なり。この薬これを主る。また驚悸を治功」となっております。この温胆湯は現在でも使われている薬方ですが、あとに出てくる加減方や加味温胆湯(カミウンタントウ)とともに使用目標が共通しているところも多いので、あとで一括してお話しいたします。
  テキストで次にある「一方」というのは、「胆の虚、痰熱し、驚悸して眠らざるを治す。前の方に、茯苓を去りて生姜を加う」とあります。これは唐の時代の孫思邈の『千金要方』に記載されているものです。書かれた時代としては、前の『三因方』よりもさらに前になりますが、茯苓の入っている三因方温胆湯の方が多く使われてきておりますので、このテキストではこちらの『千金要方』の温胆湯をあとにしているのだと思います。
 テキストではもう一つ「一方」として「痰火ありて驚惕し、眠らざるを治す。驚悸の症痰火に属して気虚を兼ねる者、宜しく痰火を清しうして以て虚を補うべし」とあり、薬味は「参(人参(ニンジン)、伽(白朮(ビャクジュツ))、神(茯神(ブクシン))、沂(当帰(トウキ))、[生也](生地黄(ショウジオウ))、酸(酸棗仁(サンソウニン))炒る、門(麦門冬(バクモンドウ)、守(半夏)、実(枳実)、連(黄連)、茹(竹筎(チクジョ))、丹(山梔子)各等分、辰(辰砂(シンシャ)五分別、甘(甘草)二分。右生姜一片、大棗一ヶ、梅(烏梅(ウバイ))一ヶ、瀝(竹瀝(チクレキ))を入れて煎じ、辰砂の末を調えて服す」というものが記載されております。これは『万病回春』の驚悸門の温胆湯で、このテキストにある条文の前半が記載されております。この方も現在しばしば使われておりますが、辰砂、烏梅、竹瀝を去り、生地黄の代わりに乾地黄(カンジオウ)を使用しております。

■加味温胆湯
 次に加味温胆湯(カミウンタントウ)として「病後虚煩して睡臥することを得ず。及び心胆虚怯し、事に触れて驚き易く、短気悸乏するを治す。守(半夏(ハンゲ)三匁半、陳(陳皮(チンピ)二匁二分、茹(竹筎(チクジョ))、実(枳実(キジツ))各一匁半、苓(茯苓(ブクリョウ))、甘(甘草(カンゾウ))各一匁一分、遠(遠志(オンジ))[玄彡](玄参(ゲンジン)、参(人参(ニンジン))、芐(地黄(ジオウ)、酸(酸棗仁(サンソウニン))炒る、各一匁。右姜(生姜(ショウキョウ))、棗(大棗(タイソウ))を入れて煎じ服す」と述べられております。
 これは『万病回春』の虚煩門の加味温胆湯と条文が一致しており、薬味も玄参と五味子が入れ替わっているだけで一致しております。ただし、このテキストでは生薬名が略字となっておりまして、玄参[玄彡]と五味子(玄)とは間違いやすい字になっておりますので、『万病回春』の加味温胆湯とまったく同じものと考えてもよいかもしれません。

 以上、四つの薬方をあげて「按ずるに病後に虚煩して眠らざる者に前の方を選んで数奇を得る」と書かれております。
 以上の薬方は『三因方』『千金方』『万病回春』の温胆湯と、やはり『万病回春』の加味温胆湯の四薬方です。これらの薬方の中で、三方以上に共通している生薬は半夏、陳皮、茯苓、枳実、竹茹、甘草、生姜、大棗の八味と多く、一つの薬方群といえましょう。この一群の薬方のもととなっているのは「虚煩眠るを得ざるを主る方」という小品流水湯(ショウヒンリュウスイトウ)であるといわれております。これは半夏、粳米(コウベイ)、茯苓の三味からなるもので、さらにこれは『黄帝内経霊枢』の半夏湯(ハンゲトウ)から出たものといわれております。また別の見方をいたしますと、これは二陳湯(ニチントウ)が原方と考えることもできましょう。また頻用処方である竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ)もここには出てきておりませんが、このグループに入れられる薬方であります。
 これらの薬方の使い方ですが、先ほどお話ししたように、虚証で神経過敏になっている不眠に用いられておりますが、テキストにあるように、病後とか、家族の看病疲れとか、過労などで虚証となった人や元来胃腸の虚弱な人の入眠障害、就眠障害に効果があり、しばしば動悸を伴い、息切れや寝汗を伴うこともあります。顔色は悪く、腹証を見ても胃内停水があり、臍傍の悸が触れることが多いようです。
 不眠以外にも神経症領域に使われておりますが、香月牛山は『回春』の温胆湯を加減温胆湯(カゲンウンタントウ)と呼んで「この方は痰を治するのみならず、狂癲癇を治するの妙剤なり」と述べております。また、浅井貞庵は、『三因方』の温胆湯について「その容態にては上逆、めまい少しも動かせず、立つこともできん」ような状態に用いると書いております。これら四薬方の中で、現在も多く使われておりますのは『三因方』と『回春』の温胆湯です。この二つの鑑別はなかなか困難でありますが、『三因方』の温胆湯に比べれば『回春』の温胆湯の方が黄連(オウレン)、山梔子(サンシシ)が入っている分やや煩燥の度合いが強く、不眠を苦痛に感じ、じっと横になっていられない人の方が多いようです。
 目黒道琢の『餐英館療治雑話』に「温胆湯の訣」という記事がありますが、その中で「不眠には帰脾湯(キヒトウ)、温胆湯、抑肝散(ヨクカンサン)のそれぞれの場合があるのでよく鑑別しなければならない」と述べております。このうち温胆湯のゆくものは「痰の気味があり、そのため息切れや驚悸、怔忡などの症状があれば温胆湯の効かないはずはない」と言い切っております。しかし、「急に効果を見ることはむずかしいので、転方せずに治療すべきだ」といっております。
 不眠は、現代医学的には、原因別に環境性、身体性、精神病性、脳器質疾患性、神経症性、神経質性、老人性、薬物禁断性、本態性というように分類されていますが、温胆湯類はこの分類の中の神経質性、神経症性の不眠と、精神病性の不眠の一部に効果があると思います。また、このような神経質性不眠の方は不眠を主訴として受診される方が多いので、このテキストでは温胆湯類のみをとり上げているのでしょう。
 そのほかに不眠に用いられる薬方は、先にお話しした心熱の場合のような興奮のために眠れないものには黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)などの黄連剤、この興奮とは違ったイライラ感での不眠には抑肝散など、抑うつ気分に伴うものは大柴胡湯(ダイサイコトウ)柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)帰脾湯などがしばしば使われます。心下痞硬を伴う時は甘草瀉心湯(カンゾウシャシントウ)がよく効きます。また『金匱要略』の酸棗仁湯(サンソウニントウ)は有名であり、とても素晴らしい効果を見ることがありますが、対象となる患者は温胆湯のものと近く、ターゲットはより狭いものと私は考えております。したがって温胆湯の方が使いよいように思っております。
 しかし、浅田宗伯は酸棗仁湯と温胆湯との鑑別について次のように述べております。すなわち「もし心下肝胆の部分にあたりて停飲あり、これが為に動悸して眠りを得ざるは温胆湯の症なり。もし胃中虚し、客気膈を動かして眠るを得ざる者は甘草瀉心湯の症なり。もし血気、虚燥、心火亢ぶりて眠りを得ざるものは酸棗仁湯の主なり」といいますが、実際には温胆湯と酸棗仁湯との鑑別はむずかしいように思います。
 また、『三因方』の温胆湯の加味方では、このテキストの不寐門の最後に「妊娠、心驚き、煩悶して眠らず。温胆湯に人参、麦門冬、柴胡を加えて安し」とあります。妊娠中は精神安定剤や睡眠誘導剤は催奇形性の問題があって使いにくいものですから、この加味方を試みる機会もあるかと思います。ここに出ておりませんが、浅田宗伯の『方函口訣』には加味方として麦門冬、人参の加味と、黄連、酸棗仁の加味の方法が出ております。黄連、酸棗仁の加味方ですと『回春』の温胆湯に近づきます。この加味方がよく使われておりまして、大塚敬節先生や矢数道明先生などの治験報告もこの加味方が多いようです。
 また、亀井南冥は石膏を加えて釣藤散(チョウトウサン)に近い使い方をしていたようですが、石膏を加えると『回春』にある高枕無憂散(コウチンムユウサン)に近い方意になるのではないかと思います。
 『三因方』の温胆湯と加味温胆湯の治験報告はたくさんありますが、このテキストに症例が一つ出ておりますので読んでみます。「一人主君と口論を為して戸を閉じること一年余り、心熱煩満し、痰火心を攻め、腹張り、嘔逆し、夜寝ること能わず。他医皆言う。陰虚火動なりと。而れども治応ぜず。予謂えらく、気欝、痰を生じて然りと、加味温胆湯に黄連を加えて安し」というものです。この症例は、気欝から水毒を生じて不眠となったというものに、煩満があるので黄連を加えたものと思われます。
 温胆湯の治験報告に不眠というのが多いのは当然ですが、大塚敬節先生の治験に少し変わったものがありますのでご紹介いたします。「四八歳の婦人で、半年前に腹石の手術を行ない、その後ひどく冷えるようになり、頻尿のため不眠となった。また三叉神経痛があり、以前から眼瞼の痙攣も伴う」という症状で、便秘がちの人です。この患者に温胆湯加酸棗仁、蘇葉、大黄を二週間投与したところ、不眠も神経痛もなくなったというものです。
 腹証などの所見が記載されていないのが残念ですが、興味深い症例と思います。なお、ここでの温胆湯は『三因方』の温胆湯であろうと思います。


『薬局製剤 漢方212方の使い方』 第4版
埴岡 博・滝野 行亮 共著
薬業時報社 刊


K8. 温胆湯(うんたんとう)

出典
 唐時代(618~907)の千金方巻12に出ている温胆湯には茯苓が入っていない。茯苓の組みこまれた温胆湯は次の宋時代(960~1279)の三因方に出てくる。

構成
 温胆湯の処方構成は,半夏,陳皮,生姜,茯苓,甘草が水毒を駆逐する基本処方の二陳湯で,それに清胃・順気の竹茹と,破気の枳実を加えたとみられる。

目標
 千金方は『大病のあとのノイローゼや不眠は胆寒のために起るものであるから温胆湯で温めればよい」といっている。胆寒は淡飲(水毒)のために起るので,水毒を温散させればよいというのである。
 水滞が起るに従って気滞も起るのが当然で,気水の症状である心悸亢進,気うつ,驚悸などが現われてくる。
 本方は,その原因である水滞を処理すると同時に現象である気滞を強力な破気剤で除去しようとする方意で,とくにこの順気・破気を目的とする竹茹と枳実の薬能に注目しなければならない。
 竹茹はハチクの幹茎の外皮を去った後の皮で,中空に面した方の白い部分は用いない。気味は甘微寒というが,なめてみるとやや苦い程度で,そんなに強い薬効があるようにみえないが生理活性を調べると興味ある反応を示すそうで今後が期待できる。同植物の同じ部分を炙って採取した竹瀝は脳卒中などの後遺症である中風の口噤反張を順気して緩める作用があり竹茹もそれほどではないが順気・鎮静の効があると考えられる。
 枳実も破気の要薬で,結実を破るとか,破堅とかのことばで薬能が現わされているが,気滞を解除するに他ならない。
 ミカン属に共通して存在する成分としてシネフリンが最近注目されているが,青皮が最も強力で枳実がそれに次いでいる。この成分の生理活性破堅とか破気とかの薬能とどう結びつくかはまだ不明ではあるが,竹茹,枳実の二味の増加によって二陳湯には考えられない不眠や興奮の鎮静などの効能が出てきていることは注目に値する。
 いうまでもぬ二陳湯は胃弱の人に適した処方だから温胆湯も胃腸虚弱者に安心して使用できる。

応用
(1) 不眠症,虚弱な人の不眠,病後の不眠。
(2) 心悸亢進症,気うつ症,胃障健。

留意点
◎竹茹と枳実が主成分なのでとくに撰品に注意する。竹茹は往々にして竹細工の副産物である竹屑が入荷する。これは異物の混入がはげしいので避けねばならない。中国産の整然とした美しい品ほどでなくとも,特別に薬用に調製されたものを撰ぶべきだ。
◎枳実はミカン属の未熟摘果品(まびき)が薬用に調整されるから,往々にして落果(みおち)が混入される。また乾燥中に腐敗したものもある。これらは異臭異味があるため避ける。芳香のあるものを撰びたい。
◎興奮のはげしい場合,黄連,酸棗仁を加味することが多い。別包で投与するか,あるいは竹茹温胆湯(K132)をえらぶ。

文献
1.千金要方(台湾・國立中國医薬研究所版)P.217
2.大塚敬節ら・漢方診療医典(昭44)p.217
3.浅田宗伯・勿誤薬室方函口訣(明11)上巻72丁オ
4.下津寿泉・校正衆方規矩(寛保2)下巻4丁ウ
5.三川潮・生薬の分解酵素阻害作用・ファルマシアVol.17,No.5 (1981)


K2胃風湯
〔成分・分量〕
 半夏    4.0
 生姜(干)  1.0
 陳皮    2.0
 枳実    1.5
 茯苓    4.0
 竹茹    2.0
 甘草     1.0  
  以上7味 15.5

〔効・効果〕
胃腸衰弱者の不眠・神経症

〔ひとこと〕
●病後の不眠には麦門冬・人参の加味がよいと浅田門では言っている。これは生脉散(弁惑論-人参・麦門冬・五味子)を合方したことになる。別包ですすめる。


『改訂 一般用漢方処方の手引き』 
監修 財団法人 日本公定書協会
編集 日本漢方生薬製剤協会

温胆湯
(うんたんとう)

成分・分量
 半夏4~6,茯苓4~6,生姜1~2(ヒネショウガを使用する場合3),陳皮2~3,竹茹2~3,
 枳実1~2,甘草1~2,黄連1,酸棗仁1~3,大棗2(黄連以降のない場合も可) 

用法・用量
 湯

効能・効果
 体力中等度以下で,胃腸が虚弱なものの次の諸症:不眠症,神経症

原典 備急千金要方

出典 三因極一病証方論

解説
 本方は茯苓飲(茯苓,朮,人参,生姜,橘皮,枳実)の朮,人参を去って代わりに半夏,甘草,竹茹を加えたものと見ることができる。
 朮がなくて甘草があるのは,茯苓飲より胃内停水の程度が軽く,半夏があるのは胸隔中に水飲があることを暗示。古人は水飲停滞して胆が寒え,精神不安を起こすと考えていた。
 虚煩による不眠症でも酸棗仁湯のような貧血性のものではなく停水を目標とする。また二陳湯の変方とも考えられる。


生薬名
参考文献名
半夏 茯苓 生姜 乾生姜 陳皮 竹茹 枳実 甘草 黄連 酸棗仁 大棗 乾姜 枳殻
処方分量集 6 6 - 1 2.5 2 1 1 1 1~2 - - -
診療の実際 6 6 3 - 2.5 2 1.5 1 - - 1 - -
診療医典    注1 6 6 3 - 2.5 2 1.5 1 - - - - -
症候別治療  注2 4 4 3 - 2 2 1.5 1 - - - - -
処方解説    注3 6 6 - 1 3 2 1 1 1 1~3 - - -
後世要方解説 - - - - - - - - - - - - -
漢方百話    注4 6 6 - 1 3 2 - 1 1 1 - - 1
応用の実際  注5 5 4 - 2 3 3 2 2 - - 2 - -
明解処方    注6 4 4 1.5 - 2 2 1.5 1 - - - - -
漢方大医典  注7 6 6 3 - 2.5 2 1.5 1 1 3 - - -
近代漢方薬  注8 6 6 - 1 3 2 1 1 1 1~3 - - -
診療三十年  注9 6 6 3 - 2.5 2 1.5 1 - - - - -
臨床医の漢方 注10 6 6 - - 2.5 2 1.5 1 - - - - -

注1 弛緩性体質で胃下垂やアトニー症のあるものの不眠症・驚悸症,心悸亢進症,気鬱症。
注2 大病後疲れて眠れないもの,驚悸症,気鬱。
注3 弛緩性体質で胃下垂症や胃アトニー症のある虚証の不眠症,驚悸症,心悸亢進症,気鬱症。
注4 胃障害による不眠症。
注5 胃腸虚弱,胃アトニー,胃下垂,大熱・大病後の胃腸の機能の衰えた人の元気回復,驚悸症,胸さわぎ,動悸,憂鬱,不眠症,食欲不振,嘔き気,乾嘔。
注6 虚煩による不眠症,精神不安。
注7 病後,胃の機能が衰え,みぞおちで振水音を認めるものの不眠症。
注8 胃の虚弱者の不眠症,心悸亢進症,驚悸症,気鬱症。
注9 胃障害のあるものの不眠症。
注10 不眠症,気鬱。

参考:処方解説では,三因方を出典とし,9生薬からなる薬方を温胆湯としている。処方分量集,漢方百話,漢方大医典では温胆湯加味方として取り扱っている。また,明解漢方処方は,出典を千金方とし黄連,酸棗仁,大棗を削除している。


『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
  (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

 次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)胃腸の弱い人。

(4)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
   含有する製剤に記載すること。〕
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(6)次の症状のある人。
  むくみ
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)次の診断を受けた人。
  高血圧、心臓病、腎臓病
    〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕

3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)胃腸の弱い人。
 (4)高齢者。
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
 (5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
 (6)次の症状のある人。
  むくみ
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
 (7)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

2015年2月17日火曜日

烏薬順気散(うやくじゅんきさん) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.642 脳溢血による手足疼痛・シビレ感・顔面神経麻痺・五十肩
 
5 烏薬順気散(うやくじゅんきさん) 〔和剤局方〕
 烏薬・陳皮・白強・麻黄・川芎・桔梗 各二・五 乾姜・枳殻 各二・〇 白芷・甘草 各一・五

 脳溢血で、手足骨節の疼痛、言語障害、筋脈引きつり痛み、肩および上肢の疼痛、運動障害、シビレ感などを訴え、脚弱、歩行困難のものを治す。
 脳溢血による手足疼痛・手足シビレ感・肩臂疼痛・四十腕・五十肩・顔面神経麻痺・脚気などに応用される。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
烏薬順気散(うやくじゅんきさん) [和剤局方]

【方意】 気滞による四肢麻痺・疼痛・言語障害・歩行困難等のあるもの。時に表の寒証を伴う。
《太陰病から少陽病.虚実中間証》

【自他覚症状の病態分類】

気滞 表の寒証


主証 ◎四肢麻痺
◎顔面麻痺
◎言語障害
◎歩行困難






客証  目眩
 肩背強急
 四肢痛
 心下痞
 抑鬱気分


 頭痛
 悪寒
 発熱
 


【脈候】 沈で力あり。

【舌候】 

【腹候】

【病位・虚実】 寒証にも熱証にも偏らず、陰陽移行期の太陰病気を中心に用いる。気滞という病態は陽証よりも陰証に寄っている。虚実の偏りも少ない。
【構成生薬】 烏薬2.5 陳皮2.5 白姜蚕2.5 乾姜2.5 麻黄2.5 川芎2.5 桔梗2.5 枳殻2.0 
        白芷1.5 甘草1.5

【方解】 烏薬・陳皮は温性の抗気滞作用があり、枳殻もこれに協力する。更に白姜蚕の鎮痙作用、川芎の駆瘀血作用・抗気滞作用、麻黄・白芷の中枢神経興奮作用、桔梗の降気作用が組合わされて、気滞より派生する麻痺・言語障害・歩行困難・肩背強急等を治す。大熱薬の乾姜は機能亢進に役立ち、甘草は諸薬を調整する。一方、麻黄・白芷・乾姜は表の寒証にも有効に作用する。

【方意の幅および応用】
 A 気滞:四肢麻痺・疼痛・言語障害・歩行困難等を目標にする。
   脳卒中による四肢疼痛、四肢しびれ、肩臂疼痛、肩関節周囲炎、顔面神経麻痺、脚気

【参考】 * しびれ・麻痺を目標にする。風に当たって麻痺感のあるもの、手の使いすぎによるしびれにも良い。
*発病の初期に用い、気力衰憊して意識混濁のある者には適応がない。羗活・風防の駆風薬や、附子を華加えると更に良い。

 本方は気のめぐりを良くして、気の鬱滞によって起こる四肢の疼痛、麻痺、運動障害などを治する目的で用いる。虚証で脈の微弱なものには用いない。
 『餐英館療治雑話』の烏薬順気散の項には「当今、肩背の痛んで手臂麻痺する証には気に属する者が甚だ多い。肩背が張って麻痺ひ、或いは心下がつかえて気ののびない証は、皆七情の病で、この方で著効をとる。或いはこれに羗活、防風などの風薬を加えたり、少し附子を加えて用いると更に良い。この頃の病人には、気滞と肝鬱に目をつけよというのは、このことである。またはっきり気滞の徴候が見えなくても、難治のものにはこの方を用いてみると良い。婦人で背から腕にかけてしびれて痛むというものには、なおさらこの方の証が多い」と述べている。
 顔面神経麻痺で、葛根湯を用いて効なく、この方で著効を得たことがある。寒冷にあって口眼喎斜を起こしたというところを目標とした。
 『梧竹楼方函口訣』には「烏薬順気散は中風の初起で、頭痛、悪寒、発熱、口眼喎斜、半身不随等の症状があって、一通り中風の初起の表症のある者に用いる主剤である。わが家では中風の常用方である。この方ど人参順気散はいずれも表症のあるものに用いる。しかし言語障害があり、意識もぼんやりとしているようなものには遠慮するが良い。それよりも一等軽いところに用いる。雑病一切気のめぐりが悪く、四肢がしびれ或いは首が回りかね、或いは口がゆがみ、或いは歩行する時に、足の工合が悪いものなどに用いる。また足をねじり或いは床を踏みはずし、或いは重い荷物を持って腰脚などをぎっくりと筋を違え、それが原因で痛むものなどによくきく」とある。
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 638

 この方は気のめぐりを良くする方剤で、気のめぐりの悪いために起こる四肢のしびれ、痛みなどに良い。そこで俗にいうキックリ疝気や足のくじきに用いる。足を踏みはずしたり、足をくじいたり、重い荷物を持ち上げた拍子に、腰の筋を違えたりして痛む場合に良い。たま寝違えて首の回らないもの、また赤ん坊に手枕をさせたために、肘が冷えて痛むものなどにも良い。また『万病回春』では烏薬順気散に木瓜を加えて回首散と名づけて、肩がつまって、首の回らないものに用いている。また脳出血で、手足がしびれたり、痛んだりするものにも用いる。
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 198

 中年をすぎた婦人で、手、背、大腿などにしびれ感を訴えるものがある。高血圧症も、動脈硬化症もなく、しびれの原因が不明のことが多い。このような場合に、更年期障害の1つの徴候として、このしびれのくることがあるが、更年期に関係のないものもある。
 このしびれ感は、そのまま放置しておいても、増悪することは少なく、生命の危険もないが、治りにくいものである。これには烏薬順気散の効くものがある。古人は、気滞のためのしびれだから、気のめぐりを良くすれば良いといっている。
 また手を使いすぎたためのしびれにも良いことがある。
大塚敬節 『漢方の臨床』 7・9・59


『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
p.32
 〔3〕また興味深い例として次のようなことを聞いた。
 或る知人の薬局に来ている患者さんの話であるが、桂枝茯苓丸加大黄をのませたら、手足が動かなくなったので診てほしいと言ってきた。診ると意識の障害はないが、言語障害と運動麻痺を来たしている。おそらく血栓を生じたものらしい。この人は従来、リウマチを患っていた。月経不順と便秘があり、顔の色も悪く、凍傷がひどいので、同じ症状の友人が大変きれいになり、月経も順調になったので、同じ薬を欲しいと言ってきたそうである。瘀血の血栓もあるが、桂枝茯苓丸によって急に血流が良くなり、血栓を生台信移英選飛はないかと思う。この患者は、烏薬順気散を服用させ、二日でほとんどよくなり、一週間つづけて全く平常通りとなった。

○烏薬順気散
 烏薬・陳皮・白僵蚕・麻黄・川芎・桔梗・乾姜・枳殻・白芷・甘草
 気の滞りによって生じる四肢の痛みやしびれ、運動、言語障害、麻痺などに対して用いる薬方であり、主薬は烏薬で、枳殻、陳皮などにも滞った気を循(めぐ)らす作用があるので、この方名がある。


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊

p.35
第六 理気の剤(二二方)
五三 烏薬順気散…………脳溢血の四肢痛、五十肩、顔面神経麻痺

理気の剤
方名及び主治 一八 烏薬順気散(ウヤクジュンキサン) 和剤局方 諸風門
○ 男子婦人一切の風気、攻注、四肢骨節疼痛、遍身頑麻、頭目旋暈するを治す。及び癰瘓、語言蹇渋、筋脈拘攣を療す。又脚気歩履艱難、脚膝軟弱、婦人の血風、老人冷気上攻し、胸臆両脇刺痛、心腹膨脹、吐瀉腸鳴を治す。

処方及び薬能烏薬 陳皮 強蚕 乾姜 麻黄 川芎 桔梗各二・五 枳殻 白芷 甘草各一・五
 麻黄、川芎=表気を順らし、遍身麻痺を治す。
 烏薬、陳皮=裏気を順らし、語言蹇渋を治す。
 白芷、強蚕=面部の気を順らし、口眼喎斜を治す。
 甘草は肺気を緩くし、桔梗は気の上逆を下し、乾姜は滞気を順らす。
 
解説及び応用○ 此方は中風の症で、四肢骨節の疼痛、言語障害があり、筋脈痛み引きつり、肩及び上肢の疼痛、運動障害のあるもの、シビレ感あるもの等に、気を順らす目的を以て用いる。風に当りて麻痺感あるものにもよい。

応用
 ① 脳溢血の四肢疼痛 
 ② 肩臂疼痛、五十肩、
 ③ シビレ感、脚気、
 ④ 顔面神経麻痺。



『漢方処方 応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
11.烏薬順気散(うやくじゅんきさん) (和剤局方)
 麻黄,烏薬,陳皮各2.5,川芎,白彊蚕,白芷,枳殻,桔梗各2.0,乾姜,甘草,大棗,乾生姜各1.0

目標〕 表証があって頭痛,発熱,悪寒を伴う四肢麻痺,半身不随,顔面神経麻痺 などに用いる.
 このとき,あるいは四肢のしびれ感,頸筋の拘攣による頭首廻転不能(首がまわらない),口のひきつれ,言語障害 などを呈することが多い.
また 歩行するのに何となく足もとの具合がわるいということもある.

説明〕 以上のような症状は,脳卒中の初期などに多くおこるもので,百々鳩窓は,軽い中風には専らこの方を用いる といっている.ただ意識障害のあるような重症には用いられない とものべている.
 また 同じく梧竹楼方函口訣で,この方は一切の気滞による四肢麻痺によい ともいっている.
 衆方規矩には,その他 脚気,婦人の血風(瘀血性の麻痺),老人の冷気(新陳代謝が低下したための厥冷など)にもよいと記してある.

応用〕 脳溢血,脳軟化症,その他の麻痺,脚気,老化現象 など.



『衆方規矩解説(11)』
日本東洋医学会評議員 内炭 精一
中風門(一)
 本日は「中風門に載っている処方を五つ解説いたします。「中風」とは王安道の『医経溯洄集』の中風篇によりますと、「人が急に倒れてあるいは偏枯(半身不随)し、あるいは四肢(手足)が上にあがらない、あるいは意識障害を起こして人を知らない(人事不省になる)。そしてあるいは死亡し、あるいは死なないものがある。これを世に中風と呼んでいる」とあり、また医学の書物も中風として治療しております。この説が中風病の一般的概念といえます。
 中風の原因は、直接原因として、内経、張仲景、孫思邈らは天の風としております。内経は「風は百病の初めである」といい、「風は百病の長である」といっております。これが変化するとすなわち他の病気となる、一定の方向はない、またよく進んでしばしば変化する、また風が人をそこなうのは、あるいは悪寒発熱をなし、あるいは熱中をなし、あるいは寒中をなし、あるいは癘風を起こし、あるいは偏枯を起こし、あるいは感冒を起こすのであります。
 ここで熱中とは風によるものものの病症で、熱によってあたったものであります。風気が陽明とともに陰に入り、脈をめぐって上は目の内皆に至り、もしその人が肥えていると風気は外に洩れることができないので、熱中の状態を起こして目は黄色になります。考えてみますと、熱が勝つと風が動き、甚だしい場合は風の毒が上部を攻めて頭や顔が腫れて痒く、痰や涎(唾液)がいっぱいに塞がって胸部が煩わしく熱し、大小便が秘結し、下は腰や足に注いで、腫れ痛んで、皮膚病を生ずるのであります。かかる状態が久しく続くと半身不随を起こします。
 「寒中」とは、「寒気が中にあたるなり」とあり、ここでは風傷の寒によってあたるものであります「癘風」は、簡略にいうと癩病のことです。以上のごとく内経、張仲景、孫思邈などは、いわゆる中風は直ちに天の風邪にあたってこの病症を至すものとしております。
 金代の劉河間の著わした『原病式』では、「中風内寒は五志七情(精神状態や感情)の障害によって火を生じ、火よりして自ら風化を表わして風を生じて同様の状態になるのである」と帽かれ、また李東垣の説では、「中風の諸症は元気の虚から生ずる、故に年又四〇歳以上ではこの症が多い、 間々壮健と見える人にこの症のあるものは、必ずその人は肥満して色白で元気の虚弱の人に発生するものである」としております。
 朱丹渓は、住んでいる土地の方角で分類して説いております。すなわち「中国の西北の地は海抜が高くて湿気が少なく、寒い風が常に吹いている。故に西北に住んでいる人で中風を患うものは、外から来た天の風による真の中風症である。東南の二方集の土地は低く湿気が多く、寒い風も少なくない。故に東南に住む人の中風を病むのは、湿から痰を生じ、痰から熱を生じ、熱より自然に風が生じて中風症となる」と説明しております。
 河間は火をもととして、丹渓は中風の一部は湿痰をもととして、その風化により発症すると説いております。元の昆山王安道の『溯洄集』に至って初めて中風の説を明らかに区別しております。それによりますと、「中風は風にあたったために起こった病症である。内経、張仲景、孫思邈の、いわゆる天の風邪にあたって発病したものは真の中風、すなわち真中風である。かの河間、東垣、丹渓の説のごときは真中風ではない。この病状は風症に似ているといっても、実は風症ではないものである。どうして火熱や気虚や湿痰をもととして起こったものを中風と称することがあろうか。河間、東垣、丹渓は、その症状の類似をもって中風と説いている。故にそのいっていることは昔の人と異なっており、後の人を疑わしくて決断できにくくせしめている。天の風によるものは真中風であり、気により、あるいは湿によるものは類中風であり、中風ではないのである」といいきっております。
 次に中風病の軽い重いについて申しますと、『評熱論』にいっております。『病邪の湊(あつ)まるところはその気が必ず虚している。故に虚のあるところは各自によって異なっていて、同じようではないから、病むところもまた同じではない。血気が不足して皮膚の毛穴の防禦が衰えて守らない時は、邪気がここに入り、(一)経絡臓腑がまだやぶれていないものは中風の表病であって軽症で治しやすい。その病症は、言葉は変わりなく、精神は恍惚としていないで、臓は健在で内に守っているからである」。また『熱病篇』には、「(二)半身不随は、身体を左右に分けると、その一方だけの手足が役立たないで痛む。しかし言葉は変わらず話せるし、精神状態も乱れない。以上の状態は病が皮膚のやや深いところにあるのである」といっております。「(三)病がすでに経絡にあるもの朝持:栄衛の虚によるのであって、その病症はやや重症であって、長日月を経て治るものである。 (四)邪気が進んで臓腑に入るものは、臓の活力の虚に属するものである。多くは治癒しない。 (五)けれども邪気の攻撃を腑に受けたものは重症ではあるが、臓の病症に比べれば軽症である」。
 一体人の生命を保つ所以のものは気血であります。気血のよって生ずる源は胃の気にあります。『玉函篇』に、「胃な水穀気血の海である」といっております。胃の気がまだ虚していないものは、たとえ栄衛気血が衰えることがあっても、治療すれば治癒させることができます。中風の直接原因として虚をあげて、そのもとであるとするのもそれは胃の虚である。胃は五行説では土に属して四肢を司っております。風は同じく木の気で、好んで土を剋し、かつ風化し、淫動して草や木の枝葉を傷つけます。故に中気が中で衰え、栄衛の気が経絡や四肢末端において少なくなると、これに感じて半身不随やしびれなど、また四肢が上にあがらない中風のものが多いのであります。たいてい中風の病で中気がもともと弱く、栄衛が調和せず、気や痰がその間に停滞するものは外来の風邪を挟んで、この病症を発するのであります。こういうことで、主として補剤を投与すると多く効果果あげるものであります。しかし標本の意味があります。
 その虚がいまだひどくなく、風痰のひどいものには全蝎(ゼンカツ)、天南星(テンナンショウ)の類をもって治療し、あるいは気滞や瘀血のひどいものには紅花(コウカ)、枳殻(キコク)、烏薬(ウヤク)、香附子(コウブシ)などの類をもってし、あるいは火熱のひどいものは黄芩(オウゴン)、黄連(オウレン)、大黄(ダイオウ)の類をもってし、あるいは麻黄(マオウ)、羗活(キョウカツ)の類をもって風邪を発散して攻撃することがあるといっても、これは急なる時は表を治療するの意味であって、その胃の気がひどく虚していないからできることであります。しかし世に虚して補うものが多くて、攻撃するものは千に一、二しかありません。中風の病気は難治であって、医者の眉をしかめさせるのはどうしてであろうか。病のことごとくがそのもとが虚証であるためであります。
 「補は行ないがたく瀉は行ないやすい」、補瀉の間はその元近く、区別することが困難であります。一般の医者は薬をもって病状に合わせて施します。故にややもすれば虚実を誤って補瀉に反し、病人を死に陥らしめます。「これ実に不仁のきわみで、必ず天のわざわいがその身に及ぶであろう。謹まざるべけんや」とあります。
 次に中風に類似した言葉について述べます。体が冷えている中風を中気といい、体が温暖なものを中風としております。治療上の問題としてはたとえば真中風であっても、心下もしくは左右の脇下などに積癖、痞塊などのしこりがあり、その証に適応した煎薬のほかに熊参丸(ユウジンガン)または熊姜湯(ユウキョウトウ)の類を兼用しなさい。そうすると積癖が開いて、すなわち蘇るものであります。病を治療するのに原因を詳細に追及して治療するのがよいのはもちろんですが、急卒の病人には原因を放置して症状を治療するのがよい場合もあります。
 痰積にしても痰にしても疝にしても、それにはかまわず熊胆(ユウタン)で心下をおすべきであります。あるいは白通加猪胆汁湯(ビャクツウカチョタンジュウトウ)、四逆加猪胆汁湯(シギャクカチョタンジュウトウ)などがよい場合があるので、よく心得ておくべきであります。お面まりの三生飲(サンショウイン)(天南星、烏頭(ウズ)、附子(ブシ)、木香(モッコウ)、生姜(ショウキョウ)の五味)を必定としません。それが生きた治療というものであります。中風で卒倒していびきをかいて寝ているように見えるものは必ず死にます。「硬く辞退して治療してはいけない」とありますが、昔は死ぬものと診断すると手をつけずに辞退して帰ったもので、現在とは考え方が異なっています。
 和田東郭の口訣に「中風半身不随の病症で、肩の支え骨が離れているようになっているものは治らない。また手を握って開かないものは治らない。開いて握ることのでできるものは治る」といっております。この説は岡本一抱子が数十人の患者を扱って治療を試みたが間違いなかったといっております。手を握って開かぬ病人を見たならば所詮その手は役に立たないであろうと、病家に告げてから治療すべきであるといっております。
 さて肝積に属するものは、左脇に必ず拘攣(ひきつれ)あるいは凝りがあります。按圧すれば痛みます。実証のものは大柴胡湯(ダイサイコトウ)あるいは平肝流気飲(ヘイカンリュウキイン)(当帰、山梔子(サンシシ)、香附子、白芍薬(ビャクシャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)、橘皮(キッピ)、黄連、青皮(セイヒ)、川芎(センキュウ)、厚朴(コウボク)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)、呉茱萸(ゴシュユ)に生姜を入れて煎じる)、虚するものは抑肝散加芍薬(ヨクカンサンカシャクヤク)が効果があります。丹渓が「左にあるのを死血とし、右にあるのを気虚痰を挟む」といっているが、当てにならないことであります。王肯堂もどうも丹渓の説は徒撰であるといっております。この説に拘わってはなりません。上腹部から胸中にかけて胸やけがして数年間治らないものは、中気を発するというのは加藤謙斎の説でありますが、これは相違ない事実であるといっております。

■鳥薬順気散
 次に中風に用いられる方剤について申しあげます。最初は烏薬順気散(ウヤクジュンキサン)について解説いたします。本文にあります「卒中風」はにわかに起った中風のこと、「手足かなわず」は手足が自由に動かせないこと、「言語なえしぶり」は言葉がすべらかにしゃべれなく、とつとつとゆっくりしゃべることであります。「手足の骨ふし」とは手足の骨や関節のこと、「肩かいな」は肩や上腕のこと、「脚気」は足の自由に動けないことで、今の beriberi ではありません。「婦人血風」は婦人に生じた皮膚の紅斑であります。「冷気」は身体処方の冷えをいっております。以上が中風の大体の症状でありますが、ほとんどの症状が気のめぐりが悪くなったものといえます。みな気の滞りによって起こってくると古人は考えたのであります。
 こんな場合には本方で風を去りながら気をめぐらすのであります。烏薬(ウヤク)、陳皮(チンピ)、彊蚕(キョウサン)などはもっぱら気をめぐらし、その中の彊蚕は風気のうっ滞を強く発散するもので、その他の薬味はみな風気を発散します。それ故気うつや気の停滞など、気のめぐりの悪いものには本方を基本の方剤と形新、気をめぐらす中心の薬剤として用いるのがよく、その後に本病の風を治療する方剤を用いるのがよいのであります。それ故、差し当たり気をめぐらす方剤が本方であります。
 気をめぐらす薬は、外へめぐらす、上へめぐる、下へめぐるというように、その筋をつけるところが上下内外の狂いができて平生と違い、外へ出る気が内へめぐり、内へめぐる内の気が外へ溢れるの類で、気をめぐらすのは総体にいえばそこが目的であります。故に陳皮をもって胸の気を開き、彊蚕で肝木のうっ滞した気を開き、癇病にも用います。乾姜(カンキョウ)は脾胃の陽気をめぐらし、麻黄(マオウ)は表気のうっ滞をもらし、川芎(センキュウ)、白芷(ビヤクシ)は血分の気のうっ滞を発し、桔梗(キキョウ)は気を開き、甘草(カンゾウ)は中焦の気をめぐらし、枳殻(キコク)は腹内の気の凝りを開きます。以上のように気を第一にめぐらす方剤でありますから、早いところで用いて痰の治まるようにすべきであります。風を治療する前に用いる方剤であって気をめぐらしておくのであります。
 気のうっ滞や不順にも種々の症状があるので、それに対するために次の加減が用意されております。本方を用いる病人に次の症状が添付場合には、この加減も必要であります。そこで本方の方後の加減について簡単に説明いたします。
 「寒熱頭痛には葱白(ソウハク)を加う」とあります。葱白は気を通じ、陽をめぐらす効果があるので、気滞の頭痛によいのであります。「身体のびかがみ成らざるには末して温酒にて調えのむ」。酒は薬力を打け、その効を上胸中に通じて、しかして結ばれた気を温めて散ずる効果があります。それが上に極まりますと、今度は下に下げる効果があります。
 「身かゆく掻いてあとの瘡となるには薄(薄荷(ハッカ))の煎じたる湯にて調え下す」。薄荷の煎汁で薬を煎じてもよく、薬を煎じる場合に薄荷を加えてもよいわけです。薄荷は皮膚の陰疹、瘰癧、瘡疥を治す効果があります。
 「中風一身ともに麻(しび)れば参(人参(ニンジン))、伽(白朮(ビャクジュツ)、斤(当帰(トウキ)、門(麦門冬(バクモンドウ))を加う」。気虚血虚を目標として痰を去り、胃を養うのであります。「口眼ゆがむに連(黄連(オウレン))、羗(羗活(キョウカツ))、芸(防風(ボウフウ))、荊(荊芥(ケイガイ))、瀝(竹瀝(チクレキ))、姜汁(キョウジュウ)加う」。これらの薬物はみな風を去るもので、熱をとります。竹瀝、姜汁は痰をとります。遍身痛まば斤(当帰)、官(肉桂(ニッケイ))、乳(乳香(ニュウコウ)、没(没薬(モツヤク))を加う」。これらはみな血をめぐらす薬物であって、逆にいえばここの症状は血分の滞りであります。「臂痛むには羗(羗活)、芸(防風)、官(肉桂)、苓(茯苓(ブクリョウ))、蘇(紫蘇(シソ))を加う」。婦人の腕や臂の痛む類は気分、気うつによるのであって、この加減は発表を兼ねるのであります。「背心(むね)痛むには行気香蘇散(コウキコウソサン)を合して蒼(蒼朮(ソウジュツ))、守(半夏(ハンゲ))、苓(茯苓)を加う」。気の滞る上に外邪と痰とがあり、故に背の真中が痛むのであります。「脚膝うそばれば膝(牛膝(ゴシツ)、揺(独活(ドッカツ))、佳(五加皮(ゴカヒ)を加う」。足の経がめぐらないものひな五加皮はぜひ用いるものであり、効果の著しいものであります。「腰痛むには朴(朴仲(トチュウ))、膝(牛膝)、茴(茴香(ウイキョウ))を加う」。杜仲は肝の虚、角茴(カクウイ)は腎の陽気を増すものであります。
 「四肢ひえ痺れるには附(附子(ブシ)、官(肉桂)を加う」。これは陽虚であります。「婦人の血風には芸(防風)、荷(薄荷)、荊(荊芥)を加う」。俗にいうポロボロができるものであります。血分の風気を発散してやればよいのであります。
 「胸はれみちるには実(枳実(キジツ))、莪(莪朮(ガジュツ))を加う。これは痰と気との滞りであります。「虚汗には麻黄(マオウ)を去り、芪(黄耆(オウギ))を加う」。黄耆で陽虚を補うのであります。潮熱には永(乾姜)を去りて芩(黄芩(オウゴン))を加う」。説明の要もないと思います。以上下は略します。
 烏薬順気散は、風気が四肢に攻め注いで骨や関節が痛み、四肢や胴体がしびれて手足を上げることができず、言葉を発しにくく渋って、筋肉がひきしまり、あるいは半身不随を治す剤であります。こんな病証にはまずこの薬剤を与えて気をめぐらし、その後に証に従って風の薬剤を投写するのがよいのであります。思うに風を治療するには、まず気を治め、気がめぐると痰がなくなります。ようやくにその風を治めると、効果をあげることが容易であります。気滞、気うつ、肩背がしびれ痛むなどのものは、七情の気によるものであります。このようなものには、この剤を用いて気を治めてやればよいのであります。龔氏がいっております。「初めて風邪にあたり痺れたり痛んだりするものは風湿の気である」と。
 烏薬順気散は、風中初期に用いる薬剤であります。およそ気をめぐらす薬剤は、久しく用いることはできません。一応これらの方剤を用いて、気がめぐるときは他薬に変えて使用するのがよいので、順気が長期にわたるとかえって気を虚さしめてすり減らす結果となります。また虚証の人にもみだりに気をめぐらせてはならないのであります。ここは大切なところであります。



※医経溯洄集:いけいさくかいしゅう
※癘風(れいふう):麻風・大風・大麻風・大風悪疾などともいう。癩病。
※徒撰? 杜撰?
※朴(朴仲(トチュウ))? → 杜(杜仲(トチュウ))


『日東医誌』 Kampo Med Vol.64 No.4 227-230, 2013
続発性無月経に烏薬順気散が有効だった一例
吉野 鉄大   堀場 裕子  渡辺 賢治
Abstract
Japanese Kampo doctors usually understand amenorrhea as caused by oketsu (blood stasis) and kekkyo (blood insufficiency). In recent years, there have been a few case reports which describe patients treated only with prescriptions for junki function (the treatment of kiutsu or ki stasis). Our case was 37 year-old woman with amenorrhea from osteopathy manipulation a half year previously in London. Her usual menstruation had been normal. She had thoracic and sacral pain, joint click, epigastric pain, lower abdominal pain, hematuria and muscle stiffness but her usual daily living was not affected. No abnormality was noted with laboratory or imaging, or endocrinological tests. From a Kampo examination, she was diagnosed with hiesho (coldness) and kiutsu. We chose uyakujunkisan without white silkworm, with aconite root. Her arthralgia and hiesho im- proved one month later, and her menstruation re-started three months later. Uyakujunkisan is introduced in the Wazaikyokuho , and we believe this classical textbook indicates that this prescription can be used to treat amenorrhea. Ki abnormality is one of the most important complications of secondary amenorrhea and a pre- scription with junki function is important treatment option. Thus, in assessment of patients with amenorrhea, we feel it is important to focus on ki abnormality. Keywords: amenorrhea, uyakujunkisan, treatment of ki abnormality.

要旨
 症例は 3 7 歳の女性。半年前のオステオパシー施術後からの無月経を主訴に当院漢方クリニックを受診した。首か ら腰にかけて の背部痛,頸椎・肩・手・膝・ 足関節のクリック,筋肉のこわばりを伴ったが,日常生活は送れていた。発病前の月経周期には 異常なく,産婦人科,整形外科では異常所見を認めなかった。中間証,寒証で疼痛に伴う気うつによる症状と捉え, 鳥薬順気散料去白姜蚕加附子(煎じ)を開始し た。1ヵ月後に関節症状や冷えが軽快 し,3ヵ月後に月経が再開した。烏 薬順気散の原典にある婦人血風は,古典の記載から無月経と解釈しうる。漢方医学において,無月経に対する気うつの関与が指摘されてはいるが,一般的には血の症状と考えられ,補血薬や駆瘀血薬を用いることが多い。続発性無月経の病態には血の異常だけでなく,気の異常が密接に関係しており,気剤 も治療の重要な選択肢となりうることが再確認された。
キーワード: 無月経,烏薬順気散,気剤,オステオパシー

緒言
 続発性無月経の原因は視床下部性が最も多く,その誘因は心理的ストレス,体重減少,過度の運動などが多い。ストレス存在下のホルモン動態は複雑で, 病態の解明は十分には行われていないが,心理的要因を目標にした漢方治療が有効な病態が含まれる可能性がある。漢方医学において無月経は一般的には血の症状と考えられ,補血薬や駆瘀血薬が用いられることが多い。気逆,気うつの関与も指摘はされているが,実際に過去の無月経に対する漢方治療の報告例は当帰芍薬散,桂枝茯苓丸,温経湯などが中心であり 1 ) ,気剤単剤による治験例は少ない 2 ) 。また, 烏薬順気散による続発性無月経の治療報告は見当たらない。 今回我々は気剤である烏薬順気散加減によりオステオパシー後の続発性無月経が改善した症例を経験したので報告する。

症例
 症例:3 7歳,女性
 主 訴:続発性無月経
 既往歴:アトピー性皮膚炎:3年前に仕事を辞め てから,初診時まで無治療で良好な状態をたもって いた
 家族歴:特記すべき事項なし
 生活歴:未婚,妊娠分娩歴なし。喫煙なし,機会飲酒,無月経になる前の月経周期は4 0日で5日間継続,経血量は正常であった。月経困難症の自覚はな かった
 現病歴: X -1年1 1月,英国ロンドンで オステオ パシーの施術を受けた後,首から腰にかけての背部痛が出現し,頸椎・肩・手・膝・足関節のクリック, 筋肉のこわばりを伴ったが日常生活は送ることができていた。施術直後の月経を最後に月経が停止した。 産婦人科,整形外科で内分泌機能を含む血液検査や画像で精査するも原因と考えられる異常所見を認めず,漢方治療を希望して X 年4月,当科を受診した。当科受診時までに無月経に対するホルモン治療歴はなかった。他に不眠,のどのつかえ,胸やけ, みぞおちのつかえ,腹部のはり,心窩部痛,気分の落ち込み,髪や皮膚のかさつき,全身の冷えを認めた。
 現症:身長1 5 8 cm ,体重4 8 kg (経過中の体重 減少は報告なし) ,血圧9 7 / 6 4 mmHg ,脈拍7 5回 / 分, 舌は紅,無苔で軽度の歯痕を認め,脈は沈かつ小。 腹力は中等度で,右臍傍部に瘀血の圧痛を認めた。
 経過:以上の結果から虚実中間証,寒証で,オステオパシー施術後の頸椎捻挫に伴う気うつが原因の無月経と考え,烏薬順気散料去白姜蚕加附子(煎 じ)を開始した。1ヵ月後,関節症状や冷えが軽快 し,3ヵ月後に月経が再開した。5ヵ月後,経過は 良好で通院を自己中断した。

 考察
 西洋医学的には続発性無月経の重症度はエストロ ゲン,プロゲステロン投与への反応性から第1度, 第2度に分類される。また原因により,視床下部性を含む中枢神経性7 0. 0%,他内分泌腺性1 0. 0%,卵巣性9. 4%,医原性4. 7%,子宮性3. 1%,全身消耗性疾患2. 8%に分類される 3 ) 。視床下部性無月経の誘因は減食過食,心理的ストレス,過度の運動などが多いが 4 ) ,これらのストレス存在下のホルモン動態は複雑で,単一のホルモンでの説明は難しい。疼痛刺激に関してはβ エンドルフィンの分泌を介して GnRH の分泌を抑制することが知られており,月経 周期異常を引き起こしうる 5 ) ため,本症例の無月経に疼痛刺激が関与していることも考えられる。一般的にはホルモン療法が選択されるが,一旦ホルモン療法を開始すると治療が長引き,治療を中止するタ イミングを見計らうのが困難である。そこで,疼痛に付随した心理的要因をも目標にした漢方治療が有効な症例が存在すると考えられる。
 烏薬順気散(烏薬,陳皮,桔梗,麻黄,白姜蚕, 川芎,乾姜,枳実,白芷,甘草,生姜)は,気の鬱滞が原因の四肢の疼痛,麻痺,運動障害などに使用される方剤で,『漢方診療医典』のむちうち症の項に「体力中等度のもので,初期に用いて奏効することがある。」と記載されている6)。本症例は,交通事故後の頸椎捻挫に伴う気うつのように7),オステオパシー後の頸椎捻挫に伴う気うつが病態の根本にあると考えて選択したが,近年の報告では本処方による無月経の治験例は見当たらない。漢方医学における無月経の病態概念については, 脾気虚,腎虚,血虚, 瘀血,気うつ,気逆などが言われている8) が,最近の治療報告例からみれば血の異常が中心とされているように考えられる。古医書においても李東垣は『蘭室秘蔵』において「婦人脾胃久しく虚し,或いは形羸し気血倶に衰えて経水断絶せしめ行かざるを致し」と述べ 9 ) ,蘆川桂洲は 『病名彙解』巻之五で「経水の閉じて通ぜざるなり。 病因,血滞に見えたり。」としている 10 ) 。 しかし香月牛山は『牛山活套』巻之下で「経閉の症は多くは気滞り血渋る故なり。室女寡婦に多なり。 先づ鬱気を開くべし。 」と述べ 1 1 ) , 『万病回春』巻之六経閉には「婦人壮盛,経閉者,此れ血実気滞, 専ら攻むに宜しきなり」と記載されており 1 2 ) ,無月経の病態において瘀血だけでなく気滞の重要性も指摘されている。今回の治験例から,血の異常だけでなく気の異常が無月経の病態に密接に関係していることが改めて示された。
 しかし香月牛山は『牛山活套』巻之下で「経閉の症は多くは気滞り血渋る故なり。室女寡婦に多なり。 先づ鬱気を開くべし。 」と述べ 11 ) , 『万病回春』巻之六経閉には「婦人壮盛,経閉者,此れ血実気滞,専ら攻むに宜しきなり」と記載されており 12 ) ,無月経の病態において瘀血だけでなく気滞の重要性も指摘されている。今回の治験例から,血の異常だけでなく気の異常が無月経の病態に密接に関係していることが改めて示された。
 烏薬順気散の原典である『太平恵民和剤局方』には「男子婦人,一切の風気攻疰,四肢骨節疼痛,遍身頑麻,頭目旋暈するを治す。及び癱瘓(中風,麻 痺,半身不随),語言蹇渋(失語),筋脈拘攣を療す。又脚気,歩履艱難,脚膝軟弱,婦人の血風,老人冷気上攻,胃臆両脇刺痛,心腹膨脹,吐瀉腸鳴を治す」とあり13),主として疼痛,麻痺,失語といった脳卒中に伴う症状が挙げられている。以下,ここに並ぶ「婦人の血風」が無月経と関係があるかどうかについて考察する。
 『漢方用語大辞典』と『病名彙解』のいずれの「血風」の項にも月経異常についての記載は見られ ないが, 『漢方用語大辞典』の「血風労」の項には 「女性で体が虚していて,外が風湿に傷られたり, 内に宿冷があったりして,風と血が相博ちて脈絡が阻滞し,月経が整わず,漸次労病となるものをさす。 症状としては月経不調,身体に痛みが走り,腹中が 硬く痛み,面 色は萎黄でやせてくる」と記載され14),同様に血風労で月経周期異常が見られるとの記載は 『婦人大全良方』巻之五 血風労方論第六にみられる。また同書巻之四,巻之六において, 「血風労」 以外にも「血風」に関連する記載として,血風肢体 骨節疼痛方論第一,血風白虎歴節走疰方論第二,血風癮疹瘙痒方論第三,血風頭痛方論第五,血風攻脾不食方論第七のそれぞれに付記される治験例では月経不順の症例が多数紹介されている15)。以上から無月経や月経不順は「血風労」 だけでなく,婦人の 「血風」の症状であることが考えられ,「婦人の血風」を条文に含む烏薬順気散は,その条文には直接の記載は無いが,無月経や月経不順に効果がある考えられる。
 他に「婦人の血風」という表現を条文中に含む処方で現在一般に広く使用されているものとして,同じ『和剤局方』に収載され頭痛や感冒に使用されることの多い川芎茶調散(川芎,荊芥,白芷, 羗活,甘草,細辛,防風,薄荷,細茶)16) があり,上述の 『婦人大全良方』巻之四 血風頭痛方論第五にも収載されている17)。また, 『漢方診療ハンドブック』 の川芎茶調散の項には「月経調節作用もありそうである」と記載 されており18) ,烏薬順気散同様に無月経や月経不順に応用できる可能性が示唆される。
 本症例はオステオパシー後の長引く関節痛と心理的ストレス,さらに冷えが要因となって続発性無月経をきたしたが,烏薬順気散により疼痛や冷えの軽減とともに心理的ストレスが除去されたことで月経が発来したものと考えられた。

結語
 無月経に対し烏薬順気散加減が奏功した一例を経験した。無月経の病態には血の異常だけでなく,気の異常が密接に関係しており,気剤も治療の選択肢となりうることが改めて示された。治療に当たる際には気の異常も考慮する必要がある。

附記
 烏薬順気散の集散地は以下の通りである。 烏薬(浙江省),陳皮(湖北省),麻黄(内蒙古), 桔梗(陜西省),枳実(浙江省),甘草(内蒙古),生姜(雲南省),附子(四川省),白芷(韓国),川芎 (北海道)


文献
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1 1 )大塚敬節,矢数道明編:近世漢方医学書集成 6 1 香月牛 山(一) 『牛山活套』巻之下. 5 1 4 ,名著出版,東京, 1 9 8 1
1 2 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『万病回春』巻 之六 経閉. 2 2 1 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 9 1
1 3 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『増広太平恵民 和剤局方』続添諸局経験秘方. 3 8 ,エンタプライズ株 式会社,東京, 1 9 8 8
1 4 )創医会学術部: 『漢方用語大辞典』第三版. 3 0 3 ,燎原, 東京, 1 9 9 1
1 5 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成 『婦人大全良方』 . 5 3 ‐ 5 6 , 5 8 ‐ 6 0 , 7 3 ‐ 7 4 , 7 9 ‐ 8 1 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 8 9
1 6 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『増広太平恵民 和剤局方』呉直閣増諸家名方. 5 1 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 8 8
1 7 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成 婦人大全良方. 1 9 8 9
1 8 )桑木崇秀: 『漢方診療ハンドブック』第3版(新版) . 2 2 5 ‐ 2 2 6 ,創元社,大阪, 1 9 9 5


『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
  (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

 次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
  〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換
   算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
   むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)  含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
  高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
消化器 吐き気、食欲不振、胃部不快感、腹痛


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような 症状の持続 又は増強が見られ た場合には、服用を中止し、 この文書を持って 医師、薬剤師又は登録販売者に相談するこ と
 下痢

4.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

5.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕



〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
 (4)胃腸の弱い人。
 (5)発汗傾向の著しい人。
 (6)高齢者。
   〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
 (7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
 (8)次の症状のある人。
  むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
 (9)次の診断を受けた人。
   高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
   〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕