健康情報: 生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)

2019年7月27日土曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)
 村上 光太郎

 F、裏証Ⅰ・Ⅱ
  a、半胃散、補気建中湯、四君子湯(図26参照)
 平胃散、補気健中湯、四君子湯の関係を見ると、補気建中湯、四君子湯の方意が含まれている。平胃散や補気建中湯には蒼朮が配剤されているため、この二方は痛みが激しい時に麻酔を目的に用いる薬方であることがわかる。ところでこの二方には厚朴が配剤されているため、麻酔作用は更に強くなり、また同時に配剤されている陳皮や生姜の健胃作用も強力となっていることは今更、言うに及ばない。従工てこられ二方は消化器系が悪く、消化障害を起こし、しかも痛みが激しい時に用いられる薬方であるが、麻酔作用のある薬物が配剤されているという事は、平素健康な人が暴飲暴食によって急に痛みを覚える人に用いる薬方であることがわかる(もし、これらの薬方を平素より消化器系の弱い人に用いれば、蒼朮の麻酔作用により痛みが早く止まるため、治ったものと勘違いして、再び無理をし、結果的には治らない事になるため、平素より消化器系の弱い人には用いないようにするほうがよい)。平胃散はこれらに大棗と甘草が配剤されているが、大棗の精神的なことによって起こる咳に対する鎮咳作用は、他に強い作用の生薬が配剤されれば表面には現れてこないし、甘草の鎮痛作用も同様に現われず、他の生薬の調和の意味しかない。従って平胃散は健胃作用と麻酔(鎮痛)作用が順気生薬(厚朴)によって強められた薬方である。この平胃散に四君子湯を配剤し、更に全身の水毒を協す人参、胃内停水を治す茯苓と白朮の組み合わせ、尿利をよくする茯苓と沢瀉の組み合わせがあり、心下痞を治す黄芩が配剤された薬方が補気建中湯である。また本方には更に鎮咳作用のある麦門冬が配剤されているため、補気健中湯には平胃散の消化器系の障害を治す作用に、水毒の症状が激しくなり、全身症状まで現われ、咳までも出始めた人に用いる薬方となっている。
  b、平胃散、不換金正気散、香砂六消子湯(図27参照)
 平胃散と不換金正気散を比べると、不換金正気散には平胃散には平胃散にはない半夏と藿香が配剤されているため、半夏と生姜の組み合わせによる鎮痛作用、半夏と甘草、大棗の組み合わせによる鎮痛作用が加わり、更に藿香による健胃作用が陳皮や生姜の作用と共に強力となっている。従って不換金正気散は平胃散の健胃作用が更に強くなり、嘔吐なども強くなった人に用いる薬方となっている。不換金正気散は更に色々と加減がなされ、数多くの薬方が構成されている。ところで平胃散より麻酔作用のある蒼朮、順気生薬の厚朴を除いて、茯苓を加えた(大棗も除かれている)薬方は二陳湯といい、胃内停水によって嘔吐等を発する人に用いる薬方である。本方に砂仁、香附子、人参、白朮、大棗を加えたものは香砂君子湯といい、健胃作用(砂仁)、駆瘀血作用(香附子)、全身の水毒および駆水作用(人参、白朮)が更に加わるため、水毒が強く、瘀血も少し加わった人に用いる薬方である。ところで二陳湯および香砂六君子湯には蒼朮およびそれを強力にする順気生薬(厚朴)が入っていないため、麻酔して痛みを止めるのではなく、水毒の変調を治す薬方であるから、急な暴飲暴食による痛みには効果がない事がわかる。
  c、六君子湯、半夏白朮天麻湯(図28参照)
 半夏白朮天麻湯の中には六君子湯に含まれている生薬のほか(甘草、大棗は欠けている)健胃消化薬となる麦芽、神麹、黄柏。強壮、鎮静の天麻。表虚を治す黄耆。胃内停水を治し、新陳代謝を高める乾姜。尿利をよくする沢瀉(茯苓と組み合わされて)。麻酔作用のある蒼朮が配剤されている。従って水毒の異常は消化器系はもちろん、全身に及んでおり、そのために起こる各種の症状に用いられる。
  d、人参湯、桂枝人参湯、苓姜朮甘湯(図29参照)
 人参湯と桂枝人参湯の関係ほ見ると、人参湯に気の上衝(のぼせ)をおさえる桂枝が配剤されたものが桂枝人参湯である。この場合、人参湯に配剤されている白朮には駆水作用があるが、その駆水の方法すなわち発汗するか、利尿に導くか等が不明である。従って水毒が強ければ効果が期待できないことがある。しかし順気生薬である桂枝が配剤されれば、桂枝の発汗作用と共に、桂枝と白朮が配剤されることによって起こる利尿作用が加わるので水毒の解消方法が明瞭となり、水毒が多少強い場合にも用いられるようになる。
 人参湯と苓姜朮甘湯の関係は、人参湯には人参が、苓姜朮甘湯には茯苓が配剤されている。人参湯は全身の水毒をめぐらす人参、胃内停水を除き、新陳代謝機能を亢進させる乾姜、駆水作用のある白朮が配剤されているため、水毒は胃内停水に止まらず、全身におよんでいることがわかる。一方、苓姜朮甘湯は乾姜および茯苓と白朮による胃内停水を除く作用だけとなっている。また生姜ではなく、乾姜が配剤されている事は新陳代謝機能もおとろえている事を現わす。この事は胃内停水も胃の中に停まらず、下腹部から腰部にまで及ぶようになっている事を現わしている。従って人参湯のように全身の冷えというよりも腰部の水毒のため、腰部の冷えを強く感じる時に用いる薬方であることがわかる。
  e、附子湯、真武湯(図30参照)
 附子湯と真武湯の関係を見ると、附子湯には人参が、真武湯には生姜が配剤されており、他の生薬は共通である。人参は全身の水毒を巡らせ、生姜は胃内停水を除く作用がある。従って附子湯は全身の水毒がある人に、来局名湯は胃内停水が強い人に用いる薬方である事がわかる。ところで共通部分を見ると、茯苓と白朮による胃内停水を除く作用、芍薬の筋肉の緊張を柔らげる作用があり、更に附子が配剤されている。附子の温補作用は配剤された生薬によって作用する部位が変化する事はすでに述べたが、附子湯では附子は茯苓、人参によって半表半裏から裏へ、また、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、結果的には半表半裏より裏へ強く作用する(全身に誘導された場合、附子の作用は、水毒の症状を治す作用へと変わり、新陳代謝の賦活作用は現われない)。ところが、真武湯の附子の作用は茯苓によって半表半裏から裏に誘導され、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、半表半裏から裏に強く働くが、全身にも及ぶことになり、半表半裏から裏位の新陳代謝の賦活作用は附子湯よりも劣ることになる。
  f、四逆湯、甘草附子湯(図31参照)
 四逆湯は 乾姜と附子が配剤されているため、新陳代謝の賦活作用は最も強い部類に属する。しかし甘草附子湯は附子のみが配剤されているため、四逆湯に比べると新陳代謝の賦活作用は弱い。また附子の作用する部位を見ると、四逆湯では附子の作用は乾姜によって半表半裏から裏へ誘導され、半表半裏から裏の部位の新陳代謝を亢めるが、甘草附子湯では附子の作用は桂枝によって表に誘導され、白朮によって全身に誘導されるため、結局附子は表の組織に作用し、表の部位の新陳代謝機能を亢めるようになる。従って四逆湯と甘草附子湯はいずれも新藻代謝の賦活剤であると言っても、作用する部位はまったく異なる事を知らなければならない。
 G、承気湯類
  a、大黄甘草湯、調胃承気湯、桃核承気湯(図32参照)
 大黄甘草湯の大黄は言うまでもなく下剤であり、共に配剤されている甘草は大黄により起こるであろう腹痛等の障害を少しでも緩解させるために配剤されているものである。本方に芒硝を加えて下剤の作用を強めたものは調胃承気湯であり、更にこの作用を順気生薬(桂枝)によって強め、駆瘀血生薬を配剤したものが桃核承気湯である。従って桃核承気湯が一番実証の用いる薬方であり、次いで調胃承気湯、大黄甘草湯と続いて虚証の人に用いる薬方となつている事がわかる(生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)を参照)
  b、潤腸湯、麻子仁丸、小承気湯(図33参照)
 小承気湯に麻子仁、杏仁、芍薬が配剤された薬方が麻子仁丸であり、麻子仁丸より芍薬を除いて更に桃仁、当帰、地黄、黄芩、甘草を加えた薬方が潤腸湯である。小承気湯は大黄の下剤を気うつの順気剤(厚朴、枳実)で強めたものであり、下剤としては強力な部類に属する。それに更に緩下剤である麻子仁を加えて作用を強力としているが、芍薬によって半表半裏から裏位の痛み(芍薬の量が多いため)、すなわち腹痛等を鎮めるため、強い下剤になって起こるであろう腹痛等を鎮めると共に、薬味の数も多くなっているため、作用は緩和となっている。潤腸湯は本方に更に駆瘀血剤である桃仁、当帰、補血、強壮剤である地黄、心下痞を治す黄芩を配剤しているため、更に下剤の作用は緩和となっている。
 H、瀉心湯類
  a、黄連湯、半夏瀉心湯、生姜瀉心湯(図34参照)
 三方の違いは黄連湯には桂枝が、半夏瀉心湯には黄芩が、生姜瀉心湯には黄芩と生姜が配剤されている。共通な部分を見ると、黄連の心下痞を治す作用(黄芩が入れば更によい)、半夏と生姜(実際は乾姜が配剤されている)の鎮嘔作用、半夏と大棗、甘草の鎮痛作用、人参の全身の水毒を治す作用、乾姜の胃内停水を除く作用があり、更に乾姜による新陳代謝の賦活作用がある。従って心下痞があり、胃内停水、全身の水毒がある。言い換えれば胃内停水が動けばそれにつれて種々の症状が出る時に用いられるもので、現わしている個々の症状に合わせて加減して薬方が作られる。すなわち、気の上衝(のぼせ)が強ければ桂枝を配剤して黄連湯として用い、心下痞が強ければ黄芩を更に配剤して黄連と黄芩の組み合わせを作り、確実性を高めた半夏瀉心湯とし、胃内停水が強ければ乾姜の量を減らし、生姜を加えた生姜瀉心湯にする。
  b、黄連阿膠湯、大黄黄連瀉心湯、三黄瀉心湯(図35参照)
 大黄黄連瀉心湯は大黄と黄連が配剤されたもので、心下痞を治す黄連(黄連にはこの他、消炎、健胃、鎮痛作用もあるのは当然である)にその作用を強めるため、下剤の大黄が配剤されている。この大黄黄連瀉心湯に心下痞を治す黄芩が配剤されれば三黄瀉心湯となり、心下痞を治す作用は更に明瞭となる。
 三黄瀉心湯は実証の薬方であるが、黄連、黄芩の作用を大黄で強力とするのではなく、筋肉の緊張をやわらげる芍薬(瘀血も巡らす)と血燥を潤し肌膚をなめらかにする作用のある阿膠と卵黄が加えられたものが黄連阿膠湯である。従って薬味の数は増えるが、下剤ないし順気剤による作用がないため、薬味の数が増えただけ、結局作用は弱くなり虚証の薬方へと変わっている。
(以下次号に続く)






※砂仁
縮砂(Amomi Semen)

※新陳代謝の賦活作用は附子湯よりも劣ることになる。
原文は
新陳代謝の賦活作用は附子よりも劣ることになる。 となっているが、附子湯に訂正。

※四逆湯
 回逆湯(かいぎゃくとう)とも。
 四逆散とは全くことなるので注意。
 薬方名に数字がある時は、薬味の数に関係あることが多いが、四逆湯は乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、附子(ブシ)、白朮(ビャクジュツ)、桂枝(ケイシ)の五味。
 四逆散は、柴胡(サイコ)、枳実(キジツ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)の四味。
 
※潤腸湯は本方に更に駆瘀血剤である桃仁、当帰、補血、強壮剤である地黄、心下痞を治す黄芩を配剤しているため、更に下剤の作用は緩和となっている。
潤腸湯から芍薬が除かれている意味は?
薬味が多くなり作用が緩和になったため、芍薬は除いたのか?

※生姜瀉心湯
 生姜は日局ショウキョウ(干生姜)ではなく、生のショウガを使うべき。
簡便な方法としては半夏瀉心湯のエキスにショウガの擦りおろしを加える
(ただし、乾姜が減量されていない点は注意)
更にショウガの擦りおろしの代わりにチューブのショウガでも?
(出始めの頃のチューブのショウガにはショウガが入っていないことがあったらしいが現在は?)