健康情報: 五虎湯(ごことう) の 効能・効果 と 副作用

2013年11月19日火曜日

五虎湯(ごことう) の 効能・効果 と 副作用

和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
五虎湯(ごことう) 〔万病回春〕

【方意】 肺の水毒による呼吸困難・喘鳴・咳嗽等と、上焦の熱証による自汗・口渇等のあるもの。                                                 《少陽病,虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

肺の水毒上焦の熱証

主証 ◎呼吸困難
◎喘鳴
◎咳嗽


◎自汗
◎口渇







客証 ○心悸亢進

   息切れ


   手足冷
   煩悶感
   伏熱(無大熱)
   頭痛 頭重

  



【脈候】 弦・やや浮・やや緊。

【舌候】 乾燥した白苔。

【腹候】 腹力中等度。

【病位・虚実】 麻杏甘石湯と同じく、上焦の熱証と肺の水毒よりなるため少陽病に相当する。脈力も腹力もあり実証である。

【構成生薬】 麻黄4.5 杏仁4.5 甘草1.5 石膏8.0 桑白皮1.5

【方解】 本方は麻杏甘石湯に桑白皮を加えたものである。桑白皮は上焦の熱証を伴う肺の水毒に対して用い、鎮咳・利尿・消炎・解熱作用がある。本方意の構成病態は麻杏甘石湯証と同じく肺の水毒と上焦の熱証であるが、本方意では肺の水毒による呼吸困難・喘鳴・咳嗽が強い。

【方意の幅および応用】
 A 肺の水毒:呼吸困難・喘鳴・咳嗽等を目標にする場合。
   百日咳、喘息、気管支拡張症、肺気腫
 B 上焦の熱証:自汗・口渇・発熱等を目標にする場合。
   感冒、気管支炎、肺炎

【参考】*傷寒端息(呼吸困難)を治す。又虚喘急を治す。先に此の湯を用いて表を散じ、後に小青竜湯加杏仁を用う。『万病回春』

*此の方は麻杏甘石湯の変方にして喘急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風(ジフテリア)は一種の急喘にして此の方の症に非ず。別に考究すべし。『勿誤薬室方函口訣』



【症例】慢性気管支炎
  明虎湯の治験に古い思い出がある。その頃小学5年生の子供が喘息で、その父が内科医師であったが、どうしても全治せず、私の漢方治療で全治したのであった。その病状は、呼吸困難はなかったが、喘鳴甚だしく呼吸するごとに喘々として苦しがっていた。胸部には笛声や水泡音が著明であった。喘息というよりは慢性の気管支炎ともいうべき症状であったと記憶している。五虎湯を3ヵ月程度連服して全治したのである。
 ところがその時の患者から今年電話で「8歳になる子供が喘息で苦しんでいるから、昔私が載いた漢方薬を是非送ってもらいたい」とのことである。そして彼が言うには、親子三代先生の御世話を受けるとは想像もしなかったという。彼の母親もその昔、胃痙攣で解急蜀椒湯で治したことがあった。五虎湯でこの小児も快方になったとの礼状があった。 高橋道史「漢方の臨床』11・10・14

小児喘息
 5歳の男子。生まれつき弱い子であった。生まれた翌年の秋にカゼを引いて、それから咳嗽が続いて小児喘息だといわれた。あるいは慢性気管支炎かも知れないという医師もあった。平常も咳込みがあるが、カゼを引くと激しくなる。ちょうど百日咳のときのように引き続いて、咳込んできて、激しいときは前こごみになり、赤い顔をして汗ばむほど苦しむのであった。栄養は普通で、顔色もそれほど悪くはない。便通は1回、偏食で大体が食欲がない。口渇はそれほどではないという。
 このような激しい咳込みで、自汗、口渇のあるときは麻杏甘石湯の適応証である。一般にこれに二陳湯を合方し、更に桑白皮を加えて五虎二陳湯という方名として用いるのが浅田流の常套方である。即ちこの患者にもこの五虎二陳湯として用いた。
 10日分の服用により喉喘はすっかり治った。そして食欲が出て、今までは怒りやすく、興奮しやすかったのがおとの成くなったといって、本人はもちろん、家人がとても喜んでくれた。この子はそれ以来生来の咳込みから解放されて見違えるほど丈夫になった。
 麻杏甘石湯に桑白皮を加えたのが五虎湯である。これに二陳湯を加えると、胃の受け具合が良く、胸にもたれず、胃中の停痰を去り、子供は喜んで服用するようである。
矢数道明『漢方の臨床』11・6・18




『重要処方解説(83)』  
神秘湯(しんぴとう)・五虎湯(ごことう) 
 日本東洋医学会会長 室賀 昭三

■五虎湯・構成生薬・薬能薬理・用い方
 次は五虎湯(ゴコトウ)について申します。これは麻杏甘石湯という麻黄,杏仁,甘草,石膏の『傷寒論(しょうかんろん)』に出ている古方に,桑白皮を加えたものですが,麻黄はephedrineが入っているので鎮咳作用がありますし、杏仁も鎮咳作用,去痰作用があり,甘草は薬効を調和するもので,石膏は体の熱を冷やす薬でありまして,これに桑白皮を加えたものが五虎湯です。
 桑白皮は桑または同属植物の根の皮でありまして,フラボノイドやトリテルペンが入っており,鎮痛,抗炎症作用,インターフェロン誘起作用とか,血圧降下作用というものが認められ,味は甘く,辛く,冷やす作用がありまして,昔から咳を治す薬として広く使われております。ですから,麻杏甘石湯に鎮咳作用を加えて強くしたものが五虎湯であります。
 麻杏甘石湯は味があっさりして,飲みやすい薬方ですが,それに味の甘い桑白皮を加えて,さらに鎮咳作用を強くしたものです。使用目標は麻杏甘石湯も五虎湯もそれほど差はなく,大人に使う場合もありますが,子供の喘息や気管支炎に使われることが多いようです。


『勿誤薬室方函口訣解説(33)』 日本東洋医学会理事 中田敬吾
五虎湯
 五虎湯の出典は『万病回春』です。「傷寒、喘息、喘急するを治す。又虚喘急するを治す
るに先ずこの湯を用いて表を散じ、後に小青竜湯加杏仁(ショウセイリュウトウカキョウニン)を用いる。即ち麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)方中加桑白(ソウハク)、もと細茶(サイチャ)あり、今必ずしも用いず」と主治を述べております。とくにむずかしい言葉もありませんので、大体意味は理解できると思います。
 傷寒、いわゆる急性の症状のはげしい熱病であって、喘鳴があり、呼吸困難を来たしている状態を治し、かつまた虚証の端鳴と呼吸困難にもまずこの処方を用いて、表に存在する邪気を散じよという意味であります。虚証の場合、その急性症状期に五虎湯を用い、その後は小青竜湯加杏仁を用いよと記されています。
 『口訣』には「此の方は麻杏甘石湯の変方にして端急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風は一種の急喘にして此の方の症に非ず青:別に考究すべし」と記されています。ここでいう馬脾風とは、小児に起きる、急性に喉がつまって、呼吸困難を伴う病気で、今の咽喉ジフテリアなど、喉の炎症に相当する疾患です。これに対しては『外台秘要』の四物湯(シモツトウ)や小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)、あるいは半夏散及湯(ハンゲサンキュウトウ)などが用いられております。この口訣に関してもとくに解説は不要と思います。
 この処方は『傷寒論』の麻杏甘石湯とともに、気管支喘息に頻用され、効果の高い処方であります。処方中の麻黄は、成分中にエフェドリンを含有し、強い鎮咳効果をもっております。また桑白皮(ソウハクヒ)も袪痰鎮咳の効果にすぐれております。『口訣』中に「小児に最も効あり」と記されていますが、小児の喘息とみれば、まず五虎湯といわれるぐらいに、小児喘息に応用し、かつ有効率の高い処方であります。麻杏親石湯と本処方は、ほとんど同じ目標で用いていますが、喘息発作の時、頓服として用いる場合は、より薬味の少ない麻杏甘石湯の方がよいと思います。
 喘息の治療につ感ては、小児、成人を問わずファーストチョイスにあげられる処方がこの五虎湯あるいは麻杏甘石湯、および種々の文中に出ている小青竜湯(ショウセイリュウトウ)であります。小青竜湯については、テキスト一三五ページに記されていますので、それを参考にしていただければよいと思います。この両処方は、いずれも麻黄を含んでおりますが、構成薬味は大きく違っております。しかし実際の臨床の場ではなかなか鑑別が困難な場合が多いものです。
 以前に私たちの診療所で、喘息治療の統計調査を行なっていますが、その結果をもとに、両処方の鑑別を簡単に述べることにします。まず呼吸困難については起坐呼吸で強度の呼吸困難を症するものは、麻杏甘石湯で二二・五%、小青竜湯で一二・九%であり、麻杏甘石湯の方が強度の呼吸困難に、より効果的でした。
 一方の小青竜湯の方は、くしゃみや水鼻が多く、唾状の薄い痰が多く、小便も近いなど、麻杏甘石湯に比べると冷えや水毒状態をより強く認めたわけであります。さらに腹証においても小青竜湯の場合は、小建中湯(しょうけんちゅうとう)に似た腹直筋緊張型を呈すことが多いのですが、麻杏甘石湯は心下部に幅広く緊張を認めます。この心下部に幅広く緊張を認めるのは、喘息発作の強い時によく認められ、発作が軽減してくると、心下部の緊張がなくなってきます。
 小青竜湯の場合、心下部に振水音を認める場合も多く、この点からも麻杏甘石湯あるいは五虎湯よりも小青竜湯の方が、より水毒症状が強い時に適応することが推察できます。
 麻杏甘石湯および五虎湯と、小青竜湯の簡単な見分け方は、症状の上で痰の少ないヒィヒィという呼吸困難状の発作のある場合は、麻杏甘石湯の方で、痰が多く、ゼイゼイという喘息発作には小青竜湯がよいといえます。しかしながら、先ほども述べたようにこのように簡単に、実際の臨床では鑑別できない場合が多いものです。このような場合に、非常にうまいと申しますか、ずるいと申しますか便利な処方があります。それは、小青竜湯に杏仁(キョウニン)、石膏(セッコウ)を加えて用いる方法です。こうすれば小青竜湯と麻杏甘石湯との合方にもなり、両処方いずれの証の場合でもそれなりの効果が得られるというものです。
 この処方を最初に用いたのは江戸時代の名医本間棗軒であります。本間棗軒も喘息の治療には非常に苦労したとみえて、彼の著書の『内科秘録』の中に、「服薬にては一旦治せども、再発して根治するもの少なし。食禁を慎み、食事療法を根気よくし、長く薬を服用し根治したるものわずかに指を折るのみ」と嘆いております。
 小青竜湯加杏仁石膏(ショウセイリュウトウカキョウニンセッコウ)は、日常外来でよく用いる処方でありますが、原則として、治療はできるだけ単一の処方で治療するよう心がけるべきでしょう。合方すればするほど薬の作用は鈍ってくるものであります。本間棗軒は、喘息の治療に「食禁を慎み」と、食養生の必要性を述べておりますが、現在においても、食事の注意は決しておろそかにできません。
 簡単に食養生の注意を述べてみますと、まず第一に砂糖の摂取制限です。糖分の過剰は、現在の栄養学的においても、大いに問題となるところですが、漢方においても過剰の糖分は脾胃、すなわち消化機能を損ない、湿痰が停滞し、い愛ゆる水毒が生じ、喘息など気管支の弱い人は、気管支からの分泌が多くなり、喀痰がふえ、喘息状態を長期化させる結果になります。
 また喘息は肺に痰が過剰に分泌されている状態であります。このような病態を漢方では水毒状態といいます。 一般に水毒状態といいますと、水分が体内に偏在し、均等化されていない状態を指しますが、水毒状態になる人は、日常水分代謝が悪く、とくに水分の排泄機能の悪い場合が多いものです。喘息の患者には、この水分貯留傾向があります。水分蓄留傾向は、消化器系機能の悪い人にも良く見られます。
 このことから、喘息の食養生としては、水分摂取制限を強く行なう必要があります。現代医学では、喘息発作時は、気管支にある粘っこい痰に湿り気を与え喀出しやすくするために点滴をし、また患者にはどんどん水を飲ます治療法をとります。このことから、喘息患者に、発作が起きていない時期でも、できるだけ水を飲もうと心がける人もいます。発作時の水分摂取に関して議論はさておき、発作の起きていない時期においても、水分をよく摂取するという食養生は、漢方の立場からいえば、大きな問題があるといわざるを得ません。水分排泄の悪い人が、水分を過剰に摂るほど、体内での水分貯留傾向が増加し、弱点のある気管支からの分泌がふえ、痰を多く生ずる結果になるからです。
 私たちは、日常、喘息患者に対して、きびしい水分摂取制限を行なっております。水分と糖分の摂取制限を行なう上から、果実の摂取はほとんど全面的に中止した方がよいと思います。とくにメロンやパイナップルなど、南方、熱帯地方に産する果実を、湿気の多い日本で食することは、喘息患者にとって厳に慎む必要があります。その他の食養生についてはほぼ現代医学と同様と思われますので省略します。
 五虎湯、麻杏甘石湯は、漢方でいえば、実証の処方であり、生来、非常に虚弱な質である虚証の喘息に対してはこれら麻黄含有処方はかえって消化器を悪くしたり、症状を悪化させたりすることがあります。これら虚証の喘息に対しては、蘇子降気湯(ソシコウキトウ)、あるいは喘四君子湯(ゼンシクンシトウ)、さらに、すでに講義を受けた、テキスト四六ページの甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)などを用います。以上五虎湯とともに喘息治療の解説を簡単に申しましたが、本間棗軒もなげいたように、喘息の治療には長期にわたる服薬と食養生が必要であることを心に留めて置く必要があります。



【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

3)本剤にはセッコウが含まれているため、口中不快感、食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢 等の消化器症状があらわれるおそれがある。

その他の副作用
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器  食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等 
泌尿器 排尿障害等