健康情報: 生薬の配剤から見た漢方処方解説(5)

2019年1月31日木曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(5)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(5)
 村上 光太郎

 すでに生薬の相互作用で説明できる生薬について述べたが、これらはただ単に「こんな事がある」と言うのではなく、常に頭に入れておき、投薬に際して注意しなければならない。しかし現実はこれらの事を考えずに使用し、失敗しているのが時々見受けられる。更に問題となるのは、このような使用例をもって起きた症状を、漢方薬を使用した時の副作用として記載されたりする例があるので注意しなければならない。問題となる例を次にあげる。
 処方例1 桂枝加朮附湯
      越婢加朮附湯
 右の二方の合方は桂枝加朮附湯にしようか、越婢加朮附湯にしようかと迷い、どちらにしてよいな判断をつけかねて、「えいままよ」と合方したものであるならば問題である。
 なるほど桂枝加朮附湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、白朮、附子)は桂枝と大棗の組み合わせであり、汗の出ている、虚証の人に用いられる薬方であるし、越婢加朮附湯(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草、白朮、附子)は麻黄と石膏の組み合わせであり、桂枝加朮附湯と同じく、汗の出ている、虚証の人に用いる薬方である。それでは二方の使い分けはどのようにして決められるかと言うと、すでに葛根湯(2、桂枝についての項参照)の所で述べたと同様な理由により、すなわち麻黄の組み合わせが桂枝の組み合わせよりも実証の薬味の組み合わせであるため、桂枝加朮附湯と越婢加朮附湯はいずれも虚証の、汗の出ている、または汗の出やすい、あるいは浮腫を形成している(その浮腫はおさえると柔らかい)人に用いる薬方であっても、越婢加朮附湯を与める人より更に虚した人に桂枝加朮附湯を与える。と言えば分かりやすいようであるが、実際、いざ使用するときは判断に迷うことはよくある。しかし、だからと言って合方したのでは大変なことになると言う例である。
 すなわち越婢加朮附湯と桂枝加朮附湯の合方は、とりもなおさず越婢加朮附湯中の麻黄と石膏による止汗剤は、桂枝加朮附湯中の桂枝と大棗による止汗剤と組み合わされて、桂枝と麻黄と石膏の組み合わせが出来るため非常に強い発汗剤となり、実証の人に用いる薬方になってしまう。従ってこの二方を合方して虚証の人に実証の薬方を投薬することになり、服用すれば何らかの副作用というか、薬害というかが起こるのは当然である。もし何も起こらなければよかったと胸をなでおろさなければならない。ところがこのように投薬の問違いをして起きた種々の症状をもって漢方にも副作用があると言われる事が繁々見受けられるのは憤まんやる方なしである。
 それでは桂枝加朮附湯と越婢加朮附湯はいかなる時にも合方してはならないかと言うと、そうではなく、合方された時の薬効を考えて実証の人に用いるのならば問題はないのは当然である。しかし、このようにある時は組み合わせてはならないと言い、ある時は組み合わせてもよいと言うような結果だけを見て、漢方は時によって好き勝手に、何か分からないことを言うので困ると言う人がいるが、もう一歩踏み込んで、薬味の組み合わせを見ればそのことはよく理解できよう。
 この例でも分かるように実証の薬方同士とか、虚証の薬方同士の組み合わせなら用いてもよいが、実証の薬方と虚証の薬方を組み合わせてはならないと言っている人がいるが、これらはすべてナンセンスなことであることがわかるであろう。すべて、処方に配合された薬味の組み合わせが、どのようになってい識かによって決まるものである。
 処方例2 桂枝湯
      麻杏甘石湯
 この処方例は桂枝湯(桂枝、芍薬、生薬、大棗、甘草)を服用していて調子がよかったのであるが、急に咳が強くなったため、鎮咳の目的で麻杏甘石湯を合方されるようになったとする。桂枝湯を服用して調子がよかったのであるから、患者は虚証であることは間違いない。桂枝湯は桂枝と大棗、麻杏甘石湯は麻黄と石膏の組み合わせであり、いずれも(止汗剤)である。従って桂枝湯を服用していた人の咳を止めるのに、実証の鎮咳剤ではなく、同様に止汗剤となる麻杏甘石湯を考えたというのは一見よいように思える。しかし、合方して用いると処方果1と同じく、桂枝と麻黄と石膏の組み合わせとなり強い発汗剤となる。従ってこの処方を与えるのは逆治となる。それではどうしたらよいかと言うことになるが、麻黄の入っていない鎮咳剤(例えば苓桂甘棗湯など)を考えるようにする。
 ところが、桂枝湯と同じように表に用いるが、反対に実証の薬方の葛根湯(葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)に麻杏甘石湯の合方となるとどうであろうか。葛根湯は麻黄と桂枝の組み合わせとなり、汗の出ない実証の人に用いる薬方である。麻杏甘石湯は先に述べたように止汗剤であるため、虚証の薬方である。従って実証の薬方と虚証の薬方との合方となり、相反するものの組み合わせのように見える。しかし組み合わされて使用すれば、桂枝と麻黄と石膏の組み合わせとなり、実証の薬方となる。従って咳が非常に強くなっていれば、葛根湯よりも実になったと考えられるので、このような組み合わせも考えられる。
 同様に虚証の薬方と実証の薬方の組み合わせの例では、桂枝湯と麻黄湯の合方がある。この場合は、 麻黄と桂枝の組み合わせは麻黄湯単独の場合と同じである。それではなぜ桂枝湯と麻黄湯が合方されるかというと、麻黄湯にない芍薬、生姜、大棗を増すことによって薬味の数を増し、作用を温和にし、また桂枝と芍薬の鎮痛作用を加えるためである。
 処方例3 葛根湯加川芎辛夷
      排膿湯
葛根湯加川芎辛夷は上焦に膿が多く出る人に用いる薬方で、この膿の多く出るのを治す作用は川芎辛夷によっていることは、葛根湯加桔梗石膏が反対に上焦に炎症が激しくかつ痛みもある人に用いる薬方(ただし桔梗は芍薬と組み合わされているが)であることよりも理解できる。また排膿湯(甘草、桔梗、大棗、生姜)は、桔梗の薬効により膿の多く出ている人に用いる薬方であることはすでに述べた。従って、膿の多く出るのを治す薬方である葛根湯加川芎辛夷と排膿湯の合方であるため、一見この組み合わせはよいように思われる。しかし、ここで注意しなければならないのは、排膿湯と葛根湯加川芎辛夷を同時に服用すれば、排膿湯中の桔梗は葛根湯中の芍薬と組み合わされたことになり、川芎辛夷の膿を止める作用と、桔梗と芍薬の炎症を止める作用の相反する作用が組み合わされている。桔梗が配剤されている薬方で、炎症を止める作用と膿を止める作用の両方をだそうとすれば、桔梗に芍薬と薏苡仁を組み合わすか、桔梗を荊芥、連翹と組み合わさなければならない。ところが本方には薏苡仁も荊芥、連翹もない。
 桔梗と芍薬の組み合わせと川芎辛夷の組み合わせのように、生薬に虚実の差のない組み合わせの場合には(虚実の差がある場合には実の組み合わせの薬効が現れることはすでに述べた)、その薬効はどのようになるか(消炎として働くか、排膿として働くか、あるいは打ち消し合って薬効が出なくなるか)不明である。このような組み合わせのように、使用して見なければどうなるか分からず、またひょっとして害を及ぼすかも分からない組み合わせの処方を用いるのは、漢方ではありえないことである。しかし、この処方をまちがえて作り投薬し、発赤、腫脹が激しくなったという例は多い。
 処方例4 八味丸去附子
 八味丸(地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子)に附子が入っているため、新陳代謝が盛んな子供が使用するにはいくら下焦が虚しているといっても、附子が邪魔になってくる。そこで、附子と桂枝を除いた薬方の六味丸が用いられているのである。
 しかし、附子は虚実を間違えると危険であり、使用が難しいというので、前記の処方のように附子だけを除いた八味丸去附子とすればどうなるであろうか。附子の作用は桂枝によって表に誘導され、沢瀉、茯苓によって半表半裏から裏に誘導されるため、表を少し温めて新陳代謝機能を亢めるが、多くは半表半裏から裏を温めて新陳代謝機能を亢めるように働いていたのであるが、今附子だけを除いたとすれば桂枝が残る。八味丸去附子には大棗が入っていないため、桂枝は発汗剤として働く。従って尿を止める作用にもなる。また桂枝は茯苓と組み合わされているため、心悸亢進やめまいを治す。従って、八味丸去附子は尿を止め、心悸亢進やめまいを治すのを目的とする薬方であるならば問題はないが、八味丸の目標のように口渇、多尿あるいは尿利減少を治そうとした場合、桂枝が薬方中にあるため、尿の出るのを調節する効果はなく、八味丸や六味丸のように下焦に特に強く効かせていたものとは違った効果をもつ薬方となる。従って、附子の入っている薬方から安易に去附子とするのは考えものである。
 去附子とは反対に、加附子の場合すなわち当帰芍薬散加附子の場合には、注意しなければならないことがあることはすでに述べたが、同様に加減方を桂枝茯苓丸にしたらどうであろうか。この場合当帰芍薬散加附子とは異なり、附子は表に誘導する桂枝、半表半裏から裏に誘導する茯苓、全身に誘導する芍薬があるため、結局附子の作用は桂枝加苓朮附湯などと同じように全身の新陳代謝を盛んにするため、心悸亢進やめまいを治す作用、すなわち駆水剤と同じような働きしかないことになり、当帰芍薬散加附子を用感る時のような心配は少ない。
 処方例5 大承気湯、小承気湯、調胃承気湯、大黄牡丹皮湯、桃核承気湯
 これらは組み合わせて投薬されたと言う意味ではなく、これらの薬方が単独でまたは他の薬方と合方して処方された場合に、ただ黙って投薬するのではなく、何かひとこと言っておかなければならない処方例である。言うまでもなく、これらは、大黄と芒硝、大黄と順気剤、大黄と芒硝の順気剤の組み合わせであり、強い下剤である。従って本方を服用すれば、軟便あるいは下痢便となるのは当然のことである。そのため、患者に不必要な心配をかけることのないように、予め注意を与えておかなければならない。このことは逆に言えば、服用しても軟便にも下訳便にも(普通便でもよいが)ならず、もとのままの状態であるならば効果はないと思わなければならない。
 ところが反対に、便秘していないので下剤の作用のある大黄はいらないからと言って、安易に去大黄とする傾向がある。例えば柴胡加竜骨牡蛎湯去大黄や大柴胡湯去大黄などがこれらの例であるが、大黄の薬効が下剤としてだけに働くのではなく、他の薬味の薬効を強めたり、清熱剤として働いたりもするので、このような加減をするには十分な注意が必要であることは言うまでもない。


生薬の有無あるいは量の多少によって薬方の主証あるいは主証の一部が決定するもの

1.柴胡について
 柴胡が薬方に中に四g(時として三g)以上配剤された場合には、薬方の主証あるいは主証の一部に、胸脇苦満を治す作用が加わる。従ってどのような薬方であっても、胸脇苦満を治す作用を加えたければ柴胡を加えたらよい。しかしその量が三gに満たなければ、それらは胸脇苦満を治す作用としては現れず、体質改善としてのみ働くようになる。この柴胡の加方は相加作用的であるが、柴胡の場合は主証の一部が決定するのに対して、他の一般の相加作用だけの生薬の加減は客証(あるいは副証)の変化に留まり、主証の変化までは及ばない。
  例えば大柴胡湯(柴胡、半夏、生姜、黄芩、芍薬、大棗、枳実、大黄)では、柴胡が六g配剤されているため、胸脇苦満を治す作用がある。この柴胡は同時に気うつを治す順気剤である枳実と、下剤である大黄とが配剤されているため、胸脇苦満を治す作用は強烈となっている。なお、ここで配剤された半夏は、生姜と組み合わられて鎮痛剤として働くことは今更うまでもないことであろう。柴胡加竜骨牡蛎湯(柴胡、半夏、茯苓、桂枝、黄芩、大棗、生姜、人参、竜骨、牡蛎、大黄)は、柴胡が五gしか配剤されていないこと、気の上衝を治す順気剤である桂枝と下剤である大黄が組み合わされていることより、大柴胡湯よりも虚証の薬方であることがわかる。また本方には、半夏と生姜、大棗の組み合わせ(鎮嘔、鎮痛)、茯苓と桂枝の組み合わせ(心悸亢進、めまい)、および人参、生姜(水毒)の薬効が組み合わされている。四逆散(柴胡、芍薬、枳実、甘草)では、柴胡の量は柴胡加竜骨牡蛎湯と同じであるが、本方には気うつの順気剤となる枳実はあるものの、下剤がなく、下剤による作用の増強がないため、柴胡加竜骨牡蛎湯よりも虚証の薬方となる。小柴胡湯(柴胡、半夏、生姜、黄芩、大棗、人参、甘草)では、柴胡は順気剤とも下剤とも組み合わされていないため、作用の増強はなく、柴胡七gだけの作用しかない。また本方には、半夏と生姜、大棗、甘草の組み合わせおよび生姜と人参が組み合わされているため、それらの薬効が加えられている。柴胡桂枝乾姜湯(柴胡、桂枝、瓜呂根、黄芩、牡蛎、乾姜、甘草)は、柴胡に気の上衝を治す順気剤である桂枝が配剤されているため、小柴胡より実証の薬方となりそうであるが、柴胡は六gしかなく、小柴胡湯より少なく、また本方には新陳代謝の賦活作用のある乾姜が配剤されていることより、小柴胡湯より虚証の薬方となっている。加味逍遙散(当帰、芍薬、柴胡、白朮、茯苓、生姜、牡丹皮、山梔子、甘草、薄荷)では柴胡は三gであり、胸脇苦満を治す作用は弱い。これが補中益気湯(黄耆、人参、白朮、当帰、陳皮、生姜、大棗、柴胡、甘草、升麻)では柴胡は二gであり、胸脇苦満はほとんど見られず、体質改善薬として用いられる。また加味逍遙散や補中益気湯のように配剤された薬味の数が多い薬方は、作用が弱くなっている。
(以下次号に続く)










※「えいままよ] → 「えい、ままよ」

※汗の出ている、虚証の人
 汗が出ているので表虚のはずであるが、麻黄や石膏が入っているため、一般的には越婢加朮附湯は実証向けの薬方(処方)と言われている。
 同様に汗が出る時に用いる麻杏甘石湯も、一般的には麻黄や石膏が入っているため、一般的には実証の薬方と言われる。
 ただ、村上先生は虚証としているが、麻黄や石膏が入っている薬方(処方)は胃腸障害を起こし易いので、胃腸の弱い人に用いる時は注意が必要な旨はおっしゃっていた。
 一般的に、胃腸が弱い人は虚証と言われるので、それに用いることができない(難しい)越婢加朮附湯や麻杏甘石湯は実証と言われるのもある意味しょうがないのかもしれない。

※咳が非常に強くなっていれば、葛根湯よりも実になったと考えられる
村上先生の虚実の考え方の一つに、症状が激しいのは実というものががる。

※桂枝湯と麻黄湯の合方
桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)(桂麻各半湯(けいまかくはんとう))
奥田謙蔵系列の先生は、風邪には葛根湯より桂麻各半湯の方を良く使うとも。

※柴胡加竜骨牡蛎湯去大黄
ツムラ12番の柴胡加竜骨牡蛎湯は、実際は柴胡加竜骨牡蛎湯去大黄なので注意が必要。
大自敬節先生に大黄は加減するものと言われて抜いたと言われている?

※ 大黄の薬効が下剤としてだけに働くのではなく
大黄の清熱作用に近い生薬としては犀角(さいかく)があったが、
犀角はワシントン条約で使用不可。

※薬方に中に四g(時として三g)以上配剤された場合
半量処方の場合は?
バランスの関係。

※半夏は、生姜と組み合わられて鎮痛剤として働く
半夏と生姜の組み合わせは鎮痛よりも痛嘔が主。(鎮痛作用もある)
半夏と甘草・大棗との組み合わせが痛鎮が主。

※生姜(水毒)
 ここの水毒は胃内停水が主。全身の水毒ではなく部分的な水毒。

柴胡桂枝乾姜湯(柴胡、桂枝、瓜呂根、黄芩、牡蛎、乾姜、甘草)は、~~~小柴胡湯より虚証の薬方となっている。
本来は柴胡の量が六gと少なくても、順気剤である桂枝が入っていることで、薬効は柴胡七gの小柴胡湯より強くなるはず。
後の説明では、柴胡湯類の方が強くなるとのこと。
同じ柴胡剤でも、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯などは柴胡湯類だが、四逆散や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡湯類ではない。