健康情報: 康治本傷寒論 第五十七条 少陰病,咽痛者,甘草湯主之。

2010年6月21日月曜日

康治本傷寒論 第五十七条 少陰病,咽痛者,甘草湯主之。

『康治本傷寒論の研究』 
少陰病、咽痛者、甘草湯、主之。

 [訳] 少陰病、咽痛する者は、甘草湯、これを主る。

 この条文も前と同じように咽痛の次に脈沈者という句を入れると意味がはっきりする。咽痛は陽病とくに温病のときによく現われるが陰病にも現われる症状であるから、咽痛して脈が沈であるものは少陰病であると解釈しなければおかしなものになる。
 『講義』三六二頁に「此れ少陰病と言うも、唯その類証にして病勢もまた緩易なり」とし、『入門』三八五頁に「本条は少陰咽痛の軽症の治法を論ず」、『解説』四二九頁に「感冒で悪感発熱を訴えて、咽の痛むものは多くは太陽病であるから葛根湯、葛根湯加桔梗石膏などを用いるが、軽症の感冒で、発熱がなく、ただ咽に痛みだけを訴えるものには甘草湯を用いる。この場合、咽が急迫状に強く痛むものもあるが、疼痛がそんなにひどくないものもある」というように簡単な内容の条文のように解釈されている。
 しかし私は猩紅熱のような病気のごく初期に該当することではないかと考えている。『家庭に於ける実際的看護の秘訣』(築田多吉著)三三三頁に「急に振りついて高熱を出し嘔吐するのが多い。一-二日の間に全身に赤い疹が出て、顔は充血しウルシにかぶれた様になります。顔は赤くなるが奇妙に口のまわりだけは蒼白いです。舌ははれてイチゴの様になり、咽喉は初めから腫れて赤くなり痛む。発疹が少ないか、または出ない先には咽喉病と間違う事があります」とあるのがそれである。この条文を軽症にみるのはその拡大解釈なのではないだろうか。


甘草二両。
右一味、以水三升煮、取一升二合、去滓、温服七合、日三服。

 [訳]甘草二両。
    右一味、水三升を以て煮て、一升二合を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。



『傷寒論再発掘』
57 少陰病、咽痛者 甘草湯主之。
   (しょういんびょう いんつうするもの かんぞうとうこれをつかさどる)
   (少陰病で、咽が痛むようなものは、甘草湯がこれを改善するのに最適である。)

 少陰病 でというのは、全体的な状態としては、歪回復力(体力あるいは抵抗力)がかなり減退しているような状態ではという意味です。
 咽痛 とは、口の奥の部分で、食道、気道に通じ、声帯のある所までのあたりに、疼痛を感じることです。
 結局、この条文は、全体的に見て、体力の減退している状態で、咽痛のある人は甘草湯を服用するのが良い、という意味であることになります。咽痛などというものは、陰病に限らず陽病の時にもおきるわけですが、敢えて少陰病としているのは何故でしょうか。
 少陰病というのは、歪回復力がかなり減退しているわけですから、個体病理学の立場でこれを考える時、一般的には、体内水分が減退している状態と考えることが出来ます。そういう状態の時には、「血管内への水分の貯留作用」を持っている 甘草 (第16章3項参照)を投与することは、誠に理にかなっていることでもあり、局所作用の面から見ても、甘草は咽痛の改善に良いと思われます。
 実際臨床の場合、甘草はそれほど体力の減退していない状態でも十分に使用されますので、よほど血圧でも高くなりやすい人は別として、陽病の時の咽痛の改善に活用されても、それほど害になるとは思えません。すなわち、条文に「少陰病」と書いてあるからと言って、それだけにしか使えないと考えるべきものではありません。むしろ、最適な場合を言っているのであると理解しておいた方がよいように思われます。

57' 甘草二両。
   右一味、以水三升煮 取一升二合 去滓 温服七合 日三服。
   (かんぞうにりょう。
    みぎいちみ、みずさんしょうをもってにて、いっしょうにごうをとり かすをさり、ななごうをおんぷくし、ひにさんぷくす。)

 この湯の形成過程と言っても、これは単味の生薬のままですから、あまり複雑なことはないわけです。むしろ、この生薬が他の生薬と一緒になって、色々な湯を形成していくことが多いので、それらに関する原則的な事柄を考察しておいた方が有益であろうと思われますが、それらについては既に第13章1項において十分論述してありますので、興味のある方はそれを参照して下さい。


    
康治本傷寒 論の条文(全文)