埴岡 博・滝野 行亮 共著
薬業時報社 刊
K37 杏蘇散(きょうそさん)
出典
楊仁斎(宋)の「直指方」に『上気して喘嗽し,浮腫するを治す』とあり,虞天民(明)の「医学正伝」に『上気して喘嗽し,面目浮腫するを治す』とある。
構成
麻黄,杏仁,甘草,桑白皮は五虎湯去石膏と解することができる。麻黄,杏仁,桑白皮,大腹皮,陳皮は利水剤で,五味子,烏梅は収斂剤,甘草,阿膠は緩急剤である。
目標
気と共に水が上衝して喘咳となり,顔面浮腫を呈する症状を用いる。心不全の場合の呼吸困図に相当するが,衆方規矩の新版によれば『痰の字を使っていないということは,痰のない咳に用いるべきである』という。これは脾胃に痰飲がないということで,稀薄な痰が間断なく出て病人が横になっていられないで上体を起こしていなければならない状態も使ってよい。
また『久喘,久咳,労嗽で汗のない人に用いて奇効がある』とあるのも目標に加えてよいだろう。
応用
(1) 心臓喘息,肺水腫
(2) 慢性気管支炎で痰の出ないもの
留意点
◎中医学で風寒感冒に同名のものを使うが全く方意を異にするので注意を要する。それは温病条弁のもので香蘇散去香附子の加味方である。
文献
1.北山友松子・増広口訣中巻17丁(宝暦4)
2.衆方規矩(燎原書房覆刻・昭555) P.159
K37 杏蘇散
〔成分・分量〕
蘇葉 3.0
五味子 2.0
杏仁 2.0
大腹皮 2.0
烏梅 2.0
紫苑 1.0
桔梗 1.0
桑白皮 1.0
甘草 1.0
陳皮 1.0
麻黄 1.0
阿膠 1.0
以上12味 18.0
カット。500→250煎
〔効能・効果〕
せき,痰
〔ひとこと〕
平成4年6月24日厚生省薬務局長通知によって従来阿膠の代りにゼラチンを使用するよう指定していたのを,阿膠を使うようになった。
『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章
文苑刊
40
《温病条辨》
[成分]:蘇葉3(6)g、麻黄1~1.5g(なし)、桔梗1~1.5(6)g、杏仁2(6)g、紫苑1g(なし)、桑白皮1~1.5g(なし)、陳皮1~1.5(橘皮6)g、取腹皮2g(なし)、五味子2g(なし)、烏梅2g(なし)、阿膠1~1.5g(なし)、甘草1~1.5(6)g、(半夏6g、前胡6g、茯苓6g、枳殻6g、生姜6g、大棗2個)
[服用]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。
[効能]:軽宣涼燥、宣肺化痰
[主治]:外感涼燥、肺気不宣
[症状]:微頭痛、悪寒、無汗、咳嗽、痰が薄く少ない、咽や鼻の乾燥、鼻づまりなど。舌苔が白少、脈が浮弦。
[説明]:軽宣涼燥と宣肺化痰の効能を持っており、外感涼燥と肺気不宣の病気を治療することができる。
本方は《温病学》では秋燥の外感涼燥を治す方剤である。
本方に含まれている蘇葉、麻黄は辛温解表し、桔梗、杏仁、紫苑、桑白皮は止咳平喘し、陳皮、大腹皮た降逆除満し、五味子、烏梅は斂肺止咳男%阿膠は補血養陰し、甘草は諸薬の薬性を調和させる。(半夏、前胡、茯苓、枳殻は化痰平喘し、生姜、大棗は調和脾胃する)。
本方は原著では五味子、大腹皮、烏梅、麻黄、桑白皮、阿膠、紫苑がなく、前胡、枳殻、半夏、茯苓、生姜、大棗がある。
《医宗金鑑》には杏蘇飲がある。杏蘇散は蘇葉、杏心、桔梗、橘皮(橘紅)、甘草、前胡、枳殻、生姜もあり、本方と効能が似ているが異なる方剤である。また本方という杏蘇散は香蘇散と異なる方剤である。香蘇散は一般用と医療用の漢方方剤である。
本方は’74年に厚生省が承認したものより、桔梗を1gから1~1.5gに、陳皮を1gから1~1.5gに、甘草を1gから1~1.5gに、麻黄を1gから1~1.5gに、、桑白皮を1gから1~1.5gに、阿膠を1gから1~1.5gに変えている。また阿膠の代わりに、ゼラチン、良質のニカワを用いても許可したことが消除されている。
日本と中国の方剤を比べると主に、日本で使用されている杏蘇散は発汗(麻黄)、平喘(紫蘇、桑白皮)の効能が強く、補血止血(阿膠)と斂肺固気(五味子、烏梅)の効能があるが、中国で使用されている杏蘇散は化痰降逆(半夏、前胡、茯苓、枳殻)の効能が強い。
外感涼燥型に属するインフルエンザ、慢性気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症、肺気腫などの治療には本方を参考とすることができる。
『衆方規矩解説(49)』
日本東洋医学会会長 室賀 昭三
喘嗽門・咳嗽門
■杏蘇散
次は附方として、
「按ずるに痰なくして咳嗽するを治するの主方なり。楊仁斉が『直指方』に上気喘嗽面腫を治すといい、虞天民が『正伝』(医学正伝)に上気喘咳面目浮腫を治すという。二書ともに疾の字なく、方
中に疾薬なし」と書いてありますが、桑白皮、紫苑、紫蘇、五味子、杏仁、桔梗、麻黄など呼吸疾
患にかなり頻用される内容が多く入っていますので、この薬は使ってみても面白いのではないかと
思いますが、現在は杏蘇散をお使いになっている先生はないようです。私の記憶では矢数道明先生が以前一回お使いになったのを見たような気がして調べてみましたが、先生の本には発表されておりませんでした。
『漢方処方・方意集』 仁池米敦著 たにぐち書店刊
p.95
[薬局製剤] 蘇葉3 五味子2 杏仁2 大腹皮2 烏梅2 紫苑1 桔梗1 桑白皮1 甘草1 陳皮1 麻黄1 阿膠1 阿膠を除く以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製し、これに阿膠鴎を添付する。
«仁斉直指方»紫蘇葉3 五味子2 杏仁2
紫蘇葉と阿膠以外を煎じて、煎じ終わる数分前に紫蘇葉を加えて煎じ滓を去った後、煎液に阿膠を溶かして服用する。
【方意】 津液と気を補って湿邪と熱を除き、肺大腸と腎を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし、
[原文訳]«仁斉直指方・喘嗽»
○上氣して、
«温病条弁»茯苓6 半夏5 杏仁5 大棗4 紫蘇葉3
【方意】 津液と気を補って気滞と湿邪を除き、肺大腸と脾胃を調えて、気と水の行りを良くし発散し痰を去り上逆した学を降ろし、咳嗽や
[原文訳]«温病条弁・上焦篇・補秋燥勝氣論»
○燥により本臓が
『一般用漢方製剤製造販売承認基準 』
厚生労働省医薬・生活衛生局 平成29年4月1日
37 杏蘇散
〔成分・分量〕蘇葉 3、五味子 2、大腹皮 2、烏梅 2、杏仁 2、陳皮 1-1.5、桔梗1-1.5、麻黄1-1.5、桑白皮1-1.5、阿膠1-1.5、甘草1-1.5、紫苑1
〔用法・用量〕湯(原則として)
〔効能・効果〕体力中等度以下で、気分がすぐれず、汗がなく、ときに顔がむくむものの次の諸症: せき、たん、気管支炎
散