健康情報: 康治本傷寒論 第四十六条 陽明病,発熱,但頭汗出,渇,小便不利者,身必発黄,茵蔯蒿湯主之。

2010年4月24日土曜日

康治本傷寒論 第四十六条 陽明病,発熱,但頭汗出,渇,小便不利者,身必発黄,茵蔯蒿湯主之。

『康治本傷寒論の研究』
陽明病、発熱、但頭汗出、渇、小便不利者、身必発黄、茵蔯蒿湯、主之。

 [訳] 陽明病、発熱し、但頭に汗出で、渇し、小便不利のものは、身必ず黄を発す、茵蔯蒿湯、これを主る。

 この条文の書出しは第四五条と同じであるから、同様に解釈してさしつかえない。即ち陽明病、発熱、無汗であった者に頭にだけ汗が出るようになったと解釈するべきである。それを裏書きをするように宋板と康平本にはその次に身無汗、剤頸而還の二句が続いている。身は胴体のこと、剤は斉で「かぎる」という意味であるから、頸から下には汗がないことであり、但頭汗出と同じ意味になり、不必要な句である。
 但頭汗出は何を意味しているかについて『入門』一九六頁に考察してあるように、胸部に鬱した熱が上方に薫蒸されるためであるとみてよいようである。それも「今これを現代の病理学より反省するとき、頭汗の病理は末だ全く明確でない」とある。この句は第三四条(柴胡桂枝乾姜湯)にもあるが、とにかくその意味がよくわからない。宋板と康平本の「陽明病、無汗、小便不利、心中懊憹者、身必発黄」という条文とこの条文を比較すると、但頭汗出はやはり心中懊憹に関係しているように思える。
渇、小便不利は裏熱によるものである。宋板ではこの句に続いて「此れ瘀熱の裏に在ると為す」という六字がある。康平本ではこれは傍註となっているが、内容は正しい。『講義』二八二頁では小便不利を「此れ水気留滞の徴なり」としているが、『集成』で「金鑑に小便不利は湿が膀胱に蓄えるなりというは非なり」と論じているのが正しい。
 身必発黄は胴体の皮膚が黄色になること、即ち黄疸になることである。必は条件がそろえば間違いなくという意味である。『講義』に「蓋し身に汗無しと、小便不利と、渇して水漿を引く(宋板と康平本では渇引水漿となっている)との三句は、発黄を致すの理を明らかにする者なり」とあるのがその条件である。


茵蔯蒿六両、梔子十四箇擘、大黄二両酒洗。
右三味、以水一斗二升、先煮茵蔯蒿、減二升、内梔子大黄、煮取三升、去滓、分温三服。

 [訳] 茵蔯蒿六両、梔子十四箇擘く、大黄二両酒にて洗う。
右の三味、水一斗二升を以て、先ず茵蔯蒿を煮て、二升を減じ、、梔子大黄を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、分けて温めて三服す。


 方輿輗(有持桂里著、一八二九年)には「茵蔯一味にて黄疸は治するにあらず。……梔子、大黄は主薬で茵蔯はかくべつ貴ぶものではなきなり。むかしより茵蔯はなくしても梔子と大黄とあれば黄疸は治すべきものなり」と論じているが、茵蔯蒿に利胆作用があることは事実であり、また単味の煎液で伝染性肝炎を治癒せしめた報告や、本草書に黄疸を治すと記してあることを考慮すると、この見解は処方構成について理解をもっていないものと言うことができる。
 また梔子には利胆作用はなく、血中の胆汁色素を小便から排泄する作用があるだけであるという実験報告もあるが、梔子にも利胆作用があるという実験の方が恐らく正しい。
 この三味は次のように共力作用を意識して配合されたものと見るべきである。



利胆

利尿

清熱

瀉下

茵蔯蒿

++


 梔子

 大黄

++



 『解説』三八五頁には「ここに挙げられたような症状は急性肝炎の初期にみられる。 (中略)ここには省略になっているが、大便は便秘し、心中懊憹、悪心を伴うことが多い」とある。第四五条で述べたように汗が出ることによって、以津液外出、胃中燥、大便必鞕、となるのであれば、第四六条では身は無汗なのであるから便秘しない筈である。但頭汗出であるからその汗の分だけ大便が鞕くなるとでも言うのであろうか。そうではなく胆汁が十二指腸に流出しなくなるので便秘す識のである。






『傷寒論再発掘』
46 陽明病、発熱 但頭汗出 渇 小便不利者 身必発黄 茵蔯蒿湯主之
    (ようめいびょう、はつねつし、ただずかんいで かっして しょうべんふりするもの みかならずおうをはっす いんちんこうとうこれをつかさどる。)
    (陽明病で、発熱し、頭のみに汗が出て、渇して、小便が不利のものは、身体に必ず黄疸が出てくるものである。このようなものは茵蔯蒿湯がこれを改善するのに最適である。)

 この条文は、陽明病ではあっても、承気湯類の適応病態とは少し相違する特殊な病態をあげて、その対応策を述べている条文です。
 陽明病ですから、 発熱 は悪寒を伴わないものであり、身体全体に汗が出ている筈のものですが、ただ頭部のみ(首から上)に汗が出ていて、渇し、小便が十分に出ない病態であるものは、やがて黄疸が出てくるものであり、こうなったものは、茵蔯蒿湯で改善するのが良い、という意味の条文です。
 伝来の条文は、B-4:発熱但頭汗出渇小便不利発黄者 茵蔯蒿梔子大黄湯主之(第15章)の如きものであったのを、「原始傷寒論」を初めて著作した人が、少し変更し、いかにも「発黄」の原因が分かっているかの如き条文にしたようです。勿体をつけて、威儀を正した条文にしたのは良いのですが、筆者から見ると、いささか 勇み足 という感じがしてなりません。なぜなら、もし、発熱、但頭汗出、渇、小便不利者が、必ず発黄するのだとしたら、既に論じた柴胡桂枝乾姜湯の条文(34条)でも、これがすべて揃っているのであり(小便不利、渇、但頭汗出、往来寒熱)、それにもかかわらず、柴胡桂枝乾姜湯の適応病態が、すべて黄疸になるわけではないからです。また、現代の医学常識から考えてみても、これほど簡単な条件のみで、必ず黄疸がおきてくるなどとは、とても考えられないし、言えないと思えるからです。
 従って、この条文は伝来の如くに、素直に解釈しておいた方が良いでしょう。すなわち、発熱し、頭部にのみ汗が出て、渇して、小便不利して、黄疸のものは、茵蔯蒿湯がこれを改善するのに最適である、というように解釈しておくことです。
 しかし、この条文もあえて条文通り解釈して、「原始傷寒論」の著者の気持を忖度すれば以下のようになるでしょう。すなわち、陽明病で高い持続熱が出て、当然、身体全体に汗が出てよい筈であるのに、頭部だけにしか汗が出ないような状態では、それだけ体内水分が欠乏気味になっていることが想像されますが、渇して小便が不利するようでは、体内水分の欠乏が更に確定されるわけで、このような場合は、汗の代わりに、発黄の原因となるような何かが、身体の表面に出てくる筈であると考えていた、ということです。このように考えれば、こういう条文が書かれたことも容易に理解されることになるでしょう。ただし、これはあくまでも、一つの相像に過ぎません。

46' 茵蔯蒿六両 梔子十四箇擘 大黄二両酒洗。
   右三味 以水一斗二升 先煮茵蔯蒿 減二升 内梔子大黄 煮取三升 去滓 分温三服。
   (いんちんこうろくりょう、ししじゅうよんこつんざく、だいおうにりょうさけにてあらう。みぎさんみ、みずいっとにしょうをもって、まずいんちんこうをにて、にしょうをげんじ、ししだいおうをいれ、にてさんじょうをとり、かすをさり、わかちあたためてさんぷくす。)

 この湯の形成過程に既に温13章8項の所で考察しておいた如くです。すなわち、古代人は何らかの機会に 茵蔯蒿 が黄疸を早く改善する作用を持っていることを知ったのでしょう。黄疸になるとしばしば、胸さわぎや不安感が強くなるものです。また、便秘などもよく伴うものです。この胸さわぎや不安感に対しては 梔子 が用いられたことでしょうし、便秘に対しては 大黄 が用いられたことでしょう。したがって、やがては、黄疸の時に、これらの3種の生薬が共に用いられるようになることも当然の事と思われます。これらの3種の生薬が一緒に用いられて、もし、良い効果を得たとするならば、その経験は固定化され、伝来の条文として書き残され、遂には「原始傷寒論」が著作された時、茵蔯蒿湯という単一生薬湯名がつけられたのであると推定されます。





『康治本傷寒論解説』
第46条
【原文】  「陽明病,発熱,但頭汗出,渇,小便不利者,身必発黄,茵蔯蒿湯主之.」
【和訓】  陽明病,発熱し,ただ頭汗出で,渇して,小便不利する者は,身必ず発黄す,茵蔯蒿湯之を主る.
【訳文】  少陽の傷寒(①寒熱脉証 弦 ②寒熱証 往来寒熱 ③緩緊脉証 緊 ④緩緊証 小便不利)で,頭部から汗が出て渇する場合は,茵蔯蒿湯でこれを治す.
【句解】
 黄(オウ):黄疸のこと.
【解説】  茵蔯蒿湯は,梔子豉湯を基本に持つ方剤です。したがって,少陽傷寒の位置に分類されるのが本来ですが,この条では冒頭に陽明病と書かれています。このことは,茵蔯蒿湯の構成生薬の一つである「大黄」があるため腸管部位のことをある程度考えて亜急性的な解釈を行うときは,この条文の如くになると思われます。
【処方】 茵蔯蒿六両,梔子十四箇擘,大黄二両酒洗,右三味以水一斗二升,先煮茵蔯蒿減二升, 内梔子大黄煮取三升,去滓分温三服.
【和訓】 茵蔯蒿六両,梔子十四箇を擘く,大黄二両を酒で洗い,右三味水一斗二升をもって,先ず茵蔯蒿を煮て二升を減じ, 梔子大黄を入れて煮て三升を取り,滓を去って分かちて温服すること三服す.


証構成
 範疇 胸熱緊病(少陽傷寒)
①寒熱脉証 弦
②寒熱証  往来寒熱
③緩緊脉証 緊
④緩緊証  小便不利
⑤特異症候
 ィ頭汗出(小便不利)
 ロ渇(発熱)
 ハ発黄(茵蔯蒿・梔子)








康治本傷寒論の条文(全文)


(コメント)
発熱について、『傷寒論再発掘』では、
45条では、「ほつねつ」と読み、46条では「はつねつ」と読んでいる。




忖度(そんたく)
〔「忖」も「度」もはかる意〕他人の気持ちをおしはかること。推察。
「相手の心中を—する」