傷寒、脈浮、自汗出、小便数、心煩、微悪寒、脚攣急、②反服桂枝湯。得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、与甘草乾姜湯、以復其陽。③若厥愈者、与芍薬甘草湯、以其脚伸。④若胃気不和、譫語者、与調胃承気湯。⑤若重発汗者、四逆湯主之。
※与甘草乾姜陽となっていたが、与甘草乾姜湯に訂正
※②~⑤は、四角で囲んだ2~5
[訳] 傷寒、脈浮、自ら汗出で、小便
この条文は5段に分けることができる。第1段の冒頭に傷寒とあるが、このような条文はこれが最初であるから、今までの条文とは性格を異にするものであることがわかる。『集成』では「傷寒の二字は
この第1段の状態について治方を挙げていないのは何故であろうか。『弁正』では陽病に進む気配もあるし、陰病に進む気配もあるからまだ処方を挙げないのだという意味のことを論じている。脈浮は陽病を示しているが、発熱に言及していない。またその他の症状を見ると陰病のように見える。したがって陽病と断定するには脈が浮緊数でなければならないし、陰病と断定するには脈は浮緩弱でなければならない。その両方を包含してただ脈浮と言っているのだから、まだ処方を示す必要はないというわけである。しかし傷寒論は病名がきまらない時でも治療法を示すことが基本なのであるから、変化のあらゆる段階でも処方をきめることを教えた書物である筈である。そうだとすれば弁正の解釈はおかしなものになる。
私はこの第1段を練習問題だから解答が出ていないのだと見ている。アメリカの教科書には章や節ごとに必らず練習問題がついているのに似ている。それは知識を教えるだけでなく、知識を身につけされるには考えさせる必要があるからである。第一○条までの知識でこの問題を解かなければならない。何の処方を与えるかについて、『解説』では、桂枝加附子湯、芍薬甘草附子湯、小建中湯が考えられるという。『集成』では附子瀉心湯。『弁正』、『講義』、『入門』では桂枝加附子湯。私は桂枝加附子湯が正解だと思う。したがって第七条と比較してみるとよいのである。
第七条で小便難というのに、第一一条では小便数(サクと読んで屡々の意)という反対の症状になっている。第七条では発汗剤を服用したために汗が止らなくなり、体液が極度に減少して小便難となった。そして悪風だけで熱感はないのだから少陰病であり、当然からだの内部は冷えている。したがって普通の少陰病では小便数(小便自利)にはる筈である。第一一条では自汗出でであるから前者にやや似ているが、脈浮とあるように陽病の性格をもっているから汗の出る程度は陰病の場合より少い。それで汗が出るために体液が甚しく減少することもないので、本来の小便数となるのである。
※少便数→小便数に訂正
脈が本来の沈でない理由は、第一一条は太陽病から第七条の少陰病に移る中間の状態にあると考えればよい。そのことを『解説』一八六頁では「太陽病の表証と少陰病の裏証とが相錯綜している」と解釈し、『講義』四二頁では「其の口を帯べることを言外に含みしなり」(さきに、傷寒といい、ここでは中風だというのもおかしなものである)と表現している。そうすると第四条の太陽中風で陰弱なる時の症状と比較することになる。即ち「陰弱なる者は汗自ら出で、淅淅として悪風し、鼻鳴り乾嘔する者は桂枝湯これを主る」とよく似たところがあるので、第2段のはじめに書いてあるように桂枝湯を服用したのである。脈浮であるとはいえ、第四条よりも一層陰症に偏っているので、それは誤治になるのである。その楽果e「これを得れば便ち」と表現した。
第1段の最後の脚攣急は、脚は股の付け根より下のことであるから下肢に同じで、攣はもつれる意から手足のひきつれる意に転化し、急は第七条で説明したようにひきつれる意であるから、同意語を重ねたにすぎない。
便(すなわち)には更(改める意)の意味があるから、都合の悪い所を改めて良くするという使い方もあるが、ここでは反対に、状態がすっかり悪くなってという意味になる。同じすなわちでも則、乃とは意味がちがう。厥(けつ)は色々な意味があるが、ここでは手足が逆冷(先の方から冷たくなる)することで、厥冷とも厥逆とも言う。陰症の中でも悪質な症状の一つである。
咽中乾はのどがカラカラに乾くことであるが、第一○条のように煩渇と言わないし、口渇とも言わないのは、それらと症状は似ているが病理が異るためである。裏熱によって起るのが口渇、体液が減少したために起るのがこの場合の咽中乾である。ここでは自汗出、小便数のときに発汗させたのだから、体液は甚だしく減少している。
煩躁は『解説』一八五頁では「煩は自覚症状で、苦しい状態、躁は手足をしきりにさわがしく動かして苦しむ状」とし、「入門」六三頁では「煩のために四肢をばたばたさせること」と説明しているが、第一○で煩渇について論じたように、私は煩を「はげしい」の意味にとる。諸橋大漢和辞典を見ても、心配することを煩憂、気がふさがることを煩鬱、なやむことを煩悶、迷いのことを煩悩としていることからも根拠のある解釈だと私は考えている。手足をしきりに動かして全身で苦しむ状態であるから、熱症状を伴うので、陽病の甚だしい場合に現われるが、また反対に陰病の末期にも現われる。ここでは陰病の場合である。
吐逆にも二通りの解釈がある。第三条で説明したように、下からこみ上げるようなという意味を逆の字にもたせて、腹の方からむかむかと成て吐くこと。また逆は(口+屰)で、これは嘔のことだから、吐逆は嘔吐するすること。このどちらに解釈しても似たようなものになる。
この第2段の症状は陰病の非常に悪い状態になっていることを示しているから甘草乾姜湯を与えることになる。これは陰病で嘔吐するときに熱性の薬物で鎮嘔作用の強い乾姜と、急迫を治し、気を下し、温める作用のある甘草を併用するとよいということであり、このようにいわば対症療法的に薬物を用いることになっているが、これを原理的に考えると、陰の症状が重たいことは陽が軽くなっていることだから、寒冷を去って陽気を回復せしめれば陰陽のバランスが調うことにほかならない。これが以って其の陽を復すという表現になる。この陰陽の平衝とか、寒を治するには熱を以ってするとかいう考え方は素問や神農本草経における原則と全く同一であることに注目すべきである。これは傷寒論の著者の考え方の基本になっているだけで傷寒論の体系ではない。
第3段は手足の冷えと悪寒が治っても、第1段に示した脚の攣急が残っているから、鎮痙作用の強い芍薬甘草湯を与えれば、下肢の筋肉のひきつれが治り、下肢が伸びるということである。芍薬も甘草もそれぞれ鎮痛鎮痙作用をもっているから、これを併用すれば共力作用となってその作用が増強されるという経験から生まれた処方である。
第4段は胃気不和の解釈がむつかしい。胃は腸を指すという解釈をする人が多く、それは内実だから大便が硬い。したがって下剤を与えるのだとなる。しかし原文では胃気となっているのだから、やはり胃の症状と考えるべきである。邪熱が胃に入ったために、不和、即ち相応することができなくなり、食欲のなくなる場合もあり、むやみに食べる場合もある、と考えることができる。この邪熱がさらに腸に入るとうわごと(譫語)を言うようになる。このように消化管に邪熱が入った場合は下剤をかけることによって自然治癒力が発動するようになる、というのが調胃承気湯を与うということになる。処方名も胃を調えて気を承(たすく)けるとなっていて、便秘を治すという表現はない。うわごとを言う時は便秘していることは言うまでもないが、急性病では便秘を問診で確認することはできないであろう。脈診や熱状によってそれを推定す識ことになるだろう。
第5段は第2段で一度発汗剤である桂枝湯を与えて、そのために咽中乾、煩躁という陽病に似た症状があらわれたので、それと陽病だと誤認してもう一度発汗剤を与えたことを、
甘草四両炙、乾姜三両。 右二味、以水三升煮、取一升二合、去滓、分温再服。
芍薬三両、甘草三両炙。 右二味、以水五升煮、取一升五合、去滓、分温再服。
[訳] 甘草四両あぶる、乾姜三両。右二味、水三升を以って煮て、一升二合を取り、滓を去り、分けて温めて再服する。
芍薬三両、甘草三両あぶる。右二味、水五升を以って煮て、一升五合を取り、滓を去り、分けて温めて三服する。
ここには甘草乾姜湯と芍薬甘草湯だけが記されていて、調胃承気湯と四逆湯は省略されている。この理由について考察したものをまだ私は見たことがない。ただ『集成』で第4段と第五段は「けだし他条の錯乱して入りし者、これを刪って可なり」と述べているだけである。私は二味からなる処方についてだけ記されていることに大きな興味を感じている。処方をつくる立場では、薬効を増強するための配合が問題になることを教えようとしているように思える。桂枝湯およびその去加方を薬物の配合という立場から見よ、と言っているのではないだろうか。
傷寒論には桂枝を主薬としている処方、および桂枝を用いている処方が最も多いので、桂枝湯が衆方の祖であると昔から言われている。これは桂枝湯の方意を理解することができれば、傷寒論の他の処方の運用も自由になるという意味に解されている。しかし傷寒論には桂枝湯の処方構成と全く異なる、別の系列の処方も沢山あるのだから、桂枝湯を衆方の祖という根拠はない。桂枝湯の変方が一番多いのは、桂枝湯を例にあげて薬方のつくり方を教えているにすぎないのである。したがって桂枝湯の方意を理解するにはどのような見地が要求されるかということだけが問題なのである。
陶弘景が本草経集注を編纂するとき、神農本草経と名医別録のほかに、雷公薬対に記されていた配合に関する事項を細字双行、即ち註の形にして採用したことを、この第一一条と関係させて考えていることが必要なのである。
またそのような重大な問題をここで論ずるということは、第一一条までがひとつの段階になっていることを示している。宋板においても、太陽病は上中下に分けてあるが、この条文が上篇のおわりに位置していることを見ればよい。そうすると傷寒論の著者は語句の正しい意味を数条あとで示すというくせをもっていることを先に論じておいたように、ここにもそれがあらわれている。即ち第七条の「太陽病汗を発し」という冒頭の句、第九条、第一○の「桂枝湯を服し」という句の具体的な例が第一一条の第1段とそれに続く「反って桂枝湯を服す」という句に示されていることになる。
第八条の冒頭の「太陽病、下之後」について『講義』二二頁では「此れ太陽病と雖も、下すべき急証ありて先づ之を下す。故に其の下せるの誤治に非ざるを示さん為に、反って之を下しと言わずして、単に之を下しと言う。凡そ本書においては、反って下す、反って吐す等の辞を用うる所は、皆誤治にして、其の正証に反するを指摘せる者也」と論じているように、今までの傷寒論の研究家はすべてこれと同じ解釈を成ている。しかし私は誤治であろうと、なかろうと、どちらでも同じことだと解釈したいのである。それでよいことは九条で「桂枝湯を服し、或は之れを下して後」とあることで証明できるのであるが、臨床上の実際においてもそれで間違いはない。傷寒論における冒頭の句は内容が問題なのではなく、それによってその条文の位置や性格が規定されていると見るべきである。
芍薬甘草湯の調整の文の「水五升を以って煮て……分けて温めて三服する」は貞元本でもそうなっているが、宋板や玉函経のように「水三升を以って煮て……分けて温めて再服する」が正しい。このように直すべきである。こうしないと薬物の量に対して水が多すぎる。
なお調胃承気湯の処方は第二三条に、四逆湯の処方は第六二条に記されている。これらは桂枝湯と関係のない処方であることと、三味からなる処方であることから、ここでは省略されることになる。
『傷寒論再発掘』
11 傷寒、脈浮、自汗出、小便数、心煩、微悪寒、脚攣急、反服桂枝湯、得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、与甘草乾姜湯、以復其陽。若厥愈者、与芍薬甘草湯、以其脚伸、若胃気不和、譫語者、与調胃承気湯、若重発汗者、四逆湯主之。
(しょうかん、みゃくふ、じかんいで、しょうべんさく、しんぱん、びおかん、きゃくれんきゅうするに、かえってけいしとうをふくす、これをえてすなわちけっし、いんちゅうかわき、はんそうとぎゃくするものは、かんぞうかんきょうとうをあたえ、もってそのようをふくす。もしけついゆるものは、しゃくやくかんぞうとうをあたえ、もってそのあしはのぶ、もしいきわせず、せんごするものは、ちょういじょうきとうをあたう、もしかさねてはっかんするものは、しぎゃくとうこれをつかさどる。)
(病気になって、脈が浮で、自然のままで汗が出て、小便が頻数となり、胸苦しく、少い悪寒がして、下肢がひきつれる状態であるのに、桂枝湯を服すような誤治をした場合、のんで直ちに手足が逆冷し、のどはかわき、もだえ苦しみ、嘔吐するようになった者には、甘草乾姜湯を与えると良い。それによって元気が回復させられる。もし手足の逆冷が改善した者には、芍薬甘草湯を与えるのが良い。それによって下肢は伸びる(筋肉のひきつれが治って)。もし胃腸の機能が具合悪くなり、(便秘して)うわごとを言うようになった者には、調胃承気湯を与えるのが良い。もし、更に発汗してしま改aたような者(更に重症になった者)は、四逆湯がこれを改善するのに最適である。)
この条文は、桂枝湯を服用させてはいけないことが明らかであるのに、服用させてしまった場合の対応策を4種類に分けて、具体的な薬方名をあげて論じている条文です。この対応策のすべてに甘草が使用されており、体内に水分をとどめる大切な役割りを果たしている点は特に注目すべきことでしょう。今は敢えて詳論しないことにしておきます。
11' 甘草四両炙、乾姜三両、右二味、以水三升煮、取一升二合、去滓、分温再服。芍薬三両、甘草三両炙、右二味、以水五升煮、取一升五合、去滓、分温再服。
(かんぞうよんりょうあぶる、かんきょうさんりょう、みぎにみ、みずさんじょうをもってにて、いっしょうにごうをとり、かすをさり、わかちあたためてさいふくする。
しゃくやくさんりょう、かんぞうさんりょうあぶる、みぎにみ、みずごしょうをもってにて、いっしょうごごうをとり、かすをさり、わかちあたためてさいふくする。)
ここでは甘草乾姜湯と芍薬甘草湯だけが記載されて調胃承気湯と四逆湯は記載されていません。前二者はここのみにしか関連条文はなく、後二者はここの他にも関連条文があるからと思われますが、その他にも理由がありそうです。前二者は二味の湯であり、その湯名は全生薬湯名(Ⅰa、第12章参照)です。後二者は三味の湯であり、その湯名は薬効表示湯名(Ⅱc-(2) 第12章参照)です。
「原始傷寒論」の世界に限っては、湯名と条文との間に、一種の「法則性」があり、それが重要な特質になっていることは、既に第12章2項で述べた通りです。すなわち、生薬名を省略していく傾向は「正証」を論ずる基本条文に認められ、生薬名を残していく傾向は「変証」を論ずる条文に認められるという原則です。この原則に従えば、この第11条は後二者にとっては、その基本条文にはならないので、ここでは生薬配列が記載されなったのであると理解されます。
18・(4)
前項の第11条までで、桂枝湯に関連した様々な使い方やその服用後の異和状態の種々相についての改善策が色々と示されてきましたが、これ以後は「麻黄」を含んだ薬方の使い方と発汗後や瀉下後の様々な異和状態の改善策が示されていきます。
『康治本傷寒論解説』
第11条
【原文】 「傷寒,脉浮,自汗出,小便数,心煩,微悪寒,脚攣急,反服桂枝湯、得之便厥,咽中乾,煩躁,吐逆者,与甘草乾姜湯以復其陽,若厥愈者,与芍薬甘草湯以其脚伸,若胃気不和,譫語者,与調胃承気湯,若重発汗者,四逆湯主之.」
【和訓】 傷寒,脉浮,自汗出で,小便数で,心煩し,微悪寒し,脚攣急するに反って桂枝湯を服す.之を得て便ち厥し,咽中乾き,煩躁し,吐逆する者には,甘草乾姜湯を与え以てその陽を復す.もし厥愈ゆる者には,芍薬甘草湯を与えて以てその脚伸ぶ.もし胃気和せず,譫語する者には,調胃承学湯を与う.もし重ねて発汗する者には,四逆湯之を主る.
【訳文】 発病して(脉は沈微細緩に)浮性を帯び,(手足厥冷し) (自汗出で),小便数,心煩し,微悪寒し,脚攣急する(のは桂枝加附子湯の証である),これに反して桂枝湯を服用すると,たちまち厥冷が更に進行し,咽中乾き,煩躁し,吐逆します.その場合には(厥冷の回復を目的に)甘草乾姜湯を与えます.もし厥冷が治った(脚攣急だけ残った)ときには,芍薬甘草湯を与えます.もし発病して(陽明の中風で,脉は遅緩で,潮熱不悪寒し),仮性不大便(不大便)して譫語する場合には,調胃承気湯を与えます.もし発病して重ねて発汗を行った(四逆湯証をあらわしている)場合には,四逆湯でこれを治療します。
【解説】 この条文は三つの部分から成り立っています.先ず一つ目は,桂枝加附子湯証であるのに寒熱証の判定を誤ったため熱証(太陽中風)の薬を与えてしまい,そのために寒証(少陰中風)に移行した病態の治療方法を論じています.二つ目には,陽明中風の治療方法を論じています.三つ目には,厥陰中風の治療方法を論じています.
この四方剤を俯瞰してみると,熱性・寒性の薬物のみが入っていて,寒・熱の症候がはっきりと現れている者に使用されることが理解できます.
もう一つの解釈の仕方として,間違えた方剤を与薬したために出てきた随伴症状に対して,その症状を取り去る救済方剤を記載しているとも理解できます.ここでは寒熱の間違いを例示しています.桂枝加附子湯(寒証の少陰病に位置する薬方)証を呈している患者であるにもかかわらず,桂枝加附子湯から附子を取り去った桂枝湯(熱証の太陽病に位置する薬方)を与薬してしまったということです.すなわち小便数,微悪寒,脚攣急などの寒冷症状を呈している病態に熱性症状を呈している場合に用いる桂枝湯を与えたわけで(このことは寒・熱証を取り誤って診断したことになります),その結果随伴症状が発現したことが書かれています.条文からわかることは,四種類の症状(表1参照)が単独又は複合して出ているということです.
【処方】 甘草四両炙,乾姜三両,右二味以水三升煮取一升二合去滓分温再服.
【和訓】 甘草四両を炙り,乾姜三両,右二味水三升を以って煮て一升二合に取り,滓を去って分かちて温服すること再服す.
【処方】 芍薬三両,甘草三両炙, 右二味以水五升煮取一升五合去滓分温三服.
【和訓】 芍薬三両,草三両を炙り,右二味水五升をもって煮て一升五合に取り,滓を去って分かちて温服すること三服する.
カンゾウカンキョウトウ
証構成
範疇 肌寒緩病 (少陰中風)
①寒熱脉証 沈微細
②寒熱証 手足厥冷
③緩緊脉証 緩(浮性)
④緩緊証 小便数
⑤特異症候
イ厥 (乾姜)
ロ咽中乾 (脱汗)
ハ煩躁 (乾姜)
二吐逆(甘草)
シャクヤクカンゾウトウ
証構成
範疇 肌寒緩病 (少陰中風)
①寒熱脉証 沈微細
②寒熱証 手足厥冷
③緩緊脉証 緩
④緩緊証 小便自利
⑤特異症候
イ脚攣急 (芍薬)
チョウイジョウキトウ
証構成
範疇 腸熱緩病 (陽明中風)
①寒熱脉証 遅
②寒熱証 潮熱不悪寒
③緩緊脉証 緩
④緩緊証 仮性不大便
(下痢)
⑤特異症候
イ譫語 (芒硝)
シギャクトウ
証構成
範疇 胸寒緩病 (厥陰中風)
①寒熱脉証 沈遅
②寒熱証 手足逆冷
③緩緊脉証 緩
④緩緊証 小便自利
⑤特異症候
イ背悪寒 (附子)
表1 寒熱証の取り間違いによる随伴症状とその救済方剤
配合生薬 | ||||||||
随伴症状 | 救済方剤 | 甘草 | 乾姜 | 芍薬 | 大黄 | 芒硝 | 附子 | |
1 | 手足の寒冷症状 咽中の乾き 胸部の違和感 手足が重だるい 嘔吐激しい | 甘草乾姜湯 | ● | ● | ||||
2 | 筋肉異常緊張 ・痙攣 ・こり | 芍薬甘草湯 | ● | ● | ||||
3 | 消化器系の異常 ・下痢,便秘 ・食欲不振 | 調胃承気湯 | ● | ● | ● | |||
4 | 全身の衰弱 | 四逆湯 | ● | ● | ● |
第1~11条までの総括
第11条までは,先づ太陽病(肌熱病)を2つの範疇症候(寒熱脉証,寒熱証)と,一つの特異症候(表熱外証)で定義をし,次いで太陽病中風と三陰三陽を通じての中風との二つの中風を,また次条で同様に二つの傷寒を述べ,太陽病を中風・傷寒の範疇症候(緩緊脉証,緩緊証)に2分割して,それぞれを定義して,急性熱性症状を持った病態を12に分類しておき,そして太陽病適応者のタイプ分け(緩証,緊証)を行ってから各論に入っています.
各論の冒頭には,最も基本型の条文構成をしている桂枝湯について,先に正証を論じる前にその変証について記述を行い,誤治がないようにと注意を促しています。
第6条では先の第12条の葛根湯と同じ範疇(肌熱病)内という共通部分における特異症候(項背強)での緩証,緊証の見分け方を区分(汗が出るか出ないのか)することで病状範疇の緩緊を完全に把握して処方を決定することについて説いているのです.ただいたずらに特異症候(この場合は項背強)だけを持ちだして処方決定することを戒めています.
第7条になると,二範疇内(太陽病と少陰病)にわたる範疇症候の変化(肌熱緩病から肌寒緩病)したいわゆる桂枝湯証に附子が加わることによって,太陽病位から少陰病位の薬剤に変化してしいるように,病態の方も熱範疇から寒範疇へと病が移行していく道筋(病道)を論じています.
第8条からは,誤治による病道病期の推移について記述しています.その一つは桂枝の特異症候が強く現れた気障害についての緩解方剤です.次に風邪引きの咳型から腺病質(肺病型)の微熱を伴った咳に変化した場合の水障害時に用いられる方剤を収載しています.この条は後に出てくる(第19条参照)麻黄剤を中心に記述している麻黄甘草杏仁石膏湯〔麻杏甘石湯〕との対比をすることで方剤を緩範疇に入れるものなのか緊範疇に入れるものなのか,その位置づけをしています。
第10条は,緊範疇(傷寒)に位置する方剤(白虎加人参湯)を取り上げていますが,第11条までの条文中では,緩範疇の方剤について述べていて,緊範疇の方剤は本条のみであります.ここに記載されている内容は,やはり誤治の救済方剤を例示していることです.太陽病緊証の患者に緩証の人に用いられる桂枝湯を与薬したために,種々の随伴症状があらわれ,その症状を緩解するためには熱緊範疇に位置する白虎加人参湯でしな救済できないことを述べています.
第11条では,寒証と熱証を取り間違った場合の随伴症状の発現があることを記述しています.これを拡大解釈して傷寒論方剤による随伴症状には,大きく4種(寒冷症状,筋の異常緊張,消化器系の異常,全身の衰弱)があることがわかります.またそれら4種の症状を緩解するための救済方剤(甘草乾姜湯,芍薬甘草湯,調胃承気湯,四逆湯)まで記載されている親切さが見られます.
以上熱緩範疇に関係するものを記し,またそれに派生する症状や方剤について論じています.もう一つは誤治による救済について例を示して詳細に記述しています.
第11条までの収載方剤分類表
病期 | 中風 | 傷寒 | 治法 | |
太陽病 | 桂枝去芍薬湯⑧ 桂枝湯④⑤ 桂枝加葛根湯⑥ | 発汗 | ||
陽明病 | 調胃承気湯⑪-3 | 催吐・瀉下 | ||
少陽病 | 桂枝去桂加朮苓湯⑨ | 肺 肝 腎 心 心熱 | 白虎加人参湯⑩ | 利尿 |
太陰病 | 瀉下 | |||
少陰病 | 桂枝加附子湯⑦ 甘草乾姜湯⑪-1 芍薬甘草湯⑪-2 | 発汗・利尿 | ||
厥陰病 | 四逆湯⑪-4 | 利尿 |