健康情報: 腸癰湯(ちょうようとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年10月10日金曜日

腸癰湯(ちょうようとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.390
90 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) 〔金匱要略〕
 大黄二・〇~五・〇 牡丹皮・桃仁・芒硝 各四・〇 瓜子六・〇
 〔変方
 腸癰湯(瓜子仁湯)。薏苡仁 一〇・〇、瓜子 六・〇、桃仁 五・〇 牡丹皮四・〇。多くの場合これに芍薬五・〇を加え、腸癰湯加芍薬として用いるものである。本方は炎症や化膿機転が軽く、症状がそれほど激しくない場合に用いてよい。
 大黄牡丹皮湯去大黄芒硝加薏苡仁という方名を、千金方で腸癰湯または瓜子仁湯と名づけた。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
腸癰湯(ちょうようとう) [集験方]

【方意】 瘀血下焦の熱証による回盲部の圧痛・硬結・化膿・腹痛・月経異常等のあるもの。しばしば燥証による皮膚枯燥を伴う。
《少陽病.虚実中間》

 【自他覚症状の病態分類】

瘀血・下焦の熱証 燥証

主証 ◎回盲部圧痛
◎硬結
◎化膿
◎腹痛

◎腹脹満



客証 ○月経異常
 発熱 熱感

○皮膚枯燥




【脈候】 弦やや弱・やや数。

【舌候】 乾湿中間で微白苔、または黄苔。

【腹候】 腹力中等度。回盲部の圧痛と硬結が必発である。

【病位・虚実】 熱証および燥証があり陽証である。裏実の症状はなく少陽病に相当する。脈力および腹力より虚実中間である。

【構成生薬】 薏苡仁9.0 冬瓜子6.0 桃仁5.0 牡丹皮4.0

【方解】 大黄牡丹皮湯から大黄・芒硝を去り、薏苡仁を加味したものである。桃仁・牡丹皮の組合せは寒性の駆瘀血薬として働く。薏苡仁は微寒性の排膿・鎮痛・利尿作用があり、更に皮膚の燥証にも有効である。冬瓜子は微寒性の消炎・利尿・緩下・排膿作用がある。以上四つの構成生薬の組合せにより熱証を治す。故に本方は瘀血と下焦の熱証があって化膿し、燥証の傾向を帯びた病態に有効となる。


【方意の幅および応用】
 A 瘀血下焦の熱証:回盲部の圧痛・硬結・化膿・腹痛・腹痛・腹脹満・月経異常等を目標にする場合。
   虫垂炎、骨盤腹膜炎、子宮附属器炎、子宮内膜炎、骨盤内鬱血症候群、月経異常、帯下、膣炎、膀胱炎、腎盂炎、肝硬変、胆囊摘出後症候群、酒皶鼻、全身性エリスマトーデス
 B  燥証:皮膚枯燥を目標にする場合。
    肌荒れ

【参考】 *腸癰湯、腹中㽲痛し、或は脹満し、食せず、小便渋るを治す。婦人産後の虚熱、多く此の病やり。縦(たと)い癰に非ず、但擬似の間も便ち服すべし。『集験方』
*此の方は大黄牡丹皮湯の症にして硝黄の用いがたき者に用ゆ。或は大黄牡丹皮湯にて攻下の後、此の方を与えた餘毒を尽すべし。腸癰のみならず諸瘀血の症に此の方の治する所多し。『勿誤薬室方函口訣』
*本方の牡丹皮を葦茎にかえると葦茎湯、つまり上焦の腸癰湯である。
*いまだ化膿せずに下焦の熱証・裏の実証の強いものは本方の適応ではなく、大黄牡丹皮湯で急ぎ下す必要がある。化膿の初期は熱証であり実証であるが、後期になりブヨブヨしてきた時期は燥証や湿証を帯びて虚証となる。本方はその移行期に用いる。大黄牡丹皮湯で37℃程度に解熱したが、なお局所に疼痛のあるものや、すでに化膿したもの、慢性虫垂炎等に良い。本方は瓜子仁湯ともいわれる。


【症例】 術後上顎囊腫
 36歳女性。13年前に蓄膿症の手術をし、5年前にも再手術をしたという。一昨年の暮頃から、左側の上顎骨の上方で、顴骨の所に何となく重圧感があった。疼痛がないので忘れることもあったと。近頃になって腫脹してきたので、某病院の診察を受けたところ、慢性の術後上顎囊腫との診断で、膿が潴溜しているから手術をしなくては治らないという。
 中肉中背の人で血色も良く、健康体らしい。顔容は少しも悪くないようであるが、自身では左側の顔面が腫脹しているという。圧痛はないが何となく不快感がある。脈は洪大で遅。腹部はやや膨溜しているが、筋肉は弾力に乏しく、抵抗は全く感じられない。月経は順調で、食事は普通で二便に変わりがない。
 私は腸癰湯加桔梗を投薬した。桔梗を加味した意は、私案ではなく浅田流である。それは桔梗に消炎排膿があるからで、排膿散や托裏消毒飲等の桔梗もこの意によるものである。始め10日分を調合して持たせたが、服薬し終わって来院したときには、腫脹はほとんど消失して、自覚症の不快感も全く治っていた。それから引き続き20日分を服薬し、再発を心配してなお1ヵ月連服した。さきの病院の精密検査で全癒しているとの診断であった。
高橋道史 『漢方の臨床』 11・7・17


数回手術した骨髄骨膜炎
 約20年来の骨髄骨膜炎で、これまで再三、再四手術したので満身創痍という有り様である。顔は青白くて元気がなく、静かで女性的な教師である。長年の病気が、彼をこのようなかよわい人間にしたのだろう。瘢痕はまず右側の鎖骨と、両側の四肢に数ヵ所ある。そして左側の大腿外側のそれには、今なお生々しい創痕があり、傷穴からは濃厚な膿が流れ出て、包帯を通して滲みついて、嗅気を発散している。食事は普通で、二便も変わりがない。
 私は、創面には紫雲膏を貼付し、内服薬には腸癰湯加桔梗を1ヵ月分処方した。
 その後の来診では、膿は少なくなり、傷口の糜爛がなくなった。膿は非常に薄くなったし、病気の方は順調であるが、もう少し元気になりたいという。次回からは十全大補湯に転方しようと考えている。
高橋道史 『漢方の臨床』 15・8・44

※かんこつ【顴骨】  〔「けんこつ(顴骨)」の慣用読み〕
頰の上,目の斜め下に左右一個ずつある骨。頰骨(きようこつ)。ほおぼね。

※【骨髄炎 osteomyelitis】 こつずいえん
  骨に起こった感染症をいう。厳密には,骨膜の感染症を骨膜炎,骨質に起こったものを骨炎というが,これらが個々に起こることはほとんどないため,これらを包括して骨髄炎という。 病原菌は,主としてグラム陽性の黄色ブドウ球菌で,そのほか連鎖球菌,肺炎球菌であるが,近年はグラム陰性杆菌によるものもときどきみられる。病原菌が骨に到達する経路には,鼻咽腔などの化膿巣から血行を介して感染するもの,近隣の化膿巣から骨に波及するもの,開放創を通じ外界から直接骨に到達するものの三つがあるが,圧倒的に血行性のものが多く,これを血行性化膿性骨髄炎と呼ぶ。
(世界大百科事典 第2版)



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊 
p.93
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) (金匱)
 処方内容 大黄二・〇 牡丹皮 桃仁 芒硝各四・〇 冬瓜子六・〇(二〇・〇) 大黄、芒硝の量は大便快通する程度に加減して用いる。
p.94
 類方 腸癰湯(集験方)
 本方より大黄、芒硝を去って、薏苡仁九・〇を加えた処方で、陽虚証体質の慢性盲腸炎に用いる。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集中日漢方研究会

52.腸癰湯(ちょうようとう)  蒿蘭館方集

薏苡仁9.0 瓜子6.0 牡丹4.0 桃仁5.0

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 盲腸部に急性または慢性の痛みがあったり,または月経痛などを自覚するもの。
 本方は前記のとおり盲腸部あたりに腫瘤(シコリ)や,痛みがあって腹部が一体に膨満しているが大黄剤などの下剤を用いられないものに用いる。本方を投与後,なお疼痛が好転しないものには芍薬甘草湯の合方を考慮すればよい。また腹膜炎や婦人科疾患に用いる場合,大黄牡丹皮湯に似ているが便秘の症候がなく,月経痛やコシケなどあるものに用いる。虫垂炎や盲腸炎に応用する処方は本方のほかに次のような処方がある。
柴胡桂枝湯〉 悪心,嘔吐,胃痛,腹痛などがあって,腹痛の部位が一定しない初期症状に用いる。
桂枝加芍薬湯〉 悪心,嘔吐がなく腹痛が下腹部に局限した,比較的軽症のものに用いる。
大黄牡丹皮湯〉 痛みやシコリが右下腹部に局限し,腹膨症状を認めない一般症状が良好なもの。
大建中湯〉 腹部が冷えて痛み,そのうえ腹部が膨満して,腸の蠕動亢進を認めるもの。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○虫垂炎で腹がいたみ,あるいは腹が張り,食物が食べられず,尿が出渋って淋瀝するもの。このとき病人は衰弱ぎみで,四肢に力が無くなる。肺膿瘍や肺壊疽で衰弱して貧血し,臭い膿が止まないもの。婦人の帯下が止まず,下腹が痛み,数日の間安眠できないものによい。
○虫垂炎に盲腸炎の初期で,患者の体力で充実しているときには,大黄牡丹皮湯がよいが,既に大黄牡丹皮湯で下した後,患者の精気が衰えたり,病気が長びいて衰弱したとき,あるいは元来虚弱な体質で,大黄牡丹皮湯を用いがたいようなものに本方を用いるとよい。




『図説 東洋医学 <湯液編Ⅰ 薬方解説> 』 
山田光胤/橋本竹二郎著 
株式会社 学習研究社刊

腸癰湯(ちょうようとう)

  やや虚  
   中間  
  やや実 

●保 出典 千金方

目標 体力中等度ないしやや低下した人。虫垂炎で下腹が痛み,あるいは腹が張り,食物を摂取できず,尿が出渋って淋瀝(りんれき)するもの。肺膿瘍や肺壊疽(えそ)で衰弱,貧血し,膿様の痰(たん)が止まらないもの。婦人の帯下が止まず,下腹が痛み,安眠できないもの。下腹部に抵抗・圧痛(瘀血(おけつ))があり,便秘を伴う。

応用 虫垂炎,盲腸周囲炎,帯下。(その他:肺膿瘍、肺壊疽)

説明 本方は大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)から大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)を去り,薏苡仁を加えたもの。さらに芍薬(しゃくやく)を加えると,薏苡仁湯(よくいにんとう)(外科正宗(げかせいそう))になる。

薏苡仁(よくいにん)10.0g 瓜子(かし)6.0g 牡丹皮(ぼたんぴ)4.0g 桃仁(とうにん)5.0g



漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
175.腸癰湯(千金方)

薏苡仁 10.0,冬瓜子 6.0,桃仁 5.0,牡丹皮 4.0 (外科正宗では,芍薬 4.0 を加えて 薏苡仁湯 という)

目標・応用〕  虫垂炎で腹が痛み,あるいは腹が張り,食物がたべられず,尿が出渋って淋瀝するもの.このとき 病人は衰弱ぎみで,四肢に力が無くなる.

 肺膿瘍や肺壊疽で衰弱して貧血し,臭い膿が止まないもの.
 婦人の帯下が下まず,下腹が痛み,数日の間安眠できないものによい.

説明〕  本方は,大黄牡丹皮湯から大黄,芒硝を去り,薏苡仁を加えたもので,芍薬を更に加えて用いることが多い.
 虫垂炎や盲腸炎の初期で,患者の体力が充実しているときには 大黄牡丹皮湯 がよいが,既に大黄牡丹皮湯で下した後,患者の精気が衰えたり,病気が長びいて衰弱したとき,あるいは元来虚弱な体質で,大黄牡丹皮湯を用いがたいようなものに,本方を用いるとよい.
 また 病気が緩慢で,症状が緩和なものには 桂枝茯苓丸加瓜子,薏苡仁がよいが,虫垂炎が既に化膿しても症状が激しくないものによく,また 手術が出来ない場合などに応用される.

応用〕  4年ばかり前,医者仲間の友人に頼まれて,手術不能という虫垂炎の患者に腸癰湯を用いて,非常によかったことがあった。
 患者は59歳の男子で,数年前にも虫垂炎をちらしたことがある.数日前から,虫垂炎が再発し,それが急速に化膿してしまったが,膿が幸い限局しているので,手術をしないで様子をみているのだという.対診した外科医も,手術して膿が腹腔内にちると,汎腹膜炎をおこして反って危険になるものではないかという意見だった.
 患者は顔色もわるく,生気がなく,足が冷え,嘔気がして食物がとれない.体温は37℃程度の微熱で,腹が張って苦しく,右下腹に鈍痛があり,ガスが多いという.
 舌には白苔があって湿っている.脈は弦細.腹をみると,全体にガスがたまって鼓音を呈し,臍の右下に測痛ある腫瘤を触れた.この腫瘤は,膿瘍のように思われた.
 このとき 腸癰湯を10日与えたところ,腹満が軽くなり,食欲が出て元気になってきた。腹痛は右下腹に限局して,しかも病くなったので,桂枝茯苓丸加薏苡仁,瓜子に変えて更に10日間投与し,その後 黄耆建中湯加薏苡仁を15日程服用し,略治に至った。黄耆建中湯は 膿の吸収,体力の回復を目的に用いたのである。



『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
p.261 
腸癰湯(ちょうようとう) <出典> 千金方(唐時代)

方剤構成
 薏苡仁 牡丹皮 桃仁 冬瓜子

方剤構成の意味
 大黄牡丹皮湯の大黄・芒硝の代りに薏苡仁を加えたもの。薏苡仁には滋養・緩和作用と共に,イボ(疣贅)を治す作用があり,おそらくは排膿を助け,皮膚・粘膜を修復する効があるものと思われる。
 大黄・芒硝がないので瀉下作用はなく,方剤はより緩和な駆瘀血・消炎・排膿剤と見ることができる。

適応
 比較的体力弱く,便秘傾向のない人の急性虫垂炎の初期。または大黄牡丹皮湯を用いて急性症状が消失したが,慢性化して体力もやや衰弱した場合。
 腸癰とは虫垂炎の古名であるが,方剤は寒性であるから,明らかな寒虚証には用い難い。



『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

腸癰湯(ちようようとう)(瓜子仁湯(かしにんとう))
集験方(しゆうけんほう)

 コ

どんな人につかうか
 盲腸炎、虫垂炎(腸癰(ちようよう))の軽いものに用いる薬で、盲腸部(回盲部)にしこりや痛みがあり、腹が全体に膨満(ぼうまん)して便秘のないものに用います。

目標となる症状
 ①回盲部のしこり。②回盲部の痛み(急性、又は慢性)。③回盲部の抵抗、圧痛。④腹部全体に膨満(ぼうまん)。⑤便秘していない。⑥月経痛。

 腹部は全体に膨満(ぼうまん)し、回盲部に腫瘤(しゆりゆう)、疼痛、圧痛、抵抗がある。

 数脈。

 舌質紅、黄色舌苔。


どんな病気に効くか(適応症) 
 盲腸部に急性または慢性の痛みがあるものあるいは月経痛のあるもの。虫垂炎、骨盤内の炎症、痔核感染、帯下、月経痛。

この薬の処方
 薏苡仁(よくいにん)9.0g。冬瓜子(とうがし)6.0g。桃仁(とうにん)5.0g。牡丹皮(ぼたんぴ)4.0g。


この薬の使い方
前記の処方を一日分として、煎じてのむ。
コタロー、腸癰湯(ちようようとう)エキス細粒(さいりゆう)、成人一日6.0gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。

使い方のポイント
回盲部にしこりや痛みがあっても便秘がなく、大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)(147頁)などの瀉下作用のあるものが使えない時に用います。
痛みの強い時には芍薬(しやくやく)を加えた腸癰湯加芍薬(ちょうようとうかしやくやく)を用いますが、エキズ剤では、芍薬甘草湯(しやくやくかんぞうとう)(116頁)を加えて用いれば良い。

処方の解説 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)から、大黄(だいおう)と芒硝(ぼうしよう)をとり去り、薏苡仁(よくいにん)(ハトムギ)を加えたものが腸癰湯(ちようようとう)です。
 桃仁(とうにん)牡丹皮(ぼたんぴ)は消炎、抗菌、解熱、血管拡張による循環改善があり、冬瓜子(とうがし)は消炎、利尿、排膿作用がある。薏苡仁(よくいにん)は清熱排膿剤で、消炎作用があります。



『漢方診療医典』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎著 南山堂刊
p. 276
婦科科疾患
帯下
p.277
腸癰湯〕  大黄牡丹皮湯の腹証の如く,下腹部に抵抗圧痛があり,あるいは この部に腫瘤状のものをふれ,便秘せぬもので帯下あるものに本方がよいのである.便秘のもの,症状の激しいものは大黄を加えるか,大黄牡丹皮湯に薏苡仁を加えて用いることもある。

p.520
腸癰湯(ちょうようとう)
 薏苡仁9. 瓜子6. 桃仁5. 牡丹皮4.



『古典に生きるエキス漢方方剤学』 小山 誠次著 メディカルユーコン刊

出典 『集験方』、『備急千金要方』
主効 消炎解毒、駆瘀血。
    大黄牡丹皮湯より瀉下を弱め、利水を強めた薬。
組成 薏苡仁9 牡丹皮4 桃仁5 冬瓜子6
    大黄牡丹皮湯 牡丹皮 桃仁 冬瓜子 大黄 芒硝
              薏苡仁
解説
 本方は大黄牡丹皮湯(699頁)の加減方であり、大黄牡丹皮湯去大黄芒硝加薏苡仁である。大黄牡丹皮湯は消炎性且つ駆瘀血性の瀉下薬であり、腸癰に対して処方される薬である。
 【薏苡仁】…関節内水腫や組織の浮腫に対して利水作用を発揮し、同時に関節・筋肉・四肢などの痺痛に対しても効を奏する。また内癰・外癰に拘らずに処方して消炎し、排膿作用を齎す。更には穀物として食して栄養を補って消化吸収し、止瀉する。一方、治疣作用、美肌作用もあり、非常に家用途である。
 【牡丹皮】…消炎性の駆瘀血薬であるが、実熱を解して血流を改善するのみならず、虚熱に対してもこれを清し、代謝熱や慢性消耗性疾患の発熱に対して鎮静的に作用する。

 【桃仁】…代表的な駆瘀血薬の一つであり、月経痛・月経不順に対してのみならず、打撲・捻挫などの瘀血性疼痛にもよく奏効し、また含有する脂肪油による腸の蠕動刺激作用によって排便を促進する。
 【冬瓜子】…内臓の炎症や化膿などに対して消炎しつつ、また排膿促進作用もあり、更には気道炎症による熱痰に対しては鎮咳袪痰的に作用する。『薬性提要』には、「熱を瀉して脾を益し、二便を利し、水腫を消す」とある。
 以上、温熱薬は一つもなく、全ての薬味が消炎作用を発揮し、また薏苡仁・冬瓜子は排膿促進的にも働く。その他、瀉下作用は桃仁のみであり、利水作用は薏苡仁のみであり、牡丹皮・桃仁は駆瘀血作用を有する。
 総じて消炎性・排膿促進個且つ駆瘀血性で、弱い瀉下作用及び弱い利水作用を発揮する薬である。

適応
 大黄牡丹皮湯の適応証の軽度のもの。

論考
 ❶本方の出典は、北周の姚僧垣撰『集験方』を先ず挙げなければならない。しかし、既に亡佚してしまっているので、先ず輯校本より引用すると、、高文鋳輯校『集験方巻第四・治肺痿、肺癰及腸癰方に、「腸癰を治する湯方」として記載されている。
 ❷一方、『備急千金要方巻之第二十三痔漏・腸癰第二には、「腸癰を治する大黄牡丹湯方」に続いて、「腸癰を治する湯方」として、牡丹・甘草・敗醤・生姜・茯苓・薏苡人・桔梗・麦門冬・丹参・芍薬・生地黄が記載されているが、又方として薏苡仁・牡丹皮・桃仁・瓜瓣人が記載されている。そして、方後の小字双行で、「姚氏は桃人を用いず、李人を用う。崔氏には芒硝二両有りて云う、腹中㽲痛し、煩毒安からず、或いは脹満して飲食を思わず、小便渋る。此の病多くは是れ腸癰なり。人多く識らず。婦人産後虚熱の者、多くは斯の病と成る。縦(たお)い癰疽に非ずとも、疑うらくは是れ便ち此の薬を服して他損無き也」とあって、本方は『千金方』にも一方の腸癰湯として採用されていることが分かる。というよりも、事実は『千金方』に収載されていたから、本方が『集験方』に既に収載されていたことが判明したのである。尚、瓜瓣人は冬瓜子のこと。
 また、産後の虚熱の多くが腸癰というのは、本方や大黄牡丹皮湯が婦人科学的諸疾患に適用となることを示唆している。
 尚、山田業広著『九折堂読書記千金方』巻下・巻第二十三痔漏・腸癰第二には、 「姚氏不用桃人用李人」に対して、「諸本には『李人』を『杏人』に作る」と解説されている。
 ❸先の『千金方』の小字双行での李人であるが、『本草綱目第二十九巻・果之一五果類・李には、「桃仁…… 主治 僵仆(キョウフ)の踒折(カセツ)による瘀血の骨痛別録……女人の少腹腫満を治し、小腸を利し、水気を下し、浮腫を除く甄権……」ともあるので、桃仁の代りに処方することは充分可能である。
 尚、先の小字双行箇所の少し後には、「又方 瓜子三升擣(つ)きて末とし、水三升を以って煑r一升五合を取り、分ちて三服とす」ともあるので、腸癰に対しては瓜子は単独でも対応し得ることになる。
 ❹従って、本方は『集験方』に於いて、薏苡仁・牡丹皮・李仁・冬瓜子と処方されていたが、その上に立って『千金方』では薏苡仁・牡丹皮・桃仁・冬瓜子と改変されたことになる。
 ❺さて、今まで本方の『集験方』から『千金方』への変遷について述べたが、もう一つの経路として『金匱要略』を挙げなければならない。
 同書・肺痿肺癰欬嗽上気病脉証治第七に、「千金葦茎湯、欬して微熱有りて煩満し、胸中甲錯するを治す。是れを肺癰と為す」との許に、葦茎・薏苡仁・桃仁・瓜瓣と指示され、方後には「再び服せば当に膿の如くなるを吐すべし」とある。更に、もう一方は瘡癰腸癰浸淫病脉証并治第十八の大黄牡丹皮湯である。
 即ち、千金葦茎湯去葦茎合大黄牡丹皮湯去大黄・芒硝は正に腸癰湯だからである。
 ❻そこで、『医心方巻第十五・治腸癰方第十二には、「集験方、腸癰を治する湯方」とあって、薏苡人・牡丹皮・桃人・冬瓜人と指示されている。
 何と『医心方』では、既に『集験方』に於いて、『千金方』の四味が処方れていたと記している。『集験方』は我が国の大宝律令の医疾令で既に指定されていた書であるから、当然のこと乍ら既に伝来していて、実際、藤原佐世著『日本国見在書目録』卅七 医方家には、「集験方十二姚僧垣撰」と記載されている。同書は寛平年間(889~898年)の成立である。従って、約90年後の成立の『医心方』の著者・丹波康頼は直接目賭していたはずである。即ち、『千金方』の小字双行に云う「姚氏は超人を用いず、李人を用う」は『集験方』に別本が存在したことを窺わせる。姚僧垣の原方が何れであったかは不明と言わざるを得ないが、これは『金匱要略』から直接に処方を改変し、既に今日の腸癰湯が『集験方』に於いて成立していたことを窺わせるに充分足り得る。
 ❼『聖済総録』巻第一百二十九癰疽門・腸癰には、「腸癰を治するには、少腹堅く腫れ、大きさ掌の如くして熱し、之を按じて痛み、其の上の色、或いは赤、或いは白にて小便稠(こ)くて数、汗出でて憎寒し、其の脉遅緊なる者、未だ膿を成さず、如し脉数なるときは膿已に成る」と大旨が記載されて、「腸癰を治する大黄牡丹湯方」と大黄牡丹皮湯が掲載された後、「腸癰を治する薏苡仁湯方」とあって、腸癰湯が薏苡仁湯との方名で収載されている。
 ❽また、『全生指迷方巻四・婦人科には、「瓜子湯、腸頭、針を以って刺すが如きが穀道に連なり、又痔痛むに因りて小便淋の如き状にて時に寒く時に熱し、此れ、産時に力気を用いて腸間に併せるに由り、亦陰虚して邪熱乗じて客し、腸間に留聚するに因りて、熱結して恐らくは腸癰と成るを治す。袁当時大方云う、崔左丞屢々用いて効有りと」とあって、同じく腸癰湯が指示されている。
 ❾『三因極一病証方論巻之十五・腸癰証治には、大黄牡丹湯に続いて、「 薏苡仁湯 腸癰にて腹中㽲痛し、煩毒安からず、或いは脹満して食さず、小便渋るを治す。婦人産後の虚熱、多くは此の病有り、縦い癰に非ずとも、但疑うらくは是れ便ち服すべし。就(たと)い差互有れども亦害無し」とあって、薏苡仁・牡丹皮・桃仁・瓜瓣仁が指示される。
 一方、同書・巻之十三・肺癰証治には、「 葦葉湯 肺癰を治す」とあって、薏苡仁・瓜瓣仁・桃仁を剉散、葦葉一握りを入れて煎服する。方後には「或いは膿血を吐るとも怪しむ勿れ」とも記載される。薏苡仁湯とは四味の中、三味まで共通であり、先の千金葦茎湯とも同一事情である。従って、本方も肺癰に対して適応になり得る。
 ❿『世医得効方巻第十九瘡腫科・腸癰には、牡丹湯(大黄牡丹皮湯のこと)に続いて、薏苡湯が『三因方』の条文と略同一で収載され、薬味も同様である。
 ⑪一方、『外科発揮』巻四・腸癰には、薏苡仁湯と瓜子仁湯とか掲載されている。前者は「腸癰にて腹中㽲痛し、或いは脹満して食さず、小便渋るを治す。婦人産後、多くは此の病有り。縦(たと)い癰に非ざれども之を服して尤も効あり」とあり、後者は「産後悪露尽きず、或いは経後の瘀血、痛みを作し、或いは腸胃停滞して瘀血、痛みを作し、或いは癰を作して患うを治す。并びに効あり」とある。しかし、配合薬は薏苡仁・桃仁・牡丹皮・瓜蔞仁と指示されている。
 ⑫同じく『外科正宗』には冬瓜子を瓜蔞子に置き換えた処方が記載されている。同書・巻之三・腸癰論第三十三には、「瓜蔞子湯 産後悪露尽きず、或いは経後の瘀血、腸胃に停滞して痛みを作すを治す。縦い是れ癰に非ざれども之を服して尤も効あり」とあって、瓜蔞子湯加芍薬の処方が指示されている。
 ⑬この芍薬加味の処方は、浅田宗伯によって瓜蔞仁を冬瓜子に再び置き換えられ、腸癰湯加芍薬として浅田流ではよく用いられている。
 ⑭『張氏医通巻十四・腸癰門には、「薏苡瓜瓣湯千金 腸癰を治す」とあって、薏苡仁・牡丹皮・桃仁・瓜瓣と指示され、以下『千金方』の小字双行と略同一で記載される。
 ⑮『師語録』巻上二・癰疽諸瘡には、「……亦、腸癰とてほがみひきつり、小便渋り、腹脹りなんどし、或いは臍より膿出で、或いは大便に膿血出づる也。薏苡仁湯を用いよ」とある。ほがみは小腹のこと。また、同書・巻下一・薏苡仁湯には、「一切の腸癰を治す。婦人産後に此の病有り。いまだ癰と見定めず共、服すべし」とあって、薏苡仁・括蔞根・牡丹皮・桃仁を煎服するべく記載される。ここでは栝楼根が指示されている。
 ⑯『百疢一貫巻之下・瘰癧 肺痿 肺癰 腸癰には、「○大黄牡丹湯の瓜子、諸説ありと云えども瓜蔞実、今試むるに之に過ぐるものなし。冬瓜子・甜瓜子とする説あれども、至ってぬるき也。瓜蔞仁よりは実よし。そのまま用ゆべし。経閉などにも然り。外台に芥子に作る。山脇も是れに従う。おかしき也。奇効良方に瓜呂仁にしてあり、是れ也」とある。和田東郭は現在の腸癰湯の冬瓜子よりも瓜蔞仁、更には瓜蔞実を至上とする。
 ⑰竜、現在は瓜蔞実と瓜蔞仁は括楼の種子で同一物を指すが、『本草綱目』第十八巻上・草之七蔓草類・栝楼・実 修治 には、小子双行にて「時珍曰く、栝楼、古方には全て用ゆ。後世乃ち子と瓤(うりわた)とを分けて各々用ゆ」とあり、『漢薬の臨床応用』括楼仁には、〔附〕括楼皮と〔附〕全括楼も掲載されているので、東郭は括楼実=全括楼を用いていたことがわかる。
 ⑱『観聚方要補巻六・肺癰・ 腸癰 胃脘癰には、「腸癰湯千金 薏苡仁・牡丹皮・桃仁・瓜瓣仁、右水煎す。崔氏には芒硝二両有り。○正宗は瓜瓣
を瓜蔞仁に代え、芍薬を加えて薏苡仁湯と名づく。腸癰にて腹中㽲痛し、或いは脹満して食さず、小便渋滞するを治す。婦人の産後には多く此の病有り、縦い癰に非ずとも、之を服して尤も効あり」と、本方の来歴についても解説している。
 ⑲『校正方輿輗』巻之六・腸癰には、「瓜子仁湯薛己家科枢要 産後悪露、或いは経行して瘀血、痛みを作し、或いは腸癰と作すを治す」とあって、薏苡仁・桃仁・牡丹皮・瓜蔞仁と指示される。また、「○此の方千金第廿三巻に腸癰湯と名づけ、……」とあるが、瓜蔞仁と瓜子仁とは異なる。以下、『千金方』の小字双行箇所の引載の後、「○此の方、腸癰病症に用うべし。又婦人産後、悪露停滞して腸癰となる者などに殊に良方なり。薬、平和なりと雖も、痛みを和することは却って厲剤に越えたり」とも解説される。
 ⑳以上、度々登場した冬瓜子、瓜子、冬瓜仁、瓜瓣、瓜瓣仁は孰れも同一薬味で、内癰の要薬としては薏苡仁と同様である。一方、薛己や和田東郭は冬瓜子よりも瓜蔞仁の方が有用としている。
 ㉑『方彙続貂瘍科・腸癰には、「腸癰は手を触るること能わず」とあって、「腸癰湯千金腸癰にて腹中㽲痛し、煩して安からざる者を治す」とあって、薏苡・牡丹・瓜子・桃仁を水煎する。
 ㉒『症治による漢方治療の実際』帯下・腸癰湯には、「千金方の腸癰湯は、薏苡仁・桃仁・牡丹皮・括呂仁の4味からできているが、これで帯下の治ることがある。これを用いる目標は、大黄牡丹皮湯の腹証と同じく、下腹部に抵抗圧痛を証明し、或いはこの部分に腫状のものをふれる場合で、便秘の傾向のないものである。もしも便秘の状があるなら、大黄牡丹皮湯加薏苡仁とする」とのことである。また、同じく薏苡附子敗醤散には、「……腸癰湯にも、この方にも薏苡仁が入っている。湯本求真先生は、帯下の患者には、いつも薏苡仁を入れられた。例えば、大柴胡湯桂枝茯苓丸加薏苡仁とか、小柴胡湯当帰芍薬散加薏苡仁とかいう風である」と解説される。ここでは腸癰湯として括呂仁が指示されているが、『漢方診療の実際』改訂版や『経験・漢方処方分量集』では、薏苡仁・瓜子・牡丹・桃仁と記載されている。恐らく錯語であろう。
 ㉓矢数道明先生は『漢方の臨床』第22巻第10号・温知堂経験録(93)・ひどい面疱に腸癰湯加芍薬と、また第25巻第7号・温知堂経候録(112)・掌蹠膿疱症に腸癰湯加芍薬と紫雲膏と、何れも桂枝で悪化し、腸癰湯加芍薬で治癒に向かった症例を報告されている。
 ㉔著者は昔、漢方に入門したての頃、何れの書で学んだかはもう記憶にないが、急性虫垂炎の患者にOpe前では大黄牡丹皮湯を、Ope後では腸癰湯をワンパターンに処方したことがあった。Ope前の場合はOpeになるかならないかはケースバイケースだったのを覚えているが、Ope後はそのような投与方法でも特に問題はなく、うまく行くのが当然という感触だった。


※齎す:もたらす
※【亡佚】ボウイツ ⇒亡逸 にげてゆくえがわからなくなること。にげうせる。
※僵仆(キョウフ)
※踒折(カセツ)
※甄権
※目賭


腸癰湯が有効であった9症例に基づく使用目標の検討 
Investigation of Clinical Indications of Choyoto based on 9 Effective Cases
『日本東洋醫學雜誌 57(4)』, 443-447, 2006-07-20


関矢 信康 地野 充時 小暮 敏明 巽 武司 引網 宏彰 柴原 直利 喜多 敏明 寺澤捷年


  腸癰湯は『備急千金要方』を原典とする処方で急性・慢性腸疾患,皮膚疾患,肺化膿症などに応用されてきた。我々は種々の疾患に対して腸癰湯が有効であった 9症例を経験した。自覚的には便秘を訴える者が多かった。これらの症例を検討した結果,共通した他覚所見としてこれまで重要であるとされていた右臍傍圧 痛,回盲部圧痛,腹直筋緊張の他に,皮膚乾燥,浮腫傾向(顔面,上肢,下腿),舌質の色調が正常であるものが多い傾向がみられた。これらが新たな使用目標 となることが示唆された。  
 Choyo-to, which has long been used for acute and chronic intestinal disease, dermatological disorders and pulmonary abscess, is attributed to the writings of 7th Century physician Sun Simiao, known as the "Qian-jinyao-fang". We have also successfully treated nine different patients suffering from various diseases, using Choyo-to. In most of these cases, patients complained of constipation. Thus far, our modern experience suggests that Choyo-to may be indicated for not only right-side pain upon naval palpitation, pressure sensation at the ileocecum and excessive strain of abdominal muscles, but also for cases of dry skin, edematous skin and tendency of normal tongue color.

キーワード :腸癰湯,便秘,浮腫,皮膚乾燥,瘀血



 諸言
 腸癰湯は代表的な駆瘀血剤である大黄牡丹皮湯より大黄と芒硝の瀉下剤を去り,薏苡仁を加えた方剤である。四味の腸癰湯は『備急千金要方』を出典とする方剤で,『勿誤薬室方函口訣』には『此の方は大黄牡丹皮湯にて攻下の後,此の方を与えて餘毒を尽くすべし。腸癰のみならず諸瘀血の症に此の方の所治多し。」とその使用目標について記載がある。『漢方診療医典』にも「大黄牡丹皮湯の腹証のごとく,下腹部に圧痛抵抗があり,あるいはこの部に腫瘤状のものをふれる。」と記されている。さらに近年では引網らが腸癰湯の使用目標として回盲部圧痛,胸脇苦満,腹直筋攣急,臍傍圧痛が重要であることを報告している。
 今回,我々は種々の疾患に対して腸癰湯が有効であった9症例を経験し,その使用目標について新たな知見を得たので報告する。

 対象あるいは症例
 症例1
 症例:51歳,女性,高等学校教諭
 主訴:両上肢・頸部・背部の瘙痒,月経不順,便秘
 既往歴:虫垂切除(26歳時)
 家族歴:特記すべきことなし
 現病歴:上記の主訴のため漢方治療を希望し,2000年10月23日より当科に通院していた。十味敗毒湯当帰飲子清上防風湯大柴胡湯等を投与したが効果なく,2001年11月13日より瘀血と気鬱を目標に通導散に転方した。通導散の服用により痒疹はストレスの多いときなど月に3回程度となり,月経不順,便秘は消失した。しかし2004年2月頃より下痢傾向となったため2月25日には服用を中止し,同年3月9月に証を再考した。
<和漢診療学的所見>
 自覚症状:皮膚瘙痒,腹部膨満感,朝のこわばり,便秘傾向(2~3日に1回程度)。
 他覚所見:身長154cm,体重65kgと肥満し色白で,皮膚は乾燥し,下腿に軽度の浮腫を認める。脈候は浮沈中間,虚実間,やや渋,舌候は正常紅で白苔に被われていた。腹候は腹力中等度で両側腹直筋緊張,両側臍傍圧痛,回盲部圧痛,臍上悸,小腹不仁を認めた。
<治療経過>
 脈状,臍傍および回盲部圧痛より瘀血病態の継続を示唆した。脈の緊張度,腹力より虚実間証と考えられたため腸癰湯エキスに転方した。転方後にも月経不順,便秘はなく,痒疹の出現もなく同年3月に廃薬とした。

 症例2
 症例:39歳,女性,自営業
 主訴:全身倦怠感,便秘
 既往歴:花粉症(26歳時~)
 家族歴:特記すべきことなし
 現病歴:1993年に全身倦怠と微熱のため某大学病院にて検査を受け,血管造影検査にて左鎖骨下動脈と左腎動脈に狭窄を認め大動脈炎症候群の診断を受けた。この頃からCRPは2.0~4.0mg/dL前後であったが投薬なしで経過観察となっていた。2001年4月7日に漢方治療を希望し当科初診、精査の結果,狭窄の状態は1993年と変化ないためプレドニゾロンは使用せず,肘後方奔豚湯加茯苓白朮で経過観察されていた。入院中には自覚症状は軽快していたが,退院後は再び全身倦怠感が増悪し,便秘も持続し改善を認めなかった。炎症反応もCRP2.0~5.0mg/dL,ESR80~110mm/hr前後と改善せぬため2002年5月14日に証を再考した。
<和漢診療学的所見>
 自覚症状:全身倦怠感,易疲労,食思不振,便秘(排便は週に1回程度)。
 他覚所見:身長148cm,体重42kgと痩せ型で皮膚は色白で乾燥傾向。脈候はやや浮,虚実間,弦。舌候は正常紅で微白苔に被われていた。腹候は腹力やや軟弱で心下痞鞕,両側腹直筋緊張,臍上悸,両側臍傍測痛,回盲部圧痛,S状部圧痛,広い範囲に著明な鼓音を認めた。転方時の血液検査成績を表1に示す。
 
<治療経過>
 気鬱と食思不振,心下痞鞕を目標に『勿誤薬室方函口訣』に「男女共気滞にて,胸中心下痞塞し,黙々として飲食を欲せず」と記載のある香蘇散エキスに転方した。服用4週後には食思不振は消失し,他覚所見上では心下痞鞕の消失,鼓音の減少を認め倦怠感も多少は改善したが,相変わらず便秘も続き,臍傍・回盲部・S状部圧痛などの瘀血を示す症候に著変はみられなかった。脈候および腹候より虚実間証と考えられたので,大黄芒硝などの瀉下剤を含まない腸癰湯エキスを交互服用としてみた。併用4週後には便通は2日に1回程度となり倦怠感もさらに改善した。また同年8月25日の採血では炎症反応はCRP0.5mg/dL,ESR57mm/hrとさらに改善し下腹部の圧痛も消失した。その後は休みかちながらも服薬を継続していたが,2004年11月を最後に来院しておらず,その後の経過は不明である。しかしながら,その時点においてもCRP0.4mg/dLと陰性であった。

 症例3
 症例:61歳,男性,会社員
 主訴:肛門痛,痔出血,便秘
 既往歴:乾癬(55歳),内痔核(56歳),立前腺雁にて前立腺全摘除術および放射線療法(60歳)
 家族歴:特記すべきことなし
 現病歴:56歳時に内痔核のため同様の主訴あり近医にてシコンエキス・安息香酸エチル・塩酸ジブカイン配合剤を処方され病状消失した。2002年6月の前立腺癌の術前検査の頃から症状が再燃した。同年12月に放射線療法終了後も症状持続し吉草酸ジフルコルトロン・リドカイン配合剤など種々の投薬治療を受けたが改善せず漢方治療を希望し,2003年3月24日に当科を初診した。
<和漢診療学的所見>
 自覚症状:肛門痛,痔出血,腹部膨満感,便秘(硬便で排便は2日に1回),不眠,夜間尿。
 他覚所見:身長168cm,体重65kgと中肉中背で皮膚は浅黒く,皿燥傾向。痔核は脱出するが用手還納は可能であった。脈候は浮沈中間,虚実間,弦,やや渋。舌候はやや暗紫色で白苔に被われていた。腹候は腹力中等度で両側腹直筋緊張,両側臍傍圧痛,回盲部圧痛,小腹不仁を認めた。
<治療経過>
 皮膚の浅黒さ,乾燥傾向,痔疾,渋脈,舌の暗紫色,臍傍圧痛,回盲部圧痛より明らかな瘀血病態と診断した。脈の緊張度,腹力より虚実間証と考えられたため腸癰湯エキスを投与した。投与2週間後には肛門痛はまだ持続していたが,大便は柔らかくなり出血しなくなった。4週間後には疼痛,腹部膨満感も消失し,下腹部の圧痛も消失した。その後も落ち着いた状態が続いていたため計12週間の投与で廃薬とした。
【有効症例での検討】
 以上の3症例の他に我々は種々の疾患に対して腸癰湯が有効であった6症例を経験した。症例1~3までを含めた9症例の背景を表2に示す。
 これらの症例の腸癰湯への転方時の自他覚所見を検討したところ自覚的には便秘を認め,他覚所見としては皮膚乾燥,浮腫状の皮膚を認め,舌質の色調が正常であるものが多く,実脈を呈するものはいなかった。腹候では腹力は中等度以下で臍傍圧痛,回盲部圧痛,腹直筋緊張,小腹不仁が多くみられた。便秘の有無,皮膚乾燥,浮腫の有無,脈の強さ,舌質の色調を表3に,腹候を表4に示す。
 考案
 腸癰湯は薏苡仁,冬瓜子,牡丹皮,桃仁の四味から構成された駆瘀血剤である。大黄牡丹皮湯より大黄と芒硝の瀉下剤を去った構成であり,虚実間証が適応とされている。薏苡仁は水を利し,冬瓜子は膿を去り,牡丹皮,桃仁は悪血を去り,桃仁には潤腸作用もある。これまでの腸癰湯は「便秘せぬものに用い,便秘のもの,症状の激しいものには大黄を加えるか,大黄牡丹皮湯に薏苡仁を加えて用いる」とされてきた。これに関して小山は腸癰湯の薬能を「消炎性,排膿促進性かつ駆瘀血性で弱い瀉下作用および弱い利水作用を発揮する」と述べている。また,中村は前立腺癌術後で膀胱刺激症状に便秘を伴う症例に腸癰湯合猪苓湯を投与して著効を得たと報告している。今回経験した症例は9例とも便秘傾向であり,腸癰湯の投与によって全例が2週間以内に便秘が改善し,他の症状の改善が得られている。このことから便秘改善の有無は本方継続の一つの目安になると考えられた。
 腸癰湯を皮膚疾患に応用した報告は多くはないが,いずれもがその皮膚の特徴として乾燥を挙げている。今回は症例1,6および8が皮膚疾患であるが,この3例に限らず皮膚の乾燥が認められたことから本方を使用する上で重要な所見になりうるものと考えられた。また,顔面,上肢(朝のこわばりを伴う),下腿などに浮腫傾向を持つものが5症例あり,その分布は各症例で異なっていた。しかし5症例ともに浮腫傾向は腸癰湯の投与で消失した。浮腫および皮膚の乾燥傾向の改善は瘀血の改善のみならず薏苡仁による利水作用の関与が推測された。とくに薏苡仁の薬能については「甘は胃を益し,土は水に勝つ,恋は湿を滲す」「水を瀉すは土を益す所以なり、故に脾を健にし,水腫湿痺を治す」とあり,大黄牡丹皮湯証にない利水作用が本方剤の特徴を示唆していると考えられた。
 腹候については前出の引網らの腸癰湯の使用目標とほぼ同様で回盲部圧痛,腹直筋攣急,臍傍圧痛を多く認めた。また小腹不仁を8症例で認めたがこれは今回提示した症例の年齢が高いことによるためではないかと考えられた。
 舌質の色調では正常紅の症例が7例,やや暗赤色が1例,やや暗紫色が1例であり明らかな瘀血による舌の色調変化を呈する症例はなく,舌に点刺を伴う症例も見られなかった。今回の検討から腸癰湯は瘀血による舌の色調変化が見られない症例に対しても瘀血の症候,皮席の乾燥・浮腫傾向を認めた場合には便秘を伴っていても試みる価値のある処方であると考えられた。

 附記:本稿の症例2を除く8症例には全てコタロー腸癰湯エキス6.0g/日を投与した。症例2はツムラ香蘇散エキス7.5g/日とコタロー腸癰湯6.0g/日の交互服用とした。


『勿誤薬室方函口訣(87)』
調中湯 釣藤散 腸癰湯(千金) 腸癰湯(集験方)
日本東洋医学会会員 木下 恒雄

腸癰湯(千金)
 次は『千金』の腸癰湯(チョウヨウトウ)です。『千金』と申しますのは唐時代に孫思邈が書きました『備急千金要方』という書物です。
 条文を読んでみますと、「腸癰潰(ついえ)し後、疼痛、淋瀝已まず、或いは精神減少、飲食無味、面色痿黄、四肢無力、睡臥不安の者を治す。栗園先生曰く、婦人帯下止まざる者を治す」ということになるかと思います。
 意味は「腹腔内部に化膿性病変の起こっている部分がつぶれて、痛みがあって尿が出しぶる状態が続いたり、或いは陽気が衰えて気力がなくなり、食物の味がなく、顔色がうす黒い黄色になり、手足に力が入らず、落着いて横になって眠ることができないような状態のものを治す。浅田宗伯先生は婦人の帯下が持続するものを治すといっておられる」ということになると思います。
 構成生薬は牡丹(ボタン)(皮(ピ))、甘草(カンゾウ)、敗醤(ハイショウ)、生姜(ショウキョウ)、茯苓(ブクリョウ)、桔梗(キキョウ)、薏苡(よくい)(仁(ニン))、麦門(バクモン)(冬(ドウ))、丹参(タンジン)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)の十一味ですが、そのうち甘草、生姜、麦門、芍薬はすでに述べましたので省略します。
 牡丹はボタンピで、ボタン科のボタンの根皮です。主要成分はペオノール、ペオノサイド等ですが、駆瘀血剤の代表的なもので、また排膿の目的で配合されることもあります。ペオノールに関しましては虫垂炎起炎菌に対する抗菌作用、中枢抑制作用、抗炎症作用等の報告もあるようです。敗醤はオミナエシ科のオミナエシまたはオトコエシの根で、根で腐った醤油のような臭いがあるためにこの名が付いたということです。消炎、解毒、駆瘀血、排膿等の効があるといわれています。桔梗はキキョウ科のキキョウの根で、主成分は数種のサポニンの混合物のプラチコジンです。排膿、去痰、咽喉痛を治す等の目的で処方に配合され、甘草を併用するとその効果が強まるといわれております。
 薏苡は薏苡仁でイネ科のハトムギの種子です。主要成分はシトステロール、および腫瘍抑制作用があるといわれているコイキセノライドです。消炎、利尿、健胃、鎮痛、排膿作用があるといわれておりまして、外用および内服により伝染性の疣に効果があることが知られております。また体質を変える目的で種々の処方に加味して用いられます。丹参はシソ科植物タンジンの根で、タンシノンⅠ、タンシノンⅡ-A、クリプトタンシノン等の成分が知られておりまして、活血、駆瘀血などの効があるといわれます。私が一昨年中国に参りました時、丹参を主薬とする注射薬が虚血性心疾患に効をあげている事実を知らされました。ベッドサイドで使用前後の心電図も見せてもらいましたが、短期間のうちにST・Tの著明な改善を認める例がございました。地黄はゴマノハグサ科のアカヤジオウの根で、補血、強壮等の効があるといわれております。主要成分はカタルポールです。
 『口訣』を読んでみます。
 「此の方は腸癰にて大黄牡丹湯(ダイオウボタントウ)など用い攻下の後、精気虚敗四肢無力して余毒未だ解せず、腹痛淋瀝已まざる者を治す。此の意にて肺癰の虚症臭膿未だ已まず、顔色痿黄の者に運用してよし。又後藤艮山の説に云うが如く、痢病は腸癰と一段に見做して痢後の余毒に用うることもあり。又婦人帯下の証疼痛已まず、睡臥安からず、数日を経る者、腸癰と一撥と見做して用うることもあり。其の妙用は一心に存すべし」。
 『口訣』の意味は「腹腔内の化膿性炎症で、大黄牡丹皮湯などを用いたあと元気がなくなり、四肢の脱力が起こっているが、まだ病原体が体内に残って腹痛や尿しぶりが続いているようなものをを治す。化膿性炎症に効果が期待できるという意味で、肺の化膿性炎症で体力が落ち、痰や息が臭くて、顔色がうす黒い黄色を呈しているような状態のものに用いてもよい。また、本邦古方の泰であります後藤艮山のいうように、伝染性の細菌性下痢は腸癰と同様にみなして、下痢がおさまったあとに病原体を駆除するために用いることもある。また、婦人で帯下があって痛みが続き、よく眠れなない日が数日続き者も腸癰と同じにみなして用いることもある。そのコツは雑念を排し精神を集中して診ることである」ということになると思います。なお、栗園とは浅田宗伯先生の号です。


腸癰湯(集験方)
 次は『集験方』の腸癰湯(チョウヨウトウ)です。『集験方』は北周の時代に一つ、宋の時代に二つあるそうですが、その何れかはっきりしません。
 条文を読んでみますと「腸癰にて腹中㽲痛し、或は脹満して食せず、小便渋るものを治す。婦人産後の虚熱の多くは此の病にあり、たとえ癰に非ずとも疑似する間はすなわち服すべし」となろうかと思います。
 意味は「腹腔内部の化膿性病変で先部が少々痛み、あるいは腹部が腹水によって膨れていて食欲がなく、小便が出しぶるようなものを治す。婦人の産後で熱があって元気が衰弱していて瀉剤が用いられないような場合の多くは腹腔内部の化膿性炎症が原因となっている。たとえ腹腔内の化膿性炎症でなくても病状がよく似ているときは本方を服すべきである」ということになろうかと思います。
 構成生薬は薏苡(ヨクイ)(仁(ニン))、瓜子(カシ)、牡丹(ボタン)(皮(ピ))、桃仁(トウニン)の四味ですが、そのうち薏苡仁と牡丹皮は『千金方』の腸癰湯のところで述べましたので略します。
 瓜子はウリ科のトウガの種子で冬瓜子(トウガシ)ともいいます。消炎、利尿、排膿、鎮咳等の効があるといわれております。桃仁はバラ科のモモの種子でアミグダリン、エムルシンが主な成分ですが、駆瘀血薬の代表的なものの一つです。本方は『金匱要略』の大黄牡丹皮湯の変方で、大黄牡丹皮湯から大黄、芒硝(ボウショウ)(硫酸ナトリウム)を去り薏苡仁を加えたものです。なお、本方に芍薬を加え、腸癰湯加芍薬(チョウヨウトウカシャクヤク)として用いることもあります。
 『口訣』を読んでみます。
 「此の方は大黄牡丹皮湯の症にして硝黄の用いがたき者に用う。或は大黄牡丹皮湯にて攻下の後、此の方を与えて余毒を尽すべし。腸癰のみならず諸瘀血の症に此の方の所治多し」。
 『口訣』の意味は「本方は大黄牡丹皮湯の証で芒硝や硫黄の用いにくいものに用い、あるいは大黄牡丹皮湯を用いたのち、本方を与えて残留している病原体や炎症による副産物を排除すべきである。腹腔内の化膿性炎症のみでなく、いろいろな瘀血の証に本方の適応が多い」というようなことが書いてあります。
 何れの腸癰湯も、とくに外科や産婦人科の先生には使われる機会が比較的あるのではないかと思います。

※腸癰湯(千金)と腸癰湯(集験方)とは、同名異方であるので注意。エキス剤は集験方のもの。



副作用
(1) 副作用の概要
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる 調査を実施していないため、発現頻度は不明である。
 1) 重大な副作用と初期症状
  添付文書に記載なし。
 2) その他の副作用
  消化器 胃部不快感、下痢等


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