【白虎加人参湯】(びゃっこかにんじんとう)
白虎湯に人参一・五を加える。
こ れは白虎湯の證で、体液の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い、口渇を治する力が増強する。本方 の応用は諸熱病の他に日射病・糖尿病の初期で未ば甚しく衰弱しない者、精神錯乱して大声・妄語・狂走・眼中充血し、大渇引飲する者等である。
『漢方精撰百八方』
75.〔白虎加人参湯〕(びゃっこかにんじんとう)
〔出典〕傷寒論、金匱要略
〔処方〕知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参1.5
〔目標〕
自覚的 寒熱去来し、汗出でて渇し、背部に悪寒甚だしく、尿利は頻繁で、大便には著変がなく、心窩部がつかえて、食欲は欠損する。
他覚的 脈:洪大、洪数、滑数等 舌:乾燥した白苔又は黄苔又は焦黄苔 腹:腹力は中等度以上で、心窩部に抵抗があって、圧に対して不快感又は疼痛がある。 〔かんどころ〕寒熱去来し、汗が出て、のどが乾いて、脈洪大。
〔応用〕1.諸種の急性熱性疾患で、発病後数日を経て、悪寒と高熱とが交互に去来し、発汗甚だしく、のどまた大いに乾き、しかも排尿の回数も量も減ぜず、煩悶して、身の置きどころに苦しむような場合。
2.発汗の後、脱汗やまず、身体が痛んで屈伸し難く、渇して、小便自利する症状。
3.日射病又は熱射病。
4.糖尿病又は尿崩症。
5.皮膚炎、湿疹等でソウ痒の激しいもの。
6.夜尿症。
〔治験〕本方は陽実証でしかも津液亡失の状態を兼ねたものに用いる薬方である。
急性熱性疾患は、太陽病期から少陽病期へ、ついで少陽病期から陽明病期へと、順次移行していくのを普通とするが、ときに順当な道を進まず、太陽病期からいきなり陽明病期へと突進し、しかも太陽、少陽の症状を僅かずつ残している場合がある。これが三陽の合病と称する病情であって、本方は白虎湯とともに、そのような状態を治する代表的な薬方である。両者の鑑別点は、白虎湯はより熱状のつよい場合に用い、本方はより煩渇状のつよ状態に応用するという所である。
本方は、かつて私自身が、かぜのために高熱を発し、顔面や、胸、腹は暑くてだらだらと汗を流しているのに、背中の方は水の中につかっているように寒く、のどがかわいて、食欲が全くない、という状態を呈したときに用いて、劇的に効いた事がある。
藤平 健
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
白虎湯の加減方
(1)白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) (傷寒論、金匱要略)
〔白虎湯に人参三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で体液の減少が高度で、口渇がはなはだしく冷水を多量に飲みたがるものである。したがって、悪寒、悪風(おふう、身体に不愉快な冷気を感ずる意、風にふれると寒を覚える)、発汗、心下痞硬、腹満、四肢疼痛、尿利頻数などを目標とする。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加人参湯證を呈するものが多い。
その他
一 脳炎、脳出血、胆嚢炎など。
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.112
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) (傷寒論)
処方内容 知母五・〇 粳米八・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参一・五(三一・五)
必須目標 ①劇しい口渇(冷水を好む) ②口舌乾燥 ③自汗または尿量増大して、体液を喪失している ④便秘なし
確認目標 ①手足冷 ②食味を感じない ③遺尿 ④譫語(うわ語) ⑤目眩 ⑥脉は滑脉または洪大脉
初級メモ ①日射病のように、自汗多く出て体液欠乏し、なお熱あって汗を出そうとする状態にありながら汗の原料となる水分がないため、劇しい口渇を訴え、舌の乾燥している状態が、本方の目標である。
②重症では身熱(身体裏部の伏熱)が盛んで体表、四肢に熱を伝えないため厥冷状態になって、一見陰証に類似してくる。これを熱厥という。 熱厥と寒厥との区別点は、熱厥には伏熱があるため口舌乾燥し尿色赤く脉は滑脉(裏の伏熱による)を呈するが、寒厥は舌湿潤し芒刺なく、尿色清白で脉は弱いことで鑑別される。
③「食味なし」は舌乾燥の劇症で、同じく原因は裏の伏熱である。
④南涯「白虎湯症(類方の項参照)にして気のびて血滑って循らざる者を治す。その症に曰く汗出、身熱これ気のびるの症なり。曰く悪寒、これ血滞ってめぐる能わざるの症なり。」
適応証 日射病。夜尿症。糖尿病。蕁麻疹。湿疹。
類方①白虎湯(傷寒論)
これが原方で、加人参湯症に較べて体液は缺乏するも胃内までは枯燥には到らない者を目標にするが,殆んど用 いない。南涯「病、裏にあり。血気伏して熱を作し、水行く能わざる者をを治す。その症に曰く、以って転側し難し、口不仁、逆冷、遺尿、厥、背微悪寒の者は これ血気伏するの症なり。曰く譫語、燥渇心煩、渇して水を飲まんと欲す、口乾舌燥はこれ熱を作すなり。曰く腹満身重これ水行かざるなり。しかりと雖も水は その主病に非ず、自汗出るを以ってこれを示すなり。曰く渇して水を飲まんと欲す、煩渇の二症は五苓散に疑似す、何をもって之を別つか、五苓散は水行かずし て渇なり。この方伏熱甚しくして渇なり。故に五苓散症は発熱し、この症は発熱せず。五苓散は必ず汗出でて渇、この症は口乾燥、或は身熱して渇なり。五苓散 は脉浮数こ英方は脉洪大或は滑。五苓散の症は気急の状、白虎湯の症は気逆の状、これその別なり」。
②白虎加桂枝湯(金匱)
白虎湯に桂枝四・〇を加えた処方で伏熱が上衝して起す頭痛、歯痛に用いる。裏熱の上衝故、痛む個所が深く骨節煩疼の形になる。
文献 「白虎湯及白虎加人参湯について」 奥田謙蔵 (漢方と漢薬2、9、2)
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.518
122 白虎加人参湯 (びゃっこかにんじんとう) 〔傷寒・金匱〕
知母五・〇 粳米一〇・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参三・〇
〔応用〕 白虎湯証に似て、内外の熱甚だしく、さらに津液は欠乏し、渇して水を飲まんと欲し、転舌の乾燥の甚だしいものに用いる。
本方は主として、(1)流感・腸チフス・肺炎・脳炎・中暑・熱射病等で高熱・煩渇・脳症を起こしたもの、(2)糖尿病・脳出血・バセドー病で煩渇し脈の洪大のもの等に用いられ、また、(3)等膚病のなかで、皮膚炎・蕁麻疹・湿疹・ストロフルス・乾癬等の瘙痒甚だしく、患部が赤く充血し、乾燥性で、煩渇をともなうものに応用される。さらに腎炎紙:尿毒症・胆嚢炎・夜尿症・虹彩毛様体炎・角膜炎・歯槽膿漏等にも転用される。
〔目標〕 熱症状と渇が主症状で、煩渇または口舌乾燥し、水数升を飲みつくさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。
脈は多くは洪大で、大便硬く、腹部は大体が軟かで、心下痞硬し、表証としての汗出で、悪風・背寒・悪寒等があり、腹満・口辺の麻痺・四肢疼重・尿利頻数等のあるもの。
〔方解〕 白虎湯に人参三・〇を加えたもので、白虎湯の証に、体液の減少が高度とな責、口渇甚だしく疲労の状を呈したものを治すものである。すなわち知母は内熱をさまし、燥を潤し、石膏は内外の熱をさまし、鎮静の作用がある。粳米は補養の働きがあり、石膏の寒冷を緩和する。甘草は急迫を緩め、かつ粳米とともに表を補う。人参は一層裏を補い、滋潤の作用を加えたものである。
白虎湯は、その主薬となっている石膏の色の白いことから名づけたといわれるが、本方の主体はこの石膏の解熱と鎮静にあることはうなずかれる。しかも石膏は大量でないと効かないといわれている。
この石膏の有効成分について、中国において新しい研究の成果が発表されている。上海中医薬雑誌(一九五八、三号)に、郭参壎、陸汝陸遜両氏が、「天然石膏の初歩研究」を発表された。
それによると、「石膏の効能は本草書の諸説を総合すると、清涼解熱、津液を生じ、煩を除くというにある。麻杏甘石湯を肺炎に、白虎湯を日本脳炎の高熱期に用いて著しい解熱作用を示している。
石膏はCaSO4・2H2O すなわち硫酸カルシウムで、この溶解度を調べてみると、一八度では五〇〇ccの水にわずか一グラムしか溶けない。四〇度の水にはこれよりも多く溶けるが、四〇度を越すと溶ける量は減ってくる。一〇〇度の水では六五〇ccにやっと一グラム溶けるだけである。
しかし天然の石膏には他の成分が含まれている。日本産のものには、硅酸・酸化アルミニウム・酸化鉄・炭酸カルシウム・硫酸マグネシウム等がある。上海の市場品の懸濁液中に硅酸、水酸化アルミニウム、溶液中に硫酸鉄、硫酸マグネシウム等があった。
この天然石膏を用いてその煎汁をもって動物実験を行なってみると、明らかに解熱作用が認められた。一方九九・九%の純粋石膏を用いて同様の実験を試みたところ、解熱作用は現われなかった。これによって石膏の解熱成分は、天然石膏の夾雑物の中にあることが判明した。
石膏の量は熱の軽重によって増減されるべきである。よく石膏は溶解度が少ないから効果がないといわれているが、実はその解熱成分は夾雑物の中に含まれていることが推定されるのである」というものである。
(漢方の臨床五巻一〇号、中国漢方医学界の動向)
〔主治〕
傷寒論(太陽病上篇)に、「桂枝湯ヲ服シ、大イニ汗出デテ後、大煩渇解セズ、脈洪大ナルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
同(太陽病下篇)に、「傷寒、若クハ吐シ、若クハ下シテ後、七八日解セズ、熱結ンデ裏ニ在リ、表裏倶ニ熱シ、時々悪風、大渇、舌上乾燥シテ煩シ、水数升ヲ飲マント欲スルモノノ、白虎加人参湯之ヲ主ル」
また、「傷寒、大熱ナク、口燥渇、心煩、背微悪寒スルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」「傷寒、脈浮、発熱、汗ナク、ソノ表解セズ、白虎湯ヲ与フベカラズ、渇シテ水ヲ飲マント欲シ、表証ナキモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
金匱要略(暍病門)に、「太陽ノ中熱ナルモノハ暍(エツ)コレナリ。汗出テ悪寒、身熱シテ煩ス、白虎加人参湯之ヲ主ル」とある。
勿誤方函口訣には、「此方ハ白虎湯ノ証ニシテ、胃中ノ津液乏クナリテ、大煩渇ヲ発スル者ヲ治ス。故に大汗出ノ後カ、誤下ノ後ニ用ユ。白虎ニ比スレバ少シ裏面ノ薬ナリ。是レヲ以テ表証アレバ用ユベカラズ」とあり、
古方薬嚢には、「汗出で、さむけあり、大いに渇して水を呑みたがる者、熱なく唯背中ぞくぞくとして悪寒し、口中乾いて頻りに水を飲みたがる者、汗が出て悪寒するくせに、非常に熱がって水を呑む者、本方は渇が第一の証なり」とある。
〔参考〕
奥田謙蔵氏、白虎湯及び白虎加人参湯に就て(漢方と漢薬 二巻九号)
〔鑑別〕
○白虎湯 121 (煩渇・高熱、津液欠乏は少ない)
○五苓散 41 (渇・小便不利、水逆、心下部拍水音)
○八味丸 116 (渇・小便不利または自利、少腹不仁、脈沈弦)
〔治例〕
(一) 瘙痒疹
一男子、物にかぶれたるものか、または毒虫などにさされしものか、本人もはっきり覚えざれども、急に全身に痒疹を生じ、掻くほどに、赤き斑点こんもりと持ち上り、全身汗ばみて悪寒し、全身汗ばみて悪寒し、忍ぶべからざる者、白虎加人参湯を服し、一回分にて癒えしことあり。
(荒木性次氏、古方薬嚢)
(二) 夜尿症
一〇歳の少年。毎夜遺尿をするという。体格、栄養、血色ともに普通である。床につく前にのどが乾くといって、水をがぶがぶのみ、どうしてもやめられないという母親の言葉にヒントを得て、白虎加人参湯を用いたところ、口渇がやみ、遺尿も治った。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)
(三) 感冒
一月一五日、発病後五日目、葛根湯・小柴胡湯加石膏・小柴胡湯合白虎加人参湯を服用したが好転せず、朝四時苦しさのため目をさます。非常にのどが渇き、コップ一杯の水を一口にのみほす。心臓部が苦しい。熱はまだ四〇度二分に昇っている。汗は顔といわず、からだといわず、沸々として流れ出て、しかも背中は水中にひたっているようにゾクゾクと寒い。心下は痞硬して苦しく、鳩尾(みぞおち)から臍にかけて盛り上がったような自覚があり苦しい。朝五時、夜明けを待ちきれず、奥田先生に電話をかけた。胸の中が何ともいえず苦しく、てんてん反側する。八時、熱は依然として三九度七分、ただのかぜか、チフスか、敗血症かと心は迷い乱れた。
一〇時、奥田先生がおいでになった。脈洪大・煩渇自汗・背悪寒・心下痞硬等があった。
まさきくこれは三陽の合病、白虎加人参湯証に間違いなしと、精診の後診断を下された。
背微悪寒は、微は幽微の微で、身体の深い所から出てくる悪寒と考えるべきだとのお話。同方を服用して一時間、まず悪寒・心下痞硬は消退し、背中は温まり、みぞおちが軽くなってきた。三時半には体温も三七度五分に下がり、すべての症状が拭うがこどく消え去り、食欲が出て快く眠れた。
(藤平健氏、漢方の臨床、一巻四号)
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
66.白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) 傷寒論
知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参3.0
(傷寒論)
○傷寒,若吐若下後、七八j日不解,熱結在裏、表裏倶熱時々悪風, 大渇,舌上乾燥而煩欲飲水数升者,本方主之(太陽下)
○傷寒無大熱,口燥渇,心煩,背微悪寒者,本方主之(太陽)
○傷寒脉浮、発熱無汗,其表不解,不可与白虎湯,渇欲飲水、無表証者,本方主之(太陽)
○服桂枝湯,大汗出後,大煩渇不解,脉洪大者,本方主之(太陽)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
むやみに咽喉がかわいて,水を欲しがるもの,あるいは熱感の劇しいもの。
本方は体内水分が著しく不足するため、むやみに咽喉がかわき,しかも冷水を欲しがる症状,例えば糖尿病の初期で未だ利尿障害が著しくない時期に用いられる。八味丸適応症状では口渇は前者程でもなく,且つ尿量減少もしくは増大が著明となる。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
(白虎湯) 発熱して口渇があって水をのみたがり,煩躁したり,反対に身体が重くねがえりしにくくなり、自たに汗が出る。口,舌が乾燥して舌に白苔を生じ,食物の味がわからなくなる。また腹が張ったり,顔に垢がついてきたなくなったり,譫語や尿失禁をすることがある。
○白虎湯証に準じ,表裏の熱甚だしく,体液の欠乏の微候を呈して,口舌が乾燥し,煩渇して大いに水を飲みたがるものである。大便は硬く,尿利は増加し,背部に悪風(風にあたると寒けがする)があり時に発汗のひどく多いものがある。
方輿輗 「白虎加人参湯の正証は,汗じたじたと出て,微悪寒ありながら,身は熱して大渇引飲(ひどくのどがかわいて水を大量にのむ)するものなり,愚案ずるに,凡そ白虎を与うべき症ならば脈長洪であるべきに,暍(日射病)では却って虚微の状多し。是れ暍の傷寒と異なる所なり」といっている。
〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○私の経験では白虎湯や白虎加人参湯を与えてよい患者の舌には厚い白苔のかかることは少い。苔があまりなくて,乾燥している事が多い。舌に白い厚い苔があって,口渇のある場合には,この苔が湿っている時はなお更のこと,乾いていても,うっかり白虎湯のような石膏剤は用いないがよい。これを与えると食欲不振,悪心などを起すものがある。これには半夏瀉心湯や黄連解毒湯の証が多い。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
(白虎湯) 本方は身熱,悪熱,煩熱等と称する熱症状に用いて解熱させる効がある。この場合脈は浮滑数乃至洪大で口中乾燥,口渇がある。身熱,悪熱,煩熱等と称する症状は自覚的に身体灼熱感があって苦しく,通常悪寒を伴わず,他覚的にも病人の皮膚の掌に明てると一種灼熱感があるものである。この熱状は感冒,肺炎,麻疹その他諸種の熱性伝染病に現われる。この熱状で便秘し,燥屎を形成し,譫語を発する場合は大承気湯を用いるべきである。本方は病状未だ大承気湯を用いるべきに至らない場合に用いる。本方の薬物中,知母と石膏が主として清熱に働く,粳米は栄養剤で高熱による消耗を補う。甘草は調和剤で知母と石膏の協力を強化するものと考えられる。本方の応用としては感冒,肺炎,その他の熱性伝染病である。また皮膚病で瘙痒感の甚しい場合に用いて効がある。
(白虎加人参湯) これは白虎湯の証で,体赤の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い,口渇を治する力が増強する。本方の応用は諸熱病の他に日射病,糖尿病の初期で未だ甚しく衰弱しない者,精神錯乱して大声,妄語,狂走,眼中充血し,大渇引飲する者等である。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成) 白虎湯に人参を加えたもので此処方は頻用する。前に述べた白虎湯証の熱によって津液枯涸したものに対し人参を以て滋潤し血虚を補うのが本方である。
運用 1. 熱症状と渇を呈するもの
熱は熱発でもよい。体温計で測って体温が上昇していなくても漢方的熱症状でもよい。即ち口渇もその1つだし,陽脉(洪,大,滑,数等)熱感,身熱,心煩,煩躁,小便赤等のどれかが組合されておれば熱症状と判断できる。その中で最も主要なのは脉洪大,煩渇とは煩しい程劇しい口渇を覚えることをいう。「桂枝湯を服し,大いに汗出でて後,大いに煩渇し解せず,脉洪大なるものは白虎加人参湯之を主る。」(傷寒論 太陽病上)発汗過多のため胃内の水分が欠乏し胃熱を帯びて煩渇するというのである。「傷寒若くは吐し,若くは下して後七・八日解せず,熱結んで裏に在り,表裏倶に熱し,時々悪風,大いに渇し,舌上乾燥して煩し,水数升を飲まんと欲するものは白虎加人参湯之を主る。」(同太陽病下)熱結在裏が本で表裏倶に熱し大渇するのが狙いである。「傷寒,大熱無く,口燥渇,心煩,背微しく悪寒するものは白浜加人参湯之を主る。」(同右)この心煩は傷寒に続けて考えて行くべきもので,傷寒により寒が体内に侵入し,腎に迫り津液を亡わしめると共に腎虚により心熱を生じ心煩を起させる。一方熱は胃にも入り,亡津液と共に口燥渇を起す原因になる。ただ胃熱だけなら口渇だが津液が欠乏しているから燥が起るのでそれを人参が治すことになる。背微悪寒は陽虚ではなく内熱による虚燥のために起ったのだというのが定説のようだ。恐らくその通りであろう。附子湯の背悪寒と比べて考うべきは矢張り腎の虚寒である。全身の悪寒ではなくただ背に限定されているのは背の膀胱経を考えたい。即ち腎が症状として膀胱経に現われたと見たいのである。痰飲の所にも心下に留飲があると背部で手大の範囲に寒冷が起るというが,之を単に胃内だけの問題でなく腎を併せ考うべきであろう。その他当帰建中湯の痛引腰背なども傍証になるが,要するに背と腎膀胱とに一定の関係があると思われるのである。(中略)
太陽の部位即ち表に原因としての熱邪が加わったものを暍と称する。然しこの熱は表にばかり留まらずに裏に侵入して行き,表裏倶に熱する状態になる。表部位の症状として汗出があるが之は陽明病の汗出や三陽合病白虎湯の自汗出と同じく実は裏熱によるものである。熱によって血傷られ汗出も悪寒も起る。身熱は部位は表でも深い所に在り裏に属する部位で身熱と云えば胃熱によって起るものである。汗出悪寒というと太陽病らしいが太陽病には身熱や渇はなく,此等は凡て裏熱症状である。以上各条の症状を拾上げると表症状としては汗出,悪寒,時々悪風,背微悪寒などがあるが,此等は実は裏の変化に版って起ったもので,裏の変化は胃熱,心熱が主で渇,口乾舌燥,身熱などとして現われている。以上の適応証に基いて本方を応用する対象になるのは熱病,例えば流感,肺炎,麻疹,日射病等で脉洪大,煩渇,下口唇鮮紅色乾燥,煩躁などのあるもの,糖尿病で脉洪大,煩渇,尿利に著しい増減のないもの,皮膚病で痒みの劇しいもの,矢張り脉大口渇を伴うことが多い。然し口渇に拘泥せずとも瘡面が充血性,熱感があるなどでも宜い。分俸は不定で,乾燥性のこともあり,湿潤性のこともある。白虎加桂枝湯とは口渇の程度で区別し得ることが多い。専門的には桂枝,人参,の性能,作用点などの相違を考えて使分くべきである。(後略)
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
熱症状と渇が級症状で,煩渇または口舌乾燥し,水数升を飲みつかさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。脈は多くは洪大で,大便硬く,腹部は大体が軟かで,心下痞硬し,表証としての汗出で,悪寒,背寒,悪寒等があり,腹満,口辺の麻痺,四肢疼重,尿利頻数等のあるもの。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は白虎湯の証にして,胃中の津液乏くなりて,大煩渇を発する者を治す。故に大汗出の後か,誤下の後に用ゆ,白虎に比すれば少し裏面の薬なり,是れを以て表証あれば用ゆべからず。
『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
次は白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)です。出典は『傷寒論』で、白虎湯方中に人参を加えたものです。
この薬方は白虎湯の証、つまり三陽の合病で邪が表裏にまたがっているために発熱、口渇、煩躁、自然に起こる発汗、腹満などがあり、消化器管中の分泌液が欠乏しているために大いに劇しい口の渇きを起こすものを治す薬方であります。したがって大いに汗を出したあととか、誤って下したために体液が欠乏したものに用いるわけであります。この理由で表症すなわち熱、頭痛等の表の状態だけのあるものに用いる薬ではないということです。
【副作用】
重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
理由
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
処置方法
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。
その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 瘙痒、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されているため。
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.112
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) (傷寒論)
処方内容 知母五・〇 粳米八・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参一・五(三一・五)
必須目標 ①劇しい口渇(冷水を好む) ②口舌乾燥 ③自汗または尿量増大して、体液を喪失している ④便秘なし
確認目標 ①手足冷 ②食味を感じない ③遺尿 ④譫語(うわ語) ⑤目眩 ⑥脉は滑脉または洪大脉
初級メモ ①日射病のように、自汗多く出て体液欠乏し、なお熱あって汗を出そうとする状態にありながら汗の原料となる水分がないため、劇しい口渇を訴え、舌の乾燥している状態が、本方の目標である。
②重症では身熱(身体裏部の伏熱)が盛んで体表、四肢に熱を伝えないため厥冷状態になって、一見陰証に類似してくる。これを熱厥という。 熱厥と寒厥との区別点は、熱厥には伏熱があるため口舌乾燥し尿色赤く脉は滑脉(裏の伏熱による)を呈するが、寒厥は舌湿潤し芒刺なく、尿色清白で脉は弱いことで鑑別される。
③「食味なし」は舌乾燥の劇症で、同じく原因は裏の伏熱である。
④南涯「白虎湯症(類方の項参照)にして気のびて血滑って循らざる者を治す。その症に曰く汗出、身熱これ気のびるの症なり。曰く悪寒、これ血滞ってめぐる能わざるの症なり。」
適応証 日射病。夜尿症。糖尿病。蕁麻疹。湿疹。
類方①白虎湯(傷寒論)
これが原方で、加人参湯症に較べて体液は缺乏するも胃内までは枯燥には到らない者を目標にするが,殆んど用 いない。南涯「病、裏にあり。血気伏して熱を作し、水行く能わざる者をを治す。その症に曰く、以って転側し難し、口不仁、逆冷、遺尿、厥、背微悪寒の者は これ血気伏するの症なり。曰く譫語、燥渇心煩、渇して水を飲まんと欲す、口乾舌燥はこれ熱を作すなり。曰く腹満身重これ水行かざるなり。しかりと雖も水は その主病に非ず、自汗出るを以ってこれを示すなり。曰く渇して水を飲まんと欲す、煩渇の二症は五苓散に疑似す、何をもって之を別つか、五苓散は水行かずし て渇なり。この方伏熱甚しくして渇なり。故に五苓散症は発熱し、この症は発熱せず。五苓散は必ず汗出でて渇、この症は口乾燥、或は身熱して渇なり。五苓散 は脉浮数こ英方は脉洪大或は滑。五苓散の症は気急の状、白虎湯の症は気逆の状、これその別なり」。
②白虎加桂枝湯(金匱)
白虎湯に桂枝四・〇を加えた処方で伏熱が上衝して起す頭痛、歯痛に用いる。裏熱の上衝故、痛む個所が深く骨節煩疼の形になる。
文献 「白虎湯及白虎加人参湯について」 奥田謙蔵 (漢方と漢薬2、9、2)
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.518
122 白虎加人参湯 (びゃっこかにんじんとう) 〔傷寒・金匱〕
知母五・〇 粳米一〇・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参三・〇
〔応用〕 白虎湯証に似て、内外の熱甚だしく、さらに津液は欠乏し、渇して水を飲まんと欲し、転舌の乾燥の甚だしいものに用いる。
本方は主として、(1)流感・腸チフス・肺炎・脳炎・中暑・熱射病等で高熱・煩渇・脳症を起こしたもの、(2)糖尿病・脳出血・バセドー病で煩渇し脈の洪大のもの等に用いられ、また、(3)等膚病のなかで、皮膚炎・蕁麻疹・湿疹・ストロフルス・乾癬等の瘙痒甚だしく、患部が赤く充血し、乾燥性で、煩渇をともなうものに応用される。さらに腎炎紙:尿毒症・胆嚢炎・夜尿症・虹彩毛様体炎・角膜炎・歯槽膿漏等にも転用される。
〔目標〕 熱症状と渇が主症状で、煩渇または口舌乾燥し、水数升を飲みつくさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。
脈は多くは洪大で、大便硬く、腹部は大体が軟かで、心下痞硬し、表証としての汗出で、悪風・背寒・悪寒等があり、腹満・口辺の麻痺・四肢疼重・尿利頻数等のあるもの。
〔方解〕 白虎湯に人参三・〇を加えたもので、白虎湯の証に、体液の減少が高度とな責、口渇甚だしく疲労の状を呈したものを治すものである。すなわち知母は内熱をさまし、燥を潤し、石膏は内外の熱をさまし、鎮静の作用がある。粳米は補養の働きがあり、石膏の寒冷を緩和する。甘草は急迫を緩め、かつ粳米とともに表を補う。人参は一層裏を補い、滋潤の作用を加えたものである。
白虎湯は、その主薬となっている石膏の色の白いことから名づけたといわれるが、本方の主体はこの石膏の解熱と鎮静にあることはうなずかれる。しかも石膏は大量でないと効かないといわれている。
この石膏の有効成分について、中国において新しい研究の成果が発表されている。上海中医薬雑誌(一九五八、三号)に、郭参壎、陸汝陸遜両氏が、「天然石膏の初歩研究」を発表された。
それによると、「石膏の効能は本草書の諸説を総合すると、清涼解熱、津液を生じ、煩を除くというにある。麻杏甘石湯を肺炎に、白虎湯を日本脳炎の高熱期に用いて著しい解熱作用を示している。
石膏はCaSO4・2H2O すなわち硫酸カルシウムで、この溶解度を調べてみると、一八度では五〇〇ccの水にわずか一グラムしか溶けない。四〇度の水にはこれよりも多く溶けるが、四〇度を越すと溶ける量は減ってくる。一〇〇度の水では六五〇ccにやっと一グラム溶けるだけである。
しかし天然の石膏には他の成分が含まれている。日本産のものには、硅酸・酸化アルミニウム・酸化鉄・炭酸カルシウム・硫酸マグネシウム等がある。上海の市場品の懸濁液中に硅酸、水酸化アルミニウム、溶液中に硫酸鉄、硫酸マグネシウム等があった。
この天然石膏を用いてその煎汁をもって動物実験を行なってみると、明らかに解熱作用が認められた。一方九九・九%の純粋石膏を用いて同様の実験を試みたところ、解熱作用は現われなかった。これによって石膏の解熱成分は、天然石膏の夾雑物の中にあることが判明した。
石膏の量は熱の軽重によって増減されるべきである。よく石膏は溶解度が少ないから効果がないといわれているが、実はその解熱成分は夾雑物の中に含まれていることが推定されるのである」というものである。
(漢方の臨床五巻一〇号、中国漢方医学界の動向)
〔主治〕
傷寒論(太陽病上篇)に、「桂枝湯ヲ服シ、大イニ汗出デテ後、大煩渇解セズ、脈洪大ナルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
同(太陽病下篇)に、「傷寒、若クハ吐シ、若クハ下シテ後、七八日解セズ、熱結ンデ裏ニ在リ、表裏倶ニ熱シ、時々悪風、大渇、舌上乾燥シテ煩シ、水数升ヲ飲マント欲スルモノノ、白虎加人参湯之ヲ主ル」
また、「傷寒、大熱ナク、口燥渇、心煩、背微悪寒スルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」「傷寒、脈浮、発熱、汗ナク、ソノ表解セズ、白虎湯ヲ与フベカラズ、渇シテ水ヲ飲マント欲シ、表証ナキモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
金匱要略(暍病門)に、「太陽ノ中熱ナルモノハ暍(エツ)コレナリ。汗出テ悪寒、身熱シテ煩ス、白虎加人参湯之ヲ主ル」とある。
勿誤方函口訣には、「此方ハ白虎湯ノ証ニシテ、胃中ノ津液乏クナリテ、大煩渇ヲ発スル者ヲ治ス。故に大汗出ノ後カ、誤下ノ後ニ用ユ。白虎ニ比スレバ少シ裏面ノ薬ナリ。是レヲ以テ表証アレバ用ユベカラズ」とあり、
古方薬嚢には、「汗出で、さむけあり、大いに渇して水を呑みたがる者、熱なく唯背中ぞくぞくとして悪寒し、口中乾いて頻りに水を飲みたがる者、汗が出て悪寒するくせに、非常に熱がって水を呑む者、本方は渇が第一の証なり」とある。
〔参考〕
奥田謙蔵氏、白虎湯及び白虎加人参湯に就て(漢方と漢薬 二巻九号)
〔鑑別〕
○白虎湯 121 (煩渇・高熱、津液欠乏は少ない)
○五苓散 41 (渇・小便不利、水逆、心下部拍水音)
○八味丸 116 (渇・小便不利または自利、少腹不仁、脈沈弦)
〔治例〕
(一) 瘙痒疹
一男子、物にかぶれたるものか、または毒虫などにさされしものか、本人もはっきり覚えざれども、急に全身に痒疹を生じ、掻くほどに、赤き斑点こんもりと持ち上り、全身汗ばみて悪寒し、全身汗ばみて悪寒し、忍ぶべからざる者、白虎加人参湯を服し、一回分にて癒えしことあり。
(荒木性次氏、古方薬嚢)
(二) 夜尿症
一〇歳の少年。毎夜遺尿をするという。体格、栄養、血色ともに普通である。床につく前にのどが乾くといって、水をがぶがぶのみ、どうしてもやめられないという母親の言葉にヒントを得て、白虎加人参湯を用いたところ、口渇がやみ、遺尿も治った。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)
(三) 感冒
一月一五日、発病後五日目、葛根湯・小柴胡湯加石膏・小柴胡湯合白虎加人参湯を服用したが好転せず、朝四時苦しさのため目をさます。非常にのどが渇き、コップ一杯の水を一口にのみほす。心臓部が苦しい。熱はまだ四〇度二分に昇っている。汗は顔といわず、からだといわず、沸々として流れ出て、しかも背中は水中にひたっているようにゾクゾクと寒い。心下は痞硬して苦しく、鳩尾(みぞおち)から臍にかけて盛り上がったような自覚があり苦しい。朝五時、夜明けを待ちきれず、奥田先生に電話をかけた。胸の中が何ともいえず苦しく、てんてん反側する。八時、熱は依然として三九度七分、ただのかぜか、チフスか、敗血症かと心は迷い乱れた。
一〇時、奥田先生がおいでになった。脈洪大・煩渇自汗・背悪寒・心下痞硬等があった。
まさきくこれは三陽の合病、白虎加人参湯証に間違いなしと、精診の後診断を下された。
背微悪寒は、微は幽微の微で、身体の深い所から出てくる悪寒と考えるべきだとのお話。同方を服用して一時間、まず悪寒・心下痞硬は消退し、背中は温まり、みぞおちが軽くなってきた。三時半には体温も三七度五分に下がり、すべての症状が拭うがこどく消え去り、食欲が出て快く眠れた。
(藤平健氏、漢方の臨床、一巻四号)
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
66.白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) 傷寒論
知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参3.0
(傷寒論)
○傷寒,若吐若下後、七八j日不解,熱結在裏、表裏倶熱時々悪風, 大渇,舌上乾燥而煩欲飲水数升者,本方主之(太陽下)
○傷寒無大熱,口燥渇,心煩,背微悪寒者,本方主之(太陽)
○傷寒脉浮、発熱無汗,其表不解,不可与白虎湯,渇欲飲水、無表証者,本方主之(太陽)
○服桂枝湯,大汗出後,大煩渇不解,脉洪大者,本方主之(太陽)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
むやみに咽喉がかわいて,水を欲しがるもの,あるいは熱感の劇しいもの。
本方は体内水分が著しく不足するため、むやみに咽喉がかわき,しかも冷水を欲しがる症状,例えば糖尿病の初期で未だ利尿障害が著しくない時期に用いられる。八味丸適応症状では口渇は前者程でもなく,且つ尿量減少もしくは増大が著明となる。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
(白虎湯) 発熱して口渇があって水をのみたがり,煩躁したり,反対に身体が重くねがえりしにくくなり、自たに汗が出る。口,舌が乾燥して舌に白苔を生じ,食物の味がわからなくなる。また腹が張ったり,顔に垢がついてきたなくなったり,譫語や尿失禁をすることがある。
○白虎湯証に準じ,表裏の熱甚だしく,体液の欠乏の微候を呈して,口舌が乾燥し,煩渇して大いに水を飲みたがるものである。大便は硬く,尿利は増加し,背部に悪風(風にあたると寒けがする)があり時に発汗のひどく多いものがある。
方輿輗 「白虎加人参湯の正証は,汗じたじたと出て,微悪寒ありながら,身は熱して大渇引飲(ひどくのどがかわいて水を大量にのむ)するものなり,愚案ずるに,凡そ白虎を与うべき症ならば脈長洪であるべきに,暍(日射病)では却って虚微の状多し。是れ暍の傷寒と異なる所なり」といっている。
〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○私の経験では白虎湯や白虎加人参湯を与えてよい患者の舌には厚い白苔のかかることは少い。苔があまりなくて,乾燥している事が多い。舌に白い厚い苔があって,口渇のある場合には,この苔が湿っている時はなお更のこと,乾いていても,うっかり白虎湯のような石膏剤は用いないがよい。これを与えると食欲不振,悪心などを起すものがある。これには半夏瀉心湯や黄連解毒湯の証が多い。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
(白虎湯) 本方は身熱,悪熱,煩熱等と称する熱症状に用いて解熱させる効がある。この場合脈は浮滑数乃至洪大で口中乾燥,口渇がある。身熱,悪熱,煩熱等と称する症状は自覚的に身体灼熱感があって苦しく,通常悪寒を伴わず,他覚的にも病人の皮膚の掌に明てると一種灼熱感があるものである。この熱状は感冒,肺炎,麻疹その他諸種の熱性伝染病に現われる。この熱状で便秘し,燥屎を形成し,譫語を発する場合は大承気湯を用いるべきである。本方は病状未だ大承気湯を用いるべきに至らない場合に用いる。本方の薬物中,知母と石膏が主として清熱に働く,粳米は栄養剤で高熱による消耗を補う。甘草は調和剤で知母と石膏の協力を強化するものと考えられる。本方の応用としては感冒,肺炎,その他の熱性伝染病である。また皮膚病で瘙痒感の甚しい場合に用いて効がある。
(白虎加人参湯) これは白虎湯の証で,体赤の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い,口渇を治する力が増強する。本方の応用は諸熱病の他に日射病,糖尿病の初期で未だ甚しく衰弱しない者,精神錯乱して大声,妄語,狂走,眼中充血し,大渇引飲する者等である。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成) 白虎湯に人参を加えたもので此処方は頻用する。前に述べた白虎湯証の熱によって津液枯涸したものに対し人参を以て滋潤し血虚を補うのが本方である。
運用 1. 熱症状と渇を呈するもの
熱は熱発でもよい。体温計で測って体温が上昇していなくても漢方的熱症状でもよい。即ち口渇もその1つだし,陽脉(洪,大,滑,数等)熱感,身熱,心煩,煩躁,小便赤等のどれかが組合されておれば熱症状と判断できる。その中で最も主要なのは脉洪大,煩渇とは煩しい程劇しい口渇を覚えることをいう。「桂枝湯を服し,大いに汗出でて後,大いに煩渇し解せず,脉洪大なるものは白虎加人参湯之を主る。」(傷寒論 太陽病上)発汗過多のため胃内の水分が欠乏し胃熱を帯びて煩渇するというのである。「傷寒若くは吐し,若くは下して後七・八日解せず,熱結んで裏に在り,表裏倶に熱し,時々悪風,大いに渇し,舌上乾燥して煩し,水数升を飲まんと欲するものは白虎加人参湯之を主る。」(同太陽病下)熱結在裏が本で表裏倶に熱し大渇するのが狙いである。「傷寒,大熱無く,口燥渇,心煩,背微しく悪寒するものは白浜加人参湯之を主る。」(同右)この心煩は傷寒に続けて考えて行くべきもので,傷寒により寒が体内に侵入し,腎に迫り津液を亡わしめると共に腎虚により心熱を生じ心煩を起させる。一方熱は胃にも入り,亡津液と共に口燥渇を起す原因になる。ただ胃熱だけなら口渇だが津液が欠乏しているから燥が起るのでそれを人参が治すことになる。背微悪寒は陽虚ではなく内熱による虚燥のために起ったのだというのが定説のようだ。恐らくその通りであろう。附子湯の背悪寒と比べて考うべきは矢張り腎の虚寒である。全身の悪寒ではなくただ背に限定されているのは背の膀胱経を考えたい。即ち腎が症状として膀胱経に現われたと見たいのである。痰飲の所にも心下に留飲があると背部で手大の範囲に寒冷が起るというが,之を単に胃内だけの問題でなく腎を併せ考うべきであろう。その他当帰建中湯の痛引腰背なども傍証になるが,要するに背と腎膀胱とに一定の関係があると思われるのである。(中略)
太陽の部位即ち表に原因としての熱邪が加わったものを暍と称する。然しこの熱は表にばかり留まらずに裏に侵入して行き,表裏倶に熱する状態になる。表部位の症状として汗出があるが之は陽明病の汗出や三陽合病白虎湯の自汗出と同じく実は裏熱によるものである。熱によって血傷られ汗出も悪寒も起る。身熱は部位は表でも深い所に在り裏に属する部位で身熱と云えば胃熱によって起るものである。汗出悪寒というと太陽病らしいが太陽病には身熱や渇はなく,此等は凡て裏熱症状である。以上各条の症状を拾上げると表症状としては汗出,悪寒,時々悪風,背微悪寒などがあるが,此等は実は裏の変化に版って起ったもので,裏の変化は胃熱,心熱が主で渇,口乾舌燥,身熱などとして現われている。以上の適応証に基いて本方を応用する対象になるのは熱病,例えば流感,肺炎,麻疹,日射病等で脉洪大,煩渇,下口唇鮮紅色乾燥,煩躁などのあるもの,糖尿病で脉洪大,煩渇,尿利に著しい増減のないもの,皮膚病で痒みの劇しいもの,矢張り脉大口渇を伴うことが多い。然し口渇に拘泥せずとも瘡面が充血性,熱感があるなどでも宜い。分俸は不定で,乾燥性のこともあり,湿潤性のこともある。白虎加桂枝湯とは口渇の程度で区別し得ることが多い。専門的には桂枝,人参,の性能,作用点などの相違を考えて使分くべきである。(後略)
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
熱症状と渇が級症状で,煩渇または口舌乾燥し,水数升を飲みつかさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。脈は多くは洪大で,大便硬く,腹部は大体が軟かで,心下痞硬し,表証としての汗出で,悪寒,背寒,悪寒等があり,腹満,口辺の麻痺,四肢疼重,尿利頻数等のあるもの。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は白虎湯の証にして,胃中の津液乏くなりて,大煩渇を発する者を治す。故に大汗出の後か,誤下の後に用ゆ,白虎に比すれば少し裏面の薬なり,是れを以て表証あれば用ゆべからず。
『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
次は白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)です。出典は『傷寒論』で、白虎湯方中に人参を加えたものです。
この薬方は白虎湯の証、つまり三陽の合病で邪が表裏にまたがっているために発熱、口渇、煩躁、自然に起こる発汗、腹満などがあり、消化器管中の分泌液が欠乏しているために大いに劇しい口の渇きを起こすものを治す薬方であります。したがって大いに汗を出したあととか、誤って下したために体液が欠乏したものに用いるわけであります。この理由で表症すなわち熱、頭痛等の表の状態だけのあるものに用いる薬ではないということです。
【副作用】
重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
理由
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
処置方法
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。
その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 瘙痒、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されているため。
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。
肝臓:肝機能異常(AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等
理由
本剤によると思われるAST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等の肝機能異常が報告されているため。
処置方法
原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等
理由
本剤には石膏(セッコウ)・地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、
食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等があらわれるおそれがある。
また、本剤によると 思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等
理由
本剤には石膏(セッコウ)・地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、
食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等があらわれるおそれがある。
また、本剤によると 思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。