健康情報: 藿香正気散(かっこうしょうきさん)の効能・効果と副作用

2013年12月8日日曜日

藿香正気散(かっこうしょうきさん)の効能・効果と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
藿香正気散
本方は消導の剤に属し、内傷と外感とを兼治し、発散の効力もある。多く夏季に用いられ、内生冷に傷けられ外暑湿に感じ、胃腸内に宿食・停水があって、そのた め腹痛・下痢・嘔吐、心下痞え、頭痛・発熱等があって汗のないものに用いられる。よく暑湿を発散し、停水・宿食を消導する効がある。これ等の諸症がなくて も、比較的実證の暑さあたりで、食欲不振・全身倦怠の者に用いて胃腸を調え、身心を軽快ならしめる効果がある。一方に於て食滞による小児の暁方の咳嗽、眼 疾・歯痛などに転され、また青年性疣贅の顔面に前発するものに、薏苡仁を加えて用いる。
方中の紫蘇葉・藿香・白芷等は表を解し、暑湿を発散し、白朮・茯苓・陳皮・半夏・厚朴等は宿食を消し、停水を去り、桔梗・大腹皮等はよく胸腹を疎通し、気を順らす。
本方は以上の目標に従って、夏季の感冒、中暑・夏季の急性胃腸カタル、小児の食滞による咳嗽及び疣贅等に応用される。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.72 夏かぜ・暑さあたり・急性胃腸炎・夏期下痢

18 藿香正気散 (かっこうしょうきさん) 〔和剤局方〕
 白朮・半夏・茯苓 各三・〇 厚朴・陳皮 各二・〇 桔梗・白芷 各一・五 
 蘇葉・藿香・大腹皮・大棗・乾生姜・甘草 各一・〇 

応用〕 あまり虚証でない体質者の中暑、または夏季の胃腸カタルなどに用いる。
 すなわち本方は主として夏の感冒・暑さあたり・吐き下し・暑さ負け・急性胃腸炎・夏の下痢等に用いられ、また婦人の産前産後の神経性腹痛・小児の食滞による咳嗽・眼疾・歯痛・咽痛に用い現れ疣には薏苡仁を大量に加えて応用される。

目標〕 内傷と外寒とを兼ねたのが目的で、外は夏期の風寒(冷房・扇風器なども含めて)に傷られ、内は生冷の飲食によって傷害され、食毒・水毒等のため頭痛・発熱・心下痞え・嘔吐・下痢・心腹痛を発し、汗なく脈腹ともに力あるものを目標とする。

方解〕 構成薬物は痰飲(水毒)を治する二陳湯が基礎で、なお表を発し、胃腸を調える芳香性揮発性の健胃剤を配剤したものである。
 脾の気を発越するという意味で正気散と名づけた。藿香は芳味の気によって胃の働きを助け社:胃口を開き胃の気を調正する。紫蘇と白芷は表を発して外感を発散し、茯苓・半夏・陳皮・甘草は二陳湯で、胃内停水を去り、嘔吐を止め、厚朴・大腹皮・桔梗等は気を順らし胃を開き、ガスによる腹満感を去るものである。

加減〕 本方の基原というべきものは、不換金正気散(半夏六・〇 蒼朮四・〇 厚朴・陳皮各三・〇 大棗・生姜各二・〇 藿香・甘草各一・〇) で、すなわちこの方に茯苓・桔梗・蘇葉・白芷・大腹皮を加えて、利尿発散の力を強化したものが藿香正気散である。
 原雲庵は不換金正気散に加減して五〇余方を作り、広く万病に応用したということで有名である。食毒と水毒による諸病に応用し、その範囲は広いものである。

主治
 和剤局方(傷寒門)に、「傷寒、頭疼、懀寒壮熱、上喘咳嗽、五労七傷、八般ノ風痰、五般ノ膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧(サンランショウギャク)、遍身虚腫、婦人産後血気刺痛、小児疳傷、並ニ皆之ヲ治ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ元(モト)嶺南方ニテ山嵐瘴気ヲ去ルガ主意ナリ、夫ヨリ夏月脾胃ニ水湿ノ気ヲ蓄ヘ、腹痛下利シテ、頭痛悪寒等ノ外症ヲ顕ス者ヲ治ス」とあり、
 餐英館療治雑話には、「霍乱ノ証ハ、外ハ暑ニ傷ラレ、内ハ生冷ニ傷ラルルニ非ザルハナシ。故ニ治療ノ法ハ内外ヲ兼治スルノ心得第一ナリ。感冒ニ用ユルモ此ノ心得ニテ、外ハ頭痛、発熱悪寒等ノ表アリ、内ハ腹痛下利、或ハ心下痞或は宿食アル等ノ内症アルモノナラバ、風寒暑湿ヲ問ハズ用フベシ、効アラザルハナシ。
 凡ソ食滞ニ因テ咳嗽スル者ニ効アリ。小児ノ咳嗽、風寒ニ感ジタル效(シルシ)モナク、咳スルモノハ多クハ食滞ノ所為ナリ。此方ニ宜シ。又小児食滞ニテ痰ヲ生ジ、五更(午前四時)ニ別シテ咳甚シキ者不換金正気散奇効アリ。食滞ハ多クハ心下ヨリ少シ右ニアリ按セバ自ラ分ルモノナリ。
 両耳腫痛ノ証、清火ノ剤ヲ用ヒテ無効ノ者ニ甚ダ効アリ。又虫牙痛ハ脾胃ノ食欝ナリ、加葛根連翹効アリ。又夜寝タル時ニ口ヲ開イテ眠ル人ハ口鼻ヨリ風邪入リテ大陰ニ中リ、咽痛スル者ニ甚だ効アリ。又大小児、顔面或ハ手足ニ夥シク疣ノ生ズル者、此方ニ大イニ薏苡仁ヲ加エテ、不日ニ払フガ如ク落ツル妙ナリ」とある。


鑑別
 ○不換金正気散 (中湿病・発散の力は弱い)
 ○五苓散 (中暑、中湿・水逆、煩躁) 

参考
 著者は本方を夏期の暑さにあたり、全身倦怠感・口渇・食欲不振を訴え、活動意欲消失のときに用いているが、暑さしのぎと食欲亢進・活動意欲の振興に効がある。


治例
 (一) 中暑
 八歳の男児。夏休中海水浴にゆき、暑気にあたり、かつ飲食度を失し、発熱頭痛嘔吐やまず、意識混濁して食を拒み、小児科病院に入院したが、飲食口に入らざること一週間に及んだ。脳膜炎の疑いありといわれ、予後不良を言いわたされた。これに対し本方を与えてよく嘔吐やみ、二日目には食欲が出て全く熱解し、一〇日間この方を続け服して全治退院した。
(著者治験)


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
藿香正気散(かっこうしょうきさん) 〔和剤局方〕

【方意】 脾胃の水毒脾胃の気滞よる心下痞・嘔吐・下痢等と、表の寒証による頭痛・悪寒・発熱等のあるもの。
《太陰病または太陽病,実証》

【自他覚症状の病態分類】

脾胃の水毒
脾胃の気滞
表の寒証・表の実証

主証 ◎心下痞
◎嘔吐
◎下痢


◎頭痛
◎悪寒
◎発熱







客証   心腹疼痛
  食欲不振
  飲食無味
  咳嗽 呼吸困難
  胸内苦悶感
  浮腫
  口渇 口粘
  疲労倦怠

○咳嗽
  眼痛
  耳痛
  歯痛
  咽痛
  無汗




【脈候】 脈力あり。時に軟緩。

【舌候】 白苔。

【腹候】 腹力あり。心下痞を伴う。

【病位・虚実】 脾胃の水毒が中心的病態であり、寒熱に片寄るところがないため太陰病に相当する。表の寒証が顕著な場合には太陽病位となる。肌力も腹力もあり、無汗のため実証である。

【構成生薬】 白朮3.0 半夏3.0 茯苓3.0 厚朴2.0 陳皮2.0 大棗2.0 桔梗1.5 大腹皮1.0 藿香1.0 白芷1.0 甘草1.0 生姜1漆 蘇葉1.0

【方解】 半夏・茯苓・白朮は脾胃の水毒を主る。生姜・大棗・陳皮はこれらに協力し、心下痞・嘔吐・下痢・食欲不振等に対応する。藿香の健胃・鎮嘔作用は半夏に協力し、一方表証に対しても有効に働く。白芷は主に頭痛を治し、蘇葉も表証に有効であり、藿香・白芷・蘇葉の組合せはすべて温性であって、協力して表の寒証を去る。厚朴・蘇葉・大腹皮は脾胃の気滞に作用し、心下痞・心腹疼痛・呼吸困難を治す。桔梗も気滞をめぐらせる補助的な作用があり、甘草は諸薬を補強し調和する。

【方意の幅および応用】
 A 脾胃の水毒脾胃の気滞:心下痞・嘔吐・下痢等を目標にする場合。
   夏負けの急性胃腸炎、小児の食滞による咳嗽、産前・産後の神経性腹痛
 B 表の寒証:頭痛・悪寒・発熱・咳嗽等を目標にする場合。
   夏の感冒
 C 表の寒証:眼痛・耳痛・歯痛・咽痛等を目標にする場合。
   眼疾患、耳痛、歯痛、開口して眠る者の咽痛

【参考】* 傷寒、頭痛、憎寒、壮熱、上端、咳嗽、五労・七傷、八般の風痰、五般の膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧、遍身浮腫、婦人産前産後血気刺痛、小児疳傷並びに皆之を治す。『和剤局方』

* 此の方は元「嶺南方」にて山嵐瘴気(山や湖沼地帯に発生する毒気)を去るが主意なり。夫より夏月脾胃に水湿の気を蓄え、腹痛下利して頭痛悪寒等の外症を顕する者を治す。世に不換金正気散と同じく、夏の感冒薬とすれども方意大いに異なれり。『勿誤薬室方函口訣』

*此方は内傷と外傷とを兼治し、発散の力がある。夏月に多く、内生冷に傷られ、外暑湿に感成;、胃腸内に食毒、水毒滞り、ために腹痛下痢、嘔吐、心下痞え、頭痛発熱して汗なきものに良い。本方の虚証は清暑益気湯である。食滞による小児の暁方の咳嗽、眼疾、牙痛、若年性疣贅(顔面手足に多発する)に転用される。 『漢方後世要方解説』

*「正気」とは脾胃の機能を奮い立たせるという意味。急性胃腸炎や夏の感冒に用いる。
  麻黄剤が胃に負担になるものの感冒で、表証が軽く、咳嗽の止まない場合に良い。


*夏負けで表証の少ない者は不換金正気散が良い。全く表証がなければ平胃散。

*疣贅に薏苡仁を大量に加えて用いることがある。

【症例】夏バテ
 我々訪中視察団が上海・蘇州・杭州・南京と中国の一番暑い地方を、一番暑い7月下旬に回って北京新橋飯店に到着したのは8月6日の朝であった。
 前夜の南京から夜行で蒸されて、疲れて、おまけに夜半に嵐で冷えこんで、調子の悪い連中は中医研究所に「患者として視察するため」出かけた。
 型の如く腹診、脈診、舌診、問診をして投薬して下さる。「針治療を希望する」というと、合谷・風池・天突に30分置針した。
 処方は藿香気正丸(ただし1日2次、毎次1丸)および六神丸(1日1回、10粒)であった。前者は蜜で錬った丸剤で拇指頭大の公私合営同仁堂製、後者は上海の公私合営雷允上国薬公司と書いてある。この治療で私は1日でほぼ治癒した。
 間中喜雄『漢方の臨床』13・11・38


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.72
消導の剤

方名及び主治

九二 藿香正気散(カッコウショウキサン) 和剤局方 傷寒門
○傷寒、頭痛、憎寒、壮熱、上喘、咳嗽、五労、七傷、八般の風痰、五般の膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧、遍身虚腫、婦人産前産後血気刺痛、小児疳傷並びに皆之を治す。

処方及び薬能
白朮 半夏 茯苓各三 厚朴 陳皮各二 桔梗一・五 蘇葉一 霍香一 腹皮一 白芷一・五 甘草 大棗 生姜各一
 霍香、白朮、茯苓、陳皮、甘草、半夏、厚朴、桔梗、大腹=皆中を調える剤、
 紫蘇、霍香、白芷=表を疎す。

 杏仁=風痰喘嗽を治す。大腸の気閉を治す。
 厚朴、大腹皮=胃を開き、腹満感を去る。



解説及び応用
○此方は内傷と外感とを兼治し、発散の力がある。夏月に多く、内生冷に傷られ、外暑湿に感じ、胃腸内に食毒、水毒滞り、ために腹痛下痢、嘔吐、心下痞え、頭痛発熱して汗なきものによい。本方の虚証は清暑益気湯である。食滞による小児の暁方の咳嗽、眼疾、牙痛、小年性疣(顔面手足に多発する)に転用される。

応用
①夏月の感冒、②暑さ中り、③急性胃腸炎、④小児の食滞咳嗽、⑤疣には薏苡仁を大量加える。



【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり,副作用が起こりやすくなります)

次の人は服用しないでください
 生後3ヵ月未満の乳児。

 相談すること 

1.次の人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者に相談してください
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦または妊娠していると思われる人。
 (3)高齢者。
 (4)今までに薬などにより発疹・発赤,かゆみ等を起こしたことがある人。
 (5)次の症状のある人。
  むくみ
 (6)次の診断を受けた人。
  高血圧,心臓病,腎臓病
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性がありますので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師または登録販売者に相談してください

[関係部位:症状]
皮膚:発疹・発赤,かゆみ

まれに次の重篤な症状が起こることがあります。その場合は直ちに医師の診療を受けてください。

[症状の名称:症状]
偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
ミオパチー:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。

3.1ヵ月位(急性胃腸炎、下痢に服用する場合には5~6回、感冒に服用する場合には5~6日間)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師または登録販売者に相談してください

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師または登録販売者に相談してください