健康情報: 生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)

2018年8月1日水曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)
 村上 光太郎

 7、順気生薬と下剤について

 気のうっ滞を治す枳実、厚朴、蘇葉等や気の上衝を治す桂枝等の順気生薬が、薬方中に配剤された場合、その薬方の薬効は、ただ単に基の薬方に順気生薬が相加的に加えられたというのでは説明がつかず、すでにある生薬及び生薬の組み合わせで生じた薬効を相乗的に増強していると考えなければ説明がつかない。特に気のうっ滞を治す順気生薬が配剤された場合は、気の上衝を治す順気生薬が配剤された場合と比べて薬効は非常に強くなる。また薬方中に大黄あるいは大黄と芒硝の組み合わせたものが配剤された場合も同様に、相乗的に薬効が増強される。
 今、駆瘀血生薬の桃仁について考えて見ると更に理解が容易になるであろう。桃仁の駆瘀血作用を増強する方法は種々のものがある。それらをまとめて見ると①桃仁の使用量を増やす、②他の駆瘀血生薬と組み合わせる、③順気生薬を加える、④下剤を加える、な体登置ある。①及び②の方法は相加的であり、③及び④の方法は相乗的である。従って駆瘀血剤を質的に変化されるのではなく、強さだけを増強したいのであれば③及び④の方法を使用すればよいと考えるのは当然である。
 この場合、③の方法だけでも、④の方法だけでも、また③と④の両方を用いてもよい。③として桂枝を、④として大黄と芒硝を考えて、先の桃仁に加えたものを見ると、桃核承気湯(桃仁、桂枝、大黄、芒硝、甘草)〔この場合、余分に甘草があるが、甘草は主薬となりえない時には、ほとんどその本来の作用は現さず、主に他薬の調和やその薬方を飲みやすくする効果しかない〕となる。本方体試f順気剤の桂枝は大黄と芒硝による下剤を強め、また桃仁の駆瘀血作用を強める。また大黄と芒硝による下油は順気剤である桂枝帝、駆瘀血生薬の桃仁の作用を強める。また互いに影響しあって強力となった桂枝と大黄と芒硝の組み合わせは、更に桃仁の作用を強めているため、本方には駆瘀血生薬は桃仁だけしかないにもかかわらず、強力な駆瘀血剤となっている。
 また、下剤(下痢止め)、温補剤の一連の生薬を例にとって見ると更に明瞭となる(表参照)。この一連の生薬は患者の虚実によつ言て使い分けがなされる。例えば便秘をしている人でも、虚証の人に用いる場合は温補剤である乾姜、附子が配剤された薬方で便通をつけるが、実証の人に用いる場合は大黄あるいは大黄と芒硝の組み合わせで便通をつけるか、更に順気剤を加えて作用を増強させて用いる。下痢している場合も同様に考えて使用すれば良いのである。
 これを実際に薬方にあてて見ると更に明瞭となる。すなわち、気のうっ滞を治す順気剤である厚朴、枳実、蘇葉と下剤である大黄と芒硝を加えたもの、例えば大承気湯(大黄、芒硝、枳実、厚朴)は最も実証の人に用いる薬方であり、便秘は強く、あるいは下痢している場合には、下痢は激しく、下痢すれば苦痛を強く訴え、また下痢による疲労も強く、大騒ぎする人に用いる。しかし気のうっ滞を治す順気剤に大黄だけを加えたもの、例えば小承気湯(大黄、厚朴、枳実)は下剤と気のうっ滞を治す順気剤と言う意味では大承気湯と同じであるが、下剤そのものが大黄と芒硝の組み合わせから大黄だけに変わっているため、小承気湯は大承気湯より下剤の作用は弱い。
 下剤に気の上衝を治す順気剤が配剤された場合は、気のうっ滞を治す順気剤が配剤された場合より更に下剤(下痢止め)の作用は弱く、例えば先に述べた桃核承気湯は気の上衝を治す桂枝と下剤の大黄と芒硝の組み合わせであり、小承気湯の気のうっ滞を治す厚朴、枳実と下剤の大黄の組み合わせより虚証の薬方である。気の上衝と治す桂枝と下剤だけの組み合わせ、例えば柴胡加竜骨牡蛎湯(柴胡、半夏、茯苓、桂枝、黄芩、大棗、人参、竜骨、牡蛎、生姜、大黄)は下剤という面から見れば、桃核承気湯より芒硝が欠けた形であるため、桃核承気湯よりも虚証である。
 順気剤の配合されていない大黄と芒硝だけの例えば調胃承気湯(大黄、芒硝、甘草)は順気剤による作用の増強がないため、それのある柴胡加竜骨牡蛎湯よりも虚証の薬方となっている。三黄瀉心湯(大黄、黄連、黄芩)は、下剤は大黄だけであるため調胃承気湯より虚証の薬方となる。
 ここまではこの項に関係した、すなわち順気生薬や下剤によって薬効が相乗的に増強されている例であるが、更に便秘あるいは下痢している人に用いる生薬、あるいは温補剤として用いる生薬という面で虚証の薬方まで見ると、大黄を用いると便通はつくが、同時に腹痛も生じるという人には、大黄は実証の薬味となり、強すぎるので、作用の弱い山梔子の配剤された薬方、例えば黄連解毒湯(山梔子、黄連、黄芩、黄柏)が用いられる。更に虚証となって新陳代謝が衰え始める(冷えも強くなる)と便の状態が今までの大黄あるいはその組み合わせを用いたような太くて大きい塊の便ではなく、ウサギの糞のように小さい塊となった、コロコロした便となる。このような時には乾姜の配剤された、例えば人参湯(人参、白朮、甘草、乾姜)を用いる。 更に虚が強くなり、新陳代謝機能の衰えが強くなると、乾姜では働きが弱すぎるため、附子の配剤された、例えば真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を用いる。更に虚が強くなると、附子だけでは弱いため、附子と乾姜を組み合わせた、例えば四逆湯(甘草、乾姜、附子)を用いて新陳代謝機能を亢める。今、便秘について述べて来たが、大黄の配剤された場合同様、下剤の場合は虚実によって使い分ける。すなわち下痢していてもそれほど苦にならないような場合、水様性便、泥状便、完穀下痢(食べたものが消化せず、便の中に出る下痢)の場合は虚証なので乾姜または附子あるいは乾姜と附子を組み合わせて用いるが、下痢でも裏急後重の甚だしい下痢(トイレから離れることの出来ないほど激しい下痢)、少し下痢しても今にも死ぬかと思うように訴える人、またそれほどまでいかなくても下痢すれば疲労感の甚だしい場合(裏急後重の強いほど、症状を激しく訴えるほど実証となる)は実証なので大黄または大黄と芒硝あるいな更に順気剤を加えたものを用いる。

 8、相加作用のみの生薬

 薬方の薬効を見てい決と、今まで述べてきたような、組み合わされると薬効に変化を生じるものは生薬全体から言うと案外少なく、この項で述べるような相加作用のみ考えればすむと言う生薬の方が種類が多い。しかし使用される薬方の頻度や、誤って使用した時の危険性なども考え合わせると、組み合わせて使用すれば変化する生薬の方が重要である。
 相加作用のみで考えることの出来る生薬としては黄耆(寝汗、黄汗を治す)、薏苡仁(皮膚を潤し、瘀血、血燥を治す)〔ただし、薏苡仁は桔梗と芍薬が組み合わされて用いられる場合には桔梗の薬効に方向変換を起こすことはすでに述べた〕、人参(全身の水毒を治す)、生姜(胃内停水を治す)〔ただし、生姜は半夏と組み合わされて用いられる場合には半夏の薬効に相殺作用を起こすことはすでに述べた〕、駆瘀血生薬(当帰、川芎、桃仁、牡丹皮、地黄など)、鎮咳剤として用いられる生薬(杏仁、五味子、麦門冬、大棗)〔ただし、大棗は半夏と組み合されて用いられる場合には半夏の薬効に方向変換を起こすことはすでに述べた〕など種々のものがある。
 たとえば黄耆建中湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、黄耆、膠飴)は小建中湯に黄耆を加えただけのもので、小建中湯証に黄耆(表虚:盗汗、皮膚の乾燥)が加わったものある。当帰建中湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、当帰)は小建中湯より膠飴を除いて、当帰を加えたもので、小建中湯証に当帰の薬効(駆瘀血作用)が加わったものである。それでは帰耆建中湯はと言うと、小建中湯に黄耆と当帰を加えたもので、小建中湯証より表虚が強く、かつ瘀血が認められる人に用いる薬方である。
 またよく、交通事故の後遺症(例えばムチウチ症)に使用される桂枝茯苓丸加薏苡仁も同様に瘀血を治す桂枝茯苓丸に、皮膚を潤し、瘀血、血燥を治す作用のある薏苡仁を相加的に加えたものである。従って桂枝茯苓丸を用いるより実証の人には桃核承気湯加薏苡仁
あるいは大黄牡丹皮湯加薏苡仁とすればよいし、虚証の人には当帰芍薬散加薏苡仁あるいは加味逍遙散加薏苡仁とすれば良いことは、薏苡仁が相加作用のみの生薬であることを知っていれば今更、言う必要のない事であろう。
 人参と生姜の薬効の違いは附子湯(茯苓、芍薬、人参、白朮、附子)と真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を見れば明らかである。すなわち寒と瘀水が全身に広がっているか、体の一部に停滞しているか、あるいは胃部に停滞しているかによって、人参の組み入れられている附子湯を用いるか、生姜の組み入れられている真武湯を用いるかが決められる。それでは胃内停水もあるし、全身にも瘀水があるという場合にはどうすればよいかについては今更、言うに及ばないことであろう。
 駆瘀血剤の各薬方の関係は駆瘀血生薬が相加作用よりなるため、配剤された生薬を見ればよく理解できる。すなわち四物湯(芍薬、当帰、川芎、地黄)は当帰、川芎、地黄の駆瘀血生薬(地黄は強壮剤にもなる)に筋肉の緊張を和らげ、緩和鎮展作用のある芍薬が組み入れられている。従って四物湯は虚証で瘀血があり、そのために痛む所がある人に用いる薬方である事がわかる。この地黄の代わりに茯苓の組み合わせとおき変えた、すなわち茯苓と白朮の組み合わせによる胃の機能を亢め、胃内停水を去る作用と、茯苓と沢瀉の組み合わせによる利尿作用を加えたものが当帰芍薬散(芍薬、当帰、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)である。従って本方と四物湯を比べれば、本方には四物湯にある、強壮剤の地黄が欠けているため、本方は四物湯より実証の人に用いる薬方であることがわかる。しかも本方には茯苓の組み合わせがあるため、四物湯は瘀血を治す作用しかないが、本方には瘀血と瘀水を治す作用がある事がわかる。桂枝茯苓丸(芍薬、牡丹皮、桃仁、桂枝、茯苓)では四物湯の当帰、川芎の代わりに、駆瘀血作用の強い牡丹皮、桃仁が入っていること、強壮剤となる地黄が欠けている事より、四物湯より実証の人に用いる薬方である事がわかる。また本方には茯苓が入っているため瘀水はあるが、当帰芍薬散のように白朮や沢瀉がないため、瘀水を積極的に体外に出すことは出来ない。従って本方の瘀水は当帰芍薬散と比べて弱いことがわかる。また本方には桂枝が配剤されているため、7、順気生薬と下剤の項ですでに述べたように、瘀血や瘀水を治す作用は強くなっている。しかし瘀水を治す作用は強くなっていると言っても、茯苓と桂枝の組み合わせとなるため、心悸亢進やめまいを鎮める働きとなり、当帰芍薬散の茯苓と白朮や沢瀉の組み合わせによる駆水作用には劣る。従工て一般によく言われる、当帰芍薬散は冷え(瘀水)てのぼせる人に用いるが、桂枝茯苓丸はのぼせ(瘀血)て冷える(瘀水)人に用いると言う使用目標もよく理解できるであろう。桃核承気湯(桃仁、大黄、芒硝、桂枝、甘草)では駆瘀血生薬の桃仁が下剤(大黄、芒硝)や順気剤(桂枝)と組み合わされているため、駆瘀血剤としては強くなり、実証の薬方となっている。大黄牡丹皮湯(桃仁、牡丹皮、大黄、芒硝、冬瓜子)では駆瘀血生薬の桃仁、牡丹皮が下剤(大黄、芒硝)と組み合わされて駆瘀血作用が強くなり、更に排膿を主とし、駆水、駆瘀血、順気(気うつ)の作用を併せもつ冬瓜子が配剤されているため、最も実証の薬方となってる。
 駆水剤である苓桂味甘湯(茯苓、桂枝、甘草、五味子)、苓桂甘棗湯(茯苓、桂枝、甘草、大棗)、茯苓甘草湯(茯苓、桂枝、甘草、生姜)の三者は、茯苓、桂枝、甘草は同じく配剤されているが、茯苓の組み合わせの薬効を除いて見ると、三者の違いは明瞭となる。すなわち、三者の違いは配剤されている五味子、大棗、生姜の違いであり、苓桂味甘湯や苓桂甘棗湯は杏仁より虚証の鎮咳薬である五味子を用いるか、精神的なものまで含めた大棗を用いるかの違いであり(生薬の配剤から見た漢方処方解説(2)を参照)、生姜を加えられた茯苓甘草湯の場合は胃内停水が認められるかどうかによって使用が決められるのである。
 以上、1から8までが生薬の相互作用によって理解できるものである。
(以下次号に続く)







※気の上衝を治す桂枝等
等とあるが、他に思い付かない

※従って駆瘀血剤を質的に変化されるのではなく、強さだけを増強したいのであれば③及び④の方法を使用すればよいと考えるのは当然である。
①も同じ生薬の量を増やすだけなので、質は変わらないのでは?

※強力に駆瘀血となっている
桃仁と杏仁の区別は難しい場合があり、市場品は混入している場合が多い。
村上先生は、桃仁は杏仁の代用になるが、杏仁は桃仁の代用にはならないとおっしゃっていた。
杏仁が混入している可能性の高い現在の桃核承気湯は桃仁の薬効、すなわち駆瘀血作用が足りないので、基本的に使わないとおっしゃっていた。
大黄牡丹皮湯か桂枝茯苓丸を考慮。


※下痢している場合も同様に考えて使用すれば良いのである。
漢方の入門書の一部には、便秘を実証、下痢を虚証としているものがあるが、
便秘にも虚証のものがあり、下痢にも実証のものがある。
実証の下痢には、一般的には下剤として知られる大黄、大黄+芒硝、あるいは大黄+芒硝+順気剤を用いる。
村上先生によると虚実の一つの考え方として、症状を強く訴えるものは実証で、それほど強く訴えないものは虚証。

※ 気の上衝と治す桂枝と下剤だけの組み合わせ、例えば柴胡加竜骨牡蛎湯(柴胡
ツムラのエキス剤(12番)には大黄が含まれていないので注意。
傷寒論には鉛丹が書かれているが、現在入れることはまずない。

※ウサギの糞のように小さい塊となった、コロコロした便となる。このような時には乾姜の配剤された、例えば人参湯(人参、白朮、甘草、乾姜)を用いる。
兎糞便には、麻子仁丸や渇腸湯が良く使われるが、大黄が配合されている。

※下痢すれば疲労感の甚だしい場合
今常は、実証ではなく、虚証なのでは?

※ただし大棗は、
桂枝と組み合されて用いられる場合には桂枝の薬効(発汗作用)に方向変換(止汗作用)を起こす
の意味の文が抜けている。

※当帰建中湯
小建中湯に当帰を加えたものではなく、小建中湯から膠飴を除いて当帰を加えたもの。
つまり、桂枝加芍薬湯に当帰を加えたものになるのでは?
村上先生の考えとしては、 小建中湯と桂枝加芍薬湯の違いは、基本的な所では同じ。

膠飴は駆瘀血作用を邪魔するので除く。

※桂枝茯苓丸加薏苡仁
桂枝茯苓丸加薏苡仁はエキス剤にあるが、桃核承気湯加薏苡仁、大黄牡丹皮湯加薏苡仁、当帰芍薬散加薏苡仁、加味逍遙散加薏苡仁はエキス剤には無い。
ただし、薏苡仁単味はあるので、それを加えると良い。

 ※
すなわち寒と瘀水が全身に広がっているか・・・・・・人参、
体の一部に停滞しているか、あるいは胃部に停滞しているかによって・・・・・・生姜
(生姜は胃内停水ばかりではない)

※全身にも瘀水があるという場合にはどうすればよいかについては今更、言うに及ばないことであろう。
人参と生姜の両方を用いる

※桃核承気湯(桃仁、大黄、芒硝、桂枝、甘草)では駆瘀血生薬の桃仁が下剤(大黄、芒硝)や順気剤(桂枝)と組み合わされているため、駆瘀血剤としては強くなり、実証の薬方となっている。
最近の桃仁は質が良くない(杏仁などが混ざっている)ので、村上先生は余り使わなくなったとおっしゃっていた。代わりに桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯を使う。
一部に、左の瘀血に桃核承気湯、右の瘀血に大黄牡丹皮湯と言う場合があるが、村上先生は否定。