健康情報: 6月 2015

2015年6月29日月曜日

葛根黄連黄芩湯(かっこんおうれんおうごんとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.75 赤痢・疫痢・急性腸炎・肩こり・高血圧症
19 葛根黄連黄芩湯(かっこんおうれんおうごんとう) 〔傷寒論〕
 葛根六・〇 黄連・黄芩 各三・〇 甘草二・〇

 原本には葛根を先に煮ることになっている。普通は一緒に煮て用いる。

応用〕 裏の熱が甚だしく、表熱もあり、表裏の鬱熱によって心下が痞えて下痢し、喘して汗が出、心中悸等の症あるものに用いる。
 本方は主として下痢(赤痢)・疫痢の初期・急性腸炎・喘息・肩こり等に用いられ、また眼病(結膜炎・涙嚢炎・トラコーマ)・歯痛・口内炎・二日酔・火傷後の発熱・灸後の発熱・丹毒・麻疹内攻・高血圧症・中風・不安神経症等に応用される。

目標〕 裏熱が主で、表熱がこれに加わり、心下に痞え、下痢して喘し、汗が出て津液は燥き、あるいは項背こわばり、心悸を訴え、脈促(大小不定にくる脈で結滞とは異なる)であるのが、おもな目標である。

方解〕 構成は簡単であり、葛根が主薬である。葛根には滋潤の働きがあり、血液が水分を失って凝固し、項背筋の拘攣するものを滋潤してゆるめる作用がある。心下の痞硬もやわらげる能があるといわれる。黄連は裏の熱が上に迫るのを治し、黄芩は心胸中の熱をさますものである。甘草は諸薬を調和させる。
  〔附記〕 東大薬学部の和漢薬成分の研究(薬学雑誌 七九巻八六二)によれば、日本産および中国より輸入の葛根より、daizein,daizin および二種の未知 isoflavone かと思われるものを分離し、マウス腸管について鎮痙作用を試験してみると、daizein が葛根のもっているパパベリン様鎮痙作用を代表していることがわかった。すなわち葛根中の微量成分の中に、筋の痙攣を緩解する作用のあるものが含まれていたことが証明された。葛根が項背こわばるものを治すといわれた意味が了解されたわけである。

主治
傷寒論(太陽病中篇)に、「太陽病桂枝ノ証、医反ツテ之ヲ下シ、利遂ニ止マズ、脈促ノモノハ表未ダ解セザルナリ。喘シテ汗出ズルモノハ葛根黄連黄芩湯之ヲ主ル」とある。
 類聚広義には、「平日項背強急、心胸痞塞、神思悒鬱ユウウツ憂鬱舒暢ジョチョウセザルモノヲ治ス。或ハ大黄ヲ加フ」「項背強急、心下痞塞、胸中エン熱シテ眼目、牙歯疼痛、或ハ口舌腫痛腐爛スル者ニ大黄ヲ加フレバ其効速ナリ」とあり、
 勿誤方函口訣には、「此方ハ表邪陥下ノ下利ニ効アリ。尾州ノ医師ハ小児早手(疫痢)ノ下利ニ用テ屢効アリト云フ。余モ小児ノ下利ニ多ク経験セリ。此方ノ喘ハ熱勢ノ内壅スル処ニシテ主証ニアラズ。古人酒客(酒ノミ)ノ表証ニ用フルハ活用ナリ。紅花・石膏ヲ加エテ口瘡ヲ治スルモ同ジ」とあり、
 腹証奇覧には、「コレハ誤治ニヨリテ熱内攻シテ下利スルモノユヘ、内攻ノ熱ヲ瀉スレバ下利モ喘モ自ラ治スルナリ。故ニ黄連ノ胸中ノ熱ヲ解スルモノヲ用ユルナリ、(中略)要スルニ項背強バリ、胸中煩悸シテ熱ノアルモノヲ得バ、其下利及喘シテ汗出ノ証ノ有無ヲ問ハズシテ此方ヲ用ユベシ。因テ転ジテ酒客ノ病、火証、熱病、湯火傷、小児丹毒等ニ此方ノ証アルコトヲ考フベシ」とある。

鑑別
○葛根湯 20 (発熱・表熱)
○麻杏甘石湯 139 (・汗出で喘)
○麻黄湯 136 (発熱・喘而胸満、無汗而喘)
○甘草瀉心湯 119 (下痢・腹鳴下痢)
○桂枝人参湯 35 (下痢・裏寒表熱)

参考
 館野健氏は動脈硬化症患者に対し、心下痞・心悸・腹動・多汗・項背の凝り・左半身の知覚麻痺・左心室肥大・じっとしているのがきらいな活動家と感うのを目標として、葛根黄連黄芩湯を用い、きわめて効果的であったと、第十七回日本東洋医学会関東部会(一九六〇)で発表した。



治例
 (一) 疫痢様下痢
 四歳の男児。突然四〇度の発熱を起こし、意識混濁し、臭気ある粘液を下した。腹部は軟弱で、左下腹部に索状を触れ、圧痛がある。脈頻数で強かったり弱かったりする。いわゆる促脈を呈している。葛根黄連黄芩湯を与えると、熱は次第に下降し、下痢も減少し、三日目に平熱となった。四日目には口渇を訴え、水が口に入るとたちまち吐き出し、煩燥と小便不利があったので、五苓散にしたところ、嘔吐はただちにやみ全治した。
 (著者治験)

(二) 高血圧症
 六〇歳の婦人。高血圧症で六年前左眼様出血、左半身の知覚鈍麻がある。最近感冒後、食欲なく、冷汗が出て、軟便となり、心下痞硬、右臍傍に瘀血の圧痛点があった。葛根黄連黄芩湯一週間で、諸症状が好転し、二週間後、血圧もほぼ正常(一三〇~九〇)となった。
 (館野健氏、日東洋医学会誌 一一巻四号)


(三) 高血圧症
  三四歳の男子。本態性高血圧の患者。心動悸・不眠・小便不利等の症は、柴胡加竜骨牡蛎湯で好転したが、左肩こり・左背痛があり、汗をかきやすく、診療室でも額に汗を流し、常に汗をぬぐっている。涼しい日でも同じである。のぼせ気味で、赤い顔をしている。葛根黄連黄芩湯に三黄丸を兼用したところ、一七〇~一〇〇であった血圧が一三〇~七〇に落ちついた。この人は酒豪で、左半身に知覚麻痺があった。
  (館野健氏、日東洋医学会誌 一一巻四号)




和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
葛根黄連黄芩湯かっこんおうれおうごんとう  [傷寒論]

【方意】 上焦の熱による胸中煩悸・心悸亢進・息切れ・心下痞・自汗等と、脾胃の熱証よる下痢・悪心・嘔吐と、表の熱証による項背強・促脈等のあるもの。時に上焦の熱証による精神症状を伴う。
《少陽病と太陽病の併病.実証》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の熱証

脾胃の熱証 表の熱証 上焦の熱証による精神症状
主証 ◎心中煩悸
◎心悸亢進



◎下痢

○項背強



客証 ○息切れ
○心下痞
○自汗
 顔面紅潮
 ほてり
 口渇
 口内潰瘍

○悪心 嘔吐○促脈
 頭痛
 悪寒
 発熱
 不安
 不眠
 熱性痙攣


【脈候】 促・浮数・弦にしてやや浮。

【舌候】 乾燥して軽度の白苔。

【腹候】 腹力中等度。心下痞または痞硬がある。腹直筋の軽度の緊張、時に腹満を伴う。

【病位・虚実】 裏熱・裏実の陽明病ではなく、上焦を主として脾胃までの熱証が中心的な病態であって少陽病である。更に表の熱証が存在し、少陽病と太陽病との併病となる。脈力、腹力共に充実しており実証。

【構成生薬】 葛根8.0 黄連3.0 黄芩3.0 甘草2.0
【方解】  黄連・黄芩の組合せは三黄瀉心湯・黄連解毒湯でみるように、上焦の熱証およびこれより派生する精神症状を散じる。本方意にも同様に上焦の熱証による胸中煩悶感・心悸亢進・心下痞と、上焦の熱証による精神症状を伴う傾向がある。本方の黄連・黄芩・甘草の組合せは、三つの瀉心湯(半夏瀉心湯・生姜瀉心湯・甘草瀉心湯)の場合と同様に、脾胃の熱証による下痢を治す。葛根は寒熱両証に有効だが、黄連・黄芩と組合せられて、本方では上焦の炎症性・充血性の病態に対応し、表の熱証の項背強・頭痛・悪寒・発熱を治す。

【方意の幅および応用】
 A 上焦の熱証:胸中煩悸・心悸亢進・息切れ・心下痞・ほてり等を目標にする場合。
   インフルエンザ、気管支喘息、二日酔、火傷、口内炎、舌炎、充血性眼疾患、酒渣鼻
 B 脾胃の熱証:下痢・悪心・嘔吐を目標にする場合。
   胃腸型感冒、赤痢等急性胃腸炎、各種の発熱性下痢
 C 表の熱証:項背強・頭痛等を目標にする場合。
   肩凝り、高血圧症、脳血管障害発作後
 D 上焦の熱証による精神症状:不安・不眠を目標にする場合。 


【参考】 *桂枝湯の証、反って之を下し、利遂に優まず、脈促、喘して汗出づる者は葛根黄連黄芩湯之を主る。『傷寒論』
*項背強急し、心中悸して痞し、下利する者を治す。『方極附言』
*此の方は表邪陥下の下利に効あり。尾州の医師は小児早手の下利に用いて屡効ありと言う。余も小児の下利に多く経験せり。此の方の喘は熱勢の内壅する処にして主証にあらず。古人酒客の表証に用ゆるは活用なり。紅花・石膏を加えて口瘡を治するも同じ。『勿誤薬室方函口訣』
*促脈とは脈の立ち上がりが急で、やや不整、あたかも拍動が迫るような状を覚えるものとされ、表証がいまだ解していない徴候であるとする。また一説では脈頻数で、強かったり弱かったりするものとある。この脈候を目標に本方を用いて著効をおさめている。
*小児の急性食中毒で疫痢状となり、下痢・高熱・痙攣など脳症状を起こしかけ、脈の乱れがちのものに用いる。

【症例】 急性腸炎
 3歳、女児。東京人であるが、当地へ来る数日前大腸カタルを患い、いまだ落治せざるに避暑に来たのである。そして転地早々、名所小湊に遊び、汽車中アイスクリームを食べさせられ、また中食の時は不消化なイカを食べたり、氷水を飲んだり、大分乱暴なやり方をしたのである。その夜帰宅すると発熱し、夜中下痢4回、翌朝になって粘液に血液を混じたる下痢7回。腹痛時々。元気がすっかりなくなった。
 体格栄養普通なる女児。脈浮にして1分間120至。舌苔薄く白色を呈す。口渇あれども嘔気なし。心下軟。腹部一般に膨満し下腹部中央に特に抵抗があり、圧すれば痛むものの如くである。体温38.9℃。
 まず葛根黄連黄芩湯を処す。発病の翌日午後から投薬したのであるが、その日の夜中下痢7回、翌日4回あって体温は平温となった。ただし腹痛多少あり食欲もいまだ起こらない。重湯を少量与う。
 黄芩湯に転ず。この日下痢少量なれど4回あり。その翌日更に普通便一回となり、食欲起こり粥1椀を食するに至った。通計5日。
(附記)本方は葛根湯より更に1歩進んだものに与うべきであると考える。しかし場合により、いずれを処すべきか大いに迷うことがある。
和田正系 『漢方と漢薬』 3・9・38

明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊 
p.135
 ⑩葛根黄連黄芩湯(かっこんおうれんおうごんとう) (傷寒論)
 葛根六・〇 黄連 黄芩各三・〇 甘草二・〇 (一四・〇)

 所謂、表邪陥下の下痢(太陽病に誤って下剤を与えたため、下痢がなかなか止らない状態)に用いるのが原典に示された本方の目標であるが、応用として小児の疫痢に使用される。なおこの下痢の場合は太陽、陽明合病の葛根湯症と 同じように、葛根特有の項背強(首筋のこり○○)がなくてもよい。疫痢。熱性下痢。


『漢方処方・方意集』 仁池米敦著 たにぐち書店刊
p.51
葛根黄連黄芩湯かっこんおうれんおうごんとう
 [薬局製剤] 葛根6 黄連3 黄芩3 甘草2 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。

 «傷寒論»葛根6 黄連3 黄芩3 甘草2

  【方意】気を補って湿邪と熱を除き、脾胃と肝胆を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし下痢を止め、早手はやてや嘔吐などに用いる。
  【適応】止まらない下痢・小児の早手はやて(小児の疫痢)・ぜん(呼吸が急促な症状)して汗が出る者・胃腸の病・結腸炎・二日酔い・嘔吐など。

  [適応]紅花と石膏を加えて口瘡こうそう(口内炎などの病)に用いる。

  [原文訳]«傷寒論・弁太陽病脈証併治中»
   ○太陽病で、桂枝湯證に醫が反ってこれを下し、利すること遂にまず、脉が促なれ、表は未だ解せざるなり。喘し汗が出れ、葛根黄連黄芩湯が之を主る。
   «勿誤薬室方函口訣»
   ○此の方は、表邪の陥下の下痢に効ある。尾州の醫師は、小兒の早手はやての下利に用いてしばしば効ありと云う。余も小兒の下痢に多く經驗せり。此の方の喘は熱勢の内壅ないようする處にして主証にあらず。古人は、酒客の表証に用いるは、活用なり。紅花・石膏を加えて口瘡を治するも同じ。



『改訂 一般用漢方処方の手引き』 
監修 財団法人 日本公定書協会
編集 日本漢方生薬製剤協会

葛根黄連黄芩湯
(かっこんおうれんおうごんとう))

成分・分量
 葛根5~6,黄連3,黄芩3,甘草2

用法・用量
 湯

効能・効果
 体力中等度のものの次の諸症:下痢,急性胃腸炎,口内炎,舌炎,肩こり,不眠

原典 傷寒論
出典 
解説
 熱があって下痢し,首すじや肩がこり,みぞおちがつかえ,発汗,喘鳴するような場合に用いる。
瀉心湯の加方である。熱性症候があり,虚して,胸ぐるしく,のぼせ,いらいらして眠ることができなく,各種出血,皮膚の瘙痒,下痢の症状があり,瀉心湯で下しがたいものに用いる。


        生薬名
参考文献名         
葛根 黄連 黄芩 甘草
傷寒論 太陽病中篇 注1 半斤 3両 2両 2両
診療医典        注2 6 3 3 2
症候別治療      注3 6 3 3 2
応用の実際      注4 5 3 3 2
処方解説        注5 6 3 3 2
漢方あれこれ     注6 6 3 3 2

 注1   太陽病:桂枝証,医反下之,利遂不止,脈促者,表未解也,喘而汗出者主之。右四味,以水八升,先煮葛根,減三升,内諸薬,煮取二升,去滓分温再服。
 注2  本方は三黄瀉心湯中の大黄の代わりに葛根と甘草を入れた方であるから、三黄瀉心湯証に似ていて表熱証があり、森実の候のないものに用いる。そこで「傷寒論」に「太陽病の桂枝湯証を誤って医者が下したために、下痢が止まず、脈が促であるものは,表証がまだ残っている。このような患者で,喘鳴があって汗が出るものは葛根黄連黄芩湯の主治である」という条文によって,急性胃腸炎,疫痢,胃腸型の流感などに用いるばかりでなく,肩こり,高血圧症,口内炎,舌炎,不眠などにも用いる。
 注3  二日酔で,嘔吐するものには,五苓散や順気和中湯がよくきくが,嘔吐,下痢があり,また心下部の痛むものには,この方のよくきく場合がある。疫痢で高熱が出て,下痢とともに痙攣を発する場合に用いる。
 注4  熱のある下痢の初期に用いる。このとき,項背がこわばり,心下が痞える。勿誤薬室方函口訣には,小児の下痢によく用いられるとある。また汗が出て,喘鳴を発することもある。
 注5  原本には葛根を先に煮ることになっている。普通は一諸に煮て用いている。裏の熱がはなはだしく,表熱もあり,表裏の鬱熱によって心下が痞えて下痢し,喘して汗が出,心中悸等の症のあるものに用いる。
 注6  はしか:高熱を出し,咳をして下痢気味のときは葛根黄連黄芩湯を用いる。


-考え方から臨床の応用まで- 漢方処方の手引き 
小田 博久著 浪速社刊
p.140
葛根黄連黄芩湯かつこんおうれんおうごんとう (傷寒論)
 葛根:六、黄連・黄芩:三、甘草:二。

主証
 脈促。下痢、喘して汗出る。太陽と陽明の合病。

客証
 項背強がなくとも可。なかなか止まらぬ下痢(熱があり長期症状が変化しない)。

考察
 表裏の欝熱。
 熱が出て下痢。腹満→桂枝加芍薬湯。腹中雷鳴→瀉心湯類。
 傷寒論(太陽病中篇)
 「太陽病桂枝の証、医反って之を下し利逐に止まず○○○○○○、脈促のものは表未だ解せざるなり。喘して汗出ずる者○○○○○○○○は葛根黄連黄芩湯之を主る。」


『臨床傷寒論』 細野史郎・講話 現代出版プランニング刊
p.58
第二十一条

太陽病、桂枝証、医反下之、利遂不止、喘而汗出者、葛根黄連黄芩甘草湯主之。

〕太陽病、桂枝けいししょうかえって之を下し、ついまず、ぜんしてあせずる者、葛根黄連黄芩甘草湯かっこんおうれんおうごんかんぞうとう之を主る。

講話〕 葛根黄連黄芩(甘草)湯で私が一番最初、よく効くなと思ったことがあるのです。それはハシカです。ハシカが内攻しまして、下痢を起こし、肺炎を起こしているような状態で熱もあった、そんな状態の子供(家内の弟の子供で四歳か、五歳の頃)に私はこの処方を使ってみたのです。一服飲ましたら、すごく効きました。熱はシューと下がりますし、下痢も止まり、ゼイゼイいっていた肺炎の症状も治まりました。それで感心しました。本当に漢方というものはよく効くなあと思いました。内攻したハシカによく使う薬方に二仙湯という処方があります。二仙湯というのは、芍薬と黄芩の二味です。しかし分量を書いていないので、適当な分量を同分量づつ入れて、青くなってチアノーゼを起こしている子供に飲ませたら、もうこれはだめだろうと思って飲ませたのですが、飲んて暫くして、すっと血色がよくなってきた。よくなるはずですね、江田先生の研究報告によると、黄芩には抗アレルギー作用、アナフィラキシー反応に対して、顕著な防御作用がある。その作用は、黄芩の主成分のバイカリンだということです。それで、二仙湯が効く理由がわかりました。なるほど、ああいうように、もうだめになっているものでもね。黄芩が入っているということは大切だなと思いました。この葛根黄連黄芩(甘草)湯も黄芩が入っていますから、効いてもよいですよね。それに、先ほどもいいましたように、葛根には喘を止める性質があるし、黄連は細菌を殺す力はものすごくあるし、だから、効いて当りまえです。姪を助けて非常に喜ばれ、それから後、二仙湯でハシカ内攻のもう小児科で見放された子供を救えて、なるほど効くものだなと、私は感心させられました。
 薬というものは、用いようですね、やはり体験をしっかり踏まえていないといけないですね。また、薬理的な研究がすすんで、二仙湯のもとになる、このようなことがわかれば非常に面白いですね。
 また私はこれを喘息に使うのです。葛根黄連黄芩(甘草)湯を始めて使ったのは、ものすごくよく肩の凝る人で、その頃は、私の頭はまだ麻黄から離れていないので、喘息の時は、麻黄、麻黄の入っていないものな効かないと思っていた時ですから、それで葛根湯を土台にして、それに黄連、黄芩と加えたのです。そうすると葛根黄連黄芩(甘草)湯でしょう、そうしてやったらその人はすっとよくなって、他の処方を与えるとためなようになる。それから後、葛根黄連黄芩(甘草)湯が喘息に効くということを見つけたわけです。そのようにして、次から次、自分のやった土台を広げて、広応範囲を考えていったわけです。皆さんもよく勉強して、広げていって下さい。今、私がこんないろいろの話ができるのは『傷寒論』があるからです。『傷寒論』が土台になって、今の私の経験談ができてきたのですよ。


『臨床応用 傷寒論解説』 大塚敬節著 創元社刊
 p.200
第二十一

太陽病、桂枝證、醫反下之、利遂不止、喘而汗出者、葛根黃連黃芩甘草湯主之。

校勘〕宋本、成本では「不止」の下に「脈促者、表未解也」の七字がある。康平本は「表未解也」を「表不解也」に作り、この七字を傍註とする。今、康平本によって、この七字を原文より削って、註文とする。「葛根黃連黃芩甘草湯」を康平本は「葛根黃連黃芩湯」に作り、宋本、成本は「葛根黃芩黃連湯」に作る。今、厚朴生姜半夏甘草人參湯、乾姜黃芩黃連人參湯の例にならって、甘草を加える。


太陽病、桂枝の證、醫反って之を下し、利遂に止まず、喘して汗出ずる者は、葛根黃連黃芩甘草湯之を主る。


(154) 利遂不止-利は下痢である。遂には、或る一つのことがあって、それが原因で次のことが起こるのを言い、「因って」の意である。



太陽病中の桂枝湯の証は下してはならない。これを誤って医者が下し、そのために、ひきつづいて下痢が止まらなくなった。しかも、その上に、喘して汗出ずという症状もある。
 喘して汗出ずという症状は、喘が主であって、そのために汗が出るのであって、汗出でて喘の麻黄杏仁甘草石膏湯証と区別しなければならない。
 さて、この証は、表証を誤まって下し、邪の一部が裏に入って、下痢が止まらなくなったもので、この下痢は第十九章の太陽と陽明の合病の下痢に似ている。しかし前の合病では、表実のために、裏虚に似た下痢を起こしているのであって、表邪を散ずれば、下痢は自然に止むのであるが、この章の下痢は表証を誤下して、一部の邪が裏に入って、下痢を起こしたのであるから、表裏を倶に治する必要がある。そこで、脈促の者は、表未だ解せざるなりという註を入れたのである。促脈については、桂枝去芍薬湯の章で述べたので、参照してほしい。表未だ解せずという場合は、すでに、邪の一部が裏に入ったのに、まだ表証が残っている時に用いる法語である。

臨床の目
 (43) 私は葛根黄連黄芩甘草湯を患者に何回か用いたことがある。またこの方を下痢も、喘もない場合に用いることがある。その場合は、三黄瀉心湯の大黄の代りに、葛根と甘草を入れたものとして方意を考える。そこで、婦人の血の道症、不眠症、高血圧症などに、この方を用いることがある。

 葛根黃連黃芩甘草湯方
葛根半斤 甘草二兩炙 黃芩三兩 黃連三兩
 右四味、以水八升、先煮葛根、減二升、内諸藥、煮取二升、去滓、分溫再服。

校勘〕 諸本みな、方名中に「甘草」の二字がない。今、これを加える。黃芩の「三兩」を、成本は「二兩」に作る。「味」の下に、玉函には「㕮咀」の字がある。


葛根黃連黃芩甘草湯の方
葛根(半斤) 甘草(二兩、炙る) 黃芩(三兩) 黃連(三兩)

右四味、水八升を以って、先ぶ葛根を煮て、二升を減じ、諸薬を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分溫再服す。




『康平傷寒論読解』 山田光胤著 たにぐち書店刊
p.99
(34)三四条、第二十一章、十五字
太陽病、桂枝の証、医反って之を下し、利遂に止まず(傍・脈促なる者は表解せざるなり)、喘して汗出ずる者は、葛根黄連黄芩湯之を主る。
葛根黄連黄芩湯方
葛根半升、甘草二両炙る、黄芩三両、黄連三両
右四味、水八升を以て、先に葛根を煮て二升を減じ、諸薬を内れて煮て二升を取り、滓を去り、分ち温めて再服す。

【解】
太陽病の中で桂枝湯の証は、(葛根湯証も同様で)発汗によって病邪を解散させるべきものである。それを医者が誤って下剤を用いた為、遂に下痢が止まらなくなった。それは誤下によって邪の一部が裏に入って下痢を起したのである。そういう場合一般には陰証になったり、脉は沈微になり易いがこの場合は、傍註で云うように脉が促なのは邪が表に残っていることを示しているのである。
傷寒論では「表未だ解せず」という表現は、邪が既に裏に及んだが、表も未だ解決せずの意味である。一方又熱邪が裏に及んだ為、気が逆して喘が起し、汗が出た。このような時は、表と裏を同時に治する葛根黄連黄芩湯で、表邪を散じ裏熱を除くことができるので此の方が主治するのである。
即ち、葛根で表を治し、黄連黄芩で裏を治して、下痢も喘も止めるのである。前条の合病では、表邪を解散すれば下痢自然に止むものであり、本条では、表裏を倶に治す必要がある場合をのべているのである。
 (注・喘は息切れのこと。本方は太陽と少陽の合病)


『傷寒論演習』 講師 藤平健 編者 中村謙介 緑書房刊
p.116

三四 太陽病。桂枝証。医反下憲。利遂不止。脈促者。表未解也。喘而汗出者。葛根黄連黄芩湯主之。

太陽病、桂枝の証、医反つて之を下し、利遂に止まず、脈促なる者は、表未だ解せざる也。喘して汗づる者は、葛根黄連黄芩湯之を主る。

藤平 太陽病で桂枝湯の証だと断わっているのですから、これを下すということはもってのほかですが、医者が誤ってこれを下してしまった。そのため下痢が止らなくなった。
 この場合には陰証、例えば桂枝人参湯証に陥ってしまうこともありますが、ここでは陽証の葛根黄連黄芩湯証になったわけです。
 ここに「医」とありますが、医の字が加わった場合には誤治になちがいありませんが、相応の下すべき症状があって下したのだと及川達さんは説明しています。つまりいたしかたない理由があった場合です。
 しかし「医」がなく「反下之」とある場合は、これは医者が誤って、全く下してはならないものを下してしまったという場合です。『傷寒論』の厳密さがここにもあらわれています。
 促脈というのは脈拍数の多い数脈の一種だという説がありますが、また促はうながすと読みますから、せっつかれるような感じをもつ脈だともいわれます。そしてこの促脈は太陽病を下してはならないのに下し、なおかつ未だ表証が残っている場合の脈だと考えられています。第二二条の桂枝去芍薬湯のところでも触れました。つまりここでも表証が解さずに残っています。
 「喘」は呼吸困難のことです。これに咳を伴えば喘咳、ゼロゼロいえば喘鳴、胸が張って苦しければ喘満となります。「喘而汗出者」の而の字に注意して、喘つまり呼吸困難のために汗が出ると読みます。一種の苦汗ですね。
 このような状態を葛根黄連黄芩湯はつかさどるというのです。


太陽病桂枝証 此の章は、第二二章の「太陽病。下之後云々」の句を承けて、且又前々章の「必自下利」に対し、其の誤下に因りて逆変を致せる者を挙げ、以て葛根黄連黄芩湯の主治を論ずるなり。
 桂枝の証とは桂枝湯証の略なり。凡そ単純なる桂枝湯証にして、他の証を挟まざる者は、下す可からずるを法則と為す。故に先づ太陽病と言ひ、又重ねて桂枝の証と言ふなり。
医反下之 単純なる桂枝の証なるに拘らず、肌を解せずして之を下す。故に先づ医と言ひ、反つて言ひて、深く其の誤を咎む。


藤平 先ほどちょっと触れましたが「医反」と、単に「反」の区別を『傷寒論古訓伝』の及川達さんはきちんと言及しています。この点に関して第一四条の解説の中でお話しました。
 及川達さんのことあたりの解釈や、合病及び併病の解釈はたいへんにすばらしいものだと思います。いろいろな所で卓見を述べています。

 このような状態を葛根黄連黄芩湯はつかさどるというのです。


利遂不止 既に之を誤り下す。故に利続いて止まざるなり。
脈促者 促とは短促の義。初の浮脈、茲に至つて逐次短促するを言ふ。此れ太陽病下後に於て、尚表証去らざるの候なり。
表未解也 故に表未だ解せざる也と言ふ。然れども既に表証を誤り下す。因て表邪直に裏に奔りて、裏も亦病まざるを得ず。既に之を                                       喘而汗出者促者 是其の応徴なり。喘而汗出と、汗出而喘とは少しく其の意義を異にす。喘而汗出は、喘するに因て汗出づる也。汗出而喘は、自汗出づるが為に喘するなり。而しての字の上を正証となし、其の下を兼証となす。今、喘して汗出づるは欝熱、胸に迫るの為す所となす。      此の証、表証未だ解せず。又裏には既に欝熱有り。是表裏を同時に双解せざれば其の病癒えず。之を葛根黄連黄芩湯の主治と為す。故に                                 葛根黄連黄芩湯主之 と言ふなり                                        此の章に拠れば、本方は、表裏の欝熱を清解し、兼ねて下痢及び喘を治するの能有りと言ふ可きなり。                                                         葛根黄連黄芩湯方 葛根半斤 甘草二両 黄芩二両 黄連三両
 右四味。以水八升。先煮葛根。減二升。内諸薬。煮取二升。去滓。分温再服。
                                                             

藤平 ここに表裏と二、三度使われていますが、表は太陽病の表証ですし、裏は半表半裏を意味しています。いわば方本は表的半表半裏証ということになります。



追記 此の章、誤下を設けて病の変化を明かにせんと欲するなり。今桂枝の証にして誤つて之を下す。故に其の所在を転じて、半ばは表位に止まり、半ばは心胸に止まりて、表裏解せず。脈促は表位に止まるの候、喘して汗出づるは心胸に止まるの徴なり。
                                                             

藤平 ないも葛根黄連黄芩湯証は誤下に現われるとかぎったものではないのですが、ここでは誤下のために本方証になったという場合を仮りに設定しているのです。このような方式で条文を書き起こしているところが『傷寒論』の中にはあちこち見られます。

 表証之を下し、利止まざる、之を甘草瀉心湯証となせば、表未だ解せざるは其の証に非ず。又利止まず、表裏解せざる、之を桂枝人参湯なせば、協熱に非ざるは其の証に非ず。又桂枝加厚朴杏仁湯証に似たりと雖も此の証は下利に因て津燥き痞熱加はるのなす所、即ち其の証に非ず。是に於て、本方証なること知るべし。
 此の証、其の表を攻めんと欲すれば、既に在る裏証を奈何せん。又其の裏を救はんと欲すれば、未だ解せざる表証を奈何せん。是に於て、同時に其の表裏を制し清むるなり。是即ち双解の法なり。此の証、合病に似て合病に非ず。  ○以上の四章は一節なり。初章に於ては先づ葛根湯の主治と本分とを明かにし、次章に於ては其の活用を論じ、又次章に於ては其の加味方に及び、終章に於ては葛根湯証に似て非なる者を論じ、以て一たび葛根湯類を結べるなり。
                                                             

藤平 私はこの葛根黄連黄芩湯証は併病で、ちょうど桂枝人参湯と陰陽相対するものだと思います。太陽病証を下したために陰証に陥ちこんでしまったというのが桂枝人参湯証ですし、下したために半表半裏にまで行ってしまったのがこの葛根黄連黄芩湯証です。
 桂枝人参湯証はまさに桂枝湯証と人参湯証とが完全に現われているものです。つまり桂枝湯証の頭痛、悪寒、発熱、自汗があって、しかも人参湯証の足が冷えて下痢が激しい等ももられるものです。子供等が夏に寝冷えしてカゼと下痢とがいっしょに発現することがありますが、これが桂枝人参湯証です。これに本方を一服飲ませればたちまちよくなります。
 一方、頭痛、悪寒、発熱があり項もこる。そして下痢もするが、陰証ではないという場合に葛根黄連黄芩湯を投じるとよいわけです。
 ですから桂枝人参湯は本来は桂枝湯と人参湯の合方が考えられるのです。併病の場合には合方で治す場合、先表後裏の場合、先急後緩の場合の三つがあります。桂枝人参湯は併病であってその合方で治す場合のものです。
 ところで『傷寒論』『金匱連略』を読みますと、合方の場合に両方の構成生薬をそっくりそのまま合わせる場合もありますが、そうでない場合もあります。
 例えば柴胡桂枝湯は小柴胡湯証と桂枝湯証との併病です。そして両方の構成生薬をそれぞれ二分の一ずつ取って合方し、重複薬は少ない方の二分の一を加えています。また、太陽病という同病位に於ける併病であるところの桂枝麻黄各半湯は、桂枝湯と麻黄湯の三分の一ずつ取り、重複薬も同じく三分の一ずつを合わせています。
 しかし桂枝人参湯は先ほども述べましたように症状では完全な桂枝湯証と人参湯証との併存ですが、構成生薬をみますと人参湯の中の甘草の量を少し増量して、これに桂枝を加えたものです。ですから桂枝湯の他の構成生薬は入っていないのです。それであるのに、これを飲ませるとすべての症状がきれいに消失します。
 『傷寒論』の作者は併病の場合に合方することがあるのですが、何かの理由によって、二つの薬方の構成生薬をそのまま合わせることをせず、いくつかの構成生薬を取り去って合方することがあるのです。そして新しい薬方を創設するわけです。桂枝人参湯がこれに該当しますし、麻黄附子細辛湯もそうです。
 麻黄附子細辛湯は、今はもう伝わらなくなってしまった少陰病の或る薬方、それには附子と細辛とが含まれているのですが、その薬方証と太陽病の麻黄の含まれた或る薬方証の併存で、それぞれから構成生薬を抜き出してこの薬方を創設したのだと思います。
 これらと同様に本条の葛根黄連黄芩湯は葛根湯と黄芩湯との合方だと思います。つまり葛根湯の頭痛、悪寒、発熱、項強があり、黄芩湯の陽証の下痢があるのです。二薬方証の併存でして併病です。しかし構成生薬をみてみますと、二薬方をそっくり合わせたものではなく、葛根湯の構成生薬中の或るものは捨て去り、また黄芩湯の或るものを捨てて合方し、一つの新しい薬方を創設したわけです。
 こういうことを『傷寒論』の作者は所々でやっているのですが、どうして単純に二薬方を合方せずに、構成生薬の一部を捨てたり抜き出したりして合方するのか、その理由はまだわかりません。ボクもなんとか知りたいと思っています。諸先生が何とかこの疑問を解決してください。何か大きなものがここにはあると思います。『傷寒論』の中には未解決のことがたくさんありますが、これなどは、その中の大きなものの一つだと思います。
 これは併病の範囲で考えてまずまちがいないと思いますが、併病はこれから研究し仲いかなければならない分野だと思います。中国のほうが今かなり考えつつあるようですから、うっかりすると逆輸入現象が起きるかもしれませんね。
 さて、何かこの条文でご質問はありませんか。
 会員B 下痢というとすぐ裏証だと思いがちなのですが、この下痢は半表半裏なのですね。
 藤平 半表半裏の下痢はいくらでもあります。これはその中の黄芩湯証の下痢です。
 会員A 本条は「太陽病。桂枝証。医反下之」となっていて、「太陽病。医反下之」となっていません。あえて「桂枝証」を加えてある理由は何でしょうか。
 藤平 太陽病証の中でも最も下すという治療方法からほど遠いということを意味していると思われます。
 会員A 次に「医反下之」の「医」てすが、先ほどの及川達先生の説ですといくぶんかは下すべき症状があって下したのだということですので、及川先生もこの条文を併病とみていたと考えてよいのでしょうか。
 藤平 「太陽病。反下之」とある場合には下すべき症状もないのに誤治をしてしまったという意味ですし、「太陽病。下之。」の場合には太陽病証のあるうえに腹満、便秘、苦しい等の陽明病証があるために、やむを得ず先急後緩で下したという意味です。
 本条の場合の「医反下之」も及川達さんは下すべき症状があったと言っているのですから、併病以外には考えられないと思います。
 会員A ではさらに、桂枝人参湯は協熱であると奥田先生は言っておられますが、この協とは何でしょうか。
 藤平 これは表熱つまり表証の熱をさしはさむと昔から説明されています。表証の熱ですから虚熱ではなく実熱ですが、表熱をさしはさむと言っても何を意味しているのか非常にわかりにくいですね。結局表証と陰証の併病と考えればよいと思います。
 会員A 最後の質問ですが、本条の病態が合病ではなく併病であるという理由ですが、それは症状からみると二薬方証の併存であるし、構成生薬からみると合病の治療原則の単一の薬方ではなく、元の薬方のままではないが二薬方の合方であるから併病であると感うのでしょうか。
 藤平 その通りです。
 ところでこの葛根黄連黄芩湯にからんでの話ですが、外国の或る人が吉益東洞さん等あの時代の人はきちんと経験を踏まえて発言しているから感心するが、日本の今の時代の人は経験もしていないことをあたかも経験したように勝手なことを述べていて誤っていると発言したことがありました。これに対して小倉さんとボクとが大論争をいどんだことがあります。
 その人の言では、この条文に示されているような状態に葛根黄連黄芩湯を使ったら患者を殺してしまうと言うのです。これは四逆湯でなければ救命できない。台湾の人も、中国の人も皆そう言っている。現代の日本の人だけが勝手なことを言っていると主張するのです。
 そこでボクが反論したのです。「あなたご自身で経験したことがあるのか」と尋ねたところ、経験はないと言う。「ボクは自分自身でも経験したし、患者さんでも度々経験して条文の通りに使って誤りない。ここに四逆湯等を使ってはかえって患者を殺してしまう」と言ったのです。
 私は自分自身の食中毒を葛根黄連黄芩湯で救われたことがあるし、この条文通りに使ってよく効く大事な薬方です。


『漢方原典 傷寒論の基本と研究』 大川清著 明文書房刊
p.119
三四 太陽病、桂枝證、醫反下之、利遂不止、脈促者、表未解也。喘而汗出者、葛根黃連芩湯主之。


 太陽病、桂枝の証、医反って之を下し、利遂に止まず、脈促なるもの者は、表未だ解せざる也。喘して汗出づる者は、葛根黄連黄芩湯之を主る。


  太陽病、桂枝(湯)証(であり、本来下してはいけないのに)、医者がかえって之を下し、下痢がついにまなくなったが、脈は促であるものは、表証が未だ解していないのである。汗を出しながら喘する者は、葛根黄連黄芩湯が之を主る。

解説 この章は第二二条の[太陽病、下之後、脈促]の句を承けて、桂枝湯証を誤って下し、下痢が止まなくなった場合の治法を論じる。

語意 [脈促] 数脈。
    [喘而汗出] 出を出しながら喘鳴を発する。第六三条[発汗後、不可更行桂枝湯、汗出而喘、無大熱者、可與麻黄甘草杏仁石膏湯主之。]との鑑別は自ずから明らかである。

註釈 瀉下の後に限らず、初発から葛根黄連黄芩湯証を示す者がある。
    太陽病下篇第一七〇条[太陽病、外証未除、而數下之、遂協熱而利、心下痞鞕、表裏不解者、桂枝人参湯主之。]桂枝人参湯も外証が未だ除かないうちに下した者であるが、桂枝人参湯は基本的には人参湯証で上衝するものである。湯は

 ◎葛根黄連黄芩湯大靑龍湯葛根黄連黄芩湯方 葛根半斤 甘草三兩 炙 黃芩三兩 黃連三兩 右四味、以水八升、先煮葛根、減二升、内諸薬、煮取二升、去滓、分温再服。

補記 『小刻傷寒論』では黄芩二両であるが、『類聚方広義』の頭註に【玉函、千金、宋板共作黄芩三兩今従之】とある。このような注釈も以下の条文では省略する。


補記 『傷寒論』は前後の条文との関連で証の推移が記述されている。葛根黄連黄芩湯は桂枝湯証を誤下した後に限らず、証に合わせて用いることができる。項背がこわばり、頻回の下痢を主徴とし、発熱して発汗し、喘鳴を伴う場合に用いる。『類聚方広義』に【治項背強急、心下痞、心悸而下利者】とあ音¥

 それぞれの薬方の証を知るには『類聚方広義』を参考にするとよい。


【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

1.次の人は服用しないこと
   生後3ヵ月未満の乳児。
      〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
   むくみ
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
  高血圧、心臓病、腎臓病
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること


症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.1週間位(急性胃腸炎に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕



〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)高齢者。
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕
 (4)次の症状のある人。
    むくみ
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕
 (5)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕

2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

2015年6月27日土曜日

化食養脾湯(かしょくようひとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方処方・方意集』 仁池米敦著 たにぐち書店刊
p.48
化食養脾湯かしょくようひとう
 [薬局製剤] 人参4 白朮4 茯苓4 半夏4 大棗2 陳皮2 神麹2 麦芽2 山楂子2 縮砂1.5 甘草1 生姜1 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。
 «内科秘録»人参4 白朮4 茯苓4 半夏4 大棗2 陳皮 神麹しんきく2 麦芽2 山楂子さんざし2 縮砂しゅくしゃ1.5 甘草1 乾生姜1 
  【方意】気を温め補って湿邪を除き、脾胃と肺大腸を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし消化を打け、脾疼ひとう(胃痛のこと)や羸痩るいそう(痩せ細ること)などに用いる方。
  [原文訳]«内科秘録・脾疼»   ○脾疼ひとうするを治す。




『薬局製剤 漢方212方の使い方』 第4版
埴岡 博・滝野 行亮 共著
薬業時報社 刊


K16. 化食養脾湯かしょくようひとう

出典
 証治大還しょうちたいかん(清・陳治)に出ているそうだが,まだ見ていない。この本の抄録が江戸時代,松岡恕庵じょあんによって『証治大還摘抄』として残されている。武田薬品工業の杏雨書屋きょううしょおくに収蔵されている。
 また内科秘録(江戸・本間棗軒ほんまそうけん)に引用されているので,記載しておく。
 「治法第一ノ妙薬トイフハ加味六君子湯ナリ。即チ六君子湯ヘ神麹,麦芽ノ二味ヲ加ヘタル方ナリ。飲食ノ養生サヘ届クトキハ,病ノ新旧,緩急ヲ論ゼズ,此ノ一方ニテ治セズトイフコトナシ。証治大還ノ化食養脾湯モ前回ニ類シテ奇験アリ。然レドモ病ノ変ニ応ジ,又手段ノ異ナルコトアリ。腹中切痛シテ反復転倒,日夜眠ルコトノナラヌ者ハ阿芙蓉あふよう液ヲ與ヘ,小建中湯,千金当帰湯,解急蜀椒かいきゅうしょくしょう湯ヲ撰用スベシ。心腹急脹,雷鳴撮痛等ノ証ヘハ,烏苓通気うりょうつうき加附子,若シクハ三和散ニ宜シ。嘔吐甚ダシキモノハ安中散五苓散加赤石脂,小半夏加茯苓湯等ヲ撰用スベシ。蛔虫ヲ兼タルモノヘハ,「セメンシイナ」ヲ用ユ。久シク便秘スルモノヘハ調胃承気湯,若シクハ草兵丸,若クハ「アロイ」ヲ與ヘテ蜜煎導ミツセンドウヲ挿スベシ。密煎導ハ一挿ニテ通ゼザルハ二度モ三度モ挿スベシ。通ジテ後モ亦挿シテ,燥屎ヲ去リ尽クスヲ佳シトス。
治脾疼
六君子湯加砂仁,神麹,麦芽,山査』    (本間棗軒・内科秘録巻7・脾疼)


構成
 浅田流では六君子湯に硬結を徐々に溶解するとして麦芽を加え,さらに食欲増進の目的に神麹を加えて加味六君子湯という。これにさらに胃酸の減少に対して山査子を加えると本方になる。

目標
 六君子湯の消化力を増強したもの。心下部にしこりを感じ,みぞおちがつかえ,疲れやすく,貧血性で手足が冷えやすいものを目標とする。

応用
(1) 胃炎,胃アトニー,胃下垂,消化不良,食欲不振,胃痛,嘔吐
(2) 高橋道史先生の著書に胃癌の治験が二例ある。

留意点
◎細野史郎先生によれば神麹・麦芽は粉末にして煎じあがってから加えるという。浅田流の常法ではその斟酌はない。

文献
1.松岡恕庵・証治大還摘抄・杏雨書屋蔵
2.柴田良治・黙堂柴田良治処方集p.50
3.高橋道史・浅田流漢方診療の実際p.222

『改訂 一般用漢方処方の手引き』 
監修 財団法人 日本公定書協会
編集 日本漢方生薬製剤協会

化食養脾湯
(かしょくようひとう)

成分・分量
 人参4,白朮4,半夏4,陳皮4,大棗2,神麹2,麦芽2,山査子2,縮砂1.5,生姜1,甘草1

用法・用量
 湯

効能・効果
 体力中等度以下で,胃腸が弱く,食欲がなく,みぞおちがつかえ,疲れやすいものの次の諸効:胃炎,胃腸虚弱,胃下垂,消化不良,食欲不振,胃痛

原典 証治大還
出典 

解説
 六君子湯に縮砂,神麹,麦芽,山査子を加えた処方である。無力性体質のものの食欲不振に用いる。



        生薬名
参考文献名
人参 白朮 茯苓 半夏 陳皮 大棗 神麹 麦芽 山査子 縮砂 乾生姜 生姜 甘草 用法・用量
処方分量集 4 4 4 4 2 2 2 2 2 1.5 1 - 1
診療の実際 注1 4 4 4 4 2 2 2 2 2 1.5 - 2 1
診療医典  注2 4 4 4 4 2 2 2 2 2 1.5 - 2 1
症候別治療 - - - - - - - - - - - - -
後世要方解説 - - - - - - - - - - - - -
漢方百話 - - - - - - - - - - - - -
応用の実際 - - - - - - - - - - - - -
明解処方 - - - - - - - - - - - - -
改訂処方集 - - - - - - - - - - - - -
漢方入門講座 - - - - - - - - - - - - -
漢方医学 - - - - - - - - - - - - -
精撰百八方 - - - - - - - - - - - - -
古方要方解説 - - - - - - - - - - - - -
成人病の漢方療法 - - - - - - - - - - - - -


*参考文献すべて,六君子湯に縮砂1.5,神麹,麦芽,山査子各2を加う,と記載あり。

注1 胃アトニー症(胃筋衰弱症):平胃散の証に似て一層病状が進み,顔貌は血色に乏しく,脈は軟弱となり,腹壁は菲薄で弛緩し,食後には倦怠,眠気を催し,また頭重,眩暈を訴えるものに用いる。
 胃下垂症:無力性體質で,腹壁が弛緩し,皮膚軟弱蒼白のもので,胃部壓重感,食欲不振,頭痛,眩暈,四肢倦怠感等を訴える場合に用いる。
 胃拡張症:全身の栄養が衰え貧血し,皮膚は菲薄となって弛緩し,四肢は冷えやすく,脈傳軟弱となり,胃部停滞,食欲不振のものに用いる。


注2 胃腸張:全身の栄養が衰え貧血し,皮膚が菲薄となって弛緩し,四肢は冷えやすく,脈は微弱となり,心下痞,食欲不振のものに用いる。



 

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

1.次の人は服用しないこと
   生後3ヵ月未満の乳児。
      〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
   むくみ
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
  高血圧、心臓病、腎臓病
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること


症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕



〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)高齢者。
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕
 (4)次の症状のある人。
    むくみ
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕
 (5)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病
   〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕

2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕




2015年6月16日火曜日

黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.58 諸熱性病・諸神経症・諸出血・皮膚瘙痒症(虚熱証)
14.黄連阿膠湯(おうれんあぎょうとう) 〔傷寒論〕
     黄連三・〇 黄芩二・〇 芍薬二・五 阿膠三・〇 卵黄一個


 阿膠・卵黄以径e三味を水六〇〇ccに入れ、三〇〇ccに煎じ、滓を去り、阿膠を入れて再び火にのせて溶かし、少し冷えてから卵黄一個を入れてかきまぜ、三回に分服する。

応用〕 少陰病の位にあるもので虚証に属し、内熱があって、体液枯燥し、熱は心胸に迫り、心胸中煩えて(胸苦しい)眠れず、臥することを得ずというものに用いる。
 主として虚候を帯びた熱性疾患、すなわち肺炎・チフス・麻疹・猩紅熱・丹毒・脳出血・脳膜炎などで、煩躁・不眠・譫妄せんもうなどあるもの、神経性疾患として、ヒステリー・ノイローゼ・高血圧症・精神分裂症・狂躁等のあるものに用いる。
 また鼻血・吐血・咯血・眼出血・痔出血・血尿等で心煩(胸苦しい)をともなっているもの、大腸炎・赤痢・直腸潰瘍等で下痢心煩・便に膿血を下すもの等に応用され、さらに小便淋瀝して、小便が熱く感じるもの、皮膚瘙痒症・乾癬・皮膚炎等で夜も眠れぬほど猛烈に痒く、患部は赤く、乾燥気味のもの等に転用される。

目標〕 血煩により心中煩して眠ることを得ず、不眠・煩躁・顔面紅潮・興奮・心悸亢進・頭重・のぼせ・胸苦しく熱感等を訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。
 傷寒論釈は少陰病篇にあるが、少陰病に似たもので、実際には瀉心湯の虚したものである。

方解〕 少陰病の瀉心湯と呼ばれているが、大黄黄連瀉心湯の虚したものである。黄連・黄芩は瀉心湯の基礎になるもので、そのうち大黄はなく、その反対の芍薬と卵黄を加え、血燥を潤す阿膠がある。血熱で、体力は虚証を呈している。
 後世方の中で寿世保元の麻疹門に、二仙湯という処方がある。これは黄芩と芍薬の二味から成り、虚証の児が麻疹で、発疹後、急に発疹が消失し、いわゆる麻疹内攻を起こし、肺炎様症状または脳症状を発して今にも死にそうな重篤症状を呈したとき、これを救うものである。
芍薬は悪血を散じ、臓腑の気をめぐらし、また邪気による血液の渋帯をめぐらすものである。内攻によって邪気胸内に鬱滞し、肺炎様症状を起こしたものを治すものであろう。
 黄芩はよく裏熱を清解し、滞気を破るという。黄連はよく熱を去る。渋帯した邪熱が心胸間、中焦下焦に結滞して煩をなし、痞をなし、下痢するものなどを治するものである。
 卵黄は気血を和して煩熱を除くというものである。阿膠もほとんどこれと同じで、ともに血燥を潤し肌膚をなめらかにする。
 これらの諸薬の協力によって、体液を滋潤し、心胸中の熱をさまし、心中の煩を除くものである。


主治
  傷寒論(少陰病篇)に、「少陰病、之ヲ得テ二三日以上、心中煩シテ臥スコトヲ得ザルハ、黄連阿膠湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ柯韻伯ノ所謂少陰ノ瀉心湯ニテ、病陰分ニ陥ツテ上熱猶ホ去ラズ、心煩或ハ虚躁スルモノヲ治ス。故ニ吐血、咳血、心煩シテ眠ラズ、五心熱シテ漸漸肉脱スル者、凡ソ諸病日久シテ熱気血分ニ浸潤シテ諸症ヲナス者、毒痢腹痛膿血止マズ、口舌乾ク者等ヲ治シテ験アリ。又少陰ノ下利、膿血ニ用ルコトモアリ、併シ桃花湯トハ上下ノ弁別アリ、マタ疳瀉止マザル者ト痘瘡煩渇シテ寝ザル者ニ活用シテ特効アリ」とあり、
 古方薬囊には、「心に熱こもりて眠れざる者、この眠れざる様子は、ウツウツとして眠っているような醒めているようなという案梅で眠られぬものなり。熱性の下利があって夜中煩して時々めざめてうるさき者もある」といっている。
 漢方治療の実際には、「この方は黄連解毒湯や三黄瀉心湯を用いたいような患者で、やや疲労しているものに用いる。阿膠・芍薬・卵黄の入っている点が、三黄瀉心湯や黄連解毒湯と違う。
 この方を用いる目標は、発疹が主として顔面に見られ、隆起があまり目立たないほど低く、指頭でなでるとざらざらしていて、少し赤味を帯びて乾燥し、かゆみは少なく、糠のような落屑があり、風にあたったり、日光にあたるとわるくなるものである」と述べている。

鑑別〕 ○桃核承気湯 102 (血煩○○・実証、脈緊、鬱血)
○柴胡加竜骨牡蛎湯 44 (心煩○○・胸脇苦満、腹動)
○瀉心湯 48 (心煩○○・実証)
○苓桂味甘湯 149 (心煩○○・興奮は少ない)


治例
 (一) 婦人の顔にできる皮膚病で、これのよく効くものがある。三〇年ほど前、私の妻が頑固な皮膚病に悩まされた。その発疹は円味を帯びて、両方の頬を中心に広がり、痒みがあり、やや赤味を帯びて乾燥し、小さい落屑が見られた。強い風にあたったり、日光にあたると、赤味がましてかゆみがひどくなる。私はこれに大柴胡湯加石膏・大黄牡丹皮湯加薏苡仁・桂枝茯苓丸・黄連解毒丸などを与え、一〇〇日あまり治療したが少しもよくならず、むしろ増悪の傾向があった。そこで熟慮の後、皮膚の乾燥を阿膠と芍薬で潤し、熱と赤味を黄連と黄芩でとったらと考え、黄連阿膠湯を与えた。一服で赤みがうすらぎ、一週間後にはかゆみもなくなり、一ヵ月ほどで全治した。
 発疹が主として顔に見られ、隆起があまり目立たないほど低く、指頭でなでると、ざらざらしている。少し赤味を帯びて乾燥し、かゆみは少ない。小さい糠のような落屑があり、風にあたったり、日光にあたるとわるくなるという目標で、その後何人かの婦人の皮膚病を治した。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(二) 肺結核兼感冒
 二二歳の婦人。肺結核で加療中、微熱があり、自覚症は何もない。虚労の血熱として炙甘草湯を用いていた。太陽にあたると顔がのぼせて仕方がないので、雨戸を閉ざしている。下口唇が赤く、不眠で声が少しかれている。甘草瀉心湯に変えてみたが同じである。かぜをひいて三七度六分となった。甘草瀉心湯より虚しているので、虚証の血熱として黄連阿膠湯にしたところ、今度が最もよく効いて体温が下降した。
(龍野一雄氏、漢方の臨床 二巻二号)

(三) 脳症
 小栗豊後守、年三十余、外感を得て邪気激しく、脈数急で、舌上黒胎を被り、讝語煩乱して飲食は口に入らず、夜に至ると煩躁して狂のごとくであった。多紀永春は升陽散火湯を与えたが、熱はますます加わり、柴田文庵は三黄湯加芒硝を与え、下利二回あったが、後疲れて狂躁がひどくなった。
 そこで余はこれを少陰膈熱の証として、黄連阿膠湯を与えた。法のごとくにして与えること一昼夜にして始めて安眠でき、翌日は精神爽然として、よく人を弁じ、食欲が出た。升陽散火湯去人参加生地黄で調理し、全く旧に復した。
(浅田宗伯翁、橘窓書影巻二)


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
黄連阿膠湯おうれんあきょうとう  [傷寒論]

【方意】 上焦の熱燥証による心煩・心下痞・心下痞硬・皮膚枯燥・口臭等と、上焦の熱証燥証による精神症状としての不眠等のあるもの時に血証を伴う。
《少陽病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の熱証・燥証

上焦の熱証・燥証による精神症状 血証 虚証
主証 ◎心煩



◎不眠





客証 ○心下痞
○心下痞硬
○皮膚枯燥
○瘙痒感
○口臭 口内炎
○顔面紅潮
 口唇乾燥
 発熱 熱感
 口渇 煩熱
 膿血便 腹痛
 発赤
 心悸亢進 頭重
 煩躁 狂躁
 興奮逆上
 讝語

 出血(吐血・咯血・下血・血尿) 疲労倦怠
 四肢脱力感
 るいそう


【脈候】 やや軟・やや弱・微浮・沈微・沈小・細数。発熱性疾患では数急。

【舌候】 熱のある場合には紅舌。乾燥、時に湿潤。微白苔より微黄苔。

【腹候】 やや軟、多くは心下痞・心下痞硬がある。

【病位・虚実】 上焦の熱証・燥証が主であり陽証である。表証も裏の実証もなく少陽病に相当する。自覚的にも、また脈力も腹力も共に低下しており虚証である。

【構成生薬】 黄連4.0 阿膠3.0 芍薬2.0 黄芩2.0 卵黄1個
 黄連・芍薬・黄芩の三味の型のごとく煎じ、滓を去った後に阿膠を入れ、再び火にかけ、阿膠が溶解し尽くしてから火より降ろし、少し冷えたところに卵黄を入れ、よくかきまぜて服用する。

【方解】 本方は黄連解毒湯から黄柏・梔子を去り、芍薬・阿膠・卵黄を加えたものである。黄柏・梔子が抜けたために、上焦の熱証に対する効力は低下しそうだが、黄連が倍増となりこれを補っている。黄連・黄芩の組合せは上焦の熱証を治し、更にこれにより引き起こされる精神症状および血証に有効である。阿膠の滋潤・滋養・止血作用は、皮膚枯燥・口唇乾燥等の燥証、および虚証、更に血証に有効である。また芍薬は滋潤作用があり阿膠を助けると共に、裏の攣急に対応し腹痛・下痢を治す。卵黄の滋養・強壮作用は虚証に対応する。

【方意の幅および応用】 A1上焦の熱証燥証:発熱・心煩・心下痞・心下痞硬・口臭等を目標にする場合。
   急性上気道炎、気管支炎、麻疹、肺炎、髄膜炎、出血を伴う腸炎、膀胱炎、尿道炎
  2上焦の熱証燥証:皮膚枯燥・瘙痒・発赤・心煩・心下痞等を目標にする場合。
   皮膚瘙痒症、乾癬、化膿性皮膚疾患
 B 上焦の熱証燥証による精神症状:不眠・心悸亢進等を目標にする場合。
   ヒステリー、ノイローゼ、躁病、統合失調症、高血圧症、脳血管障害
 C 血証:出血傾向を目標にする場合。
   鼻出血、眼底出血、吐血、咯血、痔出血、子宮出血、血尿

【参考】 *心中煩して、臥するを得ざる者、黄連阿膠湯之を主る。 『傷寒論』
*陽病、発熱し、心中煩して、安臥することを得ず。或いは腹痛し、或いは便結する者は黄連阿膠湯之を主る。  『医聖方格』
*此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて、病陰分に陥って、上熱猶去らず、心煩或いは虚躁するものを治す。故に吐血、咳血、心煩して眠らず、五心熱して漸々肉脱する者、凡そ諸病日久しく、熱気血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢、腹痛、膿血止まず、口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用ゆることもあり。併し桃花湯とは上下の弁別あり。また疳瀉(疳症の下痢)止まざる者と、痘瘡煩渇寝ざる者に活用して特効あり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方は三黄瀉心湯ならびに黄連解毒湯の虚証に用いる。
*中年女性の顔面の発疹。隆起は少なく、やや赤みを帯び、乾燥して落屑があり、軽度の瘙痒感を伴う。日光や風に当たると悪化するものに良い(大塚敬節)
*温清飲の虚証である(松田邦夫)

【症例】 サバズシ後の発疹
 36歳、主婦。この患者には喘息の持病がある。
 1ヵ月前サバズシを食べてから、顔がウリシに負けたときのように真赤になり、皮膚が硬くなり浮腫が出現した。漢方薬店で漢方薬(薬名は不明)を調剤してもらったが、この漢方薬で胃の調子が悪くなり、むかつくようになったという。そこで皮膚科でカルシウム剤の注射を受け、内服薬をもらった。しかし顔面ばかりでなく前膊も赤くなった。そこで私のところに来院した。
 足に冷たい感じがして来たと思うと、やがて顔面や前膊が痒くなってくるという。血行の異常が起こるらしい。分泌物は患部をかくと少し出る程度で自然にはない。腹部は脂肪が多くて腹直筋は分からない。脈は沈で弱い。そこで私は温清飲(10日分)を与えたが、再来時に発赤も痒みも減らないばかりか、首の周りも痒くなったという。酒を飲んだような顔をしている。発赤は皮膚表面からは隆起していない。分泌物はないが乾燥とはいえない。
 黄連阿膠湯の使用例では皮膚が乾燥しているとなっているが、私はあえて使ってみることにした。またこの2、3日来、右頚部リンパ腺が腫れて来たというので十味敗毒湯を併用することにした。こうして十味敗毒湯と黄連阿膠湯各20日分の併用で全治させることができた。
岸本亮一 『漢方の臨床』14・10・27


『漢方処方・方意集』 仁池米敦著 たにぐち書店刊
p.32
黄連阿膠湯おうれんあきょうとう
 [薬局製剤] 黄連4 阿膠3 黄芩3 芍薬2 阿膠を除く以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製し、これに阿膠3gを添付する。1包に水約240ccを加えて、80cc位まで煎じつめ、煎じカスを除き、阿膠を加えて溶かし、少し冷えてから卵黄1個を入れてかき混ぜて服用する。

 «傷寒論»黄連4 阿膠3 黄芩2 芍薬2 鶏子黄1個 黄連・芍薬・黄芩を煎じて濾して後に、阿膠を入れて溶かし、少し冷えてから鶏子黄けいしおうを加えてよくかき混ぜて服用する。
  【方意】血と津液を補って虚熱を除き、肝胆と心小腸を調えて、血と水の行りを良くし血を止め精神を安定し、不眠や出血などに用いる方。
  【適応】少陰病になり二三日以上し心中がはん(煩わしく不安感がある症状)する者・或いは虚躁きょそう(虚して不安感などがある症状)する者・吐血し咳血がいけつ(咯血や血痰が出る症状)し心煩しんぱんして眠らない者・五心が熱して肉脱にくだつ(肌肉が痩せ衰えて脱する様な症状)がまず口舌が乾く者・少陰の下痢・膿血のうけつ疳瀉かんしゃ(疳疾による下痢)が止まない者・痘瘡とうそう(天然痘のこと)し煩渇はんかつ(煩わしく口渇する症状)し不眠する者など。
  [原文訳]«傷寒論・弁少陰病脈証併治»   ○少陰病、これを得て二三日以上し、心中がはんして、眠ることを得ざれば、黄連阿膠湯がこれを主る。
  «勿誤薬室方函口訣»   ○此の方は柯韻伯の所謂いわゆる少陰の瀉心湯にて、病が陰分におちいって上熱がなお去らず、心煩しんぱん或いは虚躁きょそうするものを治す。故に吐血・咳血し、心煩はんぱんして眠らず、五心が熱して漸漸ぜんぜん 肉脱にくだつする者、すべて諸病の日久しく、熱氣血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢・腹痛・膿血のうけつまず、口舌乾く者等を治して験あり。また、少陰の下利や膿血に用いることもあり。しかし桃花湯とは、上下の辨別あり。また疳瀉かんしゃまざる者と、痘瘡とうそう煩渇はんかつ・寐ざる者に活用して特効あり。


『薬局製剤 漢方212方の使い方』 第4版
埴岡 博・滝野 行亮 共著
薬業時報社 刊


K12. 黄連阿膠湯おうれんあきょうとう

出典
 傷寒論のou陰病篇には『少陰病になって2,3日以上経ったとき、興奮,のぼせ,逆上,狂躁,不眠,煩躁,心悸亢進などの心中煩の症状を起して,じっと横になっていることができなくなったときは黄連阿膠湯を服用すべきである』とある。
 原方では黄連,黄芩,芍薬,阿膠の他に卵黄半個が入っている。

構成
 心中煩を血熱とみて黄芩,黄連,血熱に伴う血燥に阿膠を配剤している。卵黄は阿膠と同じく血燥を去るためのものであるが,通常は使われていない。

目標
 大黄・黄連・黄芩で構成されている三黄瀉心湯と似ているところから,少陰病の瀉心湯といわれている。
 少陰病は「たたいねんと欲す』というのが本筋なのに,本方は少陰病でありながら心中煩して臥すことができない状態である。それほど心煩は根が深く,のぼせ感だけではなく顔面紅潮,興奮性や狂燥性,心悸亢進を表わす。甚だしい例では脳症の場合もある。しかも虚候を帯びていてすべての症状が実証ではないのが瀉心湯と区別されるところである。
 また,咯血,吐血,衂血,痔出血,眼出血などに瀉心湯が使われるごとく,心中煩と虚状を目標に本方は使われる。
 ことに,慢性疾患への応用と成て,瀉心湯や黄連解毒湯が皮膚疾患に使用されるが,黄連阿膠湯も同様に使用する。陰陽の違いがあるので,痒みを心煩と考えて黄連解毒湯を使って効かぬ場合に陰陽のとり違えとして本方を使うか,あるいはイライラとカユイのを陽性,ウズウズとカユイのを陰性と区別して使うとよい。

応用
(1) 肺炎,チフス,麻疹,溶連菌症,丹毒,脳出血,脳炎等で高熱,煩躁,不眠,譫妄,胸中熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下し難いもの。
(2) ヒステリー,ノイローゼ,高血圧症,精神分裂症等で不眠,煩躁,興奮,動悸,頭重,のぼせ,耳鳴,肩こり,胸苦熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下し難いもの。
(3) 衂血,吐血,咯血,眼出血,血尿等で心煩を伴い下し難いもの。
(4) 大腸炎,赤痢,直腸潰瘍等で下痢し心煩または便に膿血が混じるもの。
(5) 小便淋瀝し小便熱湯のごとくあつく感じるもの。
(6) 皮膚瘙痒症,乾癬,皮膚炎,ヴィダール苔癬等で猛烈にかゆく患部が赤く乾燥気味のもの。

留意点
◎皮膚病への応用では,発疹が小さいこと,隆起があまりないこと,赤味を帯びていること,乾燥していることが必要である。
◎泌尿科疾患への応用では,猪苓湯を合方すると一段と効果を増す。
◎風土病にフィラリア虫症があるが,猪苓湯合方が特効あることを恩師長倉音蔵先生がよく語っていられた。珍しい病気だが覚えて置いて損はない。

文献
1.龍野一雄・漢方入門講座 (昭31) P.1069
2.龍野一雄・新撰類聚方浅 (昭33) p.173
3.大塚敬節・漢方診療30年 (昭34) P.369


『臨床応用 傷寒論解説』 大塚敬節著 創元社刊
 p.419
第百三十九章

少陰病、得之二三日以上、心中煩不得臥、黄連阿膠湯主之。

校勘
  康平本には「臥」の下に「者」の字がある。


少陰i病、之(これ)を得(え)て、二三日以上、4心中煩(はん)して臥(ふ)すを得(え)ず、黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)之(これ)を主(つかさど)る。


 この章は、前々章と章前のあとをうけて、少陰病にかかって、二三日以上たって、裏証を現わしたものの証治を論じている。
 さて、少陰病にかかって、まだ裏証のない時期には、麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯で少し発汗せしめるべきであるが、その治を誤ると、二三日以上たって、邪気が裏に入って、熱を生じ、そのため血液が枯燥して、胸苦しくて、安臥できなくなる。これは「吐せんと欲して吐せず、心煩」の変証であり、梔子豉湯証の虚煩眠るを得ずの証に似ている。
 太陽病の場合は、邪が裏に入るのは、多くは、五六日以上たってからであるが、少陰病は、二三日で、すでに裏に邪が入って、血液枯燥の状を呈するのである。これは黄連阿膠湯の主治である。
 〔臨床の眼〕 (142) 黄連阿膠湯を用いるには、これを構成している薬物の薬効を考えてて、いろいろと応用できる。
 これを不眠症に用いたり、下痢に用いたり、皮膚病に用いたりするのも、瀉心湯の代りに、芍薬、卵黄、阿膠が入っている点から、瀉心湯または黄連解毒湯の虚証として考える。この二つの薬物には滋潤の効があり、卵黄、阿膠には強壮の効もあるから、これらの点を考慮して用いるとよい。柯琴は、この方を少陰の瀉心湯たといった。

 黄連阿膠湯方
 黄連四両 黄芩二両 芍薬二両 鷄子黄二枚、阿膠三両一云三挺
 右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓、内膠烊盡、小冷、内鷄子黄、撹令相得、温服七合。日三服。


校勘
  成本、玉函は黄芩「二両」を「一両」に作り、「水六升」を「五升」に作る。



黄連阿膠湯の方
黄連(四両) 黄芩(二両) 芍薬(二枚) 鷄子畜(二枚) 阿膠(三両、一に云う三挺)
 右五味、水六升を以って、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去り、膠を内れて、烊盡し、少しく冷えて、鷄子黄の内れ、撹ぜて相得せしめ、七合を温服す。日に三服す。
(300) 三挺-「一に云う三挺」とあるのは、阿膠は牛またはロバの皮から取ったニカワであるから、一挺、二挺とかぞえたものであろう。だから「或る本には三挺となっている」の意。
(301) 烊盡-とかしつくすこと
(302) ニワトリの卵黄のことで、これはあまり熱いうちに入れると凝固するから、少し冷えてから入れる。



『臨床傷寒論』 細野史郎・講話 現代出版プランニング刊
p.380
第百四十六条

少陰病、得之二三日以上、心中煩不得臥、黄連阿膠湯主之。

〕少陰病、之を得て、二三日以上、心中はんしてすを得えず、黄連阿膠湯おうれんあきょうとう之を主る。

講話〕少陰病は「但欲寝」というだけで、ゆるゆるしたものだったら、甘草麻黄湯に附子を加えた麻黄附子甘草湯でよいわけですけれど、それに少陰病になって二、三日にもなると、胸苦しくて、寝るはずなのに、鬱々として寝ることもできない。そういう状態の時には、黄連阿膠湯を持っていくとよいということです。
 ここには、少陰病の眠り薬のことが書いてあるのです。
 黄連阿膠湯は、常の病気としては、首のあたりに湿疹ができて、痒くて痒くて、うずうずしてどうにもならない。よくあるでしょう、更年期のものかと思いますが、大塚先生の奥さんもできましたし、私の家内もできました。二人とも、首のところに沢山出ました。出方は発赤はしないで、少しそのあたりが腫れたようになってうずうずカユイのです。それに黄連阿膠湯を与えると割合によく効きます。
 眠れない時にも飲ませますけれど、煎薬でなくても、今では洋薬が沢山ありますからね、それを飲むと眠れますから、煎じたりする漢方薬の出番はないのです。

『康平傷寒論読解』 山田光胤著 たにぐち書店刊
p.292
(306)三〇六条、第百三十九章、十五字
少陰病之を得て二三日以上、心中煩し、すこと得ざる者は、黄連阿膠湯之を主る。
【解】少陰病にかかったとき、裏証が出ないうちに麻黄細辛附子湯や麻黄甘草附子湯で少し発汗させればよかったのを、治療を誤って二三日以上たったので邪気が裏に入って熱を生じ、そのため血液が枯燥して胸苦しくなり、安臥できない裏証を現すに至った。これは黄連阿膠湯の主治である。
大塚先生注・太陽病は邪が裏に入るのは大抵五、六日以上たった時であるが、少陰病は二三日で邪が裏に入り、血液枯燥の状を呈するものである。
黄連阿膠湯方
黄連四両、黄芩二両、芍薬二両、鷄子黄二枚、阿膠一に云う三両三挺
右五味、水六升を以て、先に三物を煮て二升を取り滓を去り、膠を入れて烊盡し、少しく冷えて鷄子黄を内れ、ぜて相得せしめ、七合を温服す、日に三服す。



『傷寒論演習』 講師 藤平健 編者 中村謙介 緑書房刊
p.587

三一三 少陰病。得之二三日以上。心中煩。不得臥。黄連阿膠湯主之。      少陰病、之を得て二三日以上、心中煩して臥すことを得ざるは、黄連阿膠湯之を主る。

藤平 少陰病でこれを得て二三日以上というのですから少し日がたち、やや緩和なのですね。「心中煩」は心煩よりも胸の中の奥深くまで煩悶し、そのため安静臥床をとることができないほどの不快感がある場合には黄連阿膠湯がつかさどるというので。
 これも併病であろうと思います。奥田先生も「少陰病の気血虚する者にして内熱を挟み」といわれています。麻黄附子細辛湯、麻黄附子甘草湯では「表熱を挟む」とありました。
 挟むとあるときには併病でしょうね。陰証には元来内熱はないはずですから、これが存在しているということは併病でしょう。そのために陽証に使われる黄連が組合わされているのでしょうね。少陰の瀉心湯といわれるのはこのためです。
 先生のご解釈を、


少陰病 此の章は、前章を承けて、少陰病の気血虚する者にして内熱を挟み、液分之が為に枯燥し、邪熱心胸に逆して心煩し、臥寝するを得ざるの一証を挙げ、以て黄連阿膠湯の主治を論ずるなり。

藤平 「液分」とは体液です。ここにも「邪熱心胸に逆して心煩し」と熱があるとされています。


得之二三日以上 此れ前章の「之を得て二三日」の句を承く。「以上」とは、猶ほ以後の如し、即ち二三日の後、始めて此の証を現はすの謂なり。
 此の句、既に微しく汗を発すの時期に非ざるを示す。
三一三 少陰病。得之二三日以上。心中煩。不得臥。黄連阿膠湯主之。

藤平 前掲の麻黄附子細辛湯、麻黄附子甘草湯の「微発汗」の時期を過ぎているということです。


心中煩 不得臥 「但だ寝んと欲す」は、少陰病の正証也。然るに今臥すことを得ず。又更に自利等の証を現はさざるるるは、是、内に欝熱を挟み、津液及び血分之が為に枯燥し、邪熱逆して心胸に窒がり、心中煩悶懊憹するの致す所也。故に、「心中煩して、臥すことを得ず」と言ふなり。

黄連阿膠湯主之 之を黄連阿膠湯の主治と為す。故に黄連阿膠湯之を主ると言ふ也。
 此の章に拠れば、黄連阿膠湯は、津液を滋潤し、血行を調和し、心中の煩熱を解するの能有りと謂ふ可き也。

 此の方、主として上焦に邪熱を挟みて、陽勢に似たる者を清め潤ほすなり。柯琴曰く、此れ少陰の瀉心湯なりと。

○右の一章は一節也。少陰の位に於て発病し、内熱を挟める一証を挙げて、其の治を明かにしたる也。

黄連阿膠湯方 黄連四両 黄芩一両 芍薬二両 鶏子黄二枚 阿膠三両
 五味。以水五升。先煮三物。取二升。去滓。内膠。烊盡ようじん。小冷。内鷄子黄。攪令かきみだして相得。温服七合。日三服。

藤平 黄連と黄芩が入っているのでいかにも瀉心湯に近いですね。鶏子黄二枚とは卵の黄味二個ということです。これは冷やしてから入れないと固まってしまっていけません。この薬方は陰証に傾いている人の高血圧症等で心煩が強いものに用いますと、胸の中もスッキリして血圧も下ってくることが時にあります。何例か経験していますが、あまり頻用しません。著効を得た記憶はありません。まずまずの成績でした。
 これは併病とすると黄連と黄芩の二黄の瀉心湯と陰証の何かの薬方との合方になっていると思います。
それではご質問はありませんか。

会員A この黄連阿膠湯の条文が「少陰病」ではじまっている点は、以前からたいへん不可解に感じていたところなのです。
 この薬方証を調べてみますと、冷えるとか、疲れるとか、寝んと欲す等という少陰病を疑わせる症状は記載されていません。構成生薬も黄連と黄芩は寒、芍薬は微寒、鶏子黄と阿膠は平でして、温める作用は全くありません。
 それでいながらどうして少陰病と書き出しているのでしょうか。

藤平 そうですね。「少陰病」は前条を承けているとありますから、「得之二三日」の間に麻黄附子細辛湯なり麻黄附子甘草湯なりの証があったと思われます。その時これらの薬方を正しく服用せしまれば治癒してしまうのですが、そうしなかったか、何か不十分なところがあって、さらに病気が進行し、体液が欠亡し、陽証の邪熱が胸の中に生じ心煩が起きたのですね。
 発病時とは証が変化し、病位も変わったのでしょう。

会員A 時間の経過の中で少陰病ではなくなったのだと読むことに私も賛成なのです。そうしますと、柯琴先生の少陰の瀉心湯というのは誤りだと思うのです。やはり少陽の瀉心湯の虚証と考えるべきだと思いますが、どうでしょうか。

藤平 しかし、ここまで進行するまでの間に、少陰を通っているのですから、柯琴さんのいうこともわからなくはありません。
 この構成生薬でどうして少陰なのかと、私も考えてみたことがあるのですが、まアそんなふいに考えないと解釈ができませんね。
 臨床では瀉心湯証に似ているが、附子瀉心湯のような、ああいう陰証ではないいと思って、本方を使うとよい場合がありますので、やはり必要な薬方なのですね。

会員A この心中煩の熱は虚熱ではなく、実熱なのですね。

藤平 そのようです。


『ステップアップ傷寒論-康治本の読解と応用-』 村木 毅著 源草社刊
第五十二条
少陰病、心中煩して、眠ることを得ざる者は、黄連阿膠湯、主之。
「少陰病、心中煩、不得眠者、黄連阿膠湯主之」
 STEP-A
 少陰病に患り裏証が出現しないうちに、少し発汗させれば良いのを(麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を用いて)、誤治することにやって(注:陽病との取り違い)、邪気が裏証に入り熱を生じて血が枯燥して心胸が苦しくなり、安臥できない場合には黄連阿膠湯が主治する。

 STEP-B
 宋本や康平本には、少陰病の文言に続いて、「得之二三日以上」とあるのは少陰病になってから二三日以上を経過して、これらの症状が出現するのを意味している。
「心中煩・不得眠」とは、但だ寐んと欲す、が少陰病の正証であるとすれば、ここでは、それらが寝られなくって自利もないのは内部に鬱熱があって、津液や血分が枯燥し、邪熱が逆上して心胸に閉塞するからで、心中煩悶して苦しくなるので心中煩して臥して寝ることができなくなる。「脈微細」とは、脈が微・弱で細・小で、脈の勢いが無いのを言い、これは内外ともに虚・寒を現している。
 STEP-C 心中煩とは、胸中煩と同じで胸中が熱っぽくて苦しい状態を言い、これは外熱に因るのである。
 不得眠とは、外熱のために寝ることができないで、少陰病は気力が衰えていて、急性の心臓衰弱に似た症状を呈する。煩して眠れないよりも、臥すことができない状態のほうが重症で、これは一種の急性循環障害とも考えられる。(«研究»)。また、黄連阿膠湯は少陰温病に用いる。黄連+黄芩は瀉心(胸の熱を治す)、黄連、黄芩、芍薬は鎮静と不眠、阿膠は補血と止血、特に出血性の陰虚証に効果がある(«要略»)。

 STP-D
 «弁正»
 少陰病に患って二三日の始めには、脈は微・細で、反って発熱して、未だ、この条文の様な症状には到らないであうが、熱が表にあって徹し切れなければ、次第に裏位に逼るのは当然である。
 こうなると心中煩して臥すことが出来なくなるのは裏熱に因るので、また、下利や膿血も裏熱に因るから黄連阿膠湯が宜しい。『千金要方』にも下利・膿血を治する方剤を載せているが、ここに記述されている方剤と大差はない。唯、梔子・黄柏を黄芩・芍薬に代えて鶏子黄がないのか相違するのを参考にして欲しい。(現在用いている黄連阿膠湯は、黄連・黄芩・芍薬・阿膠)

 «集成»
 「少陰i病、得之二三日以上」の十字は『肘後方』に従って「大病差後」の四字に改作し、「臥」の字の下に当に「蓋梔子豉湯証之軽者」を補うと良い。
 大病が癒えても、その後に余熱があって煩するのは、病後の血液の回復が充分ではないので、徒に下熱だけをすべきではない。そこで芍薬・鶏子黄、阿膠の三薬で血液を回復させて、黄連・黄芩で胸中の熱煩を治するのである(下略)。
 «輯義»
  成無已の説を挙げて曰く、風は陽を傷め、寒は陰を傷める。少陰病を患って寒を得て二三日してから、寒さが極まって熱と変じる場合には、熱は内に波及して煩し、心中煩して臥すことが出来なくなるから黄連阿膠湯を与えて陰を援けて熱を放散する(下略)。

 «識»
 但寐んと欲すのが少陰病の正証であるから、それが反って「五六日に至り自利して復、煩して臥寝を得ず」と言うのは少陰病の正証を承けて、その軽症を論じた英である。即ち、心中煩成て未だ煩躁には到らず自利もない状態なので、これは虚煩して眠ることが出来ないのと同じ状態であるから、梔子豉湯証に似ているように思えるが、ここでは邪熱の壅塞(滞る)ではなくて「少陰病で吐こうとしても吐けずに心煩する者」の変証であるから、その邪熱を清潤すれば(黄連阿膠湯で)治癒する(下略)。

 «脈証式»
 少陰病に罹患して二三日。既に麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を与えて、陰邪は挽回した後でも、邪気が心胸に翻って、精虚が俄かに回復に向かうのだが(原因不明)、邪勢が心裏を通徹して心中煩を出現することもある。心中煩は精虚に因って起こり、徐々に身を傾けて之を堪えて、中々に臥すことが出来なくなる場合には、この証を参考にして方剤もこれれに随うのが良い。陰陽が互いに偏らず虚実の間にあって、心煩や胸中煩して実に偏る者は小柴胡湯であり、心中悸や煩の状態が虚に偏る者には小建中湯である。これらは混同しやすいから参考すべきである。

 ●黄連阿膠湯の構成
 黄連四六両、黄芩二両、芍薬二両、鶏子黄(卵黄)二枚、阿膠三両。右の五味、水六升を以て、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去り、膠を内れ、とか尽して、小しく冷れば、鶏子黄を内れ、攪して相得令め、七合を温服し、日に三服す。
「黄連四両、黄芩二両、芍薬二両、鶏子黄二枚、阿膠三両。右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓、内膠、烊尽、小冷、内鶏子黄、攪令相得、温服七合、日三々服」
 令相得とは、均一にする意味、三物とは三味の薬剤を言う。また、少陽病(陽)の煩には、梔子豉湯であり、少陰病(陰)の煩には黄連阿膠湯であり(何れも温病と関係ありと言う)、また少陰の瀉心湯(黄連、黄芩、大黄の大黄に代えて芍薬+阿膠)と言われることもある。
 阿膠
 «薬徴»
 記載なし。
 «古方»
 (前略){釈性}味甘平。内崩下血、腰腹痛、四肢酸疼、虚労、羸叟、咳嗽を去り、血を和し、陰を滋し、風を除き、燥を潤し、痰を化し、小便を利し、大腸を謂ふ。{議に曰く}阿膠は味甘平。能く血液を滋潤し、地黄と同じく血分の要薬と為す。故に仲師阿膠を用ふる。地黄に伍せざれば則ち麦門に配す。皆滋潤を以て宗と為すなり(下略)。

 «新古方»
 ボクは則ち、牛肉のすじを買い来り自製したる物を用ふ。所謂、不快のにかわ臭なきの理。尤も当今精製せられた品は工業用品と雖も不快のにかわ臭無き品多し。ゼラチンに至りては此点理想的に近し。但其の効陸上の物と等しきや否や、支那には以上の外鹿膠、虎骨膠あり価極めて貴し。用途は則ち阿膠と異り主として養生用に供せらる。

 «実践»
 止血潤肺作用を有する優れた補血薬、熟地黄に比べより膩性であり、潤肺・止血作用を有する。1) 補血作用:優れた補血作用とともに、良好な収斂止血作用を有する。①心肝などの血虚証に使用される。めまい、動悸、顔色不良、不眠、羸叟、月経後期、過少月経、閉経、さらに煩躁などに使用される。②血、咯血、崩漏、過多月経、血尿、などの一切の出血症に使用される。陰虚火旺や虚寒証など各種の病態に使用可能だが、特に陰血虚の出血に適する。③養血止血安胎作用もあり、妊娠の下血、胎動不安などに使用される。2) 滋陰潤燥:肝・腎・肺の陰を補い乾燥を潤す(潤燥)。①熱病の陰液消耗や肝腎陰虚の煩躁不眠、動悸、四肢のほてり、倦怠感などに使用される。②陰虚内風による痙攣に使用される。③肺陰虚や肺燥による乾咳、粘性少量痰、鼻腔乾燥などに使用される。3) 他:潤腸通便作用があり、腸燥便秘に使用される。

 «知識»
 阿膠は動物性製剤で、その成分朝fゼラチンとコラーゲンで、共に膠質タンパクである。これらタンパク質の組成の特徴はグリシン、プロリン、オキシプロリンが多いのが他のタンパク質とは異なる。阿膠の薬理作用はゼラチンの作用と同じであり止血作用として認められている。コラーゲンは一般の結合織を構成する生体産生産物で、炎症過程で著しく増加し生物防御反応に寄与しているその反応の一つに止血作用がある。止血機構は内因性の血液凝固系血漿タンパク質の機能が主軸で、血小板の凝集や、外因性の組織因子系からの刺激が加わって進行する。ともかく炎症などで生体コラーゲンが増量したり血管壁が損傷されてコラーゲンが侵食すると血小板が結合して凝集反応を起こす仕組みとなっている。

 «生薬»
 血液凝固抑制作用、抗腫瘍作用。血液凝固抑制作用、抗痙攣作用。

 鶏子卵
 «薬徴»
 記載なし。

 «古方»
 (前略){釈性}味甘微寒。目熱赤痛を発し、心下の伏熱を除き、煩満咳逆を止め、大煩熱を破る
{議に曰く}鶏子に黄白の分あり。黄は則ち其味甘厚、能く気血を和し、煩熱を除く。白は則ち其味淡薄。肌膚を生じ声音を亮にす。是を以て黄連阿膠湯、百合鶏子湯、排膿散並びに黄を用ふ。その和血除熱を取るなり。古人曰く、阿膠と効を同じうすと(下略)。

 «新古方»
 鶏子黄は本経には鶏子よく火瘡、癇痙の趣を除くことを主るとあり、則ち熱を鎮め煩を去るの効あるやうなり。古方にては本品は黄連阿膠湯、排膿散、百合鶏子湯方等の中に配伍せらる。
 鶏子白は卵白気味甘微寒無毒、主治は目熱赤痛、心下の伏熱を除き煩満、欬逆、小児の下泄をとどめ婦人産難に胞衣の出でざるは並びに生にて之を呑む。
 ボク曰く、タンパクは皮膚や膜の刺激を緩和し外より保護するの効あるものとす。古方にて殻と共に(但し殻中に附着残留せるものをさす)半夏苦酒湯に用ひられ口中のただれを治するに供す。
 昔時は初の磁などの場合によく用ひられたり、その療法は則ち焼酎を以て傷を洗滌し蛋白を塗り白木綿にて包帯せしめたりと謂う。又接合剤として工業的にも使用せらる。

 «実践»
 鶏子黄としては記載はないが、鶏黄皮(鶏内金)としての記載がある。その大略を述べる。
 優れた消食作用を有して各種の食積証に使用される。また渋精止遺・化石通淋歴試作用も有す。1) 消食健脾:優れた消化作用があり、かつ脾胃機能改善作用を有する。肉、脂肪、澱粉、母乳など広範囲な食積、消化不良に使用される。2) 精止遺:精液や尿を保持して漏らさない。尿失禁、頻尿、遺精などに使用される。3) 化石通淋:結石溶解作用と利尿作用があり、尿路結石、胆石などに使用される。4) 他:活血散結作用もあるとされ、癥瘕、閉経などに使用される。

 «知識»
 記載なし。

 «生薬»
 記載なし。

 ●黄連阿膠湯の方意
 «類聚»※( )は原典の「 」内の文言。
 ・心下悸動して煩し、眠るを得ざる者を治す。「少陰病、之を得て二三日以上」、心中煩して臥するを得ざるは(本方にて治す)。
 {頭注}
 *肘后方(葛洪『肘后備急方』)の時気病起労復篇に、大病の差後、虚煩して眠るを得ず、眼中疼痛し、懊憹するものに用いる。(中略)久痢の腹中略、下略熱痛症に類するも症まま同じからず。久痢腹中熱痛みし、心中煩して眠ることを得ず。或は便に膿血の者を治す。
 *痘瘡内陥して、熱気熾盛にして、咽燥ぎ口燥き、心悸煩燥し、清血の者を治す。
 *諸失血症にして、胸悸し、身熱あり、腹痛して微利し、舌乾き唇燥ぎ、煩悶して寝ること能わず、身体困惑し、面に血色なく、或は面、熱し紅潮する者を治す。

 «勿誤»
 此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて病陰分に陥て上熱猶去らず心煩或は虚燥するものを治す。故に吐血咳血心煩して眠らず五心熱して漸漸肉脱する者凡て諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者毒痢腹痛膿血止まず口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用うることもあり。併し桃花湯とは上熱弁別あり。又疳瀉不止茂者と痘瘡煩渇味寝者に活用して特効あり。

 «方意»
 上焦の熱証、燥証による心煩、心下略痞、心下略痞硬、皮膚枯燥、口臭等、上焦の熱証、燥証による精神状態。としての不眠を伴う。時に血証。少陽病。虚証。
 上焦の熱証、燥証が主であり陽証である。表証も裏も実証もなく少陽病に相当する。自覚的にも、腹・脈力は低下している。脈診ではやや軟・やや弱・微浮、沈微、沈小、細数。
 腹診はやや軟、多くは心下痞、心下略痞硬がある。

 «指針»
 {目標}血煩により心煩して眠ることを得ず、不眠、煩燥、顔面紅潮、興奮、心悸亢進、頭重、のぼせ、胸苦しくと熱感等を訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。
傷寒論には少陰病篇にあるが、少陰病に似たもので、実際には瀉心湯の虚したものである。
 {応用}肺炎、チフス、麻疹、猩紅熱、丹毒、脳出血、狂燥症などで高熱、煩燥、不眠、讝妄、胸中熱、ヒステリー、ノイローゼ、高血圧、統合失調症、狂燥症などで不眠、煩燥、興奮、動悸、頭重のぼせ、耳鳴り、肩凝り、胸苦、熱感などを訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいもの。
 鼻血、吐血、咯血、眼出血、血尿、子宮出血、膀胱炎、尿道炎などで、心煩を伴い下し難感もの。
 大腸炎、赤痢、直張潰瘍などで下痢し心煩または便に膿血がまじるもの。小便淋瀝し、小便熱湯の如く熱く感じるもの。皮膚掻痒症、乾癬、皮膚炎などで夜も眠れぬほど猛烈に痒く、患部が赤く乾燥気味のものなど。
 {鑑別}柴胡加牡蠣湯:心煩、胸脇苦満、腹動。瀉心湯:心煩、実証。苓桂朮甘湯:心煩、興奮は少ない。

 ■私見

 少陰病に罹り麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を用いた後でも、脈が微・細で発熱しているのは、病勢が更に裏位に迫りつつある。従って心中煩して臥すことができないようになる。そこで黄連阿膠湯を用いて熱邪を清潤するのである。少陰病の提綱は、但欲寝、であるが、ここでは、臥すことができない、とあり、これは少陰病の正証による本当の少陰病よりは軽症と見て良い。また、少陰病の出血には一応、黄連阿膠湯は試してみる価値がある。

 ■診療の実際

 この生薬構成を考えると、瀉心湯の大黄に代えた芍薬、鶏子黄、阿膠の三剤には何れも滋潤作用があり、更に鶏子黄、阿膠には強壮作用もあるから、そのため、柯琴は少陰病の瀉心湯(黄連、黄芩)と言っている。血液の枯燥に用いると言うが、実際には不眠症、皮膚疾患(特に湿疹で痒みの著しい時など)、下剤として用いることが多い。高血圧での心煩にも効果がある。
 更には、各種の出血に用いている。自験例でも高齢者(89歳、女性)の下血。老衰の割には道気のある患者さんで消化管出血があり、一時はDICも疑った。年齢から見て精密検査をしないで、漢方診察のみとした。虚証であり、脈は、軽く沈で微・弱。腹診では軽度の心下痞があり、エキス黄連阿膠湯部7.5g(食後)と小建中湯5.0g(食前)を一週間与薬することで下血は止った。本来は熱証・燥証の発熱・心煩などに用いられるが血証にも効果がある。
 老婦で頑固な皮膚病に罹り赤味と小落屑があり、大柴胡湯加石膏、大黄牡丹皮湯薏苡仁湯、桂枝茯苓丸、黄連解毒湯で治癒せず、皮膚の乾燥によるものとして、皮膚の乾燥は阿膠、赤味と熱は黄連、黄芩と考えて黄連阿膠湯を用いて完治した。(大塚«三十年»
 黄連阿膠湯は一般には少陰病気の不眠や首の周りの湿疹で痒みの強い者に効果がある。(細野史郎«臨床»
※『ステップアップ傷寒論-康治本の読解と応用-』には誤字が多いが、そのままとした。


『改訂 一般用漢方処方の手引き』 
監修 財団法人 日本公定書協会
編集 日本漢方生薬製剤協会

黄連阿膠湯
(おうれんあきょうとう))

成分・分量
 黄連3~4,芍薬2~2.5,黄芩1~2,阿膠3,卵黄1個

用法・用量
 湯

効能・効果
 体力中等度以下で,冷各やすくのぼせ気味で胸苦しく不眠の傾向のあるものの次の諸症:鼻血,不眠症,かさかさした湿疹・皮膚炎,皮膚のかゆみ

原典 傷寒論
出典 
解説
 瀉心湯の加方である。熱性症候があり,虚して,胸ぐるしく,のぼせ,いらいらして眠ることができなく,各種出血,皮膚の瘙痒,下痢の症状があり,瀉心湯で下しがたいものに用いる。
 方函類聚 に「吐血咳血心煩ニシテ眠ラス五心熱シテ漸々肉脱スル者ヲ治ス又少陰ノ下利膿血,疳瀉下止,痘瘡煩瀉不寝ニ活用シテ特効アリ」とある。

        生薬名
参考文献名
黄連 芍薬 黄芩 阿膠 卵黄 用法・用量
処方分量集 3 2.5 2 3 1個
診療の実際 3 2.5 2 3 1個
診療医典  注1 3 2.5 2 3 1個
症候別治療 4 2 1 3 1個
処方解説  注2 3 2.5 2 3 1個 *1
応用の実際 注3 4 2 2 3 1個
明解処方 3 2.5 2 3 1個
改訂処方集 4 2 2 3 1個 *2
漢方入門講座 4 2 2 3 1/3個
傷寒論入門 4 2 2 3 2個

*1 阿膠,卵黄以外の三味を水600mLに入れ,300mLに煎じ,滓を去り,阿膠を入れて再び火にのせて溶かし,少し冷えてから卵黄1個を入れてききまぜ,3回に分服する。
*2 水240を以って黄連,黄芩,芍薬を似て80に煮つめ滓を去り,阿膠を加えて溶かし,少し冷まして卵黄を加えてかきまぜる。3回に分服。


 注1  老人または病後の患者の不眠,諸種の出血,下痢(粘血便を下すもの),皮膚疾患に用いられる。皮膚病に用いる目標は,発疹が主として顔面にみられ,隆起があまり目立たないほど低く,指頭でなでるとざらざらしていて,少し赤味を帯びて乾燥し,痒みは少なく,糠のような落屑があり,風にあたったり,日光にあたるとわるくなる傾向がある。
 注2  血煩により心中煩して眠ることを得ず,不眠,煩燥,顔面紅潮,興奮,心悸亢進,頭重,のぼせ,胸苦しく熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。
 勿誤薬室方函口訣には,「此方ハ柯韻伯ノ所謂少陰ノ瀉心湯ニテ、病陰分ニ陥ツテ上熱猶ホ去ラズ,心煩或ハ虚躁スルモノヲ治ス。故ニ吐血,咳血,心煩シテ眠ラズ,五心熱シテ漸々肉脱スル者,凡ソ諸病日久シテ,熱気血分ニ浸潤シテ諸症ヲナス者,毒痢腹痛膿血止マズ、口舌渇ク者等ヲ治シテ験アリ。又少陰ノ下利、膿血ニ用ルコトモアリ,併シ桃花湯トハ上下ノ弁別アリ,又疳瀉止マザル者ト,痘瘡煩渇シテ寝ザル者ニ活用シテ特効アリ」とある。
 注3  心悸亢進があり,胸ぐるしく,眠れないものが目標である。こういう場合には,つぎのようないろいろな症状が起こるときに用いられる。①吐血や咯血がある。②膿血便を下痢す。③頭部,顔面の疔(化膿性腫物)がひどく痛む。④尿が赤くにごり,あるいは淋瀝して尿利減少する。

 

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

1.次の人は服用しないこと
   (1)生後3ヵ月未満の乳児。
      〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
      (2)本剤又は鶏卵によるアレルギー症状を起こしたことがある人。
         〔卵黄を含有する製剤に記載すること。〕



 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  (1)医師の治療を受けている人。
  (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
  
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
消化器 食欲不振、胃部不快感


3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  下痢

4.1ヵ月位(鼻血に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用 を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1) 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
    〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
   1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
     〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
   2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
     〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
   3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
     〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
  (1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
    〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
  (2)小児の手の届かない所に保管すること。
  (3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
    〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
   (1)生後3ヵ月未満の乳児。
     〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
   (2)本剤又は鶏卵によるアレルギー症状を起こしたことがある人。
      〔卵黄を含有する製剤に記載すること。
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること   〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
   〔( )内は必要とする場合に記載すること。

2015年6月9日火曜日

応鐘散(おうしょうさん)(芎黄散(きゅうおうさん)) の 効能・効果 と 副作用

『症状でわかる 漢方療法』 大塚敬節著 主婦の友社刊
p.177
応鐘散おうしょうさん
芎黄散きゅうおうさんともいう。

処方 大黄1g、川芎2g。
 以上を粉末とし、一回に飲む。

目標 主として頭部、顔面におけるはれもの、皮膚炎。便秘の傾向に注目すること。

応用 頭部の湿疹。中耳炎。麦粒腫ばくりゅうしゅ(ものもらい)。副鼻腔炎(蓄膿症)。多くは葛根湯かつこんとう大柴胡湯だいさいことう、小柴胡湯などの兼用として用いられる。



華岡青洲.春林軒丸散方, 応鐘散.集成30巻, 1980, p.155-156
諸般の上逆せのぼせが甚だしく、 便秘し、 あ るいは頭痛耳鳴があり、 あるいは頭が痒く、あるいは白いフケが多く、あるいは瘡を生じ、あるいは頭がく らみ、あるいは肩がこわばり、あるいは口内に炎症があって歯が痛むものを治す。もし打撲して瘀血があれば酒を加えて服用する。

『薬局製剤 漢方212方の使い方』 第4版
埴岡 博・滝野 行亮 共著
薬業時報社 刊


K11. 応鐘散料おうしょうさんりょう

出典
 応鐘散とは聞きなれない名だが芎黄散の別名である。
 古方中興の祖といわれる吉益東洞は万病一毒説を唱え,古方の薬方を運用するにあたって,さかんに大黄剤,水銀剤などの攻撃薬を散剤または丸剤に製して兼用した。有名な東洞十二管丸散がこれである。
 十二管というのは淮南子えなんじの天文訓にある言葉で四時十二律二十四節の十二律を指す。
太簇たいそう夾鐘きょうしょう姑洗こせん仲呂ちゅうりょ蕤賓すいひん林鐘りんしょう夷則いそく南呂なんりょ無射ぶえき応鐘おうしょう黄鐘こうしょう大呂たいりょとそれぞれ今まであった丸散処方を改造して名づけている。

構成
 応鐘散は川芎と大黄の二味で構成されていて本来は等量混合物を散として1回1~2gを頓用する。湯(煎薬)としては大黄1g川芎2gを1日量としている。

目標
 単方飛用いられることは稀でほとんど大柴胡湯や葛根湯と合方するか,兼用する。
 中でも葛根湯と一緒に使うことが最も多く,葛根湯の証である頭痛,肩こりがあれば病名にかかわらず使われる。
 眼科疾患,例えば麦粒腫,眼瞼縁炎,涙囊炎,結膜炎,トラホーム,結膜フリクテン,虹彩炎等の初期に炎症,充血があればよく使用する。
 また頭部や顔面などの炎症に桂枝の入っている処方を用いる場合,桂枝は一時的に上部の炎症を増加することがあるので,芎黄散を兼用することが多い。

応用
(1) 眼疾患の充血,炎症。
(2) 頭部湿疹,脂漏性湿疹。
(3) 副鼻腔炎,歯痛,肩のこりなどで便秘がちの人。

留意点
◎本方は単方で使用することはほとんどなく,他の処方と合方するが,処方中に組み込むことなく各々の薬方として組み合わせて販売しなければならない。
◎例えば葛根湯と合方したい場合,あくまでも葛根湯は葛根湯として製剤し,応鐘散は応鐘散として製剤し,別包装として販売しなければならない。この場合の煎じる水の分量はやや多い目(600cc位)にする程度で別包のまま同時に煎じればよう。
◎瀉下作用を望む場合は、用法に規定している半量にまで煎じつめるのでなく,ごくあっさりと煎じるべきで,約2割程度の煎じつめ方(500mlを400mlに)でよい。なぜかというと,大黄の成分であるセンノサイドの分解を防ぐためである。
◎川芎が多いと個人差があるが嘔き気を訴えることがある。これもあっさり煎じることによって防げるが,あるいは川芎を減量すべきでもある。

文献
1.大塚敬節ら・漢方診療医典 (昭44) P.214~229
2.浅田宗伯・勿誤薬室方函口訣 (明11) 下巻36丁ウ
3.湯本求真・皇漢医学 (昭2) 3巻P.497~499


K11-①. 応鐘散おうしょうさん

出典
 楊氏家蔵方に「芎黄円」がある。『治風熱壅盛,頭昏,目赤,大便艱難』とある。
 構成
 大黄・川芎の2味等量が本来である。川芎が日本と中国とでは原植物が異るので,川芎の多量はやや不安が残る。今後を注目したい。

目標
 大黄は加熱しないときは瀉下作用が強力である。煎じ薬である11番の方は瀉下作用はすくなく,代りに消炎作用が強い。
 その使いわけが必要で,11-①の末は便秘薬として便秘をすると頭が痛いという人に最適である。




『改訂 一般用漢方処方の手引き』 
監修 財団法人 日本公定書協会
編集 日本漢方生薬製剤協会

応鐘散(芎黄散)
(おうしょうさん(きゅうおうさん))

成分・分量
 大黄1,川芎2

用法・用量
 (1)散:1回に頓用する
 (2)湯:上記量を1日量


効能・効果
 体力中等度以上のものの次の諸症:便秘,便秘に伴うのぼせ・肩こり

原典 東洞先生家熟方
出典 

解説
 顔面や頭部の疾患に兼用される処方である。


           生薬名
参考文献名
大黄 川芎 用法・用量
処方分量集 - -
診療の実際 1 2
診療医典  注1 1 2 以上を粉末として1回に服す
症候別治療 1 2
処方解説 - -
後世要方解説 - -
漢方百話 - -
応用の実際 - -
明解処方 - -
改訂処方集 - -
漢方医学 - -
精撰百八方 1 2
古方要方解説 - -
成人病の漢方療法 - -



注1 麦粒腫:便秘の傾向あるときは川芎・大黄を加えるか、芎黄散(応鐘散)を兼用する。本病に限らず、すへての眼疾患には芎黄散がよく兼用される。顔面や頭部の上方部にある病毒を下すために必要なのである。ことに桂枝を加味した処方の場合は川芎・大黄を加味するか,あるいは芎黄散を兼用する。
 急性・慢性涙囊炎,急性・慢性結膜炎,トラコーマ,結膜フリクテン,白内障,以上葛根湯と加方で用いられる。

参考:晩成堂散方解 南涯吉益先生口述,蠃斎吉益先生口述,木場宏和訳 漢方の臨牀特集号第14巻
 東洞先生「大便難く,心身痞し,これを按じて濡にして煩悸する者を治す。また曰く,諸証治し難くして上衝,不大便の者を治すと」
 南涯先生「これ血毒ありて上逆する者を治す。その証,頭痛,耳鳴,或は頭痒,或は白屑多く,或は瘡を生じ,或は頭眩,目瞑,或は肩背強り,或は口熱,歯痛,或は血積,不大便の類,諸般上逆の毒なり,もし打撲して瘀血ある者は蕎麦を加えて酒にて服す」。
 蠃斎先生「家方は蕎麦粉少しばかり加う。血滞をもって目的となす。凡そ血気逆して上に迫って疼痛,諸腫物に血毒結滞し,或は心下痞す。世にいうところの積気の者および打撲にはみなこの散を用う。その活用広遠なり。凡そ血滞の証をもって(活用の)準治となすべし」。


『勿誤薬室方函口訣解説(21)』 日本東洋医学会理事 矢数 圭堂
芎黄円料 芎帰湯 芎帰膠艾湯 杏人(仁)五味子湯 杏酪湯 強神湯

芎黄円料

本日は、芎黄円料キュウオウエンリョウからお話しいたします。芎黄円料は『楊氏家蔵方』に載っている処方です。楊氏とは宋の時代の楊倓のことで、『楊氏家蔵方』はその著書であります。風熱が盛んになって、頭がくらみ、目が赤くなり、大便が出にくいというものを治す処方であり、川芎センキュウ大黄ダイオウの二味から成っております。「あるいは葛根湯カッコントウを合す、あるいは苓桂朮甘湯リョウケイジュツカントウに合す」とありますが、この処方は、葛根湯、あるいは苓桂朮甘湯と合方して使うことが多いということであります。
 この方は、『楊氏家蔵方』に書いてある主治を目標に使えばよろしいのですが、それに風熱が盛んになって、肩から背にかけてこわばる場合には葛根湯を合して使い、心下支飲があって頭昏目赤するものは苓桂朮甘湯を合して使えばさらに効果があるといっております。心下支飲とは胸部または心下部に水毒が停滞しているために、咳とか呼吸困難を起こすことです。これは水毒の体質があって、心下部に停滞しており、そういうもので頭がくらみ、めまいのような状態があるとか、目が赤くなるようなものは、苓桂朮甘湯と合方して使うとさらに効果があるということであります。
 次に、「頭瘡耳鳴等に兼用すべし」とありますが、頭瘡(頭部の湿疹)、あるいは耳鳴がある場合には、ほかの処方と兼用して芎黄円料を使うとよろしいということであります。
 大黄は瀉下作用があり、消炎作用があり、実証の便秘に使います。川芎は補血作用、強壮作用、駆瘀血作用があります。したがって、便秘があり、瘀血があって、いろいろな症状が出てくるものに芎黄円料を使うわけで、葛根湯や、苓桂朮甘湯と合方して使うとよろしいということであります。


宋の 『楊氏家蔵方ようしかぞうほう 』 (楊倓ようたん ・撰, 1178年刊 )

風熱ふうねつ壅盛ようせいし,かしらくらみ,目赤く,大便艱難かんなんなるを治す」


『校正方輿輗 丸散方別輯』 有持桂里
芎黄散は広く応用できる. そのうち,もっとも効果があるのは,頭痛, 赤眼痛,あ るいは打撲,あるいは頭頸部顔面の毒,上部の結毒に用いる.瘰癧(頚部リ ンパ節炎)などにも用いる。

『春林軒丸散方』 華岡青洲
諸般の上逆のぼせが甚だしく,便秘し,あるいは頭痛耳鳴があり,あるいは頭が痒く,あるいは白いフケが多く,あるいは瘡を生じ,あるいは頭がくらみ,あるいは肩がこわばり,あるいは口内に炎症があって歯が痛むものを治す。もし打撲して瘀血があれば酒を加えて服用する。

『勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯
芎黄円は楊氏家蔵方の主治に従うのがよい.ただし,風熱壅盛して肩背強急する者は葛根根湯に合 し,心下支飲があっ て頭昏目赤する者は苓桂朮甘湯に合方すると特別に効果がある.また頭瘡, 耳鳴などのあるときに兼用として用いる。



『漢方処方・方意集』 仁池米敦著 たにぐち書店刊
p.31
応鐘散おうしょうさん 応鐘散料おうしょうさんりょう(三一頁)・芎黄円料きゅうおうえんりょう芎黄散きゅうおうさん(八九頁)と同じ。
 [薬局製剤] 川芎2 大黄1 以上の生薬をそれぞれ末とし、散剤の製法により製し、1包とする。
 «楊氏家蔵方»川芎2 大黄1 細末にし一回1~3gを湯にて頓服する。
  【方意】瘀血と風邪と湿邪と熱を除き、肝胆と腸胃を調えて、血と水の行りを良くし大便を出し上逆した気を降ろし、頭昏ずこんや耳鳴などに用いる方。
  【適応】風熱が壅盛ようせい(風熱が盛んなため経絡を塞いだ状態)して頭昏ずこん(頭がぼんやりする症状)し目赤もくせき(白睛が赤くなる症状)し大便することが難しい者・風熱が壅盛ようせいして頭瘡や耳鳴する者・ノボセ・便秘など。
  [合方] ①風熱が壅盛ようせいして肩背が強急する者は、葛根湯を合する。
       ②心下に支飲しいん(胸膈に水がある病)があり頭昏ずこん(頭がぼんやりする症状)し目赤もくせき(白睛が赤くなる症状)する者は、苓桂朮甘湯を合する。
  [原文訳]«楊氏家蔵方・積熱方»
   ○風熱が壅盛ようせいして、頭昏ずこん目赤もくせきし、大便することがとてむずかしきを治す。
  «勿誤薬室方函口訣»
   ○此の方は、楊氏家蔵方の主治を至的とす。但だ風熱が壅盛ようせいして肩背が強急する者は葛根湯を合し、心下に支飲しいんあり頭昏ずこん目赤もくせきする者は、苓桂朮甘湯に合すれば別して効あり。又、頭瘡や耳鳴り等に兼用すべし。


応鐘散料おうしょうさんりょう 応鐘散おうしょうさん(三一頁)・芎黄円料きゅうおうえん芎黄散きゅうおうさん(八九頁)と同じ。
 [薬局製剤] 川芎2 大黄1 以上の切断又は破砕した生薬を取り、1包として製する。
 «楊氏家蔵方»川芎2 大黄(加減する)1 煎じて服用する。


p.89
芎黄円料きゅうおうえんりょう 応鐘散おうしょうさん(三一頁)・応鐘散料おうしょうさんりょう(三一頁)・芎黄散きゅうおうさん(八九頁)と同じ。
   «楊氏家蔵方»川芎2 大黄(加減する)2

芎黄散きゅうおうさん 応鐘散おうしょうさん(三一頁)・応鐘散料おうしょうさんりょう(三一頁)・芎黄円料きゅうおうえんりょう(八九頁)と同じ。
   «吉益東洞»川芎2 大黄1 細末にし一回1~3gを頓服する。





【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

1.次の人は服用しないこと
   生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕


2.本剤を服用している間は、次の医薬品を服用しないこと
   他の瀉下薬(下剤)


3.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること




 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  (1)医師の治療を受けている人。
  (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
  (3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
  (4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
  
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
消化器 吐き気 ・嘔吐、食欲不振、胃部不快 感、はげしい腹痛を伴う下痢、腹痛



3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  下痢

4.1週間位(便秘に頓服用として用いる場合には5~6回)服用しても症状がよくならない 場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1) 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
    〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
   1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注
意すること。
   〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
   2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
   〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
   3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
    〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
  (1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
    〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
  (2)小児の手の届かない所に保管すること。
  (3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
    〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
   生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること
3.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
 (4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
 (5)のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人。
3´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
   〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
   〔( )内は必要とする場合に記載すること。