健康情報: 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) の 効能・効果 と 副作用

2013年9月17日火曜日

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
半夏 白朮 陳皮 茯苓各三 麦芽 天麻 生姜 神麹各二・ 黄耆 人参 沢瀉各一・五 黄柏 乾姜各一・
本 方は脾胃を補い、胃内停水を尿として導くのが目的である。「痰厥の頭痛」と主治にあるが、これは平素胃腸虚弱で、アトニー傾向のあるものが、外感や内傷等 によって胃内停水が毒性を帯び、所謂水毒となって逆上しその結果特有の発作性頭痛・眩暈を発するもので、本症の頭痛は多く眉稜骨より脳天の泉門部・天庭・ 百会穴の辺りに最も甚しく、足冷・嘔気を訴える。本症は呉茱萸湯症に似ているが、呉茱萸湯は本方證より更に激症で、本方は頭痛眩暈を主とし、呉茱萸湯は頭 痛・嘔吐を主とする。また本方は発作性の症状がなくても、脾胃虚弱者の食後に手足倦怠と嗜眠を訴えるものにも応用される。 方中の人参・黄耆・甘草・白朮 等は脾胃を補い、半夏・蒼朮・茯苓・陳皮等は脾湿を通利するとて胃内停水を利尿によって消導する。麦芽・神麹は脾胃を助け宿食を消化し、乾姜の辛熱を以て 脾胃の寒を去る。
以上の目標に従って、本方は頭痛・眩暈、慢性胃腸虚弱者の発作性頭痛・食後の嗜眠、手足倦怠を訴える者、低血圧者の頭痛・眩暈、或は胃腸虚弱者にみる虚證の高圧圧に発する諸症に応用される。


『漢方精撰百八方』
107.〔半夏白朮天麻湯〕(はんげびゃくじゅつてんまとう)
〔出典〕李東垣脾胃論

〔処方〕半夏、白朮、蒼朮、陳皮、茯苓 各3.0 天麻、紳麹、麦芽、生姜 各2.0 黄耆、人参、沢瀉 各1.5 黄柏、乾姜 各1.0

〔目標〕胃腸が弱くて冷え性の人が、しじゅう頭痛、眩暈(めまい)を訴え、時には発作性の激しい頭痛が起こり、その際は嘔吐を伴うことがある。食欲がなく、しばしば吐きけがあり、食事のあとで手足がだるくなって、眠くなる。夜、寝付きが悪いのに、朝、起きるのがだるく、或いは眠くて起きられない。また、天気が悪いと頭痛が起こることもある。
  脈は沈んで弱く、腹部は軟弱で、心下部に振水音をみとめ、或いは胃部にガスが停滞している。

〔かんどころ〕胃内停水があって、頭痛やめまいがする。食事のあと、手足がだるくなる。

〔応用〕胃アトニー症、胃下垂症、神経症、高血圧、低血圧症、常習性頭痛、蓄膿症等

〔治験〕38才の婦人  時々、腹が張って痛み嘈囃(むねやけ)が起こる。いつも頭が重く、ひどくなると頭痛がし、常に首や肩が凝っている。しばしばめまいがし、立ち上がったり、上を向いたとき、からだがふらふらっとする。また、夜は眠りが浅く、よく夢を見るが、昼間は、ねむい。食欲はある。便通は秘結ぎみであるという。
  中肉中背で、顔色は余りよくない。筋肉は軟らかくて、緊張がない。脈は沈小或いは細。腹部は軟らかく、心下部に、ごく僅かな振水音を認め、左下腹部の腸骨窩附近に圧痛がある。
  半夏白朮天麻湯を投与し、10日後具合がよいといい、約8ヶ月後、頭痛は起きなくなった。この間、毎月10日か15日分の薬をのむだけだった。
  しかし、左下腹部の圧痛がとれないので、当帰芍薬散を10日分与えた。すると、その部分の圧痛はなくなったが、下腹が自然に痛むという。そこで、当帰建中湯と人参湯の合方を10日分与えたところ、その痛みが起こらなくなった。



漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
7 裏証(りしょう)Ⅰ
虚弱な体質者で、消化機能が衰え、心下部の痞えを訴えるもの、また消化機能の衰退によって起こる各種の疾患に用いられる。建中湯類、裏証Ⅰ、 裏証Ⅱは、いずれも裏虚の場合に用いられるが、建中湯類は、特に中焦が虚したもの、裏証Ⅰは、特に消化機能が衰えたもの、裏証Ⅱは、新陳代謝機能が衰えた ものに用いられる。
裏証Ⅰの中で、柴胡桂枝湯加牡蠣茴香(さいこけいしとうかぼれいういきょう)・安中散(あんちゅうさん)は気の動揺があり、神経質の傾向を呈する。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)・呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、水の上逆による頭痛、嘔吐に用いる。 
5 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
〔半夏(はんげ)、白朮(びゃくじゅつ)、陳皮(ちんぴ)、茯苓(ぶくりょう)各三、麦芽(ばくが)、天麻(てんま)、生姜(しょうきょ う)、神麹(しんきく)各二、黄耆(おうぎ)、人参(にんじん)、沢瀉(たくしゃ)各一・五、黄柏(おうばく)、乾姜(かんきょう)各一〕
本方は、六君子湯の加減方として考えることができ、胃部の虚弱のために胃内停水があり、心下部が痞満しているものに用いられる。したがって、 胃内停水の動揺によって起こるめまい、頭痛、嘔吐(水を吐く)を目標とする。また、肩こり、四肢の冷え、身体が重いなどを訴えたり、食後すぐ眠くなる、朝 の目覚めが悪いなどを訴えることもある。なお、本方證の頭痛は、こめかみから頭頂部あたりにかけて激しく痛むものである。
〔応用〕
一 胃下垂症、胃アトニー症、慢性胃カタルその他の胃腸系疾患。
一 高血圧症、低血圧症その他の循環器系疾患。
一 そのほか、鼻炎、蓄膿症など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
65.半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) 脾胃論
半夏3.0 白朮3.0 陳皮3.0 茯苓3.0 蒼朮3.0 麦芽2.0 神麹2.0 黄耆1.5 人参1.5 沢瀉1.5 黄柏1.0 生姜0.5 乾姜0.5

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社 
 慢性に経過する胃腸無力症やアトニー体質で頭痛,頭重,めまい,冷え,疲労,肩こりなどを訴え,ときに悪心や嘔吐を伴うもの。
 漢方で本方の対象となるものを痰飲の頭痛と指示している。痰飲とは一口に言って消化管内の病的水分であるが,胃腸が虚弱で水分の胃腸循環が悪く,それがため胃腸機能をさらに悪くする悪循環の関係を生じ,腸内水分が病的変化をきたして諸種の症状を惹起している状態をさし,これに伴う発作性頭痛や常習性頭痛と呼称している。要するに応用の目標欄記載の体質条件にあるものの頭痛や頭重が主体となるが,ひとり鎮痛作用だけでなく胃腸薬としての治療効果も具備している。本方が適応する頭痛の部位はこめかみから頭頂部あたりにひどく,頭痛発作時に四肢の冷感やめまいを訴えるものに応用すると劇的効果に驚くことが少なくない。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○胃腸が弱く冷え症で,ことに手が冷える人が,しじゅう頭痛,頭重感,めまい(眩暈)を訴えるものである。時には発作性の激しい頭痛がおこり,そのさい,嘔吐を伴うことがある。食欲がなく,しばしば嘔きけがあり,食事のあとで手足がだるくなって眠くなる。夜,ねつきがわるいにのに,朝起きるのがだるく,あるいは眠くて起きられない。また天気が悪いと頭痛がおこることがあり,しじゅう頭に何かをかぶったような感じがある。脈は沈んで弱く,腹部は軟弱で,多くの場合心下部は振水音をみとめ,あるいは胃部にガスが停滞している。
○本方は痰飲(水毒)の頭痛に用いるもので,胃腸虚弱で虚証の患者である。また老人や虚弱者のめまいに用いられる。これは手足が冷えることを目標にすると,勿誤薬室方函口訣にある通りである。
○神経症に用いることあり,纂方規範「黒田曰,この方癇症で虚に属し,沈香天麻湯や柴胡加竜骨牡蛎湯などを用いられないものに効果がある。男女にかかわらず,癇証ともきめ難いようで,時に頭痛,眩暈あり,心下痞して気うつし,あるいは怒り,逆上するものによし。」とある。
○疎註要験 本方は感冒のあと頭痛し,めまいがして上気し,足が冷えるものによく用いられる。
○鼻炎や蓄膿症で胃弱,頭痛のあるものに,辛夷を加えて用いるとよい(著者治験)
○胃弱で高血圧の人が常習性に頭痛を訴えるものに,釣藤を加えて用いるとよい集:大塚氏経験)


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
 平素から胃腸が弱く,胃下垂や胃アトニーがあって,血色がすぐれず,疲れやすく,食後に眠気を催し、手足が冷えるという症状の人にみられる頭痛に用いる。この頭痛は日によってはげしいこともあれば,軽いこともあるが,多くは俗に持病という形で永びく,多くはめまいを伴う頭痛で,吐くこともあり,くびのこりも訴える。そこで呉茱萸湯証との鑑別が問題になる。呉茱萸湯の頭痛は片頭痛のかたちでくる場合が多いのに半夏白朮天麻湯証の頭痛は眉間のあたりから前額前項部にかけて痛み,少し首を動かしても,めまいがひどく,体が宙に浮いているように感ずる。~呉茱萸湯証の嘔吐は半夏白朮天麻湯証のそれよりも頻繁ではげしい傾向がある。呉茱萸湯証の患者よりも半夏白朮天麻湯証の患者の方が体格が虚弱で,血色もわるい。また半夏白朮天麻湯の患者には便秘するものが多い。このさいには大黄の入った下剤を用いずに,半硫丸を兼用するとよい。これで大便も快通する。
○半夏白朮天麻湯の頭痛は頭が重いと訴えるものが多く,めまいを伴うというよりも,めまいが主訴でこれに頭痛を伴う場合が多い。それに冷え症で,血色は赤味が少く,色が白いか蒼い,腹力もないものが多い。脈も弱い。

※半硫丸:
硫黄80g(細末にして、柳の木槌で十分たたいておく)、半夏120g(湯洗7回)熱を加えて乾燥させ、作末し、生姜汁と煮詰め、乾蒸餅末と混ぜ合わせ、臼に入れて数100回ついて丸とし、桐の実大にする。

漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水三先生
 本方は脾胃を補い,胃内停水を尿として導くのが目的である。「痰厥の頭痛」と主治にあるが,これは平素胃腸虚弱で,アトニーの傾向があるものが,外感や内傷等によって胃内停水が毒性を帯び,所謂水毒となって逆上しその結果,特有の発作性頭痛,眩暈,を発するので本症の頭痛は多く眉稜骨より脳天の泉門部,天庭,百会穴の辺りに最も甚しく,足冷,嘔気を訴える。本症は呉茱萸湯に似ているが呉茱萸湯は本方証より更に激症で本方は頭痛眩暈を主とし,呉茱萸湯は頭痛,嘔吐を主とする。また本方は発作性の症状がなくても脾胃虚弱者の食後に手足倦怠と嗜眠を訴えるものにも応用される。方中の人参,黄耆,甘草,白朮等は脾胃を補い,半夏,茯苓,蒼朮,陳皮等は脾湿を通利するとて胃内停水を利尿によって消導する。麦芽,神麹は脾胃を助け,宿食を消化し,乾姜の辛熱を以て脾胃の寒を去る。以上の目標に従って本方は頭痛,眩暈,慢性胃腸虚弱者の発作性頭痛,食後の嗜眠,手足倦怠を訴える者,低血圧者の頭痛,眩暈,或は胃腸虚弱者にみる虚証の高血圧に発する諸証に応用される。


漢方百話〉 矢数 道明先生
 半訴,眩暈,頭痛,嘔吐の順が多く,肩こり,背張り,足冷を訴えるものが多い。
 目標 患者は常に胃腸虚弱で,胃アトニー,胃下垂を伴うものに多く,身心過労,感冒後または胃の機能の障碍された後,宿食停飲を生じて発作的に病状を現わす。多くはやせ型で,肥満の者も水太りのものに多い。黄褐色のものもあるが概して皮膚の色は白く,貧血症で疲れやすい。頭痛の場所は前述の通りで,嘔吐は淡水か粘汁,あるいは乾嘔。眩暈は軽度のものはフラフラして起きていられないというもの,また起きたり,臥たりするときグラグラするもの。重くなると眼を開いたり,身体を動かしたり,話をしたりするとはげしい眩暈を起こすと言うものや,天地顛倒すると形容するもの,雲の中に浮んで揺られるよう,あるいは船に乗っているようだと表現するものなどがある。脈は軟弱である持;浮いているものが多い。腹壁も軟弱弛緩して底力に乏しく,心下部に暗然と物が溜まっている感じ,一般に低血圧で手足が冷える。舌苔はほとんどない。水毒が上逆して腸を潤さず,便秘するのが普通で下痢はしない。発熱するものはほとんどない。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は痰飲頭痛が目的なり。其の人脾胃虚弱,濁飲上逆して常に頭痛を苦しむもの此方の主なり。若し天陰風雨毎に頭痛を発し,或は1月に2,3度宛大頭痛嘔吐を発し,絶食するものは半硫丸を兼用すべし。凡て此方は食後胸中熱悶,手足倦怠,頭痛,睡眠せんと欲する者効あり。又老人,虚人の眩暈に用ふ。但し足冷を目的とするなり。又濁飲上逆の症,嘔気甚しき者は呉茱萸湯に宜し。若し疝を帯びる者は当帰四逆加呉茱萸生姜湯に宜し。


漢陰臆乗〉 百々 漢陰先生
 此は痰飲頭痛として眉稜骨より神庭(鼻の上で髪の生え際の経穴)百会(頭項の中央の経穴)のあたりへかけて痛み甚しく,わずかに身を動かし,首を動かせば目まい甚しく,わずかに身を動かし,首を動かせば目まい甚しく,主治の中に所謂眼黒く頭旋り,目敢て開かず,風雲の中に在るが如しと云うものを目的とす。

万病回春〉 龔廷賢先生
 痰厥の頭痛,眼黒く頭旋(めぐ)り,悪心煩悶し,気短促喘して力なく,与(とも)に語れば心神顛倒目敢て開かず,風雲の中に在るが如し,頭苦痛裂るるが如く,身重きこと山の如し,四肢厥冷して安臥することを得ず,此れ乃ち胃の気虚損し,停痰して致すなり。



『勿誤薬室方函口訣解説(105)』 日本東洋医学会評議員 内炭精一
半夏白朮天麻湯
 次は半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)です。まず初めの漢文の術語を説明します。「脾胃」は現代の胃腸のこと、「痰厥」は湿痰が厥逆して上ることで,ここでは胃内停水が上に上がることであります。
 以上を通解すると、「平素胃腸虚弱で、胃下垂や胃アトニーなどのある人で、胃内停水があり、それが頭に逆上して頭痛を起こしたものを治す」ということで、結局は平素胃腸虚弱で、胃下垂や胃アトニーのある人で、みぞおちを指で叩くとジャブジャブと振水音が聞こえるような胃内停水のある人に起こった頭痛を治すというのであります。胃内停水が頭にあがるということは、現代医学的にはちょっと考えられないことでありますが、昔漢方をしていた人は皆そのように考えて処方をしたわけでありますから、それを認めて知っていないと漢方は使えないということであります。
 続いて和文に進みます。「此の方は痰厥の頭痛を目標に使う方剤であります。患者が胃腸虚弱で、胃中の濁飲すなわち胃内停水が上逆して、常に頭痛に苦しんでいるものは、この方剤の主たる目標であります。もし天の陰である風が吹いたり、雨が降ったりすることで頭痛を発症し、あるいは一ヵ月に二~三回あて、強い頭痛ならびに嘔吐を発症し、物が食べられなくなったものは半硫丸(ハンイガン)(半夏(ハンゲ)、硫黄(イオウ)各等分)を兼ね用いるべきである。すべてこの方剤は、食後胸中が熱く、いっぱいになってつよい心下部の膨満感がして、苦しみ悶え、四肢がだるく、頭痛して眠くなるものに効果があります。また老人や虚弱な人のめまいに用いられます。ただ足が冷えるという場合を目標に用いるのであります。また濁飲上逆の症状で、嘔気がひどいものは呉茱萸湯(ゴシュユトウ)(呉茱萸(ゴシュユ)、人参(ニンジン)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)の四味)を用いるのがよいのであります。もし疝を帯びるものは当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)(当帰(トウキ)、桂枝(ケイシ)、芍薬(シャクヤク)、細辛(サイシン)、大棗、甘草(カンゾウ)、木通(モクツウ)、呉茱萸、生姜)がよいのであります」。
 「疝」とは、病気が下腹部にあって、腹部のはげしい疼痛に、大小便が通じないことを兼ねる症候を指します。
 本方を用いる目標は、元来胃腸虚弱の人で胃下垂や胃アトニーなどのある人が、風邪、食傷、車酔い、気候の急変などによって発作的に頭痛やめまいを起こしたもので、本症の頭痛は大塚敬節先生によれば、多くは鼻稜骨(顔の眉毛英部分の骨)より脳天の天底泉門部の百会穴のあたりに、もっとも甚しく足英冷えを訴えます。
  本証は呉茱萸湯に似ているが、呉茱萸湯は、本方の証よりさらに劇証で、本方は頭痛、眩暈を主とし,呉茱萸湯は頭痛、嘔吐を主とします。また本方証は発作性の症状がなくても、胃腸虚弱者の頭痛、めまいや食後の嗜眠、四肢倦怠を訴えて、食後横になりたいというもの、朝眠くて起きにくく、午前中は頭脳、身体ともに活力が乏しく、頭がぼーっとして能率のあがらない低血圧者のごとき訴えの気虚の症状にも応用されます。また低血圧の頭痛、めまいにも応用されております。また虚証の高血圧症の頭痛、眩暈で、釣藤散(チョウトウサン)(釣藤(チョウトウ)、橘皮(キッピ)、半夏、麦門冬(バクモンドウ)、茯苓、人参、菊花(キッカ)、防風(ボウフウ)、甘草、生姜、石膏(セッコウ)の十一味)で効がなく、本方で効果があり、また逆のことがあることはしばしば経験するところであります。その鑑別には胃内停水の有無や、足の冷えの有無が重要であります。
 浅田先生の治験例をあげます。「林岩書頭の妻は酒井右近将官の娘である。この方はめまいがして項が硬くこわばる病気を病むこと数年間、ただ坐っているばかりで横に寝ることができない。横になろうとすると、頭の中に雷が鳴るようになって目がまわり気が遠くなるようで、飲食は従前通り、大小便は普通であります。自分は濁飲上逆の頭痛で、そのために頭脳が圧迫を受けてふさがれるためと考えて半夏白朮天麻湯を与え、辰苓散(シンリョウサン)(茯苓(ブクリョウ)、辰砂(シンシャ)の二味)を兼ね服用させた。それによってめまいは大いに軽快し、横臥することができ、のち時々頭痛や便秘があったので、辰苓散を中止し、半硫丸を与えて諸症状が落着き、その後患者は歩いて箱根の山を越えて静岡行くことができた」というものです。
 古人は大柴胡湯(ダイサイコトウ)や防風通聖散(ボウフウツウショウサン)などの瀉剤を用いることのできる病気は、割合に早くよくなるが、それらの瀉剤を用いることができず、補剤を用いねばならない病気は、よくなるのに時日を要するといっております。この方剤もその効果をあげるには時日を要し、一~二週間程度の服薬では効果の有無を判別しにくい場合も多いので、その心づもりで、精細は診察を行なって、その効果の有無を判断する力が要求されます。


一般用漢方製剤承認基準
半夏白朮天麻湯
 〔成分・分量〕 半夏3、白朮1.5-3、陳皮3、茯苓3、麦芽1.5-2、天麻2、生姜0.5-2(ヒネショウガを 使用する場合2-4)、神麹1.5-2、黄耆1.5-2、人参1.5-2、沢瀉1.5-2、黄柏1、乾姜 0.5-1 
(神麹のない場合も可) 
(蒼朮2-3を加えても可)

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以下で、胃腸が弱く下肢が冷えるものの次の諸症: 頭痛、頭重、立ちくらみ、めまい、蓄膿症(副鼻腔炎)



【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕


 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。 
(3)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。 


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ


3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕


〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
  〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
 〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
 〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
 〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕

保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくて
もよい。〕


【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕




【副作用】
1)重大な副作用と初期症状 
  特になし

2)その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 痒等
 このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
 [理由]
 本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。
 [処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等 の適切な処置を行うこと。