健康情報: 清肺湯(せいはいとう) の 効能・効果 と 副作用

2013年12月11日水曜日

清肺湯(せいはいとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.69
除痰の剤

方名及び主治

八六 清肺湯(セイハイトウ) 万病回春 咳嗽門
○一切の咳嗽、上焦痰盛なるを治す。或は久嗽止まず或は労怯となり、若しくは久嗽声唖し、或は喉に瘡を生ずるものは、是れ火肺金を傷るなり。並びに宜しく此湯を服すべし。

処方及び薬能
茯苓 当帰 麦門冬各三 黄芩 桔梗 陳皮 桑白皮 貝母 杏仁 梔子 天門冬 大棗 竹茹各二 五味子 生姜 甘草各一

 陳皮、茯苓、桔梗、貝母、桑白皮、杏仁=皆袪痰の剤である。
 天門冬、麦門冬=肺を清うし、
 五味子=肺気を収め
 黄芩、山梔子=上熱を清うし痰火を退く、
 当帰、甘草=血脈を調え、逆気を和す。

解説及び応用
○ 此方は心火が肺金を剋して久しく咳嗽止まざるを治する剤である。上焦気管支に痰を生じ、肺熱のため咳嗽の止まらざるものに用いる。然れどもこの上焦の熱はやや虚状にして瓜蔞枳実湯の如く実熱の臓なるものではない。肺熱長びき咳嗽燥痰漸く痩羸を加え、肺結核に移行せるやを疑うときに用いて効がある。半夏を用いず、茯苓、貝母を用いて燥痰を潤す。百々漢陰は酸漿皮(サンショウヒ)(ホオズキの皮)を加えて妙なりという。

応用
①慢性気管支炎、②肺結核、③喘息。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.361 急性慢性気管支炎・肺結核・肺炎・気管支拡張症・喘息

83 清肺湯 (せいはいとう) 〔万病回春〕
 茯苓・当帰・麦門冬 各三・〇 黄芩・桔梗・陳皮・桑白皮・貝母・杏仁・山梔・天門冬・大棗 各二・〇 五味子・乾生姜・甘草 各一・〇

応用〕 慢性の経過をとった気管支炎・肺炎・肺結核等で、胸部に熱が残り、咳嗽・喀痰がやまぬものに用いるものである。
 本方は主として慢性気管支炎・慢性咽喉炎・肺炎・肺結核・気管支拡張症・気管支喘息・心臓性喘息などにも応用されることがある。

目標〕 呼吸器の内部に熱をもち、慢性の炎症を起こし、痰が沢山でき、激しい咳嗽が続き、しかも痰は粘稠でなかなか切れないというのが目標である。長びくと咽喉が痛んだり、声が彼たり、咽がムズムズするというようになる。痰の色は黄色のことも、青いことも、白いこともあるが、粘っていてなかなか切れにくく、喀出するのにも苦しむ。痰が出るまで激しい咳が続くものである。

方解〕 本方を構成している薬物は乱雑でこみ入っている。天門冬と麦門冬と五味子の三つが肺を潤し、肺熱をさまし、乾いた痰を潤して喀出を容易にさせる。また貝母・杏仁・桑白皮・桔梗・陳皮・茯苓等は協力してその袪痰の作用を強化する。黄芩と山梔子が胸中の熱をさますのである。当帰と甘草は血を潤し、気の上逆するのを和らげる。

加減〕 もしこの証で、熱が激しく、咳嗽が続いて、顔が赤くなり、身体にも熱感があって、血痰の出るときは、五味子・杏仁・貝母・桔梗を去って、芍薬・地黄・柴苑・竹茹・阿膠を加える。これを紅痰加減方と呼ぶ。古方の麦門冬湯加地黄・黄連・阿膠の証に似ている。

主治
 万病回春(咳嗽門)に、「一切ノ咳嗽、上焦痰盛ナルヲ治ス、或ハ久嗽止マズ、或ハ労怯トナリ、若クハ久嗽唖し、或ハ喉ニ瘡ヲ生ズルモノハ、是レ火肺金ヲ傷ルナリ。並ニ宜シク此湯ヲ服スベシ」とある。

鑑別
 ○麦門冬湯115 (咳嗽・粘痰切れにくい、大逆上気)
 ○小青竜湯 (咳嗽・稀薄な痰、切れやすい) 

参考
 矢数道明、清肺湯の運用について(漢方の臨床 九巻二号・続漢方百話)


治例
 (一) 気管支拡張症
 三六歳の男子。数年前より咳嗽があり、午前中、ことに起床後一時間ほどがひどい。痰も多く、たちまち痰壺が一杯になる。一年に二~三回、春秋に喀血するという。内科医からは気管支拡張症といわれていた。
 患者は色浅黒く、栄養状態はそれほど悪くはない。左背下部に「ラ」音がある。腹な中等度の弾力がある。清肺湯を与えたが、あまり変化はなく、力がついてくる感じがするという。
 三ヵ月ほどで痰が半減したので、引き続きのんでいるうちに、一日急に高熱が出た。いつもは大抵数日下がらないのに、今度は翌日平熱となり、いままでほど疲れないという。服薬後一〇ヵ月、体重も少し増し、一回も喀痰がなく、朝の痰も非常に少なくなった。それで服薬一一ヵ月目から勤務することになった。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)


 (二) 気管支喘息
 五八歳の男子。初診は昭和三九年三月二四日であった。主訴は昨年一二月初めに風邪をひき、なかなか治らないでいた。本年一月の末ごろから、呼吸が苦しくなり、せきと痰が出て苦しむようになった。左の背中が痛むことがあり、白いアワのような痰や黄色の痰が出たりする。
 この患者は数年前から血圧が高くなり、心臓が肥大しているといわれた。レントゲンで診てもらったが、結核の方は心配ないといわれたという。栄養は中等度、顔色は蒼白の方で、脈は弦、舌苔はない。腹は軟満、心下部に少し抵抗がある。胸部を診ると左側にとくにギーメンが多い。たしかに気管支喘息というものであろう。よって初めに喘息、咳嗽喀痰、泡沫様のものを目標にして、小青竜湯加杏仁・茯苓を与えた。一〇日分服用後再来のとき、ほとんど変わりがなく、せきや痰も出るという。痰の出かたをよくきいてみると、なかなか切れにくいというのである。左側の背痛を訴える所のあたりが、とくにギーメンが多い。これは気管支炎を併発しているものらしい。小青竜湯が効くはずなのに効かない。よって清肺湯に転方した。
 清肺湯にして、三日目から咳嗽喀痰が少なくなり、ほとんど出なくなり、とても楽になったということであった。患者は薬が切れたので来院したが、そのとき私は学会で休診していた。そのため三日間休薬したら、また少し痰とせきが出始めたので大急ぎでやってきたという。最近は毎日夕方、好きなテニスをやっているが、少しも苦痛がなく、快適な運動ができるようになったとよろこんでいる。
(著者治験、漢方の臨床 一一巻七号)

 (三) 心臓性喘息
 六五歳の婦人。太っているが顔色は蒼い。約三年前から心動悸と激しい呼吸困難とを訴え、咳嗽に悩まされてきた。痰はなかなか切れにくく、朝は濃い黄色い粘痰で、牛後は白い痰が出る。せき込みが激しくなると、お腹の皮が痛くなるほどで、そのようなときは顔にむくみがくる。
 三年来病名は心臓性喘息といわれていた。血圧は一七〇~一一〇、脈は沈んで力強く打っている。心臓は肥大し、心音はきわめて弱い。胸部には水泡音もギーメンも聴取されない。心下部にはお盆をのみこんだように石のように硬く張りつめて、心下痞堅ともいべきほどである。
 金匱の痰飲咳嗽篇に「膈間の支飲、その人喘満、心下痞堅、面色黎黒、其脈沈緊なる者木防已湯之を主る」とあって、本患者はこれに相当するように思われたが、患者は「私は桂枝の組み入れられた漢方の処方は必ず悪化しますから、入れない処方にして下さい」という。
 そこで私は痰が切れにくいということを唯一の目標として清肺湯を与えた。清肺湯を飲むと、四日目から非常に楽になり、痰の切れがよくなり、咳嗽喀痰がとても少なくなった。発病以来こんなに楽になったことは一度もないといって感謝された。本方を服用していると気持よく生活できるといつて服用を続けている。
(著者治験、漢方の臨床 一〇巻二号)

 (四) 老人性咳嗽・慢性気管支炎
 八五歳の男子。二年前に肺炎を病み、その後とかく痰持ちとなり、せきと痰が少しずつ出ていた。ちょうど一ヵ月前に風邪をひき、その後微熱と咳嗽が止まらない。
 体格普通、顔色は赤黒く、皮膚枯燥の状があり、痰がなかなか切れにくくて、切れるまでせきこむという。心下硬く、胸脇苦満がある。
 肺熱燥痰の証として清肺湯加柴胡を与えたところ、すっかりよくなった。今度はもうおしまいと思って観念していたが、もう少し長生きができるとよろこんでくれた。一ヵ月でほとんどよくなった。
(著者治験、漢方の臨床 九巻二号)


『勿誤薬室方函口訣解説(74)』 
北里研究所付属東洋医学総合研究所副長所 大塚恭男
清熱補気湯・清肺湯・清凉至宝飲・折衝飲

清肺湯
  次は清肺湯(セイハイトウ)です。龔廷賢の『万病回春』に出ており、「一切の咳嗽、上焦痰盛、或は久嗽止まず、或は労怯、或は久嗽声唖し、或は喉に瘡を生ずる者を治す。是れ火肺金を傷る、幷せてこの湯に宜し」とあります。
  上焦は三焦の中の上焦で、ここでは呼吸機能一般と考えてよいと思います。「呼吸器の疾患で痰が盛んに出るもの、あるいは咳が久しく続いて止まないもの、あるいは慢性の消耗した状態にあるもの、あるいは久しく咳が続くので声がかれたり、喉に傷ができたものを治すのである。これは火(炎症)が肺金をいためるものであり、そういう場合はこの湯がよろしい」といっているわけです。五行では肺は金であり、火は金を剋するという相剋の原理です。内容は「桔梗(キキョウ)、茯苓(ブクリョウ)、橘皮(キッピ)、桑白(ソウハク)、当帰(トウキ)、杏仁(キョウニン)、梔子(シシ)、黄芩(オウゴン)、枳実(キジツ)、五味子(ゴミシ)、貝母(バイモ)、甘草(カンゾウ)の十二味」です。
 『口訣』は「此の方は痰火咳嗽の薬なれども虚火の方に属す。若し痰火純実にして脈滑数(かつさく)なる者は、龔氏は瓜蔞枳実湯(カロウキジツトウ)を用うる也。肺熱ありて兎角せきの長引きたる者に宜し。故に小青竜加石膏湯(ショウセイリュウカセッコウトウ)などを用いて効なく労嗽をなす者に用う。方後の按に久嗽止まず労怯と成る者とあり。着眼すべし」とあります。
 この方は、火という表現をしており、前の熱と匹敵す識わけで、何らかの炎症症状ということですが、痰火で咳や痰が止まらない時の薬ですが、実火ではなく虚火であります。はげしい急性の炎症症状ではなく、遷延性のもので、たとえば肺気腫や気管支拡張症のようなものに使えるわけです。またたとえば肺結核など非常に長い経過をとった呼吸器疾患で、このような状態がとれないという場合にも使うことが可能であります。
 もし痰火が実の炎症である時、たとえば急性肺炎とか、その他急性疾患の炎症であって、こういう状態が起こってきたものであれば、脈は当然滑数(玉を転がすようで頻脈)であり、このような場合は『万病回春』の著者の龔廷賢氏は瓜蔞枳実湯を用いております。この処方も現在非常によく用いられる処方の一つですが、ヘビースモーカーで、がっちりした体質で咳や痰がとまらないという時に使われます。ここでいう清肺湯とは対照的なものである、といっているわけです。
 「肺に熱があり、咳の長引いたものによろしいから、小青竜加石膏湯などを用いて効果がなく、わずらわしい消耗性の咳をなすものに用いるとよい」というわけです。小青竜加石膏湯は清肺湯よりさらに慢性のケースが対象になると思います。
 現在でいうと、一番よく使われるのは気管支拡張症、肺気腫などですが、慢性気管支炎で長い経過のもの、古い肺結核で抗生物質などに抵抗して治らないものなどにも使うことがあります。天門冬(テンモンドウ)、麦門冬、五味子、枳実、梔子、桑白皮(ソウハクヒ)はいずれも呼吸器の慢性疾患によく使い、桔梗は袪痰作用があり、炎症疾患によく使います。これらがうまく配合された処方であるわけです。



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎: 発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、 本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた 場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。
[理由]  本剤によると思われる間質性肺炎の企業報告が集積されたため。
(平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品 の使用上の注意事項の変更について」)
 [処置方法]  直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。

2) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
3) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。


4) 肝機能障害、黄疸: AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認め  られた場合には投与を中止し、適切な処置を行う。
[理由]  本剤によると思われる肝機能障害、黄疸の企業報告の集積による。
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等
[理由]  本剤には当帰(トウキ)、山梔子(サンシシ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、 下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。