健康情報

2012年11月24日土曜日

大承気湯(だいじょうきとう) の 効能・効果 と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂
大承気湯(だいじょうきとう)
本方は陽明病の代 表的方剤で、腹部が膨満して充実し潮熱・便秘・譫語等の症状があり、脈は沈実で力のあるものに用いる。ただし発熱・譫語等の症状がなく、腹部の充満・便秘 のみを訴えるものにも使用する。舌には乾燥した黒苔があって、口渇を訴えることもあり、また舌には苔のないこともあるが乾燥している。此方は厚朴・枳実・ 大黄・芒硝の四味からなり、厚朴・枳実は腹満を治し、大黄・芒硝は消炎・瀉下の効がある。故に腹部膨満の者でも、脈弱の者、脈細にして頻数の者には禁忌で ある。例えば腹水・腹膜炎等によって、腹満を来したものに用いてはならない。急性肺炎・腸チフス等の経過中に、頓服的に此方を用いることがある。また肥満 性体質の者・高血圧症・精神病・破傷風・脚気衝心・食傷等に使用する。大承気湯中の芒硝を去って小承気湯と名付け大承気湯證のようで、症状がやや軽微なも のに用いる。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
9 承気湯類(じょうきとうるい)
腹部に気のうっ滞があるため、腹満、腹痛、便秘などを呈するものの気をめぐらすものである(承気とは順気の意味)。
承気湯類は下剤であり、実証体質者の毒を急激に体外に排出するものである。
各薬方の説明

1 大承気湯(だいじょうきとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔厚朴(こうぼく)五、枳実(きじつ)、芒硝(ぼうしょう)各三、大黄(だいおう)二〕
本 方は、陽明病の代表的薬方で、腹部が膨満充実してかたく、便秘するものに用いられる(便秘を伴わない水毒や気による腹満には用いられな い)。したがって、発熱(潮熱)、悪心、口渇、腹満、腹痛、便秘(下痢のときは裏急後重のはなはだしいもの)、譫語(重症は精神錯乱状態となる)などを目 標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、大承気湯證を呈するものが多い。
一 腸チフス、赤痢、疫痢、麻疹その他の急性熱性伝染病。
一 流感、気管支喘息、肺炎その他の呼吸器系疾患。
一 腸カタル、急性消化不良症、常習便秘その他の胃腸系疾患。
一 精神病、神経痛その他の精神、神経系疾患。
一 月経閉止、産褥熱その他の婦人科系疾患。
一 そのほか、肥胖症、高血圧症、破傷風、眼疾患、痔核、尿閉、食中毒など。


『康平傷寒論解説(37)』 大塚恭男
■大承気湯
 「大いに下して後,六、七日大便せず、煩解せず、腹満痛する者は、これ燥屎あるなり。大承気湯(ダイジョウキトウ)に宜し」。傍註として「然る所以の者は、もと宿食あるが故なり」とあります。
 「強い下剤をかけてから六日も七日も大便が出ないで、うっとうしい感じがとれず、おなかは張って痛むものは、乾いた大便が腸の中にたまっているのである。これには大承気湯がよい」ということです。『康平傷寒論』と傍註文は、康平本の解釈では原典の文章ではないとなっております。「こういうことが起こったのは、食べ物がいつまでも滞っているからである」というのがその傍註であります。
 大承気湯はすでに出てきましたが、処方をもう一度述べますと、これは陽明病の代表的な処方で、大黄(ダイオウ)、枳実(キジツ)、厚朴(コウボク)、芒硝(ボウショウ)の四味から成っております。大黄は漢方の代表的な瀉下剤です。しかしこれは非常に幅の広い薬で、消炎、止瀉などの薬効も知られており、大承気湯の名のごとく気をめぐらす、向精神作用のようなものも大黄にあるのではないかといわれております。芒硝は硫酸ナトリウムで瀉下活性のあるものです。枳実と厚朴は、よく下剤に配合されますが、大承気湯、小承気湯(しょうじょうきとう)ともに枳実、厚朴が配合されております。麻子仁丸にも枳実、厚朴が配合されており、瀉下作性と一緒になって何らかのよい効果をもたらすものであろうと思います。
 漢方の考えでは、これは気剤の一つといわれており、大黄も広い意味では気剤の中に入ると思いますが、向精神作用があり、うつ状態などに効果があるといわれる薬物でもあります。もちろんほかにもいろいろな薬効がありますが、承気湯(ジョウキトウ)という名にふさわしく、気剤が三つも入っております。現在はこの条文にぴったりの症例にぶつかって大承気湯を用いることはあまりないと思いますが、「大いに下して後」ではなく、何日も大便が通じない状態で、精神的にわずらわしい状態が解けないというのを拡大解釈して、慢性便秘があって精神がすぐれず、おなかが張って時には痛むという状態に、大承気湯を使ってもよいのではないかと思います。こういう状態を見かけるのは、老人性のうつ状態で便秘を伴うものがあり、これに当てはめてもよいと思います。
 次は「病人、小便不利、大便乍ち鞕く、乍ち易し。時に微熱あり、喘冒して臥す能わざる者は、燥屎あればなり。大承気湯に宜し」とあります。
「病人が小便の出が悪く、大便は、ある時は硬く、ある時は軟らかく、最近の過敏性腸症候群の感じで、何となく熱っぽい感じで、喘鳴や呼吸困難があったり、立ちくらみなどがして横になることができないのは燥屎があるからで、大承気湯を使ったらよろしい」ということです。
 漢方の古典には「眠る能わず」と「臥する能わず」という表現があります。「眠る能わず」は不眠症、「臥する能わず」の方は眠れないのではなく横になれない結果として睡眠が妨害されることです。「臥する能わず」は、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、八味丸(ハチミガン)にもこの表現がありますが、小青竜湯では大承気湯と同じように呼吸困難で、臥することができないのです。八味丸の場合は、『金匱要略』にあって、今式にいうと、前立腺肥大症の急性増悪をきたしたような場合で、横になることができないというものであります。
 大承気湯は、元来は便の硬い場合に使うわけで、瀉下活性を利用することが多いのですが、この場合のように「乍ち硬く、乍ち易し」という場合でも使い得るのかもしれません。『傷寒論』は急性感染症のことを書いたテキストですが、感染症の経過中にこういうことが起こったということが起こったということであると、承気湯の出場も当然考えられますが、現在では急性の感染症を漢方で扱うことが少なくなりましたので、感染症以外で大便が体質的に軟らかい場合には、大承気湯の出番は少ないと思います。ですからこの条文を現在適応とするならば、大便の硬い方、便秘で、他の条文、すなわち小便不利であったり、大便が硬かったり、そして喘鳴、眩冒があって、睡眠がさまたげられたりする場合に、大承気湯の出番があるといえると思います。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集 中日漢方研究会
50.大承気湯(だいじょうきとう) 傷寒論
 大黄2.0 枳実3.0 芒硝3漆t 厚朴5.0

(傷寒論)
陽明病,脉遅,雖汗出,不悪寒者,其身必重,短気腹満而喘,有潮熱者,此外欲解,可攻裏也,手足濈然汗出者,此大便己硬也,本方主之(後略)(陽明)
傷寒若吐若下後不解,不大便五六日,上至十余日,日晡所発潮熱,不悪寒,独語如見鬼状。若劇者,発則不識人,循衣摸床,惕而不安,微喘直視,脉弦者生,濇者死。微者,但発熱譫語者,本方主之,若一服利,則止後服

(金匱要略)
病解能食,七八日更発熱者,此為胃実,本方主之(産後)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 腹部の力があり,かたくつかえて便秘するもの,あるいは肥満体質で便秘するもの。
 元来,急性の熱発時熱が高くガン固な便秘で,腹部が緊満し「うわごと」その他の脳症を発現する壮実な体質者に用いられてきた処方である。こんな症状は通常,食中毒や急性熱性疾患の初期によく見受けられ,比較的熱が高いか,あるいは著しい熱感があって患者はもだえ苦しみ,ひどいものは脳症をおこし,解熱剤やかん腸薬を用いても好転しないものに,本方がよく適応するが最近は常習便秘や急性便秘に熱に関係なく応用されている。
 ガン固な便秘と熱感,腹部のつかえ神経症状などで三黄瀉心湯と類似する。三黄瀉心湯は著しい末梢血管の充血を認め,胃部がかたくつかえて便秘するが,本方は下腹部が膨満して便秘するものによい。また桃核承気湯は下腹部所見と便秘があるが,この方は主として左下腹部に抵抗物や圧痛があ改aて便秘し,膨満というものでなく,そのうえ,下半身の冷感やのぼせの症状を伴うので,本方との区別ができる。胃部のつかえや便秘で大柴胡湯とその訴えが似ているが大柴胡湯は心窩部のつかえと便秘が目安でそのほかに胸脇部の圧迫感を伴う。本方は肥満壮実体質の急性熱性病の経過中に,発熱,腹満,譫語などの症状あるものに頓服的に用いるが,熱症状や脳症がなく腹部充満と便秘のみを訴えるものにも応用する。ただし心臓衰弱や弱脈の傾向のあるもの,あるいは腹膜炎や腹水などによるものには用いない。本方症状に似て発熱,譫語,口渇あるものに白虎加人参湯が適応し,腹満,便秘を伴うものに本方を考慮すればよいが,いずれにしても虚弱者や衰弱者には禁忌の処方である。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 腹が硬く張ってひどく膨満し,あるいは腹が痛み,便秘する。このとき腹部ばかりでなく全身が苦しく,身体が重く,息切れや喘鳴す識ことがある。熱があるときは潮熱となってさむけがなく,全身がくまなく熱くなって,じっとりと汗ばむものである。また軽症では目がかすむ程度だか,重症では意識が混濁してうわごとをいったり,甚だしければ幻覚を生じ,錯乱状態にもなる。大便は硬くて通じにくい。ところが熱がでて悪寒し,裏急後重が強くて度々便意を催すような下痢をすることもある。のどの渇き,舌は乾燥して黄白苔や稀に黒苔を生ずる。脈が沈で力があり,あるいは遅,あるいは滑である。
○和田東郭 蕉窓雑話「承気湯の腹候は,心下くつろぎて,臍上より臍下へ向けて,しっかりと力ありて張るものなり。」といっている。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は陽明病の代表的方剤で,腹部が膨満して充実し潮熱,便秘,譫語等の症状があり,脈は沈実で力のあるものに用いる。ただし発熱,譫語等の症状がなく,腹部の充満,便秘 のみを訴えるものにも使用する。舌には乾燥した黒苔があって,口渇を訴えることもあり,また舌には苔のないこともあるが乾燥している。此方は厚朴,枳実, 大黄,芒硝の四味からなり,厚朴,枳実は腹満を治し,大黄,芒硝は消炎,瀉下の効がある。故に腹部膨満の者でも,脈弱の者,脈細にして頻数の者には禁忌で ある。例えば腹水,腹膜炎等によって,腹満を来したものに用いてはならない。急性肺炎,腸チフス等の経過中に,頓服的に此方を用いることがある。また肥満性体質の者,高血圧症,精神病,破傷風,脚気衝心,食傷等に使用する。大承気湯中の芒硝を去って小承気湯と名付け大承気湯証のようで,症状がやや軽微なも のに用いる。 


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 腹部が充実し,膨満して堅く,脈にも力があって,便秘するものを目標とする。大体が臍を中心として膨満するものである。(防風通聖散は慢性体質的であって,本証は急性実熱証である。)熱があって,悪寒も悪風もなく,便意を催して通じなく,裏急後重が強く、口渇甚だしく,舌は乾燥してときどき黒苔を生じ,また悪心を訴え,あるいは譫語(うわごと)をいったりするときに,早く本方で熱を下すのである。熱が高いのに脈が沈遅で力があり,汗が出ても悪寒がなく,腹部膨満充実して便秘して大便硬く,手足からも汗がじとじとと出るのが目標である。また熱が高くてうわごとをいい,意識がもうろうとして不安の状を呈し,数日間便秘し,熱は潮熱状となって悪寒のないものにも用いる。この潮熱というのは,あたかも潮が満つるごとくで,海岸のすみずみまで波でぬれるよう残熱とともに全身に汗が出るのをいうので,この潮熱が大承気湯を用いる目標となる。腹満があっても脈微弱,頻数のもの,腹水と鼓張(ガスの停滞による)には用いられない。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 承気とは順気即ち気をめぐらす意である。枳実,厚朴は気が痞えているのを押開くというような目的の時に使う薬であるし,大黄は苦寒で陰気即ち腹の気をめぐらし,胃腸内の滞りを去り,熱を瀉す。芒硝は寒剤で熱を瀉すのが第一,停水を排除し,乾きを潤すのが第二,瀉下作用は第三のものである。本方は裏の熱実を瀉し,気を順らす処方で,普通あまり使われないが,どうしても使わねばならぬ緊急肝要な場合があり,且つ世間に思っているよりは普通の場合でも使う機会があるものだ。
 運用 1.潮熱
 潮熱とは胃熱が本で内外が熱がみながる状態を示す。熱感強く脉大になる。大承気湯は胃の実熱を主る処方で,潮熱ばかりでなく,それを起す胃実熱の症状又は潮熱に伴う症状が併存する。便秘,腹満,汗,讝語などが之である。潮熱を主として此等の症状のどれかを伴えば本方の指示になる。
 「陽明病,潮熱,大便微しく鞕きものは大承気湯を与うべし。鞕からざるものは之を与うべからず」(傷寒論陽明病)
 陽明病は胃の実熱の病型である。この場合は大便微硬を伴う。与うべしで主るではないから他の承気剤も模様をよって選用してよい。且つ与えて反応のh観察する必要がある。
 「病人煩熱し汗出づれば則ち解す。又瘧状の如く日晡所発熱する者は陽明に属す。脉実の者は宜しく之を下すべし(中略)之を下すに大承気湯を与う(後略)」(同上)
日晡所は夕方のことで陽明の病の熱であることを示す。潮熱と同じに取扱ってよい。流感などで高熱を発し,前記症状を呈するものに使う機会が相当にある。脉の実,大,口唇が赤くなっている。腹満などを参考にする。

 運用 2.腹満,便秘,燥屎,宿食
 胃に物が詰って張って燥いている状態で,そのために熱を生じて来る。「陽明病,脉遅,汗出づると雖も悪寒せざるものは其身必ず重く,短気腹満して喘す。潮熱有るものは,これ外解せんと欲す。裏を攻むべし。手足澉然として汗出づるものはこれ大便已に鞕し。大承気湯之を主る。」(傷寒論陽明病)腹満,大便硬の外に身重,短気,喘,潮熱などが伴っている。身重は筋肉にも熱を帯びていることを示し全身的な潮熱の部分現象である(後略)

 運用 3.下痢
 便が詰って出なければ便秘する。溢れて出れば下利を起す。大承気湯の下痢はそういう趣きのある場合である。
 「下利,脉遅にして滑のものは内実なり,利末だ止まんと欲せざれば之を下すべし。大承気福zに宜し」(傷寒論可不篇)
 腸に詰っている(内実)から循環する気はそこで痞えて末梢部へめぐりが遅くなる。脉遅は之を示す。然し内実から熱を帯びて来るので滑の脉が現われる。(後略)

 運用 4. 喘又は心中懊悩

 運用 5. 讝語(センゴ)脳症
 「二陽の併病,太陽の証罷ただ熱を発し,手足漐々として汗出で,大便難にして讝語するものは之を下せば則ち愈ゆ。大承気湯に宣し」(傷寒論陽明病)高熱のために脳症を起したものである。二陽の併病とは太陽病と陽明病で,太陽病は表の熱,陽明病は胃の熱故に表に属する頭に熱が上がってうわこどを言う。(後略)

 運用 6. 裏に熱がこもり,症状が反って軽微のもの
 「傷寒6,7日,日中了々たらず,清和せず,表裏の証なく,大便難,身微熱のものはこれ実となすなり。急に之を下せ。大承気湯に宣し。」(傷寒論陽明病)
 目がぼんやりして霞んだり,膜がかかったり,晴が物を視つめることが出来なかったりする。之を患者が訴えなければ気付かない。大便難や身微熱も大して気がつくほどのことではない。しかも表裏の証なくで,一寸摑えにくい。軽症と誤り勝ちな症状だが,実は脳症を起す一歩手前の容易ならざる状態である。故に急に之を下せと警告している。(後略)

 
勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は胃実を治するが主剤なれども,承気は即ち順気の意にて,気の凝結甚しき者に活用することなり。当帰を加えて発狂を治し,乳香を加えて痔痛を治し,人参を加えて胃気を鼓舞し,又四逆湯を合して温下するが如き,妙用変化窮りなしとす。他の本論及び呉又氏に拠りて運用すべし。




副作用
 1) 重大な副作用と初期症状
   特になし
 2) その他の副作用
   消化器:食欲不振、腹痛、下痢等
   [理由]  本剤には大黄(ダイオウ)・無水芒硝(ボウショウ)が含まれているため、食欲不振、腹痛、 下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。 
  [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。



2012年11月22日木曜日

竜骨湯(りゅうこつとう;龍骨湯) の 効能・効果 と 副作用

『勿誤薬室方函口訣』 浅田 宗伯
竜骨湯  此の方は失心風を主とす。其の人、健忘、心気鬱々として楽しまず、或は驚搐、不眠、時に独語し、或は痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯とするなり。 

『勿誤薬室方函口訣解説(122)』 勝田正泰
竜骨湯
 竜骨湯(リュウコツトウ)は『外台秘要』(七五三年)に記載されている方剤です。まず『方函』の本文を読み下してみます。「宿驚、失忘、忽忽(こつこつ)喜忘、悲傷楽しまず、陽気起たざるを療す。竜骨(リュウコツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂枝(ケイシ)、遠志(オンジ)、麦門(バクモン)、牡蛎(ボレイ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、右八味」。
 この文章は『外台秘要』巻十五の風驚恐失志喜忘及妄言方六首からの引用ですが、原典の『外台』では「失忘」が「失志」となっています。これでないと話が通じません。テキストだけではなく、名著出版の『近世漢方医学書集成』に集録されている『勿誤薬室方函』でも「失忘」となっています。浅田宗伯が誤記するはずはありませんので、原典出版の際に版本が誤ったものと思われます。
 宿驚とは、平素から驚きやすい精神不安状態のこと、失志とは希望を失うこと、忽々とはがっかりして気落ちする状態のこと、喜忘とはよく物忘れすることです。全体として精神が抑うつ不安状態で元気がない、うつ病のような病状を述べているようです。
 次に『口訣』の部を読んでみます。「此の方は失心風を主とす。其の人健忘心気鬱々として楽しまず、或いは驚搐不眠時に独語し、或いは痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯(キヒトウ)とするなり」。
 失心風とは、中国医学で癲(てん)と呼んでいる精神異常の一種です。抑うつ状態で、無表情で、言語が錯乱し、独りごとをぶつぶつ言い、幻想幻覚があり、時には泣いたり笑ったりする状態です。本方はこの失心風に有効だというわけです。
 健忘心気鬱々として楽しまずとは、物忘れがひどくて、気分がさえないで抑うつ状態のことです。その次の驚搐の搐は、筋肉がひきつることです。テキストではリッシンベンになっていますが、テヘンが正しいので訂正して下さい。驚きやすくて筋肉がひきつり、不安不眠症態で時々ぶつぶつ独りごとをいい、あるいは精神薄弱のような、あるいは狂人のような状態の者を治すというわけです。以上の『口訣』の部も、『外台秘要』の引用文を和訳したものです。
 竜骨湯の組成の八味の生薬をみますと、竜骨、牡蛎、遠志は安神薬、つまり精神安定効果のある生薬です。茯苓にも安神作用がありますし、桂枝湯には経脈を温通させて気の上衝を治める働きがあります。甘草には急迫を治す働きがあります。麦門冬には滋潤して心煩を治める働きがあります。これらが協力して有力な精神安定剤になるのだと思います。 本方を使用した治験例はあまり見当たりませんが、宗伯の治験録である『橘窓書影』の中に、次のような症例が記されていますので、読んでみます。
 「館林候臣、安藤小一右衛門、一日失心して狂走妄語止まず。邸医之を治するも益々甚し。余三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)を与え、朱砂安神丸(シュシャアンシンガン)を兼用す。狂走稍安し。妄語止まず、詈罵(りば)笑哭親戚を辨ぜず。胸動亢り、腹虚濡、小便頻数、脈沈細なり。乃ち外台竜骨湯を与う。服すること月余、精神復し、始めて親戚を辨ず。後健忘を発し、神思黙々終日木偶(でく)人の如く、余反鼻交感丹(ハンピコウカンタン)を湯液として服せしむ。数日を経て全人たるを得たり」。
 以上が宗伯の治験例です。一ヵ月以上服用させてかなり効果を治めているようです。
 『口訣』の部の最後に、竜骨暇証よりはやや虚証の場合には、帰脾湯がよいとあります。帰脾湯は四君子湯(シクンシトウ)に酸棗仁(サンソウニン)、竜眼肉(リュウガンニク)、遠志などの安神薬を加え、さらに補血薬の当帰(トウキ)や、補気薬の黄耆(オウギ)や、理気薬の木香(モッコウ)を加えたもので、気血両方が虚した人の不眠症や精神症状にかなりよいことがあります。

『症状でわかる 漢方療法』 大塚敬節著 主婦の友社刊
p.60
▼<元気がなくなり、何もする気がせず、憂うつになり、すべてが不快で、安眠ができないもの>・・竜骨湯
 うつ病によい。これで気分が明るくなり、仕事もできるようになる。

p.236
竜骨湯(りゅうこつとう)
処方 竜骨3g、茯苓4g、桂枝、遠志、麦門冬、牡蛎各3g、甘草1.5g、生姜2g。
目標 つうつうとして楽しまないもの。
応用 うつ病。




『日東医誌(Kampo Med)』 Vol.58No.3:487―493, 2007.
『竜骨湯が著効したパニック障害の一例』.

有島武志,若杉安希乃,及川哲郎,他:
(前略)
 今回我々が使用した竜骨湯は,竜骨,茯苓,桂枝,遠志,麦門冬,牡蠣,甘草,生姜の八味から構成され、原典は『外台秘要方』巻十五,風驚恐失志喜忘及妄言方六首である。条文には「竜骨湯,宿驚,失志,忽々として喜忘,味傷楽しまず,陽気起こらざるを療す」とある。浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』には,「此の方は失心風を主とす。其の人健忘,心気鬱々として楽まず,或は驚搐不眠時に独語し,或は痴の如く狂の如き者を治す。」と意訳している。
失心風とは,原典の失志と同義で,中国では癲と呼ばれている精神異常の一種であり,抑うつ状態で,表情に乏しく,言語錯乱し,独りごとをぶつぶつ言い、幻想幻覚があるような状態を言う。以上から竜骨湯の使用目標は「普段から驚き易く精神不安定で,希望を失い,がっかりしてよく物忘れをし,悲観的で哀愁にたえず,性欲がなくなり,時に独語を発したり精神薄弱や狂人のような者」と解釈できる。臨床的には,うつ病や統合失調症様の症状にも応用できると考えられている。また,構成生薬は,安神作用を有する竜骨,牡蠣,遠志,茯苓といった生薬に,急迫を治す甘草,気の上衝を抑める桂枝,心煩を治める麦門冬が配合されていることか,パニック障害の症状にも応用できると考えられた。文献的には,うつ病,もしくはうつ状態に対して竜骨湯,桃核承気湯合竜骨湯が有効であった報告が散見される程度である。鑑別処方として,大塚敬節は竜骨湯より実証のものには柴胡加竜骨牡蠣湯,また浅田宗伯は『勿誤薬室方函口訣』で,一等虚する場合には帰脾湯がよいと記している。
(後略)

2012年11月18日日曜日

清心蓮子飲(せいしんれんしいん) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
本方は心と腎の熱を冷まし、かつ脾肺の虚を補うのが目的である。思慮憂愁に過ぎ、即ち精神過労によつ言て脾肺を損じ、酒色過度の不摂生により脾と腎を傷 り、虚熱を生じた場合によい。主として慢性泌尿器科疾患で体力の衰えた場合に応用され、目標としては、過労するときは尿の混濁を来すという慢性淋疾や腎膀 胱炎、また排尿時力がなく後に残る気味ありと訴えるもの等によく奏効する。白淫の症と名づける婦人の帯下、あたかも米のとぎ汁のようなものを下すもの、糖 尿病で虚羸し、油のような尿の出るもの、腎臓結核で尿が混濁し虚熱のあるもの、遺精・慢性腎盂炎・性的神経衰弱、虚熱による口内炎等にも応用される。
麦門冬・蓮肉は心熱を清め、かつこれを補い、地骨皮・車前子は腎熱を涼し、よく利尿の効がある。人参・茯苓・甘草は脾を補い、消化の機能を亢め、一方、人参・黄耆・黄芩・地骨皮・麦門冬と組んで腎水を生じ、肺熱を清涼させ、以上のような疾患によく奏効する。


勿誤薬室方函口訣』 浅田 宗伯著
清心蓮子飲
  此の方は上焦の虚火亢りて、下元これが為に守を失し、気淋白濁等の症をなす者を治す。また遺精の症、桂枝加竜蛎の類を用ひて効なき者は上盛下虚に属す。此の方に宜し。若し心火熾んにして妄夢失精する者は竜胆瀉肝湯に宜し。一体此の方は脾胃を調和するを主とす。故に淋疾下疳に困る者に非ず。また後世の五淋湯、八正散の之く処に比すれば虚候の者に用ゆ。『名医方考』には労淋の治効を載す。加藤謙斎は小便余瀝を覚ゆる者に用ゆ。余、数年歴験するに、労動力作して淋を発する者と疝家などにて小便は佳なり通ずれども跡に残る心持ありて了然たらざる者に効あり。また咽乾く意ありて小便余瀝の心を覚ゆるは猶更此の方の的当とす。『正宗』の主治は拠とするに足らず。 


勿誤薬室方函口訣解説(73)』 藤井 美樹
清心蓮子飲
 次は清心蓮子飲(セイシンレンシイン)で『和剤局方』に出ている処方で空¥
 「心中煩燥」思慮憂愁、抑うつ、小便赤濁、或は沙漠あり、夜、夢遺精、遺瀝渋痛、小便赤きこと血の如く、或は酒色過度によって上盛下虚、心火上炎、肺金剋を受け、故に口苦く咽乾き、漸く消渇を成し、四肢倦怠、男子は五淋、婦人は帯下赤白、五心煩熱を治す。此の薬、温平にして心を清まし、神を養い、精を秘す」とあります。
 薬味は「蓮肉(レンニク)、人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、茯苓(ブクリョウ)、麦門(バクモン)、地骨皮(ジコッピ)、車前子(シャゼンシ)、黄芩(オウゴン)、甘草(カンゾウ)の九味」よりなっております。これは心と肺の熱を冷まして、さらに脾胃と腎を補うのが目的とされております。
 次の説明は「此の方は上焦の虚血亢りて、下元これがために守を失し気淋白濁等の症をなす者を治す。また遺精の症、桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)の類を用いて効なきものは上盛下虚に属す。この方に宜し。若し心火熾にして妄夢失精する者は竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)に宜し。一体此方は脾胃を調和するを主とす。故に淋疾下疳に因る者に非ず。また後世の五淋湯(ゴリントウ)、八正散(ハッショウサン)の行くところに比すれば虚候のものに用う」。つまり非常に胃腸が虚弱で、泌尿器系の働きの弱いというものに使う薬方であります。
 『名医方解』には労淋(体の労働をすると小水の具合の悪くなるもの)の治効を載せております。
 『医療手引草』を書いた加藤謙斎は小便余瀝(スムーズに出ないでポタポタ出る)を覚える者に用う。宗伯は「数年これを使って経験したところ、体を動かして小便の具合が悪くなるものと、冷えると腹痛する疝のある人で、小便はかなり通ずるけれども、残尿感があってさっぱりしないというものに効果があり、また咽の乾きがあって、小便の快通しないものにはこの方が適している」といっております。そして「『外科正宗』に、夜は静かであるが、昼になると熱が出るなどいろいろな主治条文があるが、根拠とするに足らない」といっております。
 したがって清心蓮子飲は胃腸の弱いタイプで、すぐに食欲がなくなり、体を動かしたりすると小便の出が悪くなったり、残尿感があったり、スーッと出ないというものに使います。また八味丸(ハチミガン)のように地黄(ジオウ)の入っているものは胃腸が弱くて飲めないし、猪苓湯(チョレイトウ)を用いるほど実証ではないという場合に使います。
 臨床的応用としては、虚証の慢性化した腎臓結核、膀胱結核、その他慢性膀胱炎、慢性腎盂炎、また婦人の下りものが多い場合に使います。また神経症的になっている人にも用います。
 症例の第一例は膀胱炎の患者です。58歳の婦人、体が弱く、少し食べるといっぱいになってしまう人ですが、膀胱炎を起こしてなかなk治りません。顔色もさえないし、腹力もないので、清心蓮子飲を出しましたところ、効果があり、おなかの調子も良くなり、膀胱炎の症状が次第によくなりました。
 第二例は18歳の男子学生で特発性腎出血で、一年ほど前から止まらないというものです。来院時の小水は、肉眼的にもチョコレート色をしています。腹力もなく、顔色は蒼白です。大学受験先強で夜も安眠していないというので清心連子飲を出しました。これを非常によく飲んでくれまして、おなかの調子もよくなりましたが、そのうちに時々胃が重いということがありましたので四君子湯(シクンシトウ)を交代に飲ませました。しばらく検尿せずにいましたが、ある時、この頃小便の色がよくなったようだというのでとって見ますと、まったく正常の尿であり、かかりつけの大学病院で診てもらうと、完全に治っているといわれました。印象の深い症例でした。
 もう一例は59歳の女性で茶道教授です。もともと体が弱くて、若い時に結核を患ったこともあります。時々腎盂炎を起こして発熱します。無理をするとそのあとは寝込んでしまうという人です。腹力は非常に弱く、食欲もあまりないということで清心蓮子飲の証と掴んでこれを与えました。これを飲み続けているうちに腎盂炎を起こすことが少なくなり、顔色もよくなり元気が出てきて、茶道を教えるにも以前ほど疲れなくなったといいます。ある時胃が重くなったということで診てもらいますと、レントゲンで胃に疑わしい陰影があるということでした。四君子湯を間に挟んで飲んでもらいましたところ、しばらくしておなかの調子が非常によくなったということで再ば診てもらいますと、疑わしい影はすっかり消えておりました。現在も服薬を続けておりますが、調子がよく、顔色もよくなりました。今まですぐに熱が出てその都度、抗生物質などを用いていましたが、このごろはそういうものを用いることはなく、おなかの具合もよく、小水の具合もよく、熱の出ることもないといって感謝されております。
 以上三処方のうち清上防風湯は臨床的に非常によく使われますし、清心蓮子飲は胃腸の弱いタイプの人の膀胱炎、尿道炎、時には現在は少ないですが腎臓結核というものに使って非常によい薬方です。清心温胆湯はあまり使われておりません。現在は加味温胆湯が使われておりますが、清心温胆湯の証があれば使うべきでありましょう。


※煩燥は煩躁の誤字?



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清心蓮子飲
〔成分・分量〕
蓮肉4-5、麦門冬3-4、茯苓4、人参3-5、車前子3、黄芩3、黄耆2-4、地骨皮2-3、甘草1.5-2
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感があり、口や舌が乾き、尿が出しぶるものの次の諸症:
残尿感、頻尿、排尿痛、尿のにごり、排尿困難、こしけ(おりもの)




してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
間質性肺炎
階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空せき、発熱等がみられ、これらが急にあらわれたり、持続したりする。
偽アルドステロン症、
ミオパチー1)
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
肝機能障害
発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
412
3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、
薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注
意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未
満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載
し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取り扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなく
てもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
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2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

2012年11月17日土曜日

正心湯(しょうしんとう・せいしんとう) の 効能・効果 と 副作用

勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯
正心湯
  此の方は帰脾湯の症にして、心風甚だしく、妄言妄行止まず、血気枯燥する者を治す。また小児、肝虚、内熱、精神爽やかならざる者に用ゆ。

勿誤薬室方函口訣解説(62)』 中島 泰三

正心湯
 正心湯(ショウシントウ)の出典は『古今医統』であります。
 「七情五志が久しく逆い(さからい)、心風となり、妄言妄笑(ぼうげんぼうしょう)し、苦しむ所の知らざるを治す。当帰(トウキ)、茯苓(ブクリョウ)、地黄(ジオウ)、羚羊(レイヨウ)、甘草(カンゾウ)、酸棗仁(サンソウニン)、遠志(オンジ)、人参(ニンジン)、右八味よりなる。
 此方は帰脾湯(キヒトウ)の症にして心風甚しく、妄言妄行止まず、血気枯燥するものを治す。又小児肝虚内熱、精神爽かならざる者に用う」。
 いろいろの感情や欲望が長期間抑圧されて精神障害をきたし、みだりに意味のわからないことをいったり、みだりに笑ったりする病識のない患者を治療します。酸棗仁、遠志は精神安定剤であり、羚羊角は鎮静、解熱、抗痙攣作用があります。当湖、地黄は陰を潤し、清熱し、茯苓、人参にもある程度のトランキライザー様の作用があります。甘草は急激な発作を抑えます。
 帰脾湯の症は憂い、思いなどの精神的なできごとが消化吸収機能を障害して、血虚、発熱成、食欲不振となり、全身倦怠感、物忘れ、動悸、不安感、不眠症などを治療したします。構成生薬は黄耆(オウギ)、当帰、人参、白朮(ビャクジュツ)、茯苓、酸棗仁、竜丸肉(リュウガンニク)、甘草、生姜(ショウキョウ)、木香(モッコウ)、遠志(オンジ)、大棗(タイソウ)の十二味より成り立ち、正心湯と非常に似ております。正心湯の方が地黄、羚羊角が入っているせいで、滋陰清熱作用がやや強くなります。一方、帰脾湯は木香、オウギ、白朮などの温熱剤が入っているため、正心湯よりもやや補気、理気の作用が強くなり、消化器系を刺激興奮させます。津村エキス剤では帰脾湯、加味帰脾湯(カミキヒトウ)がありますが、やや血虚や熱の症状がありましたら四物湯(シモツトウ)や温清飲(ウンセイイン)、酸棗仁湯(サンソウニントウ)を適当に追加して下さい。


※竜丸肉(リュウガンニク)は竜眼肉(リュウガンニク)の誤り。


『古今醫統(古今医統)』
癲狂門 病機  《內經》帝曰︰癲疾厥狂,久逆之所生也。脈解篇曰︰陽氣太上,甚則狂癲。陽盡在上,而陰氣從下,下虛上實,故癲狂疾也。又曰︰陰陽複爭,則欲登高而歌,棄衣而走也。  生氣通天論曰︰陰不勝其陽,則脈流薄疾,並乃狂。  《靈樞》云︰癲癇瘈瘲,不知所苦,兩蹺之下,陽男陰女。  又如︰狂始生,先自悲也,喜忘善怒善恐者,得之憂飢。治之取手太陰陽明,血變而止,及取足太陰陽明。狂始發,少臥不飢,自高賢也,自辯智也,自尊貴也,善罵詈,日夜不休。治之取手陽明太陽太陰、舌下少陰。視之盛者皆取之,不盛釋之也。狂言、驚駭、善笑、好歌樂、妄行不休者,得之大恐。 病機  癲狂病俗名心風,蓋謂心神壞亂而有風邪故也。丹溪謂︰癲屬陰,狂屬陽。癲多喜,狂多怒。  又云︰重陰者癲,重陽者狂。由此觀之,則是陰陽寒熱,冰炭不牟,安得概以一藥治之,而何可以同日而語也?又曰︰大概是熱,癲者神不守舍,狂者如有所見。斯得病之情狀,而理之不容易也。  春甫曰︰癲狂之病,總為心火所乘,神不守舍,一言盡矣。巔者,至高也。火性炎上,正如經云︰陽氣太上則狂巔。狂則孔子所謂狂狷者之狂也。《靈樞經》曰︰狂病始發,少臥不飢,自高賢也,自辯智也,自尊貴也。故曰︰狂者進取志大,而大言者也。前謂狂言如有所見,斯得之矣。蓋心火暴熾,言語善惡不避親疏,此神明之亂也。此之所謂狂也,蓋謂火熾之甚,陽氣太上,則病患亦乘陽火之上炎,故棄衣而登高,由狂而又癲。此則聖人命名之義,而有同中之異耳。 病機  戴人謂︰肝屢謀,膽屢不決,屈無所伸,怒無所泄,肝木膽火隨炎入心,心火熾亢,神不守舍,久逆而成癲狂,一因也。  有思慮過多,脾傷失職,心之官亦主思,甚則火熾,心血日涸,脾液不行,痰迷心竅,以致癲狂,二因也。 病機  古方每以癲、癇並治,出方乃大誤也。蓋癲為心病,而屬實者多,癇為五臟兼病,而屬虛者多。蓋因《靈樞》一云︰癲癇瘈瘲,不知所苦。後人不察,遂認為一証。殊不知《靈樞》自以兩証而言,不知所苦,皆言不能自知其病之所苦也,《玉機微義》始分別之,而亦未嘗白《靈樞》之旨也。 脈候  脈大堅實者,癲狂。脈虛弦為驚。沉數為痰熱。脈大而滑者,自已。沉小急實者,死。虛而弦急者,死。  寸口脈沉大而滑,沉則為實,滑則為氣,實氣相搏,入臟則死,入腑則愈。丹溪曰︰癲狂脈虛易治,實者難治。 治法  登高棄衣,引重致遠者為癲,乃痰火亢熾之甚而然。治宜降下之劑,滾痰丸之屬是也。  自高辯智,妄語狂言,神明失守為狂。治宜鎮心安神清上之劑,牛黃朱砂丸之屬是也。 治法  張子和治癲狂,令患人於燠室中,先涌痰二、三升,後與承氣湯一、二升頓服,大下二十行,而病即寧。 藥方  清心湯 治心受熱邪,狂言叫罵,動屐失常。  黃連 黃芩 薄荷 連翹 梔子 甘草 大黃 芒硝(各等分) 上水盞半,竹葉十個,煎八分,溫服。  (《局方》)牛黃清心丸 治心志不足,神氣不定,驚恐癲狂,語言譫妄,虛煩少睡,甚至棄衣登高,逾牆上屋等証。  羚羊角(鎊,一兩) 人參(二兩半) 白茯苓 川芎 防風(各半兩) 阿膠(炒,七錢半)乾薑(炮,七錢) 白朮(兩半) 牛黃(各兩半) 麝香(半兩) 犀角(鎊,二兩) 雄黃(研飛,八錢) 梅花冰片(五錢) 金箔(一千四百片) 白芍藥 柴胡(各兩半) 甘草(炒,五兩)山藥(七兩) 麥門冬(去心) 枯黃芩(各兩半) 杏仁(泡,去皮、尖及雙仁者,麵炒黃色,另研用)桔梗(各二兩二錢) 神曲(二兩半) 大棗(一百枚,蒸熟,去皮、核,另研成膏) 白蘞(七錢半)蒲黃(炒,二兩半) 大豆黃卷(一兩七錢半,微炒) 當歸(酒洗) 肉桂(去皮,各一兩七錢)上除棗、杏仁、金箔、二角及牛黃、腦、麝、雄黃四味,為末入藥和勻,煉蜜同棗膏和丸,每兩分作十丸 將前金箔除四百片為衣。每服一丸,食後溫水化下。  朱雄丸 治男女驚憂失志,思慮過多,痰迷心竅,以致叫呼奔走。此藥安魂定魄。  辰砂 明雄黃(各二錢半,研) 白附子(一錢)上研末,豬心血丸,金箔為衣。每服三丸,人參、菖蒲煎湯下。  抱膽丸 治男女一切癲狂風癇,及婦人產後驚氣入心,室女經行驚氣蘊結,頓服此藥屢效。  朱砂(二兩) 水銀(一兩) 黑鉛(兩半) 乳香(一兩,細研)上將鉛入銚內,下水銀結成砂子,下乳香,乘熱用柳木捶擂勻,丸如雞頭子大。每服一丸,空心井花水吞下。得睡切莫驚動,覺來則安,再進一丸可除根。  引神歸舍丹 治癲狂心風,心氣不足。  朱砂 膽南星(各一兩) 白附子(半兩) 上為細末豬心血泡,蒸餅為丸,梧桐子子大,每服十五丸。  五膽丸 治癲狂風癇妄走。  羊膽 豬膽 狗膽 雞膽 鯉魚膽(各一枚,傾汁作一處) 蛇黃(五兩, 紅,食膽汁盡為度) 上為末,另以膽汁和丸,綠豆大,朱砂為衣。每服十五丸,食後以磨刀汁吞下,或用末以磨刀水調服。  滾痰丸 治癲狂熱盛,不識人。(方見痰門。)  奪命散 治癲癇痰盛。

2012年11月13日火曜日

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

三黄瀉心湯
本方は所謂のぼせ気味で、顔面は潮紅し、気分がいらいらして落付かず、脈に力があって、便秘の傾向のある場合に用いる。腹診するに表面は柔軟であっても、底力があり、心下部に痞えた気分を訴えることがある。
本方は大黄・黄芩・黄連の三味からなり、大黄は単に瀉下の効があるばかりでなく、黄芩・黄連と共に組む時は、炎症・充血を消散するの効がある。また黄芩と黄連と組む時は、心下部の痞塞感を開く働きがある。
脳 充血・脳溢血の発作直後、或は発作後日数を経たるものにも用いる機会が多い。喀血・吐血・衂血及びまれには子宮出血・痔出血にも用いる場合がある。また本 方は切創その他の出血で、驚き・不安の状態ある時に、頓服として用いて、その気分を落ち付け止血の効を発揮する。ただし出血が長びいて貧血が著しいもの、 脈の微弱なもの等に用いてはならない。
動脈硬化症・血圧亢進症等の診断を下されて、絶えず不安の気分に襲われ、或はそのために不眠に陥ったもの等に用いて良いことがある。その他皮膚病・眼病・癲癇・精神病、所謂血の道の上逆感、更年期症状・火傷等に広く応用される。
附 子瀉心湯は三黄瀉心湯に更に附子を加えた方剤であって、三黄瀉心湯證で悪寒するものを目的とする。古人の伝に曰う、「瀉心湯の證にして、但寝んと欲し、甚 しい時は、食事をしながら、或は薬を飲みつつ居眠るものがある。また手のさきが微冷する等の症がある。これには附子瀉心湯が良い」と、もって参考とすべき である。

『漢方精撰百八方』 
41.〔方名〕三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)
〔出典〕金匱要略

〔処方〕大黄2.0~5.0 黄芩4.0 黄連4.0
     振り出しとして用いる場合には、三味各1.0を100ccの湯にて、三分間振り出し、一回に頓服する。 

〔目標〕証には、心気不足(精神不安)、心下痞し、之を按ずるに軟なる者、とある。 即ち、心下がつかえ、胃部膨満、停滞感があり、充血の状強く、上衝気味で、精神不安があり、心下部は軟で、舌苔黄色、便秘の傾向があり、吐血、衂血、その他の血証があり、脈が充実しているものに適用する。 〔かんどころ〕上衝、充血の状があり、心下がつかえた感じだが、按じてみると軟らかいもので、吐血、衂血等の血証があるものに広く用いられる。

〔応用〕
(1)脳充血、脳出血、動脈硬化症、血圧充進症等で、脈浮大、充実しているもので、目標に示す如き症状があるもの。
(2)吐血、衂血、喀血、その他の出血症で、精神不安があり、目標の如き症状のあるもの。振り出したものを冷服するとよい。
(3)歯痛、歯齦腫脹、口内炎等で、上衝、顔面紅潮するもの。
(4)痔の疼痛、出血にも用いられる。
(5)火傷後の発熱で目標の症状のあるもの。
(6)宿酔、又は車酔いで、上衝、顔面紅潮の傾向のあるものに、振り出しにして用いる。
(7)熱性黄疸で、全身黄なるものに茵蔯を加えて用いる。
(8)眼科疾患で、上衝があり、結膜炎等の充血症状著明なもの。

〔治験〕五十五才の農夫。体格中等、血圧少し高いが服薬をするほどではない。数日来、衂血があり、西洋医学的治療を受けているが止まらないという。手が空かなかったので、三黄瀉心湯を振り出しとして与え翌日往診する。三服の振り出しで、衂血は完全に止まっている。血圧降下剤を注射していて、血圧160~100凡らく衂血のあった当初は相当高かったと思われる。  衂血があって脳出血を防ぎ得た例は多い。年輩者の衂血は、高血圧を一応考慮すべきである。この際、瀉心湯が用いられることが多い。   伊藤清夫

漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
10 瀉心湯類(しゃしんとうるい)
瀉心湯類は、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)を主薬とし、心下痞硬(前出、腹診の項参照)および心下痞硬によって起こる各種の疾患を目標に用いられる。

2 三黄瀉心湯
〔大黄(だいおう)二、黄芩(おうごん)、黄連(おうれん)各一〕
こ れは、頓服の場合の分量で、本方を長く続けて服用する場合は、大黄、黄連、黄芩各三とする。本方は、本方は、少陽病の実証のものに用いら れ、充血性の上衝や心下部の痞塞感およびその上衝によって起こる精神不安などに用いられる。すなわち、のぼせ気味で顔面紅潮し、気分がいらいらしておちつ かない興奮状態のときに鎮静的に用いられる。また、心下部および頭部に充血、炎症があり、その上衝によって起こる刺激興奮症状(精神不安)に用いられる。 したがって、心悸亢進、血圧上昇、神経過敏などが起きるが、下半身には異常を認めないもの、頭痛、のぼせ、耳鳴り、精神不安、血圧亢進、心下痞、便秘、出 血(瘀血による出血ではないから血液は鮮やかな色を呈する)などを目標とする。本方は、一時的興奮状態の鎮静剤としても頓服に用いられる。なお、出血傾向 のある場合には冷服するほうが良い。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、三黄瀉心湯を呈するものが多い。
一 高血圧症、動脈硬化症、脳溢血、脳充血その他の循環器系疾患。
一 神経衰弱、ノイローゼ、ヒステリー、精神病、精神分裂症、発狂その他の精神、神経系疾患。
一 吐血、喀血、衂血、結膜出血、脳出血、皮下出血、子宮出血、代償性出血、痔出血、腸出血、膀胱出血、血尿症、外傷性出血その他の各種出血。
一 胃潰瘍、胃カタル、腸カタル、胃酸過多症その他の胃腸系疾患。
一 血の道、更年期障害その他の婦人科系疾患。
一 結膜炎、網膜炎、虹彩炎、眼瞼炎その他の眼科疾患。
一 じん麻疹、皮膚掻痒症その他の皮膚疾患。
一 そのほか、歯齦腫痛、歯齦出血、打撲、火傷、舌炎、口内炎、小児麻痺、宿酔、薬物中毒など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
30.三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう) 金匱要略
大黄1.0 黄芩1.0 黄連1.0 泡剤となす場合はこれに熱湯100ccを加え3分間煮沸し滓を去り頓服す。

(金匱要略)
心気不足,吐血,衂血,本方主之(吐衂)
婦人吐涎沫,医反下之,心下即痞,当先治其吐涎沫,小青竜湯主之,涎沫止,乃治痞,本方主之(婦人雑病)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 のぼせて精神不安があり,胃部がつかえて便秘がひどいもの。充血,出血の傾向を伴なうこともあるが,この場合血液の色は鮮紅色である。
 本方は常習便秘に特に繁用され,服用後8乃至10時間で快便を得る。但し人により効果の差異があるから適宜用量を加減するとよい。本方でもなお便通がない時は更に大黄を加える。しかしみぞおちが硬く張ってい場合はむしろ大柴胡湯を用いるべきである。本方を服用後腹痛もしくは下痢の甚だしい場合は桂枝茯苓丸,当帰芍薬散,黄連解毒湯,半夏瀉心湯,小建中湯,柴胡桂枝湯,小柴胡湯などに転方するとよい。本方はまた動脈硬化症,高血圧にしばしば用いられ神経の興奮状態を鎮静して安眠を種に血圧を降下させるが,その作用は一過性であるから大柴胡湯,柴胡加竜骨牡蛎湯,防風通聖散などと併用した方がよい。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方が対象になるものは赤ら顔のいわゆる卒中体質で,いつも気分がイライラして落ちつかず,おこりやすく精神興奮のため,不眠の傾向がある常習便秘のものに繁用され仲いる。本方が適応する便秘は硬便や宿便で,便秘とともに胃部が緊くつかえると訴える。こんな自覚のある顧客がよく店頭で,胃拡張や消化不良と自己判断して胃腸薬を指名することが多い。顔面紅潮や充血の傾向があるもので胃部のつかえと便秘を訴えるものには本方が奏効する。わずかなことに神経が興奮しておこりっぽいもので目標欄記載の症候群ある高血圧,動脈硬化に繁用され,神経の鎮静とともに,血圧を徐々に降下させるので,漢方の降圧剤として,また睡眠剤として応用されている。本方は諸種の出血過多症にしばしば用いられるが,本方が適応する出血は,比較的に量が多い。貧血の徴候と認めないもの(便秘がひどい)が対象になる。(後略)


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○のぼせ気味で,顔面は紅潮し,たいていは脈の緊張がよゆ、腹部は表面は柔軟であっても底に力があり,便秘ぎみの人が,つぎのような症状を呈するものである。
○気分がいらいらして落ちつかず,精神不安や不眠があって,みぞおちに食物が痞え,腹診すると心下濡で,上腹部が表面は柔軟であるが底のの方に抵抗がある。
○上腹部が痛み,心下部一帯が膨満して固く張り,圧痛がある。
○頭痛,耳鳴,血圧亢進がある。
○吐血,衂血,下血,潜出血などの諸出血。
○本方を,吐血や喀血に用いるときは,冷服するのがよい。温服によって症状が増悪することもあるといわれるからである。


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
(腹証奇覧)○三黄瀉心湯は,心気不定,心下痞するものを治する。不定は心中が何となく落ちつかないで,どかどかし,胸がふさがりおどるようにおぼえ,ここを按じてみると却って思ったほどにはおどらないものである。また血気に熱を帯びているというのが目標で,吐血,衂血,痔疾,下血,便血,狂乱等の証がある。これは心気不定によるのである。要するに心下痞,心中煩悸して不安なものが,腹証の準拠である。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は所謂のぼせ気味で,顔面潮紅し,気分がいらいらして落付かず,脈に力があって便秘の傾向のある場合に用いる。腹診するに表面は柔軟であっても,底力があり,心下部に痞えた気分を訴えることがある。本方は大黄,黄芩,黄連の三味からなり,大黄は単に瀉下の効があるばかりでなく,黄芩,黄連と共に組む時は,炎症,充血を消散するの効がある。また黄芩と黄連と組む時は,心下部の痞塞感を開く働きがある。脳充血,脳溢血の発作直後,或は発作後日数を経たるものにも用いる機会が多い。喀血,吐血,衂血及びまれには子宮出血,痔出血にも用いる場合がある。また本方は切創その他の出血で,驚き,不安の状態ある時に,頓服として用いて,その気分を落ち付け止血の効を発揮する。ただし出血が著しいもの, 脈の微弱なもの等には用いてはならない。動脈硬化症,血圧亢進症等の診断を下されて,絶えず不安の気分に襲われ,或はそのために不眠に陥ったもの等に用いて良いことがある。その他皮膚病,眼病,癲癇,精神病,所謂血の道の上逆感,更年期症状,火傷等に広く応用される。

漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 (構成) 黄連,黄芩ともに胸脇心下の鬱熱を瀉すが,黄連は気上衝煩躁を主治し,黄芩は血熱性主治する。大黄は実熱を瀉し順気の能がある。三者相俟って心下の鬱熱を解し,充血の上衝を機序下に誘導する。
 運用 心下部の痞塞感,充血性の上衝,精神不安を治す。
 これが同じ度合に組合され仲いるとは限らず,或ものは強く或るものは弱く現われることが多いが些細に観察すれば三症状の傾向が認められるものだ。「婦人涎沫を吐す。医反って之を下し,心下即ち痞す。当に先づその涎沫を吐するを治すべし小青竜湯之を主る。涎沫止み乃ち痞を治す瀉心湯之を主る。」(金匱要略婦人雑病)は心下部が自覚的につかえる感じに使う場合である。臨床的にはこの肉体的な意味を精神的な意味にとって運用するが,肉体的な意味では胸元が痞えることを主症状にする胃酸過多症,胃潰瘍,宿酔,などに,精神的な胸元に気が痞えて晴れやらず,とつおいつ思案に暮れたり,気分が統一されぬから気分が落ち付かず,或いはいらいらし,或は不安の気分にかられ,或は決断力なくいろいろと取捨に迷い,或は気が散り易く観念逃走し,年中医者を取替えたり,あれこれの治療を手当り次第に用いたり,気がむらで迷いが多い。之を心気不定とも心気不足とも表現する。「心気不足,吐血衂血す。亦霍乱を治す」(同書吐衂)がそれで,心気不足と共に充血性の上衝があるから興奮し易く,直ぐにかっとなり,併かもそれが永続きしない。所謂お天気屋である。必ずしも怒るとは限らず,或は泣き,或は笑う。泣き中風とか笑い中風とかいう感動性の強いものにも本方はしばしば使うが,いずれの場合にも顔面は紅潮充血する傾きが強い。顔面紅潮,のぼせ感があり,脉大,便秘勝ちものもで高血圧症,動脈硬化症,脳溢血,脳充血,癲癇,発狂,打撲,火傷,耳鳴,眩暈,肩凝,歯痛,酒渣鼻(結膜炎,眼瞼炎,網膜炎,翼状贅片,虹彩炎)皮膚病(のぼせが強く局所が乾燥充血性のもの)などに運用される。また神経症状が強く何事もなきに眼を閉じたり口をゆがめたりするような唖どもりにも用いた例がある。

 運用 2. 各種の充血性出血に用いる。
 吐血,喀血,鼻血,歯齦出血,眼底出血,脳溢血,結膜出血,子宮出血,痔出血,皮下出血,外傷等によい。矢張り脈大きく出血に対して不安がる傾向がある。各種出血のうち,充血性のものは麻黄湯が鼻血を,白脳翁湯が下血を治す位で,他は殆ど瀉心湯を使う。他の止血剤は鬱血性の血液性状に変化があって出血する場合に使うものを常とする。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 少陽部に属する薬方である。心臓部および頭腔内外に充血,炎症があって,その刺激興奮症状として心尖搏動の亢進,血圧上昇,神経過敏等が起こるのである。本方の目標は実証に属し,いわゆるのぼせ気味で,気分がいらいらして落ちつかず,脈に力があって,便秘の傾向があり,驚きやすく不安状を呈するものである。腹は心下部に痞えがあり,表面は柔軟で底に力がある。脈は浮で大きく,数のことが多い。本方証の出血は鮮赤色で瘀血による暗紫色でないのが特徴である。本方証には心下部に痞塞感があり,また充血性炎症性の上衝や精神の不安がある。


餐英館療治雑話〉 目黒 道琢先生
 此の方は心下痞して,大便秘し,上気するを目的とす。竝びに一切上焦体部以上に蓄熱あり。或は口舌瘡を生じ,或は逆上して眼赤き者,皆大便秘を目的とすべし。亦痔疾,肛門腫痛し,鮮血を下す者に必ず効ありと局方に見えたり。鮮血の鮮の字が眼目なり。鮮血とは真赤なる色よき血なり。すべての血症,色のあんたん(うすぐろい)なるは寒なり。鮮なるは熱なり。吐血の症,世医此の方を用ゆるを知れども下血の症此の方を用ゆることを知らず。亦謙斎の訣に辛熱厚味を過食し,足脛痛むに効ありと,知らずんば有るべからず。


類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
 中風卒倒して人事を省せず,身熱牙関緊急,脈洪大或は鼾睡大息し,頻々として欠伸する者,及び省めて後偏枯(半身不随)癱瘓(運動麻痺)不逐(麻痺)緘黙不語(言語障害)口眼喎斜(顔面神経麻痺)言語蹇渋,流涎泣笑し,或は神思恍惚として機転木偶人(人形)の如き者は此方に宜し。○能く宿醒(二日酔)を解すること甚だ妙。
○酒客鬱熱,下血すろ報腸痔腫痛下血する者,痘瘡,熱気熾盛にして,七孔出血する者。産前後,血暈鬱冒し或は狂の如き者。眼目焮痛,赤脈怒張し,熱酔えるが如き者。う歯(虫歯)疼痛,歯縫(歯根)出血,口舌腐爛(口内炎),脣風(口唇腫痒する病,口唇ヘルペス),走馬疳(水癌),喉痺(アンギナ,扁桃炎)焮熱腫痛し,重舌(舌下腺嚢腫),痰胞(舌下の腫れ物),語言する能はざる者,此の二症は鈹針(三稜鍼)を以て横割し,悪血を去り,瘀液を取るを佳と為す。
 ○癰疔内攻,胸膈寃熱(熱にしいたげられ)妄語し,昼夜牀に就か男置る者。以上の諸症にして心下痞,生中煩悸の症あるや,瀉心湯を用ゆれば其の効響が如し。



漢方と漢薬〉 第5巻第10号・第12号
瀉心湯について    大塚敬節先生



(1) 1餐英館療治雑話に曰く
 三黄瀉心湯此の方は心下痞して,大便秘し,上気するを目的とす。竝びに一切上焦体部以上に蓄熱あり。或は口舌瘡を生じ,或は逆上して眼赤き者,皆大便秘を目的とすべ し。亦痔疾,肛門腫痛し,鮮血を下す者に必ず効ありと局方に見えたり。鮮血の鮮の字が眼目なり。鮮血とは真赤なる色よき血なり。すべての血症,色のあんた ん(うすぐろい)なるは寒なり。鮮なるは熱なり。吐血の症,世医此の方を用ゆるを知れども下血の症此の方を用ゆることを知らず。亦謙斎の訣に辛熱厚味を過 食し,足脛痛むに効ありと,知らずんば有るべからず。


 ※癱瘓 (タンタン)
癱瘓風ともいう。四肢の運動麻痺がみられる病証。 肝腎虧虚・気血不足で風・寒・湿・熱・痰・瘀などの病邪が経絡を侵襲して発生することが多い。

※ 緘黙(カンモク)
 口を閉じてものを言わないこと

※走馬疳
壞疽性口炎 gangrenous stomatiti
cancrum oris

※水癌(すいがん)
 栄養状態のひどく悪いときに化膿菌と腐敗菌との混合感染によって起こる重症の口内炎。歯肉や口角から壊疽(えそ)に陥る。近年はまれ。壊疽性口内炎。ノーマ。

 

2012年11月11日日曜日

竹筎温胆湯(竹茹温胆湯:ちくじょうんたんとう) の 効能・効果 と 副作用


 『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
75 竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう) (寿世保元・万病回春)
    柴胡・茯苓・半夏・麦門冬 各三・〇 陳皮・桔梗・香附子・竹筎 各二・〇
    人参・黄連・枳実・甘草・大棗・生姜 各一・〇
 「傷寒日数過多にして其の熱退かず、夢寝安からず、心驚、恍惚、煩燥して痰多く、暑らざる者を治す。」
  少陽病の変証で、胸膈に鬱熱があって、痰火を生じ、そのため不眠症を発したものを清解させる剤である。諸熱性病で、日数を経て、小柴胡湯の時期を過ぎ、余熱なお胸中に集まり、痰を挟み、心を侵して物に驚き易く、安眠を得ず、咳嗽などがあって、恍惚として時にうわごとの如きを発することがある。痰火のために両頬紅潮することが多く、脈は滑、舌白苔あるも虚状を現わし、竹葉石膏湯よりは少しく実して、柴胡剤の用い難きものによい。
 胸中鬱熱による咳嗽・不眠症・驚悸・心悸亢進症・健忘症・酒客痰持ちの朦朧症に応用される。



漢方後世要方解説』 医道の日本社刊 矢数道明著
p.49和解の剤
方名及び主治 四六 竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ) 万病回春 傷寒門

○傷寒日数過多にして其の熱退かず、夢寝安からず、心驚、恍惚、煩燥して丹多く、眠らざるを治す。
処方及び薬能柴胡 茯苓 半夏各三 陳皮香附子 竹茹各二 人参 黄連 枳実 甘草 大棗 生姜各一
 或は加麦門冬三

 半夏、枳実、生姜、陳皮、桔梗=よく痰を袪る。
 竹茹=痰火を清解す。
 黄連=心熱を涼す。
 柴胡=肝胆 の熱を解す。
 人参、茯苓、香附子=脾を補い気を順らす。
解説及び応用○この方は少陽病の変証で、胸膈に鬱熱があり、痰火を生じそのため不眠症を発したのを清解する剤である。
 諸熱病日数を経て小柴胡湯の時期を過ぎ、余熱なお胸中に集まり、痰を挟み、心を侵して物驚き易く、安眠すること能わず、咳嗽、恍惚として時にうわごとの如きを発す。痰火のために両頬紅潮するものが多い。脈は滑、舌白苔あるもそれほど実証でなく、攻撃剤の用い難きものによい。

○応用
 ① 胸中欝熱による咳嗽、② 不眠症、③ 驚悸、④ 酒客痰持の朦朧、健忘、⑤ 心悸亢進症

p.149
17 竹茹温胆湯 (チクジヨウンタントウ) (万病回春 傷寒門)
処方〕 柴胡三・〇 香附子二・〇 人参一・〇 黄連一・〇 甘草一・〇 桔梗二・〇 陳皮二・〇 半夏三・〇 竹茹二・〇 茯苓三・〇 枳実一・〇 大棗一・〇 生姜一・○ (又加麦門冬二・〇)
本方は二陳湯に柴胡 黄連 香附子の解熱剤、桔梗 竹茹 枳実の袪痰剤を加えたものである。

主治〕 竹茹温胆湯の主治として万病回春に、
 「傷寒、日数過多ニシテ其熱退カズ、夢寝寧カラズ、心驚、恍惚、煩燥シテ痰多ク、眠ラザル者ヲ治ス」とある。即ち本方は諸熱性病の経過中、余熱消散せず、胸中に熱欝滞し、痰を生じ、そのために驚き易く、心悸亢進、不眠等を発するものに用いるのである。肺炎、気管支炎等に頻発するものである。
 また、医学入門に、
 「胆虚スルトキハ恐畏シテ猶臥スルコト能ハズ、善ンデ恐レテ敢テセズ、又胆虚スルトキハ眠ラズ。」とある。即ち湿胆湯は胆虚を治すものである。

目標〕 勿誤方函口訣に、
 「此方ハ竹葉石膏湯ヨリハ稍実シテ、胸膈ニ鬱熱アリ、咳嗽不眠ノ者ニ用ユ。雑病ニテモ婦人胸中鬱熱アリテ咳嗽甚シキ者に效アリ。不眠ノミニ拘ルベカラズ。又千金温胆、三因温胆ノ二方ニ比スレバ、其力緊ニシテ、温胆柴胡二湯ノ合方トモ称スベキ者也。且ツ黄芩ヲ伍セズシテ黄連ヲ伍スル者、龔氏格別ノ趣意ナルコト深ク味フベシ。」とある。
 また、蕉窓方意解には、
 「此方千金温胆、三因温胆ハ二方トモ余リ単剤ニテ力薄キユヘ、龔雲林深ク考ヘテ立方セラレタルコトナリ。此症大低三因温胆湯ニ髣髴スレドモ、熱気前ノ温胆ヨリツヨキコトヲヨク心得ベシ。然レドモ熱病日数過多、種々ノ薬剤ヲ用ヒテ病症遷延シタルモノユヘ、外邪ノ残熱モアリ、又肝部ヨリノ熱気モ過半スル様子ニテ、第一日数ヲ経タルユヘ、何トナク元気薄ク、攻撃剤ナドハ用ヒ難キ様子ニアルモノ也。此処ヲヨク診シ覚エテ用ユベシ。
 又按ズルニ竹葉石膏湯ノ症ニ混同スル様ニ見ユレドモ此ハ熱ノ位、彼ニ比スレバ三分ノ一ニテ煩渇身熱ナド大イニ異同アリ、ヨクヨク此レ異同ノ症ヲ熟診シテ分ツベシ。竹葉石膏湯ハ熱気ジツクリトアツクシテ力ツヨク、身熱ナドト云ウ位ノモノニテ、煩渇喘気モコレニ準ジテ、何分蓄滞ノ熱ヨホド深キコトヲ標的ニスベシ。此標的シカト分ルルトキハ決シテ混同スベキ憂ナシ」と述べている。
 また、漢陰臆乗には、
 「熱病後、胃実ノ症略々愈エ、余熱痰を挟ミ、兎角スルト物驚キヲシテ安睡スルコト能ハズ、或ハ甚シキトキハ譫語ヲ発スル者、或ハ咳嗽スル者皆痰火ノ所為ナリ。此方ニ宜シ。此症ハ両頬ノ紅ニナル者多シ、矢張痰火ノ所為ト見ユ。又雑症ノ平生酒徒、又ハ痰持ナドノ一時心ロウシ、夜寝ラレズ、驚気咳嗽、脈滑、舌苔白ク、或ハ中央ニ黄ヲ帯ビタル者、皆痰ヨリクルモノアリ、此方ニ宜シ」とある。
 また、当荘庵家方口解には、l
 「傷寒、汗下ノ後、虚煩不眠譫語スルニ主方ナリ。ヨク寝入ラバ譫語モ止ムナリ。其理ハ傷寒下後実熱大半去リ、気分モ草臥テ実熱ノ中ニ眠ラザルニ、今大半去リタル故寝入ラントスル時、余熱胸中ニ集リテ心ヲオビヤカス、ユヘニ夢寝未ダ安カラズト云フテ、寝グルシク、夢見テ驚キ、醒メテモ夢中ノヤウニテ、寝トボケル顔色有リテ謬語スルナリ」とある。
 また経験筆記には、
 「此方ノ症ハ初発ヨリハナキ症ナリ。トカク小柴胡以後ニアルモノナリ。故ニ日数過多ノ四字ヲ以テ此方ヲ用ユル目的ノ一ツニスルナリ。夢寝寧カラズト云フハ、兎角痰熱ガ胸ニツヨキニヨツテ寝苦シクなりて時々トンダ声ヲ出シテウナリテ苦シガルナリ。故ニ此トキハ舌苔モヨホドアリ、息ナドモ熱キ息ガ出ルナリ。故ニ夢寝不寧ノ症モ此方ヲ用ユル目的トハナルモノゾ。心驚トハ形ニハ驚ク風情ナケレドモ、心ノ内ニハ物ニ驚キヤスク、ビクビクスル気味ヲ云フナリ。恍惚トハウツカリトシテ顔色ガアホウヲ見ル様ニミエルナリ。此恍惚ノウチニ時々トシテウワゴトヲイフ、是ガ此方ヲ用ユルカンジンノ目的ナリ。煩躁トハ煩ハ胸中熱クルシキヲ云フ。躁ハ身ネタリ起キタリシテモミアセルヲ云フ。此方ノ症ニ何故煩躁アルト云フニ、熱ガ胸中ニ集リテ痰ヲムスユヘ、自然ト胸熱シテモチクルシクナルヨリ煩モ躁モ有ルコトナリ。コレヨリ不眠モ恍惚モ心驚モ夢寝不寧モアルコトナリ。故ニ煩躁ノミワケ不案内ナラバ、此方ニツケソコナイアルコトヲ免レザルト知ルベシ。此方ヲ用ユルナラバ竹茹ヲ倍シテ用ユベシ。竹茹はヨク痰熱ヲ去ルモノナレバナリ。是レ大事ノ口伝ナリ」とある。
 これらの諸説は本方運用上の参考となろう。

薬能〕 蕉窓方意解に、
 「柴胡、香附子ニテ肝部ヲユルメ、鬱熱ヲ去リ、黄連、柴胡、香附子ニ力ヲ合セテ鬱熱を清解シ、又黄連ニテ峻(スルド)ニ心胸中ヲ推シ開クユヘ、桔梗 陳皮 半夏 竹茹 茯苓 枳実ノ働キ愈々宜シクナリ、胸中ノ停飲蓄スルコト能ハズ、サレドモ右十味バナリニテハスルドキユヘ、甘草、人参、大棗ヲ加ヘテ心下ヲホドヨクユルムル趣意ナリ。寿世保元ニ麦門冬アリ、余今コレニ従フ」とある。

応用
(一) 諸熱性病―経過中熱が去らず、胸中鬱熱、痰があつて不眠、煩躁するもの。
(二) 不眠症―痰が胸に滞り、驚き易く不眠のもの。
(三) 神経性心悸亢進―胸中鬱塞し、痰が出て不眠、驚き易く心悸亢進するもの。
(四) アルコール中毒者の痰持、酒のみで顔色が赫いもの、常に痰多く、不眠の症などあるものに用いる。




勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯著
竹筎温胆湯
  此の方は竹葉石膏湯より稍や実して、胸膈に鬱熱あり、咳嗽不眠の者に用ゆ。雑病にても婦人胸中鬱熱ありて咳嗽甚だしき者に効あり、不眠のみに拘るべからず。また『千金』温胆、『三因』温胆の二方に比すれば、其の力緊にして、温胆、柴胡、二湯の合方とも称すべき者なり。且つ黄芩を伍せずして黄連を伍する者、龔氏格別の趣意あること深く味ふべし。


 一般用漢方製剤承認基準
竹茹温胆湯
〔成分・分量〕
柴胡3-6、竹茹3、茯苓3、麦門冬3-4、陳皮2-3、枳実1-3、黄連1-4.5、甘草1、半夏3-5、香附子2-2.5、生姜1、桔梗2-3、人参1-2
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力中等度のものの次の諸症:
かぜ、インフルエンザ、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきやたんが多くて安眠が出来ないもの

医療用漢方製剤の効能・効果
ツムラ竹筎温胆湯エキス顆粒(医療用)
インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠が出来ないもの
[参考]
使用目標:比較的体力の低下した人で、感冒などで発熱が長びき、あるいは解熱後、咳が出て痰が多く、不眠を訴える場合に用いる。
 1)精神不安、心悸亢進などを伴う場合
 2)季肋下部に軽度の抵抗・圧痛を認める場合(胸脇苦満)




【副作用等】
甘草が含まれているので、
・偽アルトステロン症[低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等]に留意。
・ミオパシー[脱力感、四肢痙攣・麻痺等]に留意。

人参が含まれているので、
・発疹、発赤、瘙痒に留意。

【併用注意】
甘草が含まれているので、他の甘草含有製剤、グリチルリチン酸類を含有する製剤を併用する際には、過剰投与にならないように、注意が必要。

煩燥は、煩躁の誤字?

2012年11月10日土曜日

苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう) の 効能・効果 と 副作用

一般用漢方製剤承認基準
苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)
〔成分・分量〕 茯苓4-6、甘草2-3、桂皮4、五味子2.5-3

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以下で、手足が冷えて顔が赤くなるものの次の諸症:
のぼせ、動悸、からぜき、のどのふさがり感、耳のふさがり感



漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、 気血水の項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。
10 苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)
〔茯苓(ぶくりょう)六、桂枝(けいし)四、五味子(ごみし)三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、苓桂五味甘草湯ともいわれ、苓桂朮甘湯の白朮のかわりに五味子を加えたものである。腎が虚し、瘀水があり、咳嗽(咳をするたびに上気して顔を赤くする)、動悸、息切れ、手足の冷え、麻痺、心下振水音などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、苓桂味甘湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎、肺炎、気管支喘息、肺結核その他の呼吸器系疾患。
一 そのほか、子宮出血、陰部湿疹など。



金匱要略解説(39)』三潴忠道
苓桂五味甘草湯
 ここから気の上衝について論が移ります。
 「青竜湯下し已って、多唾し、口燥き、寸脈沈、尺脈微、手足厥逆し、気小腹より胸咽に上衝し、手足痺れ、その面翕熱して、酔える状のごとく、よってまた陰股に下流して、小便難く、時にまた冒するものは茯苓桂枝五味甘草湯を与えて、その気衝を治せ」。
 この「気小腹より胸咽に上衝し」のところは、「気小腹より上り、胸咽を衝き」とも読めます。どちらでもよいと思いますが、返り点のつけ方と送り仮名に矛盾がみられます。
 ここの文章は、この前の「小青竜湯これを主る」の続きですから、青竜湯とは小青竜湯のことでしょう。小青竜湯を飲み終って、小青竜湯の証は去ったのですが、今度は唾がたくさん出て、口が乾燥してきた。脈をみると、寸脈は沈で、尺脈は微である。ここで寸脈とは寸口の脈で、表裏の表における病変をみていると考えます。尺は尺中の脈で、裏の病変を判断します。小青竜湯は元来が表症に適応となり、また麻黄(マオウ)が配剤されて実証に用いるわけですから、この脈からは、小青竜湯証はすでに消失しています。
 そして手足が冷え、気が下腹部から胸や喉に衝き上げてくる、この気の上衝が動悸として下から衝き上げるように感じられれば、これは典型的な奔豚という病態です。ここでは動悸があるのかどうかはっきりしませんが、どちらでもよいと思います。そして手足がしびれ、顔が酒にでも酔ったようにパーッと赤くなる。ここに「翕熱して」とありますが、この熱は然の誤りで、正しくは「翕然」かと思われます。翕とは鳥が飛び立つ時の羽の形で、多くのものが一斉に起こるとか、集まるといった意味です。翕然とは『大漢和辞典』によれば、来り集まるさまとなっています。顔面に気がさあっと上衝して行く様子を形容しているのだと思います。
 その衝き上げた気がまた下の方へ流れて行き、小便の出が悪くなり、時々頭に何か被っているようにぼうっとする。このような時には、茯苓桂枝五味甘草湯を与えて、気が上衝してくるのを治しなさいということです。
 次にこの処方内容と、煎じ方、飲み方が出てきますが、今度は「桂苓五味甘草湯(ケイリョウゴミカンゾウトウ)の方」と方剤名が変わっています。さらに平常私どもは、苓桂五味甘草湯(リョウケイゴミカンゾウトウ)、あるいは苓桂味甘湯(リョウケイミカントウ)と略して呼んでいますし、同一の方剤がいくつかの方剤名で呼ばれているわけで、注意が必要です。
 「桂苓五味甘草湯の方。
 茯苓(四両)、桂枝(四両、皮を去る)、甘草(三両)、五味子(半升)。
 右四味、水八升をもって、煮て三升を取り、滓を去り、三つに分かちて温服す」。
 ここで甘草は、恐らく炙甘草、つまり火で炙った甘草を用いるべきものだと思います。
 本方は、顔が真っ赤になる反面、手足が冷える人、一種の自律神経発作である奔豚気病などで使用され、各種の呼吸器疾患、滲出性中耳炎、排尿異常、高血圧などに応用されています。



和訓 類聚方広義 重校薬徴』 吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳
四〇、苓桂五味甘草湯 126 127 129
 心下悸し、上衝し、咳して急迫する者を治す。
 茯苓桂枝各四両(八分) 甘草三両(六分) 五味子半斤(一銭)
右四味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、分け温めて三服す。
(一水合六勺を以て、煮て六勺を取る。)
 ○欬逆倚息し、臥すること得ざるは、小青竜湯128之を主る。青竜湯下し已って、多唾口燥し、「寸脈沈、尺脈微にして、」手足厥逆し、気小腹従り胸咽に上衝し、手足痺し、其の面翕然として酔状の如く、因て復た陰股に下流し、小便難く、時に復た冒する者は、茯苓桂枝五味甘草湯を与え、其の気衝を治せ。

126、以上の五方は其の症を論じ薬を用うるに、其の言、純粋にあらず、然して痰飲咳嗽喘急等の症に選用して皆効あり、宜しく症に随い南呂丸、陥胸丸、十棗湯、白散、紫円等を兼用すべし。

127、此の方は苓桂朮甘湯と僅かに一味易(かわ)るのみ、故に其の症も亦略ぼ相似る。学者宜しく其の方意、方用を意会し(心して、えとくせよ)以て之を施すべし。

128、小青竜湯は、内飲、外邪感動して触発し、咳喘を作す者を治す。

129、以下の五方は、発熱、悪風、頭痛、乾嘔の外候なく、 伹だ内飲により、咳嗽、嘔逆、欝冒、浮腫等を発する者を主治す。若し咳家にして稠涎膠痰、血絲、腐臭、蒸熱、口燥等の症ある者は五方の得て治する所に非らざるなり。


類聚方広義解説(14)』 寺師 睦宗
 次に苓桂五味甘草湯(リョウケイゴミカンゾウトウ)について述べます。まず、条文を読んでみましょう。『方極』には「上衝し、咳して急迫せる者を治す」とあります。みぞおちの下に動悸があってのぼせ、咳が非常に出て急迫するものを治すということです。
 煎じ方は前と同じですが、「茯苓、桂枝、甘草、五味子の四味を、水八升をもって煮て三升を取り、滓を去って、分かち温めて三服す」とあります。
 本文は「欬逆倚息(がいぎゃくきそく)、臥すを得ず。小青竜湯(ショウセイリュウトウ)之を主る。青竜湯下し已り、多唾口燥、寸脈沈、尺脈微、手足厥逆して、気、小腹より胸咽に上衝し、手足痺し、その面翕然(きゅうぜん)として酔状のごとく、よってまた陰股に下流し、小便難く、時にまた冒する者は、茯苓桂枝五味甘草湯を与え、その気衝を治す」とあります。この条文は『金匱要略』の痰飲欬嗽篇に記載されております。
 条文を説明しますと、咳こんで呼吸が苦しく、ものに倚りかかって息をし、横臥できないものは小青竜湯で治しなさい。小青竜湯を服用したらたくさんの唾が出てきて、口がはしゃぎ、寸口の脈は沈で、尺中の脈は微である。手足は冷えて、下腹から胸、喉に向かって気がつきあがって手足がしびれ、顔は酔っぱらったように赤くなる。また気が陰茎部に向かって下ると小便が出にくくなる。その上にまた頭冒(ずぼう)するようなものは、苓桂五味甘草湯を与えると、その気の上衝を治すことができるということです。
 これをもう少し整理して解説してみます。小青竜湯を服用したら表を発した(体表の発熱、頭痛悪寒を除いた)ので表の抵抗力が衰えて虚してきたためき、下腹から気が上衝してきたわけです。表が虚した症状として、寸口の脈が沈となり、尺中の脈が微となって、手足が冷えて痺れるということです。
 気の上衝の症状として、下腹から胸や喉に向かって気がつきあげてきて、顔がぽっと酒で酔ったように赤くなり、口がはしゃく。またその気が陰茎部に下ると小便が出にくくなる。たくさん唾が出るということは、まだ水毒が残っているために起こる症状であるということです。このように気が上衝したり下降したりす識場合は、苓桂五味甘草湯を与えて気を治しなさい、という意味であります。
 本方の運用は、神経症、ノイローゼ、更年期障害、血の道症、ヒステリー、めまい、中耳炎、内耳炎、メニエール症候群、半身不随、のぼせ症、歯の痛み、皮膚炎、蕁麻疹などに用います。
 次の本方の治験例を述べましょう。浸出液の多い中耳炎の例です。23才の婦人で、昨日より右の耳が塞がって痛むといって来院しました。脈は沈微でほとんどわかりません。上衝(のぼせ)はいかと尋ねたら、数日前から食事をしたり、人と話をすると時々顔がほてってのぼせるといいます。同時に頭に何かかぶっている(冒がある)感じがし、その時は足が非常に冷たいといいます。
 患者は中耳炎を心配しています。そこでこれに苓桂五味甘草湯を与えましたところ、たった一日で耳の遠いのも、塞がったのも、のぼせるのも、足の冷えるのもよくなったというものです。これは大塚敬節先生の症例です。
 次は灼熱熱と痒みのある皮膚炎の症例です。26才の男性で、数日前から顔一面にかぶれができて、灼熱感と瘙痒があり、その部分は赤味を帯び、その上に粟粒状の発疹ができて、ところどころに水泡があります。近く結婚式をあげることになっているのに、こんなお化けのような顔では式場に出られないとあせっています。
 以上の症状から、苓桂五味甘草湯の証ではないかと考えて、次のようなことを聞きました。「足が冷えて頭に何かかぶったような感じはありませんか」「その通りです」「小便は遠くありませんか」「それは気づきません」ということです。脈は沈微であろうと考えながら見てみますと、浮、小でした。
 そこでどうしようかと迷いましたが、ほかによい思案もないので、苓桂五味甘草湯を与えました。ところが患者が三日目に来院した時は、顔面の赤味はうすれ、痒みもだいぶとれていました。七日分飲んで非常によくなって、めでたく結婚式を挙げることができました。
 苓桂五味甘草湯の脈は「寸口の脈は沈、尺中の脈は微」と書いてありますが、この症例は浮、小であったが効いたということは、必ずしも脈にとらわれる必要はないのだということを経験したというもので、これも大塚敬節先生の治験例です。
 次は歯槽膿漏の例です。21才の男子で、歯医者に行ったら、全部歯を抜いて入歯にするようにすすめられたという。診察してみると、前に胃潰瘍にかかって漢方を飲んだことがあるといいます。今度の症状は、足が冷えてのぼせ、頭に何かかぶった、いわゆる頭冒の感じがあり、胃の具合はよくないということです。
 そこで歯の痛みや、歯齦炎によく用い現れる苓桂五味甘草湯を用いたところ、経過もよくなり、抜歯せずにすんだということです。これは諏訪重雄先生の治験例です。
 苓桂五味甘草湯の鑑別診断を申し上げます。先ほど申しましたように、大塚先生は中耳炎を治されたのですが、中耳炎から来る難聴にも用います。これには葛根湯を用いることもあります。葛根湯の場合は、脈は沈微で、足が冷えるとか、のぼせて酒に酔ったようだというようなことや、小便が少ないということはありません。ここが葛根湯との違いであります。
 もう一つは蘇子降気湯(ソシコウキトウ)で、これも足が冷えてのぼせ、脈は沈で耳鳴りを訴えるものに用いますが、降気湯の場合は、中耳炎に用いることはなく、喘息に用います。
 また麦門冬湯(バクモンドウトウ)は、咳をするたびに上気して顔が赤くなるものに用いますが、苓桂五味甘草湯は、足が冷えて脈が沈んで触れるという点が、麦門冬湯とは違うわけです。


※慢性気管支炎 肺気腫 浸出性中耳炎 浮腫 などに応用。