健康情報: 茵蔯五苓散(いんちんごれいさん) の 効能・効果 と 副作用

2013年6月5日水曜日

茵蔯五苓散(いんちんごれいさん) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
五苓散(ごれいさん)
本方は表に邪があり裏に水の停滞するものを治する方剤で、口渇と尿利減少を目標として諸種の疾患に応用される。脈は浮弱のことが多い。また口渇があって煩躁し水を飲まんと欲し、水が入れば則ち吐する者にも用いられる。熱の有無に関らない。
本方の応用としては感冒或は諸熱病で、微熱・口渇・尿利減少の場合、胃アトニー・胃下垂・胃拡張等で胃腸内に拍水音があり、眩暈または嘔吐に苦しむ場合、 ネフローゼの浮腫、心臓弁膜症に伴う浮腫、急性胃腸カタル後の口渇、尿量減少・浮腫・水瀉性下痢・暑気当り・陰嚢水腫等である。
本方の薬物中、沢瀉・猪苓・茯苓・朮は何れも体液調整剤で、胃内停水を去り、尿利を良くし浮腫を去る。本方證の嘔吐・眩暈・口渇等は何れも体液の偏在によ るものであるから、これらの薬物の協力作用によって体液が循流すれば自然消失するものである。桂枝は微熱を去る効があり、また他の諸薬の利水の効を助ける ものである。

加減方としては茵蔯五苓散がある。これは五苓散に茵蔯を加味した方で、カタル性黄疸にして口渇・尿利減少の者に用いる。また飲酒家の黄疸・浮腫にもよろしい。茵蔯は黄疸に対して特効のある薬物である。
平胃散と五苓散の合方を胃苓湯と名づけ、水瀉性下痢または浮腫に用いる。小柴胡湯と五苓散との合方を、柴苓湯と名づけ、小柴胡湯の證で口渇・尿利減少の者に用いる。
陰嚢水腫には五苓散に車前子・木通を加えて効がある。


『漢方精撰百八方』
 50.〔方名〕茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)
〔出典〕金匱要略

〔処方〕茵蔯蒿を粉末にしたもの2.0五苓散末1.0に混和して、一日三回に分けてのむ。また煎剤として用いてもよく、この場合は、茵蔯4.0 沢瀉5.0 猪苓、茯苓、朮3.0 桂枝2.0を一日分とする。

〔目標〕この方は、金匱要略に、単に「黄疸は茵蔯五苓散之を主る。」とだけしか出ていないが、すべての黄疸がこれで治るわけではない。五苓散を用いるような目標があって、黄疸のあるものに用いると思えばよい。

〔かんどころ〕口渇、小便不利があって、黄疸のあるもの、便秘があれば、茵蔯蒿湯を考える。

〔応用〕肝炎。ネフローゼ。腎炎。浮腫。月経困難症。

〔治験例〕1.急性肝炎
 八才の男児。三日前に突然、腹痛を訴えて食事を吐いた。医師は虫垂炎だろうと診断して、冷罨法と安静を命じた。翌日には、悪心、嘔吐の他に、口渇もあり、尿に蛋白が出るので、腎炎だと診断したという。三日目にわたくしが往診した時には、腹痛はなく、口渇と、食欲不振があり、体温が三十八度ほどあった。腹診するに、腹部はやや膨満し、どこには圧痛はない。尿はひどく着色して、一見しても黄疸がやがて現れるであろうことが推測できたので、二、三日中に黄疸になるが、これを飲んでおれば軽くてすむだろうと云って、茵蔯五苓散を与えた。
 これをのむとその夜より尿が多く出るようになり、翌日は食欲が出た。口渇もやんだ。黄疸も軽微で、そのまま十日もたたずに全治した。

2.ネフローゼ
 二十才の女子。六ヶ月ほど前に、突然ひどい浮腫が来て、ネフローゼと診断せられ、某病院に入院したが、一旦消失しかけた浮腫は、更にひどくなり、眼瞼がふさがるほどになった。尿量は一日に200ml程度で、口渇があるという。よって担当の医師の求めに応じて茵?五苓散を用いたところ、漸次尿量増加し、口渇やみ、一ヶ月ののちには、全く浮腫が去った。


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。

2 五苓散(ごれいさん)  (傷寒論、金匱要略)
〔沢瀉(たくしゃ)五分、猪苓(ちょれい)、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)各三分、桂枝(けいし)二分。湯の場合は、沢瀉六、猪苓、茯苓、朮各四・五、桂枝三〕
表に熱、裏(胃部)に停水があるため、表熱によって瘀水が動き、それにつれて気の動揺をきたし、上衝するものに用いられる。したがって、発 熱、頭痛、めまい、口渇(本方證の口渇は、煩渇引飲といわれ、いくら飲んでも飲みたりないほど強いものである)、嘔吐(わりあい楽に吐くもの)、心下部振 水音、腹痛、臍下悸、尿利減少、下痢(水様便が多量に出る)などを目標とする。また、口渇のために水を飲みたがるが、飲むとすぐに飲んだ以上に吐くものを 目標とすることもある。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、五苓散證を呈するものが多い。
一 胃拡張症、胃アトニー症、胃下垂症、胃腸カタルその他の胃腸系疾患。
一 腎炎、萎縮腎、ネフローゼ、膀胱炎、陰嚢水腫、尿毒症、浮腫その他の泌尿器系疾患。
一 カタル性結膜炎、仮性近視、角膜乾燥症、夜盲症その他の眼科疾患。
一 宿酔、ガス中毒、船酔いその他。
一 感冒、気管支喘息その他の呼吸器系疾患。
一 そのほか、火傷、脱毛症、糖尿病、日射病など。

五苓散の加味方

3 茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)  (金匱要略)
〔五苓散に茵蔯四を加えたもの〕
本方は、五苓散證で黄疸の併発したものに用いられる。したがって、黄疸で発熱が少なく、口渇、浮腫、心下部膨満、振水音、尿量減少などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、茵蔯五苓散證を呈するものが多い。
一 急性黄疸などの肝臓機能障害。
一 腎炎、ネフローゼなどの泌尿器系疾患。
一 そのほか、宿酔。


明解漢方処方 (1966年)』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
茵蔯五苓散(いんちんごれいさん) (金匱)

 処方内容 茵蔯蒿末二、〇 五苓散一、〇 (五苓散の内容は五苓散の条を参照のこと) (三、〇)
 以上の割合で混合し一日六、〇を食前に分服する。
  必須目標 ①黄疸(茵蔯蒿湯に比べて軽度) ②口渇甚しい ③尿量減少 ④便秘せず ⑤頭汗なし

 確認目標 ①下痢または軟便 ②腹水 ③嘔吐感 ④疲労感 ⑤微熱 ⑥食慾不振 ⑦沈脉 8季肋下部に圧痛なし。

 初級メモ ①本方の最大目標は口渇と尿量減少が甚しいことである。茵蔯蒿湯との区別は茵蔯蒿湯の条を参照のこと。
 ②普通、たとえ本方の証の患者であっても、最初の三、四日は茵蔯蒿湯を与えて、先ぶ充分下痢させて腸毒を除いてから本方に変える方が経過が速いようである。
 ③本方の内容は五苓散に茵蔯蒿一味を加えたもので、一見五苓散加茵蔯と称するのが当然のように思えるが、そういわないわけは茵蔯蒿が主薬で分量も多く、五苓散が佐薬になっているためである。
 ④本方は二日酔で煩悶し口渇の劇しいものに用いて卓効がある。

 中級メモ ①五苓散が佐薬である証拠として、五苓散だけなれば脉は必ず浮脉を呈する筈であるのに、本方は沈脉を原則としている。沈脉は病毒が裏位にあることを示している。もし表証(頭痛、発熱など)があり、脉が浮脉であれば、そのときこそ五苓散二・〇茵蔯蒿末一・〇を混合して五苓散加茵蔯を用いるべき証である。
 ②金匱の条文に「沈脉、渇して水を飲まんと欲し、小便利せざる者は当に黄を発すべし」選。即ち本方の証をよく示している。
 ③吉益南涯「裏病。五苓散証にして、汗出でず水滞し、瘀熱ある者を治す。症に曰く黄疸、これ瘀熱の候なり」

 適応証 流行性肝炎。ネフローゼ、腎炎の浮腫。二日酔。

 文献 「五苓散と茵蔯五苓散」大塚敬節(漢方の臨床2、12、3)




【一般用漢方製剤承認基準】
6 茵蔯五苓散
〔成分・分量〕
沢瀉4.5-6、茯苓3-4.5、猪苓3-4.5、蒼朮3-4.5(白朮も可)、桂皮2-3、茵蔯蒿3-4
〔用法・用量〕
(1)散:散の場合は茵蔯五苓散のうち茵蔯蒿を除いた他の生薬を湯の場合の1/8量を用いるか、茵蔯五苓散のうち茵蔯蒿を除いた他の生薬の合計が茵蔯蒿の半量となるように用いる。(1回1-2g 1日3回)
(2)湯
〔効能・効果〕
体力中等度以上をめやすとして、のどが渇いて、尿量が少ないものの次の諸症:
嘔吐、じんましん、二日酔、むくみ

医療用ツムラの茵蔯五苓散の効能・効果
のどが渇いて、尿が少ないものの次の諸症:  嘔吐、じんましん、二日酔のむかつき、むくみ


【副作用】
過敏症:発診、発赤、瘙痒等
 [理由]  本剤にはケイヒが含まれているため、発疹、発赤、 痒等の過敏症状があらわれるおそれ があり 2) ~4) 、上記の副作用を記載した。
[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等 の適切な処置を行うこと。