健康情報: 分消湯(ぶんしょうとう) の 効能・効果 と 副作用

2012年9月1日土曜日

分消湯(ぶんしょうとう) の 効能・効果 と 副作用


漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

分消湯(ぶんしょうとう)
蒼朮 茯苓 白朮各二・五 陳皮 厚朴 香附子 猪苓 沢瀉各二・ 枳実 大腹皮 縮砂 木香 生姜 燈心草各一・ 
本 方は消導の剤で、気を順らし、食滞を去り、水腫を治するのが目的である。一般に腹水鼓腸初手で実證のものに用いられる。その目標は心下痞硬し、小便短少・ 便秘の傾向があり、その腫脹に勢があって充実し、食後飽悶を訴え、噫気・呑酸、少し食べても心下部の飽悶感に苦しむものに用いてよい。
方中の蒼朮・厚朴・陳皮は平胃散の意で脾胃を健にし、宿食・停水を消導し、白朮・茯苓・猪苓・沢瀉は四苓湯で利水を図り、停水を去る。枳実・香附子・大腹皮・砂仁等は気を順らし、鼓腸を治する作用がある。
以上の目標に従って本方は、滲出性腹膜炎・腎臓炎の浮腫・腹水・鼓腸等に応用される。



 『漢方精撰百八方』
88.〔分消湯 〕(ぶんしょうとう)
〔出典〕万病回春
〔処方〕蒼朮、白朮、茯苓 各3.0 陳皮、厚朴、香附子、猪苓、沢瀉 各2.0 枳実、大腹皮、砂仁、木香、燈心草、乾生姜 各1.0(腎炎による浮腫には生姜を去るがよい)
〔目標〕この方は気(ガス)と水をめぐらし去る薬を組み合わせたもので、皷脹と腹水、全身浮腫にも用いられる。即ち皷脹や浮腫や腹水があって、心下部が堅 く緊張し、小便が黄色で、大便は秘結の傾向がある。浮腫には勢いがあって、圧迫した凹みがすぐに元に戻りやすい。食後お腹が張って苦しく、噯気、呑酸などが起こる。浮腫を圧して陥んで下に戻らないのを虚腫というが、一見虚腫にみえて実腫があるから、脈状その他を参照して鑑別する必要がある。
〔かんどころ〕食事を一杯食べても三杯も四杯も食べたように、腹が苦しくなるという。そして皷脹、腹水、浮腫があり、心下痞鞕し、小便が少なく、大便秘結し、腫れに勢いがあって、脈沈実のものに用いる。
〔応用〕滲出性腹膜炎・腎炎・ネフローゼ・腫水・皷脹・肝硬変による腹水などに用いられる。
〔附記〕本方の中の枳実を枳殻に代えたものを実脾飲という。分消湯は皷脹を主とし、実脾飲は腹水を主とする。やや虚して停水が強い。
〔治験〕輸胆管潰瘍兼肝臓肥大
 57才の男子、体格は長大、栄養もそれほど衰えていない。顔色は特有で黒褐色、煤を塗ったようである。酒を好み、昨年より黄疸を発し、腹水著明となり、入院して精密検査の結果、前記の病名をつけられた。
 1ヶ月半ばかり入院治療をうけたが、これ以上腹水は去らないから退院するがよいといわれて自宅療養をしていた。脈状に大した変わりはなく、舌白苔少し、 全身皮膚は恰も魚の薫製のように黄褐色である。腹部膨満して波動著明、腹囲は84糎で、肝二横指触れる。体動事呼吸困難と心動悸を訴える。食欲と便通は普 通、尿は7回で合計700位、食事をすると心下部がとても苦しいと訴える。分消湯 に小柴胡湯を合方して与えたところ、尿量は増加し、腹水も漸次減少し、皮膚の黄褐色も消退し、服薬2ヶ月で殆ど治癒した。
矢数道明


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。
各薬方の説明
1 分消湯(ぶんしょうとう)  (万病回春)
〔蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)各二・五、陳皮(ちんぴ)、厚朴(こうぼく)、香附子(こうぶし)、猪苓 (ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)各二、枳実(きじつ)、大腹皮(だいふくひ)、縮砂(しゅくしゃ)、木香(もっこう)、生姜(しょうきょう)、燈心草(と うしんそう)各一〕
本方は、平胃散(前出、裏証Ⅰの項参照)に四苓湯(しれいとう)〔五苓散(ごれいさん)から桂枝を除いたものであり、瘀水が体内にあるが、気 の上衝がないため、頭痛、めまい、嘔吐などが弱いものである〕を合方し、さらに枳実、香附子、大腹皮、縮砂、木香、燈心草を加えたものである。したがっ て、本方は実証の浮腫を治すもので、気をめぐらし、食滞を去り、尿利をつけるものである。本方は、浮腫、腹水、腹満、腹痛、心下痞硬、便秘、尿利減少など を目標とする。本方證の浮腫は、実腫であり、特に全身浮腫に適するものが多い。またごく少量の食物をとっても、すぐに腹がいっぱいとなって苦しく感じると いうことも目標にすることがある。
〔応 用〕
つぎに示すような疾患に、分消湯證を呈するものが多い。
一 腎炎、ネフローゼ、腹水その他の泌尿器系疾患。
一 そのほか、肝硬変、腹膜炎など。



『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
気から水
養胃湯と分消湯
 中島先は常々、「本の目次というものは大切なもので、各門の配列の仕方を見れば、その本の性格が分る。そのつもれで眺めると、面白いものです」といっておられる。我々は本を読むとき、とかく中身の目新らしさや、個々の文句、単語にとらわれて、全体が見えなくなりがちである。中島先生はこの話を通じて、我々に漢方の考え方、学び方、さらには診断の仕方をも教えておられるのであろう。
 その気になって『古今方彙』の目次を眺めると、「諸気」、「痞満」、「鼓脹」、「水腫」という一連の配列が目につく。「気」、「血」、「水」といわれる人体の基本的要素のうち、「気」から「水」への連関である。すでに、「諸気」とその代表方である「分心気飲」については、紹介しているので、ここでは「痞満」に対する養胃湯と、「鼓脹」に対する分消湯を取り上げてみたいと思う。いずれも中島先生が日頃愛用しておられる重要な方剤である。
 さて、人体の60%を占める水が、いかに重要なものであるかは今さらいうまでもないが、この水分の調節は、滲透圧や血圧を基礎に、各種内分泌の影響のもとに、腎臓で行われていることはよく知られている。そしてこの現代医学的生理は、「腎は水液を主る」という蔵象学説とも一致し、沢瀉や猪苓等多くの利水剤も、帰経は腎、膀胱となっているが、これらの生薬と現代医学の利尿剤とは何らかの共通性があるのであろう。
 しかし、今一つ忘れてならないことは、漢方においては健脾利水という薬効を持つ白朮や茯苓など一連の重要な薬物があることである。このような薬効は、「脾は水穀の運化を主る」、あるいは「脾は生痰の源」といった臓象学説と生理とも対応するものであるが、これらの薬理と人体の水の流通とを考え併せたとき、どうしても各種消化液の分泌と再吸収の問題に行きあたざるを得ないようである。成書によると各種消化液の一日の分泌量は、唾液一、五〇〇mL、膵液七〇〇mL、腸液三〇〇〇mLとなっており、総量は五七〇〇mLにも達する。そして例えば、現代薬理的に利胆作用が認められるといわれる茵陳にしても、中医学書ではやはり利水薬の分類に入れられ、帰経も脾胃および肝胆とされている。そして、これに利水剤の基本方五苓散を合わせたものは茵陳五苓散と呼ばれ、各種黄疸あるいは浮腫に対する処方として有名であるが、その内容は、
  茵陳・・・・・・肝胆脾胃
  白朮・・・・・・脾胃
  茯苓・・・・・・肺脾胃腎
  沢瀉・・・・・・腎膀胱
  猪苓・・・・・・腎膀胱
  桂枝・・・・・・肺膀胱
と肝胆、脾胃、腎膀胱にまたがった利水剤の組み合せである。
 このような臓象学者あるいは、これに基づく本草学的薬効にどの程度まで信頼がおけるかどうかは別として、こうした消化液の分泌と再吸収に、一寸とした狂いが起れば、人体に少なからぬ影響を与えることは容易に想像される。今後これら生薬の薬理を明らかにしていく過程で、あるいは人体における全身的な水分調節機構に新たな頁が付け加えられるかも知れない。
 それはともかく、これら各種消化管の運動、さらには、これに影響を与える精神的なストレス等を「気」の働きとするならば、この気と体内を不断に流動する水との関係が、とりも直さずここでのテーマ、気と水の関係なのである。

 痞満とは
 漢方の本には、よく見なれない漢字や用語が出てくる。心下痞とか、胸脇苦満とか脹満等いずれも大よその見当がつくが、さて一体自覚症なのか、本当に脹っているのかとなると判然としなくなる。まずこの痞満という言葉について、『方彙口訣』を開いてみよう。
 「さてこの痞と満と脹との三字が、皆同じようなれども、皆その心持は違うぞ。
 まず満と脹とを分けていわば、満とは病人の心で脹り膨れたる如く思えども、外より見れば平日の通りにて脹りておらぬのなり。故に腹満、胸満とはいえども、内で満支えて(も)、外へは脹り出さぬのなり。当人の心持ばかりで脹るのぞ。脹は張なりとて、病人の心でも脹りたると思い、外から見ても脹り出したるに相違なきというが脹の字なり。
 また痞の字は、天地否の否と同じことにて、上下升降の否ることなれば、胸先の処に恰も栓指した如くに支え否るのなり。食は喰わずとも、常々大食せし時のようなる心持ちなり。故に痞えて堅きは痞堅、また(は)痞鞕というなり。
 この痞満という証は多くあることにて、胸と腹とに境が立ち、恰も胸をしめたる様なの(で)、胸先きばかりで脹る心持なり。腹を倒まにしたるようなのなり。」
 という訳で、痞満といった場合は主に自覚症を指すようであるが、この痞満を治療するに当り、筆頭に挙げられているのが養胃湯である。
 この『古今方彙』に挙げられている養胃湯という処方であるが、その原典は、『万病回春』となっている。しかし前に参蘇飲を紹介した時、その『和剤局方』の条文にも「養胃湯を服する法の如く・・・・・・」といったくだりがあったことを記憶しておられる方もあろう。しかし『和剤局方』にはこの名の処方はなく、参蘇飲の一つ前に人参養胃湯というのがあり、おそらくこれを指していったものと思われる。
 実は『万病回春』の養胃湯も、この人参養胃湯から発していると思われるので、まずこれから先に調べていこう。

 人参養胃湯
 『和剤局方』の条文は極めて長部で一部略そうかとも思ったが敢えて全文を紹介する。
 「風寒による外感、生冷による内傷にて、寒を憎み、熱は壮ん。頭目は昏み疼み、肢体拘急する(ひきつれる)を治す。風寒の二証及び内外の殊を問わず、l均れも治療すべし。まず厚き被蓋(布団)を用いて睡み、この薬数服を連進し、薄き粥湯の類をもってこれを佐け、四肢に微汗して濈々然(じっとりとする)たらしめ、汗乾くを俟って徐々に被を去り、謹みて外感を避くれば、自然と解散す。もし元より自ら汗あるは、須らく温潤を以てこれを和解し、或は余熱あらば参蘇飲をもって款款(緩やかに)これを調うべし。或は、なお頭疼めば濃煎の生姜葱白湯をもって聖餅子(白玉のようなものか)の如きを下せば、三証既に除かる。則ち必ずしも薬を服さず、但その飲食を節し、その寒温適すれば、自然に平治す。
 大抵の感冒は、古人汗を発せざれば、麻黄によりて敢て軽く腠理(皮膚)を開くに止む。用いて或はその宜しきを得ること能わざれば、則ちその真気を導泄し、よりて虚を致し、変じて他証を生ずるなり。
 この薬は乃ち平和の剤にして、よく温中解表して止むに止め、妄りに擾を致さざる治り。兼ねてよく山嵐瘴気、四時の瘟疫を避く。常に服して尤に佳し。
 半夏、厚朴、蒼朮各一両 藿香、草果、茯苓、人参各半両 甘草二銭半 橘紅(橘皮または陳皮)七銭半
 右★咀をなし、毎服四銭、水一盞半に姜七片、烏梅一個を煎じて六分に至り、滓を去りこれを熱服す。
 兼ねて飲食脾を傷り、発して痎瘧(瘧疾の古称、寒熱をくり返す疾患の総称)をなし、或は脾胃・中脘虚寒して、嘔意悪化するを治して皆これを化すべく、あるいは寒瘧、寒痰及び悪寒を発するものは、併せて附子を加え、これを十味不換金散となす。」
 とあり、「風邪を引いたら、やたらに風邪薬を飲むより卵酒を飲んで寝ているのが一番」といわれるが、味わうべき内容で、中島先生も、風邪の初期や、或はぐずついた場合など、補中益気湯だけを出されることもある。
 この条文から見ると、人参養胃湯という処方は、本来感冒に対して編まれたもののようで、脾胃、痰飲に対する記載はほんの付けたしのようになっている。しかし内容からみると、藿香正気散と同じく平胃散と二陳湯の合方、即ち平陳湯を基礎に人参、草菓、藿香を加えたもので、このうち解表作用のあるのは藿香だけである。しかもこの藿香にしても寛中、理気の作用があり、次第に痞満を主目的とした方剤へと転換されいったのであろう。
 つまり、同じく平陳湯を基としながら一連の正気散は外感湿邪に対する方剤として工夫が進み、以下一連の養胃湯は内傷痞満に対する方剤群へと分かれたのである。
 ここで健脾燥湿、行気導滞といわれる平胃散と、燥湿化痰、理気和中といわれる二陳湯について、『和剤君方』の条文を掲げておく。
 平胃散
 脾胃和せず、飲食を思わず、心腹脇肋脹満し、口苦くして味なく、胸満短気し、噫気呑酸し、面色は萎黄にて肌体は痩弱、怠惰して臥すを嗜み、体は重く節(関節)は痛み、常に多く白利し、或は霍乱(かくらん=激しい下痢)を発するを治す。及び五噎八痞、膈気反胃、併せて宜しく服すべし口:

 二陳湯
 痰飲を患い、或は嘔吐悪心し、或は頭眩心悸し、或は中脘快からず。或は寒熱を為すを発し、或は生冷を食するにより脾胃和せざるを治す。

 養胃湯
 この人参養胃湯から人参を去り、香附子、砂仁、木香、枳実を加え、草果を白豆蔲に換えたものが、『万病回春』の痞満門にある養胃湯で、これがそのまま『古今方彙』に引きつがれているのである。即ちその処方構成は以下の如くである。

 白朮(本来は蒼朮) 

 厚朴             (平胃散)
                    燥湿健脾
 甘草               

 陳皮(橘皮)         (二陳湯
                    理気化痰
 半夏

 茯苓

 藿香

 木香
                    行気止痛
 枳実

 香附子

 砂仁
                    化湿醒脾
 白豆蔲

 このうち、砂仁、白豆蔲および草果の違いについては原植物とされるものが相互に似ており、我々には中々区別がつきにくいが、ここではただ中草薬学書にある白豆蔲と砂仁の違いだけを掲げておく。
 「白豆蔲と砂仁は、性味は同じで効果も類似しており進:いずれも化湿醒脾、行気寛中の要薬である。ただ白豆蔲は芳香の気は清んでおり、温燥の性はやや弱い。それ故湿滞で熱に偏った症に用いられる。一方砂仁は香りは濃厚で気は濁り、温燥の性は比較的強い。そのため脾胃の寒湿で気滞がある症に適している。」
 またこの処方に用いられる理気の香附子と醒脾の砂仁という組み合せは、香砂とよばれて脾胃の剤にはよく見受けられ、この名が冠せされている処方は多い。即ち『古今方彙』の飲食傷門には、香砂平胃散、香砂六君子湯等が見られるが、いずれも香砂に加えて同時に藿香も含まれていることから見れば、逆に養胃湯から派生したもののようにも思われる。この他中医学書には、香砂枳朮丸、あるいは香砂二陳湯といった処方も見うけられる。
 養胃湯の適応症あるいは方意について『万病回春』の条文はいたって簡単で、「胸腹痞満を治す」とあるだけだが、『方彙口訣』にわかりやすい説明があるのでこれを紹介する。
 「この方は名高き薬にて、世上通用するぞ。専ら胸の痞えを治する。俗にいう胸ぶくれして食も喰いともないもの(で)、喰いにかかりても痞えておれば喰えざるなり。同じ痞えるにも痞と結とありて、胸を按ず(る)に痛まぬのは痞満なり。全く気の塞るの(即ち)無形の気の潴り塞のなり。(一方)胸按じて痛むのは支結なり。血や痰や食の類、有形の物の塞りを支えたるのなり。この痛むと痛まぬとにて、有形無形虚実の別を察するなり。
 さて胸の痞えるにも上へ抜くと、傍へ散らすと、下へ泄らすとの三治あり。恰も底を抜くと蓋を取ると、傍へ逐い出すとの取り振りあるが如きそ。故に本方はまず第一に気を瀉し(次に)湿を推し下げ、脾胃の循環を附けるなり。中焦の湿去れば自ら気は潴らぬ様になる。気が脱け泄れると湿も潴らぬぞ。恰も風気の吹き透らぬ処には、湿気を持つ如き象ぞ。風が吹き抜けると宜しきなり。故に気を抜き瀉かし、湿気を取るがこの養胃湯なり。」
といっている。
 我々の外来でも、神経性胃炎、慢性胃炎、あるいは胃下垂症等各種の病名で、胃部の不快感母食欲不振を訴える患者は跡を絶たない。このような場合、自他覚を問わず心窩部に痞えがあれば迷わずこの方剤を用いており、効果は極めてよいようである。
 一般に心下痞には瀉心湯類といわれているが、エキス剤では半夏瀉心湯位しかなく、これも清熱薬があるため使う範囲は限定される。このような場合、私はエキスなら平胃散に二陳湯、または半夏厚朴湯を合わせて使っているが、これに安中散の温胃醒脾の意味を加えたのが養胃湯て、これから見て適用が極めて広いことがお分りいただけると思う。
 さらに血虚に加えて気虚湿痰のある患者は多く、四物湯が胸に痞えるといった場合に、この養胃湯を少し加えると楽に飲めるようになる。エキスの種類も増えつつあるが、このように便利な薬はいつかは取り上げて欲しいものである。

 分消湯
 痞満門の次にくるのが鼓脹門で、この代表方が分消湯である。この処方は肝硬変の腹水に対する特効方として有名で、これまで治験例の発送も多かったようである。しかしこの処方は、本来腹水にだけしか使ってはいけないのであろうか。再び『方彙口訣』の鼓脹についての解説をみてみよう。
 「さてこの鼓脹というは、腹部の膨脹て、恰も鼓皮を按ずる如くなるをいう。手足は痩せ衰えて腹のみ大きくなる病ぞ。蜘蛛蠱などといいて、その形蜘蛛の如く、腹大ににして四肢の細くなるなり。これが本法の鼓脹ぞ。
 なれどもこの門や後世となりては、ただ脹満の総名としてあるなり。なんのことなく腹の脹りて大きくなるは、みなこの門に載せてあるぞ。本法の鼓脹というは、一段も二段も甚しき症ぞ。病人の気(持)で脹るの脹らぬの(といった)差別なく、ただ脹るの病なり。素霊には一種(類)の名と定めてあることぞ。
 なれどもここは総名とみてよきなり。その当人は心に脹ると思えども、外へ脹り出ざるが前の痞満なり。外へ脹り出して大いに脹るのが脹満なり。その脹満のまた甚しきがこの鼓脹なり。右の如く軽重の差別はあれども、悉く腹脹るのぞ・・・・・・。
 この病因はというと、外部の風寒より起るあり。また暑湿が原となるあり。気の鬱滞より発するあり。瘀血の滞りより持出すあり。痰飲あり。水気あり。その他脾胃の虚、湿熱の内攻、表へ出るべき物の出ざるの、下焦命門の不足、肝積、肝気の迫るの、疝積よりして持出すの、食滞が原となるの、小児大人の差別なく虫積より発するの、平日(普段から)積気持ちの煩うの、これ等が多く発病の根本となるなり。それによりて病名も種々となり・・・・・・。」
という訳で、鼓脹直ちに肝硬変の腹水で腹がばんばんに脹ったのと考えるのはやや早合点のようで、中島先生がいわれる「なあーに、腹が脹ってさえいれば、何に使っても宜しい」というのが正解のようである。
 さてこの鼓脹に対する分消湯という処方であるが、あれこれと中医学方剤書を調べてみたが見当らず、かわりに「中満分消丸」および「中満分消湯」という処方が載っている。この両者は各々違いがあり、共に季東垣の『蘭室秘蔵』がその出典となっているが、『古今方彙』即ち『万病回春』の分消湯とはいずれも異なった内容である。

 中満分消丸
 白朮、人参、炙甘草、猪苓、姜黄、茯苓、生姜、砂仁、沢瀉、陳皮、知母、黄芩、黄連、半夏、枳実、厚朴

 中満分消湯
 川烏頭、沢瀉、黄連、人参、青皮、当帰、生姜、広陳皮、柴胡、乾姜、華澄茄、益智仁、半夏、茯苓、木香、升麻、黄耆、呉茱萸、厚朴、草豆蔲、黄柏
で、中医方剤学書には次のように両処方の違いが説明されている。即ち、
 「前者(中満分消丸)は主に熱脹を治し、病は実と熱に偏る。薬物としては枳実、厚朴、黄芩、黄連を主とし、行気泄熱し、兼ねてもって化湿する。行者(中満分消湯)は、寒脹を治し、病は虚と寒に偏る。薬物薬物では烏頭、黄耆、呉茱萸、草豆蔲を主とし、補中益脾し陽気を温通する。」

 内容からみると『万病回春』の分消湯は、この中満分消丸から知母、黄芩、黄連の清熱薬、補気の人参、破血の姜黄を去り、香附子、大腹皮、白豆蔲の理気薬を加え、ほぼ薬性的にも平にもっていったものといえるが、それより養胃湯から半夏、藿香および白豆蔲の寛中利湿薬を去り、かわりに沢瀉、猪苓、大腹皮の利水薬を加え、全体と成て薬効の焦点を、中焦から下焦へと移行されたものと考える方が分りやすい。即ち構成は、
  平胃散加白朮、茯苓・・・・・・・燥湿健脾
  木香、枳実、香附子・・・・・・・・利気止痛
  砂仁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行気寛中
  沢瀉、猪苓、大腹皮・・・・・・・・利水消腫
 となる。ついでながらこの処方からさらに白朮、茯苓、沢瀉、猪苓、大腹皮と利水薬をすべて去り、檳榔と青皮という破気の薬を加え、すべて気剤にしたものが、以前理気剤のところで紹介した『医薬統旨』の木香順気散である。

 分消湯血鼓加減
 さてこの分消湯について『万病回春』には七つの加減方が附され、これはこのまま『古今方彙』にも引きつがれている。即ち、
 「脇満、小腹脹痛し、身上に血絲縷あるはこれ血鼓なり。当帰、芍薬、紅花、牡丹皮を加え、白朮、茯苓を去る。」
とあり、中島先生が分消湯血鼓加減あるいは血分消として愛用されている加減方である。
 この血絲縷というのは、肝硬変等に見られる、くも状血管ないしは静脈の怒脹を示すと思われ、中島先生も本病の腹水に対してよく用いられているが、御令息の泰三先生も先年、東洋医学会で症例を発表しておられたので、この加減方については、既に御存知の方も多いと思われる。
 それはそうとして、以前この加減について、当帰、芍薬という養血薬と、紅花、丹皮の袪瘀薬とを加え、脾虚脹満に瘀血を狭む証に対応するというのは理解できるとして、いったいなぜ白朮、伏梁という健脾利水薬を去つたかが分からず、この点について中島先生にお伺いしたことがある。中島先生は、昔の人は痩せ馬に鞭を打ってはいけないといっておりますな」とあっさり答えられたが、確かに衰弱している患者に対し、強い補剤を用いると、一時的にはよいようでも思わぬ急変をきたすことがあるようである。以前食道癌で食事が通らなくなった患者に、先生ゆずりの『方彙』翻胃門にある当帰養血湯という処方を出したところ、それから四、五日して「物が通るようになって食べさせたのはよいが、今朝から頭が変になって訳の分らないことを言いだした」といって家族がとんで来たことがある。これについては直接の因果関係があったかどうかは分らないが、淡路島におられ断食療法で有名な今村先生も、断食ではその適応とともに復食過程がもっともむずかしいと言っておられ、衰弱した患者の治療に当ってはこのようなこまかい配慮も必要なのだろう。
 ただし中島生先はこの処方を腹水ばかりとは限らず、ただ下腹部が脹っているだけといった場合にも、よく使っておられるようで、私も邪道かも知れないが補中益気湯と合方したりして一般に用いている。
 慢性肝炎において、腹部膨満感はよく表われる症状であるが、これから肝硬変に腹水に到るまでそのタイプや経過はさまざまで、各々の程度、虚実、瘀血の有無等によって、養胃湯、分消湯、それからこの血鼓加減等を、他の薬方とも組み合せ、自由に使ってよいようである。

 実脾飲と実脾散
 最後に水腫門である。この水腫とその治法について『方彙口訣』では次のように述べている。
 「さてこの水腫といって一身の腫れるには、種類多く病名も沢山にあることぞ。五水十種の名目もあり。霊枢には水脹篇や五癃津液別篇あり、また金匱等には水気篇として一篇を立ててあるなり。
 なれども今日病者に向うて、医者の手前で取扱う処は、まず第一に表症と裏症なり。その表裏の症にも、虚と実との二つあり。」
 表症な対しては、大・小の青竜湯をはじめとする各種麻黄剤、裏症に対しては五苓散や猪苓湯があろう。
 「故に一身の水膨れになるも、表陽の虚なりや、裏気の衰弱なりや、痰飲より持出したるものや、気の鬱滞より発りしやとの四通りに見分けるなり。」
 表陽の虚には防已黄耆湯、裏気の衰弱には補中治湿湯、痰飲には胃苓湯が想い浮かぶが、これらについてはまた何かの機会に触れることもあろう。
 そしてこの最後の気の鬱滞による水腫に対する処方として、『古今方彙』では実脾飲を第一に挙げているのである。しかしこの実脾飲と名付けられた処方は、
 「即ち鼓脹門の分消湯にて、枳実を枳殻に代えたるのなり。一体が一身の腫るのは、水の捌き(が)附かざるのなれば、その水はけを附けるようにする。故に水の瀦るの、外表の腫れるの、腹の脹るのは、その原みな脾胃の土の弱りなり。故に本方は分消湯と同方にて実脾の名が附くぞ。
 なれども痰を取る枳実は去りて、専ら気を開くために枳殻を加えるなり。
 二味とも善く似たる性なれども、(枳)穀は無形の気の塞りに用ゆ、故に薬性歌にも快気又気結の文字あり。(枳)実は有形の物の塞るに用ゆ、故に痰を目的とす・・・・・・。
といっているよ乗に分消湯の枳実を枳殻に換えただけのものである。どういわれても、この両者にそれ程の差があるとは思われず、まして現今の日本の流通品では、気にするだけ無駄なようである。
 従って分消湯一つで充分なように思われるが、ここでほぼ同意で内容がやや違う実脾散という処方があるので、ついでに紹介しておく。

 実脾散(済生方)
 「厚朴、白朮、木瓜、木香、草果(仁)、大腹子(皮)、附子、伏梁、乾姜各一両 甘草炙半両 
 ★咀して毎服四銭、水一盞半に生姜五片、棗子一枚と煎じて七分に至り、渣を去って温服す。時候に拘らず。」
 中医学書によればその適応は、「いわゆる陰水に対する処方で、近代的には、慢性腎炎や心臓病の水腫で、脾腎両虚に属するもの」となっているが、私はネフローゼ等で寒証のものによく用いており、効効を得ることが多い。
 以上これまで分心気飲、参蘇飲藿香正気散、養胃湯、分消湯と紹介してきたが、いずれも理気燥湿、利水という気と水の方剤で、内容的にはきわめて類似性に富み、重複する部分も多い。しかし大き決は解表にやや重きを置いた、参蘇飲藿香正気散、および内湿に重点を置く養胃湯と分消湯に分けられ、各々の基本方は不換金正気散と、人参養胃湯といえよう。
 そしてこの両方に共通する部分が藿香と平胃散である。つまりこの藿香あ識いは紫蘇のもつ行気寛中と、平胃散あるいは平陳湯のもつ燥湿健脾がこれらの全処方の核心になっている訳であるが、以上の薬物と方意から考えると、すべての原型は結局のところ『金匱要略』に記載される半夏厚朴湯にその源を発しているといってよいであろう。



※滲透圧=浸透圧
※蔵象学説? 臓象学説?
中医学における重要な学説の一つ。蔵は内に隠れたもので、象は外に現れた現象のことであり、内臓の機能活動状態が外に現れる現象のことを指す。この学説は 五臓を中心にすえ、気・血・津液を基礎物質とし、経絡を介して臓と腑と体の各部を密接に関連ずけ人体という有機的整体を構成していることを前提としている。

※★=口+のぶん 㕮
※★咀(ふそ)
※脾虚脹満に瘀血を狭む証に? → 脾虚脹満に瘀血を挟む証に の間違い?
※【瀦】 潴(異体字)
《音読み》 チョ
《意味》
{名詞}水の集まりとどまったところ。貯水池。
《解字》
会意兼形声。「水+(音符)豬(からだが充実したぶた、肉が集まる)」で、水がひと所に集中する所。
《単語家族》
貯と同系。



【一般用漢方製剤承認基準】
分消湯(実脾飲)
〔成分・分量〕
白朮2.5-3、蒼朮2.5-3、茯苓2.5-3、陳皮2-3、厚朴2-3、香附子2-2.5、猪苓2-2.5、沢瀉2-2.5、枳実(枳殻)1-3、大腹皮1-2.5、縮砂1-2、木香1、生姜1、燈心草1-2(但し、枳殻を用いる場合は実脾飲とする)

〔用法・用量〕


〔効能・効果〕
体力中等度以上で、尿量が少なくて、ときにみぞおちがつかえて便秘の傾向のあるものの次の諸症:
むくみ、排尿困難、腹部膨満感



【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕


 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。 
(3)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。 


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ


3.1ヵ月位(下腹部痛、下痢に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならな
い場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談する
こと

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕

保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくて
もよい。〕


【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕