健康情報: 烏薬順気散(うやくじゅんきさん) の 効能・効果 と 副作用

2015年2月17日火曜日

烏薬順気散(うやくじゅんきさん) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.642 脳溢血による手足疼痛・シビレ感・顔面神経麻痺・五十肩
 
5 烏薬順気散(うやくじゅんきさん) 〔和剤局方〕
 烏薬・陳皮・白強・麻黄・川芎・桔梗 各二・五 乾姜・枳殻 各二・〇 白芷・甘草 各一・五

 脳溢血で、手足骨節の疼痛、言語障害、筋脈引きつり痛み、肩および上肢の疼痛、運動障害、シビレ感などを訴え、脚弱、歩行困難のものを治す。
 脳溢血による手足疼痛・手足シビレ感・肩臂疼痛・四十腕・五十肩・顔面神経麻痺・脚気などに応用される。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
烏薬順気散(うやくじゅんきさん) [和剤局方]

【方意】 気滞による四肢麻痺・疼痛・言語障害・歩行困難等のあるもの。時に表の寒証を伴う。
《太陰病から少陽病.虚実中間証》

【自他覚症状の病態分類】

気滞 表の寒証


主証 ◎四肢麻痺
◎顔面麻痺
◎言語障害
◎歩行困難






客証  目眩
 肩背強急
 四肢痛
 心下痞
 抑鬱気分


 頭痛
 悪寒
 発熱
 


【脈候】 沈で力あり。

【舌候】 

【腹候】

【病位・虚実】 寒証にも熱証にも偏らず、陰陽移行期の太陰病気を中心に用いる。気滞という病態は陽証よりも陰証に寄っている。虚実の偏りも少ない。
【構成生薬】 烏薬2.5 陳皮2.5 白姜蚕2.5 乾姜2.5 麻黄2.5 川芎2.5 桔梗2.5 枳殻2.0 
        白芷1.5 甘草1.5

【方解】 烏薬・陳皮は温性の抗気滞作用があり、枳殻もこれに協力する。更に白姜蚕の鎮痙作用、川芎の駆瘀血作用・抗気滞作用、麻黄・白芷の中枢神経興奮作用、桔梗の降気作用が組合わされて、気滞より派生する麻痺・言語障害・歩行困難・肩背強急等を治す。大熱薬の乾姜は機能亢進に役立ち、甘草は諸薬を調整する。一方、麻黄・白芷・乾姜は表の寒証にも有効に作用する。

【方意の幅および応用】
 A 気滞:四肢麻痺・疼痛・言語障害・歩行困難等を目標にする。
   脳卒中による四肢疼痛、四肢しびれ、肩臂疼痛、肩関節周囲炎、顔面神経麻痺、脚気

【参考】 * しびれ・麻痺を目標にする。風に当たって麻痺感のあるもの、手の使いすぎによるしびれにも良い。
*発病の初期に用い、気力衰憊して意識混濁のある者には適応がない。羗活・風防の駆風薬や、附子を華加えると更に良い。

 本方は気のめぐりを良くして、気の鬱滞によって起こる四肢の疼痛、麻痺、運動障害などを治する目的で用いる。虚証で脈の微弱なものには用いない。
 『餐英館療治雑話』の烏薬順気散の項には「当今、肩背の痛んで手臂麻痺する証には気に属する者が甚だ多い。肩背が張って麻痺ひ、或いは心下がつかえて気ののびない証は、皆七情の病で、この方で著効をとる。或いはこれに羗活、防風などの風薬を加えたり、少し附子を加えて用いると更に良い。この頃の病人には、気滞と肝鬱に目をつけよというのは、このことである。またはっきり気滞の徴候が見えなくても、難治のものにはこの方を用いてみると良い。婦人で背から腕にかけてしびれて痛むというものには、なおさらこの方の証が多い」と述べている。
 顔面神経麻痺で、葛根湯を用いて効なく、この方で著効を得たことがある。寒冷にあって口眼喎斜を起こしたというところを目標とした。
 『梧竹楼方函口訣』には「烏薬順気散は中風の初起で、頭痛、悪寒、発熱、口眼喎斜、半身不随等の症状があって、一通り中風の初起の表症のある者に用いる主剤である。わが家では中風の常用方である。この方ど人参順気散はいずれも表症のあるものに用いる。しかし言語障害があり、意識もぼんやりとしているようなものには遠慮するが良い。それよりも一等軽いところに用いる。雑病一切気のめぐりが悪く、四肢がしびれ或いは首が回りかね、或いは口がゆがみ、或いは歩行する時に、足の工合が悪いものなどに用いる。また足をねじり或いは床を踏みはずし、或いは重い荷物を持って腰脚などをぎっくりと筋を違え、それが原因で痛むものなどによくきく」とある。
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 638

 この方は気のめぐりを良くする方剤で、気のめぐりの悪いために起こる四肢のしびれ、痛みなどに良い。そこで俗にいうキックリ疝気や足のくじきに用いる。足を踏みはずしたり、足をくじいたり、重い荷物を持ち上げた拍子に、腰の筋を違えたりして痛む場合に良い。たま寝違えて首の回らないもの、また赤ん坊に手枕をさせたために、肘が冷えて痛むものなどにも良い。また『万病回春』では烏薬順気散に木瓜を加えて回首散と名づけて、肩がつまって、首の回らないものに用いている。また脳出血で、手足がしびれたり、痛んだりするものにも用いる。
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 198

 中年をすぎた婦人で、手、背、大腿などにしびれ感を訴えるものがある。高血圧症も、動脈硬化症もなく、しびれの原因が不明のことが多い。このような場合に、更年期障害の1つの徴候として、このしびれのくることがあるが、更年期に関係のないものもある。
 このしびれ感は、そのまま放置しておいても、増悪することは少なく、生命の危険もないが、治りにくいものである。これには烏薬順気散の効くものがある。古人は、気滞のためのしびれだから、気のめぐりを良くすれば良いといっている。
 また手を使いすぎたためのしびれにも良いことがある。
大塚敬節 『漢方の臨床』 7・9・59


『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
p.32
 〔3〕また興味深い例として次のようなことを聞いた。
 或る知人の薬局に来ている患者さんの話であるが、桂枝茯苓丸加大黄をのませたら、手足が動かなくなったので診てほしいと言ってきた。診ると意識の障害はないが、言語障害と運動麻痺を来たしている。おそらく血栓を生じたものらしい。この人は従来、リウマチを患っていた。月経不順と便秘があり、顔の色も悪く、凍傷がひどいので、同じ症状の友人が大変きれいになり、月経も順調になったので、同じ薬を欲しいと言ってきたそうである。瘀血の血栓もあるが、桂枝茯苓丸によって急に血流が良くなり、血栓を生台信移英選飛はないかと思う。この患者は、烏薬順気散を服用させ、二日でほとんどよくなり、一週間つづけて全く平常通りとなった。

○烏薬順気散
 烏薬・陳皮・白僵蚕・麻黄・川芎・桔梗・乾姜・枳殻・白芷・甘草
 気の滞りによって生じる四肢の痛みやしびれ、運動、言語障害、麻痺などに対して用いる薬方であり、主薬は烏薬で、枳殻、陳皮などにも滞った気を循(めぐ)らす作用があるので、この方名がある。


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊

p.35
第六 理気の剤(二二方)
五三 烏薬順気散…………脳溢血の四肢痛、五十肩、顔面神経麻痺

理気の剤
方名及び主治 一八 烏薬順気散(ウヤクジュンキサン) 和剤局方 諸風門
○ 男子婦人一切の風気、攻注、四肢骨節疼痛、遍身頑麻、頭目旋暈するを治す。及び癰瘓、語言蹇渋、筋脈拘攣を療す。又脚気歩履艱難、脚膝軟弱、婦人の血風、老人冷気上攻し、胸臆両脇刺痛、心腹膨脹、吐瀉腸鳴を治す。

処方及び薬能烏薬 陳皮 強蚕 乾姜 麻黄 川芎 桔梗各二・五 枳殻 白芷 甘草各一・五
 麻黄、川芎=表気を順らし、遍身麻痺を治す。
 烏薬、陳皮=裏気を順らし、語言蹇渋を治す。
 白芷、強蚕=面部の気を順らし、口眼喎斜を治す。
 甘草は肺気を緩くし、桔梗は気の上逆を下し、乾姜は滞気を順らす。
 
解説及び応用○ 此方は中風の症で、四肢骨節の疼痛、言語障害があり、筋脈痛み引きつり、肩及び上肢の疼痛、運動障害のあるもの、シビレ感あるもの等に、気を順らす目的を以て用いる。風に当りて麻痺感あるものにもよい。

応用
 ① 脳溢血の四肢疼痛 
 ② 肩臂疼痛、五十肩、
 ③ シビレ感、脚気、
 ④ 顔面神経麻痺。



『漢方処方 応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
11.烏薬順気散(うやくじゅんきさん) (和剤局方)
 麻黄,烏薬,陳皮各2.5,川芎,白彊蚕,白芷,枳殻,桔梗各2.0,乾姜,甘草,大棗,乾生姜各1.0

目標〕 表証があって頭痛,発熱,悪寒を伴う四肢麻痺,半身不随,顔面神経麻痺 などに用いる.
 このとき,あるいは四肢のしびれ感,頸筋の拘攣による頭首廻転不能(首がまわらない),口のひきつれ,言語障害 などを呈することが多い.
また 歩行するのに何となく足もとの具合がわるいということもある.

説明〕 以上のような症状は,脳卒中の初期などに多くおこるもので,百々鳩窓は,軽い中風には専らこの方を用いる といっている.ただ意識障害のあるような重症には用いられない とものべている.
 また 同じく梧竹楼方函口訣で,この方は一切の気滞による四肢麻痺によい ともいっている.
 衆方規矩には,その他 脚気,婦人の血風(瘀血性の麻痺),老人の冷気(新陳代謝が低下したための厥冷など)にもよいと記してある.

応用〕 脳溢血,脳軟化症,その他の麻痺,脚気,老化現象 など.



『衆方規矩解説(11)』
日本東洋医学会評議員 内炭 精一
中風門(一)
 本日は「中風門に載っている処方を五つ解説いたします。「中風」とは王安道の『医経溯洄集』の中風篇によりますと、「人が急に倒れてあるいは偏枯(半身不随)し、あるいは四肢(手足)が上にあがらない、あるいは意識障害を起こして人を知らない(人事不省になる)。そしてあるいは死亡し、あるいは死なないものがある。これを世に中風と呼んでいる」とあり、また医学の書物も中風として治療しております。この説が中風病の一般的概念といえます。
 中風の原因は、直接原因として、内経、張仲景、孫思邈らは天の風としております。内経は「風は百病の初めである」といい、「風は百病の長である」といっております。これが変化するとすなわち他の病気となる、一定の方向はない、またよく進んでしばしば変化する、また風が人をそこなうのは、あるいは悪寒発熱をなし、あるいは熱中をなし、あるいは寒中をなし、あるいは癘風を起こし、あるいは偏枯を起こし、あるいは感冒を起こすのであります。
 ここで熱中とは風によるものものの病症で、熱によってあたったものであります。風気が陽明とともに陰に入り、脈をめぐって上は目の内皆に至り、もしその人が肥えていると風気は外に洩れることができないので、熱中の状態を起こして目は黄色になります。考えてみますと、熱が勝つと風が動き、甚だしい場合は風の毒が上部を攻めて頭や顔が腫れて痒く、痰や涎(唾液)がいっぱいに塞がって胸部が煩わしく熱し、大小便が秘結し、下は腰や足に注いで、腫れ痛んで、皮膚病を生ずるのであります。かかる状態が久しく続くと半身不随を起こします。
 「寒中」とは、「寒気が中にあたるなり」とあり、ここでは風傷の寒によってあたるものであります「癘風」は、簡略にいうと癩病のことです。以上のごとく内経、張仲景、孫思邈などは、いわゆる中風は直ちに天の風邪にあたってこの病症を至すものとしております。
 金代の劉河間の著わした『原病式』では、「中風内寒は五志七情(精神状態や感情)の障害によって火を生じ、火よりして自ら風化を表わして風を生じて同様の状態になるのである」と帽かれ、また李東垣の説では、「中風の諸症は元気の虚から生ずる、故に年又四〇歳以上ではこの症が多い、 間々壮健と見える人にこの症のあるものは、必ずその人は肥満して色白で元気の虚弱の人に発生するものである」としております。
 朱丹渓は、住んでいる土地の方角で分類して説いております。すなわち「中国の西北の地は海抜が高くて湿気が少なく、寒い風が常に吹いている。故に西北に住んでいる人で中風を患うものは、外から来た天の風による真の中風症である。東南の二方集の土地は低く湿気が多く、寒い風も少なくない。故に東南に住む人の中風を病むのは、湿から痰を生じ、痰から熱を生じ、熱より自然に風が生じて中風症となる」と説明しております。
 河間は火をもととして、丹渓は中風の一部は湿痰をもととして、その風化により発症すると説いております。元の昆山王安道の『溯洄集』に至って初めて中風の説を明らかに区別しております。それによりますと、「中風は風にあたったために起こった病症である。内経、張仲景、孫思邈の、いわゆる天の風邪にあたって発病したものは真の中風、すなわち真中風である。かの河間、東垣、丹渓の説のごときは真中風ではない。この病状は風症に似ているといっても、実は風症ではないものである。どうして火熱や気虚や湿痰をもととして起こったものを中風と称することがあろうか。河間、東垣、丹渓は、その症状の類似をもって中風と説いている。故にそのいっていることは昔の人と異なっており、後の人を疑わしくて決断できにくくせしめている。天の風によるものは真中風であり、気により、あるいは湿によるものは類中風であり、中風ではないのである」といいきっております。
 次に中風病の軽い重いについて申しますと、『評熱論』にいっております。『病邪の湊(あつ)まるところはその気が必ず虚している。故に虚のあるところは各自によって異なっていて、同じようではないから、病むところもまた同じではない。血気が不足して皮膚の毛穴の防禦が衰えて守らない時は、邪気がここに入り、(一)経絡臓腑がまだやぶれていないものは中風の表病であって軽症で治しやすい。その病症は、言葉は変わりなく、精神は恍惚としていないで、臓は健在で内に守っているからである」。また『熱病篇』には、「(二)半身不随は、身体を左右に分けると、その一方だけの手足が役立たないで痛む。しかし言葉は変わらず話せるし、精神状態も乱れない。以上の状態は病が皮膚のやや深いところにあるのである」といっております。「(三)病がすでに経絡にあるもの朝持:栄衛の虚によるのであって、その病症はやや重症であって、長日月を経て治るものである。 (四)邪気が進んで臓腑に入るものは、臓の活力の虚に属するものである。多くは治癒しない。 (五)けれども邪気の攻撃を腑に受けたものは重症ではあるが、臓の病症に比べれば軽症である」。
 一体人の生命を保つ所以のものは気血であります。気血のよって生ずる源は胃の気にあります。『玉函篇』に、「胃な水穀気血の海である」といっております。胃の気がまだ虚していないものは、たとえ栄衛気血が衰えることがあっても、治療すれば治癒させることができます。中風の直接原因として虚をあげて、そのもとであるとするのもそれは胃の虚である。胃は五行説では土に属して四肢を司っております。風は同じく木の気で、好んで土を剋し、かつ風化し、淫動して草や木の枝葉を傷つけます。故に中気が中で衰え、栄衛の気が経絡や四肢末端において少なくなると、これに感じて半身不随やしびれなど、また四肢が上にあがらない中風のものが多いのであります。たいてい中風の病で中気がもともと弱く、栄衛が調和せず、気や痰がその間に停滞するものは外来の風邪を挟んで、この病症を発するのであります。こういうことで、主として補剤を投与すると多く効果果あげるものであります。しかし標本の意味があります。
 その虚がいまだひどくなく、風痰のひどいものには全蝎(ゼンカツ)、天南星(テンナンショウ)の類をもって治療し、あるいは気滞や瘀血のひどいものには紅花(コウカ)、枳殻(キコク)、烏薬(ウヤク)、香附子(コウブシ)などの類をもってし、あるいは火熱のひどいものは黄芩(オウゴン)、黄連(オウレン)、大黄(ダイオウ)の類をもってし、あるいは麻黄(マオウ)、羗活(キョウカツ)の類をもって風邪を発散して攻撃することがあるといっても、これは急なる時は表を治療するの意味であって、その胃の気がひどく虚していないからできることであります。しかし世に虚して補うものが多くて、攻撃するものは千に一、二しかありません。中風の病気は難治であって、医者の眉をしかめさせるのはどうしてであろうか。病のことごとくがそのもとが虚証であるためであります。
 「補は行ないがたく瀉は行ないやすい」、補瀉の間はその元近く、区別することが困難であります。一般の医者は薬をもって病状に合わせて施します。故にややもすれば虚実を誤って補瀉に反し、病人を死に陥らしめます。「これ実に不仁のきわみで、必ず天のわざわいがその身に及ぶであろう。謹まざるべけんや」とあります。
 次に中風に類似した言葉について述べます。体が冷えている中風を中気といい、体が温暖なものを中風としております。治療上の問題としてはたとえば真中風であっても、心下もしくは左右の脇下などに積癖、痞塊などのしこりがあり、その証に適応した煎薬のほかに熊参丸(ユウジンガン)または熊姜湯(ユウキョウトウ)の類を兼用しなさい。そうすると積癖が開いて、すなわち蘇るものであります。病を治療するのに原因を詳細に追及して治療するのがよいのはもちろんですが、急卒の病人には原因を放置して症状を治療するのがよい場合もあります。
 痰積にしても痰にしても疝にしても、それにはかまわず熊胆(ユウタン)で心下をおすべきであります。あるいは白通加猪胆汁湯(ビャクツウカチョタンジュウトウ)、四逆加猪胆汁湯(シギャクカチョタンジュウトウ)などがよい場合があるので、よく心得ておくべきであります。お面まりの三生飲(サンショウイン)(天南星、烏頭(ウズ)、附子(ブシ)、木香(モッコウ)、生姜(ショウキョウ)の五味)を必定としません。それが生きた治療というものであります。中風で卒倒していびきをかいて寝ているように見えるものは必ず死にます。「硬く辞退して治療してはいけない」とありますが、昔は死ぬものと診断すると手をつけずに辞退して帰ったもので、現在とは考え方が異なっています。
 和田東郭の口訣に「中風半身不随の病症で、肩の支え骨が離れているようになっているものは治らない。また手を握って開かないものは治らない。開いて握ることのでできるものは治る」といっております。この説は岡本一抱子が数十人の患者を扱って治療を試みたが間違いなかったといっております。手を握って開かぬ病人を見たならば所詮その手は役に立たないであろうと、病家に告げてから治療すべきであるといっております。
 さて肝積に属するものは、左脇に必ず拘攣(ひきつれ)あるいは凝りがあります。按圧すれば痛みます。実証のものは大柴胡湯(ダイサイコトウ)あるいは平肝流気飲(ヘイカンリュウキイン)(当帰、山梔子(サンシシ)、香附子、白芍薬(ビャクシャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)、橘皮(キッピ)、黄連、青皮(セイヒ)、川芎(センキュウ)、厚朴(コウボク)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)、呉茱萸(ゴシュユ)に生姜を入れて煎じる)、虚するものは抑肝散加芍薬(ヨクカンサンカシャクヤク)が効果があります。丹渓が「左にあるのを死血とし、右にあるのを気虚痰を挟む」といっているが、当てにならないことであります。王肯堂もどうも丹渓の説は徒撰であるといっております。この説に拘わってはなりません。上腹部から胸中にかけて胸やけがして数年間治らないものは、中気を発するというのは加藤謙斎の説でありますが、これは相違ない事実であるといっております。

■鳥薬順気散
 次に中風に用いられる方剤について申しあげます。最初は烏薬順気散(ウヤクジュンキサン)について解説いたします。本文にあります「卒中風」はにわかに起った中風のこと、「手足かなわず」は手足が自由に動かせないこと、「言語なえしぶり」は言葉がすべらかにしゃべれなく、とつとつとゆっくりしゃべることであります。「手足の骨ふし」とは手足の骨や関節のこと、「肩かいな」は肩や上腕のこと、「脚気」は足の自由に動けないことで、今の beriberi ではありません。「婦人血風」は婦人に生じた皮膚の紅斑であります。「冷気」は身体処方の冷えをいっております。以上が中風の大体の症状でありますが、ほとんどの症状が気のめぐりが悪くなったものといえます。みな気の滞りによって起こってくると古人は考えたのであります。
 こんな場合には本方で風を去りながら気をめぐらすのであります。烏薬(ウヤク)、陳皮(チンピ)、彊蚕(キョウサン)などはもっぱら気をめぐらし、その中の彊蚕は風気のうっ滞を強く発散するもので、その他の薬味はみな風気を発散します。それ故気うつや気の停滞など、気のめぐりの悪いものには本方を基本の方剤と形新、気をめぐらす中心の薬剤として用いるのがよく、その後に本病の風を治療する方剤を用いるのがよいのであります。それ故、差し当たり気をめぐらす方剤が本方であります。
 気をめぐらす薬は、外へめぐらす、上へめぐる、下へめぐるというように、その筋をつけるところが上下内外の狂いができて平生と違い、外へ出る気が内へめぐり、内へめぐる内の気が外へ溢れるの類で、気をめぐらすのは総体にいえばそこが目的であります。故に陳皮をもって胸の気を開き、彊蚕で肝木のうっ滞した気を開き、癇病にも用います。乾姜(カンキョウ)は脾胃の陽気をめぐらし、麻黄(マオウ)は表気のうっ滞をもらし、川芎(センキュウ)、白芷(ビヤクシ)は血分の気のうっ滞を発し、桔梗(キキョウ)は気を開き、甘草(カンゾウ)は中焦の気をめぐらし、枳殻(キコク)は腹内の気の凝りを開きます。以上のように気を第一にめぐらす方剤でありますから、早いところで用いて痰の治まるようにすべきであります。風を治療する前に用いる方剤であって気をめぐらしておくのであります。
 気のうっ滞や不順にも種々の症状があるので、それに対するために次の加減が用意されております。本方を用いる病人に次の症状が添付場合には、この加減も必要であります。そこで本方の方後の加減について簡単に説明いたします。
 「寒熱頭痛には葱白(ソウハク)を加う」とあります。葱白は気を通じ、陽をめぐらす効果があるので、気滞の頭痛によいのであります。「身体のびかがみ成らざるには末して温酒にて調えのむ」。酒は薬力を打け、その効を上胸中に通じて、しかして結ばれた気を温めて散ずる効果があります。それが上に極まりますと、今度は下に下げる効果があります。
 「身かゆく掻いてあとの瘡となるには薄(薄荷(ハッカ))の煎じたる湯にて調え下す」。薄荷の煎汁で薬を煎じてもよく、薬を煎じる場合に薄荷を加えてもよいわけです。薄荷は皮膚の陰疹、瘰癧、瘡疥を治す効果があります。
 「中風一身ともに麻(しび)れば参(人参(ニンジン))、伽(白朮(ビャクジュツ)、斤(当帰(トウキ)、門(麦門冬(バクモンドウ))を加う」。気虚血虚を目標として痰を去り、胃を養うのであります。「口眼ゆがむに連(黄連(オウレン))、羗(羗活(キョウカツ))、芸(防風(ボウフウ))、荊(荊芥(ケイガイ))、瀝(竹瀝(チクレキ))、姜汁(キョウジュウ)加う」。これらの薬物はみな風を去るもので、熱をとります。竹瀝、姜汁は痰をとります。遍身痛まば斤(当帰)、官(肉桂(ニッケイ))、乳(乳香(ニュウコウ)、没(没薬(モツヤク))を加う」。これらはみな血をめぐらす薬物であって、逆にいえばここの症状は血分の滞りであります。「臂痛むには羗(羗活)、芸(防風)、官(肉桂)、苓(茯苓(ブクリョウ))、蘇(紫蘇(シソ))を加う」。婦人の腕や臂の痛む類は気分、気うつによるのであって、この加減は発表を兼ねるのであります。「背心(むね)痛むには行気香蘇散(コウキコウソサン)を合して蒼(蒼朮(ソウジュツ))、守(半夏(ハンゲ))、苓(茯苓)を加う」。気の滞る上に外邪と痰とがあり、故に背の真中が痛むのであります。「脚膝うそばれば膝(牛膝(ゴシツ)、揺(独活(ドッカツ))、佳(五加皮(ゴカヒ)を加う」。足の経がめぐらないものひな五加皮はぜひ用いるものであり、効果の著しいものであります。「腰痛むには朴(朴仲(トチュウ))、膝(牛膝)、茴(茴香(ウイキョウ))を加う」。杜仲は肝の虚、角茴(カクウイ)は腎の陽気を増すものであります。
 「四肢ひえ痺れるには附(附子(ブシ)、官(肉桂)を加う」。これは陽虚であります。「婦人の血風には芸(防風)、荷(薄荷)、荊(荊芥)を加う」。俗にいうポロボロができるものであります。血分の風気を発散してやればよいのであります。
 「胸はれみちるには実(枳実(キジツ))、莪(莪朮(ガジュツ))を加う。これは痰と気との滞りであります。「虚汗には麻黄(マオウ)を去り、芪(黄耆(オウギ))を加う」。黄耆で陽虚を補うのであります。潮熱には永(乾姜)を去りて芩(黄芩(オウゴン))を加う」。説明の要もないと思います。以上下は略します。
 烏薬順気散は、風気が四肢に攻め注いで骨や関節が痛み、四肢や胴体がしびれて手足を上げることができず、言葉を発しにくく渋って、筋肉がひきしまり、あるいは半身不随を治す剤であります。こんな病証にはまずこの薬剤を与えて気をめぐらし、その後に証に従って風の薬剤を投写するのがよいのであります。思うに風を治療するには、まず気を治め、気がめぐると痰がなくなります。ようやくにその風を治めると、効果をあげることが容易であります。気滞、気うつ、肩背がしびれ痛むなどのものは、七情の気によるものであります。このようなものには、この剤を用いて気を治めてやればよいのであります。龔氏がいっております。「初めて風邪にあたり痺れたり痛んだりするものは風湿の気である」と。
 烏薬順気散は、風中初期に用いる薬剤であります。およそ気をめぐらす薬剤は、久しく用いることはできません。一応これらの方剤を用いて、気がめぐるときは他薬に変えて使用するのがよいので、順気が長期にわたるとかえって気を虚さしめてすり減らす結果となります。また虚証の人にもみだりに気をめぐらせてはならないのであります。ここは大切なところであります。



※医経溯洄集:いけいさくかいしゅう
※癘風(れいふう):麻風・大風・大麻風・大風悪疾などともいう。癩病。
※徒撰? 杜撰?
※朴(朴仲(トチュウ))? → 杜(杜仲(トチュウ))


『日東医誌』 Kampo Med Vol.64 No.4 227-230, 2013
続発性無月経に烏薬順気散が有効だった一例
吉野 鉄大   堀場 裕子  渡辺 賢治
Abstract
Japanese Kampo doctors usually understand amenorrhea as caused by oketsu (blood stasis) and kekkyo (blood insufficiency). In recent years, there have been a few case reports which describe patients treated only with prescriptions for junki function (the treatment of kiutsu or ki stasis). Our case was 37 year-old woman with amenorrhea from osteopathy manipulation a half year previously in London. Her usual menstruation had been normal. She had thoracic and sacral pain, joint click, epigastric pain, lower abdominal pain, hematuria and muscle stiffness but her usual daily living was not affected. No abnormality was noted with laboratory or imaging, or endocrinological tests. From a Kampo examination, she was diagnosed with hiesho (coldness) and kiutsu. We chose uyakujunkisan without white silkworm, with aconite root. Her arthralgia and hiesho im- proved one month later, and her menstruation re-started three months later. Uyakujunkisan is introduced in the Wazaikyokuho , and we believe this classical textbook indicates that this prescription can be used to treat amenorrhea. Ki abnormality is one of the most important complications of secondary amenorrhea and a pre- scription with junki function is important treatment option. Thus, in assessment of patients with amenorrhea, we feel it is important to focus on ki abnormality. Keywords: amenorrhea, uyakujunkisan, treatment of ki abnormality.

要旨
 症例は 3 7 歳の女性。半年前のオステオパシー施術後からの無月経を主訴に当院漢方クリニックを受診した。首か ら腰にかけて の背部痛,頸椎・肩・手・膝・ 足関節のクリック,筋肉のこわばりを伴ったが,日常生活は送れていた。発病前の月経周期には 異常なく,産婦人科,整形外科では異常所見を認めなかった。中間証,寒証で疼痛に伴う気うつによる症状と捉え, 鳥薬順気散料去白姜蚕加附子(煎じ)を開始し た。1ヵ月後に関節症状や冷えが軽快 し,3ヵ月後に月経が再開した。烏 薬順気散の原典にある婦人血風は,古典の記載から無月経と解釈しうる。漢方医学において,無月経に対する気うつの関与が指摘されてはいるが,一般的には血の症状と考えられ,補血薬や駆瘀血薬を用いることが多い。続発性無月経の病態には血の異常だけでなく,気の異常が密接に関係しており,気剤 も治療の重要な選択肢となりうることが再確認された。
キーワード: 無月経,烏薬順気散,気剤,オステオパシー

緒言
 続発性無月経の原因は視床下部性が最も多く,その誘因は心理的ストレス,体重減少,過度の運動などが多い。ストレス存在下のホルモン動態は複雑で, 病態の解明は十分には行われていないが,心理的要因を目標にした漢方治療が有効な病態が含まれる可能性がある。漢方医学において無月経は一般的には血の症状と考えられ,補血薬や駆瘀血薬が用いられることが多い。気逆,気うつの関与も指摘はされているが,実際に過去の無月経に対する漢方治療の報告例は当帰芍薬散,桂枝茯苓丸,温経湯などが中心であり 1 ) ,気剤単剤による治験例は少ない 2 ) 。また, 烏薬順気散による続発性無月経の治療報告は見当たらない。 今回我々は気剤である烏薬順気散加減によりオステオパシー後の続発性無月経が改善した症例を経験したので報告する。

症例
 症例:3 7歳,女性
 主 訴:続発性無月経
 既往歴:アトピー性皮膚炎:3年前に仕事を辞め てから,初診時まで無治療で良好な状態をたもって いた
 家族歴:特記すべき事項なし
 生活歴:未婚,妊娠分娩歴なし。喫煙なし,機会飲酒,無月経になる前の月経周期は4 0日で5日間継続,経血量は正常であった。月経困難症の自覚はな かった
 現病歴: X -1年1 1月,英国ロンドンで オステオ パシーの施術を受けた後,首から腰にかけての背部痛が出現し,頸椎・肩・手・膝・足関節のクリック, 筋肉のこわばりを伴ったが日常生活は送ることができていた。施術直後の月経を最後に月経が停止した。 産婦人科,整形外科で内分泌機能を含む血液検査や画像で精査するも原因と考えられる異常所見を認めず,漢方治療を希望して X 年4月,当科を受診した。当科受診時までに無月経に対するホルモン治療歴はなかった。他に不眠,のどのつかえ,胸やけ, みぞおちのつかえ,腹部のはり,心窩部痛,気分の落ち込み,髪や皮膚のかさつき,全身の冷えを認めた。
 現症:身長1 5 8 cm ,体重4 8 kg (経過中の体重 減少は報告なし) ,血圧9 7 / 6 4 mmHg ,脈拍7 5回 / 分, 舌は紅,無苔で軽度の歯痕を認め,脈は沈かつ小。 腹力は中等度で,右臍傍部に瘀血の圧痛を認めた。
 経過:以上の結果から虚実中間証,寒証で,オステオパシー施術後の頸椎捻挫に伴う気うつが原因の無月経と考え,烏薬順気散料去白姜蚕加附子(煎 じ)を開始した。1ヵ月後,関節症状や冷えが軽快 し,3ヵ月後に月経が再開した。5ヵ月後,経過は 良好で通院を自己中断した。

 考察
 西洋医学的には続発性無月経の重症度はエストロ ゲン,プロゲステロン投与への反応性から第1度, 第2度に分類される。また原因により,視床下部性を含む中枢神経性7 0. 0%,他内分泌腺性1 0. 0%,卵巣性9. 4%,医原性4. 7%,子宮性3. 1%,全身消耗性疾患2. 8%に分類される 3 ) 。視床下部性無月経の誘因は減食過食,心理的ストレス,過度の運動などが多いが 4 ) ,これらのストレス存在下のホルモン動態は複雑で,単一のホルモンでの説明は難しい。疼痛刺激に関してはβ エンドルフィンの分泌を介して GnRH の分泌を抑制することが知られており,月経 周期異常を引き起こしうる 5 ) ため,本症例の無月経に疼痛刺激が関与していることも考えられる。一般的にはホルモン療法が選択されるが,一旦ホルモン療法を開始すると治療が長引き,治療を中止するタ イミングを見計らうのが困難である。そこで,疼痛に付随した心理的要因をも目標にした漢方治療が有効な症例が存在すると考えられる。
 烏薬順気散(烏薬,陳皮,桔梗,麻黄,白姜蚕, 川芎,乾姜,枳実,白芷,甘草,生姜)は,気の鬱滞が原因の四肢の疼痛,麻痺,運動障害などに使用される方剤で,『漢方診療医典』のむちうち症の項に「体力中等度のもので,初期に用いて奏効することがある。」と記載されている6)。本症例は,交通事故後の頸椎捻挫に伴う気うつのように7),オステオパシー後の頸椎捻挫に伴う気うつが病態の根本にあると考えて選択したが,近年の報告では本処方による無月経の治験例は見当たらない。漢方医学における無月経の病態概念については, 脾気虚,腎虚,血虚, 瘀血,気うつ,気逆などが言われている8) が,最近の治療報告例からみれば血の異常が中心とされているように考えられる。古医書においても李東垣は『蘭室秘蔵』において「婦人脾胃久しく虚し,或いは形羸し気血倶に衰えて経水断絶せしめ行かざるを致し」と述べ 9 ) ,蘆川桂洲は 『病名彙解』巻之五で「経水の閉じて通ぜざるなり。 病因,血滞に見えたり。」としている 10 ) 。 しかし香月牛山は『牛山活套』巻之下で「経閉の症は多くは気滞り血渋る故なり。室女寡婦に多なり。 先づ鬱気を開くべし。 」と述べ 1 1 ) , 『万病回春』巻之六経閉には「婦人壮盛,経閉者,此れ血実気滞, 専ら攻むに宜しきなり」と記載されており 1 2 ) ,無月経の病態において瘀血だけでなく気滞の重要性も指摘されている。今回の治験例から,血の異常だけでなく気の異常が無月経の病態に密接に関係していることが改めて示された。
 しかし香月牛山は『牛山活套』巻之下で「経閉の症は多くは気滞り血渋る故なり。室女寡婦に多なり。 先づ鬱気を開くべし。 」と述べ 11 ) , 『万病回春』巻之六経閉には「婦人壮盛,経閉者,此れ血実気滞,専ら攻むに宜しきなり」と記載されており 12 ) ,無月経の病態において瘀血だけでなく気滞の重要性も指摘されている。今回の治験例から,血の異常だけでなく気の異常が無月経の病態に密接に関係していることが改めて示された。
 烏薬順気散の原典である『太平恵民和剤局方』には「男子婦人,一切の風気攻疰,四肢骨節疼痛,遍身頑麻,頭目旋暈するを治す。及び癱瘓(中風,麻 痺,半身不随),語言蹇渋(失語),筋脈拘攣を療す。又脚気,歩履艱難,脚膝軟弱,婦人の血風,老人冷気上攻,胃臆両脇刺痛,心腹膨脹,吐瀉腸鳴を治す」とあり13),主として疼痛,麻痺,失語といった脳卒中に伴う症状が挙げられている。以下,ここに並ぶ「婦人の血風」が無月経と関係があるかどうかについて考察する。
 『漢方用語大辞典』と『病名彙解』のいずれの「血風」の項にも月経異常についての記載は見られ ないが, 『漢方用語大辞典』の「血風労」の項には 「女性で体が虚していて,外が風湿に傷られたり, 内に宿冷があったりして,風と血が相博ちて脈絡が阻滞し,月経が整わず,漸次労病となるものをさす。 症状としては月経不調,身体に痛みが走り,腹中が 硬く痛み,面 色は萎黄でやせてくる」と記載され14),同様に血風労で月経周期異常が見られるとの記載は 『婦人大全良方』巻之五 血風労方論第六にみられる。また同書巻之四,巻之六において, 「血風労」 以外にも「血風」に関連する記載として,血風肢体 骨節疼痛方論第一,血風白虎歴節走疰方論第二,血風癮疹瘙痒方論第三,血風頭痛方論第五,血風攻脾不食方論第七のそれぞれに付記される治験例では月経不順の症例が多数紹介されている15)。以上から無月経や月経不順は「血風労」 だけでなく,婦人の 「血風」の症状であることが考えられ,「婦人の血風」を条文に含む烏薬順気散は,その条文には直接の記載は無いが,無月経や月経不順に効果がある考えられる。
 他に「婦人の血風」という表現を条文中に含む処方で現在一般に広く使用されているものとして,同じ『和剤局方』に収載され頭痛や感冒に使用されることの多い川芎茶調散(川芎,荊芥,白芷, 羗活,甘草,細辛,防風,薄荷,細茶)16) があり,上述の 『婦人大全良方』巻之四 血風頭痛方論第五にも収載されている17)。また, 『漢方診療ハンドブック』 の川芎茶調散の項には「月経調節作用もありそうである」と記載 されており18) ,烏薬順気散同様に無月経や月経不順に応用できる可能性が示唆される。
 本症例はオステオパシー後の長引く関節痛と心理的ストレス,さらに冷えが要因となって続発性無月経をきたしたが,烏薬順気散により疼痛や冷えの軽減とともに心理的ストレスが除去されたことで月経が発来したものと考えられた。

結語
 無月経に対し烏薬順気散加減が奏功した一例を経験した。無月経の病態には血の異常だけでなく,気の異常が密接に関係しており,気剤も治療の選択肢となりうることが改めて示された。治療に当たる際には気の異常も考慮する必要がある。

附記
 烏薬順気散の集散地は以下の通りである。 烏薬(浙江省),陳皮(湖北省),麻黄(内蒙古), 桔梗(陜西省),枳実(浙江省),甘草(内蒙古),生姜(雲南省),附子(四川省),白芷(韓国),川芎 (北海道)


文献
1)石野尚吾: 【これからの漢方診療】漢方外来とそのあり方.産婦人科治療 8 2 : 3 4 4 ‐ 3 4 8 , 2 0 0 1
2)木村容子,佐藤弘:月経痛,月経周期異常に対する気剤による治療の試み 5症例の経験から.日本東洋医学雑誌 5 7 : 4 5 3 ‐ 4 5 8 , 2 0 0 6
3)倉智敬一:原発無月経の診断と治療.産婦人科治療 1 8 : 3 6 3 ‐ 3 7 4 , 1 9 6 9
4)中村幸雄,宮川勇生,石丸忠之他: 1 8 歳以下の続発性無月経に関するアンケート調査-第1度無月経と第2度無月経の比較を中心として.日産婦誌 5 1 : 7 5 5 ‐ 7 6 1 , 1 9 9 9
5)水沼英樹: 【メンタルヘルスとリプロダクション】ス トレスと生殖機能. HORMONE FRONTIER IN GYNE- COLOGY 1 5 : 1 0 5 ‐ 1 1 1 , 2 0 0 8
6)大塚敬節,矢数道明,清水藤太郎: 『漢方診療医典』 第6版. 1 9 7 ,南山堂,東京, 2 0 0 1
7)松村崇史,吉田祐文,八代忍,岩本卓二:漢方薬が有効であった交通事故後の外傷後ストレス障害の1例. 整形外科 5 3 : 1 3 1 7 ‐ 1 3 1 9 , 2 0 0 2
8)後山尚久:明日から使える漢方処方ガイド-産婦人科疾患.治療 8 5 : 9 3 ‐ 1 0 4 , 2 0 0 3
9)小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『蘭室秘蔵』巻 之四婦人門. 2 0 6 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 8 9
1 0 )大塚敬節,矢数道明編:近世漢方医学書集成 6 4 蘆川桂 洲『病名彙解』巻之五. 4 0 0 ,名著出版,東京, 1 9 8 1
1 1 )大塚敬節,矢数道明編:近世漢方医学書集成 6 1 香月牛 山(一) 『牛山活套』巻之下. 5 1 4 ,名著出版,東京, 1 9 8 1
1 2 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『万病回春』巻 之六 経閉. 2 2 1 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 9 1
1 3 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『増広太平恵民 和剤局方』続添諸局経験秘方. 3 8 ,エンタプライズ株 式会社,東京, 1 9 8 8
1 4 )創医会学術部: 『漢方用語大辞典』第三版. 3 0 3 ,燎原, 東京, 1 9 9 1
1 5 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成 『婦人大全良方』 . 5 3 ‐ 5 6 , 5 8 ‐ 6 0 , 7 3 ‐ 7 4 , 7 9 ‐ 8 1 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 8 9
1 6 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成『増広太平恵民 和剤局方』呉直閣増諸家名方. 5 1 ,エンタプライズ株式会社,東京, 1 9 8 8
1 7 )小曽戸洋,真柳誠:和刻漢籍医書集成 婦人大全良方. 1 9 8 9
1 8 )桑木崇秀: 『漢方診療ハンドブック』第3版(新版) . 2 2 5 ‐ 2 2 6 ,創元社,大阪, 1 9 9 5


『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
  (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

 次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
  〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換
   算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
   むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)  含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
  高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
消化器 吐き気、食欲不振、胃部不快感、腹痛


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような 症状の持続 又は増強が見られ た場合には、服用を中止し、 この文書を持って 医師、薬剤師又は登録販売者に相談するこ と
 下痢

4.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

5.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕



〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
 (4)胃腸の弱い人。
 (5)発汗傾向の著しい人。
 (6)高齢者。
   〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
 (7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
 (8)次の症状のある人。
  むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
 (9)次の診断を受けた人。
   高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
   〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

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