健康情報: 康治本傷寒論 第二十一条 発汗若下之後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩者,茯苓桂枝甘草白朮湯主之。

2009年10月6日火曜日

康治本傷寒論 第二十一条 発汗若下之後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩者,茯苓桂枝甘草白朮湯主之。

『康治本傷寒論の研究』 
発汗若下之後、心下逆満、気上衝胸、起則頭眩者、茯苓桂枝甘草白朮湯、主之。

 [訳] 汗を発し、若しくはこれを下して後、心下逆満し、気上って胸を衝き、起てば則ち頭眩する者、茯苓桂枝甘草白朮湯、これを主る。

 この条文は気が上衝するときのひとつの変証を述べたものであるのに冒頭に発汗若下之後とあることは、第一九条第二○条の発汗後という句に対する私の解釈が間違っていないことを示している。
 心下逆満というのは、心下即ち胃部が重苦しくて下から押上げられる感じをいう。これは平素胃内停水のある人に気の上衝が起ったことを示している。
 その気は胃部にとどまらず、さらに上につきあげていることを気上衝胸と表現したのである。即ち胸苦しさや心悸亢進が生じているのである。そしてさらに頭部にまで達しようとしていることを起則頭眩と表現している。頭眩とはめまいのことであり、漢方では胃内停水のある人に起る症状であるとしている。利尿剤で胃内停水を除くと治るという経験からそう判断したのであろう。
 結局和素胃内停水のある人に気の上衝(奔豚)が起ったのであるから、胃内停水を除くための薬物として茯苓と白朮の組合わせが必要であるし、鎮静と気の上衝をさげるための薬物として茯苓、桂枝、甘草が必要になる。しかも胃内停水のある人は胃弱であるので、芳香性、辛味性の健胃剤として桂枝と白朮がその中に含まれていることは治療効果を著しく高めることになる。

茯苓四両、桂枝三両去皮、甘草二両炙、白朮二両。  右四味、以水一斗、煮取三升、去滓、温服一升。

 [訳] 茯苓四両、桂枝三両皮を去る、甘草二両炙る、白朮二両。  右四味、水一斗を以って煮て三升を取り滓を去り、一升を温服する。

 宋板では水六升を以って煮るとなっている。薬物の量からみて、水六升の方が合理的である。
 宋板と康平本では薬物の順序が、茯苓、桂枝、白朮、甘草となっているので、普通は苓桂朮甘湯と略称されている。しかしこの処方は第二○条の苓桂甘棗湯を基本としたものであるので、康治本の薬物の順序の方が良い。


『傷寒論再発掘』
21 発汗若下之後、心下逆満、気上衝胸、起則頭眩者、茯苓桂枝甘草白朮湯主之。
   (はっかんもしくはこれをくだしてのち、しんかぎゃくまんし、ききょうにじょうしょうし、たてばすなわちずげんするもの、ぶくりょうけいしかんぞうびゃくじゅつとうこれをつかさどる。)
   (発汗したあと或は瀉下したあと、心下に下から突きあげられて満ちた感じがあり、さらに何かが胸に突きあがってきて苦しみ、立てばたちまち目まいをおこすようなものは、茯苓桂枝甘草白朮湯がこれを改善するのに最適である。)

 発汗したあとだけではなく、瀉下したあとでも、それによって血管内水分などの激減がおこり、心悸亢進などが甚だしくなってくると、心窩部が下からおしあげられて満ちた感じがしたり、さらにひどければ胸苦しいような状態にもなり、こんな場合は立ちくらみなども当然おきてくるでしょう。この条文はこのような場合の改善策についての条文です。
 茯苓桂枝甘草基について、前の第20条でも説明しましたが、心悸亢進の甚だしい場合にそれを改善するのに有効であるような生薬の結合基であったわけです。それに「大棗」を加えると、下腹部から上に突きあがってくるものを改善する湯(茯苓桂枝甘草大棗湯)になり、「白朮」を加えると、頭部にまで突きあがってきて、頭眩をおこすような状態を改善する湯(茯苓桂枝甘草白朮湯)になることがわかります。大棗(第16章6項)と白朮(第16章18項)の薬能の一つの大きな差ということになるでしょう。
 茯苓桂枝甘草白朮湯は今日、陽証の状態での、目まいを愁訴として持つ、様々な疾患に広く応用されています。筆者の場合、アトピー性皮膚炎の一部に使用して良い効果を見ています(日本東洋医学雑誌第35巻1号41項、同、第39巻1号23項、参照)。

21' 茯苓四両、桂枝三両去皮、甘草二両炙、白朮二両。 右四味 以水一斗、煮取三升、去滓、温服一升。
   (ぶくりょうよんりょう、けいしさんりょうかわをさる、かんぞうにりょうあぶる、びゃくじゅつにりょう、みぎよんみ、みずいっとをもって、にてさんじょうをとり、かすをさり、いっしょうをおんぷくする。)

 この場の形成過程は、茯苓桂枝甘草基に白朮が追加されて、出来たものと思われますので、この生薬配列でよいと思われますが、「宋板傷寒論」では、生薬配列は茯苓桂枝白朮甘草となって、名前も茯苓桂枝白朮甘草湯となっています。生薬配列が湯の形成過程を反映していることに気がつかなかった時代に、多分、生薬の秤量の多い順に並べかえた「金匱要略」の影響を受けているのではないかと推定されます。すなわち「金匱要略」では、茯苓四両、桂枝三両、白朮三両、甘草二両となっていますし、従って湯名も苓桂朮甘湯となっています。そこで「宋板傷寒論」が「金匱要略」の影響を少しでも受けているとすれば「これは十分考えられることですが)、もともと「原始傷寒論」では茯苓桂枝甘草白朮という順になっていたとしても、それが秤量の順に書きかえられた可能性は否定できないことになります。多分、このような事によって、茯苓桂枝甘草白朮湯は茯苓桂枝白朮甘草湯となってしまったのであると推定されます。

『康治本傷寒論解説』
第21条
【原文】  「発汗若下之後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩者,茯苓桂枝甘草白朮湯主之.」
【和訓】  発汗若しくは之を下して後,心下逆満し,気胸に上衝して起つときは則ち頭眩する者は,茯苓桂枝甘草白朮湯之を主る.
【訳 文】  太陽病を発汗し,或いは陽明病を下して後,少陽の中風(①寒熱脉証 弦 ②寒熱証 往来寒熱 ③緩緊脉証 緩 ④緩緊症 小便自利)となって,気が胸に上衝し,座位より俄に立ったときにめまいを覚える(起則頭眩)ような特異症候がある場合には,茯苓桂枝甘草白朮湯〔苓桂朮甘湯〕でこれを治す.
【句解】
 頭眩(ズゲン):①ふらっとする〔めまい〕
          ②たちくらみ〔瞬間真っ暗になる〕
【解 説】  少陽病位に属する薬方を分類してみると,肺,肝,胃,腎,心,心熱の6つに分けることができます。その中で苓桂朮甘湯〔茯苓桂枝甘草白朮湯〕は,腎を主る方剤として位置づけられます.また,この薬方は頻繁に用いられている真武湯,半夏厚朴湯,当帰芍薬散等の処方構成を分析していく上で,構成要素の一つとして重要な基本方剤となっています。
【処方】  茯苓四両,桂枝三両去皮,甘草二両炙,白朮二両,右四味以水一斗,煮取三升,去滓温服一升.
【和訓】  茯苓四両,桂枝三両皮を去り,甘草二両を炙り,白朮二両,右四味水一斗をもって,煮て三升に取り,滓を去って一升を温服す.
 

証構成
  範疇 胸熱緩病(少陽中風)
 ①寒熱脉証   弦
 ②寒熱証    往来寒熱
 ③緩緊脉証   緩
 ④緩緊証    小便自利
 ⑤特異症候
  イ心下逆満(白朮)
  ロ気上衝胸(桂枝)
  ハ頭眩(茯苓)


康治本傷寒論の条文(全文) 

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